ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- incomPEtent RSON
- 日時: 2012/02/14 21:04
- 名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: .iyGyIWa)
去年書いていたもののリメイクです。 ただ、主要キャラの名前や特徴が違ったり
結構色々してます
ちなみに、incomPEtent RSONと表記してありますが、これは私の言葉遊びで正しくはIncompetent personで「無能者」です
>>1 Prologue
firST chApteR : mission TS
>>2-9
Page:1 2
- Re: incomPEtent RSON ( No.6 )
- 日時: 2012/02/08 20:49
- 名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: .iyGyIWa)
「いや……来ないで! 来ないでよ!」
夕暮れ時。 とある廃屋に、彼女は居た。
「いや、大丈夫だよ。 怖くないよ。 ほら、飴は好きかい?」
彼女の目の前にいたそれに対し、彼女は恐怖を抱いていた。
目の前にいたそれは、紅に近い赤毛のピンパーマに、真っ白な顔。 マジシャンのようなスーツ姿で、シルクハットを被って。 彼女に対し、素敵な笑顔を浮かべるも、その笑顔を台無しにするピエロメイクの……無ければ優男が、彼女に迫っていたのだ。
彼からすれば、敵意は無いのだが、彼女から見れば彼はこの上ない不審者であり、今しがた彼女をこの廃屋に監禁していた男の二人組みをたった一人で瞬く間に伸してしまったこのピエロは、恐怖の対象でしかない。
「どうしたんだい、ボクは君を助けに来たってのにさ」
更に、彼のその棒読み感溢れる口調が、恐怖を煽っている有様だ。 そして、彼の能力。 彼女も、能力者ゆえに分かる事だが、彼は今まで彼女の目の前で、能力を三つも使っている。
ありえない能力なのだ。 能力屋の能力は、一つだけ。 個人のもつDNAが一つだけで、個を形作る様に。 能力は、人によって似ても同じにはなりえない。 だが、彼は目の前で男二人を伸す際に、男達と全く同じ能力を使役し、今目の前で、シルクハットからテニスラケット並みのペロペロキャンディを出現させた。
三つの能力を持つ能力者など、居るはずがない。 居るはずの無い、得体の知れない人間が今、目の前に居る。 それだけで、恐怖には変わりなかった。
それを助長するかのように、シルクハットを持っていた右手が腕から離れ、音を立てて床に落ちる。 一般に言う義手というやつだ。
「ああ、すまないね。 ボクの手は生まれつき無いんだ。 もしあったらなら、強すぎるから、カミサマが切り落としちゃうんだってさ。 ……君、何か反応を返してくれよ。 何だかボクが一方的に喋っちゃって気分が悪いじゃないか」
実際、こんなのが居るとすれば恐怖を感じる対象以外の何者でもないだろう。
奇妙なメイクで素顔が分からず、棒読みな口調からは思考の一欠けらも読み取れない。 そして、今までの脅威だった男達を、たった一人で、目の前で伸しているのだ。
要約すれば、何を考えているのか分からない力の塊が目の前に居る。 言葉の内容だけ汲み取れば、それはやさしいものだが、その内容にまで、耳が向けられない。
そんな中、エンジン音が廃屋に届く。 と、同時。
彼はここでようやく、笑顔以外の表情……苦笑いを浮かべた。
「君が早く答えてくれないから、時間が来ちゃったじゃないか。 ……仕方ないな、今回は保留。 次は告白しに来るから、返事を考えておいてよ」
その言葉の直後、彼は四つ目になる能力を発動。 水に絵の具を溶かしたかの様に、その場に溶け込み、姿を消した。
*** *** ***
「大丈夫か? 何があった、こいつらは……何で伸びてんだ?」
一般人……とも、思いがたい。 大振りの太刀を背に背負った目つきの悪い男が、目の前で伸びている二人組を呆れたような目で見ている。 その横では、フードを目深に被った小柄な人間が、その男の顔を蹴り飛ばし、意識が戻らないかと確認している。 そして、それを呆れたように、長い黒髪の男が見ていた。 男の腰には、恐らく刃物と思われる長い袋筒が提げられている。
この集団も、普通に見れば十分異常だ。
「さて……と。 こいつらは確か、人攫いで指名手配されてたような気がする」
太刀を背負った男が、ライターの灯でポケットから取り出した手帳をぱらぱらとめくり、呆れたような視線を伸びている男の一人に向けた。
「アランとチェスターのコンビだな。 大して懸賞金も高くなければ、能力指数も低い。 こんな小物が、攻撃する相手を間違えたってとこか?」
「いや、見ろよ。 彼女、腕輪を付けられてる……能力は使えないはずだぜ?」
フードを目深に被っていたのが、女だと今分かった。 ただ、顔は見えず、さっきのピエロ同様に不審極まったような雰囲気だが、口調が棒読みではない分、こんな不審な集団がとてもマトモに見える。
「ふーん。 だったらさ、誰かがこの二人を伸したってことだよね? 彼女も、ずいぶん怖い思いをしたみたいな顔をしているし、十中八九間違いないよ」
「ラプラス……ずいぶんと観察力高いんだな」
「経験から来る予測だよ、僕は。 シェリーはもっと凄い」
- Re: incomPEtent RSON ( No.7 )
- 日時: 2012/02/10 16:36
- 名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: .iyGyIWa)
事務所の壊れかけたインターホンが鳴った。 二秒以上待たず、その人物はもう一度インターホンを鳴らす。
……郵便配達ではないだろう。 依頼人……でもない。 私の能力が、そう言っている。
「どちら様? 宗教勧誘はお断りですよ」
事務所の戸を開き、そこにいた人間を確認。 コートを羽織った茶髪のピンパーマの伊達男。
それ以上の特徴があるわけでなければ、それ以外に特徴があるわけでもない。 見た目はどこにでもいそうなチャラ男なのだが、その中身はチャラ男などという雰囲気ではない。
対峙した感覚は、今まさに能力を行使しようとする能力者に近いものを感じた。 だが、彼は能力を発動するそぶりも見せなければ、常に開放しているタイプの能力者ではない。
「能力者の方が、どのようなご用件で?」
「デートしようぜ、シェリーちゃん」
ピシャンっ。
そんなよくありそうな音と共に、事務所の戸は彼女によって閉じられた。
無理、生理的に受付けない! そんな雰囲気をかもし出し、扉を隔てた向こうにいる変態を睨みつける。 だが、彼がそこから去る気配も無い。 もう一度、戸を開いた。
そこには、相変わらず彼が佇んでいる。
「……ごめん、冗談」
「セクハラで訴えるわよ?」
「スイマセン、マジ勘弁」
「で、ご用件は?」
シェリーはその長い金髪をなびかせ、そこにいた男をソファーに押し付けると、彼の目の前にコーヒーの入ったマグカップをごとんと置いた。 向かいのソファーに腰掛けると、彼女は手榴弾を片手でもてあそび、彼を見据えた。
「君は確か……黒薙童子だったかしら?」
「今の姿をご存知とは光栄な限りだけど、俺はそんな名声に興味は無いんだ。 今、真に興味があるのはこの事務所かな」
童子と呼ばれた彼は、事務所の中を見回し、嬉々としてシェリーに向きなおした。 それに対し、シェリーは相変わらず彼に警戒の目を向けている。
彼に対しては、どう警戒しても足りないくらいだ。 “人類始まって以来の天才”である彼は、現存するスーパーコンピューター以上に頭がいい。 有名な研究者で、政府の生物機構に籍を置き、能力者の研究をしているという。 ただ、その期間は数年前にラプラスが壊滅させている。
「つまり、私とラプラスの勧誘……政府にもどれという警告と受け取るけれど、そういうこと?」
シェリーは弄んでいた手榴弾のピン先に付いた輪に、その細い指を掛けるとクルクルと回す。 「下手なこというと、爆発させるわよ?」とも言いたげに、クルクルと。 爆発させれば彼女もただではすまない。 自爆テロ同様、爆熱に体が焼かれ、能力を行使しなければ木っ端微塵になるのは当然。 そのリスクを背負っても、この男を殺すことは出来ない。
同期の頃、脳天に短刀が突き刺さっているのに平然と歩き回っていたのを何度か見た覚えがある。
「惜しいけど、違うな。 俺はもう政府とは縁を切ってるんだ、政府に協力なんて二度としてやるかよ」
憤りを隠さず、シェリーに向けた。 明らかに、その怒り方は異常。
「そう、何があったかは知らないけれど、その話ならお断りよ」
「一と三の区別くらいなら付く。 俺たちは群れて、数で正しさを証明なんてしないさ。 ……クロックって組織は知ってるか?」
「嫌な名前ね。 ラプラスがアクレイに向かった後に、それがクロックの流した情報だって知ったわ」
童子はそれを聞いて小さく笑う。
「悪いね、彼女は彼女で勧誘するつもりだったんだけど、俺だってさっき知ったばかりさ。 この事務所で一緒に居るってことは。 それで、話を戻そう。 俺たちクロックは……今の政府を叩き潰す」
「へえ、それで元政府直下兵の私に声を掛けた……ということ?」
「そういうわけさ。 まさか、人造人間の女の子がここに居るとは思ってなかったけど。 大方、研究施設を壊滅させて脱走した後に君と出合ったんだろう? 君の政府に裏切られた裏切り者だ、俺に協力する気はないか?」
「……残念ながら。 組織に加入するつもりにはなれない……けれど、依頼というのであれば考えなくも無いわ」
その言葉を聞いて、童子はコートの内ポケットを漁ると手帳を取り出し、その中のページを切り取り、シェリーに手渡した。 依頼内容が記されている。
「君は素直じゃないからな。 俺も、元同僚として言うと、そういうところは好きだぜ」
「……バカ。 依頼は確かに受け取ったわ。 ラプラスはどうなってるのかしら?」
依頼内容の記された紙切れを冷蔵庫にマグネットでとめると、シェリーは彼の目の前に戻ってくると再びソファーに腰掛けた。
「エヴァリーの勧誘を受けて断った。 殺されるはずだったけど、クロックのジャックが密偵でね。 内密に、ラプラスと行動を共にしてる。 今頃多分、次の勧誘相手の様子を見に行った頃だろう。 君達は確かに戦力としては申し分ない。 むしろ、強力な即戦力だ。 レベルⅢの癖に危険度SSなんて、君くらいのモンだぜ。 ただ、彼女は微妙でね……君、レベルゼロ能力者って聞いた事はあるかい?」
レベルゼロ……能力を発動するのに必要な魔力を持てない能力者か。 能力を持たない分、能力者と呼ぶべきかどうかも怪しければ、政府の定めた能力者の規定から完全に外れた存在だ。
政府側も、その存在は認めてはいるが能力者として扱わず、登録もされていないためにその数は希少といわれているが、実際は未知数。 ハッキリ言って、得体の知れない存在だ。
「聞いた事はあるわ。 ただ、現物は拝んだ事がないけど」
「そのレベルゼロの勧誘に行ってる。 君から見て、レベルゼロの特性……超伝導能力はどう思う?」
強力な電動能力に、体内に魔力をとどめることなく受け流す。 能力を受け流す事ができる能力差が居るのなら、それはまさに対能力者では敵なしだろう。 体術が完全であれば。
ただ、そのデメリットも存在する。 攻撃に限らず、治療系の能力すらをも受け流してしまう……骨折程度が致命傷になってしまうのは相当痛い。
集団戦の乱闘になるのであれば相当なデメリットになる。
「超伝導は確かに魅力……けど、そこまで強い子なの?」
「いや、それがさ、疾患型能力も併発してるらしくてね。 粉砕骨折が数秒で治るって言うんで人買いに浚われ通しらしくてね。 彼女の足跡は見つかっても、彼女を見つけるのは凄く難しいんだ。 最近ようやっと、彼女を見つけたんでマークしてた。 今頃、迎えに行ってるんじゃないか?」
携帯電話を弄りながら、童子はメールをやり取りしている。 スリープモードにすると、彼はそれをコートのポケットに放り込んだ。
「ところで、募集人数は?」
「無制限。 無論、途中参加も歓迎。 募集要項は俺が目をつければ無条件。 私服参加オーケーで、むしろ私服参加じゃないと駄目。 その気になったら正式に。 依頼ではなくて参加してくれて構わない。 それで、一応、組織のアジトの方に一度来て欲しいからさ。 俺と来てくれよ」
- Re: incomPEtent RSON ( No.8 )
- 日時: 2012/02/12 20:16
- 名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: .iyGyIWa)
「ラプラス、シェリーもアジトに向かった。 じきにこっちも着くんだが、少し寄り道するぞ」
運転席で眠たそうに欠伸をするジャックは、後部座席の三人に断り、コンビニで車を止めた。 直ぐに車から降りて、コンビニに入ると、彼は眠気覚ましにミント飴でも買うのかと思いきや。 一直線に酒の並んだ一角へ向かい、ラベルをまじまじと眺めると、適当なビンを三つ手に取り、会計へと向かう。
「待たせたな」
支払いが終わると、彼は戻ってきて誰もいない助手席に酒の入った袋を置くと、アクセルを踏んだ。 バックすることなく、器用に右に急カーブすると、道路に戻った。
そこで、彼はありえない行動に出た。 助手席にあった酒瓶を手に取ると、片手で栓を外し、そのまま口へ。 見れば、そのアルコール度数は50%……結構高い。 それも、よくよく見れば料理酒……この男はアホか。
「飲酒運転……」
「細かい事は気にするなって」
「気にするよ、私は。 ジャック、酒臭い」
ラプラスと無音の言葉など、彼の耳には届かなかった。 無音、ツッコむ所違う。
何だかんだ言って、自己無くアジトに着いたのでよしとしよう。 能力者のアジトというには、それはよく目立つ。
街中に建てられた高層ビルの一つ。 それも、他のビル以上に高い。 シンボルタワーとか、そんなレベル。
「着いたぞ、ここがアジトだ。 無音、お嬢さんつれて先に行け、俺はラプラスと話がある」
「ラプラスと? 話って?」
「女は聞かない方がいい話だ。 ほら、早く行けよ」
「……分かった、私がいないほうが離しやすいらしいな。 ほら、早くこっち来いよ。 取り敢えず、体が冷えてるからな……風呂にでも入れ。 な?」
廃屋で保護した彼女に肩を貸しながら、無音はビルの中へと姿を消した。 それを見届け、ジャックは胸ポケットから煙草を取り出すと口にくわえた。 ライターで火をつけ、大きく吸う。
「さて、疑問その一。 お前、一体何なんだ?」
質問タイム。 一応、予想の範囲内にはあったが……いざ、聞かれると説明には困る。
“何なのか”といわれれば、当然人間だ。 ただ、相手が望む答えはその人間という言葉ではない。 ラプラスの本性。 無能者の持つ、奇妙な能力の事だろう。
話すべきかも知れないが、生憎。
「僕はまだ、君を信用していないんだ。 悪いけど、保留させてもらうよ」
「……そうか、残念だ。 それなら気を取り直して質問その二。 お前の持ってるこの剣……フランベルジェなんて物騒なモン、どこで手に入れた? こんなの造ってる所なんてなければ、今の時代にこんな奇抜な剣の存在を知ってる奴なんてそんなに居ない」
二つ目の質問は凄く簡単だ。 シェリーに貰った。
たったそれだけの事で、シェリーがどこでこんな剣を手に入れたのかなど知らない。
「シェリーに貰ったんだよ。 僕は、結構気に入ってる」
「……譲渡。 成程な、そいつからの譲渡なら頷ける。 それじゃ、三つ目……ずいぶん、早かったな」
ジャックの言葉を遮るように。 あの二人が到着した。
「ああ、結構早く理解してくれたからな、交渉も早く終わった」
「そうかい、そりゃよかったな」
ピンパーマの男と、見覚えるある女。 シェリーだ。
「シェリー、結局買収される方向で動いてるの? 僕はどうでもいいけど」
「ラプラス、他と足並みそろえるのなんかごめんだって言い始めたのはあんたでしょ? 買収されるつもりは無いわ、依頼を受けただけだし、あんただって乗り気だからね」
流石シェリーさん。 この方に一目ぼれですかそうですか、依頼と称して後々、いつの間にか買収されるオチってわけだ。 素直に依頼じゃなくて買収されるって言えばいいのに。
それとも恋愛フラグですか、よかったですね。
あ……成程。
「ツンデレってこういうののことを言うんだ」
「ラプラス、本気で殴るわよ?」
小声で言ったのが、どうやら聞こえていたらしい。 何て地獄耳。 能力を使っていない所が恐ろしい。 下手したら心読まれてそうで怖い。
というより、多分この鬼の形相は心読まない限り、こんな小さな一言ではしないと思う。
「仲がいいのな。 ラプラス、俺は童子ってんだ。 依頼人だ、ヨロシクな」
へー、シェリーはこういうピンパーマの伊達男が好みなのか……。 確かに、イケメンではあるけどさ、冴えないんだよね。 雰囲気が。
絶対裏側は残念なタイプだよ、コイツ。 それか、過去は全然目立たないで教室の隅っこの席で休み時間の間寝てるか本読んでるタイプ。 そんな雰囲気。 ぼっちってやつだ。
僕もそうだったから、同類の匂いはよく分かる。
「……なあ、なんか失礼な事考えてないか?」
呆れたような視線が、ラプラスに向けられた。
居るよね、自分がそうだからって、相手もそうだと思ってる人。 成程、コイツはそういう奴なのか。
「何も。 ところで、シェリー」
「ああ、そうだったわね」
童子なんて放っておいて、シェリーとのハイタッチ。
体温を吸い取られるような感覚と共に、体が縮むのが分かる。 さっきまで持っていた能力を吸い取られ、シェリーの能力が上書きされ、元に……戻る。
つまり、女の姿に。
「これが……女版ラプラスか」
「なんだよ、僕は別にどっちでもないよ」
童子がまじまじと、ラプラスを観察する。 それに対して、胸を隠す要領で「いやーんえっちー」って、ポーズをしたら、思いっきり引かれたというのは今となってはいい思い出だ。
*** *** ***
「さて、皆の衆。 各々の現状報告を始めようか。 それじゃ、読み上げて」
薄暗い会議室で、それは行われていた。 赤毛のピエロが中心を陣取り、指揮を取る。 それを取り囲むように、スーツの男達が椅子二掛け、手元の書類を同時に読み上げていく。 その人数は十人以上。
立体映像での参加者も数名、見受けられる。 会議室が暗いのは、視覚を奪い、聴覚に意識を向けるため。
ピエロは瞳を閉じて、それ全てを同時に聞き取る。
「A、その実験は少し早い気がする。 五日後に空母がその近海を通るから、それで戦闘力テストをしてみて」
「L、君は一体何がしたいんだい? 悪いけど、直接その現場を見せてよ。 文章を纏めるのは次から部下に任せるように」
「M、いい加減ボクの監視は止めてもらえないかな?」
「S、ラプラスは多分逃げてる。 ジャックは裏切ったよ。 見つけ次第、始末を許可する」
「Y、“彼”の管理。 今月は警戒レベルを最高にして見張るように。 当然、能力での防御壁も忘れずにね」
聖徳太子は十人の意見を聞き分けたというが、それ以上の人数で彼はそれを平然とやってのけている。 数分間、彼が上の空で意見を言い終えると目を覚ましたように、その眼球は周囲を見回した。 それと同時、会議室の電気がついた。
瞳孔が収縮するのが分かる。 そこにいたのは、Sと呼ばれたスーツを着たサングラスの男だけだった。
「そうだな、S。 君は黒薙童子を危険視しすぎだよ。 どんな大天才であれ、一人でこの世界を掌握することなど出来やしない。 だからこそ、今度からスカウト先に当たるだろう未登録能力者のスアウトに当たってよ。 相手よりも先に、スカウトして取り込んでしまえば相手は必然的に少数になる。 ラプラスの件は、ご苦労だった」
ピエロはポケットから取り出したチョコレートを齧り、シルクハットから取り出した袋入りマシュマロを手元の机に並べ始めた。
ピンクと、白の二色が混じっている。 全て、机の上に空けた。
どうやら、ピンク以上に白の方が多いらしい。 色別に分けると、白いマシュマロでピンク色のマシュマロを覆った。
「数で頭を押さえる。 今の人間社会と同じでさ、数という攻撃が最も効果的なんだ。 知っての通り、数居れば人殺しのような間違いだって正解になるし、喜ばれる事だって無くはない。 常識は正義でも、良識は悪なのさ。 数の集まっていない今、この段階ではね」
面倒くさそうに彼は立ち上がると、部屋の隅にある電気のスイッチまで歩く。 スイッチを入れると、彼の姿はまるで幽霊のように、足元から透け始める。
「それじゃ、会議終了。 各自、任務に励んでくれたまえ。 現在遂行中の政府からの“平等な平和を作る”という依頼は困難を極めるだろう。 常日頃から体調管理はしっかりとするように。 以上」
それだけを言い終わると、彼の姿が完全に透明化し、その場から消え去った。
- Re: incomPEtent RSON ( No.9 )
- 日時: 2012/02/14 21:04
- 名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: .iyGyIWa)
「現状は、こんな所だ」
ビルの中へ全員を招きいれ、二階の会議室を占拠し、ラプラスとシェリーに今この組織の現状を童子が説明し終えた所。 それに水を差すように、ラプラスが挙手。
「はーい、全く分かりませーん」
言い放った。 シェリーはラプラスを呆れたような目で見つめ、童子はその言葉に苦笑いした。 説明した童子からすれば、最低限簡潔にまとめて説明したはずだったのだ。 それを分からないといわれれば、お手上げである。
「つまり、エヴァリーとクロックは上位争いの最中ってこと。 それで、エヴァリーは後ろに国が居るから、凄く強い勢力と、広い情報網を持ってる。 で、対するこっちはたった二十人。 このままだと不利だから、組織を拡大しようって話をしてたのよ? その横で……」
「ふぇ?」
ラプラスの齧っていたチョコレートを取り上げると、シェリーはそれを部屋の隅にあったゴミ箱へと放り投げた。 見事命中し、チョコレートは吸い込まれるようにその中へ。 ラプラスは恨めしそうにシェリーを睨む。
「何するのさ! 僕の至福のひとときを!」
「人が喋ってる間は何も食べない! 分かった!?」
ラプラスはシェリーに畳み掛けられる勢いで、椅子の上で膝を曲げ、縮こまって座るとクルクルと回りだした。 子供か、コイツは。
それを見た童子は、ますます混乱し、奇妙なものでも見るかのような顔で、ラプラスを見た。 それに気付き、ラプラスはそっぽを向く。 それを横目に、シェリーはコーヒーをすすった。
「目の前にあるコーヒーはいいのか? あー……と、説明再開していいか?」
「どうぞ。 ラプラスはもう、席外してなさい、アンタには私が後で租借して説明するから!」
シェリーがキレた。 ラプラスが席をはずしたのを見て、同時は上着のポケットを探ると、鍵束を取り出し、しばらく眺めた後。 その中の一つ『F‐Ⅱ・201』と記された鍵をラプラスに投げて渡す。
「鍵見てピンと来たと思うが、一応な。 二階の201番室、自由に使ってくれ、確かあそこは空き部屋だが、キッチンやシャワー程度ならあったはずだ」
「……アリガト」
……。
「さて、ラプラスが居なくなったから聞くけど……人造人間って?」
「錬金術により造られた人口人類の総称。 文献によれば、フラスコに人間の精液、ハーブなどを入れた上で密閉し、四十日が経過すると自然発生する生き物の事だ」
“人造人間”の女の子。 事務所でのその言葉は、明らかにラプラスを指したものだった。 その問いを、ラプラスの前でするものではない。
ラプラスが席をはずした今が、聞くいい機会だ。
「そうじゃない。 あの言い方は……」
「ああ、ラプラスが人造人間だって言った。 ただ、彼女はその造り方とはまったく違う。 多分、構成はエリクサーと人体の構成成分が主だろうな。 俺が見たところ、アイツは記憶がないと思うんだが……その認識で間違ってないか?」
「ええ、そうよ。 ラプラスが覚えていられるのは基本的にここ二年間の出来事だけ。 施設から逃げ延びた経験や、戦闘教育を受けていた経験は覚えているようだけど、どうやら。 自分が人造人間だという事は忘れてしまったようね……」
忘れている……。 その言葉に、童子は驚いたような顔をするが、そうでもなかったことを騒いでいただけだという様子でコーヒーをすする。
「だとすれば、重荷を背負わせなくて済むか。 でだ、ラプラスは、その作られた人造人間は、今、二つに分かれている」
*** *** ***
「まだ席をはずすのは早いよ、S……いや、シグマ。 一つ注意事項があってね」
「何でしょうか?」
席をはずしたシグマを、ピエロは呼び止めた。 Sと呼ばれていたシグマは、ピエロに向いた。
「ラプラスの件なんだけどさ、彼女の事は生け捕りにしてくれないかな? 死体でも構わないんだけど、彼女の体内で造られているであろう核が、蒸散しちゃうみたいなんだ」
ピエロは先ほどつみかさねていたマシュマロを握り、口の中に流し込むと、シルクハットから今度はテニスラケット大のキャンディーを取り出し、シルクハットの中へと戻した。 四次元ポケットの中を探る青い猫型ロボットのように、しばらく探った後。 板チョコレートを取り出すと、彼はそれを齧る。
「……そうだな、彼女には会ってみたいし。 今度、情報が入ったらボクも誘ってくれよ、ボクが直々に出て行って、彼女を捕らえるからさ」
- Re: incomPEtent RSON ( No.10 )
- 日時: 2012/02/16 19:54
- 名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: .iyGyIWa)
ラプラス達がクロックからの依頼を受けて一週間がたったある日のこと。
先日知ったトレーニングルームで、ラプラスは目つきの悪い青年が朝っぱらから酒をかっくらって居る現場に遭遇。 トレーニングルームだからという理由により、現在戦闘中。
「ちょ……待ってって! ストップ! ストップ!」
そんな彼女の言葉とは対照的に、剣で相手の攻撃をいなし、しっかりと防御している。 かすり傷すら負う事もなく。 飲んだくれ……もとい、ジャックの太刀による連続攻撃を避ける。
当然、太刀は前にも述べたとおり。 振り下ろし、断ち切る武器であるために、一撃必殺に特化し、連続技には向かない。 ただ、連続攻撃をするにあたり、その重量が壁になるというだけで、太刀による連続攻撃は実現すれば相当な脅威だ。 それを易々とやってのけるジャックもそうなのだが、ここのビルに居る人間は相当戦闘能力が高い。
先日、童子からトレーニングルームの存在を知らされたとき、一緒に来たのだが。 そのとき模擬戦闘を行っていた二人組みも相当なもので。 正確無比に銃弾を的の中心に叩き込んだり、華奢な女がツーハンデッドソードという大振りの剣を片手で振り回していたり、パッと見ても滅多に居ないような高レベルの人材ばかり。
「実践じゃそりゃ通用しねえぜ!」
「実践でもなければ、キミが急に襲い掛かってきたんでしょ!? 僕は様子を見に来ただけなんだって!」
「俺がここに居たのが運の尽きと思え!」
理不尽な!
「右足の軸。 ジャックの弱点はそこで、そこを攻めると補おうとして左手の動きが鈍くなる。 ついでにもう少しアドバイスすると、ジャックは持久戦に弱い。 ……どうやら、君も弱いみたいだけど」
逃げ途中、子供の声がラプラスの耳に届く。 その声の方向にジャックは向くと、太刀を引っ込めた。
「オイ、スペクター! 誰が俺の弱点ばらせって言った? 重心なんて見て分かるようなモンじゃねえだろうが」
「確かに、ジャックの弱点は見てただけじゃ分からないよ。 重心をどうしているかなんて、戦闘の最中でも気づくのは難しいから。 ラプラスさんにアドバイスしたんだ」
部屋の端に、彼は居た。 見た目は、十歳前後。 灰色の兎のぬいぐるみを抱きしめ、見飽きたものを見るような目でジャックを見ている。 子供とは思えない、空虚な雰囲気を纏った異様な人間……。
ただ、その雰囲気とは正反対に、頭髪は派手なピンク色。 着ている服もドギツイ緑と、見た目はその奇妙な雰囲気とのギャップが激しい。
「へえ、能力者?」
「そうだよ、ラプラスさん。 そうだね、僕はすべてが見えるんだ。 例えば上から70、53、66とか、一週間前まではシェリーって人と事務所にいたとか。 能力で男にもなれるとか。 人造人間だとか」
「ほむんくるす?」
ラプラスの問いに、彼は少し考え込むと、首を横に振った。
「いや、まだ知らない方がいいよ」
そうか。 それなら、
「後で調べるのもやめた方がいいよ。 現実って、惨酷なんだからさ、知らなければ幸せな事は沢山あるんだ。 知ってるかな? 最も幸せなのは、何も知らない事なんだよ」
……嫌だ、こんな子供。
「子供じゃないよ、僕はスペクター。 このクロックの中で、計測師を務めてるんだ」
「へー、……凄いね。 ところで、僕の考えが見えてるのかな?」「さっきからそう思っただけで君は答えを返してくれるからさ、もしかしたらって思ったんだ。 ……でしょ?」
スペクターはラプラスの言葉の途中、彼女のこれから言うはずだった言葉を一語一句違わずその口から吐き出してみせる。 思考を読める、全てが分かる能力者……。
「スペクターは天才だからな」
「天才じゃない。 僕になんでこんな力があったのか、僕はこの力は嫌いなんだ」
詰まらなさそうに、視線をそむけた。 これ以上何も見せないでくれという様子で。
「……僕は、キミが羨ましいな」
「……本心だってところが、正直頭にくるよ」
「そういうわないで聞いてって。 僕はさ」「ここ二年間の記憶がなければ、シェリーは僕に何かを隠しているんだ。 僕がキミみたいな能力を持っていたら、その隠し事も分かるのに。 僕に敵意を向けていない能力は、僕は写し取れないからさ。 知る事ができる君が、凄く羨ましいよ。 …………馬鹿なの? 別に僕を気持ち悪がろうが構わないよ、後でラプラスさんの計測結果は送るって、童子さんに言っておいて」
ラプラスの言葉を全て代弁し、言い終わると、彼は扉をまたぎ、トレーニングルームから出て行った。 それを、面倒くさそうにジャックが見送り、扉を閉じた。
「……興が冷めた。 シャワーでも浴びて来いよ、汗かいたろ?」
「それじゃ、お言葉に甘えて。 いい運動になったよ」
*** *** ***
「つまり……そのもう一体が政府組織にいるってこと?」
「ああ、どうやらそうらしい。 確かな筋の情報だし、間違いないだろ。 で、だ。 そいつを仲間に引き入れたい」
無茶苦茶言っているのだが、童子に限って無茶も無茶ではなかったりする。 現に、他組織の属する事を嫌うシェリーを手玉に取っている。 表向きは依頼の遂行と言うものだが、組織からの依頼など皆無。 もとより、組織などの団体からの依頼の場合、ラプラスの耳に届く前にシェリーが突っぱねているのだ。 ラプラスが知れば、多対一を嫌う彼女の性格だ。 その集団を根絶やしにしようと息巻いて、文字通り皆殺しだろう。 そういう面では、童子は巧いのだ。
相手の考えを読み取り、すぐに行動で示す。 そして、居心地のいい居場所を用意し、取り込む。 この上ない作詞なのだが、そのやり方は政府とはまるで逆だ。
政府在籍期間中は、人質を取る仕事が半分を占めていた。 故に、シェリーは政府が嫌いだ。
「今、お取り込み中?」
扉を、ノックする音。
「そろそろ来るとは思ってたが、ずいぶんとまた早かったな。 シェリー、悪いが席をはずしてくれ。 後で話の続きをしよう」
童子の言葉に、シェリーは席をはずし、誰も居ない廊下に出た。 エレベーターに乗り込むと、そのまま一階へ。
「飲んだワインの酔いがまわったらしいからね。 そろそろ、この茶番を終わらせようと思って、こうして私が自ら赴いたわけだよ」
「村娘が自ら……か、最後に会ったのは五百年前だというのに変わらないな」
村娘と呼ばれた彼女は、既に室内に居た。 踵まではあろうかと言う長い金髪を揺らし、童子に笑顔を向ける。 どういうわけか、彼女の回りの空気だけ時が止まったかのように静かだ。 チョコレートのような甘い匂いを振りまき、彼女は童子に歩み寄る。
彼女はコートの懐を探ると、懐中時計を取り出した。
「今回は、私の専門外……残念ながら手助けは期待しないで欲しい。 私が出来るのは、この伝達だけだ。 数十分後、贈り物と共に全てが始まる。 役者はまだ出揃って居ないようだけど、全ての始まりはキミが目をつけた彼女……ラプラスと、もう一人。 その二人が、今の茶番の主役だよ。 君達は、茶番を舞台に変える力がある。 私が与えた力と、君たちがもとより持っている力だ」
懐中時計を童子に投げ渡すと、彼女は足元から徐々に霧散する。
「全ては、五日後に終わってしまう。 早くしなければ、この世界も失敗するよ」
それだけ言い残し、彼女はその場から姿を消した。
「お話は、終わったかい? 少し、ボクともお話しようじゃないか。 クロックのボス……黒薙さん」
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