ダーク・ファンタジー小説
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- 心の影
- 日時: 2017/06/05 00:04
- 名前: Libra (ID: .x5yvDPk)
夢を見た
夢の中の私は幽霊だった。
誰にも気付かれずただそこにいるだけの幽霊だ。
本当に幽霊だったらいいのにな。
私は上原由奈(うえはら ゆうな)、中学1年生だ。色々難しい年頃のせいか、勉強も人間関係も何もかもが上手くいかない。お母さんとだって、毎日喧嘩をしている。お母さんはきっと私が死んで、お腹の中で亡くなった双子の姉の美奈が生きていればと思っているのではないか。そうはっきりとは口に出さないけれど、
「あなたがそんなことじゃあ美奈はかわいそうじゃないの。」
とか、
「美奈の分まであなたがしっかりやりなさい。」
とか、そんなのばかりだ。いろんな事が辛いけれど、これが1番嫌だ。私は姉のことなんか知らないのに、母はいつまでもその影に縛られている。本当に不当なことだし、もう少し私の悩みに耳を傾けてくれてもいいじゃないかと思う。そして心の中で姉に語りかけたのだった。
「美奈、あんたはいいよね。私と代わってよ。」
たしかあの日からだ。この夢を見始めたのは。あの幽霊になる夢。本当に楽だった。何もしなくていい、だれも私の事なんて知らない。この夢を見ることが今の私の1番の楽しみだ。束の間の幸せだったなと思いながら今日も家を出た。
朝の登校ラッシュはみんな楽しそうだ。お友達と喋ったり、笑ったり。私を除いて。私は1人うつ向いて歩いている。この日も朝から嫌なこと続きだ。母は相変わらず美奈、美奈、美奈だし、喧嘩をした友達の千波は私と目が合ってもすぐに反らし、あいさつも無視だった。そんなにみんな私じゃ不満なのかな。ため息をついて教室へ入った。ああ、また同じ1日が始まるのか。そう思っていた。チャイムが鳴るまでは。
8時にチャイムが鳴った。それと同時に教室へ入ってきたのは担任の伊藤先生だ。先生はなんだかにこにこしていた。そして廊下に向かって手招きをした。すると教室に1人の女の子が入ってきた。スラリと背が高くて、色白、大きな目にスッと通った鼻筋らそしてやや茶色がかった髪が特徴的だ。月並みの表現ではあるが、外国の血が混ざっているようだった。その美しさにクラス中でざわめきが起きた。先生はパンっと手を打って、なにやら黒板に書いた。「桜木舞」
「今日から皆さんのクラスメートになる桜木舞さんです。さあ、桜木さん、自己紹介してくれるかしら。」
桜木さんは少しはにかんで言った。
「第二中学校から来ました。桜木舞です。よろしくお願いします。」
「はい、ありがとう。皆さん、桜木さんにこの南中学校について教えてあげて下さいね。じゃあ、席は…1番後ろの端、上原さんの隣ね。上原さん、お願いね。」
伊藤先生はそう言って教室を出た。
ええ〜、急に困るよ。転校生の隣なんて…美少女の転校生の隣の席なんてそんなよくある小説のワンシーンみたいなこと…。でもせっかく隣になったんだし、仲良くしないとね。
「私、上原由奈です。よろしくね。」
そう言うと桜木さんはにっこりわらった。その瞬間、たくさんのクラスメートが桜木さんの周りに集まった。その中には喧嘩中の千波の姿もあった。私がびっくりして眺めていると千波は一瞬だけ私を見てニヤリと笑い、自己紹介を始めた。
「私、西野千波。舞って呼んでもいい?あっ、私のことも千波でいいよー!」
そう言うと千波はまたこちらを見て嘲りの笑みを浮かべた。たくさんの女の子たちがわいわい騒ぐ中、1人入れないでいる私を彼女は嘲笑った。私は友達を作るのが苦手だ。仲が良かった千波でさえもこうなってしまった。勉強も運動も出来るわけでなく、性格も明るくない私。どうしてみんなはこんなに楽しそうなのかな。私は生まれる前にお姉ちゃんを失ったから?だからもう何かを手に入れる事なんてできないのかな。そう思うと涙が出そうになった。泣くのをこらえながら心の中で言った。
「美奈、本当に代わって欲しいよ。」
本当に私が死んだ方がよかったのに。私の良いところはきっと美奈にとられてしまったんだ。美奈が生きていればきっと上手く行ったと思う。頭も良くて、友達もたくさんいて…きっとそんな子になるんだろうな。お母さんもその方が嬉しいよね。その方がきっと…
「…原、上原、上原!聞いてるのか!」
「あっ、はい。すみません。」
美奈の事を考えていたら話を聞けていなかった。
「しっかり聞いておけよ〜、上原。これ、分かるか?」
「えっと…あの…わ、分からないです。」
「それだから分からなくなるんだぞ!上原、立ってなさい。じやあ、桜木、分かるか?」
「はい。-5です。」
皆がどよめいた。と、同時に私を笑うクラスメートたち。するとまた頭をよぎる。
「美奈だったら…」
やっぱり私が死んだ方が…
結局その日はその考えが頭からはなれなかった。1人で家に帰ると玄関先で母が待っていた。
「由奈、今日学校から連絡があったわ。最近あなた、授業中も上の空で、全然話を聞いていないそうじゃない。」
さらに続けた。私が1番嫌いなあの言葉を。
「あのね、あなたが面倒くさいと思っている授業も、ありがたいことなの。教育を受けられるって幸せなのよ。美奈だってきっとあなたがうらやましいと思うわ。」
この言葉で私の心の中で何かが音をたてて崩れた。そして今日1日我慢してきた涙を流してこう言ってしまった。
「毎日毎日、美奈、美奈ってうるさいな!どうせ私が死ねば良かったんでしょ!?」
「そんなこと言ってないじゃないの」
母は困った顔をして言った。それを振り払うように私は続けた。
「どうせあんたは私より死んだ美奈の方が大事なんでしょ!? 私だって生まれてこない方が幸せだったよ!」
そう言いながら自室へ入り、内側から鍵をかけた。すると母はドアを叩きながらこういったけど、
「由奈、由奈!お母さんね、あなたの事も美奈の事も同じくらい大好きで、大切なのよ!お願い由奈。信じてちょうだい!」
私は何も答えなかった。母はずるい。今まで散々美奈の事ばかり気に掛けてきたくせに、こちらが本気で怒ると急に良い母親ぶるなんてなんて汚いやり方だろう。その日は涙が枯れるまで泣いた。泣きながら呟いた。
「美奈、なんであんたは死んでもなお私からお母さんを奪うの?もう辛い。私と代わってよ。お母さんのためにもさ…」
泣きながら何度も言った。
「私と代わって。」
と。そして、泣き疲れていつの間にか眠ってしまった。
するとまたあの夢を見た。幽霊になるあの夢だ。
- Re: 心の影 ( No.3 )
- 日時: 2017/06/06 20:12
- 名前: Libra (ID: .x5yvDPk)
「えっ!?」
目が覚めた場所は家だった。早退してそのまま眠ってしまったのだろうか。気分の悪さゆえか記憶がない。不思議に思ってリビングに行くと、母が声を掛けて来た。今日はなんだか嬉しそうだ。
「おはよう。由奈、昨日は偉かったわね。具合が悪いのに授業を頑張って受けたんでしょ?
あまり無理しちゃダメよ。でも、あなたには美奈がついているから大丈夫だったみたいね。さ、朝ごはん食べなさい。」
また「美奈」だ。
でもおかしい。私は授業に戻らなかった。ただ「忘れてしまった」というわけではないような気がする。考えた結果、母が間違っているのだという考えに落ち着いて、私は学校へ行った。
この時の私は知らなかった。このおかしな現象の正体を。
- Re: 心の影 ( No.4 )
- 日時: 2017/06/06 22:40
- 名前: Libra (ID: .x5yvDPk)
教室に入ると何人かの子があいさつをしてくれた。昨日まではまるで空気のような扱いだったのにどうしてだろう。席に着くと桜木さんがこんな変なことを言った。
「おはよう由奈ちゃん!」
由奈…ちゃん?
「昨日は一緒に帰ってくれてありがとう!」
い…一緒に…? どうしてみんな私が覚えてないことばかり言うのだろう。
「今日も一緒に帰ろう!千波と理花と優も!」
昨日の夢に出てきたメンバーだ。
なにこれ?幽体離脱?
私の記憶のない話をみんなはどんどん進めていく。
たまに私も話を振られるが下手なごまかししかできない。
「こういう時、美奈だったらどうするのかな。」
そう思いながら1日が過ぎた。
そして放課後、今まで私なんて無視していた皆が一緒に帰ろうと誘ってきた。
おかしい…何かがおかしい。
「ねぇ、由奈ちゃん、昨日言ったテレビ見た?」
「えっ!? あ…あぁ、ごめん、寝ちゃって…」
不意打ちは苦手だ。こんなことが度々起こる。
その度になんとか話を合わせた。でもこの後、更におかしな事が起こるのだった。
- Re: 心の影 ( No.5 )
- 日時: 2017/06/06 22:49
- 名前: Libra (ID: .x5yvDPk)
作者です。前にも言いましたが、まだ馴れていないので、これは「試し投稿」のようなものです。今後もこのような投稿の仕方でいいでしょうか? もし何かあったら文がうざいとかくどいとかなんでもお申し付け下さい。
この話が完結したらもう少しはマシなものを出しますので(需要ないと思うけど)、今後とも宜しくお願い致します。本当に厚かましくてすみません。
- Re: 心の影 ( No.6 )
- 日時: 2017/06/25 18:28
- 名前: Libra (ID: .x5yvDPk)
このすべての謎が解けたのは桜木さんの何気ない一言だった。
「由奈ちゃんってそういえば、亡くなった双子の妹さんがいるんでしょ?一卵性?二卵性?」
「えっと、一卵性かな。」
そう答えた直後はっとした。私、そんなこと誰にも言ったことないのに。しかも亡くなったのは姉だ。この事を知っているのはあの子しかいない。美奈だ。
私の記憶がないところで事が進んでいるのは、彼女と私が入れ替わったから?
あっ!あの夢!あれが美奈の見ている世界?
怖い。美奈が私を巣食ってる。
「ふふふ…あなたが代わってほしいって言ったんじゃない。」
どこからともなくそんな声が聞こえたかと思ったら、千波が叫んだ。
「由奈!」
ガシャンッ!
気付いた時には遅かった。私に一台のトラックが迫っていたのだ。
- Re: 心の影 ( No.7 )
- 日時: 2017/06/18 13:37
- 名前: Libra (ID: .x5yvDPk)
目が覚めると私はある病院の一室を眺めていた。
ベッドで1人で本を読んでいる少女がいる。私だ。
どうしてだろう。死んでしまったのだろうか。
でもそんなはずはない。だって私の体はベットの上にあるのだから。
「由奈!」
誰かが私の名前を呼んだ。返事をしようとしたが声にならない。その代わりにベットの中の私が代わりに返事をした。
「はーい!」
「由奈、着替え持ってきたわよ。」
入ってきたのは母だった。頭上にいるもう1人の「私」には気づいていない。
「由奈、あと1ヶ月くらいで退院だって、良かったわね。じゃあお母さん、これで行くわね。」
そう言って母は出て行った。ドアが閉まると、ベッドの中の私が天井の私を見上げてニヤリと笑った。
これは…………美奈だ。
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