ダーク・ファンタジー小説
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- 神話殺し
- 日時: 2017/10/19 22:12
- 名前: 第六天魔王六世 (ID: WgIzNCa0)
- 参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs3/index.php?mode=image&file=713.jpg
───2003年
冬
片目に傷。されどその傷は無敵の証。
「神殺しの一族」最強の実力者であった道齋 皇彌─ドウサイ コウヤ─の息子……道齋 霊騎。
己の足音を聴く。新雪の上を歩む音は刹那。そして残響を生む。
彼が通う学校までの距離はおよそ数百メートル。駆ければ一瞬。研ぎ澄まされた感覚は神だけに留まらず「無駄」をも殺す。
「ほら、アンタ。何ボサっとしてんの」
突如 後方からの声。反応は咄嗟。しかし敵意がないこともまたすぐに察する。
──無論、抜刀はしない。
「……ん?ああ、筑紫か。吃驚したな」
「吃驚した?ホント…繊細っていうのかビビりっていうのか…」
前者だ。代々受け継ぐこの神経の鋭さをビビりとして処理されては心のやり場がないではないか。
しかし女は─筑紫は特にそれを気にせず続ける。
「あー…、あたし今日剣道部休むから。頼んだわよ副部長。今日の掃除当番は佐中と小森だから」
取り敢えず先を急いでいるので、適当にコクリと頷く。後で後悔するとしてもそれは後の話だ。
正直、副部長などなりたくもなかった。──いや、抑の話、剣道部にすら興味は無かった。皆無だ。0,01%も無かったと誓える。
だが、そんな想いすら通り越して、まだ筑紫が続ける。
「──いやー、本当は全部ほっぽりだしてアンタに任せたいんだけどねぇ。アンタ、実際にはあたしより強いんだし…。
ねぇさ、何で手加減して負けてまで副部長に留まろうとしてるわけ?部長になりなよ。アンタ向いてるから」
……癇癪玉を炸裂させてもいい頃だろう。部長に推薦でもされようものなら、自殺すら考える。本気でだ。嘘偽りなどない高純度の本音だ。
「馬鹿言え。俺はあんな奴等の面倒を見るなんてのはゴメンだぜ。
普通の部員もゴメンだがな。奴等に舐められるのは流石に癪だ」
徹底抗弁する。これでも怒りは抑えた。かなり攻撃的な反論に思えるかもしれないが、とにかく抑えた。
「ほーん…。なんて言うか……ワガママだね」
ワガママだね
ワガママだね
ワガママだね
ワガママだね
ワガママ。よりにもよって、筑紫が。ワガママで人を剣道部に入部させ、
ワガママで人を副部長にした筑紫が。
ふざけている。因果が狂ったか。世界の終わりか。崩壊か。パラドックスか。
「前言を撤回しろ、筑紫。お前…俺を剣道部に入部させた奴が鼻歌歌いながら言っていい言葉じゃないぞ、それ」
「あー、…ん?どしたの、そんな血管ピクピクさせちゃってさ。その派手な古傷が痛むよ?」
この一言で完全に戦意を削がれた。削がれた、ということは、戦意があったのか。
問われるならば、ああ、と答える。隙あらばその首を取ってやろう…と思う寸前だった。
「……はぁ、好きにしてくれ…」
「お、サンキュー」
調子のいい奴だ。承諾はしなかった。好きにしろと言った。もう何を言っても筑紫の強引さには抗えないと解ってはいたが、
承諾したら負けだと、何かが訴えてくるのだ。
「───」
心なしか嬉しそうにスキップしているようにも見える筑紫の後ろ姿にありったけの怨念を抱きながら、小走りで後を追う。
出来るなら彼女と同じ学校にすらいたくはないのだが、そこばかりは仕方ない─。
- Re: 神話殺し ( No.4 )
- 日時: 2017/10/29 00:33
- 名前: 第六天魔王六世 (ID: WgIzNCa0)
- 参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs3/index.php?mode=image&file=722.jpg
──
霊騎とメアが一瞬激闘を繰り広げた…その場所を見下ろせる場所にある鉄塔。水色の髪の男が呟く。
「やれやれ、現世に復活したのは私だけでは無かったか。…しかし……よりにもよって『夜の灰』か…」
男は視線を動かす。そして…疲れ果てて倒れている霊騎を見る。
「………あの男……人間ではないな。未完成とは言え魔祖最強候補である奴と出逢って生還するとは」
そう言うと少し、ほんの少し口角を上げ、去って行った。
霊騎は完全に疲れきっていた。
相手が強すぎる上に、左目を開いてしまった代償が今体を襲っている。
「因果の扉」を開いたことにより、魔力が暴走している。あまりに混乱していたので、つい…と言いたいところだが、生憎にもこの「うっかり」は命に関わる。
「因果の扉」を開いてしまった以上、ヤツを殺すしかない。ヤツを殺し、体内で膨張を始めたこの魔力を封殺しなければ、体が破裂して死んでしまう。
……しかし……ヤツはとんでもなく強い。
もしあの体に馴染めば先程の倍以上は強くなるだろう。
そうなれば勝てない。たとえ「因果の扉」を開いても、そこには圧倒的な実力差がある。
「ヤツを殺せるようになるには、…………」
霊騎は瞑想を始めた。
死ぬまでにヤツを殺さなければならない。
それはつまりタイムリミットがあるということだ。
だからこそ慎重になる必要がある。
だが、そこで彼はとんでもないことを思い付いてしまった。
「……魔祖の力を……借りる……?」
- Re: 神話殺し ( No.5 )
- 日時: 2017/10/31 18:39
- 名前: 第六天魔王六世 (ID: y36L2xkt)
- 参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs3/index.php?mode=image&file=735.jpg
魔祖の力を借りるなど……。正気ではないのかもしれない。自分でも何を考えているのか解らない。
魔祖は人間にとって害悪な存在─いわゆる悪魔だ。それに、魔祖とて、先程のアレを倒せるとは限らない。
階級…位は30位まであるという。それ以下になると普通の「魔人」に認定される。
抑魔祖は生まれつきの悪魔──そして、特に繁殖すら必要はないが、気に入った人間のことを悪戯によって悪魔にしてしまう。
…と、思考していたその時────
「魔祖の3位ともなれば、アレも太刀打ち出来んだろう」
背後から声。すぐに解った。父の皇彌だ。
「…父さん……」
「先程の戦いを見ていたが……お前はついに禁忌のモノを開いてしまったようだな…」
「咄嗟に、……つい……」
判断ミスを咎められる。
「……ですが父さん、先程言っていた…3位…というのは…?」
「3位は3位だ。魔祖の3位程度の実力があれば、アレも軽く捻り潰せるだろうと言うたのだ」
「そんなに強いんですか?魔祖は」
「………当然だ、人類史における諸悪の根源だぞ」
「…………」
そして一息置いて、皇彌が言う。
「………来い」
- Re: 神話殺し ( No.6 )
- 日時: 2017/11/01 15:49
- 名前: 第六天魔王六世 (ID: w4lZuq26)
- 参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs3/index.php?mode=image&file=737.jpg
──自宅と呼ぶには些か殺風景な…家に着いた。電気などない。山奥の一軒家だ。
「……………」
皇彌は果てしなく続く暗闇の中を颯爽と歩く。
「……………」
霊騎が後を付いて行く。
「………私はずっと、お前に真の姿を見せずにいた」
「父さん?」
「……私は影なる存在。既にその真の姿は奪われてしまった……虚無なる器…」
「何を……」
怪訝な顔。然れども、皇彌は気にせず続ける。
「……私の正体……十七年間もの間黙っていたが…最早『ヤツ』が復活した今、隠す理由はない」
そう言うと皇彌は、自らに「自我幻惑解除」の呪文を唱えはじめた。そこで大方の予想がついてしまった。
「……父さん……貴方は………………」
「………そうだ…」
全ての幻惑から解き放たれた皇彌の姿は「影」だった。紛うことなき影。
「……そんな………一体何故…?……何も理解出来ない」
「無理もない。だが、知っても滑稽なだけだ。……ヤツを前にして、まさか不意討ちをされるとは…」
「……ヤツ……?不意討ち?」
影の表情は見えないが、感情を察することは出来る。皇彌は心底悔しがっている。
「……私は……お前が知る通りの、『神話殺し』の一代目…道齋 皇彌。…遥か昔よりその命を土に還すことも出来ず、この世を彷徨する寄生虫だ」
自嘲気味に笑いの混じった息を吐く。
「……真の名はダン・コートヤード。イギリス十字軍の中でも最強の腕を誇る騎士にして魔導師だった………。
我々の部隊は異端どもを殺した。だが、異端どもを操っていた鬼……奴こそ悪夢だった。
何とか異端に勝利し、束の間の休息をとっていた我々は『メア』を名乗る男に襲撃された。我々は苦戦しつつも何とかメアを追い詰めた。──だが………」
そこで一旦息を止め…、
「……、メアにトドメを刺そうとした時だった。私は、ローブの男に貫かれた。……次に意識を取り戻した時には、私は影だけの存在となっていた。そして後に帰還した際、仲間は全滅したとの報告を受けた。
……それから、自我幻惑魔術によって元の姿を投影し続けてきた。数多の輩を失ったが、…だからこそ、ヤツに報いるまでは死ねなかった。因縁のこの忌むべき愚体を現世の呪いに縛り付けることこそ私の贖罪だったのだ……」
- Re: 神話殺し ( No.7 )
- 日時: 2017/11/04 19:03
- 名前: 第六天魔王六世 (ID: WgIzNCa0)
因果を閉じる旅はどうやら父の仇という意味も孕んでいるらしい。
「………」
「………」
「………」
「どうしたんだいそんな浮かない顔してさ」
「!!」
「ちょっと…そんな警戒しないでよ、アタシだって」
「……何だ、筑紫か…。毎回よくも俺を吃驚させてくれるな」
「ありがとー」
「誉めてないぞ」
「っていうか、アンタ今日ずっと浮かない顔だね」
「……ああ。…それと今は…」
「放課後ですぅ。授業中ずっとそんなだから先生も気になって声かけたけど、
アンタ凄い殺気放ってたもんだから怖じ気づいてその後は放置よ」
「そんなに殺気が出てたか?」
「うん。…ていうか普通そう簡単に出せるものでもないけど」
「……そうか。…………道理で疲れるわけだ。悪い、今日は部活休む」
「へー、珍しい。じゃあ副部長は弥科に頼むね」
「何っ」
「え?ダメ?」
「当然だろ!あんな愚者にこの俺の副部長の座など…喩え一瞬でも与えてやるものか!」
「そーんなにアイツが嫌いかー…?」
「嫌いだね。奴はドクズだ。見ただけでヘドが出る。出来ることなら斬首してやりたいほどにな」
「……へぇ…。アタシは別にそこまで嫌いじゃないけどね」
「物好きか」
「いやぁ…、まぁ何の取り柄もないくせに威張ってるだけのドクズなのは認めるけどさ…」
「けど……何だ?」
「……んー…、擁護しようと思ったけどやっぱ無理だぁ、前言撤回。アイツは確かにドクズね」
「だろ?」
「……うーん、となると副部長誰に任せようかなぁ…」
- Re: 神話殺し ( No.8 )
- 日時: 2017/11/05 23:47
- 名前: 第六天魔王六世 (ID: WgIzNCa0)
「あ、そうだ」
「ん?」
「水月さんなんてどう?」
「ああ………高野か。アレなら問題ないな」
高野水月 いつも影で人一倍特訓をしている。大人しく目立たない彼女にもそろそろ華を添えてやるべきだろう、と霊騎は思った。
「あー、じゃあ水月さんに頼んでみるわー」
「ああ。…悪いな、迷惑かけて」
「いつものことー」
「………っ」
────
紅。教室を染める紅。陽は落ちようとしていた。
明日の日の出の為に。
アレはずっと昇り続けているわけではない。それではアレは永遠を獲得出来なかっただろう。
毎日──日々昇っては落ちて…それを繰り返すからこそ永劫を約束されているのだ。
そして父は──かつてこう言ったことがある。
「命とて陽と同じ。繰り返すことで永遠を得られる」
と。的を射ていた。「人」がいつまでもこの世にとどまれるのは、紛れもなく死と生のサイクルのおかげだ。
生…そして死を謳歌してこそ。それでこそ人の生き方だと。
だが、魔祖達はそれらを失ってしまった存在。神に睨まれ、世界に恨まれ、大地の呪いによって死ぬことも能わなくなった、完全にして不完全な存在。
……若しくは、初めから死んでしまっている。
則ち、永遠の死か永遠の生。サイクルの欠けた永遠だ。
「───こんな時間まで居残りかい?」
「………何の用だ」
「何の用って……弥科家の長男であるこの僕を目の敵にするお前を嘲笑いに来たのさ。
一匹狼を気取ったがために孤立して、……はは、嘸僕が羨ましいことだろうさ?」
「……お前、俺と戦うのか…?鎧袖一触の結果は見え透いているというのに」
「はは…、ナメるなよ神話殺し……。僕は悪魔に魂を売ったんだぞ……」
刹那に、弥科の目 頬 手 あらゆる場所に呪詛が張り巡らされる。
シュルシュルと音をたて、弥科の体が暗黒に近づいていく。
「──弥科……お前、一体何を………」