ダーク・ファンタジー小説
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- 召喚方法の奇妙な誤り方
- 日時: 2019/04/25 19:13
- 名前: 塩辛太郎 (ID: jBQGJiPh)
それは突然の出来事であった。
いつも通り騒音に包まれた東京。車が走り、人が歩き、飛行機が飛び、機械が作動する。そんな、本当にいつも通りの東京だ。だからこそ、ある種の平和ボケをしていた住民たちは、いきなり目が潰れるほどの眩い光に都市が丸々飲み込まれるなんて思ってもみなかった。その光とともに、異世界へと飛ばされてしまうことだって、彼等・彼女等からすれば、想像の中にすらなかったであろう事なのだ。
そして、また別の世界では。
こちらもまたいつも通りに、ドラゴンが空を飛び、勇者がそれを退治し、魔王は世界を脅かし。それはもう、最早パターン化された生活を、延々と繰り返していた。それでも、異世界と呼ばれる此処を退屈に思う者は出てこない。魔法だらけのかなり不思議な世界であるが、住民は存外呑気らしい。そんな住民の思想や超常現象よりも、更に不思議なことが、この世界に起きた。目が潰れそうな眩い光とともに、住民が消えてしまったのだ。まあ此処までは先程の東京と様子と同じで。ここから先が少し特殊だったのだ。
一度もぬけの殻になった東京と、異世界。しかし数秒後には、何事もなかったかのように、そこに人間が戻ってきた。否、戻ってきたというのには語弊がある。正確には入ってきた、だ。
つまり。
異世界に住む人々と、東京に住む人々が、世界だけを置いてけぼりにして、入れ替わってしまったのである。
異世界にまとめて飛ばされたとある少年…のちの主人公の一人である彼は、呟いた。
「普通こういうのって主要人物だけが異世界来るんとちゃうん…?」
- Re: 召喚方法の奇妙な誤り方 ( No.3 )
- 日時: 2019/05/06 21:24
- 名前: 塩辛太郎 (ID: jBQGJiPh)
少し前の東京。
いつも通りの陽気に包まれながら目覚めた黎明は、自身の起床時刻に戦慄し、慌ただしく準備を始めた。結局、それでもいつも乗る電車には2秒程遅れてしまい、無慈悲な車両は走り去ってしまった訳だが。
絶望すると同時に、タクシーでも使おうかと思案していると、駅の大画面に速報の文字が浮き出た。
『速報です。ただいま、火星と思われる星からメッセージが届きました。繰り返します、ただいま、火星と思われる星からメッセージが届きました』
周囲がざわついた。火星?何これネタ?え、宇宙人じゃん…そんな感じの言葉が聞こえてくる。黎明は電車をひたすら待っていただけだったが。また、大画面に情報が出た。
『メッセージによると、これから約3日以内に、地球に攻め込む、との事です。』
『いや〜相手がどんな戦力を持っているか分かりませんからね。火星への移住も考えられている時にまさかこんなメッセージが…』
『これは遠回しに地球から火星への干渉を拒絶する意図が…』
研究者の退屈な解説が始まった。そもそも憶測に過ぎない事を何故あんなに確信めいた口調で話す事が出来るのか、黎明は尚も電車を待ちながらそんなことを暢気に考えた。
(……つまり、今すぐに火星人が来てもおかしくないってことか……というか電車遅すぎやしないか)
そろそろ本気で遅刻しそうな時間になってきた。諦めてタクシーにしようと決意した時、漸く電車が来る。黎明は少し安堵しながら、車内の奇妙な光景に首をかしげた。
黎明の待っていた車両は十両編成。彼が並んでいたのは前から6番目の車両だ。開いた扉から全く人が降りて来なかったのもかなり妙だが、それよりも。中にいた数名の人間が、椅子の中央に座った人物を遠巻きに見つめている。何事か、そう思いながら黎明はその人物を見てみた。
一瞬、固まってしまったのは仕方がないと思う。どこの時代から来たのかと、最早どこの世界から来たのかと問い詰めたくなるような格好を、その人物はしていた。
小豆色の髪に、真っ黒な狐の面。面の模様はやけに凝っており、朱と金の模様は美しかった。服は黒い着物のようだが、よく見ると袴である。上下が黒なので分かりにくい。側には錫杖と思わしき物があった。見た感じだと男性、それもかなり若いだろう。無論、自分よりは年上なのだろうが。
完全に変質者だ。こんな奴がいるなら隣に行こうかと思ったが、何かしてくるわけではないし、せっかく空いているのだからいいかと諦める。取り敢えず座ろうとして、席がガラガラなことに気付いた。何故か皆座らずに、立っているのである。折角空いているのに勿体無い。そう思いながら黎明は座った。
車内の人物は愕然とした表情で黎明を見た。
それもそのはず、彼が座ったのは、変質者(仮)の真隣だった。どんな神経しているんだこいつはとか、そんな事を周りの人間は考える。当の本人は何処吹く風だが。
変質者(仮)は少々驚いたようで、少し黎明と距離を取ろうとする。しかし、黎明はそのまま、変質者(仮)の方へ詰めていく。何がしたいんだこいつはと言わんばかりに、狐面の奥の目が揺らいだ。其処で黎明は漸く狐面に話しかけた。
「…失礼、いきなりこんな風に話すのは無礼だと思うが…あ、俺は河代黎明という。…単刀直入に聞こう、貴方は何者だ?」
高校生っぽい見た目に似つかわしくない話し方は、変質者(仮)の動揺に拍車をかけた。それでも、最早可哀相になってくる程吃驚だらけの変質者(仮)は答えた。
「え、あ、黎明か…久しぶり〜」
キョトン。
そんな感じに黎明は目を瞬いた。狐面を被った変質者(仮)など、数少ない知人の中にいただろうか。そんな思考が相手に伝わったのか、狐面の男は面をずらし、苦笑しながら話し始める。
「ほら俺だよ、中学同じだった…」
「すまないが名前を教えてくれ。」
「あぁ、うん。狐太漠読だよ。…え、本当に覚えてないのか?」
「……狐太…?……あぁ、陰陽師の彼奴か!久しぶりだな。…まさかそんな妙な格好をするようになるとは思わなかったが。」
「あー…何回か職質受けた。」
「だろうな。というか。そんな格好で何処へ行くつもりだった?」
「?山だけど?」
「………………そうか。」
山で何をするのかは聞かないでおいた。概ね修行だろう。気が付くと目的地についていた。
「……じゃあな。」
「うん。またなー」
笑顔で漠読は手を振ったが、黎明が見えなくなった途端にスン…と真顔になる。
「……後少しで…地球を救えるんだ。」
__________________________________________________________________________________________
少し前の王国。
この国と隣国の交渉が決裂したという事が、国民に知らされた。ギァヴィスにとっては心底どうでもいい話であったが、自身をあまり好いていない…否、ゴミのような目で見てくる両親が慌てていたのはかなり愉快だった。
単純に、頭が悪いとは言ってもまだ少年と呼んでもおかしくない年齢であったギァヴィスは、事の重大さを理解できなくてもおかしくは無いのだが。呑気に寝っ転がって空を見上げていると、ランスロットが話しかけた。
「ギア氏〜ヤバイよ〜戦争が起きるよ〜」
情けない声で親友がそう言ったのを聞き、漸くギァヴィスは、結構まずいことなのかもしれない、と認識した。彼の頭の残念さはかなり重症らしい。そもそも戦争という言葉は無論知っているものの、長年平和だったこの国が、戦争をするなんて言うのはビッグニュースである。
先代の王は聡明だったらしいが、今の王は無能すぎる。
そんな感じの事を同僚に聞かされたことがあるランスロットは、戦争の原因となった王の面を拝みに、城へ侵入した。
突然現れた一般人に、儀式の途中であった王と魔術師は動転した。それと同時に、城内の光景に、ランスロットは息を飲んだ。何だこれは、と。
城の中で最も大きな椅子のある場所。つまり王のいる部屋。其処には、数多くの屍と、美しい宝石。そして、薄桃色に光る陣であった。まだ成人ではないランスロットでも分かった。何か良からぬ事をしているな、と。
見つかると明らかにまずい物を見られた王は、それはもう怒鳴り散らした。
『何故貴様のような愚民が此処にいる』
国民を愛すべき王とは思えない台詞である。魔術師が合図を送ったのがランスロットにはわかった。すると、近くにいた暗殺者が、彼の首を撥ね飛ばさんとこちらに向かって来る。思わず身を引いたところで魔術師にぶつかり、そして魔術師は足元にあった、なにやら神聖らしい壺を蹴り飛ばしてしまった。勿論、わざとでは無い。
暗殺者、魔術師、王、ランスロット。どの人物も、壺が陣の中で割れるのを防ぐことが出来なかった。壺が割れた途端、小さく光っていた陣が、いきなり広がり始める。まるで津波のようなスピードで広がり始めた陣は、結局、王国をすっかり覆うぐらいまで大きくなってしまった。
顔面蒼白な魔術師、何やらまだ喚いている無能な王、表情一つ変えない暗殺者。ランスロットはそれらを眺めて、これが本で見た悪魔の召喚魔法というやつではと漸く思い付く。
(つまり、この愚王は悪魔を召喚しようとしていたのか。…何故、召喚する必要があった?)
其処で、はっと、自身が先程発した言葉が思い出された。
『戦争が起きるよ〜』
全ての辻褄があった。呆れて物も言えない。余程阿呆なギァヴィスでさえ思い付かないであろう、愚かなアイデアだと思った。戦争に勝つために、人を捧げてまで悪魔を召喚するなんて。
戦争の準備に王が全く関わらないと思ったら、そういう事だったのか…これはギァヴィスに報告しなければいけないと、ランスロットは逃げようとする。今度は追いかける余裕も無かったのか、暗殺者は追いかけて来なかった。そして、彼がギァヴィスにその話をしようと城の外へ出た途端。
気が付けば、空気の汚れた街が、目の前に広がっていた。
この話をギァヴィスにしたら、予想通り、彼は怒鳴り散らした。
- Re: 召喚方法の奇妙な誤り方 ( No.4 )
- 日時: 2019/07/01 09:43
- 名前: 塩辛太郎 (ID: J7cTSWkd)
簡単な設定
・河代黎明
→高校一年生。運動神経が良く、頭は悪くない。ただ、内向的で、周りからすると『余り印象に残っていない人物』。喋り方が特殊な以外は一般人。図太い。親が転勤族で、祖母の家に居候している。
・狐太漠読
→陰陽師の青年。背が高い。黎明とは同い年で中学時代の親友。物腰は柔らかく、優しい。が、格好はどう見てもレイヤーか変質者。中学の頃はこんな姿ではなかったらしい。小豆色の髪は地毛。
・ギァヴィス
→ド田舎出身の魔法使い。頭が悪く、身体能力は並だが、魔法は王国一と言っても過言ではない。彼の魔法属性は不明。スキルが特殊。ランスロットとは、親友であり、兄弟のような関係。
・ランスロット
→隣国出身の魔法使い。潜入が得意な密偵でもある。魔法は並かそれ以下だが、身体能力とIQが異様に高い。また、記憶力も優れている。魔法属性は風で、スキルは透明化。
・ローズ・シュタイン
→隣の国に出張していた魔法使いの女性。美人ではあるが、頭はやや悪め。身体能力は並で、体力はない。回復系の魔法を使える。魔法自体はかなり強力。スキルは速さの倍増付与。東京からの客人で、何かしようとしているらしいが…?
・エコー・シンドローム
→背の低い少年の魔法使い。生意気で無愛想だが、どうやらローズのことが好きらしい。頭も運動神経も良いが、魔法は強力すぎて、制御とコントロールができない。諦めて剣を使って戦っている。魔法属性は電気、スキルは千里眼。
- Re: 召喚方法の奇妙な誤り方 ( No.5 )
- 日時: 2019/06/02 20:21
- 名前: 塩辛太郎 (ID: jBQGJiPh)
ローズ・シュタインは言った。国を守るのに協力してほしいと。
いやまあ百歩譲ってそこまではいいと思うが、その後に彼女の口から出た言葉が衝撃的だった。
『それは分かりかねますね!』
それは、黎明からの問いに対する答えであった。
なんと無責任な話だろう。メロスではないが、黎明は激怒した。
辻褄の合わない話の内容を、これ以上頭で反芻していても仕方がないと、彼は諦める。
それとは別に、周りの人物は帰る方法がないことに絶望し、テンションを下げた。
そんな様子を見ても、彼女は悪びれる様子もなく、寧ろ話を聞いてもらっただけでもう満足しているらしい。
これからどうすればいいと言うのか。
最善策を導き出そうと何とか頭を回してみてはいるが、想定外に弱いのは人類の特徴、黎明とて例外では無い。
首を傾げることなく、瞳孔を若干開かせ、只管にシャープペンシルと呼ばれる文房具をカチカチ言わせると言う常人とは少し違う悩み方をする彼は、側から見れば、完全に犯罪者予備軍だ。
正直言って、かなり怖い。それ程までに鬼気迫る表情を彼はしていた。
そんな時、ふと、彼の頭に考えが浮かんだ。
《そもそも、何を召喚しようとしていたのだろうか。》
その疑問にぶち当たった黎明は、パッと顔を上げた。これこそが、元の世界へと戻る鍵ではないかと。
そう思い付いた彼は、目を輝かせながらローズに問うた。
「そう言えば、何を召喚しようとしていたんだ?俺たちはそれが気になっているのだが。」
個人の意見じゃないぞと言うように、『俺たち』を強調する。その答えが鍵だ。
はやる気持ちを抑えて、彼は至って冷静に言った。しかし彼女からの答えは酷く冷たく、期待を切り捨てた。
「……何故、それを聞くのですか?」
あからさまに彼女の表情は曇った。彼女は先程の笑顔とは打って変わって、冷たい表情をしていた。
一瞬怯んだ黎明だったが、直ぐに冷静さを取り戻し、疑問符を顔に出す。
明け透けに、大っぴらに、何を言っているかわからないといった風に、訝しげに。
表情を作るのは得意だった。態とらしく片眉を上げてみせる。
隣の少年が、今にも切りかかりそうな表情をしていた。随分生意気そうではあるが、如何なのだろう。
黎明は少年には見向きもせず、しかしそれは挙動だけでしっかりと警戒しながら、彼女に言った。
それはもう、まるで挑発するかのように不敵な笑みを浮かべながら。こう見えても、心理戦は十八番だ。
「何故、とは?誰だって気になるだろう?自分達がいきなり見知らぬ土地へ飛ばされるなんて非現実的な事があったら。其れこそ、『何故?』と思うに違いない。まあ、これは一つの言い訳に過ぎないが。…その召喚方法が、俺たちが元の世界へと帰る鍵となるのだ。あからさまにそれを拒絶…何か、言いたくないことでも?」
「………何を仰っているのか、私にはさっぱりですわ。私達が何かしたとでも言うのですか?」
「墓穴を掘るようなら喋らないほうが身の為だぞ。…本当に後ろめたい事が無いのなら、最初からこう言えば良かっただろう?『さあ?それは分かりかねますね!』なんて。二枚舌も良いところだ。良い加減にしないか。その猫被りも、俺には通用せんぞ。」
「……何故そこまで侮辱されなければ、」
「口を開けば、何故、何故と。貴女は赤子か何かか?」
明らかに、不愉快だと言わんばかりに顔を歪めていくローズ。
渋い顔をしたまま、反論しようと口を開くも、それは黎明が遮ってしまった。
「…さあ答えてもらおうか。…その答え次第では、我々はその戦争に参加する訳にはいかなくなる…」
そこまで言ったところで、喉に何かが当たった。
地味に痛むそれは、鋭利に尖った、剣。鞘から引き抜いたのは、隣にいた少年…エコーだった。
(……やはり警戒しておいて正解だった。)
さてと。
「…これで理由ができた。」
思わず口に漏らした。少年が一瞬反応した。殺気やら邪気やらを感じ取られたのだろうか。
興奮を抑えるように、彼はじりじりと彼女に迫っていく。その喉元に刃が食い込むのを恐れることなく。
エコーはそんな黎明を恐れ、そのまま剣を振り切ろうとしたが、ローズに制され、大人しくそのまま固まる。
「…理由?理由とは、なんでしょうか…」
「ほう?」
歓喜と狂気に染まったその表情は、ローズを恐怖させた。ついでに、周りの東京からの客人も。
「…フフ、まだ分からないのか。つくづく愚かなようだな…理由。そんなの決まっているだろう?」
ー争う理由だ。
そう言い切った途端、黎明は懐に手を入れ、ソレを取り出し、ローズに向ける。
彼女と、少年と、周りの人物は目を見開いた。
笑顔のまま彼は、指をかけた。…引き金に。
「不愉快なんだよ。いきなりこんな変な土地に召喚されて、戦争しろだのなんだのと。挙げ句の果てには、帰り方すらも伏せられる。…怒らないわけがないだろう?侮るのもいい加減にしろよ。さて、貴女は先程、科学で魔法を制して欲しいと言っていたな?…ならば、見せてやろうか?」
ここでローズは、一般人だと舐めてかかっていた彼が、普通とは程遠い位置に組する人間だと漸く気付いた。
口調も、纏っていた雰囲気も豹変した彼に、驚愕と焦りを隠せない。
青ざめた顔を無理やり引きつらせながら、なんとか声を漏らした。
「エコー。彼は所詮一般人、アレを撃てるはずがない。持ってる理由は知りませんが…お願いします。」
「…良いのか?こいつらの信頼は…」
「…背に腹は変えられませんよ。」
「…了解。」
エコーはそう言った瞬間、地面を蹴り、首先に当てていた剣を、ソレを持っている手へと振り下ろそうとした。
その刹那。
耳を劈くような音が聞こえたかと思うと、彼の肩に鋭い痛みが走った。思わず剣を取り落とす。
音を辿るように目を向ける。
「………え?」
黎明が持っていたソレは、細く白い煙を立てていた。
そう、彼は。
「……」
「…あ、あぁ…エコー!」
「なん…で…そんな事が…っ」
切りかかったエコーに、一発の銃弾を撃ちこんだ。それをしたのは勿論黎明である。
何故、一般人である筈の彼が、銃なんて危険物を平然と扱えるのだろうか。
そんな風に彼女が考えていると、黎明が振り返った。
思わずびくりと肩を跳ねさせてしまう。思わず見惚れるような美しい笑顔のまま、彼は口を開いた。
「…科学とは、実に素晴らしいものだな。…さあ、交渉を続けようか?」
あぁ、悪魔だ。
ローズは悟った。彼に慈悲は一切無いのだと。非常に拙い。
彼が居ては、召喚された住民を利用することが出来ない。今にも自分を殺しそうな黎明を見つめる。
「あ、貴方は…」
漸く声を漏らしたところで、突如、先ほどとは別の発砲音が聞こえた。黎明が膝から崩折れた。
突然の出来事に何事かと視線を彷徨わせると、城壁の方に僅かな光があることに気が付いた。
「…ローズ。」
「っき、騎士様…っ?」
「交渉は失敗した様だなぁ。…エコー、此奴を城まで持ってけ。ローズも着いていけ。」
「…っ、はい…」
唖然としていた周囲の人物に、騎士と呼ばれた男が言った。
「…少々手荒な真似をしてすまないが…逆らうなよ?彼奴の二の舞になるぞ。」
言い終わった彼は、城の方へと向かっていった。
そんな一連の流れを、虎視眈々と見ているものがあったが、どうやら気付かれなかったらしい。
大きな蟠りが出来たのは確かだが、これからどうなるのだろうか。
不安の余韻に浸りながらも尚、世界は時間を進めていった。
- Re: 召喚方法の奇妙な誤り方 ( No.6 )
- 日時: 2019/06/12 23:27
- 名前: 塩辛太郎 (ID: J7cTSWkd)
技術の発展しているであろう異星からの乗り物は、随分と想像とは違うものであった。
普通に外の世界のヒコウキのような物だ。…そんな穏やかな旅行をする為の物では無いが。
気絶しているギァヴィスを庇うように立つランスロットを、乗り物から降りてきた異星人は見据えた。
ランスロットが幼い頃にギァヴィスから聞いた異星人は、黒目が大きくて髪がなく、声が独特の物であった。
それこそ人間とはかけ離れていて、一目見ただけで自分らとは違うのだなと分かる見た目であるはずだった。
しかしどうだろう。
この異星人は、姿形が人間そっくりなのだ。2本ずつ生えた手足も、目、口、鼻のある顔も。
白目だってしっかりある。そのバランスの取れ方も、人間そっくりである。唯一違う点はその色だ。
肌の色、髪の色、目の色。その全てがバラバラだ。ある者は肌が青色だし、あるものは腕のみが赤い。
その異彩さに目を見張っていると、ランスロットの目の前に異星人が近づいて来る。
その色は、人間となんら変わりないものであった。深みのある金色に、青の目。
しかし、ランスロットは先程よりも更に動転した。
「…ギア、氏…?」
色は違う。しかし、それは色が違うだけで、本当に瓜二つであった。
異星人の彼は、自身の親友、ギァヴィス・ルーラーと同じ姿をしていた。
ふと、異星人が口を開いた。
なんでもないような、しかし重みのある聴き心地の良いこの声は、紛れも無く、聴き慣れているギァヴィスの声では無いが、どことなく似通っていた。
「…失礼、貴殿らはこの星の住民ではないと見受けたが、ここの住民はどうしたと言うのだ?…真逆、このたった数日で別の世界の者に支配されてしまったというのか?」
心底残念そうに肩をすくめながら、彼は溜息を吐いた。
何も言わない、言えない周囲の人物に代わって、ランスロットが口を開く。
「我々は先ほどこの地に召喚されたばかりで何が何だかさっぱりなんですわ。ハイ、一先ずお答えいたしましょう、我々は異世界からの住民です。…逆に、貴方方は何者ですか。概ねイセイジンだかウチュウジンだかだと思うんですけど…違います?」
「御名答。如何にも、我々は別の星から来た生き物だ。ここの技術やら自然やら資源やらは素晴らしい。痛切に欲しくなった。それ故に、この星を貰い受けようとこの地に降り立ったのだが…ふむ、如何やら取り込み中のようだな。」
「力ずくで、ですかね?」
「其れは此方の要求を飲まなかったらの話だ。充分相手側の都合の良い要求を用意したつもりだったのだが…如何やら、人類とやらは随分と傲慢で我儘な生き物らしい。…それはさておき、如何したものか…」
「…と、言いますと?」
「元々、攻め込むといえば否が応でも反応すると思いあんな物騒なメッセージを送りつけたんだ。先ずは交渉、破綻すればそのまま戦争、という風に。しかし、交渉する相手がいない。」
「どういう事ですかね?見た限りじゃあ、他の国やら、国じゃなくても街とかにその“人類”がまだ居ますよね?」
「…異世界からの住民なら知らないのも無理はないだろうが…東京周辺の県境には、汚染区域が出来ている。先の戦争の所為で、核の汚染物質が残されてしまったらしい。我々が寄越した条件はまさにその事。地球を支配する代わり、抵抗しなければ殺生や奴隷も作らないと。更に、汚染区域や紛争地帯等を収めてやろうと言ったのだ。しかし愚かな人類は要件を飲まなかった。…まあこんな事を話しても意味は無いのだが…」
「……」
「しかし飽くまで我々が欲するのは地球と、その上に存在してきた歴史、そして膨大な知識。人類やら生き物やらは既に用済みなのだ。殺す事に抵抗はない。…要約するとだな。地球から退いてもらいたい。」
「…はあ?帰り方も分からんのに、退けとは?せめて俺らを元の世界に返してからにして貰いたいんですけど…」
そこまで言った時、ランスロットは何者かに足を掴まれた。
振り返ると、足を掴んでいたのは勿論ギァヴィスであった。ギァヴィスはランスロットを思い切り睨みつけた。
「てめえさっきはよく、も…え?
開口一番にランスロットへの文句を並べかけた彼だったが、異星人を見つけて固まる。そして、異星人の彼も、ギァヴィスを興味深そうに眺めていた。
「ほう。こんな所で探していたものが見つかるとはな!」
「なんだよお前!人の見た目パクりやがって!名前は?!」
「ギァヴィス・ルーラー。…しかし、貴殿もきっと、ギァヴィス・ルーラーだろう?!」
「おうその通りじゃボケ…え?は、え?いや待てよお前なんで俺の名前…」
ギァヴィスはそう言いながら異星のギァヴィスに掴みかかろうとした。その瞬間。
「……!」
喉元に突きつけられた刀は、あと1ミリでも動けば喉を掻き切りそうであった。
持ち主は、異星のギァヴィスの後ろに立っていた、赤に近い茶髪の青年。
殺気を出すことなく、しかしはっきりと敵意だけを向けながら、無言で刀を突き出していた。
「……おい宇宙人、其奴は…」
「unknown=密。そこに居るお前の親友も同じ名を持っているはずだが。」
「……unknownって」
「俺の仕事の時の名前じゃないかよ…」
どういう事なのだろう。
思わず顔を見合わせた二人を眺め、クツクツと笑いながら、異星人は言った。
「ハルステッド・トラベル。俺は宣戦布告をする!」
「…はあ?!」
なんでその名前をだとか、お前はなんなのだとか、親友が喚いているのを横目にランスロットは息を吐いた、
運が悪いとしか言いようがないこの召喚先。しかしこれはまだ、事件の序盤に過ぎないのだ。
これからどうなる事やらと、ランスロットは遠い目をしながらと先の思いやられる未来を浮かべた。
- Re: 召喚方法の奇妙な誤り方 ( No.7 )
- 日時: 2019/07/07 22:17
- 名前: 塩辛太郎 (ID: J7cTSWkd)
「……ぅ…」
「よう。起きたか少年。」
痛い。頭が響きように痛い。ついでに体も痛い。視界がぼんやりしているのは何故だろうか。今、自分は何をしていただろうか。あの白々しい女は?あの生意気な少年は?…俺は、一体何をして…
「……あ」
そこまで考え、漸く事の顛末を思い出した。そうだ、首筋に残る痛みは、きっと…
「麻酔銃だなぁ。抜けきってないから暫くは怠いゾ。まあ、数分もすればぁ意識もはっきりしてくるだろうよ。」
「あんたは……あんたは、なんなんだ?」
話しながら、黎明はポケットに手を突っ込んだ。しかし、彼が頼りにしているものは、無かった。焦ったように、目の前の彼を睨む。
「あー…銃?って奴?ごめんなぁ、あれ上の命令で取り上げさせてもらったぜ。今俺が持ってる。いや、泥棒とかそういうんじゃないゾ!弾全部外し次第返させてもらうから!だ、だからそのもう一方の刃物出そうとするの止めてくれ!」
そんな言い訳を堂々と叫びながら、彼は手を合わせて、な?頼むから!、などと言っていた。
黎明は動揺していた。まさかナイフの存在に気付かれるとは思ってもいなかったのだ。
鉄格子に囲まれているここはどう見ても牢だ。暗さからして地下だろうか。
警戒心しか無い黎明とは対照的に話す此奴は、牢の外にいる。すると、彼は見張りか。
「……貴様…監視のくせに、罪人と悠長に話していていいのか?」
「いやぁ、生憎かた苦しいのは嫌いなもんでな。こういう性分なのさ。…にしても、兄ちゃん妙な喋り方すんだな。誰譲りだい?じいちゃんか。それとも…」
「違う。……違う。」
「………じゃ誰譲りなんだ?」
「……言わない…いや、言えない。」
その言葉に、監視官は片眉を上げた。
「ほお?口止めされているのか?」
「いや、本当に言えないのだ。誰にも話そうとしていないときは幾らでも思い出せるのだが、あの人の名前を伝えようとするたびに、記憶がするりと抜け落ちてしまう。…そう言う事だ。なんだ、心理学に富んで居るのか貴様は。」
少し棘を含んだ言い方をし、黎明はわざと作り笑いをする。
口の端を無理あげたということが確実に分かるように。監視官は肩をすくめた。
「兄ちゃん、貴様はやめなねえかい?むず痒くて仕方がねえや。俺の名前はゾイマー。気軽に名前で呼んでくれ。年は…まあ、俺の方が5つ上くらいだろう?仲良くしようぜ、黎明。」
気安く呼ぶな、とまた少し睨めば、彼は苦笑した。
まるで幼子を相手にしているような風に、若干のイラつきを覚えてしまう。
眉間にシワがよりそうになるのをなんとか誤魔化した。こいつのペースに呑まれては駄目だ。
「…5つ上…21歳でその話し方…お前もなかなか妙な奴だと思うぞ。…ふむ。名付け親は誰なのだ?」
「知らん。元の名は無い。まあただのゴミ同然だったからなぁ。ゾイマーは俺の渾名だ。」
黎明は少し顔を顰めた。なんで、そんな酷い名前を付けやがった。
孤児の話なんて正直聞きたくも無い物だが、此奴なら同情は出来なくても、感情移入の欠片ぐらいは出来るかもしれない。
いっそ哀れに成る程明るいこいつに、その名前の意味を言うべきか迷う。が、やがて黎明は話し始めた。
「…………一つ聞こう。貴様…否、貴殿はその国の出身だ?」
「それも知らんなぁ。強いて言うなら…フロイデだな。隣国のスラムみたいなところだな。そっから抜け出して、王宮で働かせてもらえるように努力して、まあ、なんやかんやここに居る。」
「ドイツ…は、知らないな?」
「おう。…ただ、言語の種類にそんなのが有ったような…?」
その言葉に少し疑問を抱きつつ、黎明は続けた。
「ゾイマー。…鈍感とか、鈍いという意味を持つ言葉だ。貴殿は…何も知らなかったのか?」
「……っ…まあ…軍の奴らに良く思われていないのは勘づいていたからな………ん?そう言えば…なんで俺は此処に居るんだ?」
唐突で、よく分からない疑問を一人呟いた彼を、黎明は呆れたように見つめる。
自分の国の状況もわからないとは、随分と間抜けな監視官がいたものだ。
「…………はあ?んなの貴殿が別の居たから…」
「いや、俺召喚云々の前から、罪人監視するためにここにずっと居たんだぜ?それで、いきなり罪人ごと同僚もいっぺんに消えたもんだから。正直、お前の事引きずってきた奴とお前が来た時、俺は相当動揺したゾ。」
「…………なん、だよそりゃあ……なんで、お前だけ……貴殿、もしや人外なのか?」
「真逆!幾ら鈍感だろうが馬鹿であろうが、人間をやめたつもりはさらさらないやい!」
「ならば何故…」
…あ。
黎明は、一つの考えに辿り着いた。国民と思われる者が誰一人としていなかったことから、召喚されてしまったのは国内にいた人物全員。
ローズ・シュタイン、エコー・シンドローム、そして騎士と呼ばれた男は国外にいたのだと思っていた。
しかしゾイマーの言うことを本当だとするならば、ローズ等は此処の国の民ではないという仮説が立てられる。
此処の国の民ではない、しかし、それにしては王国の事情を知りすぎている。
「…ゾイマー、王は、何を、何の為に召喚しようとしていたんだ?」
「ん?…あー…俺も詳しくは知らねえんだが、あーっとなぁ…確か、戦争に勝つ為に、悪魔?ってヤツを召喚しようと……あーあー!そうだ思い出した!なんか、それを提案したやつがいるらしくてな?なんでもピンク髪の巨乳長身美女だとか…」
「提案………しかしあの口ぶりは…真逆…」
あの女は、王をそそのかしたのであろうか。そんな事があって良いのだろうか。
いや、だとしたら何のために?あの女等がスパイならば、東京都民を此方に呼んだ意味は?
…本当に、化学だけが目的?化学を使って、何が出来ると…
「……科学…いや、平たく言って化学か。化学ってやつはな、黎明達の世界では当たり前のことなのかもしれないが、この世界の知能は低くてなぁ。…発達した結果があれならば、俺は永遠に発達しなくてもいいと思うが。」
ゾイマーは、少し重い言い方をした。『あれ』とはまさしく……戦争の事だろう。
恐ろしさと大きな傷跡を残して去っていったあの災厄はまさしく『欲』の集合体で。
その中で手となり足となり動き回っていたのは、やはり化学であった。
今までの言動から此奴は相当の阿呆なのかと思っていたが、どうやら違うらしい。
無論、勉学的な意味では知能は低いかもしれないが、なんと言うか、根本的なところが賢いのだと感じる。
細められた目が、その聡明さを物語っているようであった。
「………なあ黎明。提案があるんだが。」
「……なんだ。」
もう分かるけど。
ジト目で目を寄越した。ゾイマーは、悪戯っ子のような子をした。
「手助けしてやる。だから…戻そうぜ、世界。」
「はあ…そう来ると思った。」
勿論、返事はYesだ。実際にそれをするだけの力が黎明にはある。
「さあ、戦況を覆しに行こうぜ!」
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