ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- 甘くて紅い物語の先は【森杏が死体で発見?】
- 日時: 2012/02/09 20:50
- 名前: 萌恵 ◆jAeEDo44vU (ID: amGdOjWy)
こんばちはございます、萌恵です。
こんばちはございますとは、『お早う御座います』『今日は』『今晩は』を……(以下略)
荒らしや中傷発言、宣伝などを繰り出しに来た方はUターン決定です。
それ以外の方は、是非そのまま小説を閲覧して下さいませ。
また、本作は「小人ノ物語」と同時進行なので、当然更新が遅いです、はい。
後、少々グロ要素等、色々なものが含まれています。
そこら辺を弁えたうえで、本作を閲覧してください。
目次は>>1です。
その他、筆者の作品
死神は君臨する >>2
小人ノ物語 >>3
2012/01/14 スレッド設立記念日
- Re: 甘くて紅い物語の先は【第一章更新!】 ( No.16 )
- 日時: 2012/02/02 20:51
- 名前: 萌恵 ◆jAeEDo44vU (ID: amGdOjWy)
第一章 僕の世界は異常無し【第四部】
琴乃の家の前で別れ、堂々と道路を横断して自宅に戻った僕は、休むべき日曜日の朝なのに既にへとへとだった。
ふらっとよろける様に前庭を通り、玄関扉の鍵穴に鍵を差し込み、中で赤いチェック柄のスニーカーを脱ぎ棄て、半ば心許無い足取りでキッチンの方へ歩いて行く。
今日、僕は「ただいま」とは言わなかった。僕を見て「お帰り」と微笑んでくれる人が、仕事で家を空けているから。
「……」
いつもは平気なのに急に家の中の静けさが恐ろしくなってきて、僕はキッチンの冷凍庫から一昨日買ってあったアイスキャンデーを取り出し、リビングルームでゆっくり食べる事にした。
赤茶の革張りのソファに腰掛け、左手にアイスキャンデーを持ち替えてから右手でテレビのリモコンの電源ボタンを押す。
プツッ——……、と妙に心地良い音が響いた後、テレビから姦しい音声が僕の耳にがちゃがちゃと流れ込む。
「——『美食大バトル・トルコ』、この後すぐ!」「見てね!」
今は八時五十九分ぐらい。
毎週日曜日の九時から『美食大バトル・トルコ』という人気アニメが放送されるのだが、実は、僕はこのアニメが大嫌いだった。
しゅわしゅわのラムネ入りの、ソーダ味のアイスキャンデーをガリリと齧り、顔を歪めながら急いでチャンネルを切り替えると、一瞬置いて、テレビの画面にニュース番組のオープニング映像が映し出された。
サンデーニュース、という聞いた事のある番組名だった。
僕はすぐに興味を無くしてまたチャンネルを変えようとしたが、真面目そうなアナウンサーの何処か堅い声を聞いた途端、身体中の筋肉が硬直してしまった。
黒いパンツスーツ姿のアナウンサーは、僕を残して朗々と原稿を読み上げ続ける。僕は、今度は逆に身体がどんどん弛緩していくのをただ黙って感じている。
「一月二十一日、二十時三十分頃、××県桐ケ谷市稲野山区笹野原五丁目、今はもう廃虚と化した元『サン・フォレスタ』の二〇一号室で、少女の惨殺死体が発見されました。この少女は、同日から身元が不明の森杏さん十二歳だと思われ、警察では少女の身元の確認を急いでいます」
記憶のポケットから零れ落ち、いつの間にか忘れかけていた記憶が、ぐおぉぉぉぉ……と走馬灯の様に頭に流れ込んできた。
- Re: 甘くて紅い物語の先は【第一章更新!】 ( No.17 )
- 日時: 2012/02/03 17:14
- 名前: 萌恵 ◆jAeEDo44vU (ID: amGdOjWy)
第一章 僕の世界は異常無し【第五部】
修学旅行やおばあちゃんの家に出掛けるときに使う、僕専用のリュックサックの中に、着替えやお菓子や歯ブラシセット等を詰め込む。
異常に寒いこと以外、いつもと変わらなかったある冬の日。お母さんが買ってきたこのリュックサックは、表面が滑やかで、大きさも丁度良く、漆黒を基調にしており、ところどころに桃色に白い水玉柄の大小様々なリボンが散らばっている。おしゃれな女の子の、多分憧れ。
苺のカップケーキやチョコミントアイスクリームや美味しそうなクリームを挟んだクッキー柄の数枚のタオルを折り畳みながら、僕は考える。考える。考える。
本棚から、大きな日本地図と読み掛けの文庫本——『家出少女』を取り出し、丁寧に詰める。詰める。詰める。
せっせと荷作りをしているうちに、僕の頭の中は何故か『逃げろ』の字でいっぱいになっていた。
……逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ。
ほらぁ、ね?
正当防衛というか過激防衛というか、僕はとにかく人をコロシテシマッタ。
どんな馬鹿でも、幼くても。殺人犯はすぐに逃げないとイケナイ。
息をする生きている奴の命を奪う、大きな罪を犯した愚か者はいずれはバレルのだ。
それならいっそのこと、もう少ぅし長いジユウを。
生まれてからずっと抱えてきた大事なものを捨てて、さあ。
じゃあね、僕のシンユウ。
大事な大事な荷物の入ったリュックサックと、いつか使うかと思って握り締めた家の鍵と、何十万円という、子供が持つには膨大過ぎるお金を持ち。
理性や××とかを家の中に——地球と太陽の距離みたいに遠い場所に——忘れてしまった僕は。
今日、たった今殺人犯として逃亡した。
第一章・完
- Re: 甘くて紅い物語の先は【第一章、完結です】 ( No.18 )
- 日時: 2012/02/03 17:18
- 名前: 萌恵 ◆jAeEDo44vU (ID: amGdOjWy)
第一章、完結でございます!
第二章は、今晩中に開始できると思われます。
今後とも宜しくお願いします<(_ _)>
- Re: 甘くて紅い物語の先は【第一章、完結です】 ( No.19 )
- 日時: 2012/02/09 20:46
- 名前: 萌恵 ◆jAeEDo44vU (ID: amGdOjWy)
第二章 安楽椅子探偵など存在しない【第一部】
恐ろしく美しい安楽椅子探偵など存在しない。それが、私の考え方だ。
よく、推理小説や一部の漫画などで、その“架空”の脆く儚い存在が登場するだろう。しかし、それは人々の作り出した夢幻に過ぎない。謎の欠片を集めに走り回ってこそ、真実は解き明かされてゆく。
何故、冒頭からこんな調子なのか。それは、私が探偵“もどき”で、人並み外れて恐ろしく美しいからだろう。まずはその白い、肌理の細かい肌。ほんのり薔薇色に染まった頬。密集した長い睫毛。垂れ目がちの大きな瞳。軽くうねった、絹の様な黒く長い髪。潤った、淡いピンクの唇。ほっそりとした身体のライン。グラマラスな胸元。
でも私は、架空の安楽椅子探偵ではない。この美しい身体をこき使い、ひょんな所に落ちていたりする謎の欠片を拾い集め、真実を浮き彫りにするのが私だ。まるで、繊細な彫刻家さながらに。
今日も私は、謎に餓える。
桐ケ谷市立笹野原小学校、三階、六年一組の教室——。
私、つまり二階堂未来は、“表向きは”小学六年生であった。
「あははっ! 未来ちゃぁーん、おはよぉ〜! きゃははっ」
教室に一歩入った私の背後に、きゃぴきゃぴしたうざったい声と何やら強烈な衝撃が駆け巡る。私は床に仰向けに倒れ伏し、素早く背後を振り返った。
秋川袖子と『乙女クラブ』のメンバー数人が、私を意地悪い目で見つめていた。口元はにやにやと引き攣っている。
「今日もまた、そのきれぇーな顔を見せに来たのぉ? やな子ねぇ〜、きゃははっ」
そう言って、私の頬を容赦なく殴る。殴る。殴る。
殴る袖子も、その取り巻きの女子も笑っている。
きゃははははははははははははははははははははははははははははははははははっはははっはははっははははははははははははははははっははははははははははははは。
酸欠になるのではないかと心配するぐらいに、『乙女クラブ』ならぬ『いじめクラブ』のメンバーは笑い続けている。やがて、教室の外を見張っていたメンバーの「先生が来たよ!」という高らかな声で、朝の襲撃は終わった。
- Re: 甘くて紅い物語の先は【第一章、完結です】 ( No.20 )
- 日時: 2012/02/09 21:27
- 名前: 萌恵 ◆jAeEDo44vU (ID: amGdOjWy)
第二章 安楽椅子探偵など存在しない【第二部】
ガラッ、と小さな音を立てて教室の扉が開き、いつも厳格そうに顔を強張らせた田中先生が入ってきた。黒縁眼鏡をかけた、黒髪の男の先生。今日はいつもと違い、少し俯きがちに背中を丸めている。そんな先生の姿に私は違和感を感じた。おかしい、と思った。表情もすぅっと影を差したように暗い。私以外のクラスメイトは、遠慮無しにまだ勝手に喋り続けていた。好い加減、毎日懲りないのか。
黒板の前の教壇に立った先生が笑い声の飛び交う教室全体に向けておもむろに口を開くのを見て、クラスのほんの数人が先生の方に目を向けた。私は、何処か徒ならぬ雰囲気を察して、きゅっと目を糸のように細める。このクラスに関わる事で、何かあったのだろうか。
「えー、ゴホン、皆……悲しいニュースだ。よく聞いてくれ。……あの森が。森杏が。この小学校近くのアパートで、死体で発見された」
——話声や物音で充満していた教室が、水を打ったように一気に静かになった。
「…………」
しかし、静けさはほんの一瞬で、すぐに教室は大人びているとも幼いとも分からない話声で溢れ始めた。
何秒か前と全く同じ光景に見えるが、今、ふざけ半分で笑いながら言葉を発するものは誰一人いなかった。
私はクラスメイトから“乙女クラブの連中の前だけでは”遠ざけられているので、独りで黙って驚愕していた。今、私の思いをぶちまけても、聞いてくれる者はいない。嗚呼。
「そういえば私、今朝の『モーニングニュース』で見たよ。寝惚けてたからあんまりしっかり見なかったけど、確かに『——森杏さんが死体で発見されました』的な事言ってた様な気がする。パパが丁度仕事に行った時だから、多分六時四十五分頃かな」
「えぇっ、舞子も『モーニングニュース』見てるんだ。でも、あの番組って六時から七時まででしょう? 今日は見れなかったの! 七時に起きたんだ。いつもは六時半に起きてるのにぃ!」
「俺はニュースは見てないけど、代わりに事件現場は見たぜ。昨日の十二時ぐらいに、亮と一緒に。パトカーとか警察がめっちゃ出入りしてて、黄色いテープが張り巡らされてた! なあ、亮」
「あぁ、あれは凄かった。ドラマでしか警察を見たこと無かったのに……。ヤバい空気を感じて、すぐにアパートの前の道路から立ち去ったんだ。だって、刑事とか鑑識……だっけ? それがうろうろしてんだもん」
「えぇ〜、本当? 嘘は駄目だからね」
「本当だよ!……証拠は無いけどな」
——私は訳の分からない興奮に苛まれ、膝の上に置いた拳にぎゅぅっと更に力を加えた。あの虐めっ子の森杏が……死体で発見された?
独りぼっちの私を差し置いて、教室内のざわめきはより一層大きくなっていった。