ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- 生態の王座
- 日時: 2016/10/16 20:44
- 名前: 風猫(元:風 ◆Z1iQc90X/A (ID: 7PvwHkUC)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=11520
◆序章◆
夢を見た。不快な夢だ。私は、見知らぬ朽ち果てた屋敷を彷徨っていて。
友の名を叫んでいる。大粒の涙を流しながら大声で泣いて絶望に打ちひしがれているんだ……
それを見ているととてもとても悲しくて夢なのに胸が痛む。
いつもの夢、いつも同じゆめなのに決まって同じ所で泣くのはなぜだろう。
あぁ、夢の終りが近付いている。夢の中の私が唯一奴等に抵抗しうる武器を手放してしまった。
——駄目! 放さないで! 幾ら強く叫んでも夢の中の私には届かない。何ともどかしいこと!?
生きることを放棄してしまったのだ。
血飛沫を上げ夢の中の私が倒れこむ。
その出血量は凄まじく、もう生きては居ないであろうことを本物の私の意志に伝える。
「今日も最悪な朝ね」
何時も通りの最悪の朝焼け……朝焼けは綺麗なのに本当に嫌な気分になる。
体中が弛緩して気持ち悪い。緩慢な動作でカーテンに手をやり開けるとまだ強くない優しい陽光が降り注ぐ。今日は雨降りの予定だからすぐ崩れるだろうけど。この優しい温もりに癒されるのは事実でいつまでも浴びて居たくなる。
あぁ、所詮は夢だ。夢なんだ!
あんなホラーでしかありえないような夢、起こるはずがないんだ。
そう言い聞かせて、私桐生春香は朝食の用意をするために台所へと向かう。
高校二年生にして寮で自炊生活かぁ。そうさ、きっと溜ってるんだよ疲れが。
だからあんな夢を見るんだ。
『現実逃避していられるのも今のうちだよ?』
心に言い聞かせると同時に嫌な声が胸中に響く……
◆終り◆
次回 第一章 第一話第一節「前触れ」
〜作者状況〜
執筆中【】
申し訳ありませんが執筆中に〇が付いている時は書き込まないで下さい。
お早うございます、こんにちは、こんばんは。
初めまして、お久し振り、いつも有難うございます。
毎度、お騒がせしています駄作者風猫です。
宜しくお願いします。
最後に、参照の小説は現在複雑・ファジーの方で執筆中の作品です!
プッシュ中の作品です。宜しくお願いしますvv
<お客様>
柚子様
陽様
あんず様
愛河 姫奈様
朱雀様
梨花様
茶渋様
七名様がコメントくださりました!
有難うございます^^
<目次>
第一章 第一話第一節「前触れ」 >>6に掲載
第一章 第一話第二節「前触れ 二」 >>9に掲載
第一章 第一話第三節「前触れ 三」 >>10に掲載
第一章 第一話第四節「前触れ 四」 >>11に掲載
第一章 第二話第一節「裂く「咲く」人 一」 >>20に掲載
第一章 第二話第二節「裂く「咲く」人 二」 >>30に掲載
<その他>
人物紹介 >>12 随時更新
頂き物や番外編や企画などの目次とさせて貰います。
注意事項
一、更新は二週間に一度程度の亀並み運行です。お許し下さい。
二、グロ及びエロが少なからず入ると思いますご了承のうえお読みください。
三、最低限のネチケットは護って下さい。宣伝及び暴言などはご法度です。
四、主は誤字脱字の魔術師です! 見つけ次第お教えください(これは注意じゃないですね(汗
五、最後に主は豆腐メンタルの持ち主です。ご指摘いただけるときはやんわりとお願いします。
六、コメントや励まし少しの雑談は嬉しいですが連続で雑談が続くと流石に嫌ですので止めて下さい。なお、これは最低限のネチケットに該当しますね。
- Re: 夢、快楽、死、鼓動昂ぶる 1ノ1ノ1 2/13更新! ( No.8 )
- 日時: 2012/02/19 01:42
- 名前: 風猫(元:風 ◆Z1iQc90X/A (ID: g2Ez2oFh)
柚子様へ
感想有難うございます^^
おぉ、変態発現の数々が宜しくてよ♪
変換ミスのご指摘有難うございます!
涙が出るくらい嬉しいです!
気に成る終り方といわれるように気遣っているので嬉しいですね(笑
- Re: 夢、快楽、死、鼓動昂ぶる 2/22更新 コメ求む!! ( No.9 )
- 日時: 2012/03/25 01:48
- 名前: 風猫(元:風 ◆Z1iQc90X/A (ID: R33V/.C.)
夢、快楽、死、鼓動昂ぶる
〜第一章 第一話第二節「前触れ 二」〜
何時ものように歩いていく。変わらない町並み。変わらず人々は冷たく彼女を避けていく。
ただ桐生春香が、人を拒みそう感じているからに他ならないのだが。
いつも通学中に考えるのがあの夢の光景だ。
自分が振う妙な力。そして、居るはずもない友達と言う存在。彼女は今学校で虐めを受けている。
家族間の確執が露呈してそれをネタに虐める不良少女の一団があるのだ。彼女達はかねてより春香の美貌に嫉妬していたらしい。それが虐めの原動力なのは間違いないだろう。人は嫉妬や嫌悪を覚えれば容易くそれを人として見なくなる物だ。
「あんな奴等が居なければ友達も出来るのに!」
彼女は小さく呻くような声を出す。誰も気づくことは無い。
そもそも気付いていても指摘するものも声を掛けるものもいないのが現実だ。自分のことしか考えていないように見えて腹が立つ。まるで自分が世界で一番不幸になったつもりになってそれを助けない人は全て悪だと思っているような感じ。
そんな自分が春香は途轍もなく嫌いだった。
『口に出したって何も変わらないのは分っているんだ……何か』
少しの間彼女は瞑目する。春香の瞼に映るのはいつも彼女をを虐める三人組。
その内の一人が暴力団の団長の娘らしく学校内でも幅を利かせている者達だ。最近は虐めの酷さも苛烈さを増している。
そろそろ身が持たない。彼女は正直に体と相談してそう結論付けた。かといって待ていても何も起らない。
世界はそんなに甘くは無いのだから。何か行動しなくてはならないと思っても何をしていいのか分らない。
自分って駄目だなと彼女は溜息を吐いた。
「やぁ、君? 何かお悩みのようだね?」
先程より更に人通りの少ない場所に差し掛かったときだ。後ろから声が届く。いつもの詰まらない風景が一瞬止ったように見えた。恐る恐る彼女は後ろを振り返る。
そこにはウェーブ掛かった派手な赤色の髪の不思議な雰囲気の男が立っている。
黒のジャケットにジーンズ姿の中背痩躯の右目の下にある刺青が特徴的な春香より三歳から四歳程度年上の青年だ。
「貴方……誰?」
思いの他甘いマスクをした青年に彼女は少し戸惑いながらくぐもった声で問う。
容姿からして何だか危険そうだが優しげな声で彼女は警戒を解いていた。
長らく優しく声を掛けられたことがなかったのも要因だろう。春香の頬は僅かに赤らんでいた。
彼女の問いに青年は優しげな笑みを浮べて答える。
「僕は君の同類さ……」
「何を言っているんですか? 私は貴方の名前をッ!」
青年の不可解で的を射ない言葉に春香は怪訝に眉根をひそめた。
それを見た彼は失言だったかなと小さく一人ごちて咳払いする。そして、指を組む。
「あぁ、名前か。最近誰にも呼ばれたことが無くてね? 思い出すのに時間がかかりそうだ」
「えっ? 貴方も寂しい人!?」
青年は目を細め遠くを見るような風情でうそぶく。恐らく語気から本心なのだろう。彼は長い間名を呼ばれていない。
春香は孤独な同族に会えた嬉しさと憐憫の情から口に手を当て思わず愚かな発言をする。
失言だったと目を泳がす彼女を見て青年はなおも優しそうな表情だ。
「あぁ、思い出した。馬達彰介……そう言う名前だ」
まるで気にしていない様子にホッと一息つき、改めて馬達彰介と名乗った男を不思議そうな様子で彼女は見詰める。
本当に名前を忘れていたような。それでいてそれを全く気に留めていないような、何か超然とした雰囲気が彼はからは漂う。
「今はスパイダーって名乗ってる」
唯聞く分にはニートが一人寂しく厨二病でも発症させているように見える彰介のその言葉。
だが、春香の体はゾワリと泡立ったのだった。
『そう言えば……夢の中で叫んでいた名前は何だっただろうか?』
記憶を手繰り寄せた先にそのコードネームのような名称は確かにあった。偶然だろうか。
いや、そんな偶然はありえない。そう、彼女の心が警鐘を鳴らす。
「僕は君を良く知っている。君の下腹部にある痣のことも!」
誰にも言及はしていないはずなのになぜ、下腹部の痣を知っているのか。いや、唯の偶然だ。気にする必要は無い。
春香は唇を強く噛締め痛みで同様を押さえ込もうとするが。それは所詮敵わなかった。次に男の口から発された台詞。
「君は最近、友達も居ないはずなのに友の名を呼ぶ不可解な夢を見ているね? 痣が浮んできたのは2カ月程度前だろう?」
彰介は淀みなく述べていく。その全てが真実でとても妄想の弾丸がマグレ辺りした偶然とは思えない。
「アンタ、一体何なのよ!?」
思わず春香は声を荒げた。それに対して青年は静謐とした表情で滔々と告げる。
「僕は君の同類さ……」
——————————
第一章 第一話第一節「前触れ 二」終り
第一章 第一話第二節「前触れ 三」へ続く
- Re: 夢、快楽、死、鼓動昂ぶる 一ノ一ノ三 2/29更新!! ( No.10 )
- 日時: 2012/03/25 01:48
- 名前: 風猫(元:風 ◆Z1iQc90X/A (ID: R33V/.C.)
夢、快楽、死、鼓動昂ぶる
〜第一章 第一話第三節「前触れ 三」〜
「僕は君の同類さ……」
『何? 何を言っているの? えっ、同類!? 可笑しい……こいつ絶対可笑しい!』
黒ジャケットの赤髪の青年に誘導されるようにいつのまにか春香は、人通りの無い無い裏通りへ追込まれていた。
建物によってできた細長い一本道で人の目が無いのを良いことにゴミを捨てるものが沢山居るのか相当に汚れている。
異臭に鼻を覆う春香を他所に青年は淡々とした様子だ。彼女は奇怪な化物を睨むように彰介を見詰めた。
自分の名を忘れたような口ぶり。厨二病染みたコードネーム。そして、自分のことを何でも知っていると言うストーカーじみた情報収集能力。何もかもが思えば不気味で。
その不自然な狂気は彼の一言で大きく増長された。彰介の同類と言う発言は彼女の心を締め付ける。
彼女は体中でその言葉を否定しようともがく。本来なら簡単に否定できるはずの言葉。
だが、どうしても拭いきれないのだ。そう彼を見ているとぼんやりと自分の生前の姿が浮ぶような、そして最初から知っているような。「ありえない」と、必死で否定するほどに体中が熱くなって懐かしさを感じて。
「どうしたのかな? 熱でも有るのかい?」
「さっ触らないでっ! 私はあんたみたいな人格破綻者じゃっないッッッッッ!」
火照って顔でも赤くなっていたのか。恥らいや焦燥感が表情に表れたのだろうか、青年に額を触られ春香は体を竦めた。
少しは人間らしい心配すると言うこともできるではないかと小さくながら感嘆するが、今の彼女にはそんなことは些細なこと。彼に対する生理的な気持ち悪さに嗚咽しながら抵抗する。必死で手を振り払う。男はなおも笑顔を崩さない。
「……円状の紫色の痣は同胞の証。それはすなわち力の顕現。君は今不可解な夢を見ているはずだよ?」
『何なの? 何でそんな色や形まで!? 見られてた。ヤバイ! 逃げないと』
兎に角、彼女の脳内を支配していたのは逃げろと言う警鐘。尋常ではない現実との不和と危機感がほとばしる。
彰介は何食わぬ顔で春香を追う。まるでそれが当たり前と言うように。そのさまは彼女の言う通り性質の悪いストーカー。
しかし、そうとしか思えないのに体の深淵を本当の意味で支配するのは郷愁にも似た懐かしさ。
『何なの!? 私と彼は何か関係が有ったの!? 分らない! 分らないよッ! パパ、ママ』
脳内を支配する感情と体を駆け抜ける感覚が違いすぎて彼女の中の感情制御の柱が揺らぐ。
思いの他一本道は長く走っても走っても出口が見えない迷路のようだ。人の居る場所に着けば勝ちなのに。ここは日本一人間で溢れた東京のはずなのに。絶え間無く続くポンプ運動で張り裂けそうになる胸を締め付けながら春香は疾駆し続ける。
後ろを振り返ればすぐ追いつかれそうな気がして後ろを振り向けない。全力疾走で百メートル近く以上走って元々文系である彼女の披露はピークへと達する。恐る恐る振り切れたか確認するために一欠けら程度の勇気を振り絞り振り向く。
今や居ない母親や父親になど助けを求めながら。
「やぁ、少し走ってすっきりしたかい?」
「何なのよ? アンタ一体……何なのッッ!?」
振り向いた先には当然のように馬達彰介が立っていた。それも息一つ乱さずに表情を全く変えずに。
目の前の青年ははっきり言って細面だ。確実に平均より体重は軽いだろう。もしかしたら十キロ位軽いかもしれない。
いかに何かしらのスポーツをやっていたとしてもこれほどの体力が付くものだろうか。本当に人間なのかと言う根本的な疑念が浮ぶ。それはある種の抵抗なのだろうとも春香は知っている。化物に襲われたのならまだましだ。人に殺されるよりはなどと。だが生への執着がなくなるわけじゃない。
長い期間続いている虐めにも屈せず学校に通う彼女の中には確実な生への執念が有った。
しかしそれは今風前の灯火と化している。金切り声をあげ涙を流す。表情は絶望に彩られていて。
青年はそんな絶望に歪んだ少女を綺麗な人形を見るよな瞳で眺め抱き寄せた。そして彼女の涙を一滴嘗め取る。
「絶望と恐怖に彩られた表情とそれから生まれた涙は本当に美しい味がするね」
「ふざけるな。お前なんかに私は殺されて……」
一瞬何をされたのか分らなくて春香は逡巡した。目を白黒させて頬に伝わる温度で理解する。
彰介の口から発される言葉でそれは核心になっていく。
彼が糾弾すべき下衆で有ることも自分の命を奪うに値しない屑で有ることも。
逃げることが出来ないのならどうすれば良い。脳内に浮かんだのは簡単で明快な答え。
「たまるか!」
「それが、僕の同類ということさ……」
殺してしまえば良い。幸いにしてここは人通りも少ないのだから。自分が生き残るためには仕方の無いことだろう。
そう、心に言い聞かせて彼女は叫ぶ——「殺してやる————!」と。
「殺してやるうぅ!」
怒りのヴォルテージが限界に達した瞬間に彼女の影が巨大なサソリのような姿に揺らめく。
その不自然な影の揺らぎを確実に目に捉えながら。まるで本能が知っていたかのように手の指に力を入れる。
彼女の指が変色し長く鋭くなっていく。その様を見てスパイダーと自らを呼称した男は哄笑する。
まるでこの光景を待っていたように。そして凄絶な笑みを浮べ宣言する。
「合格だ。インセクトプリズンへようこそ」
彼は言う。大きく手を広げ迎え入れるように。
「黙れ」
だが、彰介の言葉など今の彼女には届かない。
棒立ちする彼に彼女は容赦なく爪を振り翳す——……
——————————
第一章 第一話第三節「前触れ 三」終り
第一章 第一話第四節「前触れ 四」へ続く
- Re: 夢、快楽、死、鼓動昂ぶる 一ノ一ノ四 執筆中!! ( No.11 )
- 日時: 2012/03/25 01:49
- 名前: 風猫(元:風 ◆Z1iQc90X/A (ID: R33V/.C.)
- 参照: 第一章 第一話終了! ※微エロ有り
夢、快楽、死、鼓動昂ぶる
〜第一章 第一話第四節「前触れ 四」〜
「黙れーッッッッッッ!」
喉が裂けるほどの大音響で春香は叫ぶ。
彼女の異様に鋭い爪は青年の首元を正確に狙う。
「嫌だ。黙らない。生きている限り僕は語るぞ。君の全てでも僕の全てでも」
流石にただ死ぬことは選べなかったのか、彰介は左腕で春香の鋭い爪による刺突を防ぐ。
青年は全く痛みを感じていない風情で喋り続ける。
太陽光の光が届かないせいで赤黒く見える血はまるで罪のようで。彼女は嗚咽した。
そして痛みを毛ほども感じず語り続ける目の前の人間とは乖離した怪物を睥睨し歯軋りする。
「あんたのことなんて興味は無い。私は誰かに語られるような存在でもない!」
『死ね! さっさと死ね! 私の毒でッッ! あれっ? 何で私、私の爪に毒があることなんて?』
唯彰介の言葉が腹立たしくて彼女は恫喝した。そして焦燥感に滲んだ表情で念じる。早く死ね、と。
彼は腕で彼女の攻撃を防いだのだから出血量では死なないだろう。だが彼女は知っている。自らの爪に致死性の毒が有ることを。しかしそこで彼女は疑問符を抱く。なぜ、自分の爪に毒が有るのか。普通の人間の爪に毒など無い。
「どうしたんだい? 妙に愕然としているね? それとも焦燥感かな? いや、普通じゃないと気付いてしまったのか?」
「五月蝿い! 黙れ!」
彰介は鬱陶しそうに春香の爪を腕から抜きハンカチで血を拭いながら無感動な瞳で話し出す。
その内容は彼女にとって的を射ていて腹立たしいことこの上ない。彼女は子供のように声を荒げた。
非現実的の連続で彼女の感情に余裕はなく、怒鳴るしか出来ない。
「追い詰められているのかい? 可愛そうに……君は今、こう考えているはずだ。
なぜ、この男は私の毒で死なない? あれ? なんで私は自分の爪に毒が有る事を知っているんだろう、ってね?」
青年の話の途中で追い詰められているのはお前のせいだと彼女は口論しようとするが。男は彼女の眼前に人差し指を立てて静かにしろと言外に告げた。そして話を続ける。どうやら自分の話を遮られるのは嫌いなようだ。
彰介の発言は彼女の思考の全てで。春香は瞠目する。
「毒? 何を言ってるの……毒が有ったら貴方死んでるんじゃない?」
「僕に毒は効かないんだよ。なぜって……? 蜘蛛の力を持つからさ」
春香は青年の言葉に対して精一杯の白を切った。
しかし彼はハンカチに付着した血の臭い嗅ぎ毒があることを認め、軽い口調で言う。
まるで自分が特別な力を持つかのように振舞う青年に反感を抱き舌打ちするが、自分自身も普通ではないことを春香は気付いていた。なぜなら普通の人間の爪が、人の腕を貫くなど有り得ないから。
「蜘蛛の力!? バッカじゃないのッ!?」
しかし、春香は認められない。自分の今の現実が壊れていく様が。積み重ねてきた見識が砕けていくことも。
訳が分らなくて壊れてしまいそうで彼女は自分の胸にその鋭利な爪を突きつけてみたた。
涙が出るほど痛くて彼女は喘ぎ声を漏らす。
「馬鹿じゃないさ。確かに脳の造りなんかは少し普通とは言えないけどね?」
『えっ? 何ッ? 影が巨大な蜘蛛の形に!?』
仕方ないと被りを振う彰介。ツイと彼は目を細めた。すると青年の瞳にルビーのような赤色の燐光が宿る。
そして彼の影が見る見るうちに形を変えていく。その瞬間、春香の胸の中に表面的な未知への恐怖や不信感以上の大きな感情が湧いた。それは知己の盟友との再会のとき交わす抱擁のような感情。
『何だろう? この懐かしい感じ。まるで長く会っていない親友に会った時みたいな……歓喜?』
意味も分らず彼女は涙を流す。しかしその瞬間自分の背後に突然、妙な気配を感じ振り返る。
どうやら来客らしい。このような場所を通るということは社会のはみ出し者なのだろう。
「何だぁ? 日高高校の生徒さんが何でこんな時間にここに居るんだぁ? さては非行少女か!?
良いね! 俺さぁ、あんたみたいなお嬢さん結構好みだぜ! 何て言うの? 最近巷で人気の儚い系美人?」
春香が振り返った先にはスキンヘッドの間抜け面の明らかに彰介より五歳から六歳程度年を取っている大男が立っていた。しかし男から発せられる言葉は体つき相応にしわがれた感じの声とは全く異なる幼稚な内容で。
彼女は嘆息し聞くに堪えない話と断じ殺してしまおうと爪を構える。しかしそれを青年が止めて微笑む。
まるで「君は普通の人間なんだろう? ならそう簡単に人間らしくない力を使うなよ」と、制止しているようだ。
「何だぁ? ちゃらちゃらした野郎だなぁ。赤髪とか茶髪とか校則違反だろうが餓鬼ぃ!
俺あなぁ……てめぇみたいな野郎が良い女とイチャイチャしてやがるってのが一番気にくわねぇんだよ!」
「五月蝿いな。後から来た奴が飛び入りで何喚いているんだい?」
そんな彰介の行動が気に入らなかったのか大男は喚きたてる。硬派気取って校則などと社会不適合者だからこそ今頃こんな場所に居るような男の言う言葉ではない。臆することなく青年は春香の前へと進み大男と睨みあう。
大男はガタイの良さも相俟って彰介と比べ圧倒的な存在感を醸し出している。しかし彼は一歩も引かない。
平然と忌憚無く意見し殺気をみなぎらせる。
「死ね」
この上なく冷たく何の感情も無いその言葉はゆえに圧倒的な狂気を孕み。大男の顔面を蒼白とさせた。
「蜘蛛なんてありえない? 良く見てな春香」
「何スカしてんだあぁぁぁぁぁ! 色男おおぉぉぉぉぉぉ!」
丁度良い実験材料を見つけたとでも言う風情で彰介は微笑む。それを見て沸点の低い大男の我慢は限界にいたり噴火する。男は大木のような巨腕を天高く掲げ勢い良く振り下ろす。
「遅い……遅いなぁ。木偶の坊」
掘り下される瞬間彼女は信じられない物を見た。否、正確には信じられない経験をしたというのが正しいか。
青年は身を翻し春香を抱かかえ屈伸運動の力を使うことも無くジャンプし空を舞う。
三メートル以上は飛んでいる。春香を抱えてだ。明らかに人間の脚力を超えた技に彼女は絶句した。
見逃した男はまさか頭の上を彰介が通過しているなど知らず辺りを見回している。
「おいおい!? どこにいきやがった!? まさかビビッて逃げたかあぁ?」
一頻り周囲を確認して相手が居ないので男は有頂天だ。自分の力に驚いて逃げ出したのだと。
大男の目当てである春香も居なくなっているのだから本末転倒だろうに。そもそもそれ以前にそんな一瞬で逃げられるはずも無いと考えれば分るのに、男は愚かしい陶酔に浸り笑い続ける。
「あーぁ、寄り道しちまったなぁ。そろそろ旦那の所に……」
そして笑い飽きたところで何もかも忘れたかのように歩き出す。
旦那とは恐らく裏通りで商いをする麻薬売買の者等のことだろう。
しかし歩き出してすぐに頭上から妙な声がする。
「うっむぅ!?」
それは、女の声。女の喘ぐような声だ。禿頭の男は思い出す自らが本来来ないはずのこの場所まで来た理由を。それは他ならない女が目的だ。男と女の口論を耳に挟み興味を持ち歩み寄って現場にいた男がひ弱そうなので殴って女を奪おうと考えた。まさかと思いながら男は頭上を確認しようと顔を上げる。
視線の先にはなぜか青年に唇を奪われた目当ての女。
憎しみが沸々と湧きあがって来て大男は雄叫びを上げそうになる、がそれは叶わない。
「えっ? ゲッ……ぐがっ!? なっ、何だこれ!? いっいがああぁぁぁぁ! くっぐるじぃ……うっあぁ」
『何? 突然苦しみだした!? 体が浮んでいく!?』
大男は突然苦しみもがきだす。首を締め付けられていることに気付きそれを必死に引き千切ろうとするが力が入らない。
そもそも力が入った所で千切れないだろう。彼を縛るのは彰介の操る蜘蛛の糸だ。蜘蛛の糸は実は凄まじい強度だ。
幾重にも重ね合わせれば普通の人間になど千切れるはずが無い。何が起きているのか分らず春香はただ困惑する。
人一人を軽く持ち上げ図抜けた跳躍をし人を抱えながら壁に張り付くさまはすでに人間の範疇を超えていて。
彼女はこの地点で既に確かに確実に普通ではない人間が存在していて自分もその範疇なのだと気付く。
「…………」
黙考しているといつのまにか男の抵抗の声が消えていた。大男は体を宙吊りにされ口内から泡を吹き出し動かない。
それを彰介も確認したらしく彼女の口吻から唇を離す。
ファーストキスがこんな何てと春香は嘆く余裕もなく吊るされた巨漢を見詰める。
「死ん……だの?」
分りきっていたがもしかしたら違うかもしれないと、死体など見たく無いと青年を殺そうとしたのに身勝手にも彼女は問う。
「うん、死んだよ?」
「そっか……あんまり恐怖や罪悪感を感じないのは私も普通じゃないからかな?」
臆面もなく告げる彰介を見て溜息をつく。そして自分の中に思った以上に何の感慨も無いことに気付き自覚する。
自分も普通などでは無いのだ、と言うことを——
『あぁ、恐らくは今朝のニュースの奴って彼がやったんだろうなぁ。蜘蛛の糸って見え辛いもんなぁ』
蜘蛛の糸に絡まれての窒息死という奇怪な死に関する朝のニュースを思い出し小さく微笑む。
本来なら嘆くべき所だが何だか笑みが出る。
「現実を直視すべきだよ? 君は普通じゃない。普通と言う世界で生きていけない。いつか社会から炙りだされる」
彰介に言われなくてももう、分っていた気がした。だがそれを認めることは出来なくて。
「ご忠告有難う……でも、百パーセントじゃないでしょう?」
「そうかい。君がそう思うならご自由に? いつでもインセクトプリズンは君たちの参入を待っているよ」
恐らくは自分この普通の人間とは違う爪で人を殺しているのだろう。今までは感情をコントロールできず記憶に無かったが。間違えなく殺しているはずだ。悪夢を見る。仲間を見殺しにする夢と交互に自分が人を殺す夢も見るのだ。
その死体は精緻で。まるで現実で死骸を見たことがあるかのようだった。理由は簡単で自分自身が殺していたのだろう。
しかしそれでも手にした日常にしがみ付きたくて異常者として生きるのは虐められるより遥かに嫌だから。
春香は青年の申し出を断った。
「疲れた……今日は、休もう」
彰介のくれた名刺をなぜか捨てる気にはなれずポケットにしまい帰路に着く。
相当に疲れが溜っていて大男の死体のある場所で眠ってしまいたかったが流石にそれは不味いと判断し帰路につく。
その頃にはすでに青年の姿は無かった。
「…………」
春香は一瞬立ち止まり後ろを振り向く。何かに見られていたような気がして。
だが、勘違いだとすぐに心に言い聞かせて歩き出した。
——————————
第一章 第一話第四節「前触れ 四」終り
第一章 第二話第一節「裂く「咲く」人 一」へ続く
- Re: 夢、快楽、死、鼓動昂ぶる 一ノ一ノ四 コメ求む ( No.12 )
- 日時: 2012/03/09 20:17
- 名前: 風猫(元:風 ◆Z1iQc90X/A (ID: R33V/.C.)
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夢、快楽、死、鼓動昂る
————————人物紹介
「私は、生きたい……貴女を蹴落としてでも!」
名前「桐生春香/キリュウハルカ」
年齢「十七」
性別「女」
容姿「少し茶色味掛かった肩に掛かる程度のストレートの髪。眼鏡が似合う大人しそうだが綺麗な顔立ち。
身長は少し高め。基本的に私服は、ジーンズ系が多い。」
性格「控え目で内向的に見えるが実は頑固で我が強い。」
特殊能力「蠍の能力を体に宿している。力を発すると強靭な防御力と腕を刃物のように使い刃に毒が備わる。」
備考「安いアパートを借りて一人暮らしをして学校に通っている。下腹部に円形のあざがある。」
仮想CV「能登麻美子」
「嫌だ。黙らない……生きている限り僕は語るぞ。君の全てでも僕の全てでも」
名前「馬達彰介/マダチショウスケ」
年齢「二十三」
性別「男」
容姿「ウェーブ掛かった派手な赤色の髪で黒のジャケットにジーンズ姿の中背痩躯の右目の下にある刺青が特徴的な雰囲気の男。」
性格「飄々としていて掴み所が無いようだが結構強引で行動派」
特殊能力「蜘蛛の能力を有する。圧倒的な力とジャンプ力、そして糸を自在に操り毒に耐性を持つ。」
備考「インセクトプリズンという組織にいる。春香に付いての情報を異常なほどに持っている。痣の色が他と異なり緑である。」
仮想CV「下野紘」
順次更新!
仮想CVは、唯の私のおやつのようなものです。主は声優好きのオタクちゃんって訳です(苦笑
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