ダーク・ファンタジー小説
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- kako telos ... The Memories
- 日時: 2016/09/08 04:15
- 名前: Laicy (ID: icsx9rvy)
kako telos
age of megaleo
本編では語られなかった、過去の記憶
すべての元凶
そしてすべての真実
- The sin of Lepida ( No.2 )
- 日時: 2016/10/03 14:24
- 名前: Laicy (ID: icsx9rvy)
成人式まで時間がない。
期待のされない、実績の少ない、…
そんな私がどうすれば
王の座を勝ち取ることができる?
何か父上が喜ぶもの、か…
逆に父上が嫌がる、嫌っているものは何だろうか。
「そういえば、また黒の民が目撃されたそうよ。
この国の端の工場町あたりですって。」
「やだ…近頃多いですねわね…怖いわ…」
「また何かやろうとでもしてるんじゃない?
カッターラの夜以来よ……物騒ね。」
召使いたちの噂話は実に面白いと思う。
どこから情報を仕入れてくるのか、
わからないが、有力で的確な情報ばかり拾い集めてくる。
黒の民…カッターラか
そうか、この手があったな。
彼らのおかげで私は”王”になれそうだ。
…………
私はすぐに自分の従者を呼んだ。
「アプロティタ、出るぞ。」
「こんなに朝早く…
レピーダ様、どこへ向かうおつもりですか?」
「少しな…
この国の端の方に、
この国の一番の工場町があるだろう?
この国の経済発展の地を
この目で視察したいのだが。」
「……レピーダ王子…!
王からのお許しは…?」
私の従者、アプロティタは誠実で従順な男だった。
そんな彼は私にとって唯一、
信頼を寄せることの出来る人物だった。
「…父上を驚かせたいんだ。もうすぐ成人式だろう?
自分でこの国をしっかり見ておきたいんだ。」
王族のしきたりでは成人する前に
城外へ出ることは禁止されている。
アプロティタは反対するだろう…
そう思っていた。
「そうですね…!レピーダ様、このことは秘密にしておきましょう。すぐ仕度してまいります!」
アプロティタは私が生まれた時から一緒だった。
親友よりも深い、信頼関係がある彼が
私の企みに気づかないわけがなかった。
(コンコン
「準備ができました。」
「ああ。すぐ向かう。」
…………
私たちは長い時間をかけて国の隅までやってきた。
空気は重苦しく息がつまるような鉄の匂いがしていて、
辺り一面に薄黒い霧のような蒸気が常に漂っている。
響き渡るような重機の音や機械音が重なり合って騒音になる。
私はこの場所についてから、
ただひたすらに黒い翼を持つ者を探した。
「あやつらさえ見つかれば…」
少し遠くの方で
アプロティタが何か言っているような気がした。
騒音でよく聞こえない。
「アプロティタ?どこにいる?」
辺りを一周すると、
アプロティタが物陰でそっと何かを見つめていた。
息を殺し、アプロティタの横へ移動する。
私は驚きを隠せなかった。
そこにはマントで半分くらいは隠れているが、
真っ黒な翼が揺らめいていた。
大きな荷物を抱え、早足で裏道をかけて行く。
彼は私にマントを差し出して、
「後をつけましょう。」 と私に小さく囁いた。
。。。。。。。。。。。
道とも呼べないような場所を通り続けて、
ようやくたどり着いた場所は地下への入口だった。
人一人通れるか、通れないかの小さな洞窟。
その先には長い地下への石の階段があった。
この下に皆で肩を寄せ合い、
隠れて生きてきたのだろう…
「アプロティタ」
「わかっております。
そのために剣を二本お持ちしましたゆえ」
「さすが私の従者だ。」
アプロティタは私の顔を見るだけで
何となく言いたい事ががわかるという。
だからこそ、私たちの間には
余計な会話はいらなかった。
できるだけ音を立てないように階段を下る。
マントのでせいでとても降りにくい。
(カツ…カツ…
「メガレオ王様の一番嫌いなもの…
それは国民を何千年も不安にさせてきた存在。
不幸や病の象徴…、カッターラ。」
「父上は『”再びカッターラが現れた”という噂のせいで、
国民の生活に支障が出ている。どうか、カッターラ退治をしてほしい』
と多くの国民から依頼があったそうだ。
カッターラはさっぱり見つからず、気が立っていらっしゃった。
まぁ。今もだが。」
(カツカツカツ…
「それをレピーダ様が退治なされれば…」
ひらひらとアプロティタの黒いマントがはためく。
「一人も逃すな。全員、始末だ。」
やっと一番下まで着く。
「さぁ、行くぞ。
カッターラには
私が王になるために死んでもらおう。」
- The revenge of Lepida ( No.3 )
- 日時: 2016/11/13 01:41
- 名前: Laicy (ID: icsx9rvy)
一人も逃すことなく……始末した。
私たちはそこまで手こずることなく、
この計画を終えることができた。
こう見えても、
アプロティタは剣の指導者だったこともあるくらい
剣の使いには長けていた。
私も兄上たちほどではないが、
センスはあった。
……
逃げようと、泣き叫び、助けを乞う人。
神に祈り、救いの手を求める人。
私を睨みつけ、反抗しようとする人。
私たちに戦いを挑み、切られる人。
……
剣が赤く、鉄臭くなった。
彼らは、こういう運命だったのだ。
生物はいつか死ぬものだ。
それが少し早まっただけのこと。
私は他を殺してしまった、
大量虐殺をしてしまった、という
”罪”の意識は完全に麻痺していた。
この時は特に気にも留めなかった。
………
この後はすぐに城へ連絡を取った。
そして私たちは「英雄」として、帰ることとなる。
国の民や、城の召使いたち、
そして父上も、誰も彼もが手の平を返したように
私をたたえ、褒め殺すような態度を取った。
「さすがレピーダ様だわ!」
「昔から彼の方なら、
何か偉業を成し遂げてくださる方だと信じていたよ。」
「ずっとお前に王の素質を感じていた。
さすが我が息子だ、レピーダ!」
さらに、追い打ちをかけるように、
アプロティタは全国民の前で語った。
「あの洞窟に隠れていたカッターラたちは、なんと!
メガレオ王の暗殺を企み、実行に移そうとしていたのです!
それをここにいらっしゃる、レピーダ様が気づき、
お命を守るために、
あやつらを全員を消し去ったのです!」
レピーダ様ーー!、と
市民からの悲鳴のような歓声が湧き上がる。
アプロティタと私以外、
あの現場にいなかったため、
なにを言っても、どんな説明をしても、
「嘘」か「真実」かの真偽はわからないのだ。
英雄には英雄らしい話が似合う、と
アプロティタと私は英雄話を作り出す。
話なんてそんなものだろう?
私は正しいことをしたのだ。
「王」になれば、全て許されるんだろう?
。。。。。
そして私の成人式の日がやってきた。
父上は、私の功績を大いにたたえ、
「王」の座を私に譲ることを国民に発表した。
事前に発表されていたとはいえ、
大きな歓声が響き渡った。
「レピーダよ。お前の勇気ある行動力、
そしてこの私を…この国を、
カッターラから救ったと言っても、過言ではない。
全国民も、私もお前の即位に納得しているのだ。
勇気の光る行動力のある王、
「光王レピーダ」として、
王に即位することを命ずる。」
私はこの時を待っていたのだ。
しかしこれ以降、
兄上たちからひどく恨まれることとなってしまったが。
私の勝ちなのだ。
負け犬はそこで黙って見てればいい。
だが、彼女との出会いが
私と私の人生の全てを変えた。
- The regret of Lepida ( No.4 )
- 日時: 2016/12/03 02:43
- 名前: Laicy (ID: icsx9rvy)
私は王に即位してから数十年間、
国民の期待に応えるように、英雄らしく
勇ましい王を演じた。
もちろん、裏では…
邪魔な兄上たちを、”ただの貴族”とし、
王宮の隅へと移動させた。
彼らに王になれなかった
負け犬としてのレッテルを貼り付け、
今までしてきたことの償いとして、
私の下で働かせた。
父上がいらっしゃるので、
これ以上はできないが…
これ以上の屈辱は無いというくらいに
潰してやった。
。。。。。。。。
そんなある日、私はある召使いと
廊下でぶつかってしまった。
考え事をしていて
ふらふら歩いていた私を気にかけて、
声をかけてくれようとしていたらしい。
潔白の翼を持った、美しい金髪の女性だった。
「ひゃっ…
もっ申し訳ございません、レピーダ王様!
お怪我はございませんか?」
「問題はない。君の方こそ、大丈夫か?
君の方が派手にこけただろう
足を捻ったのではないか?」
「おっお恥ずかしい姿を……」
彼女は案の定、足を捻ってしまっていた。
王宮内では飛行禁止のため、
徒歩以外、移動手段がないのだ。
私は彼女を抱きかかえ、
医務室へ行こうとした。
彼女は恥ずかしがり、
おろしてください、と暴れた。
王の命令だ、
少しの辛抱だ、というと
小さな声で「はい」と言い、
静かに私にお礼を述べた。
これが、私とプラオティータの出会いだった。
私は彼女を医務室に連れて行って数日後、
彼女の名前を聞き忘れたことを
ふと思い出した。
きっと私は彼女に一目惚れしていたんだろう。
私はいてもたっても居られず、
アプロティタにすぐに調べさせた。
「レピーダ様が言っておられるのは、
きっと彼女のことだと思われます。
”プラオティータ”という方で、
王宮のナーサリー施設で働いておられますよ。」
アプロティタは微笑み、
今の時間帯ならおられますよ、と呟いた。
私は慌てて、彼女の職場へ向かい、
彼女本人から名前を聞き、
あれから足は大丈夫か、
どういった仕事をしているのか…など
たわいのない話を永遠と話した。
そしてそれが毎週の日課となり…
毎日の日課となり…
彼女から私の方へ訪れることも増えた。
彼女の無邪気な笑顔は
私を照らしてくれる太陽になった。
ただ、彼女の優しさに触れていく中で、
私は自分の背負っている罪が
どれだけ重いものなのかを知った。
自分がどれだけの人を残虐的に殺し、
身内でさえ、これでもかというほど惨めな目に合わせる冷酷さ。
王になったからにはこの罪全てが
許されたものだと思っていた。
後悔と懺悔の狭間で私は揺れていた。
私のしたことは自分のためだけに行った殺人だ。
彼女はこんな私を受け入れてはくれないだろう…
でも、彼女に全てを打ち明けることにした。
プラオティータには知っておいて欲しかった。
私は君の信じているような
美しく、勇ましい、英雄ではないことを。
- The feeling of Praotita ( No.5 )
- 日時: 2016/12/30 04:46
- 名前: Laicy (ID: icsx9rvy)
私は…
生まれた時から、
体のとても弱い子供でした。
すぐ病にかかり、
外へ出ればすぐに貧血で倒れるような、
害にしかならない子供でした。
普通だったら、
お金のかかる、いらない子となったでしょう。
私、『プラオティータ』は
ただ一つだけ、私には特別な事がありました。
私の家族は大変貧乏な、蒼色の翼の家系でした。
この国では白い翼を持てば、
何不自由なく暮らせますが、
それ以外の色の羽は意味を持ちませんでした。
ですが、私は駆け落ちをしたという、
オウラーノの祖父の血が色濃く反映して、
家族で唯一の…
真っ白な美しい翼を授かりました。
家族は私をまるで家宝のように、
周りの方達も、割れ物に触れるかのように、
私の機嫌を取り、
私に美しい、高価なものを着せました。
自分たちの食べるものや、着るもの、
娯楽品を全てを私を着飾らせるために使いました。
「あなたは、そこに座っていなさい。
それだけで、私たちはお金が入るのよ」
お母さん、私は人形じゃないの、
そう言いたかったのですが、
つぎ込んでもらった莫大な医療費や
私のためだけの装飾品の数々……
何も言えませんでした。
ただひたすら、周りに笑顔を振りまき、
両親や周りの顔色を伺う日々を過ごしました。
私には一人、妹がいました。
美しく深い蒼色の彼女の翼は、
どうして価値を持たないのでしょう。
彼女のサファイアの様な
美しい翼は私に勝る美しさなのに。
家族は彼女に目もくれませんでした。
幼い頃は翼の色など気にせず、
あんなに仲が良かったのに…
彼女はいつから私に話しかけなくなってしまったのでしょうか。
彼女はいつから私と目を合わせてくれなくなったのでしょうか。
彼女はいつから……
私を恨むようになったのでしょうか。
周りにもてはやされている美しい白い翼の姉に対し、
妹はどうして白い翼ではないのか、と
面白半分や興味の目で見られ、からかわれる妹。
彼女が苦しんでいるのを知っていながら私は…
彼女に恨まれるなら本望でした。
。。。。。。。。
こんな貧相な街に、似つかわしくない、
私の美しい大きな白い翼は、
家族にとっての大きな収入源になりました。
隣町から見にくる方や、
幸運と幸せの象徴の白にちなみ、
幸運があるようにと私にお金をおいていく方、
妻にならないか、と豪華な装飾品や
莫大なお金をおいていく貴族の方さえ現れました。
白い翼を持つ、というだけで
この国では全てにおいて優遇されるのです。
なんて皮肉なんでしょう。
日が経つごとに自分の翼が憎くて…
憎くて、たまりませんでした。
。。。。。。。。
そんな、ある時、
王宮で働かないか、と声がかかりました。
家族は収入源が無くなる、と
初めは激しく反対していました。
しかし、王宮の使いの方が
一定の期間ごとに、
家族支援のお金が出ますよ、
と言った途端に態度を翻しました。
結果、
私は売られました。
体の弱い私がいなくなれば、
家族の生活も楽になるでしょう。
お金ばかりに
こだわるようになってしまった両親を、
もう見たくありませんでした。
「プラオティータ、
あなたさえ王宮に行けば…
私たち、家族は幸せにやっていけるわ。」
母はにこやかに私の手を取り、微笑みました。
「早く契約書を書きなさい。
お前が王宮で働くのはもう決まったんだ。
達者でな。体と翼に怪我のない様にな。」
父も、母同様、私にすぐ出ていけとせがみました。
さらに追い討ちをかけるように
私が出ていくと決まった時の妹の笑顔。
何十年ぶりでしょうか。
私がそんなに嫌いだったのですね。
そうですよね、
こんな姉は憎いでしょう。
私はそれからすぐに王宮へ向かい
妹に…
死ぬ直前まで会いませんでした。
家族はお金の亡者と化し、
妹に恨まれた私には…
王宮以外に居場所を失いました。
家を出るときに、愛す人を失い、
悲しみと寂しさで
押しつぶされそうになっていたのを
今でも鮮明に覚えています。
・・・・・・・・・
王宮は私と同じような
白に近い羽色を持つ人しか
働くことを許されていません。
私はそこでやっと生きる意味を
見つけることができました。
心の広い先輩方や優しい環境に恵まれ、
私の体調も心も、順調に回復しました。
初めて…
白い翼を持って生まれてよかった、と思えました。
私が王宮入りして数年、
第二王子のシグノーミ様の成人式が
執り行われました。
そこで、私は初めて、
第3王子のレピーダ様をお見かけしました。
凛とした顔立ちで、薄い茶色の髪を風になびかせ、
大きな白い翼を広げて、美しい橙色の目で
遠くを睨んでらっしゃいました。
どうしてでしょう。
私のかつて味わったことのある…
「悲しさ」と「寂しさ」が
レピーダ様から感じ取れました。
ああ…、
生まれ故郷にいた頃の私と同じなのですね…、
家族からは一員とみなされず、
言いたいことも言えず、
自分を見てくれる人がいない、
自分の居場所がない、
虚しい気持ち。
その日から、私はレピーダ様を
目で追うようになってしまいました。
(きっと私はいわゆる、
「一目惚れ」していたのかもしれません。)
随分勝手ながら、
自分なら、彼の心を癒してあげられる…
そう考えていました。
召使いたちの間で、
お父上であらせられる、メガレオ王様から
レピーダ様は期待されていない
「かわいそうな」王子
だと言われていると知った時は
大変なショックと怒りを感じました。
勝手に人を決めつけて…!
きっとあのお方なら
私の考えもしないことを
やってくださるでしょう。
私は一人、
心を焦がしている、レピーダ様に
期待を寄せていました。
そして…
彼はしばらくして、
国を救った救世主、
英雄として王都に帰ってまいりました。
- The faith of Praotita ( No.6 )
- 日時: 2017/05/18 02:24
- 名前: Laicy (ID: icsx9rvy)
英雄王として帰ってきたレピーダ様は
何かを勝ち取った、してやった、という様な顔つきで
あの時とは打って変わって、
自信に満ち溢れ、輝く様な眩しい眼差しをしていらっしゃいました。
そんなあのお方は
私には国を救った方には見えませんでした。
ずっと彼を見つめ続けていた私は
直ちにレピーダ様の話の「嘘」を感じ取っていました。
それでも私はあのお方をお慕いしておりました。
きっと何か理由があるに違いありません。
兄上様たちからひどい仕打ちを受けていらっしゃることは
この城で知らなぬ者はおりません。
レピーダ様もしびれを切らしてもおかしくありませんし…
少しくらい仕返しをしたっていいと思いました。
それに…
今日の英雄の帰還のパレードで、
あの方があそこまで嬉しそうになさっているのを
私はこの目で初めて見ました。
いつもこの世界の闇を見据えた様に、
どこか影を落としていたレピーダ様の瞳には
本日は一切の迷いや暗闇は無く、
美しい太陽の様な橙色に輝いていました。
この事件のおかげで、
彼は光を取り戻すことができたのですから
きっとこの嘘はレピーダ様の幸せに必要なものだったのでしょう。
嘘が悪いものとは限りません。
。。。。。。。。
レピーダ様は
召使いの間では、冷酷、非道、残酷、狂人になった「かわいそうな」王子
なんて呼ばれていました。
この英雄の伝説的な事件の効果は絶大で、
たった数日で、国民から王族や貴族、
全ての者が口を揃えて、「英雄王」や「光王」とレピーダ様を呼びました。
彼のことをやっとみんなが認めてくれた!
私は自分のことの様に嬉しくて、一人喜びました。
レピーダ様が王になられてからも、
変わることなく、宝石の様な眼差しと
明るい笑顔でお話しされているところを廊下で見て、
一人、心から安堵しました。
________
あれから数十年、レピーダ王様は
国民の期待に応える素晴らしく、勇ましい王様として、
このお国を支えてらっしゃいました。
私も変わらず、王宮のナーサリー施設で働いていました。
貴族の方々のご子孫を預かるこの仕事は
子供が大好きな私には天職で、私はこの命尽きるまで、
大好きな子供たちと、…レピーダ様と王宮にいたいと願っていました。
そんなある日でした。
ナーサリーへ行こうと廊下を歩いていると、
考え事をなさっているのか、向こうから
ふらふらと歩いてらっしゃるレピーダ様が見えました。
おぼつかない足取りで歩いていらっしゃったので、
一言、「大丈夫ですか」と声をかけようとしたのですが…
いつも遠くから見ていたレピーダ様が目の前に…
と嬉しさと照れで頭がパニックになってしまい、
結果、レピーダ様にぶつかってしまいました。
「ひゃっ…
もっ申し訳ございません、レピーダ王様!
お怪我はございませんか?」
なんて失態… どうしましょう…
レピーダ様にぶつかってしまった上に、
自分の方が盛大にこけてしまいました。
レピーダ様は少し微笑んでから、
私に手を差し伸べてくださいました。
「問題はない。君の方こそ、大丈夫か?
君の方が派手にこけただろう
足を捻ったのではないか?」
「おっお恥ずかしい姿を……」
恥ずかしくて、すぐ手を取り立ち上がろうとすると、
左足に鋭い痛みが走りました。
もともと体が弱かった私は怪我など慣れていたのですが、
レピーダ様は私に気を使い、
抱き上げて、医務室へ行くとおっしゃいました。
私のためなんかにレピーダ様のお時間を取るわけにも行きませんし、
恥ずかしくて、本当に顔から火が出るのではないかと思うほどでした。
少し嬉しい…と思ってしまった自分がいましたが、
私なんかがレピーダ様と一緒にいるせいで、
誰かレピーダ様の悪い噂を流す可能性だってあります。
自分で医務室くらいは行ける、と考えて
おろしてください、と少し暴れました。
そんな私をレピーダ様は、
「王の命令だ、といえば良いかい?
医務室まで少しの辛抱だ。
それに、ぶつかったのは私がぼーっとしてしまったからだ…
すまないな。」
と私を医務室まで抱きかかえて行く、
と言って聞いてくださいませんでした。
小さく私がはい、と了承すると、
レピーダ様は少し嬉しそうに
「ありがとう」とおっしゃり、すぐに医務室まで
連れて行ってくださいました。
医務室でのことはあまり覚えていません。
怪我は大したことなかったというのは覚えていますが…
レピーダ様に抱っこされた、ということが衝撃すぎて、
嬉しすぎて…私はその日の仕事がままならないくらいでした。
きっとレピーダ様は私のことをただの召使いとして
覚えていらっしゃらないでしょう。
それでも、私は一人、密かにお近づきになれたのでは…
と期待していました。
私が医務室でお世話になってから数日後、
足の痛みはすっかり消えていました。
レピーダ様に抱き上げられたことが
私の仕事へのやる気を以前よりも高める糧となりました。
神様が私にあんな幸運を運んできてくださったのだから、
私は自分の仕事やお国のために尽くさねばならないと感じていました。
そんな中、レピーダ王様が私を訪ねて、ナーサリーを訪れました。
私だけでなく、仕事仲間、子供達も驚き、
王様がいらっしゃるなんて何事かと、皆私を冷やかしました。
ナーサリーの仕事長さんの計らいで、
個室に移動した私たちは、ゆっくり話を始めました。
レピーダ様は名前を聞き忘れたと思ってね、と
照れくさそうに私に名前を問いかけました。
「プラオティータ、と言います。
この間はどうも失礼いたしました…
医務室まで運んでいただき、ありがとうございました」
私もつられて照れながら、この間のお礼を言いました。
あれから足の怪我は大丈夫なのか、という話や、
仕事のこと、たわいのない話をして、
楽しい時間を過ごしました。
「久しぶりにすごく楽しかったよ、プラオティータ。
また来週…
君と会いたいのだが
時間はあるかい?」
「この日の夕日の沈む時間でしたら、
仕事も終わっているので問題はありません。
その…私なんかでよければ……」
来週が楽しみだ、と言って
微笑んでくださったあの方の笑顔は
今でも思い出すことができます。
それほど、私も会えることが
楽しみでした。
そんなやり取りがあって、
毎週会うようになりました。
毎週その時間が楽しみで、
同僚からも進展はないのかと冷やかされました。
毎週から毎日になり、
私がレピーダ様の元へ行くこともありました。
レピーダ様と一緒に話しをさせていただくというだけで幸せなのに、
毎日、お顔を見てから仕事に行ける…
幸せと嬉しさが滲み出ている、と同僚に言われてしまうほど、
私は幸福に浸かった毎日を過ごしていました。
ただ時々、レピーダ様が曇った苦い顔をされるのが気がかりでした。
どうかされましたか、
と聞いても苦く笑い、
いつか話す…
とだけ返すのみでした。
しかし、レピーダ様が私を彼の部屋へ呼び出した日、
レピーダ様は私に、
聞いてもらえないか
…君だけには話しておきたい
とおっしゃって、
英雄の偽りの真実を語り始めました。
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