ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- 『異常』-『先輩』
- 日時: 2012/03/13 00:50
- 名前: 音式 (ID: HpuUcKpT)
僕には尊敬している先輩がいる。僕が通う高校の部活の先輩だ。
僕はその先輩にだけ、名前を付けずにただ『先輩』と呼んでいる。
その先輩の異常ぶりに、僕はその先輩の名前を口に出すのが恐ろしくなったからだ。
その上、先輩といると異常な出来事が次々と起こる。
いや、先輩が異常な出来事を引き寄せているのかもしれない。はたまた先輩が自ら異常生んでいるのかもしれない。
これから此処に、僕が体験した『異常』を記してみたいと思う。
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- Re: 『異常』-『先輩』 ( No.2 )
- 日時: 2012/03/13 01:22
- 名前: 音式 (ID: HpuUcKpT)
僕は自転車をダラダラとこいで家に向かった。
しかし、僕はある所で自転車を止めた。
そこは、今は既に使われなくなった工場。
その廃工場の入口付近に見覚えのあるバイクが1台停めてあった。
辺りが暗い上に遠くてよく見えないが、そのバイクはついさっき部室で寝ていた先輩の物に似ていた。
バイクで学校に通う生徒は珍しい。先輩はその珍しい生徒の1人だ。
だから先輩のバイクは印象が強く、記憶に残っていた。
僕はまさかと思い、もっと近くでそのバイクを見た。
間違いなくそれは先輩の物だった。
となると、先輩はこの廃工場に入って何かしているのだろうか。
廃工場の入口は、化け物が口を開けた様に大きい。その中を覗いたが、真っ暗で何も見えなかった。
僕の中から恐怖感が溢れてきた。しかし同時に好奇心も湧いてきた。
そして好奇心が恐怖感に打ち勝ってしまったため、僕はその廃工場の潜入を試みることにした。
- Re: 『異常』-『先輩』 ( No.3 )
- 日時: 2012/03/13 01:36
- 名前: 音式 (ID: HpuUcKpT)
だが、大きく開いた表口から堂々と入るのは、何と言うか、危険な気がした。第一、潜入というのは他人にばれずにこっそりと入ることである。
そのころ潜入ゲームにハマってた僕は、そんな浅はかでばかばかしい理由から、裏口に回って廃工場へ入ることにした。
自転車を裏口付近に停め、いざ潜入開始。裏口の鍵は掛かっていなかったため、安易に工場の中へと潜入することが出来た。
廃工場の中は薄暗く、何に使っていたのか分からない機械が所々に設置されていた。
僕は諜報部員にでもなった気分で、機械等の物影に隠れながら前進していった。ほふく前進とかもしたかったが、学生服が汚れるので断念した。
いくらか進んでいくと、広場のような所が見えた。そこには機械が設置されていないで、自由に人々が行き交える様になっている。
そして僕から真っすぐ奥を見ると、四角い出入口がぽっかりと開いていた。
外からでは暗くて見えなかったが、どうやら表口のすぐにこの広場があるらしい。
僕は古錆びたオイル臭い機械に隠れながら、先輩を捜す様に広場の周囲を見渡した。しかし薄暗い闇が邪魔して、先輩の姿を確認することが出来なかった。
けど、何故だか分からないが、『何か』がこの広場のどこかにいる気配を感じた。
僕は少しの間その場で待機することにした。
あまりの静けさに、この世から音が消されたのかと思った。
数分経過したが、何も起こらない。
僕は次第に不安を感じた。
先輩がいるとしたら、少しくらい物音がしても良いはずだ。なのに無音状態が続いている。
僕の感じた気配はただの思い違いだったのだろうか。
僕はそう考え、小さな溜め息をついたその時である。
- Re: 『異常』-『先輩』 ( No.4 )
- 日時: 2012/03/13 01:48
- 名前: 音式 (ID: HpuUcKpT)
静寂を破るかのごとく車の走行音が聞こえ、その音がこの廃工場に近付いてきた。
どうせこの工場を横切るだけだろうと僕は思った。だが、その車の走行音は弱まり、廃工場の敷地内へと入ってきたのだ。
表口から二つの眩しいヘッドライトが廃工場の中を照らした。
僕は車の出現に驚いたが、それよりも明るくなったこの広場に先輩がいるかどうか、周囲を見回して確かめた。
僕から見て、約十メートル離れた場所の左側に先輩はいた。後ろにある機械に寄り掛かりながら、少し顔を車の方に向けていた。
やはりあの気配は思い違いではなかった。
やがて、ヘッドライトが灯されている状態で車のエンジンが止まり、運転手がドアを開けて出てきた。
運転手は男性で、片手にはコートを持っていた。
その男性は一歩ずつ足を運び、工場内に入ってきた。普段は気にも止めない足音でも、ここでは騒音のように聞こえた。
男性は歩くのをやめ、先輩と向き合った。
車のライトが、二人の横の姿を影にして写し出した。
少しの間、沈黙が続いた。
「お久しぶりですね。」
最初に沈黙を破ったのは先輩だった。
「そうだな。」
後から男性の声が聞こえた。
「驚きましたよ。柊さんから俺にメールを送るなんて、滅多にないですし。」
先輩のその言葉で、男性の名字が柊ということが解った。
「突然こんな場所に呼び出してすまない。」
柊という男性の声は少し鋭い感じだった。
「別に構いませんよ。俺も暇でしたし。そんなことより、話とは何ですか?」
先輩が尋ねた。
「…頼みたいことがあるんだ。」
僕は柊の声が次第に暗くなってゆくのを感じた。
「柊さんが俺に何か頼むなんて珍しいですね。」
先輩の声は、ずっと変わらず平淡だ。
「……………。」
柊はしばらく黙り込んだ後、ゆっくりと口を開け、こう言った。
「君の手を、譲ってほしい。」
- Re: 『異常』-『先輩』 ( No.5 )
- 日時: 2012/03/16 01:14
- 名前: 音式 (ID: Rts1yFTc)
柊の右手からスルリとコートが抜け落ちる。工場内は、コートが地面を叩く音で広がった。
コートが擦り抜けた手には、鈍く光る大きな鉈が握られていた。
柊の有り得ない発言、そして手に握られてる有り得ない物、僕はそれらを疑った。
しかしそれは全て事実であり、有り得ているのだ。
僕の身体中の血の気が勢いよく引いていき、そして勢いよく嫌な汗が噴き出るのを感じた。
まさか…その鉈で先輩の手を…。
「その鉈で俺の手を切り落とす気ですか?」
僕が思ってたことを、先輩がそのまま柊に尋ねた。
先輩の声は恐ろしいほど冷静だった。冷静なのは声だけではない。先輩の横顔は、柊の持ってる凶器に全く動じていなかった。もはや今の状況を楽しんでるかのようにすら思えた。
柊は何も言わず、先輩に向かって歩きだした。先輩は逃げもせず退きもせず、ただただその場で静止していた。
柊と先輩の距離は次第に狭まり、二人の間には1mも満たない空間ができた。
「両手を前に出してくれ。」
強張った声で、柊は先輩にそう命令した。
「嫌だ。と断ったらどうします?」
まるで柊をからかっているかの様に、先輩は質問した。
「その時は、君を殺す。」
柊は真剣に言った。
先輩は少し考えるかの様に静まり返っていたが、
「いいですよ。俺の手を譲りましょう。」
と微笑んで言って、両方の袖をめくりあげ、ゆっくりと両手を前に突き出した。
先輩の行動に、僕は驚愕した。
確かに、殺されるよりは両手を切り落とされる方がよっぽど増しだが、先輩は素直すぎる。
まるで、先輩にとって自分の両手は『身体の一部』ではなく、ただの
『道具』としか認識していないかのようだった。
柊が先輩の左側に回って、僕と柊が向き合うようになった。
僕は見つかったら危険だと思い、自分の頭を物影に引っ込めた。しかし、柊の眼は先輩の両手に釘付けだった。
僕は再び顔を物影から出して、二人の様子を窺った。
柊が先輩の両手を左手で掴んだ。その後、右手に持っている鉈を、先輩の両手首に刃を立てるようにして軽く置き、何処を切断するか考えていた。
今のうちに助けないと、先輩が危ない。
僕は、頭ではそう思っていたが、身体がいうことを効かない。柊の持っている凶器があまりにも恐ろしくて、身体が完全に硬直していたのだ。
ならば大声を出し、柊の注意をこちらへ引き付けようと考えたが、喉まで硬直していたから声を出すことも出来きず、僕は先輩をただ見守るしかなかった。
そして、切断地点を決めた柊は、大きく鉈を振り上げた。
- Re: 『異常』-『先輩』 ( No.6 )
- 日時: 2012/03/16 01:41
- 名前: 音式 (ID: Rts1yFTc)
「ああっ、ちょっと待って下さい。」
柊の鉈が頂点まで振り上げられたその時、先輩が何か思い付いたかのように、一旦柊を止めた。
「なんだ?」
柊は鉈を振り上げたまま首を曲げ、先輩の顔を見た。途中で止められたから、機嫌が悪い声だった。
「俺の手が欲しいってことは、俺以外の手には興味がないと捉えてもよろしいんですかね?」
自分の両手が危ないというのに先輩は実にどうでもよい質問をした。
「ああ、君の手だけが欲しかったんだ。」
首を頷きながら、柊が答えた。
「何故、俺の手が欲しいのですか?野郎の手ですよ?」
先輩は柊に問い続けた。
すると、柊は視線を先輩の両手に戻し、少し考えた後にこう言った。
「君の手が特別な物に見えるんだ。穢れなく美しい、まるで聖母マリアの手の様に。そしてどうしてもそれが欲しかったんだ。君と初めて出会った時からずっと…。」
「そう…ですか。」
先輩のその言葉は、何となく切ない感じがした。
ほどなくして、柊が口を開いた。
「それじゃあ、切るよ。」
「ええ、どうぞ。」
先輩はあっさりと言う。
鉈を振り上げた状態で停止していた柊の右手が、ピクッと少し作動した。
「言い忘れたことがあった。………手を譲ってくれて『ありがとう』」
柊は先輩に礼を言うと、右手を勢いよく先輩の手首を目掛けて振り落とした。
工場内には、僕が今まで聞いたことがないほど不快で酷く鈍い音が響き渡った。
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