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- 永遠
- 日時: 2012/02/29 15:32
- 名前: りか (ID: Fbe9j4rM)
はじめまして!
ご覧いただき、ありがとうございます!
がんばって更新するんで、よろしくです
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- Re: 永遠 ( No.4 )
- 日時: 2012/03/01 14:15
- 名前: りか (ID: Fbe9j4rM)
第二話
わが貧弱な祖国、永遠の王子であることは、誇りでも何でもなかった。誇れることじゃない。幼い頃から父の背中を見ていて、そう思った。
一国を統べる王とは、よく言ったものだ。
僕の父は、「国王」の名ばかりが走り、本人は国王の肩書きには到底及ばないような、そんな人間だった。・・・「だった」なら、いくらかましだったかもしれない。
とにかく僕は、そんな典型的な国王である父を嫌っていた。国政には皆目興味を示さず、お気に入りの大臣に権力を横流しし、自身は国民から絞り取った税金で遊び怠ける。そんな父の情けない姿を見るたび、嫌悪、羞恥、忌避・・・そんな単語ばかりが浮かんだ。浮かんで、消えなかった。
いつだったか、大臣に尋ねたことがある。
「どうしてお父様に、ご自分で政治をしてって言わないの?」
まだ、ほんの五、六歳の頃だったと思う。今考えると、恥ずかしくなるほど他力本願だ。
「翔練様、ご心配なさらず。私めは皆様をお守りするために全力を尽くしております。何か、ご不満などがございましたら、早急に排除いたしますゆえ」
カラスの羽のようなつややかな大臣の黒髪を、綺麗だと感嘆した覚えがある。
なぜだろう、今は不気味としか思えないけれど。
そんなある日、涼生は何の脈絡もなく、突然やって来た。
四年前の、十三歳の夏の日。その日は僕にとって、忘れもしない、忘れられない夜になった。
- Re: 永遠 ( No.5 )
- 日時: 2012/03/01 10:16
- 名前: りか (ID: Fbe9j4rM)
第三話
騒がしい城内も、つきがこうこうと輝く頃には、不安になるほど静まり返る。小さいときに、この雰囲気の中目が覚めてしまうと、よく半泣きで今は亡き母の元へ行ったものだった。
だから、その日の僕は神経過敏になっていたのだろう。悪い夢を見てはっきりしてしまった意識は、なかなか眠りについてくれなかった。
ガタン。
やけに大きく響いたその音に、僕の心臓は暴れだした。窓から外の熱気が伝わってくる。
何だ?何が起こったんだ?なぜ、窓が開いたんだ?
状況を確認したいが、この位置からだと窓が見えない。
スッ、スッ、スッ、スッ。
靴をはいていないのだろう。床と足のこすれる音が、僕の恐怖を煽る。
どうしよう?どうしようどうしようどうしよう・・・。
不思議なことに、大声を上げるという選択肢は出てこなかった。まあ、それが逆に功を奏したのだが、人間というものは窮地に立たされると、おかしな行動をとるらしい。
「僕を殺しに来たのか?」
今思うと、なんて選択をしたんだと頭が痛くなるが、結果オーライだったのでよしとする。それに、あのときの僕は文字通り必死だったんだ。
「・・・何か悪いか」
幼い子どもが出すような、高めの声だった。少し震えている。僕がおきていたことに驚いたのだろうか。
- Re: 永遠 ( No.6 )
- 日時: 2012/03/01 11:08
- 名前: りか (ID: Fbe9j4rM)
第四話
緊迫した空気が、二人の間に流れている。
それでも僕は、相手の様相が何となくつかめたこともあって、意を決して尋ねた。
「そっちを見てもいいか?何もしないよ、誓って」
いささか声を和らげる。
「・・・・・・」
相手の息遣いが聞こえる。少し荒い。
そういえば、どうやってこの城に入ったんだ?
そんな疑問がちらっと浮かんだが、冷たい声に掻き消された。
「どうでもいいだろ、そんなの。どうせお前は、俺を殺すんだ」
声だけでなく、その口から発せられた言葉までもが冷たいことに、僕は驚く。
殺す?僕が?
「そんな訳ないだろ」
「はいそうです、なんて言う奴いねえよ。みんなお前と同じことを言って、油断させて、むごたらしく殺すんだよ」
まだ見ぬ相手は、冷厳な口調で、吐き捨てるように言った。
「そんなのと一緒にするな」
反感を抱いた僕は、語気を強める。
「いいや、一緒だ。お前も、あいつらと同じに決まってる」
「・・・なんで決めつけるんだ?」
なんだか、無性に腹が立った。
なぜ、こいつはこんなに偉そうなんだ?なんでこいつは、僕の話を聞かないんだ?どうして、見ず知らずの奴に僕の価値を決めつけられなくてはいけない?
こいつは僕の何を見て、理解して、確信して、殺そうと思い立ったんだ?
僕は怒りにまかせて体を起こし、窓の方を見た。
- Re: 永遠 ( No.7 )
- 日時: 2012/03/01 11:53
- 名前: りか (ID: Fbe9j4rM)
第五話
怪しげな風が吹いた。
窓の方に顔を向けた後、一瞬目を細めてから、目を見張ったのを覚えている。
それはまるで、あでやかに光を放っているように見えた。気高いようで、それでいて人の目を眩まし、闇の淵へ誘うような・・・。
幻想的だった。夢を見ているかのようだった。
僕はまぶしくて、目を閉じた。そして、もう一度開く。
月の光に、影がくっきりと浮かび上がっていた。顔は見えない。薄いカーテンがそよいで、影を覆う。
そうか、今日は満月・・・。
それにしても。目をそらしながら思う。
月の光は、あんなにも凛々しく、優美だっただろうか。怒りを忘れてしまうほどに。我を忘れてしまうほどに。
僕は、幼い頃に読んだ本の一節を思い出していた。
美しい姿で人々を誘い、破滅へと導く———。
「お前らは、みんな一緒だ。騙し、欺き、裏切り、そして殺すんだ」
悔しさのにじむ声に、はっとした。
こういうのを、見とれていたというのだろうか。
そんなことを思いながら、疑問を口にした。
「どうして君は、僕を殺そうと思った?僕は君にあった覚えも、見た覚えもない。それに、さっきから言っている、『お前ら』って?」
ようやく見えてきた、幼い顔を眺める。
短めの黒髪をたずさえる少年だ。背丈は僕より少し小さいくらいか。まだ十代にもなっていないんじゃないか?少なくとも、僕より年上ということはないだろう。
そんな幼い少年が、なぜ・・・。
「別にお前に話す筋合いはないだろ」
「あるよ。君は、僕を殺すんだろ?僕も、黙って殺されるほどお人好しじゃない」
少年の目が、月の光にきらめいた。
- Re: 永遠 ( No.8 )
- 日時: 2012/03/01 14:12
- 名前: りか (ID: Fbe9j4rM)
第六話
僕の心臓はまだ、いつもより少し騒がしい。
少年は、静かに口を開いた。
「・・・俺の父さんと母さんが、お前に殺されたんだよ」
無邪気なはずの顔が、憎しみに歪む。歪んだその顔に、一筋の光がすっと流れて、消えた。
「・・・え?僕が?」
僕は、少年の言葉が理解できなかった。
僕は、人を殺すことはもちろん、人を傷つけたことすらない。病弱だったこともあって、城の外に出掛けることさえ、あまりなかった。
・・・僕じゃない。僕のはずがない。
どういうことだ?
「そうだ。お前が殺した。だから、敵をとるためにお前を殺す」
「・・・なぜ?僕は誰も殺していない」
「そりゃ」
幼い少年は、僕を一瞥してから続けた。
「おまえ自身は殺してないだろうよ。ここでのうのうと暮らしているんだから」
「じゃあ」
「俺の両親は、反政府団体のリーダーだったんだよ!」
乱暴に放たれた単語は、僕が聞いたこともないものだった。
・・・反政府?
「お前らが、話し合いに応じるって言ったから、父さんと母さんは危険を承知で行ったんだ。お前ら政府を信じて」
話し合い?危険?
何だ?何なんだ?
この国の治安は、とてもいいんじゃないのか?
大臣が、国のために全力を尽くしてくれているんじゃなかったのか?
なぜこの国で、そんな単語が出てくる?
「なのに・・・政府は、俺たちを裏切った!丸腰の父さんたちをひっとらえて、公開処刑にした!!なんでだ?どうしてだ?どうして父さんたちを殺した!?」
何を言っている?
この少年は、何を言っているんだ?
「返せよ!父さんと母さんを!早く返せ!」
「やめろ!」
僕は叫んだ。口の中が乾いて、声がかすれた。
涙に濡れた顔が、こちらを向く。
「騒ぐな。人が来るから」
汗が止まらない。暑さは、感じない。
いつかの大臣の言葉が、僕の脳裏に響く。
早急に『排除』いたしますゆえ———。
「・・・君の、名前は?」
何を話そう?
「は?なん・・・」
「名前が知りたい」
この少年に、どう言えばいい?
「・・・涼生、だけど」
なんて詫びれば、許してもらえるだろう。
僕が人生のすべてを砕いてしまった、この哀れな少年に。
「涼生、僕はこれから君に全部話す。でもたぶん、憎しみが募るだけだ。やり切れなくなったら、・・・容赦なく、僕を殺してくれて、いい。だから、少しでもいいから、聞いて欲しい」
殺されるかもしれない恐怖。
それに潰されないように、生きていかなくてはいけない。
そして、涼生。
ぼくはこれからずっと、君を忘れることはないだろう。
生涯をかけて、君を守らなくてはならないんだ。
僕が生きるか死ぬかは、君にかかっている。
数分後、君は何て言うだろうか?
そして、僕は何をしているだろうか。
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