ダーク・ファンタジー小説
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 非日常
- 日時: 2018/08/02 01:45
- 名前: あいうえお (ID: YnzV67hS)
人は自分にないものを求める。
勇気であったり愛であったり金であったりと。
私が求めたものは<日常>だった。
「はぁ…はぁ…」
俺は今走っていた。どこまでも続き、先に光がないこの廊下を。
「なんなんだ」
走りながら俺はそう呟くしかなかった。
ずっとずっと走っていた。ただ単にひたすら走っていた。
そう言えばなんで走っていだんだろうか?
ふとそんな疑問が頭に浮かんだ。いや、疑問自体はすでに浮かんでいたのだろう。脳がこの出来事についていっていなかっただけだ。
「はぁ…はぁ…………ふぅ…」
一度処理が追いつかなかった脳を休めるために走るのをやめて止まった。
「落ち着け俺、今何が起きてるか考えろ」
俺はなぜ走っているのか、なんのために走っているのかを考えた。
が、さっぱりわからなかった。
止まっていても拉致があかなかったから前へ進もうとしたその時だった。
「…………て……………て……」
声が聞こえた。
「て?なんだこの声」
「お……て………」
「おて?なんなんだ本当に。何が言いたいんだ?」
「わっ!」
「うわっ!」
いきなり明瞭に聞こえたその声は俺の隣の席にいる女の声だった。
「どうした?葉月?いきなりそんな大きな声出して」
少しざわめく教室の中に先生の声が響く。
「あっ、あの、いえ!なんでもないです!」
「そうか〜じゃあ授業続けるぞ」
他のみんなはクスクスと笑っていつものことのように流した。
「照史、あんたが寝てるせいでまた私が笑い者にされてるじゃない!高校二年になったのよ!?少しは自覚持ちなさいよ!」
「ああ、悪い」
「誠意がこもってませーん。もっとちゃんと謝ってよ!」
「悪かったって、ほんとに。帰りにお前の好きなあれ奢ってやるから。な?」
「ったく仕方ないわね〜」
こいつは葉月優香里(はづき ゆかり)
俺、榊照史(さかき あきと)の幼馴染だ。
「んで?なんの夢みてたの?」
「夢?」
「そうよ!寝てたんだから見てたんでしょう?」
「別に寝てる時必ず見るってわけでもないだろ、夢は」
「見てないの?」
「見たけどさ」
「じゃあ教えてよ」
「なんでさ」
「いいじゃない別に」
俺は少し考えて、話すことにした。
「よくわかんない夢だぜ?ただ単に走ってるだけ」
「それだけ?」
俺はこくんと頷いた。そうすると葉月はあっそ、と言って授業に戻った。
俺はなんだこいつと思った。
- Re: 非日常 ( No.1 )
- 日時: 2018/08/02 02:10
- 名前: あいうえお (ID: YnzV67hS)
俺は時々葉月の表情に惹かれるところがある。
葉月はとてもいいやつで、俺をからかったりしてるが、根はとても優しくて、誠実で、努力家で。
僕は彼女のそういうところが好きだった。
今も彼女のことを思うとふと涙が出そうになる。
「照史」
「どうした?」
「どうした?じゃないわよ、ほら行くわよ」
「え?行くってどこに?」
「クレープ屋よ」
「え?」
「え?でもないわよ!奢るって約束したでしょ!」
「あっ」
「忘れてたわね、あんた」
俺は渋々と葉月とクレープ屋へ向かった。
葉月はクレープが大好物で、いつも学校の帰りにここへよってはイチゴクレープを頼む。
「お前イチゴばっか食うよな。チョコバナナの方が美味いのに」
「別にいいじゃない、イチゴの方が好きなんだから」
「たまにはこっちも食ってみろよ」
「じゃあそれ一口ちょうだいよ、私のも一口あげるから」
ドキンとした。俺が葉月を意識し始めたのは中3の頃からだ。それまでは間接キスだの、手を繋ぐだの、二人で出かけるだのとたくさんしてきた。でも受験生になって少し距離が出来たせいか、少しずつ俺の中で葉月に対する想いが変化してきてたのだ。
「なーに黙ってるのよ?もらっちゃうわね」
「あっ!おまっ!いいって言ってないぞ!」
「あらそう?沈黙は了承だと思ってるものですから」
おーホッホッホとお嬢様のように高笑いの真似をしながら俺をからかった。
悔しいがこいつは頭がいい。頭脳明晰、容姿端麗、加えて運動神経も抜群。
「なんでこんな完璧なんだよ…」
俺は呟いた。
「なんか言った?」
「…何にも」
少し沈黙が訪れ、気を紛らわさせようと俺はとりあえず話しかけた。
「そういえば優香里」
「なあに?」
「なんで夢なんて聞いたんだ?」
「夢?」
「ああ、授業中聞いただろ俺に」
「あ、ああ、あれね」
何か歯切れが悪い。葉月らしくない。
何か考え事でもしてたのだろうか?
「気になっただけよ」
「そうか?」
葉月はたまになにかを誤魔化そうとする。その時はいつも歯切れが悪い。いつもは少し検討がつくのだが、今日の葉月に関してはまったくもって検討がつかなかった。
「まあいいや、何か困ったことがあればなんでも言えよ?」
「…」
葉月は沈黙した。いつもなら、あんたを頼るくらいなら自分で解決するだの、いつも困ってるのはあんたでしょ、とか反論するくせに今日は沈黙した。
「お、おいどうしたんだよ優香里」
「あんたは」
「ん?」
「照史はこの世界どう思う?」
「おいおい、いきなり重い話だな。どうしたんだ?お前らしくない」
「答えて」
いつもとは違う雰囲気の葉月だった。
真剣といえば真剣な葉月に値するのだろうが、少し違う方向に進んでるような気がしてやまない。
「わかったよ」
俺は少し考え込んでるふりをした。
俺の中で答えはすでにでている。この世界はゴミだ。いや明確には世界がではなく人間がだ。俺は人よりも感受性が強かったり感情移入が激しい。だからこそ、この結論がでた。人間は一番のゴミだ。生態系を荒らし、環境を破壊し、何かを犠牲にしないと生きていけない欠陥品だ。俺はそれを正す、正したい。だがそんなこと葉月の前では言えるわけもなかった。
「平和だと思うよ。歴史的観点から見ても戦争はないと言ったら嘘になるが規模が小さくなったし、今じゃ病気とか怪我に対する医療技術も発展して長生きもできる。いい世界だ」
「そう、そう思うなら、いいの」
やはり葉月の歯切れは悪い。何かを隠してるような、そんな感じじゃない。
「どうしたんだ本当に?今日のお前おかしいぞ?」
そう、今日の葉月はおかしい。いつもなら常に元気で明るく俺の前じゃ絶対悩んでるそぶりや疲れてるそぶりをしない。なぜなら俺は知っていたからだ。葉月は人から隠れてネガティブな感情を出すことや、人の前じゃ自然な自分を押し殺してまで明るく元気で接していることも、
誰にも頼らず常に一人で歩き、常に他人を助ける自己犠牲の心を持っていることを。
俺は葉月に惹かれるところがもう一つある。そう、葉月の自己犠牲感だ。
- Re: 非日常 ( No.2 )
- 日時: 2018/08/02 02:34
- 名前: あいうえお (ID: YnzV67hS)
葉月は沈黙し続ける。
「なあ、おい?優香里?」
俺の言葉がまるで届いていないようで、葉月が見せる切なげな表情は俺の心を揺さぶった。
「あ、ああごめん。ちょっと考え事」
なにを考えてたんだ?と聞きたかった。
でもできなかった。
「そうか、そうならいいんだ。心配させんなよ!」
「あんたに心配される筋合いはないわ!」
葉月はそう言って元気なところを見せつけたが、俺にはそれが空元気だということにすぐ気がついた。
もしこの時僕が彼女に別の返事ができれば、今が変わっていたのかもしれない。
「ところで照史。もうすぐ夏休みだけど、あんた用事はあるの?」
「ああ、一応な。と言っても塾の夏期講習とオープンキャンパスくらいだけどな」
「なんか普通ね」
「普通とはなんだ、普通でなにが悪い」
俺は少しむすっとして返事をした。
そしたら
「いいのよ、普通で」
と返事がきた。その時の葉月の表情はまた切なげなものだった。
俺はどうにかその表情をさせまいと話を切り返した。
「そういうお前はどうなんだよ?」
「私?わたしはねー」
葉月は指で数え始めた。
「なに数えてんだ?」
「やることよ」
「やること?」
「ええ、まあ先ずは花火大会でしょ?夏祭りでしょ?プールでしょ?それからね」
「ああ、わかったわかった。俺と違って楽しい夏を過ごす予定なんですね」
俺は自虐をしつつ笑った。
「あんたも行けばいいじゃない花火とかそういうの」
「いや、行ったとしてもどうせ一人だし…」
「あんた彼女とまでは言わないけど友達いないの?」
やれやれといった感じで葉月が言った。
「し、失敬な!友達くらいいるわ!」
「じゃあ誰かと行けばいいじゃない」
「あいや、その、あの、ですね…」
「はっはっーん、さてはみんな彼女と行くとか中学の友達と行くとかであんた入れなかったんだ?」
図星だった。ニヤニヤとした葉月の顔が眼に映る。そう彼女はこういう表情をしてなきゃいけないんだ。
「な、なにおう!」
「図星でしょ?」
「う、グググ…」
「しっかたないわねぇ、一緒に行ってあげるわ」
「え?」
「え?じゃないわよ。花火、一緒に観に行くわよ」
「え?」
「いやだからね…」
葉月の提案に驚きを隠せなかった。去年はなぜか葉月に対して意識し始めていたから、単純な会話以外避けるようにしていた。だから花火大会へ一緒に行くなんて想像もしていなかった。
「あ、いやその、友達とかに迷惑かかるのでは?」
「いいわよ、どうせ私も一人だし」
「は?」
「は?ってなによ」
お前も一人じゃないかとツッコミたくなったがなんとか止まることができた。
「まあ嫌ならいいけど」
「いえ!嫌じゃありません!是非!行かせていただきますであります!」
「あんた言葉おかしいわよ?」
俺は無性に花火大会が楽しみになった。
「ちなみに、失礼かもしれませんがお尋ねしてもよろしいでしょうか?」
「なによ」
「中学の時から俺行くのめんどくさくて断ってきたんですが、その時から今までどうしてたんでしょうか?」
「一人よ」
「さっせんした姉御!!!」
「あね、えっ?」
突然叫んだ俺の声に葉月が若干引いてるような気もするが、そんなことどうでもよかった。今まで俺以外と花火大会に行ってないというところが大事なのだ!
「まあ、いいわ、花火大会楽しみにしてる」
「ああ俺も」
そんな会話をして、俺らは家に戻った。
この時の僕はまだ花火大会であんな告白を受けることはまだ知らなかった。
- Re: 非日常 ( No.3 )
- 日時: 2018/08/02 15:26
- 名前: あいうえお (ID: YnzV67hS)
花火大会当日。俺はいつもよりワクワクしていた。なぜだが数年前までは普通だった葉月との日常が非日常のように感じるからだ。
俺は非日常が大好きだ。漫画やアニメなどを観ては心にくるものが多々ある。俺もこんな非日常を送りたい。常々そう思ってる。そしてその願いがついに叶うと思うとよりワクワクが止まらなくなりつい変な挙動をしてしまっていた。
そんなことをしていると浴衣姿の葉月の声がした。
「おまたせー。待った?」
「いや、俺も今来たとこ」
もちろん嘘だ。俺は30分前からここにいる。
「嘘でしょ」
「え゛っ」
心を見破られ、動揺してしまい、つい、いつもとは違う声が出る。
「だって私30分前から照史のことあそこの陰で見てたもの」
「はぁ!?」
俺は大きな声で驚いた。
(30分も?陰で俺を見てたってのか?つまりあの謎の挙動も全部見られてたと!?)
動揺が隠せないことに葉月は面白がって笑った。
「あんたの挙動面白かったわ」
「恥ずかしくて死にそうです」
「なんで敬語なのよ」
恥ずかしさが滲み溢れ出てくる。
真っ赤に染まって下を向いた俺の顔を笑顔の葉月が覗き込んで来た。
「でもあんたってそういうところあるのね」
俺はサッと顔を遠ざけていいかえした。
「な、なにがだよ!」
「ふふーん。秘密」
葉月はからかうように言って笑っている。
俺は葉月が笑ってくれるのならそれでよかった。
会場について、いつものように他愛のない話をした。そして花火が上がり始めた。
空に大きな音ともに花が舞う。
「綺麗だねー」
「ああそうだな」
少し沈黙が訪れる。
「たーまーやー」
「古くないか?」
「そうかしら?」
また沈黙が訪れる。一言ずつの会話しか続かない。
「久しぶりね」
「なにが?」
「あんたとこうやって遊びに出掛けるの」
「そうか?」
「ええ、なにせ一昨年は仕方ないとして去年は避けられてましたからね」
葉月は意地悪な表情でまた俺をからかう。
バレてたのかと心の中で思う。
「でも今年はこれで嬉しい」
ドキンとまた心臓が跳ね上がる。
「なんで嬉しいんだ?」
震える声が抑えられてるか心配になりつつ返事をした。
「だって、あんたと一緒に観れるからじゃない」
当たり前のような顔をしてそんなことを言うから、俺は葉月の顔を見れなかった
「なんで目をそらすのよ」
「いいだろ別に」
「なんでよ?」
「だから俺の自由じゃないか」
「理由が知りたいのよ」
あまりにもしつこく聞かれるから思い切って言ってやろうと思った。
「ああわかったよ!それはな!」
お前が好きだからだって。
でも言おうと思った瞬間、大きくて綺麗な花が舞、俺はその輝きに言葉を失ってしまって、結局伝えられなかった。
「んで?結局なんでなの?」
「気まぐれだよ」
俺はそうとしか答えられなかった。そしてあっけなく花は散った。
「花火綺麗だったね」
「ああ」
沈黙が訪れた。葉月の言葉に対し俺は、ああ、としか言うことができなかった。
なんでそんな返事しかできなかったことに僕は後悔をしてる。
「あんた今日おかしいわよ?どうしたの?」
「おかしくないよ」
「いやおかしいわ、なにか話したいことあるんじゃないの?」
葉月はそう言って俺の顔を見つめる。
いつも葉月は俺の心を見通す。今日だって30分前に来ることを予想して、物陰に隠れて30分俺を見てた。
「言ってみなさいよ」
「なにもないよ」
「じゃあ私が勝手に話すわ」
俺は葉月がなにを話すのか、なにについて話すのかわからなかった。
「私ね、あの時、クレープ屋の時悩み事って言ったでしょ?世界がどうだのって」
「ああ」
「あれは嘘、世界がその反応が正しいっていうから実はもう何回も同じことしてるのよ」
「どういうことだ?」
「私ね、タイムトラベラーなの」
あまりにも現実離れした葉月の言葉に俺は言葉が出なかった。
「原因は生まれた時にあるみたいで、よく私はわからないんだけどね、時間を巻き戻せるみたいでさ」
「は……」
「驚くのも無理ないわ、信じてないかもしれない。時が変化したのは私しか認知できないもの」
明らかに非日常がそこに広がっていた。葉月の言葉に嘘はない。根拠はないがなぜか俺は確信が持てた。
「でもね、本当はこんな力いらないの」
「じゃ、じゃあ使わなければ…」
「違うのよ、この力は私の意志は関係ないの。私のことで世界が間違ってると思ったことに対して反応してるのよ」
「どういうことだ」
「例えばね、私が80歳で死ぬとする。それが世界の正しいことで私が今16で死ぬということはないの」
俺は全く理解できない。理解できるはずがない。
「80歳が世界が決めた絶対のルール。それに抗う16歳での死が訪れる、例えば私が信号無視して交通事故とかで死にそうになったらタイムトラベルが発生して、その原因、信号無視の手前に強制的に戻される」
「なるほど」
「つまりね、私死ねないの。寿命まで」
「なんでた?例での80まで危険を回避し続ければ…まさか…!」
「そう、80まで危険を回避するにはありとあらゆるパターンがあって確率的に80まで死ぬ危険性を追わない確率が低いわけ。30の時誰かが私を殺すために10年計画を練ってたら10年前その人が計画を練らないような世界にするように私は10年時を遡ってしまう、そしてまたその世界で80まで生きていかなきゃいけない」
「それって、すごく辛いんじゃ」
「そうね、しかも死以外でもそれは適応されるからさ、私何度もこの世界を繰り返してるのよ」
「何でそんな力が」
「知らないわよ、私もこの世界に抗えない人間の一人なんだから」
「そんな…」
俺は絶望した。この世界に。最も愛しい人が世界に束縛されていることに。そして僕は決意した。この日からこの世界を終わらせようと。彼女を地獄のような非日常から解放しようと。
そして俺たちの最後の会話が終わった。
Page:1 2