ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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甘くて紅い物語の先は【森杏が死体で発見?】
日時: 2012/02/09 20:50
名前: 萌恵 ◆jAeEDo44vU (ID: amGdOjWy)

こんばちはございます、萌恵です。
こんばちはございますとは、『お早う御座います』『今日は』『今晩は』を……(以下略)
荒らしや中傷発言、宣伝などを繰り出しに来た方はUターン決定です。
それ以外の方は、是非そのまま小説を閲覧して下さいませ。
また、本作は「小人ノ物語」と同時進行なので、当然更新が遅いです、はい。
後、少々グロ要素等、色々なものが含まれています。
そこら辺を弁えたうえで、本作を閲覧してください。
目次は>>1です。

その他、筆者の作品
死神は君臨する >>2
小人ノ物語 >>3

2012/01/14 スレッド設立記念日

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Re: 紅い血飛沫と狂った少女達 ( No.6 )
日時: 2012/01/16 19:49
名前: 奈美 ◆a00JQBXv3o (ID: m3TMUfpp)

萌恵〜来たよ〜
タイトル見て、思わず……を浮かべてしまった……
更新がんばってね! 楽しみにしてるよ!

Re: 紅い血飛沫と狂った少女達 ( No.7 )
日時: 2012/01/23 21:43
名前: 萌恵 ◆jAeEDo44vU (ID: amGdOjWy)

プロローグ 紅く染まる世界

 右手に、雨に濡れたペパーミントの葉の様に明るいグリーンの、フリルがたっぷりついた傘を持ち。同じ色の、ところどころにモスグリーンのリボンが縫い付けられたレインコートを身につけ。てらてらと光を跳ね返す、抹茶色の可愛らしい長靴を履いて。
 私は全身グリーン尽くしの装いで、自宅の玄関扉を開けた。傘を開きながら、いつもと同じように空を見上げてみる。心地よい快晴とは程遠い灰色の空から、ざあざあざあざあ……と囁くような音を立てて、冷たい雨が降っている。
「わあ……! やっぱ、雨降ってたんだ〜」
 アスファルトや木々などを容赦なく叩きつける雨を確認し、私は、今更のように驚きの声をあげる。私は、何故か雨が好きだ。気の遠くなるほど広大な大地にしつこくこびり付く、この世には要らない汚物を洗い流してくれる気がするから。
 しばらくの間、降りしきる雨に興奮していた私は、少し冷静になって、右の頬に手を当てる。考え事をするような表情を浮かべ、小首も傾げてみせる。左腕に嵌めた、女の子らしいデザインの腕時計を見やり、
「あれ、約束の時間まで二十分もある……。まあ、いっか。向こうで待てばいいし」
 自分自身に言い聞かせるように、独りごちた。

 銀色に鈍く輝く門を片手で開き、外に出る。わざと水溜りに入ったり、ぴちゃぴちゃ水音を立てたりしながら、早足で歩く。
 まず、スーパーマーケットの駐車場のすぐ横の歩道を通る。お母さんと一緒に何十回も買い物に来た、今ではすっかり馴染みのスーパーだ。ス—パーマーケットの、車道を挟んだ向かいはどこにでもありそうで無い、ごくごく普通の住宅街だ。
 そのまま歩き続けると、車道を挟んだ向こう側に、私の通う桐ケ谷市立笹野原小学校が見えてくる。車道を挟んだここからだと、上空から見て『E』の字をした校舎と、その気になれば誰だって出入りできる正門が見える。
 ここまでは、ほぼずっと直進。でも、六階建ての集合住宅が見えてきたら、すぐそこにある横断歩道を渡る合図。私は、迷うことなく横断歩道に駆け込む。少し後から振り返ってみると、丁度、信号が赤に変わったところだった。
 再び歩き出す。すると、人通りの少ない通りに出る。この通りには、私から見て左側にやけに広い公園と、右側に手前から空家二軒と元はアパートメントだった廃墟があるだけ。
 私は、アパートメントの残骸の入り口に向かって、たらたらと駈け出した。丁度通りかかった、頭頂部に髪の毛が一本、辛うじて踏ん張っているオジサンが不思議そうに首を傾げる。
 ……傘が重い。たっぷりのフリルのせいだ。
 私は、ミントの葉の様なグリーンの傘に悪態をつきながら、アパートメントの外階段を目指す。
「……ふはぁッ、着いた〜! では、早速」
 元は二階建ての、外壁は青を基調にしていたらしきアパートメント。外階段の入り口に着いた私は、二階への階段を上る。
 ……一、二、三、四、五、六、七、八、九、十、十一、十二、十三……段。やけに軋む十三段の階段を上り、二階に着く。
 そこから右に曲がり、一番端の二〇一号室の扉の前で立ち止まる。ごくりと唾を呑み——ドアノブに手を掛ける。銀色のドアノブは、真冬の寒さも手伝ってひんやりと氷の様に冷たかった。鍵は、開いていた。
 カチャリ……
 意を決して、部屋の中に入る。途端に、じめじめと湿った空気が私を包みこむ。なんだろう、この違和感は——いや、この部屋にはもともと不穏な空気が渦巻いているんだ。違和感を感じるのは、仕方ないことなんだ。
 私は、自分に早口で言い聞かせる。
 気のせいだ、気のせいだ、気のせいだ、気のせいだ、気のせいだ、気のせいだ、気のせいだ、気のせいだ、気のせいだッ……!
 私はしばらく、呪いを唱えるかの様にぶつぶつ呟いていた。気のせいだ、気のせいだ……、と。

 ようやく落ち着いた私は、ゆっくりと部屋の中を眺め回した。
 ところどころびりびりと引き裂かれた壁紙は、小さな花柄の名残りを残して。フローリングの床は、これ以上無いほど汚れている。冷蔵庫、クローゼット、タンス、テレビ、ミニテーブルやダイニングテーブル等の家具は、埃をかぶっているものの、そのまま綺麗に残されている。
 私が、部屋の奥のベランダに出ようと一歩踏み出した時、玄関扉が細く開いた。
 私はぎょっと飛び上がって、急いで近くのクローゼットに飛び込んだ。クローゼットの中は、人がすっぽり入れるほど広くて、衣類は一着も収納されていない。
 ——少女のものらしき声が二人分、途切れ途切れに私の耳に届いた。
「どうして……私をこんなとこ……に?」
「……あんたの父親の罪を分からせる為よ」
「えッ……私のお父さんの……罪……?」
「そうよ、あんたの父親……は、私の家族を殺し……」
「そんなのッ……! 嘘よッ!」
「嘘じゃないッ!」
 さっきまで小さかった声が急に大きくなったので、私はびくりと身を震わせた。心臓が跳ねあがった気がした。それにしても……一体何だろう? ダレカの父親の罪? 家族を殺す?
 ……ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ……。
 クローゼットの外がにわかに騒がしくなり、本気で争うような耳障りな物音がしたかと思うと、玄関扉が静かに開く気配がした。
 アパートメントの二〇一号室に降り積もる、気味の悪い程の沈黙。私は、床を這うようにしてクローゼットの外に出た。
 震えながら何気なくフローリングの床を見回し……瞳に映ってしまったのは、床にごろりと転がる大きな紅い肉塊。鮮血に塗れたヒトの残骸。いわゆる惨殺死体。断末魔に顔を歪めたそれには、確かに見覚えがあった。
 私は甲高い叫び声をあげ、必死で二〇一号室から飛び出した。
 後ろ手に乱暴に扉を閉め、何処か心許無い外階段を一気に駆け下りる。ミシ、ミシ、ミシ……。塗装が剥げたボロボロの階段が、不安なぐらいに軋む。
 アパートメントの外階段を下りきった私は、ちょっぴりぶかぶかな長靴のせいで走り難いのに、通りのド真ん中を全速力で走り出す。
 丁度その時、薄気味悪い廃虚で起こった無残な殺人事件を知らせるように、稲光が曇り空を駆け抜けた。

Re: 紅い血飛沫と狂った少女達 ( No.8 )
日時: 2012/01/21 21:29
名前: 萌恵 ◆jAeEDo44vU (ID: amGdOjWy)

まだ更新できません……。
プロローグは更新中です!

Re: 紅い血飛沫と狂った少女達【プロローグ更新!】 ( No.9 )
日時: 2012/01/29 20:55
名前: 萌恵 ◆jAeEDo44vU (ID: amGdOjWy)

第一章 僕の世界は異常無し【第一部】

 平成二四年、一月二十二日、日曜日——。
 午前七時三十分頃。
 僕こと美野原香奈は、二階の自室のベッドの上にて、先程から呑気にも大欠伸を連発していた。上半身は既に起こし、下半身だけ綺麗な桜色の毛布の中に突っ込んで。まるで猫さながらに身体をぐぐぐっと伸ばしていた。
 ——普段と全く変わらない、いつもの朝だった。

「ふあぁ〜、眠〜い」
 そう独りごちて、また小さな欠伸を繰り出す。
 ふあぁ〜、ふあぁ〜、ふあぁ〜……。
 僕が寝惚け眼を擦りながらベッドから起きると、予告無しに部屋の扉が開く。僕は、素早く開け放たれた扉の向こうに目を凝らす。
 ——そこに立っていたのは僕の母、美野原由香だった。
「起きなさい、香奈! 琴乃ちゃんから電話よ、早く出なさい……もうッ、ぐずぐずしないで」
 母はそう言ってまくしたてると、この家の中にたったの一台しかない電話機がある一階に行くよう、僕を急かした。
 僕は大慌てで自室から飛び出すと、まず、シンプルなデザインの螺旋階段を駆け下りた。すぐに一階に着き、短い廊下を経てリビングルームに飛び込む。それから、壁際に設置された電話機の受話器を取る。
「もしもし……琴乃?」
 僕がおもむろに電話に出ると、相手からすぐに返事が返ってきた。鈴が鳴る様な、うっとりするほど高い声。電話を掛けてきたのはやはり、僕の心強い相談相手——宮村琴乃に違いなかった。
『嗚呼、香奈ッ! 起きるの遅すぎ〜』
「ごめんごめん。で、何の用?」
『ええ!? 香奈のお馬鹿ぁ、今日は≪Sweet time≫にお菓子買いに行こうねって……』
「あ、そっか。メインは確か、お菓子の量り売りだったんだよねぇ」
 ≪Sweet time≫とは日本語で『甘い時間』という意味で、女性——特に小中高生に人気の菓子屋である。
 店内は広く、フリルやレースやリボンで可愛く装飾され、鮮やかな青と濃い乳白色の二色で統一されている。お菓子の種類はクッキーやマカロンは勿論、カルメ焼きや練り飴、マドレーヌ、棒付きキャンディーやチョコレートまでありとあらゆるお菓子が集結していて、女の子にとってはまさに夢の店なのだ。
『ところで香奈、予定は大丈夫?』
「うん。だいじょぶ」
『なら良かった。じゃあ、“家の前の道路”で待ち合わせね』
「うん。分かった。じゃね〜」
『すぐ後でね〜』
 がちゃん……!
 僕は受話器を元に戻すと、早速着替えを取りに二階の自室に戻った。リビングルームから廊下に出て、螺旋階段を駆け上り、財布を入れた肩掛けバッグと適当な洋服を両手に、階段を駆け下りる。短い廊下からリビングルームに入り、すぐそばの白いソファに腰掛ける。
 僕はソファに腰掛けたまま、急いで洋服に着替える。
 今日は、赤いチェック柄の段々フリルのミニスカート、可愛いロゴの入った黒地のオフショルダー、それに黒のオーバーニーソックスという装い。その上から、小さな銀色の星が散りばめられた漆黒のコートに腕を通す。
 財布等が入ったバッグを肩に掛け、玄関で買ったばかりの赤いチェック柄が入ったスニーカーを履き、
「行ってきまーす」
 二階に居る母に聞こえるくらい大きな声で言うと、玄関の外に勢いよく突っ込んでいった。

Re: 紅い血飛沫と狂った少女達【プロローグ更新!】 ( No.10 )
日時: 2012/01/29 20:41
名前: 萌恵 ◆jAeEDo44vU (ID: amGdOjWy)

第一章 僕の世界は異常無し【第二部】

 僕と琴乃の家は、実は、家の入り口である玄関や前庭等がきっちりと鏡の様に向かい合っている。比較的車通りの少ない道路を挟んで。つまり、僕たちは大の親友で、それぞれの向かいの家に住んでいて、笹野原小学校六年二組のクラスメイトなのだ。
 だからだろうか、僕たち二人で出掛ける時。いつも、双方の家に両側をがっしりガードされた道路のどこかに、僕たちは待ち合わせるのだった。今日だって、ほら……。
 琴乃が、僕の家の前で、半ば放心した様にこちらをじぃっと見つめている。
 僕が前庭を小走りで通り、小さな黒い門を開けて右手を振ると、琴乃も同じく右手を振り返してきた。いつもと変わらない、優しげな微笑みを浮かべている。左腕には、赤地に白い水玉の大きなリボンで飾られた、赤ずきんちゃんが持っている様な籠バッグを引っ掛けている。
「おはよう……香奈!」
「おはよ〜、琴乃〜」
 僕たちは互いに朝の挨拶を交わすと、≪Sweet time≫への道を急ぎ始めた。早めに行かないと、お店の中がどんどん混んできちゃうからね。しかも、日曜日だし。

 しばらく住宅街に沿った歩道を進み、横断歩道を渡ってから、電車が来ないのを確認して急いで踏切を渡る。
 ここから先は桐ケ谷市、稲野山区“笹野原”五丁目ではなく桐ケ谷市、稲野山区“竹野原”一丁目になる。簡潔に言ってしまえば、線路を境目に微妙に地名が変わるのだ。
 そこから更に何分か歩き続けると、≪Sweet time≫が店を構える通りに着く。が、まだ≪Sweet time≫が開店する八時まで後十五分ほどあるので、僕たちはその辺をぶらぶらする事にした。
 女の子向けの雑貨屋や、古今東西様々な書物を販売する書店等が軒を連ねる、お洒落な通りのド真ん中では、何故か白い大理石の噴水がとろとろと水を垂れている。それはまるで厚い氷が溶け、水飛沫を上げながら下に垂れ落ちているかの様で、僕はそれを静かに眺めるのが好きだった。
 僕は、雑貨屋に行こうと言い張る琴乃を引っ張り、噴水のすぐ傍まで駆け寄った。

 ……しゃば、しゃば、しゃば、しゃばッ。

 涼しげな音を立て、白い泡粒と透き通った水を混ぜ合わせながら、大理石の噴水は自らの姿を傍観者に見せつけてくる。僕はその様を、噴水の縁に浅く腰掛けて見守る。そんな僕の隣で、琴乃は不満げに雑貨屋の方を振り返ったりしていた。
 僕は、海面の様にたゆたう水面に目を凝らしながら、何年か前の夏の日の事を思い出していた。
 ——賑やかで華やかな都市のくっきりと鮮やかな緑、青く晴れ渡った高い空、ジリジリと陽に焼かれたアスファルト道路、目が眩むほど強い日差し——。
 そして、白い大理石の噴水で遊んだ、あの煌めく昼下がり。……そうだった、僕はその日、この噴水の周りではしゃぎ回って、怒られたことがあったんだった。懐かしいなぁ。
 結局、僕らは≪Sweet time≫が開店するまで、大理石の噴水の縁に黙って腰掛けていた。


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