ダーク・ファンタジー小説

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オリウェール物語-夜明けの皇女編-(しばらく休載します)
日時: 2021/09/16 10:59
名前: フロム・ヘル (ID: FWNZhYRN)

 こんばんは、フロム・ヘルと申します<(_ _)>
シリアスな創作が書きたくて、カキコを訪れました。
本作品は"異世界"を舞台とした皇女伝記、その生き様が物語の内容となっております。
私自身はノベルは素人ですので、温かな目でご覧になって頂けたら幸いです。

※注意

※矛盾や欠点が目立つ部分があるかも知れませんが、温かい目で見て頂ければ幸いです

※誹謗中傷・皮肉・悪口・不正な細工などはやめて下さい

※本作品には残酷な描写が存在します。苦手な方、読んでて気分を害した方は迷わず、『閉じる』を押すように


【あらすじ】

 かつての栄光の面影を失い、暗黒時代の最中にあった異界の帝政国家『オリウェール』。
堕落した統制の不正の数々により、その国は今や、差別や貧困、犯罪が溢れる廃国と化していた。

 シャドーフォルクの亜種である少女『ノエル・シルヴェリア』は迫害の対象とされているルシェフェル住む森深くの集落で暮らしていた。 
しかし、政府が放った襲撃部隊より集落は焼き払われ、一瞬にして多くの同胞を失ってしまう。
惨劇を目の当たりにしたノエルは虐げられる者達のため、理不尽な世を正すため、オリウェールの『皇女』となる事を誓う。


【登場人物】

【ノエル・シルヴェリア】

 本作の主人公である銀髪の背の高く、紅色の瞳を持つ少女。種族はシャドーフォルクの亜種(ルシェヴェリア)。
自身が味わった苦しみを繰り返させないため、虐げられる人々を救うため、自身が皇女になってオリウェールに平穏をもたらす事を誓う。
身体能力が高く、運動神経が抜群で頭の回転も早い。剣を主な武器とするが、銃器の扱いや格闘戦も得意。

【ルイーズ・フォークスペル】

 ノエルが王都で出会い、後に親友となる白髪の少女。
オリウェールの住民で、髪の色により『ルシェフェル』として不当な扱いをされてきた。
ノエルの理想に心酔した事で、協力を決意。彼女の右腕として王政の復活の手助けをする。
温和で暴力を嫌う少女だが、護身用にピストルを所持。

【エドゥワルド・バロウズ】

 ノエルが皇女に即位するための重要人物。種族はシャドーフォルク。
衰退の一途を辿る王政支持派のリーダーを務める。
かつては黄金時代のオリウォール王政に仕え、統治を行っていた摂政伯爵だった。
愛国心と王への忠誠は緩んでおらず、国の秩序を正そうとするノエルに協力する。

【デズモンド・コルドウェル】

 オリウェールの王都に住む兵器専門の若きエンジニア。
後に兵器学者として、オリウェールに名を遺す事となる人物。
一般的なシャドーフォルクであるが、平等主義者でルシェフェルを差別をしないなど、紳士的な一面を持つ。
政府や機関に所属していない立場であるが、国の平穏を名目に活動するノエル達、王政派に協力する。

【ロシュア・ヴァーデン摂政伯爵】

 腐敗したオリウェールの最高権力者。
元は王政派の一員であったが、前々から平穏ばかりを主張する王政派に対し、不満を覚えていた。
政府が保管していた王族の財産を利用して権力を掌握、オリウェールの政権を握る。
彼が歪んだ思想によってもたらされた統治は国全土に不況をばら撒き、ルシェフェル迫害のきっかけとなった。

【アルテミスの冠】

 ヴァンデーン政権を陰で操る第三勢力。
その実態は謎に包まれており、"アルテミス"という異名を持つ指導者が組織を率いている事ぐらいしか、詳細がはっきりしていない。 
存在を知る者は一部を除いて少なく、目的すらも不明な秘密結社である。


【用語】

【オリウェール】

 本作の舞台となる政治制の大陸で人口の7割が『シャドーフォルク』が占めている。
1世紀以上前に王政が廃止され以来、大統領制が民を統治し、平穏な黄金時代を保っていた。
しかし、『ロシュア・ヴァーデン』が権力を掌握してからは恐怖政治が幕を開け、国の頽廃は大きく進んだ。
差別や貧困、犯罪が溢れる廃国と化し、住民達は不安を募らせ生活している。

【シャドーフォルク(影の民族)】

 オリウェールの主な住民。
知能、技術、潜在能力、運動能力などが高く、戦いに特化した種族である。
また主に対する忠誠心が強く、寿命も平均150年以上と長い。
その正体は太古の昔、光の勢力との戦争に敗れ、地上に追いやられた民の末裔。
未開の地だったオリウェールを開拓し、現在の文明を作り上げた。

【ルシェフェル】

 生まれつき髪が白いシャドーフォルクの特殊体質。
光の勢力の生まれ変わりと邪揄され、住民からは忌み嫌われている。
オリウェールでは差別の対象とされ、いじめられたり、商品の値段を倍に上げられたりと卑劣な仕打ちを受ける。

【ルシェヴェリア】

 ルシェフェルの中でも10万人に1人の割合しか生まれない亜種。
紅い目が特徴で一般のシャドーフォルクと比べ、身体能力や頭脳が遥かに優れている。
オリウェールでは神の化身として崇拝する者もいるが、反面に邪悪な魔物として嫌悪する者もいる。

【ウォール】

 オリウェールの通貨。1、5、10、50、100に分けられた紙幣である。
また、金貨、銀貨、銅貨なども存在しており、代用品として使用される。


 ・・・・・・お客様・・・・・・

らいむ様

綾音ニコラ様

リャニャンシー様

n/s様

大根味の味噌煮様

沙耶様

siyaruden様

Ruby@様

鳴門海峡様

Aa様

ダルコフロマンス様

ガガ様

Re: オリウェール物語-夜明けの皇女編- ( No.6 )
日時: 2021/06/09 20:36
名前: フロム・ヘル (ID: FWNZhYRN)

 カリスタは、とっさに手の平を前にかざした。その手前に紋章が現れ、ドーム状の分厚い光の壁を召還する。白炎糸は命中するも、2人の肉体を裂くのには至らず、容易く壁に跳ね返された。

「守護紋章か!・・・・・・どこまでも小賢しい真似を・・・・・・!」

 ノエルはカリスタに連れられ、馬小屋の中へと逃げ込んだ。守護紋章の壁で出入り口を塞ぎ、時間を稼ぐ。

「お嬢様、お一人の力で立ち上がれますか!?」

「え・・・・・・ええ・・・・・・」

 ノエルは肯定し、柱に寄りかかりながらも、自力で横たわった足を立たせた。白炎糸の連発を受ける度、光の壁は痛手を増し、カリスタの足が退く。紋章術も徐々に衰退をきたし、長くはもちそうにはない。

「・・・・・・お嬢様。今から言う大事な話をよくお聞き下さい。私はここに残り、あのルシェフェルの猛攻を食い止めます。その隙にあなたは馬に乗って逃げ、この地を去るのです。あなたなら、きっと新たな安住の地を見つけられるはず・・・・・・」

 カリスタは冷静な覚悟で、ノエルに自分自身の生存を託す。

「・・・・・・な、何をバカな事を言っているのですか!?大切なあなたや同胞達を置いて、自分だけが生き延びるなんてできません!逃げるなら、一緒に・・・・・・!」

 ノエルは当然のように、カリスタの犠牲が見え透いた要求を受け入れられるはずもなく、逃亡を共にしようと促すが

「誰かが足止めをしなければ、すぐに追いつかれてしまいます!それに、馬の数は1頭。2人の乗馬は、無理が過ぎます・・・・・・」

「カリスタ・・・・・・!」

「ノエルお嬢様・・・・・・この村の住民達は、あなたを愛し、その愛を守るために犠牲となった。どうか、皆様の死を無駄にはしないで下さい。あなたは生きて、生き延びて・・・・・・私達の分まで幸せな人生を歩んでほしいのです・・・・・・!」

「そんな・・・・・・私にはできない!他に方法があるはず・・・・・・!」

 その時、ピートが繰り出した渾身の一撃が直撃する岩の粉砕に似た衝撃音が鳴り、紋章の壁に亀裂が入り始めた。魔力を放つ手に激痛が走り、カリスタの顔が歪む。

「うっ・・・・・・ぐっ!じ、時間がありません!行って下さい!早く・・・・・・!」

 状況の悔しさにノエルは歯を噛みしめ、決断に悩んだ。やがて、涙液が伝った顔をメイドから背け、馬の方へ走る。鞍に跨り、手綱を引くと、別れも言わず、裏口から極寒の外へと飛び出す。

「ありがとう・・・・・・あなたにお仕えできて、光栄でした・・・・・・愛する者のために命を散らせるなら、本望でございます・・・・・・」

 遠ざかっていくノエルの後ろ姿を見送りながら、カリスタは和やかに微笑む。直後に壁が砕け、彼女の無防備な格好が、白炎糸の前に曝け出された。


 ノエルは堪えても溢れ出てくる涙を零しながら、冬の林道を駆け抜ける。背後の奥から聞こえたカリスタの悲鳴を耳に入れても、決して振り返らずに。草原を覆った雪と葉のない木、同じにしか見えない景色が広がる正面だけを黙視しながら・・・・・・

「おい!ルシェフェルの生き残りがいたぞ!」

「・・・・・・!!」

 ノエルの逃亡を目撃した兵士が、腕を振って仲間を招く。襲撃者達は集落だけではなく、近辺の森にも潜んでいたのだ。

「馬を使って逃げる気だ!殺せ!」

 兵士達はライフルを構え、一斉射撃を始める。鳴り止まない銃声の中、ノエルは巧みに馬を操り、銃弾の雨をかわす。音速の鉛は、周辺の物をめり込んでは無数の穴を開けた。

「このまま、振り切れっ・・・・・・うあ!?」

 突然、馬が尋常ではない悲鳴を上げ、動きに異変が生じて、バランスを大きく崩した。滴り落ちた鮮血が雪を溶かし赤く染め上げる。腰部に1発の銃弾が命中してしまったのだ。

「・・・・・・あああっ!」

 馬が倒れたと同時にノエルは崖の上から投げ出された。下は川水の溜まり場であり、冬の低気温で水面には氷が張っている。

 ノエルの体は十数メートルの高さから落下し、全身を強く叩きつける。その弾みで氷が砕け、彼女は冷たく、呼吸ができぬ水中に沈んだ。ルシェベリアの少女は、意識を失ったまま、その姿は黒い底へ消える。

Re: オリウェール物語-夜明けの皇女編- ( No.7 )
日時: 2021/06/24 09:06
名前: フロム・ヘル (ID: FWNZhYRN)


『"お願い。目を覚まして・・・・・・"』


 薄暗い世界を彷徨う中、誰かの声が木霊する。自分の知らない初めて耳にする幼き少女の優しい声。声はどこから聞こえるのか?周りを見渡すが、肝心の正体が見えない。しかし、不思議な事に、その声に手を引かれているような温かさを胸が感じ取る。自然と光の待つ出口へと導かれている気がした・・・・・・


「う・・・・・・ううっ・・・・・・」

 まだ眠そうな唸り声と共に、少女の重い目蓋が開く。長かったような短かったような無意識が晴れ、何も感じなかった体が本来の感覚を取り戻していく。霞が晴れて間もない視界は、木の板の天井を映し、横たわった体に厚い布が覆い被さり、全身に広がる温かさが心地いい。気がつけば、ベッドの上で眠っていたのだと、認識する。

 だが、その刹那、自身の身に降りかかった悲惨な過去を思い出す。見るに堪えない殺戮の嵐。同胞達の死体の山・・・・・・そして、大切な者を犠牲にし、自分だけが逃げ延びた自覚さえも・・・・・・罪の意識に、涙が溢れ出てくる。たまらなく悲しく、たまらなく悔しかった。故郷を治める身でありながら、己の無力さのせいで誰1人として守れなかった事を・・・・・・

「・・・・・・私にもっと、力があれば・・・・・・救えた命があったはず・・・・・・」

 深紅の瞳を持つ少女は、拭えない失望を抱えながら、ふらふらと体を起こそうとした。しかし、背中に激痛が走り、一瞬の痙攣と共に蹲ってしまう。体の自由が利かず、上半身を立たせるだけでも、やっとの事だった。

 ふいに、扉の向こう側から、ちょうどいいリズミカルな足音が聞こえた。絶えず、床を踏む音は徐々に大きさを増していき、この部屋の前で立ち止まった。木の板がノックもなしに軋む音を立てて開き、誰かが個室に入って来る。

 やって来たのは、20代を迎えたばかりのような、健気で若い少女だ。赤の長髪を生やし、こめかみよりやや上の辺りの両脇を紐で結っていた。左の額には紫色の髪飾りを。袖のない白いワンピースを着ており、胸に青い宝石を飾る同色のリボンを結んでいる。

 少女は扉を閉ざして、こちらを向き直ると、起床したばかりのルシェベリアに驚愕し、立ったまま身を縮こませる。現実と妄想の区別をあやふやにする幻を目撃したみたいに、怪訝そうな顔をした。

「え・・・・・・もしかして、目を覚ましたんですか・・・・・・?」

 そして、誰に聞くわけでなく、おそるおそる聞いた。ルシェベリアの少女は、はっ!と息を呑んだ。自身が昏睡の中を彷徨っていた際に聞こえた声に似ている・・・・・・そう、確信したからだ。ルシェベリアの少女が、話しかけようとした矢先、少女は表情を一変させ、物凄い勢いで部屋を飛び出して行った。ドカドカと階段を駆け上り、壁を隔ててでも、はっきりと聞き取れる大声を発しながら。

『"セオドールさんっ!ルシェベリアの女の子が意識を取り戻しました!すぐに来て下さい!早くっ!"』

 すると、10秒もしないうちに、別の足音が落ち着かない速度で階段を下って来るのが聞こえた。扉ががさつに開き、生真面目な顔をした青年が部屋に足を踏み入れる。

 セオドールは10代後半か、20代後半くらいの若々しい容姿をしていた。鶸茶色の肩までの髪を後ろで束ねている。瞳は濃紺で長い睫毛に縁取られた目。白いリネンのシャツに黒のトラウザーズ。黒の腰エプロン。茶色の編み上げたショートブーツを履いている。一見すると、酒場を営むオーナーとも解釈できる格好だ。

 彼はルシェベリアの少女の元へ真っ直ぐ駆け寄ると、一旦は振り返って、後ろにいる赤い髪の少女に問いかけた。

「"マリネ"!この人は、いつ目覚めたんだい?」

「分かりません!この子の様子を見に行こうと、私が部屋に入った時には、既に起きていたんです!」

 マリネと呼ばれた少女の事情を話し、セオドールは"そうか"とだけ短く返して、関心の矛先を再び、ルシェベリアの方へ向ける。

「あの・・・・・・ここはどこなのでしょうか?あなた方が私を・・・・・・?」

 ルシェベリアの少女は、今の状況にそぐわしい単純な質問を投げかけるが

「自己紹介の前にやるべき事があるんだ。まず、始めにこっちの質問にいくつか答えてくれないかな?ちょっとした検査をしたいんだ」

 そう言って、セオドールは数本の指を突き立てた手を、ルシェベリアの少女の顔の前に近づけ

「これが何本か、数えられるかい?」

「・・・・・・3本です」

 セオドールはひとまず、安堵のため息をつきながら頷き

「よし、頭に異常はきたしてないようだね?体の方はどう?ちゃんと動く?」

「いいえ。動こうとしたら、背中に激痛が走ってしまうため・・・・・・上半身を起こすのがやっとで・・・・・・」

「無理もない。崖から落ちた君は、背中を氷に打ちつけ、真冬の水底に沈んでいたんだ。救い出しても、肉体は瀕死の状態で普通の治療方法では助かる見込みはなかった。だから、"シリカ(霊石)"の力で一命を取り留めさせたんだ。痛みは直に引くと思う。まあ、今すぐってわけにはいかないだろうけど」

「そう・・・・・・でしたか・・・・・・」

 ルシェベリアの少女は、落命を免れたにも関わらず、素直には喜べなかった。不甲斐ない自身を責めるばかりで、礼を述べる事さえも、忘れていた。

「これは、最後の質問だけど・・・・・・君、自分の名前は憶えてるかい?もし可能なら、今ここで名乗ってほしい」

「自分の名前・・・・・・分かりますか?辛いなら、無理しなくてもいいんですよ?」

 マリネが胸元に両手を当て、心配し切った表情で気にかける。それからというもの、3人は口を噤み、狭い空間に静寂が続いた。

「私は・・・・・・」

 しばらくして、ルシェベリアの少女は落ち込んだ顔を俯かせ、静かに言葉を言い放つ。

「私は・・・・・・ノエル・・・・・・ノエル・シルヴェリア・・・・・・」

「ノエル?随分、立派な名前だね。じゃあ、お望みの自己紹介をしてあげる。僕は"セオドール・アーリマン"。『青二才亭』という酒場のオーナーをやってる。ちなみに、君がいるこの場所が、その店の地下室だよ・・・・・・で、後ろにいるこの子が・・・・・・」

「"マリネ・アルテスト"と言います。普段は街で手作りの雑貨や裁縫道具を売って、暮らしています。たまに、このお店のお手伝いもしているんです」

 マリネも長いスカートを上げ、笑顔で一礼する。

「あなた方が、私を救ってくれたのですね・・・・・・慈悲深きお心遣いに感謝致します」

 ノエルの口から、ようやく、謝意が示された。感謝が耳に届いた2人は相好を崩した表情を互いに見合わせる。

「礼なら、マリネに言うべきだね。君が生死の境を彷徨っている間、ずっと、看病をしていたんだから。あと、君を水底から引っ張り上げてくれた"ルクス"にも。さて、ノエルがめでたく現世に生還できたところで、僕はそろそろ、1階に戻って店番をするとしよう。"ルイーズ"が転んで、せっかくの料理を台無しにしてなければいいんだけど」

 セオドールは自分で言ったジョークに薄笑いすると、これ以上は何も言わず、部屋を出る。後に続こうとしたマリネも、去り際に優しく告げた。

「ノエルさんは、ここで休んでいて下さい。お食事ができましたら、ここに運んで来ますので」

Re: オリウェール物語-夜明けの皇女編- ( No.8 )
日時: 2021/07/02 20:17
名前: フロム・ヘル (ID: FWNZhYRN)

 それから、しばらく休息の時間を過ごした後、食事の時間はやって来た。数時間前に告げた通り、マリネと初めて対面する小柄なルシェフェルの少女が部屋を訪れ、調理されたばかりの温かいメニューを振舞う。ノエルもちょうど、空腹だっただけに、旺盛な食欲をそそられる。

 運ばれてきた料理は切り分けられた、いくつかのブレット。トマトとレタスのサラダに羊肉のソテー。それと、厚切りのベーコンと大粒の豆の入ったトマトスープ。デザートは、イチゴたっぷりのタルトが並べられる。

 マリネは、このメニューが全て、セオドールが調理した物だと告げた。そして、このトマトスープが彼の得意料理である事も。

「青二才亭特性の果実酒も如何ですか?当店自慢の逸品ですよ!」

 とルシェフェルの少女も両手に抱えたボトル傾け、中身を銀製の杯に注ぐ。

「惜しみのないもてなしに感謝します・・・・・・して、あなたは?」

 ノエルに素性を尋ねられると、初対面の少女は、はっ!と口を覆い

「申し遅れちゃいました!私、"ルイーズ・フォークスペル"と言います!セオドールさんの店で住み込みでお手伝いをしてるんですよ。よく、お料理を零しちゃいますけど・・・・・・」

 と舌を出し、恥ずかしそうに頭をかく。

「私はノエル・シルヴェリア。会えて光栄ですよ。ルイーズ」

 ノエルが友好的に名乗った直後、扉が開き、セオドールが部屋の内側に顔を出す。

「あれ?セオドールさん。どうかしましたか?」

 マリネが普段の口調で訪ねると

「ノエルに用があるんだ。ちょっと、いいかい?君が意識を取り戻した事を上にいる人達に知らせたら、皆、大喜びだ。是非とも、君と話をしたいと言ってきた。でも、まだ体は不調でしょ?どうしても嫌なら、断りを入れておくけど、どう?」

「・・・・・・私は一向に構いません。命を手放しかけた私を救い出して頂いた皆さんに礼を申し上げたいと思っていた所なので」

 ノエルは長く考え込む事なく、肯定の意を示す。


 ノエルの寝室に彼女を救済した大勢のシャドーフォルクが集結する。時刻の都合を考え、会話をするついでに晩餐を共にする事となった。さっきまでは、家具も満足に揃っていない空虚な個室だったが、今は豪華な食事が置かれた丸いテーブルを大勢が囲んでいる。その賑やかな食事会は、宴と言っても、過言ではなかった。

「やっほー!ボクはアコーディオン奏者の"フィローネ・ジュリオ"だよ!よろしくね♪」

 最初に中性的な顔を持つルシェフェルが、ノリのいい口調で挨拶をする。

「アコーディオン奏者?」

「そ!こう見えても、宮中音楽家の候補として、一目置かれているんだよ♪ボクの演奏は、市民だけじゃなく、たくさんの貴族や異国の有名人も魅了しているんだ♪」

「宮中・・・・・・ああ、私も王都に足を運んだ際、"アクタイオン劇場"にて、演奏会を拝見しに伺いました。"ゼンマイ人形のワルツ"・・・・・・とても、素晴らしかったです」

「おお!君も、あの曲が印象に残っているんだ!?実はボクにとっても、あの曲は最高傑作でね。ノエルは音楽のセンスがあるみたいだね?ねえ!?よかったら、ボクの弟子にならない!?特別に初回無料で教えてあげ・・・・・・!」

 すると、次から次へと言葉を生むフィローネの横にいたシャドーフォルクが肩を掴み、横やりを入れた。

「こらこら、怪我をしている子を困らせてはいけませんわ。いけない子は「めっ」ですわよ」

 笑顔で威圧を与え、フィローネを瞬時に大人しくさせると、ノエルに対し礼儀正しく一礼する。

「初めまして、ですわね。私は"フィー・フランベル"。ただの商売人ですわ」

 見た目だけなら、メイド服のような黒いエプロンドレスを纏う可憐なお姉さんだが、

「ノエル。外見に騙されちゃ、ためだよ?実はこの人、成人になったばかりの女性の姿をしてるけど、本当は"男"なんだ。しかも、年も結構いってるんだよ?信じられないよね?」

「そ、そうなんですか?とても、そのようには見えませんが・・・・・・」

 衝撃の告白に驚きつつも、気を遣うノエル。フィーは愉快に浸っているような破顔を振り向かせるが、目は笑っていなかった。

「人様をバカにして・・・・・・どうやら、きついお仕置きが必要なようですわね・・・・・・」

「ひいぃぃ~!ごめんなさ~い!」

 逆鱗を察したフィローネは頭を抱え、後に退く。フィーは改めて、会話の矛先をノエルに向けた。

「失礼しましたわね。詳しく説明すれば、私は各地を練り歩く"錬金術師兼行商人"。移動商店『燐寸堂』を営んでおります」

「錬金術師兼行商人?初めて、耳にしますね?」

「この広い大陸オリウェールでも、雀の涙ほどしかいない特別な商売業ですわ。移動商店と言いましたが、馬車も荷車も必要としませんの。売り物は全て、私の衣装の中に納まっていますわ。一部のお客様には"手品師"とも呼ばれておりますの。ノエルさんも、何か欲しい物があれば、遠慮なくお申し付け下さいな。お安くしておきますわよ」

 次の自己紹介の順番は、ノエルと同じ、ルシェベリアの少年に回る。赤い右目というルシェヴェリアの特徴を持つが、左目がエメラルドのような澄んだ翠色をしていた。そして、もう1つの特徴としては、仮面を被り、肝心な素顔を覆い隠している所だ。

「僕はその・・・・・・"ルーク・イルミス"。大抵の人からは"ルクス"と呼ばれているんだ。仮面については、まあ、怪我してるだけなんだよ。ははっ、気にしないで」

「あなたが、冬の水底に沈んだ私を引き上げてくれたと、セオドールさんから聞きました。なんと、お礼を申し上げればよいか・・・・・・」

「礼なんていらないよ。君の無事な姿と元気そうな顔を見ただけで、十分に嬉しいから。"ルーナ"が死ななくて、本当によかった」

 その時、ノエルが怪訝そうな顔になって、首を傾げる。

「・・・・・・ん?ルーナ?あなたは今、私の事をルーナと呼びましたか?」

 ルクスは、はっ!と口を覆い

「あ・・・・・・ああ、ごめん!僕って、その・・・・・・よく他人の名前を間違えるんだ!良くない癖だよね・・・・・・」

 と慌てて謝罪するが、彼は何かを隠し、誤魔化していつような違和感を、ノエルは見逃さなかった。

Re: オリウェール物語-夜明けの皇女編- ( No.9 )
日時: 2021/07/14 20:56
名前: フロム・ヘル (ID: FWNZhYRN)

「・・・・・・ところで。どうしても、お訪ねしたい事があるのですが・・・・・・」

 ノエルは、ここに来てから、頭の整理が追いつかない状況だけに、聞きたい事は積もりに積もっていた。そして、どうしても知りたい内容も・・・・・・

「いいよ♪答えられるものなら、何でも答えてあげるよ♪」

 ノエル以外の一同は、フィローネの肯定と共に聞く姿勢に入る。

「あの・・・・・・どのようにして、私を救い出せたのですか?私がいた地は、遥か東の果ての辺境の地・・・・・・ましてや、水底に沈んだ者を見つけるなど、不可能に近いかと・・・・・・」

 その質問の直後に、部屋の雰囲気が曇る。真剣に視線を逸らさないルクスを除く全員が暗い顔を俯かせ、口を重く閉じてしまう。明るく賑やかだった安住の場所がシュンと静まり返り、重い空気が狭い空間に漂い始める。

「本音を明かせば、その質問をされる事を・・・・・・僕達はずっと、恐れていたんだ。でも、いつかは聞かれるだろうと、覚悟はしていたよ」

 望んでいなかった展開を迎え、ルクスは疲れ果てたような声で言った。

「でも、知りたいのは、当然の心理ですわ。この子が、こうして生きているのは、奇跡みたいなものですもの・・・・・・」

 フィーも、陽気な面影を完全に捨て去り、ノエルの気持ちに頷く。最初に、経緯を語り始めたのは、ルクスだった。

「僕達は、セオドールの頼みで、彼の友人がいる東方の地の最果てにある集落に青二才亭に必要な珍しい食材や様々なお酒を貰いに足を運んだんだ。僕は荷馬車の護衛のため、フィーは商業取引のためで、フィローネとマリネも一緒も同行していた。薄暗い冬の林道を進んで行くと、遠くで灯りが見え、人の悲鳴や怒鳴り声が聞こえたんだ。何事かと思い、確かめに行った先に待っていたのは、燃え盛る君の故郷だった・・・・・・」

「地獄絵図だったよ・・・・・・罪もないルシェフェル達の遺体がそこら中に転がっていた。犯された挙句、殺された女の人達。子供達も柱に縛りつけられ、滅多刺しにされていたんだ・・・・・・!」

 残虐極まりない凶行の数々ににフィローネも、激しい怒りを募らせた。次はマリネが、3人目の証言者として続きを語り始める。

「そこで私は偶然、馬に乗り、逃走していたノエルさんを目撃したんです。あなたが馬から転げ落ち、崖に投げ出されて川に転落したところも・・・・・・政府軍は、ノエルさんが死んのだと思い、すぐに川を去って行きました。私はその事をルクスさんに伝え、極寒の水中から、あなたを救い出した・・・・・・これが私達がお話しできる全てです」

「女子供も・・・・・・では、私の他に助かった者は・・・・・・」

「政府軍が去った後、僕達は生存者がいないか、村中を探し回ったけど、残念ながら君以外の人達は・・・・・・」

 ルクスはそれ以上、残酷な事実を口にする事はなかった。故郷の滅びを知ったノエルは下を向き、腹部に置いた拳を悔しさで震わせる。涙液を赤い瞳に滲ませ、無力な自分を責め立てた。

「私は当主として相応しくなかった・・・・・・皆の幸せな暮らしを守ると、誓っていたのに・・・・・・!なのに、私だけが!のうのうと生き残ってしまった・・・・・・!この世で、私ほど、最低な裏切り者はいません!皆の死が避けられない定めだったとしたら、私も命を明け渡し、運命を共にするべきでした!」

「違う・・・・・・それは違うよノエル!君に罪なんてない!」

 フィローネが必死に宥めようとするが、ノエルは卑屈が起こした興奮を鎮める事はなかった。

「違う!?一体、私のどこが違うって言うのですか!?」

 その時、フィーは途端にテーブルに掌を強く叩きつけた。食器に盛られた料理が散乱し、倒れたグラスから果実酒が零れ、床に滴り落ちる。部屋にいた全員が一瞬の痙攣の後、青ざめて硬直し、ルイーズも同じタイミングでボトルを手元から落とした。

 周囲が沈黙する中、フィーは、どこか優しさが宿る鋭い目つきで声を荒げた。

「あなたは、根本的に間違っていますわ!あなたを慕い、愛していた人々は、今のあなたにこそ、失望を抱きますわよ!」

「・・・・・・え?」

「本当にあなたは、自分だけが苦しみから逃れるために、情けなく馬を走らせたのですの!?あなたほど、他者を思いやれる誠実な人が、そんな卑怯な選択をするなどあり得ないですわ!」

「フィーさん!そんなに厳しく、言わなくても・・・・・・!」

「あなたは、お黙りなさいっ!」

「・・・・・・ひぃっ!」

 圧倒的な威圧に抗えず、マリネは怯えながら引き下がる。

「ノエルさん!もう一度、よく思い出しなさい!何故、あなたが生かされたのか!命を散らしていった同胞の方々が望んだ思いは何だったのかを!」

 その強き訴えが耳に届いた瞬間、ノエルの記憶の一部が鮮明に蘇った。


(ノエルお嬢様・・・・・・この村の住民達は、あなたを愛し、その愛を守るために犠牲となった。どうか、皆様の死を無駄にはしないで下さい。あなたは生きて、生き延びて・・・・・・私達の分まで幸せな人生を歩んでほしいのです・・・・・・!)


 脳内に再生された過去の声は、自身を庇い、犠牲となったカリスタの遺言だった。ノエルは、ようやく実感した。自分は大勢の人々から、守られて生き永らえているのだと。そして、その思いが、死の運命さえも捻じ曲げる奇跡を生んだのだと・・・・・・


「カリスタ・・・・・・ごめんなさい・・・・・・!こんな私を・・・・・・どうか、許し・・・・・・うあああ!」

 共に平穏な日々を過ごした大切な者達への想いを知り、ノエルは本格的に泣き出した。言いたい事が伝わった事に安堵したフィーも、普段の優しい表情を繕い、彼女をそっと抱きしめる。

「故郷が終焉を迎える最期の時まで、人々はあなたに対する愛を絶やさなかった。その証が存在する限り、あなたは孤独じゃありませんのよ?」

 マリネとフィローネも、ノエルの胸につかえる苦しみを和らげようと慰めの言葉をかける。

「ノエルさんは、少しも悪くありません!本当に悪いのは、罪もないルシェフェルを虐げるヴァーデン政権の奴らです!」

「そうだよ!ノエルは、よく生き延びてくれた!天国にいる皆も喜んでるはずだって!」

 ルクスも温和な顔で、彼女を受け入れる。

「ノエル。僕も君を決して、1人にはさせないよ。これからは、ここにいる皆で手を取り合い、新しい人生を歩んでいこう」

「うう・・・・・・!えぐっ!ぐすっ!」

「溜まった辛い感情は、全て吐き出しなさい。私達はあなたが良くなるまで、ずっとここにいますわよ」

 すると、壁を隔てて、やけに焦った足音が階段を降りてくるのが聞こえた。扉が、ややがさつに開いて、店のオーナーが顔を出す。

「大きな音がしたから来てみたけど、何があったんだ?・・・・・・おい。君達、僕の心を込めて作った料理を粗末にしたな。このノータリン共!全員、正座だ!」

「あ!ちょっと!・・・・・・ち、違うんです!セオドールさん!これには、深いわけがあって!」

 ドカドカと押し寄せて来たセオドールの前にルイーズが立ちはだかり、小柄な体で大人の突進を食い止める。その騒がしい光景を目にした一同は、クスッと笑いを吹き出した。

Re: オリウェール物語-夜明けの皇女編- ( No.10 )
日時: 2021/08/23 18:27
名前: フロム・ヘル (ID: FWNZhYRN)

 晩餐が終わった後も、ノエルは優雅に過ごした。浴場でマリネに体を洗ってもらい疲れた心身を癒し、出逢ったばかりの仲間と酒を飲み交わす。ルクスとは、互いに故郷の話で盛り上がった。どうやら彼は、多くのルシェフェルが住まう東国の生まれではなく、別の州で生まれたと言うのだ。フィローネやフィーとは、ゲームを存分に満喫した。サイコロを使う単純な遊びだが、ルールがいまいち頭に入らず、勝利と敗北を繰り返す。

 楽しい一時はあっという間に過ぎていき、時刻は深夜へと近づきつつあった。しかし、彼らは明日を迎えるための就寝は行わなかった。ノエルを含むシャドーフォルク達は、再び寝室へ集い、彼女を中心とした会談が始まる。

「・・・・・・さて、難しい本題が来てしまったね」

 セオドールの気にかかる言葉を合図にルクス達も真剣な面構えになった。たった1人、これから何が始めるのか、知り得ないノエルは、妙な胸騒ぎを覚えつつも、詳細が明らかになるだろう次の台詞を待つ。

「今後、ノエルにはどのような生活をさせるべきかを、これから皆で相談し合って決めようと思う」

 セオドールがこの場を代表して言って

「そうですわね。ただ、置いておく余裕は私達にはありませんもの・・・・・・」

 フィーの同感の次にマリネも意見を述べる。

「その前に、ノエルさんがいるここがどういう場所なのか、ちゃんと、教えるべきだと思います」

 ルクスは頷いて、彼らは今いる居場所について語る。

「ノエル。驚かないで聞いてほしい。ここは"王都"なんだ。正確に言えば、都市部から離れた平原地帯だけどね」

「・・・・・・!!」

 ノエルは驚愕のあまり、無意識に口を覆った。王都と言えば、暗黒政治でオリウェールを不況をもたらし、ルシェフェル迫害の指揮を取るヴァーデン政権の本拠地。指導者であるロシュア・ヴァーデンの根城も、そこに存在している。ルシェフェルにとっては、地獄の中心部ともいえる場所だ。

 しかし、ノエルは周囲の存在に対し、1つの疑問が生まれた。

「待って下さい。王都は反ルシェフェル迫害主義者の総本山のはず。フィローネさんやルクスさん。それにルイーズはルシェフェルなのですよ?街に出向いても、捕まらないのですか?」

「ノエルさんは、鋭い点を突きますのね。街には行っても、平気ですのよ。一応は。"アレ"を所持していればのお話ですが」

「アレとは?」

 台詞が短い質問に、フィローネは、紙でできたカードを取り出した。持ち主の顔写真と、いくつか行がある文字と数字が記されている。

「王都にいるルシェフェルには全員に配られる特別な通行証。これがあれば、政権下の都市に住んでいても迫害の対象にされる事はないよ。まあ、それでも不当な扱いまでは変らないけどね」

 セオドールが具体的な説明を努める。

「この先、ノエルさんにも、この通行証が必要になりますわ。これの入手につきましては、私にお任せ下さいまし」

 フィーが役目を引き受けた後、ルクスが話の元である趣旨を改める。

「さて、改めて本題に入ろう。ノエル。君はこれから、何がしたいとかある?難しい事があれば、喜んで僕達がサポートするよ」

「私は・・・・・・」

 ノエルは、何かを言おうとしたものの、途中で口を濁した。彼女は下を向き、唇をつむぐ。その迷いには、葛藤の他にも、何かしらの決意にも感じられた。

「頑張って、言ってごらん。君への協力に対して、誰も嫌なんて言わないからさ」

 フィローネが話す相手の肩に手を乗せ、優しい笑顔で言った。ノエルは、拳を胸に当て、無理に冷静さを保つと、ついさっき、言い欠けた内容の全てを口にする。

「私の望みはただ1つ・・・・・・同胞を蹂躙したヴァーデン政権に復讐する事です」

 その発言に、ノエル以外の人物達は怪訝そうな顔をした。しかし、それは一瞬の事で、彼らの表情は憂鬱へと変わる。思っている事も言いたい意見も、皆、一致していた。

「大切な人達を無残に虐殺されて、怒り狂う気持ちは分かるよ。ここにいる皆も、野蛮な政権が憎い。でも、叶わない願望をいくら望んだって、どうにもならないよ」

「簡単に言うけどさ。真面目な話、政府の勢力はどれくらいだと思う?兵士の数だけでも数百万人はくだらない。容易に想像できると思うけど、そんなのに真っ向から抗えば、良くて犬死、悪くて犬死だよ」

 フィローネとセオドールは、ノエルの高望みに水を差そうと、現実を突きつける。

「仮に、めでたくヴァーデンを殺せたとして、その後はどうなるんですの?また、第二、第三の独裁者が玉座に座るきっかけを作るだけかと」

 明るい未来はないと言わんばかりに、フィーも物事の成り行きを推測する。

「そんな事はさせません。もう、オリウェールに悲劇は二度と起こさせない・・・・・・」

 ノエルは席を立ち、堂々と誓いを宣言する。

「私が、オリウェールの"皇女"となる。それが領主たる私が果たすべき使命です」

 当然、ノエル以外の者は、彼女の正気を疑った。

「もしかして、氷に体を打ちつけた衝撃でおかしくなったんじゃ・・・・・・」

 正気じゃないと言わんばかりに、マリネは後遺症を疑うが

「私は至って正常です。御心配には及びません」

 と少し尖った口ぶりで自身の健全をはっきりと表明する。 

「絶対に無理です!いくら、あなたがルシェヴェリアとはいえ、1人で解決できる問題じゃありません!」

 マリネは強く訴えかけるが、ノエルは後に引こうとせず

「ルシェフェルを救うには、それしか方法はありません。こうしている間にも、彼らは獣のように狩られ、迫害に苦しんでいる」

 そして、こうも演説した。

「ルシェフェルはオリウェールの正当なる民です。しかし、髪の色が白いと言うだけの理由で迫害の対象とされ、殺戮の犠牲となる。例え、生かされたとしても、奴隷同然の位しか与えられず、蔑まれながら生きて行かねばならない・・・・・・!そんな理不尽、許せるはずがありません!私達を虐げる権利など、誰にもない!私は、不純に塗れた今の世の常を正したい!例え、女神ジャネールが不純な運命を望んだとしても、私はその定めに抗う!その誓いこそが、私を守り、散っていった同胞達への償いです」


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