ダーク・ファンタジー小説

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スキルが逃亡(にげ)とはこれいかに
日時: 2019/05/13 09:14
名前: 塩辛太郎 (ID: jBQGJiPh)

簡単な設定

・ハルステッド・トラベル
→『召喚方法の奇妙な誤り方』の主人公の一人。魔法使いとしては最強だが、属性とスキルが特殊すぎる。現在彼がギァヴィスと名乗っている理由も、この話で(多分)明かされる。以前はそこまで短気ではなかったらしい。魔法属性は現在不明だが以前は…

・ランスロット・ノーベル
→上と同じく、『召喚方法の奇妙な誤り方』の登場人物。設定はほぼほぼ変わらない。

・ミトミ・フェイサー
→鮮やかな黄色の髪を持つ少女。通称ミト。ハルステッドとは幼馴染で、ハルと呼んでいる。彼に好意を抱いている節がある彼女だが…?

・皇・コラッタ
→ランスロットの友人。背の高い女性。魔法と学力は並だが、近接戦に優れている。視力が3.0。身長は現在170.2cmで、ハルより3cm程小さい。因みにミトミは150cm、ランスロットは185.3cm。


・魔法について
→スキルと属性が15歳ぐらいの時に分かる。其処からの変更は一切なく、修行・鍛錬によるスキル・属性の獲得以外で変化はない。それぞれレベルが1〜10あり、また、攻撃特化のA、防御・サポート特化のB、その他特殊攻撃等特化のCにも1〜10で点数がつく。他にも、精密性、威力等の評価も細かく知る事ができるが、全てを正確に覚えているものは割と少なかったりする。
→ひとえに〜属性といってもその中でさらに種類がある。例えば、火属性魔法でも、熱、火、発火、消火、耐熱等色々あり、大体はABCの点数で分かる。
→現在分かっている属性は、火、水、光、土、風。特殊属性に、重力、空間編成、その上位互換に時空操作、圧力、感染、切断、闇、影etc…がある。特殊属性のルーツは不明なので、無限に存在するといっても過言ではない。中では、スキルと特殊属性がかぶる人物もいるとかなんとか。
→スキルは人それぞれで、単純なもの程応用が利く。逆に、精密性やらが細かいものは、応用はできないが使いやすい。違うものながらも似たようなスキルがあった防御、ワープ、超能力だが、逃亡は完全に新しいスキルだったらしいので、その使い方は未知数である。

Re: スキルが逃亡(にげ)とはこれいかに ( No.2 )
日時: 2019/06/05 22:31
名前: 塩辛太郎 (ID: J7cTSWkd)

「ちょ、ま、待って、くれ…!」

「…相変わらず体力無いねハル」

うるせぇ!こちとら毎日書類三昧で碌に寝れて無いんだぞ!
一先ずスキルと魔法属性のわかった俺たちは、学園へと向かった。
魔法学科のクイーン・ナイト学園。最強魔法使いの揃う超一流の学園だ。
俺はそんな学園に通っている。凄くね?…いや、ここら辺に学校が無いっていうのもあるんだが。
そんなクイーン学園だが、難点が幾つかある。
その一つが…

「んでこんな山を登らにゃならんのだ…?」

「しょうがないでしょハル!魔法に関する危険物だって、学園には多いんだから。」

「だ、だからって、海を渡る必要あるか?」

「もー文句言わない!もう直ぐ瞬間移動の為の通路ができるんだから!それまでの辛抱!」

なんでそんなに元気でいられるんだミトよ…
うんざりしながらも、なんとか山を登りきり、そのまま俺は倒れこんだ。
その時。

________キィン

「…?」

「…ミト?」

「なんか今…金属音みたいなのが…」

「………?遠くで誰かが戦ってんのかもな。少し急ぐか?」

「…いや、多分…これは」

…何故そこで言葉を切ったんだ?なあミト。
訝しげに、俺はミトの顔を覗き込もうとした。
その瞬間、ミトが俺の腕を掴んだ。ちょ、痛い痛い痛い!

「な、なんだよ、どうしたいきなり」

「…あれ、何?」

あれ…?
そう思いながら、俺は深い深い木々の間に目を凝らした。
奥で何かがモゾモゾと蠢いている。まるで、それは…

「…あ、あ…ハ、ハル、あ、あれって…」

「蜘蛛…か?」

虫苦手なんだが。気持ち悪っ!
今見えているのはどうやら後ろ姿らしい。目もなければ口もない。…どこかで見たような…?
モゾモゾと蠢いていたそれは、いきなりピタッと動きを止めた。同時に俺の体に緊張が走った。
そして其奴は、ゆっくりと振り返った。
前言撤回。目も口もきっちりあった。いやもうそれは不気味な程にはくっきりしていた。

深紅のその目と、自身の目が合った。

ぶわりと毛が逆立つような気がした。まるで猫のように。
ガンガンと打ち鳴らされているような心臓は、生物的な本能として逃亡を促していた。
あれはヤバい。

「っハル…!」

「静かにしてろ。…良いか、音立てずにゆっくり動け。…そのまま逃げるぞ」

…口元のアレは、多分。
あの蜘蛛はきっと、道中で俺らのような手頃な人間を見つけてそれで、

「喰った…」

思わず呟いた。それが引き金だったのかなんて、誰にも分からない。
相手に聞こえたのか、いや、とても小さな声だったし、そもそも蜘蛛に言語が伝わるのか。
アレは、本当に蜘蛛なのか、新手の怪物なのか、機械なのか…
そんな考えを、蜘蛛が断ち切った。

在ろう事か、蜘蛛はミトの方へと牙を剥き出していった。








Re: スキルが逃亡(にげ)とはこれいかに ( No.3 )
日時: 2019/06/03 15:56
名前: 塩辛太郎 (ID: jBQGJiPh)


「危ない!」

と、叫んでみるものの俺には何もできん!
ミトが目の前で殺されかけるのを、俺は見ることしかできなかった。
咄嗟に出た手は、ミトを掴んでそのまま固まってしまった。
それは多分、ミトの魔法の妨害になっていたに違いない。しまったと思うも後の祭り。
なんとかミトを後ろに押しやるが、それは蜘蛛の標的を俺にずらしただけで終わる。
あ、死んだなこりゃ。

(どうしよう、どうしよう!)

考えるなよ逃げろ俺!逃げなきゃ死ぬ!早く!早く!
ガタガタと動く足を動かそうと試みる。ダメだ、全くダメだ!
蜘蛛はこうしている間にも迫ってきている。どうしよう。マジでどうしよう!

「ハル!逃げて!」

そんなミトの声で、漸く俺は我に返った。

(………逃げる?)

逃げる。それは、ついさっき聞いた言葉で…そうだそうだよ!

「スキルが逃げ…!」

そう呟いた瞬間、蜘蛛の大きな口が、すぐ目の前にあった。
恐怖心と、それから妙な冷静さは、地面に根を張っていた俺の足をいとも容易く動かした。
ミトの腕を掴んだまま、俺は地面を蹴る。

「…ファ?!」

おぉ?!なんだこりゃ…?
軽く、数十メートルは移動した。しかし、蜘蛛はなおのこと追って来る。
ならば。

「よっしゃ逃げるぞ!」

「え、えぇ?!嘘でしょ?!」

「無理無理あんなの!俺倒せない!」

「か、仮にもランク9でしょ?!」

「完全完璧な逃亡特化ですが何か!」

てか今の俺足速え!すげぇ!
無駄口叩きながらも、全速力で逃げる。
すると、いつの間にか俺に俵担ぎにされていたミトが、叫んだ。

「糸!蜘蛛が糸吐いた!」

はぁ?!糸?!この山どうなってんだよ!
後ろから迫っているという糸を確認せんと、一瞬チラと後方を見遣る。
次の瞬間、どういう訳か俺の体は、ミトを投げ飛ばしたかと思うと、スライディングするように体を地面に滑らせた。
頭上を糸が掠めていった。粘り気のあるそれは成る程確かに厄介そうだ。
そのままローリングしたかと思うと、俺の腕はミトを華麗にキャッチし、また走り出す。
因みにここまで全て『俺の体の意思』である。
いきなり如何したんだと思うが、一先ず逃げるしかない。
…ん?いや、逃げても逃げても追いかけてくるあれはやはり殺さないと逃げられ…
や、それより前に倒す術を探さないと逃げられ…あれ?

(行動の優先順位が全て逃げ…だと?)

ただの自己保身じゃねぇかよオイ!なんつーダサい能力だ!
そう思いながら、俺は何度も糸やら木やら鳥やらを綺麗に避けていく。
…あ、そうか。

「ミト〜あいつ倒せるか?」

「え、あ、うん…うまく当てられれば、最低でも時間稼ぎぐらいにはなるよ。」

「なら頼んだ。」

(この距離なら、前方に撃つタイプの重力攻撃はしゃがんだ方がいい…で、出力最大となると制御が難しいからゆっくりそのまま…そう、そんな感じで手を構えてもらってそれで…なんだったっけか?確か重力を…)

「腕で押し出すように!」

「『重力負荷×10000』」

ベキ。

淡々とミトが魔法を唱えた瞬間、嫌な音が一つだけ響いた。
終わったのか。そう思い、恐々と振り返る。

そこに合ったのは、真っ黒なクレーターであった。

「ふう〜地形崩さないようにって思うと50%も出せないなぁ…ねぇ、ハル。」

「は、ははは…」

引きつった笑みが思わず溢れた。
ここで俺は漸く、幼馴染みの魔法が強い事を実感したのである。

Re: スキルが逃亡(にげ)とはこれいかに ( No.4 )
日時: 2019/06/08 11:37
名前: 塩辛太郎 (ID: J7cTSWkd)


その少し前。

同じく山を登っていたランスロットと皇は、これもまた同じく、厄介なあの蜘蛛に遭遇していた。

「…何、あれ…」

「逃げた方が良いよなぁ…」

しかし、逃げるわけにはいかなかった。理由は二つ。
一つは、これから先此処を通る人のことを案じて。もう一つは、蜘蛛の口に吸い込まれたと思われる、人影。
此処からではよく見えない。しかし、近付くのは危険。

「皇…此処は一旦上空とかに…皇?」

話しかけても、一向に返事をしない皇を、如何したのかとランスロットは見る。
皇は、顔を真っ青にしていた。

「あ、あぁ…」

「皇…?」

「ミント様!」

ミント様?ミント様は確か新興宗教の教祖である老婆…皇が何故知っている?
一先ず逃げようと、ランスロットは皇の腕を引いた。しかし。
皇はランスロットの腕を振り切り、蜘蛛の方へ走っていった。

「ミント様の為に!」

やめろ。
そう叫ぶも、遅かった。

皇は、ランスロットの目の前で、蜘蛛に食い殺された。

Re: スキルが逃亡(にげ)とはこれいかに ( No.5 )
日時: 2019/06/30 19:52
名前: 塩辛太郎 (ID: J7cTSWkd)


「…す、皇…?」

ランスロットの声が、青く光る空へと響いた。それはもう、妙な程に。
当然のように、彼の問いへの答えは無かった。
一歩、また一歩と、ランスロットは蜘蛛へと足を運んだ。いや、蜘蛛の口元から滑り落ちた、彼女へと。
覚束ない足取りながら、それでもしっかりと前だけを見据えて。
ガルルル…だのグギャァだの訳の分からない叫び声をあげていた蜘蛛は、彼の異様な雰囲気を悟り、いつの間にやら去っていた。
どうやら、彼女は腹から心臓にかけてを一気に齧られたらしい。即死、だっただろうか。

「…な、なあ、皇…おい、返事しろよ…ッハハ、なぁ…」

震える手で、頬に手を添えた。目を開けたまま、彼女は事切れていた。
何時も笑顔で、緑色に光っていた眼は、もう何も映すことなく、瞳孔だけを開かせていた。

どうして。何故。

疑問符ばかりを浮かべていても、全てのカギを握る彼女はもう死んでしまった。

『ミント様の為に!』

あれは、どういう意味だったのだろうか。皇は、あの宗教の信者だったのだろうか。
もう、そんな事どうでもいい。死への疑問なんて、そんな憂鬱な事はしたく無い。
皇さえ居れば、彼女がもう一度だけでも目を開いてくれればそれで良かった。
そんな願いが叶うはずもないことを、自分でも分かっていた。
ランスロットはいつの間にか流れていた涙を拭い、血塗れの遺体を抱き上げる。

「………ごめんなぁ、皇…」

手からその朱が滑り落ち、地面を色付けた。
生きていた時はあんなに美しかった、生きた証は、赤黒く、毒のように思えた。

「…………俺は…っ…俺は、お前の事が…」

言いかけてやめた。
せめて、伝えたかった言葉だった。
しかしそれは生きている彼女に聞いてもらわなければ意味が無かったのだ。
そうして、判断を委ねたかった。
思い描いていた明るい未来も、もしかしたらと身構えた悲しい未来も、どれももう訪れない。
屍にそんな言葉を言ったって、意味は無い。
暗い目をしたまま、ランスロットは崖へ向かう。
既に下半身は持って行かれている。抱えているのは綺麗に残された上半身のみ。
これは違う。これは違うと。

「……左様なら。」

コレはもう、皇じゃない。

ランスロットは、既に冷たくなってしまった彼女の遺体を、崖の上から落とした。
彼の手は、赤黒い、しかし確かに先程まで生きていたはずの朱に染まっていた。

「あ…あ………」

彼の狂ったような嗚咽が、やはり青く光る空へと響いていた。

Re: スキルが逃亡(にげ)とはこれいかに ( No.6 )
日時: 2019/07/08 00:13
名前: 塩辛太郎 (ID: J7cTSWkd)


ようやく着いた。山を越えて海を越えて。
学園は賑わっていた。そんな中、俺は自称親友の姿を見つけた。

思わずどうしたの、と泣きたくなるような背中であった。
いつもの、明るくて無神経で、それでも頼もしくてカッコいい彼からは、想像も付かない姿であった。
なあ。如何したんだよ。お前は、あの蜘蛛にあったか?皇とは、どうだった?
色々、話したい事があった。けれど、そんな事も掠れてしまうくらいに、その顔は酷かった。
なあ、お前…

「…ランスロット…?皇ちゃんは…?」

「………え?」

酷く沈んだ表情のランスロットから告げられた事実は、余りにも残酷で。
__________________________________________________________________________________________

皇が死んだ。殺された。
あの死体は、つまり、皇のものだったのか。ああ、嗚呼!何故、何故!

「どうして、如何して…なんで皇ちゃんが…!なんで、なんで…」

「皇………」

それぐらいの言葉しか出ない。でも此奴の精神に比べたら、俺なんて本当に宇宙の中の屑みたいなものだから。
ミトはいつまでも泣いている。涙が枯れてしまうのではないかと錯覚する程に。
ランスロットは、それ以上何も言わなかった。崖の上から、彼女の遺体は捨てたらしい。
…水葬…しかし、あんな所で死んだって報われはしなかっただろう。

「………皇を、あんなクソババアの所へ戻したく無かった……あれは、もう、皇じゃ無かったのにな…」

クソババア……でも、それは紛れもなく皇と血の繋がった家族だったんだぞ。
自嘲気味な笑いを、目を曇らせたままで繰り返している彼は、もう色々と限界らしい。
せめて、せめてもと、俺はランスロットを抱き寄せた。ついでにミトも。
腕の中で、ランスロットは笑った。

「……辛いなぁ…」

…よく分かるけどな。
それでも、と俺は言葉を紡いだ。

「辛がってるだけじゃ駄目だろ。」

「ちょ、ハル…」

「だがな、今は一旦逃げようぜ。」

スキルは、精神にも発動できるのだろうか。出来ていたら、良いな。きっと出来ていたはずだ。
ランスロットも、泣いていたから。泣けていたから。
…さて、残されたものが何をすれば良いか。簡単な事だ。しかしそうは言っても。

「生きるって言うのは……こんなに怖かったか…?」

俺は、ランスロットに何も言うことができなかった。
そんな中、学園のチャイムが鳴り響く。


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