ダーク・ファンタジー小説

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夕晴と蝉時雨、君の笑顔。
日時: 2018/04/28 21:29
名前: えんぴつ (ID: OYZ4MvwF)
参照: .

『───皆のことはきっと────

──ううん、絶対にね──

────忘れないよ。



────だからありがとう。


────……またいつか』




まるで作り上げられた歯車仕掛けのような
舞台の上で踊り踊らされる。


そんな私たちにはきっと、
もう時間はないんだろう。


実験の為に、己を殺すか。

己の為に、実験を壊すか。


騙し疑い信じて演じるこの話を、
今全部崩してしまおう。


そして、本当の話へと
書き換えてしまえ。



*+*+*+*+*+*+*+*-*+*+
えんぴつです。

これは合作ですので、
そこはご注意ください。

参加者様は
後程記載させて頂きます。


参加者様へ

ここまで参加しに来てくださって、
本当にありがとうございます。

ところで本題に入りますが、
お知らせ等は相談スレにてお願いします。

ここには小説以外
お書きになることの無いよう
お気をつけ下さい。



以上のことを、宜しくお願いします。

Re: 夕晴と蝉時雨、君の笑顔。 ( No.6 )
日時: 2018/05/06 21:37
名前: 1089CP (ID: Z5cmkimI)

笹森 倉乃輔
(二年三組)

  +

成澤 緋音
(二年三組)





「遅い!」
「うっせ」

教室に着くなり耳に入ってきたのは、うんざりするほど鼓膜を突き破るような幼馴染の声。
眉を吊り上げて般若のような顔を作って立ってやがる。
こいつは成澤 明音。
毎朝開口一番、俺に説教してくるのが趣味らしい。

「文句は禁物。何やってたかしらないけど、五回も連続で遅刻とかありえないでしょ!」
「別にいいだろ。先公には謝っといたんだから」
「そういう問題じゃない!」
「それに、今日は授業には間に合ってるし」
「はぁ………この能天気馬鹿やろう」

わたしは頭を抱えた。まったくこの馬鹿は、と。
目の前で悪びれる態度もなく、そのままさっそうと席に座るクラスメートの笹森 倉乃輔。
始業式初日から遅刻して、そのあとも数週間、いくらか遅刻。
そして今回は五回連続だ。
わたしが怒る理由。きっちりと知らしめてやらないと。

「クラノスケ! アンタ、この間の模試もサボってたよね? 別にグダグダ言うつもりもないけど、日数も足りてないのに何やってんの!? それに加えてここ最近の遅刻の数。そのうち、先生からマジで見放されるよ!」
「………グダグダ言ってんじゃねえか」

説教趣味の馬鹿はせっかくのくつろぎの時間だというのに、
俺の机をバンと叩いて目くじらを立ててなにやらガヤガヤ騒ぎ立てている。
あーもう聞き飽きた、そういうのは。

「……はぁ。どうせ朝のバイトとかまたやってたんでしょ。付き合い長いわたしにも隠して何やってるかは知らないけど、今は学業に専念しなきゃ駄目だって」
「お前に心配される覚えはねえよ」
「くー、この若造。人の気も知らずに!」
「誰が若造だ。同い年だろ」

分からずやの能天気馬鹿やろうがおもむろに取り出した教科書を自分の顔に乗せて、
そのまま椅子に体重をかけつつすっかりリラックスモードに入っているのを見ながら、
なんとも煮え切らない思いでわたしは目の前の幼馴染との毎朝のごとき口論を楽しむ。
昔からの腐れ縁みたいな感じで倉乃輔——クラとはいろんな話題を共有してきた分、
怠け癖のようなものがついている彼の性分を知ってからはいろいろと世話したくなってしまうのだ。
そして事あるごとにこうやって言い合うのだが、そういうのももはや習慣化していて、
どこかで楽しんでいるところもあった。
楽しまなきゃやっていけない。
まあどうにでもなってくれとは思ってるんだけど。
なんだかんだで放っておけないやつなんだよね。


「………あとからアンタの大嫌いな極太濃厚激辛明太子を食べさせてやる」
「ん。なんか言ったか?」
「何でもないよ! そこで一生昼寝でもしてろ!」


そんなこんなでとっくに終わってしまったホームルームの後で、
ガヤガヤと会話しているクラスの連中をチラっと見つつ、
俺は説教馬鹿とのやり取りをしながら「いつもの日常」を感じつつ、
教室という空間に入り込んでくる窓からの温もりに浸っていた。

もうすぐ一時間目の授業が始まる。

Re: 夕晴と蝉時雨、君の笑顔。 ( No.7 )
日時: 2018/05/08 06:33
名前: 天城 (ID: /1jhe2RQ)

渡瀬 雫
(一年二組)



やりかけていたゲームは昨日寝るのがもうちょっと遅ければ攻略していたらしく、開始してから3、40分で完全攻略。
ネット上ではとても難しいと話題であったが特に難しいとも感じなかった。これは…ハズレだったな。

そんな振り替えをして次のゲームに、と手を伸ばそうとした瞬間家の電話が鳴る。

「…………はぁ。」

とても五月蝿いが、この時間に電話を掛けてくる面倒な奴は一つしかないため、放っておく。

そんな面倒な奴というのは、学校の教員。毎日電話を大体決まった時間にかけてくるから面倒なものだ。
いつもこの電話を無視していたら、この前家にまで押し掛けてきた。まぁ、居留守を使ったら帰って行ったけど。ここまで来たら誰もが予想できるだろう。そう、私は不登校だ。


別に虐められてるとかそんな敏感な考えも無い。
なら、何故不登校?理由は簡単、学校で学ぶ事なんて一切無いから。
習うことなんてちょっと考えれば分かる事。それならめんどくさい規則で縛られる暇なところへ行く必要ないでしょ?
こんな感じで小学校も物心ついたころには不登校でいた。

不登校になってから毎日こうやってゲームばかりしている。ゲームも簡単に攻略できるが学校よりは暇潰しとしてはいい。

両親は海外に居るし、日本に居てもどうせ不登校何て気にしている暇がないほど忙しいから私の不登校を止められる人なんて居ない。
居たとしたら会ってみたい。どうやって学校に行く気にするかとても興味がある。

本当に日常は暇だ。非日常な事なんて絶対起こらないと言っても過言ではない。そんな人だって多くいる。
でも、もし非日常が味わえるなら一度でも味わってみたいものである。

「…叶わないかもしれないけど」

いつの間にか電話は鳴っていなかった。あの電話のせいでまた余計な事を考えてしまった。
私は改めて学校というものへの嫌悪感を抱いて新しいゲームを始めていった。



>>>>>>>>>>>


卯月 翼斗
(二年二組)




朝のHRが終わり、また教室が騒がしくなる。
周りのクラスメイトはグループでまとまって話をしている。僕は、何処のグループにも所属していないので授業の準備をし終わったら大概自分の机でボーっとしている。
たまに話しかけてきてくれる人とは話すけど。

僕の席は窓側だからボーっとするのにちょうどいい。

誰かと話すのが嫌いというわけではないけど、小さい頃から自分を主張するのが苦手だった。
特に女子には。

運動能力が優れていたら違っていたかもしれないけど、残念ながら体育は苦手な科目に入るぐらい苦手だ。
それに加えて姉が居るせいかいつの間にかこんな感じで主張が苦手になってしまった。
家出もよく姉の意見に流されてしまう。

けど、僕は小さい頃から絵が好きでそれを自分を主張するものとしてきた。だから表現する分には困らないんだけど…

美術の時間に結構色んな人から質問されるからそこは困るよね。僕は一人でゆっくり絵を描きたいからなぁ。
ってなると美術の時間も嫌いかも。

「…好きな教科無いのか?」

考えてみたらそうかもしれない。まぁ、国語とかの教科が好きということにしておこう。そうじゃないと結構学校が辛くなる…

「あの…1時間目は実験だよ?」

同じクラスの女子生徒が声を掛けてくれて我に返り、教室を見渡してみると、気付けば教室には誰もいなくなっていた。

遅刻してしまう。

僕は教えてくれた女子生徒にありがとう、と一言言うと教室を飛び出した。

後から考えてみればその子も同じ授業なんだから一緒に行けばよかったのだけどあの時は急いでてそんなこと考えられなかった

Re: 夕晴と蝉時雨、君の笑顔。 ( No.8 )
日時: 2018/05/08 23:10
名前: 宝治  ◆wpAuSLRmwo (ID: iihmFlhR)

早乙女茱萸(一年一組)

高校生になって、授業はとても難しくなった。
国語は知らない漢字がたくさん。数学は知らない記号がたくさん。英語は知らない単語がたーっくさん!
知らないことに出会うと、茱萸はまず驚くの。今までたくさん勉強してきたのに、まだまだ世界には知らないことがあるんだって。
そして今日の午前中は、知らないこと尽くしの国語、数学、英語という豪華三本立てである。最期の方はもう驚くのも疲れちゃった……。
そんな時に限って、先生は茱萸を当てるから、今日はついてないな〜。朝に双子の卵焼き当てちゃったから揺り戻しなのかな。

「はい、では早乙女さん。テキスト三十二ページの五行目から読んで訳して下さい」

英語の先生は若くて美人な先生。年の離れたお姉さんがいたらこんな感じなのかも。でもちょっと冷たい感じがする。

「えーーあ、うー、……アイアム………ぺん」
「違います。早乙女さん、あなた本当に予習したの?こんな単語も読めないなんて」

教室に忍び笑いが満ちる。茱萸が簡単な問題に間違えるとクラスのみんなはいつも同じ反応をする。ちょっとやな感じ。
先生も笑ってる。先生の形良い唇には少しキツめのルージュが引かれていて、それがこの人によく似合ってるんだ。
こうやって茱萸を叱る時はなぜかいつも小気味よさそうに口の端が上がっている。
意地悪な表情がとても大人のお姉さんみたいで、茱萸は反省するよりも恥ずかしいよりも、憧れの気持ちでいっぱいだ。
クラスの男の子も女の子も真似できない、大人だけの特別な微笑だと思う。
先生にならバカにされてもいいな、と変に開き直りながら茱萸は返事を返した。

「じゃあ、十回書き写ししてきますっ」
「いい心がけね」

この時の表情はお母さんの顔に似てる。優しい表情。
茱萸の周りには素敵な大人の女性がたくさんいる。
いつか茱萸ももっと背が高くなって、知らないことにも驚かなくなったら、きっと、お母さんみたいな、先生みたいな大人になるんだから。

——————————————————
文生靜(二年四組)

今朝活けた花達に見守られながら、僕は教室の片隅で授業を受けたり休憩で友人と他愛ない会話に耳を傾けたりする。
小テスト、宿題、テスト範囲の出題、こぼれ話。時々ほのめかされる進路の話題。
二年生のこの時期はまだまだ大学入試の陰鬱な影は遠く、皆それぞれ高校生らしい遊びを見つけることに終始しているけれど。

「この夏休みは○×大学のオープンキャンパスに行くんだ。文生も一緒に行かないか?俺は経済学部に目つけてんだ」
「〇×大か。いいね。僕は理系だから工学部、理学部、医学部に興味がある」
「あー、受験やだけど大学生にはなりてえよな」
「まあとりあえずは中間テストの勉強を頑張ろうよ、お互いに」

授業開始のチャイムがなり、友人は定位置に戻った。
学級委員のやる気ない「起立、礼、着席」

数学教師のぼそぼそしたしゃべり声と、チョークが黒板にあたって削れる不規則で硬質な音。
この授業一コマ一コマが、自身の未来につながるのだと教師は言う。
僕の人生でこれまで来た道を振り返れば、たくさんのノートや教科書がうずたかく積み重なっていることだろう。

それが知識という形で僕の血肉になっている。
その知識はいずれ必ず役に立つようになっている。

剣道、ピアノの習い事も同じだ。親が子である僕のことを思って通わせているのだ。
ならば、僕が毎日活けている花は?
黒板の横で徐々に枯死を待つあの花達は、僕の未来にどう影響するのだろうか。

Re: 夕晴と蝉時雨、君の笑顔。 ( No.9 )
日時: 2018/05/15 02:36
名前: 1089CP (ID: Z5cmkimI)

笹森倉乃輔(二年三組) + 成澤緋音(同左)




もうすぐ一時間目の授業が始まる。
ホームルームには遅刻したが、今日は奇跡的に授業には間に合った。
つっても、正直まじめに聴く気があるかと聞かれたら別だが。
まあここにいる以上、一応授業くらい、聴く態度くらいは取るつもりだ。
俺は眠たげだった頭を無理やり起こし、
自分でも分かるくらいいかにも気だるげな手の動きでカバンの中をまさぐる。
テキスト、テキストと。
すると。

「あんの親父……」

呆れた。
手に伝わるサラっとした感触。
かばんの中に冊子らと混ざって入っていたのは、紛れもない札束だ。
しかも分厚い。

「学校にまで……何考えてんだよ」

俺の家庭は、まあ、世間的に言えば上流階級ってやつで。
かなり裕福なほうだとは思う。
生まれてこの方、俺自身カネには困ったことはない。
親父は、リサイクル業兼総合アミューズメントなんとかっていう業種の会社の重役で、
業界じゃかなりの通らしいんだが正直ちょっとズレてるところが目立つんだよな。

「こんなもん財布に入んねえだろ……」

息子の俺に若干甘く、過保護なところがよく悪くもってところか。
金を工面してくれるのはありがたいが、
なんかいろいろ気が抜ける。
正直なところ、俺自身金にはそこまで執着がないっていうか。
でもあればあるで嬉しい、っていう程度。

——もらっとけもらっとけ、ガハハハ。

そんなふうに笑う父親の姿を想像しながら、俺はため息つく。
……銀行に振り込めよ。
それでも金をありがたくカバンにしまい直すとそのまま教師が入ってくるのを待つ。

そんなこんなでチャイムが鳴り、教室の扉が開いた。


「皆さん聞いてください。一時間目は数学の授業でしたが、——先生が出張でいらっしゃらないので自習にします。次のテストに向けて各自がんばってくださいね」

入るなり、めがねをかけた人の良さそうな中年の教師が少し和やかな口調でそう呼び掛ける。
——こいつは確か、保険の山中か。
なるほど、自習ね。
ラッキー。
ちょうど眠たかったところだし、いい巡り会わせだ。
さてと。
朝早く一働きした分、ここで寝直しも悪くねえか。と。

「———ゲ」

そのとき、悪寒が走る。
自分でも阿呆なくらいのしかめっ面をしてたと思う。

「何固まってんのアンタ」
「お前が俺の視線の目の前に存在するからだ」

なんでいる。
自習と聞いて、コイツは、この女(アマ)は、
さっそく新幹線のぞみすら超える速度で俺のほうを振り向きやがった。
そして、ズンズンと近づき。
いつのまにか、仁王像のごとく俺の机の目の前に立っている。
いや割とマジでコイツとだけは目が合いたくなかったんだが。

「何ドサクサに紛れて寝ようとしてんの、このクズクラ」
「ったく、来んなよ……」

教室のやつらがそれぞれガヤガヤと各自教科書や参考書を取り出す中、
緋音はいつもの如く俺専属の教師気取りを始めるらしい。

「はい。数学なら、今日はこのテキストね。もちろん持ってきてるでしょうね、あんた」
「お前の女子友達があっちのほうで誘ってっぞ。相手してやんねえのか」
「あーアレ? 大丈夫大丈夫。ちゃんと断りいれておいたから。馬鹿を目覚めさせてくる、ってね」
「誰か馬鹿だボケ。つーかなんのアポだよソレ」

呆れて気の利いたことも言えない。
こいつはまったく、何考えてんだか分からねえ女だわ。
なんでこんなに俺は面倒見よくされてんのか。

「とにかく寝させないからな! 勉強、勉強!」
「…………このアマ」

マジらしい。
この目はマジだ。
バン! と、さっそく今日二回目の机叩き。
ああ、勇ましいこと。
目がギラギラしてやがる。魚釣りに燃える釣り人より本物のソレだ。
俺はなんの大物だったつーんだよ。
こいつと幼馴染で腐れ縁で付き合ってるってのは、ある意味呪いに近い。
有難迷惑もいいところだ。
ま、テキスト開いて適当に話流しとけばその内、こいつも自分の勉強に没頭するだろ。

「はいはい。しゃーねえな。何ページだっけ?」
「やっとやる気になったか。いい心がけだ」

得意げに笑った緋音は、こっちの気も知らず、テキストを開くと、
椅子に全体重をもたれさせてだるそうにする俺を知ってか知らずか一人いろいろワケの分からん数学の講釈を始める。
もう何言ってんだか分からんが、勝手にしゃべってくれ。
適当に相槌打ちながら流していく。
早くチャイムが鳴ることだけが今の願いだった。

Re: 夕晴と蝉時雨、君の笑顔。 ( No.10 )
日時: 2018/05/18 21:30
名前: 宝治  ◆wpAuSLRmwo (ID: iihmFlhR)

早乙女茱萸(一年一組)

午前中最後の授業も、昼休みのチャイムとともに終わり。茱萸が大好きなランチタイムの始まりだ。
クラスメートたちは既にもう大小の仲良し集団ができていて、めいめいに机を寄せたり椅子を移動したりしている。
弁当箱を包むハンカチが机いっぱいに広がってとても鮮やかだ。

「あー、何そのから揚げ美味しそ。私の冷凍食品のおかずと交換してよ」
「いいよ。その代わり、二品よこしな」
「がめついね、モテないよ」

「おい、お前またサンドイッチかよ。よく持つな」
「前の授業で早弁してるからな」
「よくバレねえな?!」

ハンカチだけじゃない、クラスメートたちの表情も会話も、とてもウキウキして楽しそう。
もし教室のみんなが花壇の中で規則正しく咲く花なら、茱萸はきっとそこからこぼれて地面に咲いた花かな。
みんなから少し遠いところで、疎外感を感じて咲く。でも、誰の目も気にしないで手足を伸ばし、自分だけの空を見上げられる。
茱萸はその自由が大好きだ。

「そだ、今日は屋上でご飯をたべよう」

今朝の通学路でみた鳩がもしかしたら学校で羽を休めているかもしれない。
もし会えたら茱萸のお弁当を分けて上げようと思う。

——————————————————
文生靜(二年四組)

「文生、飯だ飯」

前の机に座る友人が椅子をクルリと回転させて振り向き、僕の机にお弁当を置いた。

「ごめん、今日は弁当じゃないんだ。学食で食べるよ」
「まじかー、じゃあ俺は独り寂しく便所飯ってくっか…」
「馬鹿なこと言うなよ。全方向に友達いるだろうが」

義母が弁当を作らない日、僕は安心する。もちろん彼女の作る弁当がまずいわけではない。
むしろ並の手作り弁当より手が込んでいて、冷凍食品なんか一つも入ってないし、昨日の夕飯の残りなんてこともまずありえない。
だからこそ、気を張るのだ。義母は実の息子ではない自分に最大限の配慮をしているのではないか、彼女にとって僕は重荷でないか。
義母の弁当が完璧であればあるほど、僕は心苦しさでいっぱいになるのだ。

食堂についた。
カウンターの中にいるパートのおばさんは不愛想に僕の手から食券をもぎ取り、雑な動作でラーメン鉢を突きつける。

「ありがとうございます」
「………」

感謝の言葉は大抵無視されるか目礼で返されるのみだ。
僕はこの無関心さに心が休まる。彼女はここの学生を記号としか見ていない。
だから僕に特別な役割を当てはめることも、何かを期待することもない。
僕は受け取ったラーメンをトレイに乗せて会計をすまし、隅の方へ座った。

「あ、文生君だ。独り?一緒にご飯食べよう」
「またラーメン?ここのそんなにおいしくないのに〜」
「この画一的で愛情の微塵もない味が落ち着くんだよ」

僕は笑って席を進めるのだった。


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