ダーク・ファンタジー小説
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- 正義の殺し屋
- 日時: 2016/12/21 19:43
- 名前: 北風 (ID: rk41/cF2)
北風です。
質問やコメ、アドバイス等大歓迎です。
超絶不定期更新ですが、宜しくお願いします。
- Re: 正義の殺し屋 ( No.3 )
- 日時: 2016/12/21 19:48
- 名前: 北風 (ID: rk41/cF2)
彼の事はあなた方もよく知っていますよね。
自分の実兄、灯です。
彼の中学校はその日午前授業で、下校の最中に自分に遭遇しました。
灯は当時中学2年生。
自分とは結構年の離れている兄でしたが、仲が良く毎日一緒に遊んでばかりいました。
灯も自分と同じく──いえ自分以上に、異常な人間性の持ち主でした。
かつ頭もよく切れた人でしたので、恐らく自分の才能や異質さも薄々感じ取っていたのでしょう。
血塗れた自分の姿を見て咄嗟に何が起きたのか把握したようで、彼の着ていた学ランを自分に羽織らせてくれました。
そして自分達は足早に帰宅し、制服の汚れを念入りに落としてナイフを捨て、証拠隠滅を図りました。
今から思うと稚拙な隠滅でした。
もし警察が自分を疑ったら一発でバレてしまうことは明らかでした。
ですがバレることはありませんでした。
まず疑われることが無かったのですから。
自分は4時間目終了直後に具合が悪くなって早退した事にしました。
それを証明する教員も両親も居ないのですし、誰もそれに疑問を唱える人は居ませんでした。
……まあ両親が学校に来ていた事と、女生徒が一人だけ裏庭で殺されていた件について全く疑問を持つ捜査員が居なかったと言ってしまったら嘘になってしまうのですが。
やはり年齢のお陰でしょうか。
上手く誤魔化したら納得してくれました。
それから自分と灯は施設に入りました。
灯は親を殺されて、さぞ自分を憎んでいるだろうと思いましたが、実際はそんなことはありませんでした。
自分が涙ながらに灯に謝ると、彼は笑って許してくれました。
その笑顔はむしろ両親の死を喜んでいるようにも見えました。
- Re: 正義の殺し屋 ( No.4 )
- 日時: 2016/12/21 19:48
- 名前: 北風 (ID: rk41/cF2)
自分達が入った施設は『林檎園』という児童養護施設で──あ、すみません。
分かってますよね。
じゃあ、あなた方がご存じ無いであろう事をお話ししましょう。
まず交友関係からですね。
こんな自分にも友達は居ましたよ。
山岡小冴という11歳の女子が一番の親友でした。
彼女は自分と同様に悪を許さない人間でした。
その上優しく容姿にも恵まれているためか、彼女はとても人望がありました。
自分もまた同様に、彼女に惹かれた人間の一人でした。
当時は気付いていませんでしたが、それは親愛というよりも崇拝に近い感情でした。
私は彼女を絶対的な正義と信じ、崇めていたのです。
『小冴ちゃんのやる事は全て正しい』
『小冴ちゃんが悪い事なんてする筈がない』
ずっとそう思っていました。
…………そんな自分にとって、あの出来事は衝撃的でした。
- Re: 正義の殺し屋 ( No.5 )
- 日時: 2017/04/16 13:53
- 名前: 北風 (ID: cr2RWSVy)
side茉雪
ぼくは実に変な人間だ。
確かに人間の母胎から生まれてきたのにも関わらず、存在が幽霊の様にふわふわしている。
そのため、産まれたときから他人に迷惑をかけ続けてきた。
どうやら大抵の人はぼくを長く記憶しておくことが出来ないようなのだ。
一度ぼくから視線をそらした人は、もうぼくの顔はおろか名前すら覚えていない。
存在ごと忘れられてしまう事もざらにあった。
それは親兄弟も例外ではなく、ぼくはしょっちゅう御飯を作り忘れられた。
その日もそうだった。
学校から帰ってきたぼくは、疲れていて部屋に入るとすぐ眠ってしまったのだ。
起きたら午後9時。
いつもなら夕飯はもう食べ終わっている頃なので、起こして貰えなかったという事は、きっとまたぼくは忘れられたのだろう。
そう思ったぼくはがっかりしてリビングに向かった。
皆、死んでいた。
リビングの真ん中に設置された机の上に、腹部から血を流した母さんが覆い被さるように倒れていた。
母さんの体の下には、冷めきり血液に浸った夕御飯が散乱している。
茶碗に盛り付けられていたであろう白米は、血の池にお粥のように浮かび、水分を吸って肥大化していた。
焼き魚の香ばしい香りと、妙に甘ったるい鉄の香りが混じり合って、初めて嗅ぐ香りとなっていた。
ぼうっとその光景を眺めながらぼくは、ああ、折角のご飯が勿体ないな、と思ったのを覚えている。
視線を足元に向けると、姉さんと弟が重なりあって息絶えていた。
姉さんはうなじから首の前に向けて大きく切りつけられていて、血が大量に吹き出していた。
ふと背後に気配を感じて振り向くと、そこには父さんが立っていた。
顔は血の気が引けていて、目を見開いてこちらを見ている。
「父さん……?」
ぼくが近づいて父さんの体に触れると、父さんは大量の血を吐き出して横向きに倒れた。
そして、父さんが立っていた位置に、一人の人間が立っていた。
身長は170㎝足らず。
全身を紺色のレインコートで包んでいる。
「…………」
その人は返り血で赤く染まった顔でぼくを見た。
中性的で整った顔立ちだ。
それ故に感じる気味の悪さが、じわりとぼくを蝕んだ。
「…………っ」
恐怖で息が詰まる。
いつの間にかぼくの体は震えていた。
その人とぼくの間に沈黙が落ちる。
「…………」
「…………」
「あ、の……」
その内にぼくは耐えられなくなり、震える唇を開いた。
「ぼく、も、殺すんです……か……?」
的外れな事を聞いてしまったのは分かる。
今すべきなのは、命乞いや家族を殺された事への怒りや悲しみを叫んだりする事だ。
もしくは逃げる事。
だが、混乱している頭は正常に動いてはくれず、ぼくは言葉を紡ぎ続けた。
「なんで、殺すんですか……?」
ぼくの問いに対し、その人は数秒間黙り込むと、ゆっくりと口を開いた。
「あなたは、まだ殺しません。あの人達を殺したのは…………悪い事をしたからです」
「!……?」
「この方達は、正義である自分を拒絶しました。正義を否定するのは、悪です」
「……?」
言っている意味がよく分からない。
震えながらもその人を見上げ、浅く速い呼吸を繰り返す。
「あなたにお願いがあります」
「っ!」
喉がひゅっと鳴る。
お願い?
殺人犯が?
「……自分は、今とてもお腹が空いています。何か食べ物を頂けますか?」
- Re: 正義の殺し屋 ( No.6 )
- 日時: 2017/02/03 21:13
- 名前: 北風 (ID: rk41/cF2)
「美味しかったです。有り難う御座いました」
その人はぼくが納戸から持ってきたパンを食べ終わると、深々と礼をして薄く笑みを浮かべた。
ぼくはまだ震えている体を摩り、
「そうですか……」
と辛うじて口にした。
まじまじとその人の顔を見詰めてみたが、相変わらず性別は謀れない。
胸元まで伸び、頭の下で束ねられたさらさらの茶髪に、白い肌、大きな目。
綺麗な人だという事は分かるのだが……。
すると、その人はぼくの視線に気付いたらしく、徐に立ち上がりぼくに一歩近付いた。
にこりと目を細め、身を屈めてぼくに顔を近付ける。
「食べ物を頂いたのに名乗らないのは恩義に反しますね」
「……」
ああ、名乗ろうとしてくれているのか。
やっと理解する。
でもこの人の名前から性別が分かるかもしれない。
それほどこの人に興味があるわけでは無いが、気にはなる。
それにこの人が男性だった場合、ぼくはこんな風に綺麗な顔を近付けられてドキドキする必要も無くなる。
「本名は失礼ですが伏せさせていただきます。私の名前は──狩悪」
「かる、あ?」
脳内で咄嗟に漢字に変換できず、間抜けなおうむ返しで応じる。
「悪を狩る……狩る悪と書いて狩悪です」
狩悪。
何となく聞き覚えがある気がして、ぼくは黙り込む。
だが数秒の思考の下、導き出された答えは『気のせい』だった。
全く、使えない頭だ。
「ぼくは茉雪です」
名乗り返さないのは悪いと思い、ぼくは狩悪さんに自分の名前を告げた。
「名字が茉雪。名前は覚えてません」
余りにも周囲の人間に忘れられるので、いつしかぼく自身も忘れてしまったのだ。
特に不自由した事は無いが、初対面の人にこう名乗ると怪訝な顔をされる。
だからいつもは適当な偽名で乗り切っているのだが、狩悪さんには必要ないだろう。
「茉雪くん……ですか」
「はい」
「茉雪くん……君は、変わっていますね」
「?」
変わっている、とは?
どうせ名前を覚えていない事に対してだろう、と思い、狩悪さんの次の言葉を待つ。
だが、その口から発せられた言葉は、予想外のものだった。
「君は…………もう怖くないんですか?」
?
??
ああ、狩悪さんの事が?
何を言っているんだろう。
相手は殺人犯だぞ?
怖くない筈が……
「あ」
と、そこで初めて、ぼくは気が付いた。
いつの間にか体の震えが完全に止まっている事に。
震えどころか、恐怖という感情自体が心から消え去っているという事に。
- Re: 正義の殺し屋 ( No.7 )
- 日時: 2017/02/03 21:10
- 名前: 北風 (ID: rk41/cF2)
数分後。
ぼくは床に作られた大量の血溜まりを丁寧に雑巾で拭っていた。
何度を洗い絞っても、雑巾は血の上に置くだけで血をみるみる吸い取り、すぐにまた洗わなくてはならなくなった。
「ふぅ……」
冬だというのに汗をかいてきた。
証拠隠滅って結構な重労働だな。
まあ、本当に大変なのはあっちだろうけど……。
ぼくはちらりと視線をテーブルに向ける。
そこでは狩悪さんが出刃包丁で母さんを捌いていた。
刃の持ち手側を机に付け、切っ先を腕の間接部分に当てた。
──ドン
梃子の原理。
この前学校で習った。
教科書で説明されてもよく解らなかったが、実際にこうして使っている所を見るとよく解る。
四十年間ずっと壊れずくっついていた腕が足が、頭が、こんなにも簡単に外れるとは。
凄い。
疲れていたこともあり、ぼくは暫し掃除の手を止めて狩悪さんの作業に見入っていた。
すると狩悪さんはぼくの視線に気付いたらしく、こちらを向いた。
やはり解体には体力を使うらしく、狩悪さんの額にも汗が滲んでいる。
「どうしました?」
「あ、いえ……人を切るの巧いなあと思って……」
考えていた事をそのまま口に出しただけなのに、それを聞いた狩悪さんは何故か口許を綻ばせた。
「くふふ……君は本当に変わってますね」
「……?」
「この方、貴方のお母様でしょう? 目の前でバラバラにされているのに、何とも思わないんですね」
「……」
そう言えばそうだな。
母さんの事は好きだったのに、死んでも特に悲しくはならない。
それは多分、母さんと会話を交わした記憶が余りにも少ないからだろう。
叱咤された事も談笑した事も無かったように思う。
だがそれを説明するのは非常に面倒だ。
どうせすぐに忘れるだろうし。
「……まあ……母とは色々あって……」
ぼくがそうはぐらかすと、狩悪さんは申し訳なさそうに目を伏せた。
「ああすみません……触れて欲しくはありませんでしたか」
「あ、いや、狩悪さんが思ってるような感じじゃ無いと思います。作業を止めてしまってごめんなさい……続けてください」
ぼくの言葉を聞いた狩悪さんは一瞬目を丸くすると、今度は耐えきれない様子で吹き出した。
「ふくっ……く……」
「? ……?」
解らないなあ……。
不思議な人だ。
そう思っていると、狩悪さんが笑いを含んだ優しい口調で言った。
「不思議な人ですね」
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