ダーク・ファンタジー小説
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- ERROR_
- 日時: 2023/05/26 22:28
- 名前: 神崎 (ID: 4NhhdgqM)
2018年6月、日本は突然変異体『SIGMA』達により無差別大量殺戮が起こった。
結果日本の人口の約3分の2が失われた。
日本は東京エリア、上越エリア、大阪エリアで分断し、それぞれをモノリスで仕切った。
時は流れ西暦2029年、惨劇から11年が経過したある日、事態は動き出す。
この物語はフィクションです。実在する人物、団体とは一切関係ありません。
一気読み>>1-
人物紹介>>1
プロローグ>>2
第1章「異質」
1 >>3
2 >>4
3 >>5
- Re: ERROR_ ( No.9 )
- 日時: 2023/07/03 21:04
- 名前: 神崎 (ID: 4NhhdgqM)
2
「ふぅ...」
深く息を吐き、風花はヘリに早く乗り込む。
生暖かい風が頬を撫で、緊張で火照った体を少しだけ冷やしてくれた。
「だーれだ」
突然小さな手が視界を覆い、背中に小さくて温かい柔らかな感触が伝わる。
「蒼、だろ?」
「うむ!流石だ、風花!」
満足そうに笑う蒼に、思わず緊張で固まった表情が和らぐ。
ああ、自分は笑えるのだ。
「離陸します」
機内でも聴こえすぎるプロペラのローター音が、鼓膜に突き刺さる。
今日の夜空はあり得ないほどの快晴で、月明かりが自分の顔を照らす。未踏査領域は、街明かりがないため星空が一層綺麗に見えた。
「ポイントに到着しました。降下可能高度まで下げます」
「これより作戦を開始する!」
後ろのハッチから飛び降りると、服が轟音を鳴らしながら靡く。
「っ!」
蒼が先に着地すると、風花は義足内部のスラスターを噴射して、着地の衝撃を和らげる。
二人はアイコンタクトを取り、目的地へ走った。
夕方まで雨が降っていたため、地面がぬかるんでいた。
「っ!蒼、止まれ!」
風花が制止すると、蒼は靴底を立て地面を抉りながら止まる。
「なぜ止めた___」
「しっ!誰かいる...!」
未踏査領域に人間は立ち入れないはず。
見間違いかもしれない可能性を頭の隅に入れながら、SSSビットを射出。すると空中にふわりと浮かび、脳に映像信号が送られてくる。
「っち、見失ったか...」
再び走り出す。
「いたぞ!」
蒼が目標を発見するまであまり時間はかからなかった。
風花は鮮やかな青と紫のグラデーションの刀を抜いた。
「これより目標を____」
インカムに向かい喋っていると、突如暗闇から大きな鎌のようなものが振り下ろされた。
咄嗟にバックステップで避けると、その全貌が明らかになった。
4対の虫のような足に胴体は爬虫類、カマキリのような鎌に頭部は言葉では形容のできない異形だった。
「な、なんだよこれ...」
「来るぞ!」
再び鎌が振り下ろされる。しかし回避が間に合わず、抜刀。
「くっ!!」
火花を散らしながら、体に重い衝撃が走る。
もう片方の鎌が振り下ろされようとしたときに、義足内のスラスターを噴射し後退。そのままグロック社製の対SIGMA拳銃をホルスターから抜き連射。
「神代式抜刀術、一の型一番...!焔迅殺!」
斜めに刀を振り上げ、刀身が弧を描いて鎌を切り裂く。
「今だ!蒼!」
バランスを崩したモデル・キメラに飛び蹴りを一発胸部めがけて叩き込む。SIGMA細胞の再生阻害の効果があるバルドニウムプレートを埋め込んだブーツの底がめり込む。
すると形象崩壊を起こし、活動を停止した。
紫色の粘度を帯びた体液に絡んで、銀色のアタッシュケースが月明かりに照らされていた。
- Re: ERROR_ ( No.10 )
- 日時: 2023/07/07 06:56
- 名前: 神崎 (ID: 4NhhdgqM)
3
「回収が完了した。これより帰還する___」
刹那、暗闇から真っ白な五指が視界を覆い、身動きが取れなくなる。
咄嗟に義足内部のスラスターを噴射。後退し距離を取る。
「っ...!貴様何者だッ」
「私は小隈錐郷と言う。以後お見知りおきを」
そう名乗った男は仮面を被っており、漆黒のタキシードを身に纏っていた。身長は190cmを超えるだろうか、スマートな体型だが、とてつもないプレッシャーを感じる。
「風花、もう一人いる...!」
蒼の警告の直後、背後から、風切り音。すぐに後方へ弾く。
そこに立っていたのは、蒼と同じぐらいの背格好だが、プレッシャーが段違いだった。
「紹介しよう、私の娘でありセファルキーパー、小隈向日葵だ」
向日葵という少女は、両手に漆黒の小太刀を持っており、恐らく材質はバルドニウムだ。
「パパ、こいつら斬っていい?」
「くくくっ、いいよ」
突如、姿を消したと思ったら背後に殺気。義手の内蔵カートリッジをストライカーが打撃。火薬の推進力で小太刀の力の方向に逆らう。
甲高い音が辺りに響き、朱色の火花が散る。
「よそ見をするなぁぁぁ!!!」
向日葵の背後から回し蹴りをする蒼に、音よりも速く反応し、頭を引っ込める。
「あんた名前は?」
「生原蒼。モデルラビットだ!」
「蒼、ね。覚えた」
「風花!私はこいつをやるから、風花は仮面を!」
頷いて振り返る。
錐郷は依然腕を後ろで組んだまま。
「お前の相手は俺だッ」
「ほぉ...」
風花は義手のカートリッジを最大限に活かすために刀を捨てる。
「神代式格闘術、一の型四番___雷鳴花閃・三連撃ッ!!」
義手のカートリッジをストライカーが打撃し、黄金色のカートリッジが排出。人工皮膚の剥がれた拳は、真っ直ぐに錐郷に向かう。
稲妻の如く繰り出された正拳突きは確かに直撃を感じた。しかし、それは錐郷に当たったのではない。
「っ!?」
「くくくっ、斥力バリアさ。私はこれをアブソリュートクロノスと呼んでいる」
「斥力バリア...!?」
「私は臓器のほとんどをバルドニウムの機械に変えている。...そろそろ名乗ろうか。元陸上自衛隊北部方面〇七一特殊強化歩兵部隊、小隈錐郷だ」
その名前に、風花は悪寒を感じた。
インカムで通信を続けていたため、風鈴の驚愕の声が聴こえる。
「...神代式格闘術、三の型十番___」
「おやおや、まだやるのかい?」
「____雲禅・戯渧剛」
義足のカートリッジとスラスターによる加速で爆発的な加速をして、踵落としを繰り出す。
「ふんっ!」
しかしそれも虚しく、懐に入られてしまった。
「なかなかいいじゃないか。私は君が好きだ、また会おう黒町風花くん」
「待てっ___ぁがっ!?」
鳩尾に拳がめり込むと、体から力が抜けて意識が朦朧とする。
そのまま、意識は飛んでしまった。
- Re: ERROR_ ( No.11 )
- 日時: 2023/07/07 21:25
- 名前: 神崎 (ID: 4NhhdgqM)
4
まず白い無機質な天井があった。
浴びせられた照明が眩しく、思わず目を細める。
「おはよう、風花くん」
伸びに伸びた髪の毛から、優しく微笑む白衣の女性。
「純儺、先生...?」
「そうだ」
富樫純儺だった。
そうして嗅覚が戻ってきて、むせ返るような消毒液の臭いで病院と認識した。
「っ!アタッシュケースは!?」
「うおっと、安静にしていろ」
「お、おう...。それで、ケースは...?」
「...強奪されたよ」
風花は目を見開き、手を震わせた。
「小隈錐郷からと見られる人物から政府宛にメールが届いてね」
そう言うと純儺は、タブレット端末でそのメールを風花に見せた。
文章の中に、『昴の鏡』というワードが出てくる。
「昴の鏡...」
「その情報は私の口からは言えない。ターミナルに行くといい」
ターミナルはライトアップされており、真っ暗な夜でもとてつもない存在感を放っていた。
屈強そうな警備にライセンスを見せ、中に入る。
「...」
「なんの用だ」
黎之助は風花を見るなり、攻撃的な表情をした。
それに怖じ気づくことなく、風花は口を開く。
「じじ...義父さんに聞きたいことがある」
「なんだ」
「昴の鏡って」
その名前を出した瞬間、黎之助は顔色を変えた。
「...着いてこい」
言われるがまま着いていくと、インクの匂いが鼻腔を掠める金属製の棚に膨大な数の書類がある、資料室のような場所に来た。
そして分厚い本を渡された。
「これは...?」
「お前が知りたがっているものがここにある」
付箋が貼られていたので、探す時間もかなり短く済んだ。
「レベル5を呼び出せる触媒だと...!?」
「レベル5のうちの一体、大獅子を呼び出せる触媒だ。そもそも元長野県の昴原集落辺りで発見され、解析が終わった後に我々が回収した。しかし数ヵ月後に奪取され行方が分からなくなっていた」
「それで俺に取りに行かせたと」
「そうだ」
風花は本を閉じ、視線を黎之助へと向けた。
「...俺たちが、必ずや東京エリアの大絶滅を食い止めて見せる。協力してほしい」
薄暗い病院の地下室は、恐怖を煽るシチュエーションとしては最高の場所だと風花は思っている。
「ばぁぁぁ」
「うわぁぁぁぁ!!!」
突如目の前に現れた筋組織が露になった人間を見て思わず絶叫してしまった。
その人間の後ろから「ふふっ」と、小さく笑いを溢したのは純儺だった。
「驚かせるなよ純儺先生...」
「いやーすまないね。それで?用件は?」
「蒼のDNA書き換え侵食状況と、先生からのプレゼントを貰いに」
すると思い出したように、書類だらけのデスクの上を漁る。
「はいよ。侵食状況は40.8%」
「...」
「これは医者としてでなく、君の友達として警告だ。これ以上、蒼ちゃんを戦わせるな」
気付いていた。
臨界点に近付いて、最近ではSIGMAが嫌う磁場を発生させるモノリスの近くを通ると、頭痛や吐き気をウッタエルようになっていた。
「それと、よいしょっと」
目の前に置かれたアタッシュケースとUSBメモリ。
「ケースの中身はDNA活性剤と、SIGMAとの戦争記録だ。君の両親に近づける鍵となるかもしれない」
「ありがとう、純儺先生」
- Re: ERROR_ ( No.12 )
- 日時: 2023/07/10 07:01
- 名前: 神崎 (ID: 4NhhdgqM)
5
小隈親子との戦闘を経て、政府では本格的に殲滅作戦が練られていた。
その作戦遂行の要員として、H.C.S.も例外ではなかった。
「防衛省にまで呼び出されるなんて、俺らも大物になったんだな」
「大物になってるなら、今ごろ収益がとんでもないことになってたわよ...」
豪勢な扉を開けると、見慣れた顔立ちやその逆も大勢居た。
室内にはピリピリとした空気が流れており、思わず唾を飲み込む。クーラーが効いていることもあるだろうが、横目で歓迎とは程遠い鋭い視線で、背筋が伸びる。
「黒町風花か。ちっこい相棒はどうした?」
肩幅が風花の二倍ほどありそうな男は、生田巧摩だ。
彼は序列400位という、かなり強力なのだが、好戦的で警察とかなり揉めたこともある。
「生憎、今日は学校で居ねえんだ」
「へっ、それでこの嬢さんか。随分と貧弱そうじゃねえか____」
「やめなさい巧摩!その方はH.C.S.の社長の柊木天汰さんだ!」
その瞬間、周囲がどよめきだした。
「ひ、柊木!?」「御三家の!?」「噂じゃ家飛び出して復讐するつもりなんだとよ...」
「やめんか!柊木社長、申し訳ございません」
「いえ、大丈夫ですよ」
そう天汰は微笑んでみるが、その笑みの奥には複雑な念があるということを、風花は知っていた。
「今回の作戦では、小隈親子を戦闘不能まで叩く。見つけ次第、攻撃を開始せよ」
「いいか?」
「君は...?」
すると風花は椅子から立ち上がり、口を開ける。
「H.C.S.所属黒町風花だ。小隈錐郷は恐るべき俊敏性を誇り、防御力もとんでもないものだ」
「ほぉ...随分と高く買ってくれるじゃないか。黒町くん」
そのバリトンボイスに、風花は激しく震えた。
____小隈錐郷。
「どうも、私が小隈錐郷だ」
「てめえ...!」
「どけ!そいつは俺の獲物だ...!死ねぇぇぇぇ!!!」
巧摩は背中に差してあった身の丈を超える大きなバスタードソードを振り下ろす。
「くくくっ、無駄だよ」
甲高い金属の衝突音が響き、辺りに衝撃波が飛ぶ。巧摩の手に握られていたバスタードソードが、後方へと吹き飛び壁に突き刺さった。
「そんなに怖い顔をしないでくれ黒町くん」
「どこから入ってきやがった...?」
怒りが隠しきれない風花は、腰に差した刀に手をかけた。
「それはもちろん、正門から堂々と」
「なっ...!?警備はどうしたと...!?」
「あぁ、なんだか虫のようなものがちらほら居たね」
風花の怒りは、限界を超えた。
青と紫の光を刀身が放つ。
「神代式抜刀術一の型五番____」
「ちょっと、風花くん!?」
「____黎明火山」
光のごとく跳躍し、錐郷に向かい縦に回転しながら斬りつける。
が、斥力バリアで触れることすら許されなかった。
「くっ!」
「そこまで!!」
響き渡った制止の声に、後ろに跳ぶ。
声の主は天汰だった。
「おやおや、女社長さんか。それでは私はこれで。と、これを忘れていた」
そうとだけ言い残すと、机の上にプレゼントボックスを残して去っていった。
少し嫌な予感がする。
「お、おい、峰尾社長は...?」
「まさか...!?」
恐る恐る箱に近づくと、酷い腐敗臭が鼻腔を刺激する。赤黒い液体が漏れ出して、なかに入っている物がなんなのか検討がついてしまう。
「う、うわぁぁぁ!!!」
「これは...」
入っていたのは、会議には欠席していた峰尾社長の首だった。驚いたように目を見開き、口の端からは唾液と混ざり粘性を帯びた赤黒い血液が垂れていた。
「風花くん...?」
「あいつだけは...!」
風花の瞳に宿った憤怒は、消えることを忘れてしまった。
- Re: ERROR_ ( No.13 )
- 日時: 2023/10/25 21:04
- 名前: 神崎 (ID: 4NhhdgqM)
第3章「王の胎動」
1
「ポイント・ネモに巨大な影を確認」
「ん...?」
それはサーモグラフィからの情報では熱を持っていた。熱い。
海上自衛隊の護衛艦は、影に向かい接近。
「!?熱源、急速に...こちらに来ます!」
「回避ぃぃぃ!!!」
舵を左に切るが、それも虚しく激突。
「うわぁぁぁ!!!」
その日、護衛艦は3隻は冷たい青に消えていった。
大獅子によって。
『先月28日、海上自衛隊のイージス艦3隻が太平洋沖での任務で突如消息を絶ちました』
「なんで今になってこんなのやってんだよ。忙しいもんだな」
「仕方ないわよ、ここ最近SIGMAの動きも活発化してきたんだから」
今現在、SIGMAの動きの活発化により、政府の対応も追われておりとある地区ではデモ活動も行われているほどだ。
その時、非通知で風花のスマホが鳴った。
「もしもし」
『風花さん、武蔵野です』
まさかの首相だった。今度から名前を設定しておこうと心に決めたのだった。
「ど、どうしたんだこんな朝っぱらに」
『H.C.S.の皆さんはそちらにいますか?』
「いるけど」
『では、スピーカーにしていただけますか?』
風花は促されるままスピーカーのアイコンが表示されている部分をタップし、卓袱台の上に置く。
朝の情報番組の件なんだろうか、変な緊張感が漂う。
『現在、レベル5の大獅子が活動を開始し、こちらに来ることが防衛省で予測されています』
「...それで、うちらに出来ることはなんだ」
「ちょちょちょっと!首相だよ!?そんな失礼な聞き方」
『構いません。H.C.S.は大獅子特別殲滅部隊に召集されました』
拒否権はあります、と風鈴は補足する。
決定権は天汰だ。
天汰は蒼と風花の顔を見る。
彼らの目は覚悟を決めた、信頼できる目をしていた。
「召集、承ります。H.C.S.の一同は殲滅部隊としてこの身を尽くして国を守ります」
『...分かりました。命、お預かりします』
「...ふぅ」
「首相、大獅子の件ですが」
黎之助はタブレット端末を手にし、テーブルの上に置く。
どうやら大獅子の進路についての図のようだ。
「大獅子の進路が大幅に変わりました。市民の密集している地区に襲撃する可能性が高いです」
「シェルターの確保は?」
「このスピードでは、確保は間に合いません」
「...」
「どうされますか?」
何が最適か、どんな作戦を部隊が遂行できるか、H.C.S.が____風花がどうすればやりやすいか。
風鈴は迷っていた。誰も死なない、誰も悲しまない、完璧な作戦を。
「...例のものは、使用可能ですか」
「...メンテナンスは行っていませんが、使用することはできるかと」
「明日の夕刻、作戦を決行します」