ダーク・ファンタジー小説

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妖伝説
日時: 2017/12/05 20:22
名前: 白虎丸 (ID: AZnIL7RT)

 序章






 丑三つ時、静かな夜に一人の男の叫び声が響き渡る。



「うわああ!化け物だああ!誰か、誰か助けてくれーっ!!」



その男は化け物から逃げていた。



しかし、すぐに化け物は男に追いつき、そして・・・



ズシャァ!



その男を切り裂いた。



「愚かなものよ。貴様ら人間ごときが、この俺から逃れられるわけがないのにな。つくずく人間の



愚かさには、飽きれを通り越して笑えてくるな。」



すると、ビュウ!と急に強い風が吹いてき、先ほどまで誰もいなかった場所にもう一人、化け物が



現れた。



「相変わらず容赦ないね、君は。」



その一言が合図かのように、次々と化け物たちが現れる。



「ほんと、狐は怖いよねぇ。人間に見られただけで、そいつ殺しちゃうんだもん。」



「まあ、狐の気持ちは分かるよ。」



「どちらにせよ、私たちの事が周りに知られれば、厄介ですし、結果として殺してしまうのが一番



でしょうね。」



「怖いこと言うんだな。あんたも。」



「どうせ俺らは人間に忌み嫌われている。何をしても変わらないさ。」



そして、化け物たちは笑う。










     〜これは、人間から忌み嫌われた妖達と、とある一人の少女の伝説の話である〜

Re: 妖伝説 ( No.2 )
日時: 2017/12/01 18:09
名前: 白虎丸 (ID: AZnIL7RT)









『父さん、母さん、早く早く!』

『ふふ、凛は元気ね。そんなに急がなくてもいいのよ。』

『今は桜が見ごろだからな。』

私は今もそうだが、桜が大好きで、父も母も桜が大好きだった。

当時の私は、七つか八つだった。

毎年、春になると父と母と三人で花見に行ったものだ。

大はしゃぎで走って見に行こうとして転んで怪我をしたこともあった。

その時は、泣きはしなかったが、結構な痛さで少し涙目になったこともある。

そして、父に小突かれ、怒られる。

『馬鹿者。ちゃんと歩かないからこうなるんだ。急がずとも、桜はまだ散らん。』

そう言っていた。

私達は、昼間だけでなく夜も桜を見に行った。

昼の桜も綺麗だが、夜桜はまたひと味違う美しさだった。

月光に照らされた桜は、昼間と違い怪しく、そして美しく見えた。

いつだったか、父とこんな会話をした。

『凛、桜の花、美しいだろう。どうして美しいか分かるかい?』

『分からないよ。』

『桜はな、自然の中でしっかりと生きてきたから、美しいんだ。見た目だけが美しいのではない。

たとえ、小さく弱々しくても、耐え抜いて生きれば、美しく立派な樹になる。分かるかい?』

『うーん、分からないよ。』

『まあ、お前もまだまだ子供だからな。今は分からなくてもいい。だが、お前には見た目だけでなく

心も美しくあってほしい。凛、これだけは覚えておきなさい。誰かから比べられようと、自分は自

分。そして、誰かが他の者と違っていても、それはその者の個性なのだから、蔑んだり、見下しては

ならない。いいね。』

『うん、分かったよ、父さん!』


あの頃はとても楽しかった。近所の子達と遊び、父と母と家で過ごす。

そんな毎日が当たり前だった。

だが、ある日を境に、その生活は崩れた。

Re: 妖伝説 ( No.3 )
日時: 2017/12/01 23:52
名前: 白虎丸 (ID: AZnIL7RT)






『凛、行ってくるわね。』


『留守は頼んだよ。』


『はい、父さん、母さん、いってらっしゃい。』


ある日、私の父と母は、仕事で遠くへ行くことになった。


仕事の都合で遠くへ出かけていくことは滅多になく、少しばかり驚いたが、家事などは大体出来る


ため、生活には何の支障もない。一応、連れて行ってもらえないか聞いてみたが、駄目だと言われ


てしまった。




父と母が出掛けてから、一週間が過ぎた。二週間、三週間、ついに一か月になった。


まあ、長旅、しかも仕事なので、すぐに帰っては来ないだろうとは思っていたので、特に気にはして


いなかった。それに、たまに手紙をよこしてくるから、安心していた。


そして、一カ月、二カ月と、どんどん月日は流れていく。


流石に、家に誰もいないというのは寂しいものだったが、手紙はちゃんと来ているので大丈夫だと


思っていた。


二人が出掛けて行って六カ月くらいはたった。


たまに来ていた手紙も来なくなり、流石に心配になり始めた。


そして、ある日、いつも通り家で家事をしていると、数名の柄の悪そうな男達が家に断りもなく、


ずかずかと入り込んできた。


『あの、何してるんですか?なんで、勝手には行ってくるんです?』


『ああ、嬢ちゃん、この家の子やな?』


『はい、そうですが。』


『悪いけどなぁ、この家、売られたさかい、とっとと出てってくれんかいな。』


『は?どういうことですか?』


『せやから、この家な、売られたんやで。』


『な、何かの間違いでしょう?そもそも、私の父も母も、まだ帰ってきてませんし・・・』


『そのことやけどな・・・死んだで。その二人、旅先で。』


『え?』


『そこはな、えらい治安の悪い所さかい、スリだの辻斬りだの、日常茶万事や。そいでな、お二人さ


ん、そこの辻斬りにやられたんや。そいで・・・』


『嘘でしょ、でたらめでしょう、そんなの。』


『せやから、ほんまやって。まぁ、受け入れがたいかもしれへんけどな。そいで、お二人さん、借金


がぎょうさんあってな。全額、払いきれてないんや。とすると嬢ちゃん、あんたが自動的に払わない


かんことになるんや。せやけど、あんさんはまだ子供さかい無理やな。そんなら、家を売り払うっ


ちゅうことになってしまうんや。分かるな?さぁ、さっさと荷物まとめて出てき!』


『え、待ってくださいよ!父と母は?私の住む家はどうなるんです?』


『あんさんの両親は、とっくに埋められてるで。その例のえらい治安が悪い町になぁ。あ、行くん


やったらやめとき。あんさんみたいなのが行っても、売りとばされるだけや。あんさんの家?


そんなもん、わいらは知らんで。道端で暮らせばよろしい。わざわざ、そこまで考えてはやれん。』


『そんな・・・』


そして、家を追い出され、行くあてなどなく、路頭に迷っていた。


食べる物も、家もない。このまま死ぬのか、などと思っていたが、その時、


『おや、なんだい、汚い餓鬼か。お前、家は?』


あの人に出会った。

Re: 妖伝説 ( No.4 )
日時: 2017/12/03 11:49
名前: 白虎丸 (ID: AZnIL7RT)






それから、あの人は私を今働いている料理屋においてくれた。


しかし、私への扱いは酷く、ご飯も十分に与えてくれなかった。


でも、働かさせてもらい、住まわせてもらえる。


少なくとも、前の生活よりは断然ましだ。


そう思って、頑張って働いてきた。


でも、時々、両親の事が恋しくなる。


また会いたい、そう思ってしまう。


会いたいのに、会えない。


二人はもう、この世のどこにもいない。


そんな事を考えると、いつも涙が出てくる。


でも、父さんが言っていた様に苦しい時も、悲しい時も、精一杯生きれ


ば、あの桜のように美しくなれる。


今は、父さんの言いたいことがよく分かる。


だから、頑張って生きていくね。


そう思い、私は眠った。

Re: 妖伝説 ( No.5 )
日時: 2017/12/03 17:34
名前: 白虎丸 (ID: AZnIL7RT)





「ふああ。んー、あっ、いけない。早く朝食の準備しないと!」

そう、独り言を言い、急いで着替えて台所へ。

私は、あの人たちより早く起きて、朝食を作ったり、洗濯や掃除など、

家事仕事をしなくてはならないのだ。

あまり遅いと、また怒らせてしまう。

てきぱきと動いて、まず初めに朝食を作り、店主達を起こしに行く。

「おはようございます。朝食が出来上がっておりますから、

来てくださいね。」

「ああ、すぐ行く。」

洗濯をしに行く。

その時、店主達が来た。

「しっかりやってるかい?」

「はい。朝食は、あちらに置いてあります。」

「言わずとも、分かっている。おまえはしっかり働くんだ。」

そう言い残し、今へと向かった。

二人とも、相変わらず、ぶっきらぼうだな。

まあ、今に始まったことじゃないか。

洗濯物を干し、掃除をしようと、箒を持って来ようとすると、

「凛!何度言ったら分かるんだ、お前は!汁物の味が濃いぞ!

薄くしろと言っただろうが!」

「申し訳ありません!すぐに変えてきます!」

バシャ!

「キャッ!」

「変える必要はない!ふん。そこ、拭いておけ。」

「はい。」

また、汁物かけられた。いつもより薄くしたつもりなのに、何がいけな

いのだろう。あの二人は、私の料理が気に食わないと、いつも怒る。

あーあ、また洗濯しなければ。

今日も、明日も明後日もずーっとこんな日々を過ごさなければならない

のだと思うと、やはり、辛く感じてしまう。

掃除をしながら、そんな事を考えた。

Re: 妖伝説 ( No.6 )
日時: 2017/12/03 23:16
名前: 白虎丸 (ID: AZnIL7RT)





今日も、朝から混んでいる。てきぱき働かなければ。

ふと入り口辺りを見ると先日ぶつかってしまった男がいるではないか。

あの男、この店に来たことはあったかな、と思いつつ料理を運ぶ。

すると、

「おい、そこの仲居。」

「はい!!」

いきなり声をかけられたので、びっくりして声が上ずってしまった。

「そんなに驚くこともなかろう。」

「す、すみません。」

「狐うどん一つ。」

「は、はい!」

「狐うどん一つ、お願いします!」

「あと・・・」

「あ、はい、何でしょう?」

「茶もくれ。」

「茶?あ、はい、すぐお持ちします。」

慌てて水を持ってくる。

「お待たせしました。」

「遅い。」

「申し訳ありません。」

そんなに遅かったかな。この人、せっかちなのか?

「凛!ぼさっと突っ立ってないで、動きな!」

「あ、はい、すみません!」

「・・・」

何だろ。さっきからあの男の人に見られている気がする。

気のせいかな。

「凛!狐うどん、出来たよ。」

「あ、はい。」

「お待たせしました、狐うどんです。」

「あ、ああ。ありがとう。」

さっきからボーっとしてるけど、考え事?

まあ、いいか。仕事仕事。

「あの女・・・やはり・・・」

「何か言いました?」

「いや、何でもない。」

「そうですか。」

何か言った気がするのにな。


その後、朝食を取りに来る客はほとんど減ったが、昼になると、また

大勢客が来て、大変だった。あまりに忙しく、あの男のことはすっかり

忘れてしまっていた。


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