ダーク・ファンタジー小説
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- 6ペンスの唄と死神の囁き【完結】
- 日時: 2020/07/19 21:45
- 名前: シェルミィ (ID: FWNZhYRN)
こんばんは!そして、初めまして!シェルミィと申します(*^_^*)
友人から小説カキコを勧められ、このサイトを訪れる事となりました。
小説は書き始めたばかりの素人ですが、皆さんに追いつけるよう努力を尽くします。
主にシリアスや猟奇サスペンスをテーマにしております。
と言う事で、どうぞよろしく!
※本編を投稿する前に注意をいくつか
※私のジャンルは異質であり、違和感を感じる事が多いかも知れませんが、温かく受け入れて下されば幸いです。
※誹謗中傷や荒らしは絶対にやめて下さい。
※この作品はフィクションですが、現実の世界が舞台となっております。
不謹慎な内容があるものの、その国や国民性、及び文化を侮辱している事などは一切ありません。
それでは、物語の幕を開けようと思います・・・・・・
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あなただけの美味しい特性のパイはいかが・・・・・・?
1903年のロンドン。
人々が行き交う路上で、お菓子を売る1人の男の子。
彼は恩人が営むパイの店で住み込みで毎日働く、内気な少年。
おや?お菓子を欲しがる人間が、また1人やって来たようだ。
6ペンスを貰い、チョコやラスクを配る。
・・・・・・でも、お菓子だけじゃ物足りないでしょ?
僕が住んでるお店で売ってるパイは格別に美味しいんだ。
きっと、気に入ると思うよ?だからおいで?
君だけのとっておきのパイを作ってあげるから・・・・・・
- Re: 6ペンスの唄と死神の囁き【短編小説】 ( No.1 )
- 日時: 2020/05/24 19:10
- 名前: シェルミィ (ID: FWNZhYRN)
1903年 6月12日 午後5時13分 ロンドン商店街 オックスフォード・ストリート
「お菓子はいりませんか!?フランスで作られた高級品ですよ!」
人々が行き交うロンドンの商店街、いくつもの並ぶガス灯の1つの下で1人の少年がお菓子を売る。
少年は幼い子供で背が低く、短いボサボサの髪を生やし、大きな目と精悍な顔を持つ。
白いシャツの上に茶色のコートを羽織っており、肩にショルダーテープをかけ、腰に鞄をぶら下げていた。
腕に抱えた籠には商品らしいチョコレートやラスクをいっぱいに積んでいる。
しかし、彼の小さな商売に関心を持つ者は現れない。
まるで存在すら気づかないように街の大人達は通り過ぎていく。
品のいい大人を呼び止めようとお世辞を言っても結果は同じだった。
少年は実に残念なため息をつくと、お菓子箱を一旦地面に置き、鞄の中を覗く。
入っているは、おまけの商品と10枚にも満たない1ペンス硬貨、それが売り上げの悪さを物語っていた。
長時間働いてもろくに稼げなかった現実が無気力な感覚を作り出す。
「毎日、粘ってもこれだけか・・・・・・場所を変えても、同じだろうなぁ・・・・・・怒られるのは嫌だけど、売れないんじゃ仕方ないよね・・・・・・」
少年はやる気のない愚痴を零し、今日は諦めようとその場を後にしようとした時
「あの・・・・・・!」
少年に対して、横から誰かが話し掛ける。微妙に緊張した透き通った優しい声。
落ち込んだ表情を変え、振り向くと自分よりも背の低い少女がモジモジとしながら立っていた。
「え、何?」
少年はおもむろに問いかける。
「あ、あの・・・・・・その・・・・・・お菓子売ってるんですよね?チョコレートとラスク、1個ずつ頂けないでしょうか?」
久々の客に少年の失望は溶けて消え、歓喜に胸を躍らせた。
しかし、ここは大人らしく平常な態度で振る舞う。
「お買い上げありがとう。チョコとラスクが1個ずつだね?2つで12ペンスだけど、今日は気分がいいから特別にサービスしてあげる。6ペンスでいいよ」
少年は注文されたお菓子を手渡し、口にした通りの代金を受け取った。
半額で欲しい物を買えた少女は実に嬉しそうに上機嫌な面持ちを浮かべる。
「こんなにも美味しそうなお菓子を買えて嬉しいな。どうしても、病気のお母さんに食べさせてあげたかったの」
「そんなんだ。きっと、喜ぶよ」
少女は実に喜ばしい表情で口角を上げ
「うん!また、買いに来るからね。それじゃバイバイ、お菓子売りのお兄ちゃん!」
「・・・・・・あ!ちょっと待って!」
少年は慌てて、家に帰るであろう小さな背中を呼び止める。
少女は怪訝な顔を振り返らせ、再び彼を視野に入れた。
「どうしたの?」
「忘れるとこだった。はい、これもあげる」
少年は鞄の中からおまけを取り出した。
それは幼い子供なら誰でも欲しがるであろうクマのぬいぐるみ。
両手をぶら下げ、座った姿勢の動物が帽子を被り、とてもキュートなデザインだ。
「わあ・・・・・・!可愛い!」
その軟らかい外見に魅了され、少女は無邪気に顔を和ませる。
「ホントに貰っていいの!?」
「勿論、僕のお菓子をたくさん買ってくれたお礼だよ」
少年の好意に、少女は無我夢中で受け取ったぬいぐるみを腕に抱えた。
地面に落とさないようしっかりと抱きしめ、頬を摺り寄せる。
「これ、お兄ちゃんが作ったの!?」
「僕にはこんなの作れないよ・・・・・・僕が住ませてもらってる店の主人の"フローレンス"さんが作った物なんだ」
「フローレンスさんはぬいぐるみ屋さんなの?」
その子供らしい質問に少年はクスッと笑い
「あはは、違うよ。フローレンスさんは普段、お店でパイを売ってる人でぬいぐるみは趣味ってとこかな?」
「パイ屋さんなんだ。どんなパイを作ってるの?」
次から次へと重ねられる興味の質問。
少年はちょっと困り切った様子で店に売られた商品の記憶を辿り
「ええっと・・・・・・アップルパイやミートパイ、あとチーズパイかな・・・・・・あ、チョコレートパイもお勧めだよ」
と曖昧に答えた。
「凄い!レストランみたいだね!ねえ、よかったらお兄ちゃんの住んでるお店に連れてってくれない!?どんな所なのか見てみたい!」
少年は急な頼みに動揺したが、すぐに何もなかったように気を取り直し、頭を縦に振った。
「いいよ。ちょうど僕も、ここでの商売を終えて帰ろうと思ってたしね。案内するよ。ついて来て」
「やった!ねえ、お兄ちゃん。名前、なんて言うの?私、エミリー。素敵な名前でしょ?」
「僕はユリシーズ。よろしくね」
「ユリシーズ・・・・・・ふふ、いい名前。行きましょう」
ユリシーズは知り合ったばかりのエミリーと手を繋ぎ、店へと向かう。
1人のお菓子売りがいなくなっても、商店街は祭りのように賑やかな風景が絶えない。
夕日の沈みは止まらず、空は赤く色づき始めていた。