ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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エンジェルデザイア 久々更新
日時: 2012/02/16 22:13
名前: 遮犬 ◆.a.RzH3ppI (ID: /HF7gcA2)

——Angel Desire。
それは叶うことのない、天使の願望。



【注意事項】(読む前に読んじゃって欲しい、犬からの注意事項)
・グロテスクな表現が少しばかり入っちゃいます。苦手な方はすみませぬ。
・自由気ままに書きます。更新する時間帯はまちまちで、更新しない日も勿論あります。連続更新とか書きたい時にしか出来ません;
・物語内容、描写共にまだまだ未熟なうえ、修行中でございます。見苦しい点がいくつも見られるかと思いますが、よろしくお願いしますっ。
・何か普通に他の物語に登場した人とか出てくる可能性あります。
・荒らし、中傷等の言葉をかける目当てで当スレに来るのはご勘弁ください。
・えー……少し、自分の書き方として描写いっぱい書いちゃう感じになったりして、とても長い文章が連続してくる可能性があります。配慮してキリのいい部分で一行開けたりはしますが、それでも見難い場合は言ってください。
・既にシリアスダークで連載している小説と共に更新することになります。申し訳ないですが、よろしくお願いします……。
・最後に、これは遮犬の書いた物語ですw何が注意なのか自分もよく分からないのですが(ぇ よろしくお願いしますっ。



〜目次〜
Prologue
>>1
第1話:close out
【♯1>>4 ♯2>>9 ♯3>>12 ♯4>>13 ♯5>>18
第2話:No Logic
【♯1>>22

Page:1 2 3 4 5



Re: エンジェルデザイア ( No.18 )
日時: 2012/01/15 21:57
名前: 遮犬 ◆.a.RzH3ppI (ID: /HF7gcA2)

小五郎の表情は一度だけ、一瞬だけしか驚いた表情を見せなかった。自然にその表情が消えると、次に作られた表情は温かい歓迎の笑顔ではなかった。

「どうして、此処に?」

その言葉を投げかけてきた小五郎の視線、表情はどれもが冷たかった。どうしてこんな表情をするのか、全く分からない。久しぶりの再会だというのに、親友が帰ってきたというのに、まるであの幼い頃の思い出を"憎んでいる"かのような、そんな感じが小五郎から伝わってきた。

「今日からこのアパートで一人暮らしをするようになったんだ。えーと……来週から始まる新学年から、都市部の方にある学校に転校するんだ」
「……なら一緒か」

小五郎がポツリと端的に呟いた。その言葉は、どこか悲しげで、先ほどと同様にあまり喜んでなどいない。むしろ逆だった。

「……小五郎。僕は、昔のように、楽しくやりたいんだ。……あ、他の皆はどうしてる? 元気で——」
「……すまないが、もう行っていいか?」
「え?」

耳を疑うよりも先に、何も考えられなくなった。頭が真っ白になるというのはこういうことか、ということも気付かないまま、僕は小五郎の冷めた瞳を見つめていた。

「それと……出来れば、帰って欲しい」
「帰って、欲しい……?」
「そうだ。帰るんだよ、親の元に」
「そんな……僕は」

思わず俯いてしまった。何の為に此処に戻ってきたのかと言われたら、返す言葉が無いのは事実だったからだ。ただ、またもう一度楽しい思い出を思い出したかった。どうして此処に戻ってきたか。何の為か、という目的は分からないけれど、どうしてという言葉なら答えられる気がした。
僕は、きっと——

「……すまない、瞬。……またな」

小さく、悲しげに呟くと、小五郎は身を翻して僕に背を向け、歩き出した。その背中は、昔から見慣れたはずの小五郎の背中とは全くの別物のように見えたのだった。




「で、今のは一体何だったんだ」

腕を組み、銀狼へと向けてルノアは言った。
汚い部屋が散らばったガラスによってより一層汚く、そして危なくなり、窓が壊れたせいで夜風も沢山入ってくる始末だった。

「今のは、何者か正確には分からないけど、シェヴァリエのことも知ってたし、口ぶりからして天使っぽいよね」

銀狼が熱いお茶を入れながらそう言った。コポコポと音を鳴らし、ティーカップに熱いお茶が注がれていく。それを見つめながら、瑞希もまたゆっくりと頷いた。

「ヤンキー娘、頷いてるけど分かってるのか?」
「分かってるわ、ボケぇ。とにかく、何か見つければいいんだろ?」
「分かってねぇじゃねぇか!」
「う、うるさいっ! ハゲも分かってないクセに!」
「ハゲてねぇよっ! ハゲる予兆も起きてないのにハゲハゲ言うな!」
「ならお前もヤンキー娘ゆーな!」

いがみ合う二人を銀狼は全く気にした様子も無く、お茶を啜って笑みを浮かべた。いつものことながら、この二人はいがみ合って言い争うのは速いが、それが冷めるのも速い。すぐにルノアと瑞希はそれぞれに顔を逸らすと、話題を元に戻した。

「天使っぽいってことは分かったし、"俺たちのように"ただの人間じゃないっていうのも分かった。けど、それでさっきの話を鵜呑みにすんのか?」
「でも、嘘吐いてるようには見えなかったよね。そもそも、エンジェルデザイアって言葉が出てきた時点で僕は気になったかな」
「エンジェル、デザイアか……」

呟いたルノアは、考えるように唸ると、その場に座り込んだ。それを見ていた瑞希は突然そのルノアに向かって蹴りを放つ。あまりにいきなりだった為、ルノアも反応できずまともに蹴りを腰に入れられてしまった。

「ぐぁ……! 何すんだよ、このアホ娘ぇっ!」

ルノアが腰元を抑えながら呻き声をあげるように叫ぶが、瑞希は全く気にした様子も無く、腕を組んでルノアを見下ろし、勢いよくふんっ、と鼻から息を吐いた。

「いつまでも悩んでても仕方ないだろ! どうせもう此処の辺りで"奴等"もいないし、いたとしても、ルノアが取り逃がしたあの男ぐらい。言っても損とか無いだろっ」
「う、うるせぇっ! あのもやし小僧、結構逃げ足が速かったんだよ!」
「言い訳はいいから、仕度しろよ!」
「はぁっ!? 何でお前の一言で行くことが決定してんだよ!」

立ち上がり、瑞希に向けて指を差してルノアは言った。しかし——

「ルノアー? 早く用意しなよー?」
「って、銀狼……? な、何してんだ?」
「何って……仕度だよー。久しぶりの遠出だねー」
「えええッ! 行くのかよ! そんな、勝手に決めていいのか!? "機関"の連中に何言われるか分かったもんじゃ——」
「私がいるから大丈夫だろ! ほら、仕度しろ!」
「話が急すぎるんだよ! もっと慎重に——! っておい! やめろ! 離せーッ!!」

半ば強引に、ルノアは仕度をさせられ、銀狼と瑞希と共に向かうことになった先に待つものは——。




「あぁ、食べたい」

ゆらり、と暗闇の中に隠れるようにして、影が蠢いた。
その影は、光を無くしては生きられない影だった。しかし、影が光を乗っ取ることが出来る時が来たのだ。
それはこの影の者にとって、待ち遠しいものだった。

「あぁ、羨ましい。早く速くはやく、食べたいたべたいタベタイ! 今度は光になる番。役者は君と……いや、僕と僕。僕なんだよ、君は。僕が僕を乗っ取るんだ。君はお留守番だよ。いいでしょ? ずっと僕が今までお留守番してたんだから。今度は僕の番だよ。ねえ、いいでしょ? やっと——僕の願いが叶うんだから」

その影はデザイア。怖れることの知らない、影の役者。



第1話:close out(完)

Re: エンジェルデザイア ( No.19 )
日時: 2012/01/20 22:02
名前: 風猫(元:風  ◆Z1iQc90X/A (ID: G9VjDVfn)
参照: http://loda.jp/kakiko/?id

ちょっ、はっきり仰いますね(汗
だが、最近凄い方々が急造してるからまた、活気付くかもです(苦笑

誤字……炎の雨とか雷の雨とか定番だけど絶対強いですよね^^


言い訳する瑞希さんの可愛さ★
デザイアとやらの正体を速く知りたいですな!
と言う事でじらしにじらして下さいな(苦笑

Re: エンジェルデザイア ( No.20 )
日時: 2012/01/27 22:18
名前: 遮犬 ◆.a.RzH3ppI (ID: /HF7gcA2)

ぐふぁっ!最近何か色々グチャグチャと物事が運び、更新を止めてしまっていました……すみません;
エンジェルデザイアの他作品も更新を再開いたしますので、宜しくお願いいたしますっ。



>>風猫さん
ハッキリ言いました(キリッ
それでも毎回楽しみで覗いてたりする犬です(ぁ
凄い方々急増、ですか……。おっと、涎が←

もうそれは大災害の域wそんなもの出されたら避けようがないですよねw

瑞希は萌え全力でいきm(ぁ
嘘ですw結構格好よかったり、可愛かったりするキャラです。
デザイアの正体。直訳すると、そのまま欲望やら願望やらの意味になるわけですが……本作品の敵な役割になってます。
返信遅れてしまい、申し訳ないです;コメント、ありがとうございましたっ!

Re: エンジェルデザイア ( No.21 )
日時: 2012/01/30 23:40
名前: 遮犬 ◆.a.RzH3ppI (ID: /HF7gcA2)

不思議と力が抜けきっていた。この町に戻ってきたけれど、僕は本当にこの町に戻ってきて良かったのだろうか。
良いか悪いかで判断出来ることじゃないことぐらいは分かっていて、それは僕が決めることだということも分かっている。だからこそ、僕は昔の記憶を頼りにここまで戻ってきた。もう一度此処で、皆とあの楽しい日々を過ごしたかったのだから。
けれど、小次郎は僕を拒絶した。それがどういう意味なのか、僕にはまるで分からなかった。どうして拒絶をするのか。歓迎されるとばかりに思っていた僕は、心がズキズキと疼くことを抑えられなかった。

小次郎と会った翌日の朝、目覚めは悪かった。よく眠れなかったのだ。
天井へと目を向けて、僕は小さく息を吐いた。そうだ、此処に来ると言い出した時は、まだこの息は白く見えていた頃だった。思えば、もう此処に戻ってきて、人生で初めての親に対する反抗と一人暮らしを始めたというのに、まだ何も分かってなどはいなかったのだろうか。

「……どうしたら、いいんだろ……」

悩める気持ちを呟くと、その胸いっぱいに広がりつつある疼きをどうにか処理したい気持ちに駆られていく。
学校へと通うようになるまで、まだ6日もある。そう、まだ6日も。それだけあれば、大抵のことはこの町の異変や、昔から変わったことなども分かるかもしれない。それが、小次郎のあの拒絶と関わっているのかもしれなかった。
布団の中から飛び起きると、朝食を食べ、部屋の中であちこちに山積みにされたダンボールの中から、ある程度の仕度を行ってから外に出た。

外に出ると、空気が一斉に身体全身に浴びていく。まだ朝の時刻のせいか、空気がやけに冷たく感じた。
その視線の先、丁度叔父さんの家が見えた。アパートの隣に位置するので、すぐに分かる。だが、相変わらず人気はないように見えた。

「……まだ帰ってきてないのかな?」

そんなことを呟きながら、昨日のことがふと頭の中で映し出されていった。
叔父さんの家にいた見知らぬ少女、そして——"僕じゃない、僕"。
ぶるっと、突然身震いをし、僕は叔父さんの家から出来るだけ目を逸らしてアパートの階段を下りた。
懐かしい空気、というものは感じなかった。それどころか、別の場所にいるような気分になっているのだから、仕方ないのかもしれない。
あまり舗装活動のされていないアスファルトの道路に、その向こう側にコンビニとコインランドリーがあるぐらいで、他は田んぼや畑、奥の方に見えるのは山と民家、そして海岸ぐらいだった。
海岸はよく遊んだ記憶がある。確か、朔と千夏の三人で遊んだのが多かったと思う。大抵、遊ぶ時は朔と千夏の組み合わせか、朔と修治の組み合わせ、そのどちらかに小五郎が入る時があったというのが普通だった。
とはいっても、町の祭りや、色々な行事は5人でよく行った。悪戯が好きで、皆してよくしたけれど、小五郎に最後はやりすぎだ、と怒られて謝ることで終わったごく単純な、どこにでもあるような悪戯事だった。

「懐かしいな……」

この場所を見て言うのではなく、思い出を甦らせて初めてその言葉が出た。あぁ、どうしてだろう。もっと、この町の雰囲気を感じてこの言葉を口から出したかったのに。
軽く握り拳を作り、どこに行くとは決めてなどいなかったので、とりあえず観光気分と同時にこの町の懐かしい雰囲気を確かめるべく、海岸へと向かったのだった。




海岸へと向かう瞬の後ろ姿を、ただ呆然と見つめている少女がいた。
その少女の存在には、誰も気付かず、そして存在そのものが"不明"だったのだ。

「見える……」

少女は、小さな声で呟いた。少女のその目からは、普通の人間では見えないものが見えていた。瞬の背中にあるもの。それは——

「デザイア……」

刻一刻と、瞬の日常は狂い始めようとしていた。




同時刻。小五郎は昨日の出来事を思い返していた。
自室へと閉じこもり、小五郎は昨日出会った瞬のことについて思い悩んでいたのである。

「どうしてあいつが……!」

傍にある机の表面に向けて、右手を叩き付ける。ただ、無機質な音しかなく、響きもしない。無音の中にその音だけがいつまでも届いているような気さえもした。
それは小五郎の不安事にそのまま的中していた内容だった。

「でも……やらなければ……」

小五郎は、いつだって"やらなければ"という言葉に突き動かされてきた。それは昔も今も変わらない。変わった事は沢山ありすぎて数え切れない。思い返すだけで吐気なものさえもする。
だが、瞬だけは——

「あいつだけは、"変わって欲しくなかった"」

小五郎が一人、最後に言った言葉は、とても冷酷で、瞳は悲しそうに歪んでいたのであった。

Re: エンジェルデザイア ( No.22 )
日時: 2012/02/16 22:12
名前: 遮犬 ◆.a.RzH3ppI (ID: /HF7gcA2)

海岸に着くと、そこはとても壮大だった。しかし、その壮大という言葉だけでは抑えきれないような感情は沢山詰まり、僕は思わず喜びのため息を吐いた。

「此処は……変わってない」

あれから十年も経った。その日から、今日までこの海岸から見える景色は何一つ変わってなどいなかったのだ。
青々しく光る空と海。その狭間の奥底には地平線が見える。島も何もその海岸からは見えない。ただ青々しい海と空が延々と続くばかりだった。

「来てよかった……」

無くしかけていた自分の思い出の灯が今此処にまた明かりを見せてくれたような気がした。
アパートからもそこまで遠くも無く、さすがに田舎というだけあってどこも距離は短かった。海岸はすぐにいける場所だし、毎日でも来たいと思った。
昔も確か、そんな風に思っていたはずだ。僕は、嫌なことがあったら毎度のようにこの海岸へと来ていた。そして、僕が此処で悩んでいたら——

「……もしかして、瞬?」
「え?」

思わず耳を疑った。いや、疑うより先に声をかけられて、反応した方が先だったかもしれない。何せ、その声をかけてきた人物を見て、僕は驚いたのは事実なのだから。
子供の頃に見た姿から、大人へと随分成長していた。軽いTシャツを着て、短パン姿に、顔は子供の頃に見た時から随分と綺麗に見えた。
ざざぁ、と耳に伝わってくる潮の流れが僕の心をより一層潤いを与えてくれた。

「千夏っ?」
「やっぱり、瞬だよね?」

千夏は、とても驚いたような顔をしてから数秒後、嬉しそうな顔をして僕へと微笑んでくれた。

「わぁっ! 久しぶりじゃない! 瞬!」

喜びの声と共に、千夏はバシバシと僕の肩やら背中やらを手のひらで叩いてきた。痛かったけれど、そこまで喜んでくれたという事実が純粋に僕は嬉しかった。

「ち、千夏……痛いよっ」
「あぁ、ごめんごめんっ。あまりに久しぶりすぎて、感動しちゃったから」

といって二人して笑った。それがどれだけ嬉しいことなのか、他の人にはわからないのかもしれない。これが、僕の求めていた温かさ、というものなのかもしれなかった。
昔、僕が此処で何か悩んでいたらこうして千夏が来てくれていた。千夏も、僕と同じようにこの場所が好きだったからだ。悩んでいたから来てくれた、というよりたまたま二人の来る時間帯が合っていたからだった。
気の合う仲間が傍に来てくれたことで、それに自分を歓迎してくれたことが嬉しかった。そのせいか、話も自然と弾んでいく。

「えーと、瞬がここから離れていっちゃったのって……」
「10年前だね、丁度」
「10年も経ったんだ……何だか、早いかも」
「どうして?」
「うーん、そんな気がしたのよ」

そういって千夏は笑った。
海の波の音が静かにうねり、潮の匂いが鼻腔をくすぐった。砂浜の上へと二人で並んで座り、色々なことを話し合った。
今までのこととか、この海の思い出や、随分と話したような気がする。吐き出したように、ふぅ、と一息吐くと、僕は本当に軽い気持ちで少しの違和感を感じていたことを言ってしまった。

「この町、何だか変わったよね?」
「え……?」

不意に口から出たこの質問は、千夏にとってどういうものだったのか、僕は全然分からなかった。けれど、この時の千夏の表情はどうにも食えない表情で、あまりに曖昧な感じだった。

「どうしたの?」
「あ……ううん。何でもない」

呆然としていたようで、慌てたように首を振ると苦笑いをしてきた。
明らかに様子が変だとは思ったけど、追求したとしてそれが僕にとって何ということもないわけだし、何もそのことについて言えなかった。
少しの沈黙の後、千夏は押し黙っていた口をゆっくりと小さく開き、

「私、帰るね」
「え?」

突然、千夏の口から出てきた言葉に、生返事でしか対応することができなかった。何故だか、苦笑いを浮かべていた千夏の表情はとても悲しそうな顔を浮かべて、

「ごめんね」

と、呟いた。
僕は何を言って止めるわけでもなく、ただ去っていく千夏の大人に成長していた姿を見送った。どうしてだろう。こんなにも、心が空っぽなことなんて、初めてだった。

どうして僕を拒絶するのだろう。いつしか僕の心には、そんな疑心暗鬼のようなものが生まれていた。
皆変わってしまった。僕は僕のままで、昔の僕のままでいるのに、どうしてこんなにも苦しいのだろう。まるで世界が何物でもないように、僕の脳内も真っ白に染められていっていた。
一人残された砂浜に、僕は懐かしむことはもうできなくて、僕の心に何かがいるような気がする。
一人だけ佇んでいるそこは、まるで異世界のようで、僕の心はそのことには全く気づかず、ただ呆然と"暗い海の向こう"を眺めていた。

この町はおかしい。それは最初の方にそう思った。けれど、そのことを聞こうにも、まともな返答が返ってくることはなかった。それどころか、そのことで僕は先ほど拒絶されたのだ。どういうわけだか何が何だか分からなかった。どうして、どうして僕は——ここにいるんだろう。

「そうだ、僕はどうしてここにいるんだよ? あれ? おかしいな。僕は、ここにいて、何がしたかったんだ? 思い出に浸りたかったのか? あれ? え? どうしたんだろ、僕は」

口がゆっくりと開き、息が続く限り呟いた。
どうしてなのか分からない。まるで自分が自分でないかのように、わけが分からなくなっていた。
僕がここに来たのはさ、どうしてなのかと問われれば——


「答えられないんだろ?」


突然、耳元に飛び込んできた声。その声がしたのは後ろだった。
咄嗟に、慌てたように振り向く僕の向けて笑みを浮かばせていたのは——僕だった。紛れもなく、僕だった。

「な、え、どう、なってっ」
「どうもクソもないだろ? 僕だよ、僕。知ってるだろ?」

ゆっくりと、僕である目の前の僕は歩み寄ってくる。一歩ずつ近づかれるたびに、ぞわっと何かが僕の心を蝕んでくる。

「来るなッ!」
「来るな? 酷いじゃないか。君と一心同体の僕に向かってそんなこと」

歩みを止めずに、目の前の僕は僕へと近づいてくる。吐き気と共に、頭が痛すぎて遠ざかっていくような感覚が僕を襲っていく。

「あぁ、ずっとお前を見てきたよ。少なからず、お前は僕だからね。けれど——なんてお前はクズなんだ」
「どういう、ことだ……」
「自分のやりたいことも分からないまま、この場に戻ってきて、お前は何がしたかった? そんなバカなお前でも、もうとっくに気付いているだろ?」

いつの間にか、僕はほんのすぐ目の前まで来ていた。僕と同じ顔で、パーカーのポケットに手を突っ込みながら、僕へと微笑み、見下ろしながら言った。

「何、が——」
「この町が、おかしいってことにだ。この町がおかしい、つまりだ、お前の過去も、この世界自体も何もかもが——おかしいんだよ、クズ」
「どういうことだよ……」
「とぼけるのもいい加減にしろよ? クズ。お前はな、僕の生贄も同然。つまり、だ……お前の願い、叶えてやろうじゃないか」

口元を不気味に歪め、怖気がするほど気持ちの悪い笑みを浮かべた目の前の僕は、ゆっくりと右手を振りかざし、そして、


ばすっ。無機質な音だった。肉が裂け、いつの間にか腹元には手が差し込まれていた。
大量の血が溢れ出し、ボタボタと僕の下にある砂浜を赤く染めていった。



「あははは、あははははははは!!」



僕の耳元には、僕の声で、僕ではないその者の笑い声しか残らなかった。


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