ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

リタイア
日時: 2011/12/03 11:08
名前: 種〜ズ (ID: yqB.sJMY)


登場人物



僕/リュウ

 高校生 イケメンという部類に入る
 何を考えているのか分からない人


ココロ

 高校生 美人という部類に入る
 リュウより年下 惚れやすい性格


桃子ももこ

 美大学生 絵を描くことが好き
 死体の絵を描いてみたいという変な人
 人の名前を覚えるのが苦手


ツバサ

 社会に出ていない社会人 意外と若い
 彼女が亡くなった
 家ではネットをしている


日向(ひなた)

 女子中学生 常識人
 真面目な性格で気が強い
 両親が不仲


マシュウ

 リュウと同い年 不登校男子
 同性愛の気があり援助交際をしている
 

Page:1 2



Re: はろー、ばいばい ( No.3 )
日時: 2011/12/01 21:28
名前: 種〜ズ (ID: yqB.sJMY)




2ヶ月ほど前のことだ。

 ネットを通して、「リタイア」というチャットを見つけた。
 入室するためにはパスワードが必須で、そのためには管理人にメールを送って、直にパスワードを教えてもらう必要があった。

 メールを送って、返信がきたのがその1時間後。
 件名は 『管理人』 とだけで、本文もパスワードとなる5桁の数字のみだった。
 後で送ってみても、既にアドレスを変更されているのか、エラーになる。

 とりあえず、その「リタイア」に入ってみると、メンバーらしき人たちがチャットをして楽しんでいた。



 僕が知っているメンバーは、僕をいれて、9人。

 ココロ、桃子、ツバサ、晴人、マシュウ、田沼、日向。 そして、リュウこと僕。
 管理人はチャット等には参加していないらしい。


 そんな小さなネットの世界でも、僕は彼らとほどほどの交流をしていて、それなりに悩みとか、聞いてもらったり。
 けっこう 「リタイア」 に行くのが楽しみというか、ある程度の日常になってきたころ。





「オフ会、だなんて初めて! 緊張してきたよねえ」
「そうだね」
「リュウくんがこんなに格好いいなんて、ココロも嬉しいよっ。 ねえねえメアドとか交換しよう? ほら、ぷりーず」

 同じ機種の携帯を取り出され、勝手にアドを交換される。 ……まあ、いいけれど。
 少し声の大きさを静かにしてほしい。 電車の中なんだし。 なんか、向かいに座ってるおじさんが睨んでるし。

「交換したって、メールとかもうしないだろ。 どうせ……」
「ほらほら。 そんなネガティブ発言しなぁ〜い」

 とても 「リタイア」 で毎日を過ごしている人とは思えない。

「自殺しに行く、じゃなくて、オフ会に行く、にしようよ」
「……はあ」
「ココロはけっこう今日を楽しみにしてたの。 リュウくんもでしょう?」
「まあ……そうだね」

 別に嘘を言ったわけじゃない。

 今まで出会えなかった人に会えるのは新鮮で、しかもそれがチャット等で親しくしている人となると、なんだか緊張というか、妙に高揚した気分にもなる。
 ココロのテンションが高いのは、そのせいだろうか。

「皆、どんな顔してるのかなぁ〜。 けっこう可愛い子だったり。 でもでも、不細工だったらヤだな。 汚い人、嫌いだもん」
「ココロは綺麗だしね」

 ピクリと彼女の眉が動き、目をシバシバさせる。 僕の眼球をじっと見て、その口元が嬉しそうに口角を上げた。

「それは、告白?」
「はい?」
「ココロ、リュウくんを最初で最後の恋人にしたいなぁ。 リュウくんのこと、好きになったんだもん」

 出会ってまだ1時間も経っていませんが。

「えっと……それは困る……というか」
「好きな子がいるの?」
「いないけど……」
「ココロ、リュウくんのダメなところもぜんぶ好きになるよ? だってリュウくんに一目惚れしちゃったんだもん。 これ、恋に落ちるっていうんでしょう? とても素敵じゃん」

 電波気味にまくし立ててくるので、少し戸惑った。

 少なくとも僕は、ココロに対して恋愛感情とか、まったく抱いていないし。
 しかも、これから死のうとしている身だ。 お互いに。 そういうマイナス的思考が、表だっているテンションの高さではなく、無意識に誰かに依存したいという感情になっているかもしれない。

「ココロはリュウくんのこと、もっともっと知りたいの」

 けれど、見上げてくる瞳は無垢だ。 純粋な光は無いけれど。

「…………えーと、じゃあ……ん、トモダチからで」
「それは、友達以上恋人未満ということ?」
「…………まあそうかな」

 恋人以下友達未満ということにしておこう。

「ココロを特別にしてくれるの?」
「うん、うん、はい」
「ありがとう。 ココロもリュウくんが大好きだよ」

 も、ってなんだよ、も、って。
 僕は同意した覚えはないけれど、なんだか変に懐かれたみたいだから、そのままにしておくことにした。
 ココロ。
 本当の名前も知らないきみを恋人だなんて、僕は呼べないよ。

Re: はろー、ばいばい ( No.4 )
日時: 2011/12/01 22:58
名前: 種〜ズ (ID: yqB.sJMY)





 オフ会(ココロに便乗した)のお知らせがきたのは、管理人の2回目からのメールだった。

 件名が 『管理人』 とされていて、本文には自殺しましょうという内容と、日時、集合場所等が記載されていた。
 不参加の人物は、「リタイア」 のチャットに不参加とだけ書いてくれということもあった。

 チャットの全員が 「行く」 と言うのを見て、僕もそれに合わせたわけだけど。


 正直、死ぬ願望は溢れるほどに持っているから、誰かに分けてあげたいというのは冗談で。
 死ねるのなら、ひとりでも集団でも、絞殺でも飛び降りでもなんでもいいやと思っている。






「すっごく大きいお屋敷だねっ、リュウくん」
「すっげえな……。 ホテルみたいだ」

 駅から降りて、バスに乗って揺られること小1時間。
 メールに添付されていた、集団自殺の舞台となる屋敷は、画像で想像する以上に大きかった。
 外見は古い洋式といった感じで、かなり年季の入っていることはうかがえる。
 手入れはされていないのか、庭の草は伸び放題だし、門もサビが目立っていた。

「これ、ピンポーンって押すの?」
「一応人の家みたいだから、押しておこうか」
「わかった!」

 ココロの細い指が、インターホンを押す。
 しばらくすると、そこから声が聞こえた。

『あ、あー。 聞こえるかあ』

 気だるそうな、若い女性の声だった。
 管理人が出てくるのではないかと気を張っていたので、少し驚く。

「聞こえます。 ……リタイアの者です」
『えぇっと……ハンドルネームと、パスワード言っちゃって』
「リュウ。 パスワードは35641」
「ココロだよ〜っと。 パスワードは12441」

 ザザザザッと物音がして、しばらくの沈黙のあと、

『承認した。 門から普通に屋敷に入って〜。 ほんで、広い部屋の階段を上がって、右の廊下歩いてって。 203号室にアタシらいるからぁ』

 そこでインターホンがブチッと切れた。









 誇りっぽい屋敷の中を歩いて、指定された場所に行く。
 他にも部屋はたくさんあって、探検心がうずいたけれど、ココロに止められた。

「礼儀ってモンを知らんのかー」

 初対面でいきなり告白された人に、礼儀を説かれた。 マジでか。
 ダラダラしながら203号室と書かれた扉を見つける。 中には既に人がいるのか、話し声が聞こえてくる。

「ノック、した方がいいのか……?」
「もっしも〜し」

 耳元で大声を出されて、鼓膜が震える。 中から聞こえていた声が止んだ。

「礼儀云々はどこ行ったんだよ」
「ココロが食べちゃった」

 意味不明の返事をぼんやりと聞いて、中にいる人の反応を待つ。
 しばらく待っていると、ガタゴトと物音がして、扉が開いた。

「あ、ど〜も」

 この声は、インターホンに出た女性だろう。

 まだ二十代前半ほどで、眠たそうなタレ目が印象的だった。 明るい茶髪をユルユルにしていて、ジャージ姿。 身長はココロより高めだ。

「えっと……リュウです」
「ココロだよ〜」
「待て待て待て。 アタシは人の名前覚えんのが苦手なんやわ。 ん〜と、こーこーせいでいいか?」
「どうやって僕とココロを呼び分けるんですか」
「ケースバイケースでやわ」

 日本語の使い方間違ってるぞ。

「アタシは桃子。 ハンドルネームね、もち」
「桃子ちゃん!? ココロよりお姉さんだと思ってたけど、すっごくキレイだねえ!」

 急にテンションのスイッチが入ったココロに、桃子さんが五月蝿そうに指で耳の穴を塞ぐ。

「頭痛持ちなんよ。 あんまり五月蝿くすんなぁ?」
「五月蝿くもなるよ。 いつもココロのお話聞いてくれるじゃん」
「チャットだと静かなイメージだったんだけど……。 女子はかなりキャピキャピ系だな」

 入りなよ、と付け足して桃子さんが奥に引っ込む。

 中は暖房が効いていて、温かい。 テレビとテーブル、椅子、冷蔵庫があって、テレビはニュースがついていた。
 そして、桃子さん以外にも人がいることを知る。

「リュウとココロが来たって?」

 こちらも、若い男性の声。

 声の主はテレビの前に座って、持参であろうノートパソコンに何かを書き込んでいた。
 黒髪に天然パーマ。 痩せていて細身の身体は、僕よりもスリムかもしれない。
 声の主が振り返る。 目が少し大きいこと以外は、きわめて普通の容姿だった。

「俺はツバサだ。 ハンドルネームだけどな」
「貴方が……ツバサさん」

 チャットで一番親しいのが、このツバサさんだった。
 仕事はしていないようで、ずっとパソコンをオンラインにしているため、僕は彼がチャットに入っていないのを見たことがない。

「お前がリュウか……。 想像していたより、陰険じゃないな」
「ツバサさんは、想像通りの人でしたよ」
「嘘つけ」
 
 ごめんなさい、嘘です。
 太っていてポテチばかり食べているニートなオヤジを想像していました。 ごめんなさい。

「ココロがめちゃくちゃ美人でビビったけどな」
「それはわかります」

 変なところで意見が合致した。 さすがツバサさんだ。

 ほかの皆はまだ来ていないのか、と聞こうとすると、インターホンが部屋に鳴り響く。
 壁に設置されているカメラを見ると、ひとりの少女が映っていた。

「ハンドルネームと、パスワードはぁ?」

 面倒くさそうに桃子さんがイヤホンに向かって聞く。
 少女は、ハキハキとした声で答えた。



「リタイア。 パスワードは67812。 ハンドルネームは、日向です」

Re: はろー、ばいばい ( No.5 )
日時: 2011/12/02 15:00
名前: 種〜ズ (ID: yqB.sJMY)




 日向という少女は、見るからに風変わりな子だった。

 金髪に染めた髪に、黒いゴスロリの服。 有名ブランドのものなのだと、チャットでは言っていた。 それが本当だとすると、かなりお高い買い物になっただろう。 親が泣くぞ。

 濃いめの化粧に、どこかキリッとした目が印象だった。
 その外見からは想像もできない、しっかりとした受け答えも驚かされる。

「初めまして。 日向といいます。 ……ええと、誰が誰だか分からないので、自己紹介をお願いします」
「ココロはココロっていうんだよ〜。 こっちが恋人のリュウくんっ」
「えぇッ!? お前ら付き合ってたのかよ」
「ツバサさん、誤解です。 誤解ですから」

 誤解じゃないーと騒ぐココロを放置し、部屋の隅でバリバリとお菓子を食べている桃子さんを手で指す。

「あちらが桃子さん。 んで、この人がツバサさんだ」
「……なんだか、想像していたのとだいぶ印象が違いますね、皆さん」
「まあ、チャットは書き方とかでけっこう人格左右されるからね」

 なるほど、と相槌を打ち、日向が適当に椅子に腰をかける。 その仕草がお嬢様ぽくて、育ちの良さが伺えた。

「ところで、質問があるのですけれど」
「なんだよ」

 ツバサさんが退屈そうに日向に返事をする。

「さっき、インターホンに出られた方……桃子さんですか?」
「ああ、アタシだよ」
「……パスワードとハンドルネームを聞いて、外部の人間を中に入れるなんて……まるで、管理人のようですね」
「何が言いたいのかなぁ、ゴスロリ」

 ポテチをバリバリと砕きながら、桃子さんが髪をかきあげる。
 日向は射抜くように視線を彼女に向け、

「私は管理人さんにひとつ、会ってみたいのです。 ……貴方が管理人さんかしら」

何ひとつ嘘は見逃さないといった表情で、そう尋ねた。
 ……僕も、管理人には会ってみたいと思っている。 ひとりひとりのパスワードを別々に設定したり、アドレスをこまめに変更するなんて面倒くさいことをやっている管理人に。
 
 少し緊張しながら桃子さんの返事を待っていると、

「ぷっ、あっはははははは」

快活な声で桃子さんが笑い出した。

「アタシが管理人? ないない、それはないよ。 アタシは絵を描いているだけで十分だし。 ていうか、管理とかンな面倒くさいこと、やるわけないじゃん」
「じゃあ、桃子ちゃんは管理人さんじゃないってわけね?」

 興味をもったのか、ココロが尋ねた。

「ないない。 アタシがパスワードとか色々聞いてんのは、管理人にメールで言われたから」
「……どうして桃子さんに」
「アタシがこの場所から一番近いところに住んでるからじゃねえ? 早めに着くと思ったんじゃねーの?」
「じゃあどうやって桃子さんは屋敷に入ったんですか」

 つっかかるねえ、と皮肉気味に呟いて、桃子さんが続ける。

「それも管理人に言われた。 着いたらこの部屋に行って、そこでチャットメンバーを待てって。 んで、以下の手順でチャットメンバー本人であるかどうかを確認しろって。 ほれ」

 桃子さんの携帯画面。 そこには、僕らのハンドルネームと、パスワードがあった。

「これで名簿を確認して、一致したら通せって」
「……そうですか。 ありがとうございました。 すいませんでした」
「いんやあ、いいよ。 けど……そうだねえ、面倒くさいから言っとくけど、アタシは長い説明が苦手だから。 そこんとこ、よろしくね」

 言い終わるとすぐにお菓子摘みに没頭している。

「ねぇ、リュウくん」

 それぞれが各自で好きな事をしながら時間を潰していると、後ろからココロが囁いてきた。

「どうした?」
「ココロ、お手洗い行きたい……。 ねえどこか分かる?」
「わかるわけないだろ」

 でも、かれこれここには30分こもっている。 他のメンバーが遠いところに住んでいるせいか、遅れているのだろう。 最終的に、夜の10時頃に集まればいいのだけど。

「ねえ、我慢できない〜」
「……桃子さん、ココロがトイレ行きたいって言うんだ。 トイレの場所、わかりますか」
「んあ〜。 えっと……ここの見取り図から行くと……廊下を出てずっと左だね。 んー、行けばわかると思う」
「ありがとうございます」

 ココロのトイレに僕が着いていくのもどうかと思うけれど、腕、離してくれないし。
 仕方なく立ち上がって、ふたりで部屋を後にした。

Re: リタイア ( No.6 )
日時: 2011/12/03 12:01
名前: 種〜ズ (ID: yqB.sJMY)




「私、あの日向っていう女は嫌いかなぁ」

 トイレから出てきたココロが、突然そんな事を言った。
 女の子同士のいざこざみたいなものは、今まであまり周囲になかったから、少し新鮮。

「直感ってやつ? チャットではけっこう話してたのに」
「カンよ、カン。 ココロは女の子と仲良くなるタイプなんだけど、日向ちゃんに至っては、あまり関わりたくない」
「まあ、会って印象変わるのも多いよな」

 適当に同意すると、ココロが柔らかい笑顔になって抱きついてきた。
 よろけそうになって、足を踏ん張る。

「リュウくんはチャットでの印象、まったく変わってないよっ」
「……そう。 僕はココロはもう少し大人しい性格だと思ってたな」
「私、大人しいよ。 リュウくんの前だけ……」
「?」

 ココロの言葉が止まり、視線が僕から外れる。
 ……どこを見ている?
 僕の、後ろか?
 振り返るけれど、誰もいない。

「なぁ、ココ、」

何かが僕の頬を掠めた。
 少しチリッとした痛みが頬を嬲る。 手をやると、血がついた。
 ココロの投げたナイフが僕の頬を掠めて、壁に飾られている絵画に刺さる。

「いやあ……怖いな、アンタ」
「隠れてないで、出てくればいいじゃないですかぁ」

 姿を表したのは、ツバサさんだった。
 ヘラッとした笑みを浮かべて、頭を掻きながらこちらを見る。

「盗み聞きだなんて悪趣味ですねぇ。 ……どうしたんですか?」
「俺も便所だ」
「……そうですか」

 解せない、といった表情でココロがナイフを絵画から抜く。 そのナイフを、自身の服の袖に隠したのが見えた。
 邪魔したな、と皮肉気味に言い残し、ツバサさんがトイレに入っていく。

「ココロ、ナイフなんて持ってたの」
「護身用だよ。 こういう“異常者”が多いトコだと、いつ誰が狂っちゃうか分かんないもん」

 その異常者に自身も入っている事に気づいていないのか、それとも自覚しているのか分からない。
 僕の手を掴み、引き寄せる。

「いくら集団自殺のために集まったといえ、誰が裏切るか分かんないわ。 皆が毒ガスを吸っているなか、息をひっそりと止めて、死への恐怖に抵抗している奴がいるかも……」

 耳で囁く彼女の声は、これまでの無邪気さと違い、妖艶な響きをもったものだった。

「長い間からチャットで親睦を深めたって……私たちは他人なんだから……。 でも、私はリュウくんを愛しているから、リュウくんだけは裏切らない。 絶対に、リュウくんだけは裏切らないわ」

 頬を撫でる指は冷たく、いま目の前にいる彼女がどこか不完全なものに見えた。
 初対面のときから、チラチラと見える、手首の傷。 首にある痣。 細い足から見える、火傷の跡。
 なんらかの虐待を受けていたのかと予想はできるけど、自傷であってもおかしくはない。

「ココロは、ここに死にに来たんじゃないの?」
「違うわ」

 頬を赤く染め、少しだけ躊躇ったあと、ココロは少し息を荒らげて、僕の手を自らの首に持っていく。
 痣に触れて、まるで絞殺のようだと思った。

「私は、リュウくんに殺されるために、ここに来たのよ」



Re: リタイア ( No.7 )
日時: 2011/12/04 13:08
名前: 種〜ズ (ID: yqB.sJMY)

 

 ココロという少女の考えている事が、よく分からない。
 まるで彼女自身が悪い夢のように、僕の思考回路がうやむやになって、今ここで起きている事が夢なのではないかと錯覚させられる。
 彼女は、今、僕に 「殺されるため」 にここに来たと言っている。

「チャットでメアドを教えられて、ここまで一緒に行こうと誘われた時はものすごく嬉しかったもの。 住んでいるところがまさか同じ市内だとは思わなかったから……」

 ココロが同じ市内である事は、だいぶ前から知っていた。
 個別チャットで、ココロが自ら明かしたのだ。 僕はそのとき彼女に同じ市内に僕も住んでいる事を言わなかった。
 もしかしたら、すれ違っているかも知れない相手に、僕という人間を教える事は、躊躇われたから。

「部屋に戻ろうよ、リュウくん。 もしかしたら、誰か着てるかもしれないし」
「……うん」




 203号室に戻ると、桃子さん、日向の他に、見知らぬ男子がいた。

 体格は僕より華奢で、艶やかな黒髪に、二重の大きな目がこちらを向く。
 男相手にこんな事を思うのもアレだけど、やけに誘うような、色っぽい雰囲気の奴だった。

「こうこうせー、これ、マシュウだから」
「どうも♪」

 マシュウ。

 チャットでは僕とよく話したがっていた奴だ。
 顔文字を多様し、てっきり少女だと思っていたため、驚く。

「ふふふ……。 けっこうカッコいいじゃん。 この人、だあれ?」
「えぇっと〜。 アタシ、人の名前覚えるの苦手なんだってぇ」
「男子の方がリュウさん、女子の方がココロさんです。 桃子さん、ちゃんと名前を覚えていてください」
「うるさい、ゴスロリ」

 日向と桃子さんは相変わらず犬猿の仲のようだった。
 マシュウはココロには見向きもせず、何故か僕をじっと見てくる。

「僕はマシュウ。 悪いけど、あまりオンナノコには興味ないんだ」
「何言ってんのか、全然わかんない。 リュウくんを見ないで」

 敵意を剥き出しにしながら、ココロがマシュウを睨みつける。 その視線を軽く交わして、彼は続けた。

「僕ら、イイお友達になれると思うんだよねぇ。 なんか五月蝿いハエがいるけど 「うるさいッ!!」

 マシュウの声を遮ったのは、ココロの怒号だった。
 拳を震わせ、今にも彼に殴りかかりそうなのを抑えているのが分かる。
 怒りを堪えながら、ココロは酷い歯ぎしりをした。
 桃子さんと日向が何事かとこちらを見ている。

「今のきみの声の方が五月蝿いと思うんだけど。 そう思わない、リュウ」
「リュウくんを軽々しく呼ぶな! お前は敵だ。 私とリュウくんの敵だ」
「敵って……いっしょに死ぬ仲間だろ? 僕たちさぁ」
「死ぬなら、お前ひとりで死ね」

 ココロの言葉に、日向と桃子さんも怪訝そうな表情をする。

「おいおい、女子。 アタシらは集団自殺するために集まってんの。 喧嘩なら余所でしな」
「あまり物騒な事を言わないで。 他の人に迷惑よ」

 


Page:1 2



この掲示板は過去ログ化されています。