ダーク・ファンタジー小説
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- 死を望む人間達。
- 日時: 2021/09/03 19:16
- 名前: 鈴乃リン ◆U9PZuyjpOk (ID: 0j2IFgnm)
『死にたい』
誰もが一度は思ったことのあるこの願い。
でもその思いは______本当ですか?
こんにちは!知る人ぞ知る鈴乃リンです!
ダーファで活動するのは初めてですが、楽しんで読んで頂けると嬉しいです!(更新頑張れ私!)
コメント等もいつでも募集中っ!
《実績》
09/18/2020 作成
09/01/2021 2021夏小説大会にて管理人・副管理人賞受賞
《死の名簿》
坂元蘭 概要>>11 本編>>2-10 >>13-
- Re: 死を望む人間達。 ( No.5 )
- 日時: 2021/09/05 22:06
- 名前: 鈴乃リン ◆U9PZuyjpOk (ID: 0j2IFgnm)
ちりん
乾いた鈴の音が店内に響き、私はゆっくりと入り、中を見回す。私以外のお客さんはいなかった。
入ってすぐの所に、白いテーブルクロスの敷かれた丸いテーブルがあって、テーブルを囲むようにお揃いの椅子が4,5個並べられている。テーブルの上には可愛らしいティーセットにマカロンタワーがある。
店は木造のようで、歩く度にギシッ、と音が鳴って、それがかえって心が穏やかになる。
壁には数えきれない程の時計が掛かっており、その下に壁に接するカウンターにも沢山の置き時計。
掛け時計も置き時計も、全てが手作りだそうで、見る限り同じものが二つある、ってことがない。しかも一つ一つの時計の彫刻がとても素敵で、まるで時計に命が宿っているみたい。
ある時計は海の中を表現していたり、また他の時計は不思議の国のアリスをモチーフにした彫刻だったり。私はその時計達に見惚れてしまった。
「……おや、お客様に変な所を見せてしまい申し訳ない。いらっしゃいませ」
突然話しかけられて、ビクッと震えてしまった。
慌てて振り向くと、声の主はさっき喧嘩をしていたお爺さんだった。彼はさっきの怒声と打って変わって穏やかな声で、私を歓迎してくれる。
このお爺さんが店長なのかもしれない。
「おや、君が着ている制服、永太と同じじゃないかい?ほら永太、お客様に挨拶しなさい」
えっ?制服が一緒?
永太、と呼ばれた私と同じくらいの年格好の男の子がこっちを向いた。
その子の顔を見て、私は店内ということを忘れて叫んでしまう。
「ああああああっ!!!」
だってその子、その子…………
私のクラスメートだったんだもん!
名前は確か……えぇと……
「『沈丁花永太』君!?」
「……そーだよ、お前、坂元だろ?うちのクラスの」
沈丁花君は、気まずそうにこちらを見た。
- Re: 死を望む人間達。 ( No.6 )
- 日時: 2020/12/14 19:01
- 名前: 鈴乃リン ◆U9PZuyjpOk (ID: rCT1hmto)
「……で、お前はなんでここに?俺、この店のこと学校では内緒にしてるんだけど。」
「え、ええと、さっき帰る途中で、いつもの道が二つに分かれてたの。家帰っても暇だから寄り道したらこのお店が気になって……」
「………………ふぅん、そ。」
沈丁花君は学校とはぜんぜん違っていた。クラスでは凄く明るくて、いつも中心にいて、女子からも男子からも人気がある。勿論、私みたいな嫌われ者は沈丁花君に話し掛けたりはしない。沈丁花君も私なんかと話したくないだろうし。
「ここさ、時計屋なんだけどさ、なんか買ってく?」
「ええっ?」
時計って、スッゴく値段高くない?よくショッピングセンターで見るけど、シンプルな時計でも1000円くらいは絶対する。それなのにこんな可愛らしい時計となれば、私の財布からは届かないような値段になるよ……。
私がしどろもどろになっていると、その考えを見透かしたかのように、沈丁花君は言った。
「うち、値段はかなり安いから。高くても800円」
「えええっ!!?」
- Re: 死を望む人間達。 ( No.7 )
- 日時: 2021/09/02 19:13
- 名前: 鈴乃リン ◆U9PZuyjpOk (ID: 0j2IFgnm)
「で、どうするの。時計、買う?」
「あっ、うん。」
店内に飾ってある時計を見ていると、とても欲しくなった。
沈丁花君は私の返答を聞いて、奥の席に座るよう促した。私が座ったのを確認したら、奥の部屋に行ってしまった。
「さて、今日はご来店ありがとうございます。これから当店の時計の購入について説明致します。」
店長さんは丁寧な口調で、分かりやすく教えてくれた。
このお店の時計は、お客さんの要望のデザインを聞いてから創るから商品の受け渡しに3日程かかるらしい。
そして必ず、自分の家のどこか目につく所に飾っておかないといけない。時計なんだからそうなんだけど。
そんな感じ。
全て説明を終えて、店長さんが私にこう聞いた。
「時計のモチーフ、どんなのがいいかな?頭の中ですぐに浮かんだものを教えてくれる?」
私の、頭の中で浮かんだもの……
浮かんだものは、小さい頃から大好きな____
「人魚姫。人魚姫でお願いします。」
自分の身が朽ちるかもしれないのに、愛する人の側にいたくて人間になる人魚姫の力強さに心を撃たれた。
小さい頃からずっとずっと大好きな童話。
「招致致しました。人魚姫のモチーフの時計ですね。」
- Re: 死を望む人間達。 ( No.8 )
- 日時: 2021/09/05 22:03
- 名前: 鈴乃リン ◆U9PZuyjpOk (ID: 0j2IFgnm)
それから私は、店長さんと色々な話をした。最近の社会のこととか、本当に色々なこと。
すると、店の奧に行っていた沈丁花君がティーカップ2つとティーポットが乗っているお盆を持って来て、私と店長さんの前に置き、紅茶を注いだ。
「紅茶だけど、大丈夫か?」
「あっ、はいっ」
「そう。それと爺さん、あまり客と話しすぎるなよ。」
急に固くなってしまい、コクコクと頷く。沈丁花君は相変わらず無愛想なままで、注ぎ終わってから店内の掃除を始めた。
「それにしても……永太と同じクラスなんだって?学校ではどんな調子なのか、教えてくれるかな?」
店長さんの口調はとても穏やかで、日だまりに包まれているような感じ。心がぽかぽかする。
「えと……凄いクラスの中心、って感じで、周りがすぐに明るくなる、そんな存在です。」
「っ……」
突然掃除をしていた沈丁花君の言葉がつまった。
「おやおや……そうなのか。永太は思春期真っ只中だから私にすぐ怒るんだよ。まったく……」
あはは、と苦笑する。
でも、沈丁花君は苦しそうな表情をしていた。
- Re: 死を望む人間達。 ( No.9 )
- 日時: 2021/09/05 22:04
- 名前: 鈴乃リン ◆U9PZuyjpOk (ID: 0j2IFgnm)
店長さんとずっと喋っていて、店内の時計が6時を知らせる鐘が鳴ったときにようやく私は帰る準備を始める。
「すみません長い間……。」
「いやいや、私も久しぶりに楽しく話せてよかったよ。」
店長さんは優しく微笑んだ。その笑顔にも心がぽかぽかする。
「時計は三日ほどで出来上がるから、三日後にまたおいで。」
「……はい、ありがとうございます。」
そう言って店を出る。
「……あれ?」
店を出て来た道を少し戻って後ろを振り向くと、突き当たりになっていた。
コンクリートの壁に触れようと手を伸ばせば、普通にコンクリートの冷たさが手に染み込んだ。
「…………おかしいな……でも…………」
制服のポケットにいれた『沈丁花』のカードは残っている。
そのまま家まで走って帰った。