ダーク・ファンタジー小説

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寒さの向こうは。
日時: 2019/11/14 18:27
名前: ユヲン (ID: cFK/w3CU)

いつだって、手を伸ばせば暖かい体温を感じた。
握り返してくれるのは当たり前のこと。
それが「普通」だと思ってた。……思ってた。
でも、それはただの幻想。妄想。現実逃避。
伸ばした手の先には果てしない闇だけが広がる。
手を包むのは暖かい体温などではなく、空っぽで冷たい虚構。
それが本当。事実でありリアル。
幸せを、体温を感じられるのは薄い薄い硝子の箱の中だけ。
少しでも間違ったら、ヒビが入ったら、あっという間に粉々だ。
綺麗な時間はおしまい。やって来るのは真っ暗闇。
それでも、もがくのは何故だろう。
闇を照らしてくれる物など何もないのに。
ランタン探しをはじめるには遅すぎた。
壊れてから初めて気づく、大切なもの。
硝子の箱の中で感じていた明るい光。
それはもう、戻らない。戻れない。
このまま進んでも、何もない。
自分を蝕む孤独しか感じない。
…僕は何処へ行けばいいのかな。


○注意書き
 初めまして。ユヲンと申します。
 僕は文才なんざ母さんの腹に置いてきましたが、
 気長に見守ってください。
 誤字脱字もあると思いますがそのときは暖かい目で見逃してくださいな…
 よろしくお願いします。

Re: 寒さの向こうは。 ( No.2 )
日時: 2019/11/16 12:07
名前: ユヲン (ID: cFK/w3CU)

「ただいまぁ」

冷たく冷えたドアノブを捻りながら家の中へ声をかける。
重いドアを精一杯の力で押し、小さく開いた隙間に体を滑りこませた。
バタン、とドアが閉まると体を暖かい空気が包む。

「あ、おかえりー。寒かったでしょ?暖炉の前で暖まってなよ」

キッチンの方から姉さんの声と共にいい香りが漂ってきた。
鼻につく香辛料の匂いと肉の焼ける音。
途端にお腹がグゥー、っと小さく鳴る。
そういえば、今日はまだ何も食べていないな。
ふと思いだしたその事で更に空腹感が増す。

「うん、寒かったよ。お腹減った〜!ご飯もうすぐ?」

パタパタと廊下を裸足で走り、リビングの暖炉まで一気に駆ける。

「もうすぐよ。手はちゃんと洗ってね」

暖炉に飛び込まん勢いの僕に苦笑しながら姉さんは続ける。

「父さん、また風邪を拗らせてるからさ。
これ以上無理させると倒れちゃうわ」

「あれ、治ったんじゃなかったの?昨日、父さん喜んでたじゃん」

「それが今日起きたらまた具合悪くなってたのよ。
昨日、子供みたいにはしゃいだからよ…」

姉さんは顔を曇らせてはぁ、と大きく溜め息をついた。

「あはは…。姉さんったらまた母さんみたいな顔してるよ?」

そう指摘すると慌てて顔を元に戻す。
姉さんはしっかり者だが、しっかりしずぎて老けて見えやすい。
本人も気にしているようで、いつも僕が指摘するたびに

「え、嘘っ!また!?」

とか言ってる。
でも、しばらくすると同じ顔になるからもう諦めたとか。
それが自分だって割りきろうとしてるらしい。
それでも、気になるのは気になるんだねぇ…

「ま、ともかく病原体を家に持ち込まないでよ?
…よし、ご飯できたわ。早く手を洗ってきなさいね」

暖炉の前でぬくぬくしてた僕に再度声をかけると食器を出し始める。

「うぅ…はぁい」

そう返事をすると、少し名残惜しつつも
暖炉から離れて洗面所へ向かった。

Re: 寒さの向こうは。 ( No.3 )
日時: 2019/11/19 22:40
名前: ユヲン (ID: cFK/w3CU)

「うえぇ…冷たいぃぃ」

半ば悲鳴の様な声を絞りだしながらピリピリとする冷水で手を洗う。
片手をすっ、と水に浸けただけで全身に悪寒が走った。

「この水で洗ってた方が体温下がって風邪引くよ…」

ぶつぶつと独り、悪態を吐きながら苦闘すること数分。
体を震わせながらリビングに戻ると姉さんがご飯を皿に盛って待っていた。

「レニ、遅いよ…。そろそろ慣れないと苦労するよ?
母さんが出張なんだから、もうしばらく我慢してってば」

「それが出来たらもうしてるよ!姉さんが適応しすぎなんだって。
寒いのにあんな冷水で生きろって無理あるよ!?」

「そもそもレニが魔力コントロール、出来ないからでしょ」

「うっ……」

痛い所を突かれて黙りこむと、声の代わりに腹の虫が盛大に鳴った。
顔が紅潮してくるのを感じながらそっと椅子に座る。
…食欲には勝てん。姉さんにも口は勝てん。
……無駄な争いはするもんじゃ無いな。
姉さんはクスッと笑うと僕に微笑みかけた。

「よろしい。学習したねぇ。さ、食べましょ」

「うん、食べる」

「…レニってお腹減ると語彙も減るよね」

それってどゆこと、と聞こうとしたが話を逸らされる。

「挨拶しないと」

「…うん」

少し不服だが、ご飯の前の挨拶は欠いてはいけない。
素直に従う事にしよう。

「神よ、我らへの恵みに誠心誠意、感謝する。我らの巡りに、そして我らが祖先に」

姉さんの掛け声に小さく息を吸う。

「「フォル・リューテ」」

手を軽く握りこみ、胸を二回叩いた。
…お腹ぺこぺこだな。
もう幾度となくやってきた動作を終えると僕はがつがつとご飯に食いつく。
喉を通る肉と米の味は、絶品だった。

Re: 寒さの向こうは。 ( No.4 )
日時: 2019/11/21 23:14
名前: ユヲン (ID: cFK/w3CU)

「…ふぅ。食べた食べた」

さっきまでお腹が減っていたなんて思えないほど
満腹にはなった体を椅子に預け、一息つく。

「んもう、がっつきすぎだってば。ご飯は逃げないんだから
もう少し味わってよね。もっと美味しそうに食べてもらえたら、
モチベーションも上がるんだけどなぁ」

そう漏らしながら、僕より早く食べ終わっていた姉さんが笑う。
自分のことはいいんかよ…?
前にそう思って聞いてみたらこう返ってきた。

「え、だって私が作ってる訳だし。
味わってゆっっっくり食べるより、ババッと食って
余った時間で他の事をした方が効率的でしょ?」

いかにも姉さんらしい効率主義だ。
それは僕にも当てはまるんじゃねえか、という
心の叫びはしまって声を返す。

「いやいや、味わったって。今日も美味しかったよ!
何より隠し味に入れたすりおろした林檎が良かったな。
肉を噛むと爽やかな風味と仄かな甘みがして最高だったし」

それを聞くと少しだけ姉さんが瞳孔を開いた。

「…よく分かったわね。気づかれないよう
凄く細かくおろしてたんだけど?」

そんな姉さんの様子を見て、僕はちょつと得意気に言葉を並べる。

「ふふん、凄いでしょ?肉を食べた時に、
いつもと味が少し違うなー、って思って考えながら食べてたんだ!」

褒めて、と言わんばかりに姉さんをみつめると
スッと頭に手を乗せられた。
わしゃわしゃと撫でられて髪が乱れたが
嬉しいのでスルーしておく。

「ええ、成長したわね。がっついて食べてる
だけじゃなかったのね、レニ。姉さんの
モチベーションも上がるわ…………でも!!」

急に大声を出した姉さんに驚くいて振り向くと
不敵な笑みを浮かべていて何事、と思ったら抱き上げられた。

「わわっ、ちょ、姉さん!?」

「甘い!まだまだ甘いわよ!?これで姉さんに勝ったつもりかしら!?
隠し味はもっといっぱいいれてるのよぉ!
今後はそれも看破してみなさいね!」

「うわ、うわぁっ!」

はははは、と大笑いする姉さんにぶんぶん回されて軽く酔ったのは秘密だ。

Re: 寒さの向こうは。 ( No.5 )
日時: 2019/11/29 22:21
名前: ユヲン (ID: cFK/w3CU)

「ごほっ…」

興奮した姉さんを何とか必死に宥めて、床に下ろしてもらうと
軽く咳き込む。ちょっと胃液が逆流しかけた。

「かはっ……ふぅ。落ち着いたぁ。…ちょっと姉さん?
あのさ?前から言ってるよねぇ?テンション上がると
周りが見えなくなるのは悪い癖だよってさ。
分かってる?とっっっても迷惑だから。
しかも大抵、被害者は僕なんだから。こっちの身にもなってよ。
まぁ、赤の他人にするよりかはいいかもだけどさぁ…」

「……はい。分かってるんです。でも、体が動いちゃうんです。
ごめんなさい。許して」

正気に戻ったのか、正座して僕の前で項垂れてる姉さんは
心底謝っている、というような声で謝罪を述べる。
いつもこうなるんだよなぁ。
周りが見えなくなって暴走する姉さんを正気に戻らせて
叱りつけて。でもって姉さんが平謝りするまでが1セット…。
だけどまた同じ事が起きて、無限ループ。
普段はしっかり者なのになぁ…?
小さい頃からちょっとした疑問なんだよな、これ。
不思議だなぁ…。人には表裏があるっていうけど、これとは違うし。
何だろうねぇ。

「…反省してるのは分かった。でもね?
それはちゃんと再発防止に努めるって事でいいんだね?
口だけじゃあないよね?このやり取り何回目だっけ。
数えきれないねぇ」

嫌味なほどねちねちと叱りつけると姉さんが更にしゅんとする。

「ごもっともです。全部私が悪いんです…。
でも再発防止は多分無理ぃぃ!!」

「正直なのは良いことだけどね!?正直すぎるのもどうなの!?
もうちょっとでいいから根性見せてよ!!」

「だって体が動いちゃうんだもん!
スイッチ入ると制御効かないからさ!?
無理なものは無理いぃぃ!!」

コントの様なやり取りを続けること早十分。
今回は僕が折れた。

「…分かった。"できるだけ"再発防止に努める。OK?
それでいいから諦めるのは止めてよね…?」

「OK。自分で出来る精一杯で頑張るよ。…多分」

少し不安になる姉さんの言葉によって姉弟喧嘩(?)は締め括られた。

Re: 寒さの向こうは。 ( No.6 )
日時: 2019/12/03 23:29
名前: ユヲン (ID: cFK/w3CU)

「よっと…」

暖炉の前で再びぬくぬくして幸せを噛みしめていると
姉さんが座布団を持って隣に移動してくる。
座布団を枕の様に使って横になるとゴロゴロしだした。

「あったかいなぁ」

「うわ、姉さんストップ!僕の体にアタックしないで!
地味に痛いから、それ!ちょ、ほんとストップしてっ」

「ふふっ、えい!姉さんアタックだぞ!
どうだ、参ったか?」

僕を小突きながらどこぞのヒーローの悪役みたいな台詞を吐くと
更に腰を強く押してくる。

「うおっ、倒れる!倒れるぅ!!」

ボフン。

「グフッ」

案の定倒れるが、姉さんが下敷きになったので
さほど衝撃はこない。てか姉さん、何その声。

「…は〜楽しい。幸せだなぁ」

軽く背中を擦りながら起き上がる姉さんが唐突に
そんなことを言い出した。

「え、姉さんこんなの楽しいの?…はっ、もしかして姉さんってマ……」

「ちょ、誤解!それは誤解だって!?いや、だって楽しいじゃん?
私の幸せはそんなハードル高くないからさ。
レニとこんなことが当たり前にできるって平和だな〜、って思って。
だから幸せだって思ってさぁ」

「姉さん、いつからポエマーになってたの?
僕にも教えてよ。そしたらいじってあげたのに」

「ん〜…ポエマーとはちょっと違くないかい、レニさんよ……?」

軽く茶化してみたが、確かに僕らは幸せだ。
嫌なことは全然ないし、皆優しいし……。

「あ、レニ。そういや買い物頼むわ。
夕飯の材料」

前言撤回。この寒さで外に出るのは絶対嫌だ。
…まぁ、姉さんの頼みならしょうがないか。


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