ダーク・ファンタジー小説

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あなたと私が刻む夏【ストラグルタブーサクリファイス感想ここで
日時: 2017/03/02 23:01
名前: 狂yuki (ID: bmJ5BkM0)

山に面した小さな村、深野村

1972年、夏

何もしなくても汗をかくほど、暑い。小学生がかけっこをしながら家に帰る。
「俺んち、カブトムシ捕まえて飼ってるんだ!」
「いいないいな、見てえな!おい、吉村んち行こうぜ!」
「よっしゃ、行こ行こ!」


その脇を、一人の孤独な女子高生が通る。
夏目 美夜子(なつめ みよこ)。
美しい艶のあるオレンジ色のロングヘア。とてもよく似た顔の妹が一人いる。
だが、その妹は美夜子のように塞ぎ込んだ性格ではない。誰とでも仲良くなれる。


それでもたった一人、帰り道に影を落とす美夜子に話しかけてくれる少年がいた。
神谷 霧人(かみや きりと)
少し長いくらいの黒髪。容姿は真面目だが、クラスの男子の中では一番親しみやすい。

「……霧人君。どうしたの?そんなに急いで…」
「…ぁああ…、追い付いた…。一人じゃ寂しいだろ、一緒に帰ろうぜ」
「……ぁ……ぅ」
「んえ?」
「…ぁりがとぅ……」
「ちょ…、いいって。気ぃ使ってるとかそんなわけじゃなくてさ、ホントにお前、いつも一人だから…」
「だって私、…他の女の子みたいにチョコレート作るの上手くないし、…それにほら、地味だしさ…」
「ん〜、そうかな…。俺はお前、すっごくいい奴だと思うけど」
「…………へ?」
「だってさ、倉田とかに妹と比べられても、お前はお前を貫いてんじゃん。
俺なら自分曲げちゃうかもしれないってのに。凄いよ」
「……霧人君がそう言うなら、そうなのかな」
「そうだよ。……あ、そろそろ家着くな。じゃあ…美夜子、また明日な!」
「……ぁ…………うん………」

一人、取り残される。
バス停前。
地蔵の頭に雨粒が落ちる。
傘を忘れた。それでもバッグの中を探る。やはり無い。
仕方無く、小さなバス停で雨宿りする。ボロボロのトタン屋根が頼りない。

時刻表を見る。お金がないからバスが来ても乗車出来ないのに。

バスが来る。だが、運転手が「またか」と、呆れた顔をして通過するのが分かった。
ここで雨宿りをするのは何回目だろう。それでも、霧人君が来てから、その数は減った筈だった。

霧人君は、とても優しい。だから皆から好かれる。
正直、皆から好かれる霧人君を見るのは嫌だった。
私の一部が消えてなくなるようで。存在が否定されているようで。
私は、私を受け入れてくれる霧人君が好きだから…。私の外にいる霧人君を見ると、胸が苦しくなった。

雨がやんでもいないのに、美夜子はおもむろに立ち上がり、
雨の中を帰ろうと歩き出した。

昼過ぎなのに空は暗い。ザアザアと雨が降り、田んぼを潤す。
そして、美夜子の心を枯渇させていった。


次の日

霧人は珍しく学校を休んだ。これまで一度も休みがなかった霧人の突然の欠席に
クラス全員驚きを隠せなかった。美夜子は、一日中、頭が真っ白なままでいた。

「なあ夏目。霧人の奴何で休みなんだ?仲良しだから知ってるんじゃないか?」
「…いや…私は知らないよ」
「神谷君、何でお休みなの?珍しいよね…」
「…うん…」

**********

その日の帰り、霧人の家を訪れた。
「……ぁぁ、美夜子…。来てくれたのか…。いや、ちょっと今日、風邪でさ…」
「……ぁ、…大丈夫…?」
「んん、…お前が来てくれたから…大…丈夫…はは」
「クラスの皆、心配してたよ?早く治…」
「お前は?」
「………え……?」
「お前は…その………、……ぁあ、やっぱりいいや。じゃあ、その…、今日はありがとな…」
「……うん」

そして、美夜子はまた、バス停で物思いに耽って、そしてゆっくり、家に帰った。

続く

Re: あなたと私が刻む夏 ( No.2 )
日時: 2017/02/19 22:10
名前: 狂yuki (ID: bmJ5BkM0)

土曜日。美夜子のもとに、霧人から電話がかかってくる。

「……もしもし」
「よ、美夜子。明日、遊園地でも行かね?ほら。この辺に最近出来たふかのレジャーランド。
いやー、チケットもらったんだけど一人じゃなーと思って…」
「……ぇ……」
美夜子は胸をぎゅっと押さえた。
「あ…ダメだった?何か予定とか…」
「…ぁあ、うぅん。大丈夫。明日よね、行けるよ」
「マジ?ありがとう!じゃあ明日、入り口で待ち合わせなー!」
そう言って、霧人は電話を切った。
美夜子は胸から手を離せないでいた。そして、顔が熱いことに気付いた。


次の日。
「ゴメンゴメン!美夜子、待たせたな!」
「うぅん、私は大丈夫。行こ」
「おう。んじゃ、最初はどれ乗る?」
「うーん。じゃあ……」
そして二人は入場券を買い、ふかのレジャーランドに入場した。
観覧車。ジェットコースター。お化け屋敷。
マスコットキャラクターの「ふかお」と「ふかのん」。
ありきたりな名前だと、隣を通る大人カップル二人が笑う。

「じゃあまずは…、ジェットコースターから乗ろう!」
「ぅ…。うん」


黒い車体がやまなりのレールをガタンガタンとゆっくりのぼる。
「……ぅぅっ…やっぱり怖い…」
「…霧人君、大丈夫?」
「……もうダメ…怖すぎて泣き…」
ジェットコースターの先制攻撃。霧人を泣かせにきた。

ガアアアアアア

勢いよく70°の急勾配を下る。
「ッそおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」
普通の言葉が途中から叫び声に変わるほど恥ずかしいことはない。
美夜子も絶叫する。
「キャアアアアアアアアアアアアッ!」
霧人が美夜子の方へと、手をのばす。そして
「…ぇ…?」
美夜子の手を握りしめる。
「みッ………、美夜子……!怖すぎて…!…な、何か…変な……!グゴッ……ゴメン!」
「霧……人君…だか………ら………ゆ…るし…て…あげる!」
「あり…が………とおおおおおおおおおおお!!」


………

ジェットコースターはようやく、止まった。
バーをあげ、階段を降りる。
「……ふぅ……つ、次、ど、どうする?」
「お化け、屋敷、にしよ……」
二人とも叫びすぎてヘトヘトだった。何を叫んだかもほぼ覚えてはいない。

そんな調子で、夜までかっちり、二人はレジャーランドを満喫した。

帰りのバスの中で話す。
「美夜子」
「うん?」
「楽しかった。ありがとう」
「私も。とても楽しかった。また行きたいな…」
「ああ。いいよ。……お前となら…何回でも…」
「…ぅぇ…?」
「ッははは、お前のこと、今日一日だけで、何て言うかその…結構分かったと思うよ」
「………うん」
「お前はいい奴だよ。面倒見もよくて、優しくって、謙虚で…」
「………」
「でもそれだけじゃない。お前の魅力……分かった気がする…。あ、偉そうなこと言ってごめん」
「…ううん、いいよ。霧人君は私のこと…全部分かってくれてるから…
……あ、着いたみたい。じゃあ…、また明日ね」
「…うん、明日な」

そしてまた、日常の1ページとしての明日を迎える。

続く

Re: あなたと私が刻む夏 ( No.3 )
日時: 2017/02/20 10:58
名前: 狂yuki (ID: bmJ5BkM0)

あの日から数ヵ月経った。
楽しい日々。美夜子は、その数ヵ月の間に、かなり変わった。
霧人のおかげだ。そう思った。
霧人君は私を変えてくれた。私は霧人君無しでは生きていけない。
いつしかそんなことを思うようになっていた。

だが……………………

霧人と美夜子。二人は気付けば段々、すれちがうようになっていた。
霧人は、日に日に様子が変になっていく。
顔は痩せ細り、声も弱々しくなっていっていた。
クラスメイトの心配にも返答は無く、
担任の松木先生が、何があったのかと尋ねても、「はい…」と言うだけだった。

そんな中、美夜子はついに決心した。
廊下を歩く霧人を背後から呼び、
「霧人君。最近、どうしたの?様子、変だよ」
訊いた。
すると霧人は、今まで見たこともないような怒りを浮かべた顔で言った。
「お前には関係ないだろ!!放っておいてくれ!!」
「…………っ!」
それから少し落ち着き、呟く。
「…………。クソ……。お前なんかと……会わなきゃよかった……」
その続き、何か言った気もするが、それは聞こえなかった。

そして、霧人は、上靴を脱いで外靴を履き、靴箱から校庭を駆けて、校門を飛び出した。


「…………」
美夜子は、涙を流している自分に気付いた。
何故霧人があんな反応をしたのか分からないという以前に
ああなってしまったのは、自分のせいなのかもしれないと、そう思った。
いつもいつも、彼に気を遣わせてしまっていた。
そんな、自分のせいかもしれない。

校庭に出る。授業を受けなければいけないの分かっている。だが、
「このままじゃ………いられない…………」
霧人のあの様子を思い出す。胸が苦しくなる。
穏和な霧人があんなになるまで、自分は何をしたのか。
また、雨が降りだす。
いつかの日のように。また、美夜子の心を枯渇させる、残酷な雨が降る。
美夜子は泣きながら、霧人の家へと駆けて行った。
傘をさすこともなく、ずぶ濡れになりながら。
「っぅああああぁぁあぁあぁああぁああぁあぁああぁぁあっっっ!!」
喉を破壊するほどの勢いで泣き叫びながら、駆ける。
こける。足をすりむき、血が出る。
立ち上がろうとするが、またこける。
片方の足に力が入らない。
涙と泥で顔が汚れる。制服とカバンが破れる。
痛みと悲しみと絶望。美夜子はもう立ち上がる気力の残り少しさえも失ってしまった。
泥水にまみれたアスファルトに長く綺麗な青髪がつく。
涙がアスファルトに落ち、泥水と一体化する。
あれは霧人じゃない。私の霧人じゃない。私の霧人はもっと……。

美夜子はそこに倒れ込んだ。全ての感情と環境が美夜子を追い詰めた。

数分後、帰宅途中の農夫によって、美夜子は病院に連れて行かれた。

続く

Re: あなたと私が刻む夏 ( No.4 )
日時: 2017/02/20 15:11
名前: 狂yuki (ID: bmJ5BkM0)

「…………な……ぅ……ので、…………を……………さぃ…」

誰かの小さな声が途切れ途切れ聞こえてくる。

…………私は…………

あの後、どうなってしまったのか、記憶がない。
うっすらと、ゆっくりと、目を開く。
薄明るい照明。一部が剥がれかけた天井。
横をちらと見る。汚れたベージュのカーテン。
そして自分がカーテンに囲まれて寝ているということは恐らく、病院。
そして、覗くように前を見る。
「………」
淡々と、何かの書類を書き上げる男の姿が目に入る。
白衣を着ている。おそらく自分を介抱した医師だろう。
そして、男が視線に気付き、振り向く。
「……む?」
「…………ぁ…」
「ああ、目が覚めたのか。気分はどうだい?」
「ぁ…、その…。……………」
「いやぁ。吃驚したよ。農夫の野田さんがね、『この子倒れとったけん助けたった』って
病院まで連れて来てくれたんだ。だから君は助かったんだよ」
「……じゃあ………、これ……お礼と言っては難ですが……」
そう言って美夜子は、ペンダントを差し出した。
それは、かつて霧人とお揃いで買ったものだったが、最早忌まわしい思い出でしかない。
「ん…いいの?こんな高級そうなのを、助けてくれたとは言え、知らない人にあげて」
「……ハイ。もう、要らない思い出ですから……」
その言葉が少し震えたようで、医師は首をかしげた。
立ち入ってはいけない話題と気付いたのか、それ以降は何も訊かないでくれた。

続く

Re: あなたと私が刻む夏 ( No.5 )
日時: 2017/02/20 20:29
名前: 狂yuki (ID: bmJ5BkM0)

霧人は自宅で塞ぎ込んでいた。
自宅と言っても、養子として幼い頃に無理矢理連れて来られた家なのだが…。

美夜子は中学時代にこの深野に引っ越してきたので、霧人が養子であることは知らない。

太鼓の形をした置き時計を見る。23時46分。
電話がひっきりなしにかかってくるので、昨日、受話器を引き千切った。
その受話器が、目の前に落ちている。
もう友人の声を聞けない。聞きたくないと思っていたが、違う。聞けないのだ。
自分は何をしていたのか。
よく考えれば、こうなったのは誰のせいでもない。
過去を捨てられなかった自分のせいなのに。
なのに、美夜子にもあんなに八つ当たりしてしまった。
美夜子は恐らく、泣いただろう。何もしていないのに、あんな酷いことを言われて。
そう思うだけで、胸が苦しい。

ふと、部屋の片隅に何かが落ちているのを見つけた。
それは、レジャーランドで美夜子と一緒に撮影した写真だ。
「ふかお」と「ふかのん」にギュウッと挟まれて、二人がぎこちない笑いを浮かべている。
その写真を手にした途端、

「ーーーーーーーッ!!」
涙が溢れだした。
美夜子……!

気付けば美夜子は、自分のすぐ側にいた。そして、元気を、暖かさを、くれた。

なのに、自分はそんな美夜子に何を。

どうしようもない罪悪感。
もう一度美夜子に会いたい。だが、今出歩けば神代の本家に見つかる。

神代家の令嬢、神代 魔弥(かみしろ まや)。
彼女は、本家に忠実な家の出身のため、霧人との結婚が先約されている。
霧人は、彼女との結婚を許可すれば本家にて優遇されるという条件をつきだされていたのだ。
この村では男女共に、高校生でも結婚出来る。
だが、早くから望みもしない結婚をするより、
霧人は、美夜子と楽しい時間を過ごしたかったのだ。
彼女こそ、自分にないものを持ち合わせ、満たしてくれる存在だから。
魔弥のような傲慢さもなく、攻撃的な面もない、そんな美夜子が好きなのだ。

だが、美夜子を好きになれば、美夜子は神代家に殺されるかもしれない。
そんなのは嫌だ。自分の都合のために美夜子を殺したくない。
霧人はそう思い、ずっと葛藤していた。
自分にとって何が最良なのか。いや、美夜子と自分が、どうすれば幸せになれるのか。

続く

Re: あなたと私が刻む夏 ( No.6 )
日時: 2017/02/21 14:54
名前: 狂yuki (ID: bmJ5BkM0)

美夜子はあれから、霧人のことを忘れ、普通の学校生活を送っていた。
社交的になり、友達も出来た。それが誰のおかげかは忘れていても。
そんなある日、
美夜子のクラスに転校生がやってきた。
美夜子達が通う深野高校にはクラスが2つあり、美夜子のクラスは比較的優秀な生徒の集まりだった。
つまり、そういうわけだ。

松木先生による紹介のあと、その転校生が言う。
「皆さん、よろしくお願いします」
その転校生は美少女の部類に入る方だった。
少しだけ巻いた髪が艶やかで、鋭く大きな目は猫のよう。
同じ大きめの目でも、美夜子のは垂れ気味だ。そこは好みの問題だが。

その少女…神代 魔弥は、美夜子の隣の席に座ることになった。
魔弥が、美夜子に気付く。すると
浅くお辞儀をして、そして反対の隣に座る大川にもお辞儀をした。
隣人を大切にする、良い心掛けだ。

美夜子は、魔弥ともすぐに仲良くなった。
魔弥も、美夜子にしか相談出来ない悩みなどを打ち明けるようになり、
互いに、無くてはならぬ存在となっていた。
そんなある日。転機が訪れた。

「ねえ、美夜ちゃん。また相談…乗ってくれる?」
「うん。いいよ。何?」
「実は……」
「うん………?」
「……この学校に、昔、神谷霧人君っていたでしょ」
「………………ぇ?」
不意にその名前を記憶から引きずりだされ、美夜子は思わず動揺した。しかし、話を続けるよう促す。
「私ね、霧人君と結婚をする約束だったの。すごく昔から」
「…………ぅぅ……え…?…え??」
美夜子は再び動揺した。
「なのに、霧人君、最近家を訪ねても居留守ばかり。
美夜ちゃん、昔、霧人君と仲良しだったんでしょ?彼を説得する方法、ない?」
美夜子は胸が詰まる感覚を覚えた。
自分が好きになった相手は、既に婚約済みで…。

でも、と、疑問が浮かぶ。それなら何故、レジャーランドに行ったり…?
何も考えられない。
頭がただ、真っ白になる。

美夜子は少し躊躇いつつ、答える。
「ゴメン………私も………分からない」
すると、魔弥は礼を言って、うつむき加減に去って行った。


この時、美夜子の頭の中に、ひとつのある恐ろしい考えが浮かんだ。

殺そう。

山奥だ。死体を遺棄すれば少なくとも10年間は見つからないだろう。

魔弥が告げた事実によって、美夜子の精神は既に崩壊しかけていた。

目を見開く。全ての事実を受け入れてしまった今、怖いものはない。
「……………」
死んだような目を見開き、うつむく。
校舎の屋上に一人、倒れ込み、空を眺める。

………………

………………

**********

その夜、美夜子は台所にある包丁を取り出し、その光を顔にかざした。
全て、この包丁で終わりにする。
何もかも、私と霧人君だけのもの。
それ以外は汚いから消す。

電気のついていない台所で薄暗い、死んだような笑みを浮かべ、
「……待っててね…霧人君。助けてあげるから………」
呟いた。

続く


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