ダーク・ファンタジー小説
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- ヴァンパイア −紅の街−
- 日時: 2017/01/24 20:27
- 名前: 彼岸 (ID: 3i70snR8)
皆さんお久しぶりでございます。
2.3年程前に此方で小説を執筆しておりました、彼岸と申します。
以前書いていた「ヴァンパイア −紅の街−」ですが、今更読み直してみました所、誤字脱字のオンパレードに描写不足でとてもそのまま続けられる気がしませんでした。ですので今回、話の流れは変えずに加筆修正したものを上げたいと思います。
初めましての方、又は以前の執筆作業中に面識のある方、問わず大歓迎です。
拙文ではございますが、何卒宜しくお願い致します。
- Re: ヴァンパイア −紅の街− ( No.4 )
- 日時: 2017/01/23 20:47
- 名前: 彼岸 (ID: gK3tU2qa)
4.白
「お久しぶりです、淡海さん。」
「ええ雅さん、ご機嫌如何?」
「お陰様で。ところで、例のものの調子はどうです?」
「好調ですわ。今の所、不都合はございません。死んだ彼等の過去は、とても興味深いものですの。」
「お気に召してなによりです。」
- Re: ヴァンパイア −紅の街− ( No.5 )
- 日時: 2017/01/23 21:58
- 名前: 彼岸 (ID: gK3tU2qa)
5.桃
月明かりの下、シズクを失血死させた三人が歩いていた。その内のケイは、シズクの過去について思案している。紅の街のヴァンパイア達は、吸血によってその人の記憶や過去を共有する事が出来るのである。
「血、美味かったな。」
口に垂れた赤を乱暴に拭い、カイはほくそ笑む。三人の中で、一番血を吸うのはいつもカイだ。
「死んじゃった子って、可愛くないんだよなぁ。」
溜息を吐きながら、ケイは一人呟いた。淡い月が、彼の美貌を際立たせる。
「まだターゲットの事ですか。まぁ、悪くはない味でしたが。」
二人と目を合わせる事なく、眼鏡のブリッジを上げた。
「あの子ってさ…」
ケイの口を突いて出た少しの言葉から、他の二人は悟ったらしい。
「ええ、真面な家庭で育っていませんね。可哀想な人生、とでも言うべきものでしょうか。」
「ったく、胸糞悪りいったらねぇな。ま、俺は血が飲めりゃ良いんだけどよ。」
会話を続ける二人の隣で、ケイは考えていた。シズクと言う少女の事を。そして、自分達の過去の事を。
まるで。
「過去の僕達みたいだ。」
咲き誇る月へ、ケイは吐き捨てた。笑って、嗤って。
瞑った目蓋の裏側には、いつもこびりつく一つの記憶がある。
- Re: ヴァンパイア −紅の街− ( No.6 )
- 日時: 2017/01/23 22:16
- 名前: 彼岸 (ID: gK3tU2qa)
6.緑 sideケイ
僕らが怪物に成り果てた日は、強く、雨が窓を叩く日だった。
「やっと…やっと完成だわ!」
歓喜に満ちた誰かの声に目を覚ました時、僕は薬臭い液に漬けられていた。理科室の匂い…多分ホルマリンとかだろうと思う。
ごぼごぼと気泡の上がり続ける緑の液体に身体が慣れてしまったのか、痛みも違和感も何も感じる事はなかった。僕が身につけているのは白いYシャツとスラックス、それとガスマスクな様なものだ。僕を取り巻くホルマリンに加え、身体には管が刺さっている。そこから絶え間なく得体の知れないものが流れ込んでいるらしかった。
僕が閉じ込められている円筒型のケースの前には、歓喜に喘ぐ男と女。それからすぐにケースは開き、僕は解放された。
ずっと使っていなかった足は案外正常に機能し、管の痕も残っていない。化け物になってしまったのだと、漠然と理解した。途端に動き出した脳が目の前の人間を殺せと伝えて来る。同時に、血に対する異常な迄の渇望と、飢餓感。
少し横を見れば、僕と同様にホルマリン漬けにされていたらしい二人が人間にふらふら近寄って行っている。
血を吸いたがる身体と、人間を保ちたがる心が乖離する。だが、本能に勝つ事は出来なかった。
口に広がる鉄の味に、人知れず興奮し、身体が歓喜する。一度口にして仕舞えば、もうやめる事など不可能だ。貪る本能が落ち着いた頃、人間は二人とも冷たくなって死んでいた。
「化け物同士、一緒に行動しないか?」
「…えぇ、構いませんよ。」
「良いぜ。」
僕が、化け物になった日。
- Re: ヴァンパイア −紅の街− ( No.7 )
- 日時: 2017/01/24 19:03
- 名前: 彼岸 (ID: 4mXaqJWJ)
7.銀 sideシズク
目が覚めた時、私は雪の降る暗闇の世界にいた。黒く暗い空間に白銀の雪が降る景色は綺麗だけれど、今はそれを素直に楽しむ事なんて出来なかった。
不安を煽る景色は、同時に懐かしみを覚える。私はこれを、一度…何度も見た事がある…?そうして少し考えてみると、どうして今まで忘れていたのかと思う程の、私の忌々しい記憶が溢れ出して来た。
****
「いやっ、お願い!出して!出して下さい!!」
「人間以下の分際で気安く話しかけんな!」
外は雪。風の吹き込むボロボロの物置に、私はかれこれ数日閉じ込められていた。手足には鎖。身につけているのは服と言えない様な布切れ。防寒なんて露程も果たさない代物だ。与えられるのは無駄な延命の為の水分だけで、食事には数日お目にかかっていない。だからお腹が空いた。そして何よりも、寒い。寒い。
死にそうだと思ってどれぐらい経っただろうか。身体が寒さを感じなくなったり、空腹を感じなくなる迄はきっともうそう遠くない筈。
申し訳程度の隙間から、母親は私を覗き込む。覗き込んで、嗤って、嘲笑って。私が人間以下だと言う。それなら、私を産んだお前は何なんだ。私は、こんなに辛い思いをしているのに。
何で。
何で。
「っ何でよおぉ!」
頭が冷えたのは、叫んでしまってからだった。まずいと、頭が警戒信号を出す。母親の機嫌を損ねてしまえば、私は。
「ッチ、うるっさいわね。罰の時間よ。」
物置から拘束を解いた私を出すと、腕を掴んで強引に歩き出した。私が震えているのは、恐怖からか、寒さからか。
「そこでゆっくり頭冷やしな!」
そう言って母親は、私を風呂場の湯船に張ってあつた真水の中に突き落とした。縮み上がる身体は、動かない。湯船から出たいと思っても、固まってしまうのだ。
「…ァ、さむ、いっ…!」
張り付いた喉が音を絞り出す。SOSを無論ながら聞き入れる事もせず、風呂場の外から、扉が開かない様にして去っていった母親。それどころか去る前、窓を全開にして行ったのだ。雪の多分に混ざる風が、私の体温をどんどん下げていく。
指が割れる様に痛んで、段々紫色になる。もう、意識を失ってしまいたかった。死んでしまいたかった。あの母親から、逃げたい。死んだら絶対に復讐してやる。何があっても。地獄に落ちても。
彼奴を、許さない。
ぼやけていく意識の中、私は最期まであの母親を恨み続けた。
- Re: ヴァンパイア −紅の街− ( No.8 )
- 日時: 2017/01/24 20:26
- 名前: 彼岸 (ID: 3i70snR8)
8.紺 sideシズク
此処、何処…?
孤独に座り込むと、より一層絶望が染み込んでくる気がした。こうして孤独になるのなら、まだあの母親といさせられる方が良かった。都合良く考えてしまう自分の愚かさに溜息が出る。馬鹿らしい事この上ない。一人は嫌だ。責任転嫁する事が出来なくなって、自分ばかりを追い詰めてしまうから。
『貴女、私達の街へ来ない?』
俯いていると、何処からか透き通る声が響き渡った。
「誰?」
『私の名前は紅玉。「紅の街」へ来れば、貴女の道を自ずと示してくれるわ。』
紅玉と名乗った彼女が何を言っているか、噛み砕いて理解する余裕などなかった。分かったのは、頷けば此処から出られるという事。…藁にも縋る思いだった。
「其処へ、行きます。」
『ふふっ、貴女の幸運を祈っているわ。』
その声を最後に、私の視界は白に包まれた。
目を開けると、見た事がない街。紅玉さんの言う通りだとすれば、恐らく此処が「紅の街」だ。…道は三本あって、何処へ進めば良いか到底分からない。
『貴女、此処へ来るのは初めてでしょう?』
藍玉さんに出会って、試験に落ちて、私は死んだ。ヴァンパイアの手によって、普通なら有り得ない二度目の死を経験した。
紅玉さんの言った道とは、二度目の死であったのだと思う。初めから決まりきっていた、運命の様なもの。
だからと言って、暗闇に閉じ込められるのは良い気分じゃない。
そういえば、私を殺したヴァンパイアは今頃どうしているのだろう。また人を殺しているかもしれない。今となってはそんな事どうでも良くて、大切なのは一つ。ヴァンパイア達が、酷く楽しそうであったという事。死後なら、私はどう生きても許される筈だ。それこそ母親に復讐しても、ヴァンパイア達みたいに人を殺しても良い。
十年以上抑え付けられた欲望は、ほんの一握りの努力如きで止められない。幸せに生きている人間が許せない。不幸にして、私と同じ所まで蹴落としてやりたい。歪んだ世界は楽しく見える。
私の周りを、狂気に笑うマリオネットが取り囲んだ。皆口々に、私を操ってと伝えてくる。宙を舞う糸を取ると、マリオネットが笑うのをやめた。今度は私の心に合わせて動く様になったのだ。
ああ、何て楽しい事だろう。
私は今日から操り師。
幸せな人間を蹴落とす劇をお見せ致しましょう。
『喜劇か悲劇かは貴方次第。』
シズク編終了
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