ダーク・ファンタジー小説
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- 隻眼の御子【短編小説】
- 日時: 2023/01/07 19:12
- 名前: 金時計の償い (ID: FWNZhYRN)
――――どうしても、許してほしい・・・・・・?なら、この実を食べてごらん・・・・・・――――
夏休みの訪れを機会に故郷を発った女子中学生の"深瀬 心(ふかせ こころ)"。彼女は過去の過ちを償うべく、幼馴染みの"葦名 瑞貴(あしな みづき)"が住む"蟲崇(ちゅうすう)の集落"へと足を運ぶ。しかし、贖罪の願望が誘うのは、悪夢の絶えない連鎖だった。
――――1人の少女は誘われる。その村に伝わる悍ましい秘密を知らずに・・・・・・――――
- Re: 隻眼の御子【短編小説】 ( No.1 )
- 日時: 2023/01/07 19:26
- 名前: 金時計の償い (ID: FWNZhYRN)
人がほとんどいないバスの席でゆらゆらと体が揺れていた。
窓の外を覗けば、蒸し暑い真夏の青空。反対車線にて、すれ違っていく車両。過ぎても過ぎても果てしなく広がる田畑。
そんな珍しくない景色をただ、ぼんやりと眺めていた。
私の名は"深瀬 心(ふかせ こころ)"。中学生になったばかりの平凡な少女。
趣味は映画鑑賞と漫画読む事・・・・・・最近は推理小説にハマっている。
夏休みが訪れて間もない日、私は故郷を離れ、"ある場所"へと向かっていた。
その名は"蟲崇(ちゅうすう)の集落"と呼ばれている。
蟲を崇拝すると書いて蟲崇と呼ぶらしいが、その意味も名前の由来も定かではない。
その地へ足を運ぶのは、実は初めてじゃない。
でも、どんな場所だったか?そこでは何を食べたのか?そして、何が印象的だったのか?
だけど、鮮明な記憶が1つだけ脳裏に焼き付いている。
――――忘れもしない。私が犯した取り返しのつかない事件――――
その集落には同い年の幼馴染みが住んでいた。
名は葦名 瑞貴(あしな みづき)くん"。大人しく物静かな男の子だった。
彼とはすぐに親しくなり、、一緒に森を散歩したり、川で水のかけ合ったり、色んな場所で遊んだ。
だけど、些細な事がきっかけで私は瑞貴くんとケンカになった。
原因は彼が私の病弱なお婆ちゃんを悪く言ったからだ。
取っ組み合いの末、突き飛ばされた私は怒りに我を忘れ、机にあったある物を手に取ってぶつけてしまう。
――――それは鋭く尖った"千枚通し"だった。――――
片目が潰れ、針が刺さった顔を押さえて泣き叫ぶ彼の姿に私自身も罪も強いショックに陥ったまま、集落から連れ出された。
あの後、瑞貴くんがどうなったかは聞かされてない。
10年近くの月日が経つが、私がした事は昨日の事のように恨んでいるのだろう。
あの日から、私の頭の中はその事で埋め尽くされていた。
何よりも好きな人に一生の傷を刻んだ自分が許せなかったんだ。
だからもう一度、彼に会って、心から謝りたい。ちゃんと向き合って、"ごめんなさい"を言いたい。
それが私が蟲崇の集落に出向く決心をした理由・・・・・・
『"次は○○~次は○○~"』
私一人という乗客を乗せた車両は何度目かのバス停を過ぎ、目的地の到着を知らせる放送が流れる。
私は降車ボタンを押し、やがてバスは速度を落とし道路に端で停車した。
バスを降りた私は数時間ぶりに真夏の蒸し暑い気温にさらされる。
「――暑い・・・・・・」
私はそんな当たり前の一言を零すと、まだ汗をかいてない額を拭い、蟲崇の集落に繋がる田舎の道を歩み始める。
山道をしばらく行くと、蟲崇の集落が姿を現した。
峠から眺めている景色、私は数年ぶりにあの場所へ足を踏み入れたのだ。
山々に囲まれたその平地は、複雑に張り巡らされた通路に挟まれ、民家や田畑があちこちに点在している。
坂道が多いのが個人的に印象的で、石造りの階段があちこちにある。
住宅街の上部にある山にも階段があって、恐らく上った先に神社があるのだろう。
蟲崇の集落を短く見渡した後、鞄に入れておいた水筒の蓋を開けて冷えた麦茶で乾いた喉を潤す。
足の痛みが和らぐまで木陰に留まり、再び足を進めて村の入り口へと足を踏み入れた。