ダーク・ファンタジー小説

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赤色の瞳
日時: 2018/11/10 20:57
名前: 青りんご (ID: o4cexdZf)

——傷だらけの服を身にまとった老人は剣を両手に持って漆黒の竜とにらみ合っている
 人の死体がたくさん転がり、その老人以外に人の姿は見えない。空はなぜか紫色に染まっており、遠くの方では雷の音が聞こえる。
 にらみ合っている光景はゾウとアリが並んでいるようなもので、体の大きさはもちろん力のほうでも老人が勝っているとは思えない。
 その老人は目を閉じ、心を落ち着けた。
 目を開けた刹那、老人は勢いよく一歩を踏み出し漆黒の竜に向かって走っていく。風のように走る。声をあげ、老人とは思えないほどのスピードで竜に突っ込んでいく。老人は剣を構え竜を切る——はずだった。
 老人の体はいとも簡単に弾き飛ばされる。
 何が起きたのかわからない。竜は微動だにせずそこにいるだけだが、老人は不可視の攻撃に圧倒される。
 傷だらけの服がさらに汚れ、破れ、千切れる。
 勢いよく体中を擦りながら、後ろの方へ転がっていく。だが吹き飛ばされてもまだ老人は立ち上がった。
 竜は格の違いを見せつけ、老人を見下している。しかし竜の表情が少し乱れた。
 老人は覚悟を決める。
 剣を地面に置き、注射針と漆黒の液体を取り出した。注射針を自分の腕に刺し、黒い液体を自分の体の中に注入する。すると老人は苦しい表情になり、頭を抱えてわめきだす。目を見開き、体中に力を入れ何かと必死に戦う。そして落ち着いたかと思うと、今度は勢いよく地面に倒れる。
 しばらくしてゆくっりと起き上がる。
 竜はその顔を見た時、目を見開く。
——その老人の瞳は赤色に染まっていた
 

Re: 赤色の瞳 ( No.1 )
日時: 2018/11/10 20:58
名前: 青りんご (ID: o4cexdZf)

「えー、では続いて九区第二訓練所長官のあいさつです」
 司会担当の大人がそう言っている中、俺はずっと一年前の出来事を思い出していた。

 一年前のこと——俺が十六歳の時、俺たちの国の中心部にヤツは現れた。体中が黒い鱗で覆われて、背中に立派な翼を生やし、長い尻尾がついているその漆黒の竜は俺たちの国及びこの俺たちの地球をめちゃくちゃにした。その竜は世界中の人を無差別に殺し、被害は地球規模で広がっていった。俺たち学生が立ち向かえるわけがなく警察や自衛隊ですら対抗できず、俺たちはみんな地球の終わりを迎えたのだと思っていた。その中で竜に立ち向かっていく人が一人いた。それは俺の祖父、ユキヒコだった。彼は俺によく「何もせず後悔するより、何かをして後悔をしろ」と言っていた。その発言の責任を感じているのか、彼だけは諦めずに竜と戦っていた。だが彼が傷だらけになって家に帰ってくる日々が続いた。その姿を見続けて少しだけ光り輝いていた希望は徐々に消えかかっていった。
 そんななか、竜との戦いに破れボロボロになって帰ってきたある日ユキヒコは何か動いている黒い塊を右手に持っていた。その塊の動きは気持ち悪く、何か禍々しいオーラを感じた。彼はその塊を持って「竜を倒せるかもしれない」と言葉を残し、すぐに遠くの方へ行ってしまった。何か策を思いついたんだろうと思っていた俺たちは彼の帰りを待っていた。
 そう言ってから二日後だろうか、ユキヒコが帰ってきて俺たちは少し安堵した。だがそんな俺たちを無視して彼は玄関に置いてあった泥だらけの剣を持ちまたどこかへ行こうとしていた。心配して家族全員が玄関に集まり、彼の背中を見つめていた。その背中はいつもより大きく頼りがいのある背中だった。
「ユウリ……、家族を大事にしろよ」
 ただ一人の孫の名前を呼び、外へ飛び出していった。
 俺はこれがユキヒコと会えるのが最後なんだと悟り、悲しみがあふれ出してくる。悲しみに耐えきれず俺も外に飛び出す。
「おじいちゃんっ! 早く帰ってきてね」
 ユキヒコは振り返り笑顔で俺を見つめた。あんな笑顔を見たのは初めてなくらいその笑顔は輝いていた。
 ユキヒコは再び歩き出す。
 その背中を見届けて、俺はその場で泣き続けた。
 ユキヒコが家を出た次の日、竜は姿を消し世界に再び平和がおとずれた。

 そしてあれから一年、ユキヒコは帰ってこなかった。竜を倒した英雄の笑顔は二度とみることができなかった。竜を倒した英雄に俺の名前を呼んでもらえることもできなかった。竜を倒した英雄と会うことも——、
 そんな英雄が不在のなか、悲劇は再び起きてしまった。
——メガソフィア
 そう呼ばれている寄生体が現れ、世界はまた混乱に陥った。メガソフィアは人間以外の生き物に寄生しその生き物の体を操り人間を襲う。あまりに突然の出現に俺たちの国の対応が遅れ、被害はどんどん広がっていった。
 俺の両親はその時メガソフィアに殺されてしまった。クマの体に寄生したメガソフィアが俺たちの村に現れ俺たちは危険を察知し村から逃げ出した。だが走って逃げているのは俺だけだった。両親は俺に希望を託し、時間稼ぎをするためメガソフィアにできる限りの抵抗をした。俺が走っているなか、後ろから親の悲鳴が聞こえたことは今でも鮮明に覚えている。
 メガソフィアに対抗するため俺たちの国では中学を卒業した生徒は強制的にメガソフィアと戦うための訓練を受けることになっている。

 その初日、国王陛下のお言葉の後、訓練所長官が前に出てきてあいさつをする。

Re: 赤色の瞳 ( No.2 )
日時: 2017/12/08 19:23
名前: 青りんご (ID: o4cexdZf)

「今日からこの訓練所の隊員のみなさん、こんにちは」
 そう長官が言うと、訓練所に集められた何百人もの少年・少女はあいさつを返す。
「私は九区第二訓練所長官の飯沼です。今この世界はメガソフィアが出現し漆黒の竜に続いてまた人類にとっての強敵が現れました。君たちのなかでつらい思いをした人もいると思います。そしてそのつらい思いをした人の思いを背負ってメガソフィアと戦うのが君たちです。子供たちの力を借りなければならないほど今この国はまずい状況です。一人一人が国の生命線の一部だという自覚を持ち、日々力をつけ能力を伸ばしてください。メガソフィアとの戦いを終わらせるのは君たちです。この言葉を決して忘れないでください。以上です」
 長官の飯沼は一礼しマイクの前から去っていった。
 俺は長官の話は適当に聞き流し、ずっと他事を考えていた。
「えー、では最後に部隊の編成を決めていきたいと思います。この部隊は場合によっては一生共に過ごすメンバーになります。また試験に合格した部隊は各部隊ごとに拠点を決めそのメンバーで外での生活をすることになります。君たちの今後の生活に大きく影響するので後程修正するとこもありますが五人グループをそれぞれで作ってください。そのメンバーが部隊となり今後ともに過ごしていく仲間となりますのでよく話し合って決めてください。じゃあグループをそれぞれ決めてください」
 みんなが一斉に動き出した。
 グループがどんどん決まっていくなか、まったく動こうとしない人もいた。
 取り残されているのはちょうど五人。その五人以外はあらかじめこうなることを知っていて誰と組むか事前に決めてあったんだろうと思う。
 取り残される五人。グループが決まった人の視線がその五人に集まる。
「ボッチとかこういう時かわいそうだよな」
「よかった、○○ちゃんと一緒で」
「知らない人と生活するとかちょー最悪じゃん」
 などなど、安堵や軽蔑の声。
 その視線に対し取り残された五人は何も反応をおこさなかった。
「じゃあそこの残った人はちょうど五人だしそこの五人でグループ作りなさい」
 長官がそういい、しかたなくその五人は近くに集まる。
 一人は小柄で茶色の髪の毛が後ろで結んであり、少し嫌そうな顔をしている少女。
 一人は落ち着いた雰囲気と背中まで届いている長い黒髪が印象的な少女。
 一人はぽっけに手を突っ込み髪がかっこよくセットしてある、みるからにヤンキーの少年。
 一人は眼鏡をかけており、生徒会長とかをやっていそうな大物のオーラが漂う少年。
 そして、もう一人が——俺、ユウリ。

Re: 赤色の瞳 ( No.3 )
日時: 2017/12/14 18:40
名前: 青りんご (ID: o4cexdZf)

 外は青空が広がっており、外からはワイワイはしゃいでいる声が聞こえた。
 グループが強制的に決められ一日が経ち、新たなる試練が俺たちに降りかかってきた。
 それは、グループ決めが終わり番号と部屋を割り振られた後、
「では訓練は一週間後から始めていきたいと思います。訓練が始まるまではここでの生活に慣れるため、訓練所内で自由に過ごしてください。訓練所は国が管理しているので娯楽施設も充実しており、別館もさまざまな店がありますので——」
 司会の人が説明を終えると各グループごとに部屋に戻り、それぞれで自由時間を楽しんだ。
 この訓練所の寮は四階建てで一階が食堂とお風呂、娯楽施設などがあり、二、三、四階は隊員が住む部屋がある。そして、西の方には別館がありいろんな店があるらしい。俺たちの部屋は2014号室で二階にある。各グループで使う部屋はとても広く五人それぞれの個室もあり、俺たちはそれぞれ個室にこもっている。俺は自分の部屋で最近はまっているマジックについて研究していて、ご飯とお風呂の時以外は外に出ることはなかった。
 そんなある時の食事の帰り、玄関のドアを開けようとした時向こう側から廊下に出てくる人がいた。髪の毛が逆立って全身派手な服で彩っている少年だった。こうして間近で見ると意外と身長差があり、俺の頭のてっぺんが彼の鼻ぐらいの高さだった。目つきが悪く不良にしか見えないその姿は近づきがたい印象で、目を合わせることはとてもできなかった。
 だが俺はいい機会だと思い必死に言葉を探した。
「あの……俺、ユウリって——」
「どけ」
 俺の体を突き飛ばし、廊下に歩いて行った。
 俺は彼の歩く姿を見つめながら、立ちはだかる大きな壁を実感していた。

 そんな生活を続けているなか俺たちのグループ内で変化が起きた。
 俺はベットに寝転がりマジックについての本を読んでマジックの研究に夢中になっている頃、
 突然俺の部屋のドアが叩かれ、静かな俺の部屋に音が響いた。
 まったく予想もしていなかった出来事に驚き、俺は恐る恐るドアを開ける。
「——やあ、こんにちは」
 優しく微笑みながら、眼鏡をかけた少年が姿を現した。
 生徒会長でもをやっていて何事も真面目に取り組む優等生で、優しい表情でみんなから慕われそうな容姿をしていた。
「僕ヤマトって言うけど、君の名前は?」
 優しい口調で俺に話しかけてくる。
「あ、俺はユウリって言います」
 初めての人との会話に緊張し、少し声が上擦ってしまう。
「初めましてユウリ君。ちょっと話に付き合ってもらってもいいかな?」
「あ、うん」
 俺とヤマトはベットに座り自由時間三日目にして初めての会話をする。


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