ダーク・ファンタジー小説
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- 浅沼クローン施設
- 日時: 2019/10/14 11:45
- 名前: 天宮 (ID: wJnEuCOp)
「浅沼クローン施設」
そこは表向きには児童福祉施設を装っている、裏では身元の無い子どもを実験台にする研究所だ。
日々、あらゆる実験の被検体になり、普通の人間が多くて20%の力を出せるとしよう。それをいつ如何なる時も100%出せるようにする為の研究所だ。
幼い頃から、そんな教育を受けて超能力という類のものが使える子供たちは人間の容姿をしていても“怪物”と呼ばれる類になっていることをまだ知らない。
そんな中、ある少年は研究所からの脱出を考えた。
ーーー
超能力を使える子供たちが使えない大人たちに縛られたくなくて施設から脱走を試みる話の内容になってます。
- Re: 浅沼クローン施設 ( No.4 )
- 日時: 2019/10/14 12:56
- 名前: 天宮 (ID: wJnEuCOp)
「ボク、もっとポイントを生み出したくて・・・実験室で練習してもいいですか?」
「1ポイント001番、お前の今日の試験は終了だ。これ以上の実験室の使用は許可しない」
横を通り過ぎようとする研究者の白衣の端を掴んで引き止める。
「で、でも!もっと力をつけて、世界の役にたちたいんです!」
「・・・いいだろう、しかしポイントを付けたいのであれば実験は少々手荒くなってしまうが?」
「構いません!ボクは大怪我をするほど鈍くは無い自信があります!」
そう言えば、研究者は実験室の鍵を開け、少年の手首についている実験体バーコードを手元の端末で認識した後、研究室へ歩んで行く。
少年は気合を入れて、実験室へ足を踏み入れた。
ーーー
研究者の言う通り、レベルを上げる訓練ではなく、ポイントを生み出す為なので容赦がなかった。
迫り来る壁に腕の骨や頬骨が折れそうになったし、火にあぶられて軽く火傷もおった。それでも実験は終わらなくて、足枷に重りをつけて水中から出てこなくてはならなかったり、ワニに食べられかける。
ワニに右足を咬まれたことで気絶した。
ーーー
痛い・・・痛い・・・あれ、あたたかい・・・なんだろ、この感じ・・・
腕や足や胸のあたりが奥から暖かくなってゆく、心地良い感覚にそっと瞼を上げる。
サラサラの黒髪に蒼いダイヤのような瞳に視線が合うと、それは細められて心配そうなどこか憐れむように微笑みを浮かべる少年。
「もう大丈夫だよ、毒は無かったみたい」
顔から想像していた声とは裏腹に目の前の少年の低音ボイスには驚いた。少し掠れたハスキーボイスでも耳に入ると心地よい。
「ありがとう・・・キミはプラチナクラスなの・・・?」
クルマは自分の胸に当てられていた少年の腕を掴むと問いかける。腕を掴まれた少年はピクッと少し反応するが、質問に対する回答は首を縦に振るだけで返される。
何故だか苦しそうに伏せられた瞳は潤んでいるように見える。
「ボクはクルマ。一緒にここから」
出ないかと提案する言葉は少年の言葉に遮られる。
「クルマ・・・ゴールドクラスのトップ?」
「え、知ってるの?」
「・・・うん、こんな深手を負うなんて、話に聞いてたほどじゃないんだね!」
「なっ!?」
クスッと笑われて、ムッとする。
そんなクルマの顔を見て、冗談だよと微笑んだ少年は「ロキ」と名乗った。
最後にロキはクルマの目を覆うように片手を目上に被せるとそっと耳元で囁いた。
「クルマ・・・待ってるから」
その言葉はクルマが聞きたかった質問の答えなのだろうか、協力してくれるということなのだろうか、妙に落ち着く声に体が重くなり意識が遠のいた。
- Re: 浅沼クローン施設 ( No.5 )
- 日時: 2019/10/15 00:59
- 名前: 天宮 (ID: VhCiudjX)
次に目を覚ました時には自室の布団の中に居た、いや、正しく言えば布団の上に寝ていた。
ゴールドクラスの部屋には敷布団と枕、勉学用の机しか与えられていない。
起こした体には傷一つ付いてなくて、試験の練習の日々に重かった身体は何故だか軽くなっているように感じた。
「すごい!・・・ロキ、彼が居れば、何も怖くない!」
やはりプラチナクラスは別格のポイント揃いなのだと思った。
だがクルマは考える。次に彼に会おうとしても同じ手は使えない、それならどうやってプラチナクラスへ行くのか、そもそもプラチナクラスには何人の生徒が居るのか、警備は徹底されているのかを調べなくてはならない。
いや、それ以前にプラチナクラスに自分の実力を上げれば、すんなり入れるのではないか、と。
プラチナクラスに昇進するには、ポイントを増やすかレベルを上げる事だと思うが、既にクルマのレベルは2である。上がるには十分の条件だと聞く。
それなら何が足を引っ張っているのか・・・それはポイントの件だと言われた。
『001番?あんなポイント、いつ使うんだよ。使われなければ、ただの無印者と同じだろーがよ!』
研究者にプラチナクラスへ上げてくれないかと申し出をした直後、ハッハッハと高らかに笑っている警備員の声が聞こえた。
クルマは俯く。
警備員の言っていることは間違いではない、だから傷つく。けれど何かの役には立てるはずだと努力してきたのだ、無印者だなんて言わせない!そう思ったクルマは研究者に毎日、申請をした。
そんなある日、兆しが向いた。
「仕方ない、では二ヶ月だ。それでついていけないようであればゴールドクラスへ戻す」
「!あ、ありがとうございます!」
「貴様がゴールドクラスでのトップであるから許されることだ、呉々も調子に乗った行動は慎むように!」
「はい!」
なんだか上手くいきすぎているように感じるであろうが、何事も初めてで平均以上の結果を出すことの出来るクルマという少年にとっては日常茶飯事であった。
だがクルマは人生の中でこれ程までに喜んだことは無いと思うほど歓喜していた。
- Re: 浅沼クローン施設 ( No.6 )
- 日時: 2019/10/17 01:30
- 名前: 天宮 (ID: tOQn8xnp)
研究者の斜め後ろを歩いてプラチナクラスへ向かう。
硬い鉄の壁のようなドアが開くと研究者は中に入るようにクルマを促す。
クルマは緊張気味に教室に足を踏み入れた。
映画館のように広い室内には長机と椅子が段に合うように設置されている数に対して、生徒の数はとても少なかった。
クルマは驚いた。
クルマの予想では、プラチナクラスの生徒は皆が教育に熱心な為、教習時間以外の休み時間も席に着いて髪の色も皆同じでロボットのような機械的な動作をしつつも、子どもと言われているからには見た目は10歳児クラスの生徒が30人程と、多いのだとばかり思っていた。
だが、目の前に見られた光景は、5人の子ども。黒髪・白髪・緑髪・紫髪といったカラフルな髪色に肌の色は白から黒まで、細い子が多くて年齢は皆5歳から7歳前後といったところで席に着いている子も居たが机に座ったり椅子に座っていても踵を机に乗せて話をしているようだった。
クルマが教室に入ってきて情報を頭にアップロードしていると、クルマに気づいた生徒達は彼を見る。
その中にあの黒髪の少年、ロキを見つけた。
目が合うとロキは「あ!クルマぁー!」と言って笑顔で駆け寄るとクルマの首に腕を回して抱き着いた。
あまり慣れないスキンシップにクルマの頬は熱くなる。抱きついてきたロキからは花の香りとショートケーキの混ざったほんのり甘い香りがする。
謎の匂いに答えを出したくて、肩に顔を埋めようとすると、パッとロキはクルマの肩に手を置いて離れた。
「遅かったね、ホムラに手伝ってもらっちゃった!」
「・・・ホムラ?」
きて、と腕を引かれてクルマは生徒たちの輪の中に招かれる。ロキは「紹介するね!」と陽気に言うと片手を差し出すように一人ひとりに向けて名前を言った。
「彼はホムラ!ちょっと意地悪だけどポイント数が一番多くてスゴイの!」
「へえー・・・」
仏頂面の白髪外ハネのホムラはため息を一つこぼして言う。
「ポイントの数は多くてもまだコントロール出来ねえからレベル2、ま、よろしく」
「宜しくお願いします」
腰から頭を下げて挨拶をするとロキはホムラの隣で机に座って本を読むフードを深く被った生徒を紹介する。
「彼女はレーヴァル!魔法みたいなポイントを持ってるんだよ!イイよねー、理想っていうかさー」
「それほどでもないよ」
ロキに褒められてレーヴァルは若干嬉しそうに緩む頬。レーヴァルの隣の席に座って祈るように顔の前で両手を合わせて目を瞑る緑髪が腰の長さほどある少女。次に、腕組みをして俺を見上げる黒髪短髪の少年を紹介してくれる。
「彼女はクルスで、こっちがゼノン!クルスは動物と話せるし、なんでも想像したものが出せるの!」
「レベルは1なのですが、ヨロシクお願いしますね、クルマさん」
「あ、宜しくお願いします!」
「ゼノンはこのなかで一番年下だけど、とっても強いよ!」
「俺もレベル2だ」
「宜しくお願いします」
「ボクは前に挨拶したとおり、治癒のポイント持ちのロキだよ!なんでも聞いてね!キミがここを出るために必要なのはボク達なんでしょ?協力させてよ!」
急な誘いや展開にロキを疑ってしまうが、「ね?」と上目遣いに小首を傾げられては否定の言葉は頭に無かった。元々彼らの力が無ければ失敗する確率の方が高いからだ。
クルマは首を縦に振って頷いた。
- Re: 浅沼クローン施設 ( No.7 )
- 日時: 2019/10/17 02:16
- 名前: 天宮 (ID: tOQn8xnp)
あれから二週間という期間はあっという間で、皆のポイントやレベルの具合などを知るだけで終わってしまい、脱出計画など、とてもじゃないが立てられるものではなかった。
与えられた自室はホテルの一室のようにフカフカな白いベッドがあって、机と椅子は教材の本が一つも無かったので飾り用に置かれているように思えた。
部屋の扉には鍵が一つだけ。
外鍵だったので内側から隠し持っていた針金を使って開けているところを警報が鳴って見つかった。
室内には監視カメラが無かったけれど廊下には至る所にある。開け方が分からなくとも針金を持っているところがカメラに撮られていたのだ。
厳罰をくだされる。
脱出を試みた者に命はないと言われていた。
何をされるのか分からないけど、厳罰を受けた人が生きて戻ってきたことは無い。
クルマの場合は、いつもの罰の受け方では無かったようで、特別だと白衣を身に纏う科学者は不敵に笑って、クルマの口をガムテープで塞ぎ、手を後ろ手に縛れば実験室に放り入れた。
その後に目隠しと謎のヘッドホンを装着したレーヴェルが入ってきて二人きりにされる、室内のスピーカーから聞こえたのは残酷な一言だった。
『火炙りの刑だ』
「!?ん゛んーー!!ん゛ーっ!」
レーヴェルは右手を肩の位置まで上げた。
レーヴェルのポイントは火や電気が扱えるというものだった、ただレベルはクルマやホムラと同じ2。いつでも出せるが強弱のコントロールが出来ないものだった。
怖くて必死に叫んでも口に貼られたガムテープは取れないし、ヘッドホンをしたレーヴェルにも必死の訴えは聞こえていないようだった。
レーヴェルの掌がクルマの上方向に向けられる。ピンポイントではないのはクルマが放り入れられて転んでしまっているため。
ポッとレーヴェルの掌から数ミリ離れた位置に赤い火の玉が浮き出る。ゆらゆらと揺れる火の玉はピンポン玉サイズからボワッと一気にクルマの位置からはレーヴェルの姿が見えなくなるほど大きな塊へと変化する。
クルマはこれほどまでに自分たちが生み出そうとしていたものが残酷に扱われ、攻撃と守備をコントロールするのに長けていた自分ですら、死を恐ろしく感じたことは無かった。
膨れ上がり迫り来た火の塊に足を引きずって逃げるのを諦めて唾を飲み込んだ。
次に目を覚ました時にはプラチナクラスの自室のベッドの上・・・クルマは無傷だった。
あの日クルマは気絶したにも関わらず、ポイント無効化という力を使っていたのだった。
それを知った科学者たちはクルマをそのままプラチナクラスで使い続けることにしたのだ。
- Re: 浅沼クローン施設 ( No.8 )
- 日時: 2019/10/19 01:51
- 名前: 天宮 (ID: .Dr7fIW0)
クルマの脱出未遂事件後、次に見つかった際はクラス全員に関わる連帯責任で罰を受けてもらうと忠告があった。
クルマが教室に来るとホムラが一言。
「やるんだったら見つからねーようにやってくんねーかなァ?」
「・・・ごめん」
「つ、次は、みんなで成功させればいいよ!っね?」
ホムラの言葉に反省しつつ肩を落として下を向くクルマにロキは駆け寄って背中を擦って励まし、下から顔をのぞき込む。
「ありがと、ロキ」
「ううん!」
クルマが薄く笑うと、より元気づけるかのようにロキは歯を見せて笑った。無垢で純粋なその笑顔は周りを穏やかな気持ちにさせるリラックス効果もあるが、怒りにピリピリとしていたホムラの罵倒を喉で押し留まらせる効果もあったようだ。
「ですがこれからどういたしますか?」
クルスの一言にみんなの視線がクルマに集まる。
脱出のことは考えたことはあるが計画を立てることが苦手な皆はクルマに考えてもらうしか選択肢が無かったようだ。
だがクルマは現段階での脱出は難しいと踏んだ。
「みんなはポイントのレベル上げに力を注いでほしい、レーヴェルやゼノンのポイントはコントロールが出来れば完璧だから、それをお願い!」
「・・・わかったよ」
「はい」
レーヴェルとゼノンの返事を聞いてからクルマはクルスへ指示を出す。
「それから、クルスは自由に出せるようにしてほしい、クルスの望んだものを生み出すポイントはとても有利だから!頼んだよ!」
「わかりました」
クルスは静かに返事をした。
次にホムラへ向く。
「ホムラは最近獲得したポイント・・・人を操るやつ!あれのレベル強化よろしく!」
「へーい」
ホムラは片手をヒラヒラさせて怠けた返事をする。これで指示は終了。
それまでクルマの周りで、自分に対する指示はまだかまだかと、待ちきれない様子でピョコピョコ小さく跳ねていた一人の少年が声を出した。
「クルマクルマ!ボクには?はやく指示ちょーだい!」
「うーん・・・」
そう、クルマは困っていた。
プラチナクラス唯一の高レベルポイント所持者はロキなのだ。傷を癒したり壊れたものを元に戻したりする治癒のポイントと石化させるポイントを持っていて、共にレベルは3の“いつでも使用できて強弱などのコントロールも可能”というものだ。
新たなポイント取得に力を注げと指示すれば良いのか考えるが、ロキは頭で考えることが苦手で方法まで聞いてきそうだと思うとクルマは頭を抱える。
そんなクルマの横を通ってホムラはロキの肩に手をポンッと置いて挑発気味に笑う。
「テメーは空気読む方法でも探してろってさ」
「え?空気?・・・そんなの、読めないよ・・・ってか空気は吸うものだし!!!」
「ブッ、バカには分かんねーか!あははっ」
「なっ!?バカって言った方がバカなんだよ、ホムラのバーカ!!」
「あ、バカって言ったな?お前バーカ!ぶははっ」
「ーっ、むかつくー!」
嘲笑いながらからかうホムラとからかわれて頬を膨らませ言い合いをするロキ、それを無表情で見つめるクルスと見向きもせず無関心のレーヴェル、眉を寄せて不満げに見つめるゼノン。
クルマはホムラの言っていることがあながち間違いではないので苦笑いで誤魔化す、だが実際はロキのする“幼い子どものするやり取り”というのは“年相応”と言えるもので、どこかホッとしていた。
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