ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- 願い 〜叶える物と壊す者〜
- 日時: 2012/01/09 13:53
- 名前: コーダ ◆ZLWwICzw7g (ID: ZdG3mpMH)
どうも〜!おそらく初めましての方が多いと思います。私コーダと申します。
先に言っておきますが、この小説はかなり異端ですのでご注意を……
それでは摩訶不思議な世界へ……
・読者様
風猫さん
ハーレム事件簿:>>2 >>3 >>4 >>5 >>6 >>7 >>8
豊作事件簿 :>>9 >>12 >>13
- Re: 願い 〜叶える物と壊す者〜 ( No.4 )
- 日時: 2011/12/27 06:36
- 名前: コーダ ◆ZLWwICzw7g (ID: H42bpFfN)
プリファーナとフェーンはこの町にある公園に居た。
2人はそこで、なんとも奇妙な光景を目の当たりにする。
1人のラージエルの男性に、群がるたくさんの女性たち——————
その数は肉眼で数えるのが難しいほどである。正にハーレム状態。
そして、もっと不思議なのは群がっている女性はウルード族、シルティー族、ドラーペシュ族、ラージエル族と全ての種族が居た。
普通に考えて、同種族にしか異性として興味がわかない人たち。
この状況はとても異常だった。
「な、なんですの……あの人だかりは……」
プリファーナは目をひきつらせながら、集団を見つめて言葉を呟く。
ラージエルの男性を取りあう、大量の女性。その勢いに辟易していたのだ。
「あのラージエルの男性は、よっぽど良い人なのでしょうか?」
尻尾を動かしながら、興味深くその様子を見るフェーン。
——————彼の表情は、少々深刻そうな雰囲気を漂わせていた。
「わたくし、ラージエルはそんなに好きではありませんわ。そして、こんなの見ても仕方ありません。早くリボン店へ戻りますことよ?」
プリファーナがそう言葉を飛ばした瞬間、フェーンの姿はなかった。
「なっ……フェーン!」
なんと、彼は女性の集団を巧みに掻き分けながらラージエルの男の元へ向かっていたのだ。
彼女も、フェーンの後をついて行くがあまりの勢いに、前へ進むことができなかった。
そればかりか、プリファーナもラージエルの男を狙う女と見られてしまい、女性たちから額などを押されてみじめに追い出されてしまう始末。
「わたくしをこんな目に合わせるなんて……斬りますわよ!?」
むっとした表情を浮かべ、彼女は腰にかけている刀を鞘からだし女性たちを脅す。
だが、それも無視されてしまい刀を構えて牙を出す姿が情けなく感じる。
彼女は刀を鞘に戻し、つんとした表情で公園の隅で待機する。
○
一方、女性の集団を見事に切り抜けたフェーンは、ラージエルの男と言葉を交わしていた。
「失礼……少々お時間いただけますか?」
「ん?どうした?」
フェーンの言葉に反応するラージエルの男。
金髪の髪の毛は腰にかかるくらい長く、前髪は目にかかっている。
髪の毛と同じ色の瞳をしていたが、それは右目だけで、左目は眼帯で隠れていた。
白いトレンチコートを着用しており、その姿はどこか紳士らしかった。
背中には白くて神々しい翼が生えていたが、頭の上にわっかはなかった。
「おや、あなたは頭の上にわっかがないラージエルですか?」
この言葉に、ラージエルの男は表情を曇らせる。
どうやら、本人のコンプレックスらしい。フェーンはすぐに察して、咳払いをする。
「失言をしてしまい、申し訳ありません」
「いや、良い。所で俺になんかようか?」
ラージエルの男は曇らせた表情を一気になくして、フェーンが何を聞きたいのか尋ねる。
「その前に、こちらはフェーン=クロワードと言います」
事情を聞く前に、フェーンは慇懃(いんぎん)に自分の名前を簡単に紹介する。
その姿は、正しく紳士を連想させる。
「俺はハーエル=ロストーニ」
ハーエルと名乗るラージエルの男。
余談だが、ラージエルの名前には必ず○○エルとつく。これは、ラージエル族の独特なルールであり、エノクの決まりと言われている。
「ハーエルさん?これは一体どういうことなのでしょうか?」
フェーンはたくさんの女性に囲まれている状況について、ハーエルから聞く。
しかし、当の本人は妙な表情を浮かべる。
「いや、それが俺も分からないんだ。たまたま公園へ来てみたらいきなりこうなっていてさ」
「突然……こんな状態になったと?」
フェーンの表情はどんどん真剣そのものになっていく。
突然というワードが、彼の心に引っかかったのだろう。
「ああ、本当に突然さ。でも、俺は長年の夢が叶ったからそんなのどうでもいい」
「長年の夢?」
ハーエルの言う事に、どんどん深く突っ込んでいくフェーン。
余程、気になることがあるのだろう。
「俺は、頭のうえにわっかがないだけでモテない。だけど、今はそれが叶ったんだ」
「ふむ……」
フェーンはハーエルに一礼をして、また女性の集団を巧みに掻き分ける。
どこか不思議な表情を浮かべ、尻尾を激しく動かす彼は何か考えがあるように伺える。
「(これは、もしかすると……)」
口元を上げて、ハーエルの姿をもう1回確認するフェーン。
「フェーン?用事はもう終わりましたこと……?」
突如、背後からドスの効いた声が響く。
2つの耳をピクピク動かしながら、フェーンは恐る恐る背後へ振りかえる。
そこには、左手で日傘を持ち右手で刀を持っていたプリファーナの姿があった。
「はは……プリファーナさん。目が本気ですよ?」
「わたくしを置いて行った罰は……どういたしましょう?」
最後に口から鋭い牙を見せながら、フェーンへ言葉を飛ばすプリファーナ。
彼の本能が悟ったのか、フェーンはこの場で土下座をする。
- Re: 願い 〜叶える物と壊す者〜 ( No.5 )
- 日時: 2011/12/23 19:10
- 名前: コーダ ◆ZLWwICzw7g (ID: f/UYm5/w)
日が沈みはじめ、空は茜色に染まっていた。
プリファーナは日傘をフェーンに預け、両手に袋を持ちながら鼻歌を歌っていた。
とてもご機嫌な様子。しかし、傍に居た彼は彼女と全く逆な表情を浮かべる。
「はぁ……今月は懐が寂しいですね」
スーツの裏ポケットから、財布を取り出し一言呟く。
「フェーンがわたくしを置いて行くからですわよ?自業自得ですわ」
どうやら、プリファーナのご機嫌を取り戻すためにフェーンはなけなしのお金でリボンを買えるだけ買ったのだ。
彼女が両手に持っている袋の中には大量のリボン。2つくらい入らなかったので、それは鞘と尻尾に結んでいた。
ただでさえ、魅力的な容姿をしているプリファーナに2つのリボンが加わるだけで、一層魅力的に見える。
フェーンは彼女の嬉しそうに振る尻尾を見つめ、いろいろな気持ちがこもった溜息をする。
「所で、なぜわたくしの元から離れてあの男の元へ行ったのですこと?」
彼女の何気ない質問に、フェーンは2つの耳を動かし渋い表情を浮かべる。
「いえ、気になることがありまして……正直、ここでは言いにくい内容です」
彼の言葉を聞いた瞬間、プリファーナの表情もどこか真剣そのものになる。
「そう……分かりましたわ。洋館へ戻ったらディナーと一緒にゆっくり聞きますの」
先まで嬉しそうに振っていた尻尾が、途端に静かになる。
ウルード族とドラーペシュ族の尻尾は、本人の気持ちを強く表す部分である。
つまり、尻尾が全く動かないのは本人がとても真剣な気持ちであることを示す。
洋館に帰るまで、2人の尻尾は一寸たりとも動くことはなかった——————
○
快晴の夜空。洋館の窓からは月の光が差し込む。
朝と同じく、キッチンでディナーを楽しむプリファーナとフェーン。
ディナーはコース料理みたく、最初は野菜から始まり最後はデザートで終わる形式である。
「次は魚料理のポアソンだが、腹の調子は良いか?」
2人へ声をかけてきたのは、白狼(はくろう)の女性メイドだった。
彼女の言葉に、プリファーナは問題ないとアイコンタクトをする。
「では、今から持ってくる。少し待っていろ」
長い白髪を揺らしながら、白狼のメイドはポアソンを持ってくるためにこの場を後にする。
「さて、フェーン?今日のお昼の件ですが?」
プリファーナは上目づかいで、フェーンへ今日の昼の件について尋ねる。
右手でメガネを調整し、彼はゆっくりと口を開く。
「はい。今日の昼、公園でたくさんの女性に囲まれていた男性はハーエル=ロストーニ……本人も、あの出来事には驚いていました」
「驚いていた?それは、どういうことですの?」
彼女の黒い尻尾が激しく動く。よほど興味があったのだろう。
フェーンは喉を鳴らし、少し声のトーンを落として、
「突然……たくさんの女性に囲まれていたのですよ。本人は、何もしていないと言っていました」
「……突然ですか」
突然というキーワードに、プリファーナは目を閉ざす。
フェーンは彼女が落ち着いて考えられるように、しばらく無言を貫く。
「思い当たる節はありますの。ですが、断言はできませんわ」
1分くらい経ち、プリファーナは瞳を開けて小さく言葉を呟く。
すると、フェーンは2つの耳を動かして、
「では、最大のヒントを差し上げましょう。ハーエル=ロストーニは、ラージエルなのに頭の上にわっかがないからモテなくなったと言っていました。そして、彼の願いはモテること……さぁ、これでどうでしょうか?」
この言葉の後、プリファーナは何かを確信したように目を限界まで開く。
黒い翼を動かし、ある言葉を漏らす。
「——クリスタル」
「ご名答です」
フェーンは薄く笑い、彼女へ言葉を飛ばす。
クリスタル。
この世界には至る所にクリスタルが眠っている。地面の中、水の中、木の中——————
そして、クリスタルにはさまざまな効果がある。だが、基本的にクリスタルは何かが起こらないと効果は発動しない。
その何かは思いである。思いを感じ取り、クリスタルは思いを願いに変えると言われる。
願いをかなえたクリスタル。つまりそれがクリスタルの効果である。
ただ、これにはいささか問題がありどんな願いでも叶えてしまうのだ。
つまり、この世をなくしたいという願いすらも叶えてしまう。
これを阻止するには、クリスタルの破壊しかない。だが、先も説明した通りどこにあるか分からない。
そもそも、なぜクリスタルが生まれるのかは科学的に判明していない。
——————プリファーナとフェーンは、そんなクリスタルの破壊を行う人たちだった。
この世の秩序を守るために作られた極秘組織。一般人は、存在すら知らない。
表の顔は洋館に住むただのドラーペシュ。だが、裏の顔はクリスタルを破壊するドラーペシュ。
プリファーナが刀を持っているのはそのためである。フェーンは彼女の助手みたいな存在。
「面倒なことになりましたわね」
プリファーナは思わず嘆息する。そんな彼女を優しく見つめるフェーン。
「しかし、あの程度なら放っておいても問題はないと思いますがね。こちらから彼の幸せを壊すことはしたくないですし」
願いの物によっては、放っておいた方が本人の幸せに繋がることがある。
だから、安易に破壊はできなかった。
「ですが、万が一ということもありますわよ?女の嫉妬は、1番怖いですことよ?」
この台詞に、フェーンは表情を崩す。
確かにあれほど大量の女性が居れば、ハーエルの取り合いはとんでもないことになる。
そして、その取り合いに負けた女性は嫉妬する。
嫉妬から生まれる恨み——————その後の展開が、すぐに想像できた。
「前言撤回します。一刻も早く、クリスタルを破壊しましょう」
「言われなくても、そうしますわ」
彼女の表情は、正しくクリスタルを破壊する仕事人に見えた。
昼間の優雅な性格とは180度くらい違う雰囲気。 フェーンもその雰囲気を察し、制服の裏ポケットから手帳を取り出し、
「では、今から30分後に公園へ行きましょう。仕事内容はクリスタルの発見と場合によっては破壊。以上でよろしいでしょうか?」
「問題ありませんわ。予定外の出来事が起きたら、臨機応変に行きますことよ」
2人はお互いを見つめながら大きく頷く。
そして、イスから立ち上がりこの場を後にしようとする——————
「なんだ、まだ食事中だぞ?嬢様、フェーン様」
先程の白狼メイドが、ロブスターのボイルを持ちながら2人へ言葉を飛ばす。
言葉使いは悪いが、一応人の名前の後に様をつけることができるようだ。
なぜ、お嬢様ではなく嬢様なのかは深く突っ込んではいけない。
「フー、わたくしたちは急用ができましたの。申し訳ございませんが、食事はこれで終わりにしますわ」
フーと呼ばれた白狼メイドは、プリファーナの目を見つめこの言葉の意味を察する。
そして、彼女は鼻で笑い、
「ふんっ、分かった。せいぜい気をつけて行って来い。後、作ったディナーは明日の朝に出すから覚悟しておけ」
乱暴な言い方だったが、彼女なりにプリファーナを心配する言葉である。
フェーンは薄く笑いながら、フーへ言葉を漏らす。
「脅しにしか聞こえませんね。フーさん」
「黙れ、言っておくが嬢様に何かあったらフェーン様だろうとぶち殺すからな。後、フーと呼んで良いのは嬢様だけだ」
ドスの効いた声とジト目でフェーンへ言葉を飛ばすフー。
とても冗談とは思えない雰囲気に、彼は右手でメガネを上げ、
「冗談ですよ、冗談。ノリで言ってみただけです」
表情は笑っていたが、尻尾は挙動不審に動いているところを見ると、かなり焦っていたフェーン。
プリファーナはそんな尻尾を見て、鼻で笑う。
- Re: 願い 〜叶える物と壊す者〜 ( No.6 )
- 日時: 2011/12/24 11:47
- 名前: コーダ ◆ZLWwICzw7g (ID: aFJ0KTw3)
月明かりを浴びながら、夜のゲートビジーを歩く2人。
昼間とは違い、全く人が居ない町。1人で歩くには少し勇気がいるくらい。
しかし、白を基調とした建物の中から聞こえてくる笑い声が、そういう気分を紛らわせてくれる。
フェーンは辺りを見回しながら、傍にいるプリファーナの護衛に専念していた。
一方、彼女はそんな彼を見つめ、
「普段から真剣にしてくれたら、ありがたいですわねぇ」
一言漏らす。
すると、フェーンは右手でメガネを上げ、
「何事も切り替えが大事ですよ。こちらだって、常にこうしているのは大変なのですから」
「でしたら、普段通りにしたらどうですこと?」
「今は助手の立場です」
昼はただのウルード族の男、しかし場合によってはプリファーナの助手。
プロ意識丸出しのフェーンに、彼女はこれ以上言葉をかけることはしなかった。
○
プリファーナとフェーンは開いた口が塞がらなかった。
昼間の公園へ出向くと、そこはとんでもない状況になっていたのだ。
ラージエルの男。ハーエルに群がっていた女性たちが倒れていた——————
中には血を出している者も居て、早く処置をしないと生死に別れる状態である。
「フェーン。彼女たちの手当てを」
「分かりました」
フェーンは彼女の命令に従い、1番危なそうな女性から手当てをする。
だが、彼には応急処置をするくらいの腕しかなかったので、ただの一時しのぎにすぎなかった。
「これは酷いですね……早いところ、専門の人に見てもらわないと……」
彼が応急処置をしていた女性はラージエル。
傷口を観察すると、引っ掻かれたような跡が残っていた。
「(これは……ウルード族の爪跡……)」
自分がウルード族だからこそ分かる爪跡。
ラージエルの女性を傷つけたのはウルード族——————
さらに、そこからフェーンはディナーの時にプリファーナが呟いた一言を思い出す。
「(女の嫉妬は怖い。でしたね)」
この爪跡は、紛れもなくウルード族の女性。
元々、ウルード族は狼の血が宿っているため力の方はかなりある。これくらいの傷跡を残すのは朝飯前である。
そして、フェーンはさらに嫌なことを思い浮かべる。
「(このままでは、ハーエルさんも危ないですね)」
もし、ハーエルが1人の女性を選んでしまうと、選ばれなかった女性たちの嫉妬が生まれる。
それがどんな形で表れるか分からないが、最悪ハーエルを——————
彼は、眉間にしわを寄せてラージエルの女性から距離を置く。
「プリファーナさん」
「分かっていますわ。早いところ、ハーエルという男の元へ行きますことよ!」
今最優先することは、根本的な出来事を起こしたハーエルの元へ行くこと。
フェーンは倒れている女性たちを、申し訳ないと思いつつこの場を後にする。
○
公園から10mくらい離れた場所で、4人くらいの人影が見えてきた。
その道中には、当然倒れて瀕死状態の女性たち。
——————だんだん、1人の男を取りあう争いに見えてくる。
プリファーナとフェーンは、一刻も早く人影の元へ向かうため懸命に走る。
特に、彼女はドレスを着用しているのに全く動きにくそうな雰囲気を漂わせない辺り、こういうことに慣れていると伺える。
「フェーン!」
プリファーナが叫ぶと、フェーンは白のコートを翻(ひるがえ)して獲物を狙う狼のような速さで、人影の傍へ一気に駆け寄る。
それに気付いた人影は、突然現れるウルード族の男に目が行ってしまう。
「失礼、こちらはフェーン=クロワードと申します。ハーエル=ロストーニさんは……?」
若干息を切らせながら、フェーンはハーエルを探す。
すると、背後から情けない声が響く。
「フェーン!頼む、助けてくれ!」
咄嗟に背後を振りかえると、そこには服装が乱れたラージエルの男。ハーエルが居た。
ウルード族の女性に胸ぐらを掴まれたり、女性たちにもみくちゃにされていたのがなんとなく分かる。
「ハーエルさん、事情はあちらにいる派手な女性へお願いします。こちらは、この女性たちをなんとか足止めしておきますから」
フェーンが指さすところには、刀を構えた派手な女性。プリファーナが居た。
ハーエルも突然の言葉だったが、考えるのをやめて一目散に彼女の元へ向かって行った。
当然、彼を取りあっていた女性たちもハーエルの後を追う。
「——手荒な真似は控えたいのですが、状況が状況です。少し、おとなしくしてもらいましょうか」
ハーエルを追う女性たちの目の前に、素早く移動するフェーン。
そして、右手でラージエルの女性の腹を殴り気絶させ、続けざまに左手でドラーペシュの女性を気絶させる。
その瞬間、残ったウルードの女性がフェーンの足を払う。
思わず身を崩してしまい、その場に倒れてしまった。
「つっ……ウルードは1番厄介ですね……」
ウルード族は4種族の中でも1番身体能力が高い。
自分もウルード族だが、体よりも知識が発達しているためそこまで身体能力は高くない。
先程、女性を一撃で気絶させたが彼にとってはかなり力を入れないと無理で、普通のウルード族なら力を入れるまでもない。
「下手にこちらから攻めず、逃げ回って時間を稼いだ方が得策ですね」
少し距離を置き、自分の尻尾を激しく振って挑発するフェーン。
単純なウルード族、すぐ彼の挑発にのってきた。
「後は頼みますよ……プリファーナさん」
横目でプリファーナを見つめながら、出来る限り時間を稼ぐフェーンであった。
- Re: 願い 〜叶える物と壊す者〜 ( No.7 )
- 日時: 2011/12/25 22:13
- 名前: コーダ ◆ZLWwICzw7g (ID: Jc47MYOM)
一方、プリファーナはハーエルに事細かく事情を聞いていた。
早く根元となる情報を聞きだし、フェーンの時間稼ぎを少しでも長くしないよう懸命に質問をするが、かえってあだとなり何を伝えたいのか分かりにくい状態になっていた。
「ですから、昨日何があったのかを説明するのです!」
「だから!一体どこからどこまで説明すれば良いんだ!?」
「全部ですわ!全部!朝起きるから夜寝るまでの出来事をわたくしに話しなさい!」
お互い焦っているのか、大きな声を出して言い争う。
プリファーナとフェーンの立場が逆なら円滑に話は進みそうだが、クリスタルを破壊できるのはプリファーナしかできない。
それに、彼女を囮役にするのは少々心配なのでこれが1番賢明な状況である。
「朝から夜までの出来事!?ちょっと待ってくれ……」
「早くするのです!」
ハーエルは昨日の出来事を思い出そうとするが、プリファーナが無理に催促するので集中できなかった。
彼女は彼女で、時間稼ぎをするフェーンをチラチラと横目で見ながら尻尾を激しく動かす。
——————よほど、彼のことが心配なのだろう。
「昨日は少し遅く起きたから、行動は昼からだった気がするな……町を歩いて、公園でカップルを睨んで……そこから、気がつくと公園で寝て……これくらいしかないぞ!」
「情報が少なすぎますわ!もう少し具体的に説明しなさい!あの時、なんて言ったかとか!」
せっかく思いだしたのに、酷い言われようだったハーエル。
プリファーナは眉毛を動かしながら、とても苛立っていた。
「なんて言ったかまで言う必要があるのか!?あぁ……昨日は羨ましいとか遅く起きてしまったとか……モテたいなとかしか覚えてない」
「そう!それですわ!」
突然プリファーナは目を輝かせる。先まで苛立っていたのが嘘のようであった。
「それ……?」
「そのモテたいという言葉をどこで言いましたの!?」
「それは……」
ハーエルはとある場所を指さす。
そこは公園に生えている木。彼はその木に背中を預けてあの言葉を言ったのだ。
プリファーナは口から鋭い牙を出して、まるで獲物を狙うかのような目をする。
「それで十分ですわ」
彼女はハーエルの元から離れ、公園の木へ向かって走る。
その際に、腰にある刀を鞘から抜き臨時大戦へ入る。
プリファーナはものの10秒で木の傍へ行き、まずは左手で木を触ってみる。
「これは……」
触った瞬間、彼女の目は限界まで見開く。
普通の木とは違う雰囲気が、プリファーナの身体に流れ込んできたのだ。
「この木自体がクリスタルというのでしょうか……ずいぶん、古いクリスタルですわね……」
今回のクリスタルは木に寄生するタイプで、それはとても古いらしい。
彼女は、瞳を閉じて精神を集中させる——————
「うあぁ——!」
突如、遠くの方から叫び声が聞こえてくる。
プリファーナは黒い翼を大きく動かし、瞳を開けて声がした場所を見つめる。
その瞬間、彼女は恐ろしい物を見てしまった。
「嘘……」
彼女は右手に持っている刀を落として、絶句してしまう。
プリファーナの瞳に映るのは、ウルード族の女性に思いっきり引っ掻かれて血を出すフェーン。
傷口が深いのか、女性は返り血を浴びるほどの出血量。
それを間近で見ていたハーエルは、尻餅をついて怯えた声を出す。
フェーンはその場で仰向けの状態で倒れる。その衝撃で、かけていたメガネも外れてしまった。
ハーエルを取るためなら、どんな邪魔があっても排除する。とても恐ろしい女性の行動力。
もちろん、これはクリスタルによって生まれたこと。女性は本心では行っていない。
——————だからこそ、クリスタルを破壊しなければならない。これ以上、被害を増やさないために。
「………………」
彼女は生唾を1回飲み、右手を自分の右胸に置いて瞳を閉じる。
10秒くらい経ったころには、瞳は完全に開き右手に刀を持っていた。
そして、目の前の大きな木を見つめ、
「フィニッシュですわ」
低い声で言葉を漏らし、木に一閃をする彼女。
刀が1番切れ味をだす斜め45度で斬られた木は、そのまま横に真っ二つになる。
倒れた木が地面につくと、大きな地鳴りが起こる。それを合図に周りに居た女性たちはどこか不思議そうな表情を浮かべる。
どうして自分はここに居るのだろうか、どうして自分は倒れて血を出しているのか——————
クリスタルの影響でいままでの記憶がない彼女たち。だが、これで正気に戻ったところを見るとクリスタルは無事に破壊されたのだ。
プリファーナは刀を鞘に戻し、一刻も早くフェーンの元へ走っていく——————
- Re: 願い 〜叶える物と壊す者〜 ( No.8 )
- 日時: 2011/12/26 00:31
- 名前: コーダ ◆ZLWwICzw7g (ID: Jc47MYOM)
次の日の朝。相変わらず洋館は太陽の光を完全にシャットダウンしていた。
廊下から聞こえる足音。これも相変わらずリズムが速い。
眠そうな表情を浮かべながら、廊下を歩くのはプリファーナ。
どうやら、昨日の後処理でずいぶん遅くまで公園に残っており、途中フーも駆けつけるほどの規模。
まるで、ヒーローが自分で壊した建物を自分で直すみたいな光景。プリファーナはそこら辺律儀である。
だが、クリスタルのことは極秘情報。女性たちには噂に踊らされていたという少々苦しい言い訳で納得してもらう。
しかし、ハーエルだけは違った。クリスタルに効果を生ませてしまった張本人のため、包み隠さず事情を説明して、2度とこんなことをするなとフーの脅しを入れておいた。
本人は安易に自分の願いを口にしたことを反省していたので、もう起こらないとプリファーナは確信する。
思ったより軽傷だったフェーンは、フーの怪力によって荷物みたいに持ちあげられ洋館で治療を受ける。
そして、今に至る。
プリファーナはとある部屋の扉の前へ来る——————
「フェーン!起きなさい!」
洋館に、高い声と勢いよく扉が開く音が響き渡る。
部屋の中にあるベッドに寝ていたフェーンは、少々困った表情を浮かべて起き上がる。
「な、なんでしょうか、プリファーナさん?」
困った表情を浮かべてはいたが、決して苦しそうな表情は浮かべないフェーン。
まだ痛みが残っているはずなのに、彼女に心配されないようやせ我慢をする根性は立派だった。
「何を言っているのですこと?早く、朝食を食べますわよ」
つんとした表情を浮かべ、プリファーナはフェーンの右手を取る。
こんな状態でも朝食を食べさせる彼女の行為は、優しいのか優しくないのかよく分からなかった。
だが、今から何を言っても無駄だと察したフェーンは、浅い溜息をしながらキッチンへ向かう。
○
「所で、メガネがないのですが?」
「あのメガネは血だらけで、もう使い物になりませんわ。ですから、わたくしが処分しましたの」
キッチンで会話をする2人。フェーンは自分のメガネがないことに違和感を覚えていた。
「処分……あの、こちらはメガネがないと少々……」
「分かっていますわよ。ですから、今日も町へ行きますわ」
「はぁ、そこでメガネを買えと言うのですね。自分のお金で」
フェーンは浅い溜息をして言葉を呟く。
どうせ、彼女の事だからメガネは自分で買えと言いだすのだろうと思ったら——————
「……今回は、わたくしのおごりですわ」
意外な言葉が返ってくる。
フェーンは2つの耳をピクピク動かしながら、
「プリファーナさん?もしかして、熱でもあるのでしょうか?」
「失礼ですわ!」
どうやら彼女に熱はなかった。
つまり、本心であの言葉を言ったのである。
「言っておきますけど、昨日のリボンの借りですわ」
無理矢理リボンを買わせた癖に、借りとか言うプリファーナ。
フェーンは彼女の言葉に、大きく笑う。
「な、何を笑っているのですこと!?」
両手でテーブルを叩き、プリファーナは黒い尻尾を動かしながら怒鳴る。
だが、フェーンは彼女の怒りに全く反応せず、
「いえいえ、ここはお言葉に甘えておきますよ」
余裕な表情を浮かべる。
プリファーナはつんとした表情を浮かべ「まぁ、良いですわ」と小さく言葉を漏らす。
「——だが、その前にこの朝食を完食してもらうぞ」
突然現れる白狼のメイド。
彼女はテーブルの上に、昨日のロブスターのボイルを置く。
「もちろん、カフェ、ソルベ、ロティー、サラダ、アントルメ、フルゥイ、アントレも全部完食してもらうからな」
2人はお互いの顔を見つめ合い、浅い溜息をする。
朝からヘビー級の朝食に、プリファーナとフェーンは悲痛な叫びを洋館に響かせる——————
〜完〜
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