ダーク・ファンタジー小説
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- 衰没都市リベルスケルター
- 日時: 2020/02/12 15:32
- 名前: 祝福の仮面屋 (ID: HWQyDP4e)
【もしも、今日が人生最後の日だとするなら、皆様はいかがお過ごしなさいますか?】
【好きな人と愛を誓うか、勉強や仕事を放り捨て自由に生きるか、それらの選択肢は人それぞれです。】
【それとも…何 も せ ず に 死 を 迎 え ま す か ?】
【この少女は誕生日に、廃れた世界と現実を行き来する事を選びました。】
【様々な思惑が交錯するこの世界。その先に待つのは、希望か、絶望か。】
登場人物・用語紹介
【東京編】>>1
【反異世界の東京編】>>2
【緋月の教団編】>>3
【その他登場人物編】>>4
【用語紹介】>>5
代壱幕
代壱話>>6「人生最期の誕生日」
代弐話>>7「もう一つの東京」
代参話>>8「Re:Birthday」
代肆話>>9「幻実と現想の狭間で」
代伍話>>10「人を殺す優しさ」
代陸話>>11「力の正しい使い方」
代漆話>>12「人を笑わせる嘘」
代捌話>>13「絶望の淵にて」
代玖話>>14「残酷な天屍の様に」
代拾話>>15「Death or Alive」
- Re: 衰没都市リベルスケルター ( No.5 )
- 日時: 2020/02/12 17:48
- 名前: 祝福の仮面屋 (ID: HWQyDP4e)
《用語》
【衰没都市】
本作の主な舞台となるもう一つの東京。意識不明の重体を追った茅種が、偶然にも迷い込んでしまった異世界。『衰没都市』の名の通り見た感じこそ東京都そのままだが、車道など陸路の大半は水底に沈んでおり、歩ける場所は歩道や一部の橋程度で建物内も老朽化し、植物が生い茂っている。ただここに来る条件自体は単純で、マイ曰く「精神に何らかの影響を受けた者が迷い込む可能性が高い」との事。
【緋月ノ教団】
『衰没都市』にて暗躍する謎の集団。教団と名乗ってはいるが、やっている事は教団と言うよりも無差別テロに近く、多数の死傷者を出している模様。《教祖》を神格化し、教祖に使える四人の騎士《四天屍》を中心に、独自のネットワークが敷かれている。他にも、常盤の家を集団で囲んだり、茅種の関係者であるジュリエッタの家を漁るなど不審な行動も多い。
【ヴァグ】
茅種が『衰没都市』にやって来た時からいた謎の存在。見た目は現実世界に存在する昆虫をデフォルメした感じで、かなり愛くるしい(?)姿をしているが、かなり機械的な見た目をしている。因みに『ヴァグ』という名称はマックスが付けたもので、「英語で虫を意味するBUG」から来ているらしい。中には汚染状況に応じて進化する個体も少なからず存在し、進化個体は通常個体を遥かに上回る能力を持つ。
【ヴァグ・エフェクト】
ヴァグ保有者にのみ出現する独立器官。ヴァグ・エフェクトの種類はヴァグの数だけ存在するらしく、ヴァグの種類によってエフェクトの効果も変わってくるらしい(例として茅種のヴァグは蝗型の為、超人的な跳躍力を得る)。汚染度数に敏感な性質があり、過度に汚染される事で、強化暴走形態『スケルターモード』に陥る危険性も存在する。
【汚染度数】
一部地域を除き、『衰没都市』限定の湿度や気温とはまた別の気候概念。軽度の汚染状況であれば、建物等に薄紫色のクリスタルが生えるくらいだが、重度の汚染状況ともなれば街全体にクリスタルが群立する事もザラで、汚染区域全域が紫色の霧に囲まれている。紫色のクリスタルや霧はヴァグ・エフェクトに干渉する性質があり、極限まで干渉する事でエフェクトを暴走させ、『スケルターモード』移行させる事もある。
【皇】
茅種より1ヶ月速く『衰没都市』へ迷い込んだマイが、偶然知り合ったマックスと共に創立した組織。新宿駅構内に拠点を構えており、電気などは一切通っていない為、飛光虫といった生物資源により成り立っている。都市を徘徊する『慨獣』の駆除拠点として用いられる他、『衰没都市』に迷い込んでしまった人間の保護活動も行なっている。
【スケルターモード】
重度の汚染区域にて発動する、ヴァグ・エフェクトの強化暴走形態。元々この概念は存在せず、汚染状況が80%を超えた際はヴァグ及びその保有者は死亡するのが通例だった。だが、ヴァグが学習した事によって暴走してしまうデメリットがありながらも、エフェクトの強化に使用する不完全な適応を遂げたが故に発動するようになった。発動時は体の一部がエフェクトに覆われ、エフェクトを伝って霧が持つ闘争本能を掻き立てる成分がダイレクトに伝えられ、性格も好戦的なものに変貌する事が確認されている。
【慨獣】
『衰没都市』の一帯を跋扈する怪物の総称。中でもボスクラスは『凱蟲』と呼ばれ、『慨獣』を優に超える戦闘能力を持っている。重度の汚染区域内でも活動出来る強靱な生命力を持ち、ステージ毎に戦闘力も変わる。ステージIでは現実世界の動物をスケールアップした程度だが、ステージII以降は複雑な進化を遂げる為、ステージIVともなると基となった生物が判別不可能なレベルで複雑な風貌をしている。
【怪奇現象】
現実でのオブジェクト使用の際に起こる謎の現象。
【天野橋ハイウエイ事件】
東京都と栃木県をつなぐ天野橋ハイウェイにて発生。ハイウエイの中心部辺りになった瞬間全ての電気信号が遮断され、次々に追突事故が起こった事件。交通状況の混雑化に伴い、電気信号の受診率の低下が原因とみられる。
【心霊写真】
とある公園を写した写真。遊具のそばに白い着物を着た女性が写り込んだとされ、一時期話題騒然となる。原因は遊具の近くに置かれた岩による光の反射だと判明したが、その岩は誰が・いつ置いたのかすら不明という。
【ドッペルゲンガー】
埼玉県川越氷上神社境内にて発生。8月15日の午後15時に訪れた参拝客の目の前に背格好は愚か、顔立ちも全く同じ人間が現れたとの事。学生達の悪戯とされているが、参拝客はその日を境に行方不明となっている。
【神隠し】
東京都内の一等地にて頻発。著名人や政治家などが標的とされ、それらの子息子女が悉く攫われた。身代金目的の誘拐と見られているが、一等地の数カ所で同時に発生している為、調査は難航している。
【キャトルミューティレーション】
現実においてそれらしい事件は確認されていないが、下記の性器や脳の欠損がそれに当たるとされる。
【ファフロッキーズ事件】
アメリカ・ニューヨーク州のホテルにて、性器と脳の一部が突然降ってくる現象が発生し、上記のキャトルミューティレーションによるものだと考えられている。動画投稿者がいたが、撮影された動画は悲痛な悲鳴と共に映像が突然切られる不穏かつ不自然な終わり方をしており、その動画も現在は削除されている。
- Re: 衰没都市リベルスケルター ( No.6 )
- 日時: 2020/02/12 15:35
- 名前: 祝福の仮面屋 (ID: HWQyDP4e)
代壱話「人生最期の誕生日」
『よし、始め!』
『うぉらぁぁぁぁぁ!』
『うぉぉぉ、部長が止まらねえぇぇぇ!』
ここは、東京都足立区にある私立白井坂学園。中高一貫制のこの学校では、勉強または部活で何かしらの成績を残さなければ淘汰される実力社会で、勉強も出来ないくせに運動も出来ない者達が次々と自主退学して行ったのを今でも鮮明に覚えている。
とはいえ、ここではスクールカースト的な奴も実行されてる訳だし、まともにコミュニケーションも取れないナードがいても仕方ないのだろう。外で練習しているアメフト部の蛮声を聞きながら、少女はため息と共に呟く。
「……アホくさ」
と。
彼女の名は雪宮茅種。情報ビジネス検定1級など様々な資格を持ち、その資格を活かして中等部の頃からゲーム会社《ラグナス社》に出入りしている。彼女は件の会社からゲームのグラフィック開発を任されており、人気のないコンピューター室にて制作に勤しんでいた。
「ったく、何で私がやらされてんのさ……あーもう!アイデア浮かばない!」
茅種はパソコンを閉じ、自身のカバンの中へしまう。持ち運びのしやすいノートパソコン故、嵩張る事は無いだろうが…何を言おう学校側には内緒でやっているのだ。コンピューター室だって、再来年に受験する予定の大学の情報収集を口実に貸してもらっている。
「森Pに連絡しなきゃなー、制作終わるの来週頃になりそうって」
そう呟きながら、彼女はスマートフォンを操作してNINEのアイコンをタップし、アプリを起動させる。プロデューサーと連絡を取ろうとした刹那、一通のメッセージが届いた。
「誰だよ…こんな時に…」
茅種はぶつぶつと小言を放ちながらメッセージを開く。送信主は母親で、当たり前だが茅種宛のメッセージらしい。
「えっとなになに…?『ちーちゃん、今日で17歳だね♪ケーキ作って待ってるから、大学目指して頑張れ!』って…邪険に扱った私がバカみたいじゃん…」
茅種は少し頬を赤らめ、コンピューター室の鍵を職員室に返して学校を後にした。
「さてと…どうしたものかね」
茅種は再びスマートフォンの画面を操作し、プロデューサーに電話をかける。数コールほど鳴った後、連絡相手が電話に出る。
『どしたの?』
「森Pですか?あの例のグラフィックの件なんですけど…」
『うんうん』
「少し難航しているので…完成は来週頃になりそうなんですけど、大丈夫ですか?」
『あぁ〜あれね!大丈夫大丈夫!君はまだ学生なんだからさ、いつでも大丈夫だよ』
「本当にすいません、でもありがとうございます。一応サンプルは送っておきますね」
『オッケーありがとう!そう言えば今日誕生日だよね?おめでとう』
「あ、ありがとうございます」
『じゃねー』
「はーい」
電話を切った茅種は、少し手取り足取りが軽くなった事を感じる。どうやら、プロデューサーや母に誕生日を祝って貰えたのが嬉しかったのだろうか。今更だが今は冬休みの真っ只中であり、時刻は正午を過ぎようとしていた。
すると、ふと思い出したように腹から可愛らしい音が鳴り、茅種は通りかかったレストランの中へ入っていく。扉には《affascinante》とお洒落なイタリア語で書かれた看板が掛けられており、扉を開くととある人物が茅種を迎えてくれた。
「Come posso aiutarvi?…ってあら、茅種ちゃんじゃない!最近来ないから心配してたけどどうしたの?」
「久し振りです、ジュリエッタさん。いやまぁ…こちらも色々あるんですよね…」
「なら座りなさいな。何にする?」
「いつもので」
「Si,sigore」と店主…ジュリエッタは了承すると、キッチンの方へと向かって行く。
ここは、彼女の経営するイタリア料理店《アッファシナンテ》。一見喫茶店やスイーツパーラーにも聞こえなくも無い響きだが、イタリア料理を専門とした結構本格的な店だ。店主ジュリエッタは茅種との面識もあり、中等部からの付き合い故、茅種にとっては頼れる姉のような存在である。
茅種は仕事を終わらせる為鞄の中からノートパソコンを取り出し、電源を入れグラフィックソフトウェアのアプリを起動、目にも留まらぬスピードでグラフィックを描いて行く。
「はいお待たせ!シーフードピザとヒレ肉のカルパッチョね…って貴方も大変よねぇ、大変じゃない?」
「かなり大変ですね…あ、料理ってもう出来ました?」
「出来てるわよ、たんとお食べなさい。元気出ないし大きくならないわよ?」
「私そこまで身長いりませんけどね…」
茅種はノートパソコンを打つ手を止め、グツグツと煮立つチーズの芳醇な香りが漂うピザを一切れ口に運び、生地の上に乗った魚介類を噛み砕くように咀嚼する。
「〜〜〜〜〜///」
「あら、嬉しそうで何よりだわ♪カルパッチョの方も新鮮なお肉を仕入れたから、しっかり噛んで食べなさいな」
茅種の幸せそうな表情を見て、ジュリエッタも笑みを浮かべる。ピザを一切れ食べた茅種は一度水を飲み、今度はヒレ肉のカルパッチョを口に運ぶ。
「んにゅ〜〜〜///」
「あらあら、可愛い声ね♪」
「だってしょうがないじゃないですか、ヒレ肉の濃厚な旨味と圧倒的な歯ごたえに、特製ソースが見事に合うんですから」
そう言った茅種は全て食べ終え、ジュリエッタから食後のエスプレッソを手渡される。日本とかだとイタリア料理店ではよくカフェラテとか出されるらしいが、本場ではエスプレッソにこれでもかと砂糖を入れるのが普通なんだとか。故にここでは砂糖の量はオーダーで、ジュリエッタは茅種にとって一番いい分量を入れて来てくれる。
「そうだ、関係ない茅種ちゃんに言うのもなんだけど…《緋月ノ教団》って知ってる?」
ジュリエッタの唐突な一言に、茅種は彼女の方を見据える。
「ど、どうしたの?怖い顔してるけど…」
「いえ…何でもない、です」
「そう…なら良いけど…」と、ジュリエッタは呟き手短に会計を済ませる。茅種は足早に帰ろうとするが、ジュリエッタに止められ、一言告げられる。
「帰り、気をつけてね」
「……はい」
茅種は重々しく口を開くと、駆け足気味に階段を降りて行った。
「帰らなきゃ…」
茅種は走りながら横断歩道を渡る。
しかし、彼女はまだ横断歩道が赤だった事を知らなかった。
「…………え?」
突然体を襲った衝撃と共に、茅種の華奢な体は中を舞う。そして、『グシャリ』と彼女は地面に落ち、意識は無窮の闇へと引きずりこまれて行った。
次回 代弐話
「もう一つの東境」
- Re: 衰没都市リベルスケルター ( No.7 )
- 日時: 2020/02/16 09:37
- 名前: 祝福の仮面屋 (ID: yVTfy7yq)
代弐話「もう一つの東境」
『なぁ、聞いたか?』
『あぁ、確か…雪宮が意識不明の重体なんだろ?』
『トラックに轢かれたらしいけど…無差別テロなんじゃないかって噂』
周囲のざわめきを他所に、少年はただ一人ベッドに寝たきりの少女を見つめていた。寝たきり少女…雪宮茅種の母親と思しき女性は、彼女の小枝のようにか細い腕をその身に抱いており、涙を流している。医師によると彼女は現在植物状態にあるらしく、いつまで保つかは解らず、いつ死んでも可笑しくない状況にあると言う。それでも母親は聞き入れず、今なお彼女の腕を抱いている。
「雪宮…」
「先輩…」
少年・万丈啓司は茅種の名を呼び、そんな彼を心配したのか、松葉杖をついた少年・田耕平次は彼に声をかける。
「何だ?」
「俺は出れませんけど、先輩には大会があるんです。悪いですけど、ここで道草食ってる暇は無いでしょう?」
「そう…だよな」
刹那、啓司は自身の顔面を思いっきりぶん殴った。この奇行には、さすがに平次も動揺を隠せず、思わず声を荒げる。
「ちょっ!?何やってんすか!」
「よし、俺は練習に戻る。戻りたい奴は一緒について来い」
そう告げると、啓司は病室を後にする。すると、彼に引き寄せられて行くように他のアメフト部員達は次々と病室を後にする。
「ユキ先輩、リハビリ終わったら…また極めてきますからね」
そして平次は茅種を見つめ、そう一言告げると松葉杖をつきながら病室を後にした。
「(あれ…?ここ、何処だっけ?)」
今、彼女は闇の中にいた。
どう言い表せば良いか分からないが、ただこの闇に引き摺られている事だけは何故か分かる。体が動く事を確認した茅種は少しばかり手足を動かすが、その悉くが空を切り、まるで空から自由落下しているような感覚だった。
「(空から落ちる時ってこんな感じなんだろうなぁ…)」
すると、落下していた茅種の体が突如として止まる。
「(おやおや、もう水底かな?)」
茅種はそう思い、再び脚を動かす。感覚は今までと違い、今度は水を切っているかのように重かった。
「(まだ続くんだ…てか、何か息苦しいし…ってこれヤバいのでは?)」
そう考えた茅種は三度両手両脚をバタつかせ、クロールの要領で水面を目指す。
「ぶはっ!はぁ…はぁ…はぁーーーっ!………ふぅ…やっと上がれた…」
水面に上半身を浮かべながら、茅種は安堵の息を吐き周囲を見渡す。見慣れた光景とは全く違う異様な過ぎる光景に、茅種は少しばかりの驚きを隠せずにいた。確かに見た感じは東京新宿区なのだが、彼女が今浮かんでいる車道など殆どの陸路は水に沈み、陸路と言える陸路は歩道や歩道橋程度のものだった。
他にも、コンビニやビルは老朽化し傾いており、窓越しにびっしりと生い茂った植物が確認出来た。あっちの新宿と似ても似つかないこの光景に、茅種は感嘆の声を漏らす。
「(おぉ…これが巷で噂の異世界転生…?今自分の姿見えないから分かんないけど、転○ラとか蜘○ですが何か?みたいに人じゃなくなってるんだろうか…)」
茅種は鞄の中からスマートフォンを取り出し、カメラアプリを起動し内カメラに切り替える。しっかりと人だった。17歳でピチピチの華のJKだった。取り敢えず人の原型を保てていた事に、茅種は再び安堵の息を吐く。
「てか、ここ何処なんだろ…見た目は東京っぽいけど、全くの別物なんだろうな…それよか早く上がんないと」
茅種は近くの歩道に上がり、少し怪訝な顔をしながらぐっしょり濡れたブレザーやワイシャツを脱ぎ、下着一枚の格好になり脱いだ衣服を絞り上げる。
「こんな水捌けよかったっけ?うちの制服…」
どうやら思ったより水分を含んでいなかったらしく、絞り上げた後何処かの枝に数分干しておいたら、もう着れる程に乾いていた。乾いた制服を着ながら、茅種はスマートフォンを操作しNineを起動するがーーー
「マジか、ここ電波通ってないの?」
どうやら割とマジな異世界に迷い込んでしまったらしい。どうしようか考えようとした刹那、何処からか路傍の小枝を踏み折る音が聞こえて来る。茅種は反射的に近くのコンビニへ入り、レジのカウンターの下に身を隠した。
「(何!?なになになに何の音!?)」
茅種はカウンターの下から顔を出し、音のした方を覗き込む。瞬間、茅種は再びカウンターの下へと顔を引っ込めた。
「(ほぁ!?何アレ!?)」
彼女は半狂乱状態でスマートフォンを取り出し、お馴染みGookleを起動する。幸い、コンビニ故かここでは電波が飛んでいるらしく、持ち前のタイピング技術で先程見た…というか見てしまった生き物の身体的情報を即座に打ち込んで行く。
「(チョッチョマッテクラサイヨ!はぁ!?あの生き物の情報全く無いんだけど…ってそれりゃ当然か、異世界だし。ってそうじゃない!どう切り抜ければ…)」
刹那、先程茅種が見てしまった生物が、突如としてコンビニ内に突っ込んで来た。
「ゴガガガガガッ!」
「い"やぁ"ぁぁぁ"ぁ"あ"あ"あ!」
可憐な華のJKとは到底思えない野太い声を上げながら、不意打ちを食らった茅種はカウンターから身を投げ出し、コンビニを出た瞬間一直線に走り抜ける。ネット関係の仕事が多い彼女だが、これでも50m走6秒台という俊足の持ち主なのだ。
幸い、あちらの動きは鈍重らしく、機動力に関しては茅種に部があった。
「(行ける!このまま振り切ればーーー)って嘘ぉ!?」
そう思ったのも束の間、コンビニの裏から現れた新手に驚き、茅種は急ブレーキをかけ速攻で方向転換し再び走るがーーー
「ーーーーーッ!?」
方向転換時のタイムラグに不意の一撃を喰らい、茅種の華奢な体は見事に数メートル吹っ飛び地面を転がりながら停止する。謎の違和感を感じた茅種は、地面に血と吐瀉物のカクテルされた物質をぶち撒けた。
「げぇ…………あっ………」
不意の一撃と過度な運動によって動かなくなった茅種に、虫のような怪物はゆっくりと歩み寄って来る。叫ぶ力すら残っていないが、キリキリと顎を鳴らす虫の怪物を見た茅種は、心底悲鳴を上げたかった。
「ギシャァーーーーッ!」
「くぅっ!」
茅種は苦し紛れに跳躍する。
だが、人間の跳躍力などたかが知れているにも程がある。無論、茅種もそんな事は百も承知で実行した訳だがーーー
「ーーー……って何これぇ!?」
めちゃくちゃ跳んでるのである。その高さおよそ300m、あ○のハル○スと同じくらいの高さを彼女は跳んでいるのである。驚愕する茅種は、自身の肩に何かが乗っかっている事に何故か気づく。
「うおぉ!?ば、バババ…蝗ぁ!?」
そう、彼女の肩にはデフォルメされた機械的なバッタが乗っかっていた。バッタは『バグゥ』と可愛らしく鳴くと、茅種の両脚を指し示す(何処で指しているのかは謎だが)。その両脚には、バッタの脚のようなエフェクトが付いていた。
「成る程!これを使えと!」
「バグゥ♪」
使い方を理解した茅種は、此処に来るまでに経験した自由落下を活かし、重力加速度も味方につけ怪物に渾身の踵落としを喰らわせる。怪物の頭にはヒビが入り、怪物は泡と血の混ざり合った何かを噴きながら倒れた。
「私にはダメージないとかすっご…確か人間が確実に死ぬ高さって15mだよね?300mから落下しても死なないとか人外じゃん」
中々の人外っぷりに驚嘆の声を漏らしながら、茅種は傍にちょこんと立ってる蝗を見据え、再び肩に乗せる。
「さて、行こっか!」
「バグゥ!」
少女は歩み出す。この世界の真相と、元の世界に帰る術を探す為に。
次回 代参話
「Re:Birthday」
- Re: 衰没都市リベルスケルター ( No.8 )
- 日時: 2020/02/15 10:31
- 名前: 祝福の仮面屋 (ID: yVTfy7yq)
代参話「Re:Birthday」
「すっご〜い!何これ何これ!」
とある異世界(?)に来てから三日程時が経ち、異世界転生者(仮)こと雪宮茅種は、初めて見る光景に大興奮していた。まぁ、恐らく此処がどこかも分からない為、遂に知能指数が低下したと思われるがそうじゃないと思いたい。スマートフォンのカメラアプリを起動し、周囲の植物を撮影して行く。実は彼女の趣味、とても意外な事に植物鑑賞なのである。
「ねぇ、ローカスト。貴方はこの植物の事知ってる?」
「ヴァグゥ…?」
「やっぱ知らないか…まぁしょうがないよね、私も分からない訳だし…」
デフォルメされた機械蝗…《ローカスト》は首を振り、茅種は小さくため息を吐く。
因みにこの機械蝗、元々名前は無かった訳なのだが、呼び名が無いと不憫に感じた茅種が群れを作る蝗を意味する英語・Locustと名付けたのだ(グラスホッパーだと呼び辛いからだろうか、え?そんな事ない?寧ろ略して呼べるから逆に楽?ほっとけ)。
とは言え、機械蝗も名前は気に入っているらしく、茅種も名付け甲斐があっただろう。
「つーか、此処どこだろう…見た目的には東京タワーの近くっぽいけど…」
少なくとも、この異世界(仮)ではコンビニ等一部の場所でしか電波が通じないらしく、スマートフォンが無いと生きていけない今時の若者からしたら地獄以外の何でも無いだろう。多分今どこの若者だったら発狂死しそう。
「ガァァァアアアア!」
「うひゃー、やっぱ来ますか」
ほのぼの日常パートも束の間、東京タワーの陰から巨大な怪物が現れる。この前戦った巨大蜘蛛と違い、今度は本気で怪物と思わざるを得ない風貌をしていた。恐らく原型は蛍なのだろうか、とは言えあのヤゴ(?)から放たれる悪臭は筆舌しがたいものだった。
「……くっさ!しかも何あれキモッ!多分ドリアンだな!?あの玉ねぎが腐ったような独特な臭いは!」
「ギュァァァアアア!」
「うおおお!こっち来んな馬鹿ぁぁぁ!」
ヤゴの突進を紙一重で躱す茅種。しかし、ヤゴのスピードの方が一枚上だったのか、突進の余波を右腕に食らってしまう。
「いっつ………!しかも臭いし!」
茅種の右腕に鈍痛が走る。
だが茅種とて一方的にやられる訳にはいかず、即座に体制を立て直し、相棒の名を呼ぶ。
「行くよ!ローカスト!」
「ヴァァァァァァグゥ!」
雄叫びを上げたローカストは茅種の脚に現れた痣、ヴァグ・エフェクトを発動させる。エフェクトは蝗の強靭な脚を形成し、茅種の跳躍力と脚力を強化させる。
「オラ"ァ!」
「ギュア!?」
茅種の俊足を支え、しかもエフェクトにより大幅な強化を施された脚力はヤゴの外殻を一撃でぶち壊し、怯んだヤゴに更なる追い討ちをかけるがーーー
「づッ!?」
「ギュラァァァ!」
茅種の体に無数の切り傷が走る。致命傷でこそ無いが、それは茅種の動きを止めるには十分すぎる効果があった。
「ギュララララ!」
「ガッ!?」
なんという事だろう、羽化した。思えばこいつはヤゴ、しかも茅種の最も嫌いとするヘビトンボのヤゴだった。
「………キッショォァァァァァァい!」
茅種は絶叫し、ヘビトンボの突進を上半身を逸らして回避。そしてすれ違いざまに飛び乗り、いつも通り踵落としを叩き込もうとした次の瞬間ーーー
「ゴアァァァッ!」
「うひゃぁ!?」
茅種の顔の横を高速の何かが掠める。目線を向けると、視線の先には巨大なオニヤンマが飛んでいた。
「ホァ!?おいおいマジか!」
オニヤンマは再びこちらを視界に捉え、轢殺せんと言わんばかりのスピードを出して茅種目掛けて飛翔する。しかし、不意打ちかつ初見で殺しきれなかった茅種に2度目が通用する筈もなくーーー
「2度も喰らうかァ!」
「ギュピッ!?」
茅種はライドオン!していたヘビトンボの羽を掴み、ヘビトンボを上昇させオニヤンマと衝突させる。無論茅種は衝突する寸前に飛び降りたから平気だったが、ライフル弾の如く加速したオニヤンマは自身のスピードを制御出来ず、ヘビトンボの体を貫通する。思いの外かなりグロテスクだった。
「うわぁ…」
「ギュギャギャギャギャ!」
怒り狂ったオニヤンマは、呆然と突っ立っていた茅種目掛けて三度突進を繰り出す。そして、茅種との距離が数メートルにまで迫り、茅種を吹き飛ばそうとした刹那ーーー
『シャンッ』
と鈴の音のような、金属製の何かを走らせる音が響き渡り、オニヤンマの頭と胴体が真っ二つに分かれる。
「今のは………?」
茅種は斬撃が飛んできた方向…即ち自身の後ろに振り返る。そこには、茅種と同じ学校の制服を着た少女が、刀を片手に立っていた。
「貴方……誰?」
「………」
茅種の問いに対し、刀を持った少女は何も答えず後ろへと振り返り歩き出す。茅種はその少女を追っていった事に関しては言うまでも無いだろう。
次回 代肆話
「幻実と現想の狭間で」
- Re: 衰没都市リベルスケルター ( No.9 )
- 日時: 2020/02/16 10:54
- 名前: 祝福の仮面屋 (ID: yVTfy7yq)
代肆話「幻実と現想の狭間で」
「………」
「ちょっと待ってよ!ここ何処か教えてくれるだけで良いから!」
現在茅種は、前回彼女を助けてくれた日本刀JKに現在地を教えてもらう為、件の日本刀女子を追っていた。最初はかなりゆっくり走っていたのだが、どういう風の吹き回しか現在はビルとビルを飛び交うパルクールをやっている。しかもあろう事か、件の少女はこちらをチラッと見た次の瞬間、走る速度を上げた。
「………!」
「あ!狩りごっこだね!?よーし、負けないぞー!」
遂に茅種が壊れたのか、奇怪な事を叫びながら走る速度を上げる。両者の距離が3mを切った辺りで、刀少女はビルとビルの間に飛び込む。無論そんな事は自殺行為に近いが、器用にビルの壁を蹴りながら降りて行く。
少女がこちらを見てドヤ顔かまして来たのが分かる。若干イラっと来た。
「野郎…さては出来ねえと思ってんな?」
茅種も同じ要領で、ビルの壁を交互に蹴りながら器用に降下する。隣に綺麗に着地すると、彼女が舌打ちするのがわかる。ザマぁ。
「……で、一体何の用?女が女相手にストーカーって恥ずかしくないの?」
「残念、私は同性愛者じゃないんで一応だけどイケメン彼氏いたんで、モテない女の妬み嫉みは他所でどうぞ?」
「首切り落とすわよ」
「やってみろ」
一色即発の空気になる事数十秒、刀剣乱舞しちゃってる刀剣女子が口を開く。
「貴方、ここが何処か知りたいって言ってたわよね?」
「うん、それがどうしたの?」
「………付いて来て」
そう一言告げると、刀剣JKは踵を返し歩いて行く。茅種は少し呆然と立っていたが、直ぐ様走って追いかける。歩く途中で、刀剣JKはこちらに振り向かず話し掛けてくる。
「そういえば貴方、名前は?」
「あ、私?私は雪宮茅種」
「チグサね…私はマイ、よろしく」
刀剣JKことマイに付いて行くと、新宿駅と思われる地下鉄の前へとやって来た。
「……ねぇ、この中に入るの?」
「当たり前でしょ、行くわよ」
若干不安な茅種をよそに、マイは堂々とした足取りで駅構内に入って行く。彼女が入って行くなら問題は無いと思うのだが、やはり知り合ったのが先程である以上、少しばかり疑いの念は抱かざるを得ない。駅構内を歩いていると、一人の青年が現れた。
「ただいま」
「おぉ、お帰り。結構遅かったんじゃ無い?」
「少しばかり手荷物が増えたもので」
マイはこちらをチラッと見る。すると、青年もまたこちらを見る。
「お、君がマイの言う手荷物かな?僕はマックス、彼女と一緒にここでとある研究をしているんだ」
「雪宮茅種です、あの…ここが何処か分かりますか?私、何も分からないんです」
マックスは口角を軽く上げ、茅種の問いに解を出す。
「ここは衰没都市」
「衰没都市……?」
「あぁ、東京であり東京ではない、もう一つの世界…所謂パラレルワールドって奴さ」
次回 代伍話
「人を殺す優しさ」
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