ダーク・ファンタジー小説

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ユリカント・セカイ
日時: 2025/11/02 22:07
名前: みぃみぃ。・しのこもち。・謎の女剣士 (ID: aFmdMFHh)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no

※諸事情により、みぃみぃ。としのこもち。二人での合作になります

こんにちは、みぃみぃ。と、しのこもち。です。
ユリカント・セカイは、合作小説です。
みぃみぃ。→しのこもち。の順で書きます。


一気読み用 >>1-
第一話 >>1 あの時までは…。
第二話 >>2 ダイキライ
第三話 >>3 幸福と不幸
第四話 >>4 情けと出会い
第五話 >>5 初恋
第六話 >>6 好きな人、嫌いな自分
第七話 >>7 不思議
第八話 >>8 散ってゆく
第九話 >>9 もう一度
第十話 >>10 答え
第十一話 >>11 ずっと、このまま
第十二話 >>12 変わる日常
第十三話 >>13 結ばれるはずだった人と、結ばれないはずだった私
第十四話 >>14 祝福

Re: あの時までは…。 ( No.1 )
日時: 2023/12/02 13:12
名前: みぃみぃ。 (ID: t7GemDmG)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no

【第一話】あの時までは…。

時は六年前、2017年の4月15日のことだった。

私は、流華るかっていうの。苗字はたちばな
私は今日から、与那野よなの東小学校に入学するんだっ!
「おねーちゃん!この小学校、きれいですてきだね!」
「そうだね!まあ流愛の方がきれいですてきだよ!」
「おねえちゃん、ありがとっ!」
この可愛い子は、流愛るあっていう可愛い私のふたごの妹なんだ!
「さあ二人とも、行くわよ!」
これはママ。すっごく可愛くて、自慢のママなんだ!
「あれ、パパは?」
「ああ、なんか水を買いに行ったわ。先に買っとけば良いのに…。」
「もうパパったらぁ!」
流愛とママが笑いながら言う。
「さあ、今度こそ行くわよっ!遅刻しちゃう。」
「「うん!」」

与那野東小学校の、体育館に着いた。
「すっごい!広ーい!」
「こら、流華。静かにしなさい。」
「はーい、ごめんなさーい。」
「流華は素直でいい子ねえ。」
「えへへ!」
ママ、だーいすき。
「…じゃあ、頑張ってね!あそこに係の人がいるでしょ。だから、そこに行きなさい。」
「はーい」
「…おねえちゃんっお願いっ」
流愛はこう見えて恥ずかしがり屋。まあ私もだけど…っていうか私の方がだけどっ
「わ、分かった…あ、あの、す、すみません…」
「あ、与那野小の入学式に来た子だね。じゃあ、案内するから着いてきて。」
「「は、はいぃっ」」
私たちは体育館の奥の方にどんどん入っていく。
「おねえちゃん、まだ…?」
「る、流愛…私もまだわかんない…だって来たことないもん」
「あ、もうちょっとで着くから安心して。」
「「あ、は、はいっ」」
ふうううううっドキドキするっ
「着いたよ。名前を教えて?」
「え、あ、は、はい、わ、私はっ…」
「あはは。落ち着いて。」
「え、あ、はい、た、橘、流華、ですっ」
「わ、私は、橘、る、流愛、です」
「流華ちゃんと流愛ちゃんだね。僕は望月もちづき 大我たいが。ここの小学校の、先生だよ。望月先生って呼んでね。」
「は、はい、望月先生っ」
「わ、分かりました、望月先生っ」
「…じゃあ。ここに並んでね。」
「「は、はいっ」」
ふうっ疲れた…まあどうにかなったしいいでしょ!

10分後。
「さあ、新たに与那野小学校に入学してくる、新一年生の入場です!大きな拍手でお迎えください!」
「さあ、みんな、行くよ。」
望月先生が言った。
私たちが体育館のステージに上がった時。
そこにいたのは、ママ、パパ、他の人のママ、パパ、親戚、兄弟…だけじゃなかった。
与那野小学校の六年生もいた…。
すごい…
見惚れている時だった。
大きな音楽が流れ出し、六年生が踊り出した。
すごく綺麗…すごい…私たちもこんな風になるの…?
「すげー!!」「やば…」「すごい…」
そんな言葉が飛び交った。
そうして無事に入学式は終わった。

15分後。
「名前を教えてください。」
六年生のおねえさんが言った。
「流華、流愛、いいなさい。」
「た、橘、流華、ですっ」
「た、橘、る、流愛、ですっ」
「橘流華さんと橘流愛さんね。じゃあ、1-2ね。あの先生に着いていってね。あ、この名札も持って行ってね。」
「あ、は、はい、ありがとう、ございますっ」
「ありがとうございます。じゃあ流華、流愛、行くわよ。」
「「うんっ!」」

1-2にて。
「こんにちは。1-2担任の、秋月あきづき 歩美あゆみです。これからよろしくお願いします!」
「よろしくお願いしますっ!」
わあ、ここが学校…すごい!
「じゃあ、まず一分間、隣の人と話してみましょう。よーい、スタート!」
と、隣の人…この人か…
「こんにちは。私は白石しらいし ゆき!雪って呼んでね!」
「あ、わ、私は、橘 流華っ!よろしくねっ!私は、流華って呼んで、!」
「流華!よろしくね!」
「ゆ、雪っ!よろしくねっ!」
「うん!よろしくー!」
その時、タイマーが鳴った。
「はーい、終了。仲良くなれたかな?仲良くなれた人、手を挙げてください!」
「はーい!」
「わあ、たくさんいますね。良かったです。それでは今日は帰ります。明日からまた学校が始まります!頑張りましょう!」
「はーい!」

帰り道にて。
「流華、流愛、友達できた?」
「「うん!」」
「わあ、良かったね!友達のこと、教えてくれない?」
「うん!流愛はねえ、木村きむら 凛子りんこちゃんと仲良くなったー!」
「私は、白石 雪ちゃんと仲良くなったっ!」
「そうなんだ。良かったね!」
はあ、良かった、やって行けそう!
友達ってこんなにすぐできるんだ…!
幸せで、笑顔いっぱい溢れる家族…のはずだった。
そう、あの時までは…。

Re: ユリカント・セカイ ( No.2 )
日時: 2023/12/14 17:10
名前: しのこもち。 (ID: anYeesDx)


 - 2.ダイキライ -

「流華、一緒に帰ろう!」
 あれから6年が経った今、私は晴れて中学生になった。
 雪ちゃんとは小学校の時からクラスもほとんど一緒で、今となっては大切な親友と言える関係にまでなった。
「………うん」
 雪ちゃんは本当にいい友達だ。本当にいい友達、なのだけれど…。

『どこが流華です、だよ』
『流愛ちゃん可哀想』

 ‪”‬‪橘 流華”‬
 私はこの名前が嫌いだ。大嫌いだ。
 お母さんだけは唯一、私の名前を認めてくれる。でもそれ以外の人はみんな、私の名前を快く思っていない。
 だから私は今でも雪ちゃんに名前を呼ばれると、どうしても嫌悪感を抱いてしまうのだ。

٭•。❁。.*・゚ .゚・*.❁。.*・٭•。٭•。❁。.*・゚ 

「今日の宿題は『自分の名前の由来』についての作文にしようと思います。両親の方に自分の名前の由来を聞いてきて、作文にまとめてくるように」

 あれは確か小学5年生の時だった。入学式の時に案内してもらったあの望月先生は当時、小学1年生の学年主任だったそうで、この時のクラスの担任も確かあの先生だった。

「明日クラスの中で発表するから、真面目に書くんだぞー」

 入学式の頃とは違い、少し厳しい印象を持ち始めた先生の威圧的な声が教室に響いた。私はこの日、自分の名前の由来を聞くという宿題が出たので、家に帰った後母に自分の名前の由来を聞いた。

「お母さん、私の名前の由来って何…?」
「ん?流華の名前の由来かぁ…」

 お母さんは首を傾げた後、私を真っ直ぐに見据えながらこう言った。

「‪流華の‪”‬‪華”が、華やかな子に育ってほしい、流愛の‪”‬‪愛”が、みんなに愛されるような子に育ってほしいって‬意味なんだよ‬‬」

 ‪”‬華やかな流華‪”
 母から名前の由来を聞いた当時の私は、この名前を気に入っていた。‬

「へぇ。じゃあ流愛は愛される子だから、この名前は流愛にぴったりだね!」
 すると、いつの間にか私の後ろにいた流愛が顔を出して自慢げにそう言った。

「私も……流華って名前好きだな」
 私も思わずそう呟いた。そんな私の言葉を聞き逃さなかった流愛は、何を思ったのか突然馬鹿にしたような笑みを浮かべた。

「何言ってるの、お姉ちゃん。お姉ちゃんは地味なんだから、そんな名前似合うわけないじゃん」

 見下したような流愛の目つき、笑み、声。その全てが、まるでお母さんが一生懸命考えてくれた自分の名前を侮辱されているような気がして、私は悲しみと同時に怒りを覚えた。

「……なんで、そんなこと言うの…?」
「えー、何。お姉ちゃんったら自分の名前が似合わなすぎて流愛に嫉妬してるの?」
「別にっ…!そういうわけじゃない」
「じゃあ何?あっ、もしかして自分が地味すぎて情けなくなっちゃったの?お姉ちゃんったら可哀想ー」
「ちょっと、流愛。そんなこと言うのはやめなさい」
「えー。だって流愛は事実を言ってるだけだし?それの何がいけないわけ?」

 流愛の言う通りだった。華やかな名前とは正反対の、地味な自分。それが事実なのが悔しくて、悲しくて。私は何も言い返せなかった。

「……とりあえず、2人ともこれが宿題なんでしょ?今はほら、早く部屋に戻って宿題しなさい」

 母は不満そうな流愛と俯く私の肩を優しく叩いて、その場をあとにした。
 私たちは母が去った後、黙ったままお互い自分の部屋に戻った。


『じゃあ流愛は愛される子だから、この名前は流愛にぴったりだね!』
 宿題をしていると、そんな流愛の嬉しそうな声が頭の中で響いた気がした。

 素直に羨ましかった。堂々と自分の名前を自分のものだと、胸を張って言えるような流愛が。
 私も名前の通り、華やかな人間になりたかった。流愛のように、みんなに愛されるような人間になりたかった。

 “私はお母さんが一生懸命考えてくれたこの名前の通り、華やかな人になりたいです。”

 私は原稿にそう書いた後、すぐに消しゴムでその文字を消した。この名前に、どうにかしてもっとましな理由を付け加えなければ。そう焦る私の頭とは反対に、鉛筆を握る手はいつまでたっても動かなかった。

٭•。❁。.*・゚ .゚・*.❁。.*・٭•。٭•。❁。.*・゚ 

「………なので私もお父さんがつけてくれたこの流愛という名前のように、みんなに愛されるような存在になりたいなと思いました」

 翌日。流愛の発表が終わったと同時に、教室中に拍手が沸き起こった。

「もう流愛ちゃんは十分愛される子だよ」
「そんなことないよぉ」
「恥ずかしがってるとこも可愛い!」
「さすが橘さんだよな。両親のことも考えて愛される子になりたいって言う人、中々いないし」

 -ズキッ。
 苗字ですら流愛と一緒なのは嫌だと思うほど、次々に送られる流愛への絶賛の嵐が羨ましく思えた。それと同時に、手には大量の汗が吹き出してくる。

「じゃあ先生はちょっと職員室に行ってくるから、次はもう一人の方の橘から発表続けといてなー」
 そう言い残して、望月先生は教室をあとにした。
 名前を呼ばれ、私は椅子を引いて立ち上がった。床と椅子の足がこすれ合う音が、突然静まり返った教室に響く。その音が余計私の不安と緊張を煽ってくる。

「………わ、私の名前、は橘 流華です。この‪”‬‪流華”‬という名前には、華やかな子に育ってほしいという、お母さんの大切な想いが……込められている、そうです」

 人前で話すのが本当にダメな私は、周りに視線を向けられるだけで体がすぐにガクガクと震えてしまう。
 私は情けなく震える手を押さえながら、声だけは震えないようにゆっくりと口を開いた。

「お母さんがつけてくれた、この‪”‬‪流華”という、名前‬の意味を私、は初めて、知り…ますますこの名前がっ…好きになり、ました」

 私が作文をたどたどしく読んでいると、突然クラスメイトの男の子が口を挟んだ。

「華やかな名前のくせに、全然似合ってないよなー」
 -ドクッ。
 その瞬間、心臓が大きく鳴った気がした。
「だよね。お姉ちゃん地味なくせに華やかな名前だ、とか気取ってて意味分かんない」

 すると今まで黙っていた流愛も口を開き、クラスの中は次々と騒がしくなった。

「流華って流愛に似てるしね」
「流愛ちゃん可哀想、名前お揃いなの」
「どこが流華です、だよ」

 次々に向けられる私への悪意と流愛への同情の声が、私の胸に次から次へと深く突き刺さった。

 どうせ私は流愛みたいに、名前通り愛される子にはなれない。そんな現実を突きつけるかのように、クラス中のざわめきは落ち着くことを知らなかった。
 それから先生が教室に戻ってくるまで、私は名前のことをからかわれ続けた。

٭•。❁。.*・゚ .゚・*.❁。.*・٭•。٭•。❁。.*・゚ 

 昔は大好きだったこの名前が、私はあの時から大嫌いになった。今も‪”‬‪るか”という言葉を聞くだけで、体が強ばってしまう。‬

「……ただいま」
「あっ。‪”‬‪華やか”‬なお姉ちゃん、おかえり」
 家に帰ってきた瞬間、流愛がスマホを見て笑いながらそう言ってきた。
 私はその言葉が聞こえていないふりをして、黙って自分の部屋に戻った。

『流愛はね、将来お父さんみたいになるんだ…!』
 流愛はもともと、こんな嫌味を言ってくるような子ではなかった。昔はいつもお父さん、お父さんと言っているような、優しい子だった。

 でも流愛は………お父さんが死んでから変わってしまった。
 お父さんは、私たちが幼い頃に交通事故で亡くなった。その時にお父さんをひいた犯人は、今もまだ捕まっていないそうだ。

 本当に突然のことでその時の記憶はあまり思い出せないが、確かに覚えているのは流愛が葬式の時に大泣きして騒ぎになったことだった。

 騒ぎになるくらい大泣きした流愛は、それくらいお父さんのことが大好きだったのだろう。小さい頃の私はどちらかというとお母さんっ子で、流愛はお父さんっ子という感じだった。
 
 私には分からないけれど、流愛はきっとお父さんが死んでからずっとそれがショックだったのだろう。だから私へのあたりも、徐々に強くなっていった。

 昔は大好きだった。流愛も自分の名前も。でも今はこの名前を見るのでさえ嫌だと思うほど大嫌いだ。‪”‬‪流華”と‬‪”流愛‬‪”。妹と名前ですら比較されているようで、私はどうしてもこの名前を好きになれなかった。‬

 きっとこれからも、この名前を好きになれる日は二度と来ないのだろう。
 

Re: ユリカント・セカイ ( No.3 )
日時: 2023/12/28 16:07
名前: みぃみぃ。 (ID: t7GemDmG)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no

【第三話 幸福と不幸】
「今日の一時間目は部活を決めるぞー。それまでに考えておくように。」
朝の会の時。
私のクラスの担任の、鈴木すずき 諭吉ゆきち先生が言った。
「そうだった、部活!!どうしよ!!」
「俺サッカー部入る〜」
「私は吹奏楽部!!」
みんなの言葉が飛び交った。
「はい、静かに!」
鈴木先生が言った。
「はい、これで朝の会を終わります。礼!」
「ありがとうございましたー」

朝の会が終わると、私は真っ先に雪ちゃんの席に駆けつけた。
「雪ちゃんは、さ。部活、何に入るの?」
「私?私は、そうだねえ…バスケ好きだし、バスケ部入ろうかな〜って思ってる。流華ちゃんはどうするの?」
…うっ、流華…華やか、じゃなくて、地味、なのに…
ううっ…。
分かりきってる、のに…。
私の心に深く傷がついた気がする。
時々、あるのだ。
1ヶ月に一、二回くらい…
“流華”と聞いたら、精神崩壊しそうになる時が。
「流華、どした?」
「あ、え、あ、ごめんっ!わ、私は…決まってないんだよね…。私もバスケ部入ろうかな…。」
「おお!いいじゃんいいじゃん!!一緒にやろ〜!!」
「うん、!じゃあ私も、バスケ部入るっ!」
その後の休み時間の間も、クラス中部活の話で盛り上がっていた。
でも、私の心にある傷は戻らなかった。


一時間目の初め。
「…じゃあ、部活を決める。アンケートを配るから、それに答えてな。」
アンケートには、第一希望と第二希望を書く場所があった。
私は第一希望にはバスケ部と書いたのだが。
第二希望、どうしよう。
絵描くの好きっちゃ好きだし、美術部にしよっかな。
美術部、っと…。
これでいいか…。
「書いた人から前に出してください。明日には決まるからな。しっかり考えるように。」
「「「はーい」」」
私はとりあえずアンケートを出した。
「…よし、これで全員出したな。じゃあ、今からは自習だ。そのあとミニテストをするから、しっかり復習しておくように。範囲は教科書125ページから132ページの間。先生は職員室でこれを集計しているからな。何かあったら職員室に来い。いいな?」
「「「はーい!」」」
はあ、自習、か…
嫌な予感がする。
まあいいや…。ドリルでもするか。
私が引き出しからドリルを出した時。
「うっわ、流華のやつ、“華やか”な子なのに、ドリルとかしてやがるwまじウケる〜w」
「それな!?まじ“華やか”要素どこにもないよな、この真面目野郎!」
「え、もしかして、流華の“華”って、華やかって意味なの!?全くあってないじゃん!」
「そうそう!信じられないよね!」
「まじで流華さあ〜お姉ちゃんなのにダメダメじゃん!流愛ちゃん、可哀想〜」
「凛子ちゃんの言う通り!流愛がお姉ちゃんなってあげようかなぁ?」
「それがいい!」
「地味流華!地味流華!」
ああ…
予想通り。
でも、クラスの中心的存在の凛子さんに言われたのが一番辛かった。
ついにはコールまで始まってしまった。
もうやだ…
「ちょっと、あんたたち!」
…雪ちゃん。
「あんたらはさ、本気マジで弱いんだね!いい度胸してるわw流華ちゃんの気持ちになってみろ!みーんなから悪口言われてさ、ついにはコールまでやられてさ。されたら嫌じゃないわけ?」
「雪、ちゃん…」
「流華は黙ってたら〜?」
流愛が言う。
「お前もだよ、流愛!お前も加害者だ!」
「はあ?なんで私が加害者になるわけ?」
「そうそう、意味分かんないよね〜!雪、馬鹿馬鹿!あと雪に言わせた流華、最低最低!存在価値ない!」
「…うっ」
私は思わず涙を流した。
「はあ、もうっ!お前らは黙っとけ!流華ちゃん、先生のところいくよ!」
「え、あ、うん…」
「ふっ、流華、雪にしか頼れないのかな?惨めだな〜w」
「それな!」
そうやって、私が教室を出るまで、ずっと悪口を言われ続けたのがとても悲しかった。


そのあと先生から長い長い説教をみんなが受けていた。
私は副担任の柿野かきの 梨沙りさ先生に、状況を話していた。




…その後のことはあまりよく覚えていない。
いつの間にか説教が終わって、いつの間にか給食も食べ終わっていて…。
いつの間にか家に着いていた。
どうやって、誰と帰ったのか、とか、全く覚えていなかった。
本当に、“いつの間にか”だった。
でも、とてつもなく、長かった。
不思議な、日だった。
それと同時に、最悪な、日だった。





次の日の朝。
私は学校を休んだ。
…昨日のことがあるから、だ。
流華には、
「あんなことだけで休むんだね〜w弱〜w」
と、悪口を言われたけど。
…学校で昨日のようなことを言われるのは、散々だった。
…それよりは、マシだ。

お母さんにその事を話すと、休んでもいいよ、と言ってくれた。
それだけが私の救いだった。



学校は、地獄のような場所だ。
学校に行って、良かった、って思える事。

それは、雪ちゃんと、話せること。

ただ、それだけ。



でも、




それは、私の心を支えてくれていた。



長い、でも幸せな時間だった。
お母さんは愚痴を嫌な顔一つせず聞いてくれた。
私が何か言ったら、その通りにしてくれた。

でも。

「ただいまー」

流愛の不機嫌そうな声が聞こえた。

「流華。これ、先生に渡せって言われたんだけど。」
「あ、うん…」
「は?ありがとうの一言もないわけ?重かったんですけどー?もういい。勝手にすれば?」
あーあ。
もうどうでもいいや。
私は流愛から渡されたとりあえず封筒を開けた。
…手紙。
手紙が入っている。
みんな、書いてくれている。
…見たくなかった。
悪口が書いてあるに違いない。
でも、読まないわけにはいかないよね。
失礼、だし…
そこには、予想もしていなかったことがたくさん書いてあった。
「昨日はごめんね。」
「大丈夫だった?昨日は本当にごめんなさい。」
「昨日は色々な人につられてしまって色々言ってしまってごめん。」
「流愛ちゃんが言ったからといってつられてしまったのが悪かったです。本当にごめんなさい。」
凛子さんからも、言われた。
でも私はゾッとした。
流愛は、とんでもないことを書いているのではないだろうか…?
「流華のバカ」
一文目、こう書いてあった。
やっぱり。
「なんで私が加害者になるわけ?お前のせいだよ。責任とれ!」
あーあ。もう、やだ。
「バカ!タヒね!ボケ!アホ!クソ!」
最後には、こんなことまで書いてあった。
私はその手紙をぐちゃぐちゃにして、ゴミ箱に捨てた。
最後は、雪ちゃん。
「流華ちゃんへ。
 昨日、流華ちゃんがとても苦しかったこと、私が一番知っていると思います。
 私の行動が、流華ちゃんを助けることができていたらうれしいです。
 そして。部活は私と同じバスケ部でしたよ!
 流華ちゃんと一緒に部活ができるのが、嬉しいです。
 雪より。」

私は、いつの間にか涙を流していた。
今までで一番嬉しい手紙だった。
どんな手紙よりも、一番。




でも。
この先には地獄が待っていた──。

Re: ユリカント・セカイ ( No.4 )
日時: 2024/01/20 17:41
名前: しのこもち。 (ID: tE6MXhnX)


 【 第四話 情けと出会い 】


 次の日、私は学校に行った。

 流愛とだけは顔を合わせたくなかったので、今日は流愛が家を出た後に登校した。いつもは流愛より私の方が先に登校するのだが、この日はどうしてもそんなことはできなかった。

 きっと向こうも私なんかと会いたくもないだろうから、朝は極力音一つさえ出さないように部屋を出た。



『お姉ちゃんなんて、いなくなればいいのに』

 私は昨日、流愛がそう何回も呟いているのを見てしまった。

 辛かった。なんで私がこんなに言われないといけないのかって。確かに名前通り堂々と生きられないのは私のせいだ。

 それでも、私の存在だけは否定してほしくなかった。昨晩そのことについてたくさん考えていたが、やっぱり嫌なことを言われるのは本当に悲しいし、私だって人間だ。

 クラスのみんなだって、手紙では謝ってくれたけれど、実際に会ってみればまた嫌な顔をされてしまうかもしれない。

 もし学校に行ったら、またあの日みたいなことや流愛みたいなひどい言葉をみんなに言われるのではないかと、私はすごく怯えていた。

 本当は学校になんて、死んでも行きたくない。
 また明日も学校を休んで、あわよくばこのままずっと家にいようかと、そう思っていたその時。

 私は雪ちゃんからの………大切な人からの手紙を目にした。

『流華ちゃんと部活を一緒にできるのが、すごく嬉しいです』

 クラスの人から何を言われるのか、どんな顔をされるのか、今でもすごく怖い。

 あの日のことを思い出そうとするだけで、すごく苦しくなる。

 それでも私は勇気を出して学校に行くことを決めた。

 雪ちゃんと、大切な友達ともう一度、会って話したい。同じ部活で、一緒に笑っていたい。

 だから私は、どんなに重い足取りでも自分に負けないように学校へ行く。

 どんなに辛くても逃げない。大切な友達のためにも、自分を変えたい。大好きな雪ちゃんが、私にそう思わせてくれたから。

٭•。❁。.*・゚ .゚・*.❁。.*・٭•。٭•。❁。.*・゚

 重い足を引きずりながら、ようやく教室の前までたどり着く。扉の取っ手を握る手はとてつもなく震えていて、今すぐにでもここから逃げ出したい気分だった。

 怖い。
 でも、今の私ならきっと大丈夫。
 そう自分に何度も言い聞かせて、深呼吸をした後、私は教室に入った。


 -ガラガラッ。

 いつもより遅い時間に来たので、教室にはすでにほとんどのクラスメイトが登校していた。教室にいるみんなの視線が、扉の音に反応して私の方に集まる。

 私はみんなの顔が見えないように、下を向きながら自分の席に着いた。

 みんなの視線がものすごく怖い。背中から冷や汗が伝ってくるのが、すぐに分かった。

「………流華ちゃん、おはよう!」

 かばんを机の横にかけ、両手を膝の上に置いて席に座っていると、隣から声をかけられた。

「雪ちゃん……」

 ゆっくりと声のした方に顔を向けると、今一番会いたかった人の笑顔がそこにあった。

「流華ちゃん、大丈夫だった?」

 周りの視線なんて気にせずに、いつも通りに話しかけてくれる雪ちゃんの優しさに、思わず涙が出てしまいそうになった。

「……うん。心配かけてごめんね」
「全然!流華ちゃんが学校来てくれて、私すごく嬉しいよ」

 いつもとおかしい私の様子を察したのか、雪ちゃんはその場の空気を変えるように明るい声で話し始めた。

「そうそう!そういえばね、部活動今日から始まるみたいだよ」
「そうなんだ…」
「うん!私バスケとかやったことないから緊張するけど、一緒にバスケ頑張ろうねっ!」
「……うんっ…!一緒に頑張ろう」

 雪ちゃんといるだけで、さっきまで一人で怯えていた時間が馬鹿らしく思えるほど心の中にあった不安が一気に吹き飛んだ気がした。

 やっぱり、勇気を出して学校に来てよかった。
 みんなからの視線や声はまだ怖いけど、雪ちゃんがいるから乗り越えられる。友達の存在ってこんなにも重要だったんだなと、私は心の中で改めて実感した。

٭•。❁。.*・゚ .゚・*.❁。.*・٭•。٭•。❁。.*・゚ 

 帰りのホームルームが終わり、部活に入部した人たちは早速それぞれの部活動の場所へ向かい始めた。私も支度をした後、雪ちゃんと一緒に体育館へ急ぐ。


 体育館にはすでに多くの人が集まっていて、特に一年生なんかはみんなそわそわしながら友達と話したりきょろきょろと周りの様子をうかがう人もいた。

 先生らしき人はまだ見当たらないから、まだ来ていないのかと私も周りを確認していると………私は今一番会いたくない人の姿を見つけてしまった。

「え、もしかしてあの子もバスケ部なの?」

 ちょうど同じタイミングで雪ちゃんも流愛の姿を発見したのか、嫌そうな目で流愛を指さしながら私に話しかけてきた。

「うん、そうみたいだね…」

 これは神様の仕打ちかなにかだろうか。それとも私が学校に行かず、流愛から顔を合わせようともせずにずっと逃げていたから、ちゃんと向き合いなさいとでも言われているんだろうか。

 私が呆然とその場に立ち尽くしていると、その時ちょうどジャージを着た顧問の先生らしき人が入ってきたので、私たちは慌てて整列した。

「気をつけ、礼」
「「「「お願いします」」」」

 部長らしき人が声をかけた後、周りの人が礼をしたので、慌てて私もそれに合わせて挨拶した。

「新入部員のみなさん、はじめまして。女バスの顧問をさせてもらってます、三年生保健体育科担当の森下です。これからよろしくお願いします」

 見た目からして、恐らく三十代くらいだろうか。ショートカットの髪型で声もはきはきとしているため、いかにも体育教師という感じの元気そうな女の先生だった。

「早速メニューに入りたいとこだけど…せっかく一年生も入ったばっかだし、最初は軽く自己紹介でもしようか」

 そう言って先生は私たちに座るよううながした。

 すごく、嫌な予感がする。
 例え部活であれど大人数の前で話すことには変わりないので、私が自己紹介なんてしたらどうなるか大体は想像がつくし、なによりそんな醜態を流愛に見られたら……私がここにいることがばれてしまう。

 サァッ、と全身の血の気がひいていくのが分かる。どうしよう、とそれしか私の頭にはなかった。

「じゃあ順番に自己紹介してー」

 先生がそう言うと、さきほど一番前で挨拶をしていた部長らしき人から次々に自己紹介をし始めた。

「女バスの部長をやらせていただいています、三年の篠崎しのざき 成海なるみです。一年間よろしくお願いします」

 部長さんが話し終えると同時にパチパチパチ、とその場にいたみんなの拍手が体育館に響いた。

 そうだ。体育館はこんなにも広いのだから、当然声も響いてしまう。流愛に気付かれるのも確実だ。

 私の頭の中はそんなことばかりで、気付いたらすでに私の番が来ていた。

 私は恐る恐るゆっくりと立ち上がると、少し俯きながらもなんとか言葉を発した。

「……い、一年の橘 流華、です。こ、これから…よろしくお願い、します……っ…」

 自己紹介を終えると、拍手が鳴る前に私はいち早くその場に座った。幸い下を向いていたこともあってか流愛と目があったりはしなかったが、それでも流愛が私の方を見ていたのはすぐに分かった。

 ちらっと横目で流愛の方を確認すると、そこには射るような冷たい視線があって、私は思わずゾッとした。

 私の自己紹介が終わった後もその間は流愛がずっとこちらを見ていたので、私は体育座りをしている体を抱きしめるようにしてこの時間が終わるのをひたすら待った。

٭•。❁。.*・゚ .゚・*.❁。.*・٭•。٭•。❁。.*・゚ 

「流華ちゃん見て、できた!」

 地獄のようなさきほどの時間がようやく終わり、ついに練習が始まった。

 まずは手始めにボールを使った簡単なアップからしようという先生の指示を聞いて、私たちは早速それに取り掛かった、はずなのだが。

「雪ちゃん、なんでそんなに上手なの!?もしかして昔バスケやってた…?」

 雪ちゃんが嬉しそうにボールをいとも簡単に扱っているのを見て、私は目を丸くした。

「やってないよ!超ド初心者」
 そう否定する雪ちゃんの言葉とは反対に、ボールを動かす手はまるで私と同じ初心者の動きには見えない。

 一方で運動が大の苦手な私は、ボールを扱う以前に自分の手よりも大きいボールを片手で持つことすらできない。

「雪ちゃん、これどうやってやるの…」

 今私たちがやっている練習は、エイトという足を広げてその間を手で八の字を描くようにしてボールをドリブルするものだ。

 けれどこれが私にとってはかなり難しく、ようやくボールを足の間でドリブルできたと思っても、そのままボールが後ろに転がっていってしまう。

「えっとね、どうしてもキャッチしたいからってなるべく後ろにボールをドリブルしようとしてもあんまりボールが跳ねずに転がっていっちゃうだけだから、自分の真下にドリブルする感じでやるとやりやすいよ」

 ペラペラとまるで先生のように話す雪ちゃんのアドバイスを意識しようとしても、中々体が覚えてくれず、後ろに転がっていくボールを私は何度も走って拾いにいくのを繰り返すだけだった。

 よく考えてみたら、運動が苦手なくせになんでバスケ部なんて入ったんだろう。いっそのこと部活になんて入らなければよかったのかもしれない。

 そんなことを考えながら、またキャッチし損ねたボールをとぼとぼと歩いて追いかけていると、転がっていたボールが誰かの足に当たってしまった。

「あっ、ごめんなさ────────」

 急いでその人のもとへ駆け寄り、ボールを拾いながら謝ろうと顔を上げると、私は思わず言葉が出なくなってしまった。

 ────なんと、そこにいたのは流愛だったからだ。


 -バチッ。

 流愛が振り返り、私たちは数秒間目が合った。

 最悪だ。せめて部活では一切流愛と関わろうとしたくなかったのに、やっぱりこれは神様の仕打ちなんだろうか。

「………何。邪魔なんだけど」
「ご、ごめん……」

 冷たい目で流愛に睨まれたので、私はすぐにボールを拾ってその場から離れようとした。

 するとさっきまで怖い顔をしていた流愛が、急に馬鹿にしたように笑い始めた。

「てかお姉ちゃん、こんな所までボール転がってくるなんてどんだけ下手くそなの?運動もできないのかよ、可哀想に」
「……」

 キャハハ、と笑いながらからかってくる流愛を振り返らずに無視して、私は元の場所へ戻った。

٭•。❁。.*・゚ .゚・*.❁。.*・٭•。٭•。❁。.*・゚ 

 その後の練習も基礎的なものばかりが続き、私もようやくボールに慣れてきたのか、ドリブルやシュートの練習も自分が思った通りに上手くプレーできるようになっていた。

「え、流華ちゃん七回連続でシュート入ったの!?もう絶対才能開花したじゃん!!!」
「橘さん、実は運動もできるんだ!すごいね」

 周りの人からも褒められるようになって、私は少し恥ずかしい気持ちになっていた。

 でもその分嬉しい気持ちももちろんあって、人から称賛されるのってこんなにも素敵なことだったんだなということを改めて実感していた。



 本当は心の内で流愛にからかわれたことがすごく悔しかった。けれど同時に流愛のおかげで私は自分の弱さに甘えていたことに気が付いた。

 運動が苦手なのに部活なんてやらなければよかったとか逃げたいと思うばかりで、やっぱり私は自分を変えようとしていなかったんだなと。



 だから私はこの数日間、熱心に部活に取り組んだ。
 すごく辛い練習もたくさんあったけれど、それでも私は逃げずに自分なりに頑張った。私が何かをできるようになる度に色々な人からも褒めてもらえて嬉しかったし、同じ部活の先輩とも仲良くなることができた。

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 そんなある日、珍しく先生が練習中に収集をかけたので、私たちは不思議に思いながらも先生のところへ集まった。

「えー、突然なんですがこれから再来週に行われる春季大会の試合メンバーを発表したいと思います。今回の大会は夏で引退する三年生にとっては最後の公式試合なんですが……三年生の人数が今八人しかいなくて」

 すると先生がとんでもないことを言い始めた。

「二年生には悪いんだけど……あとの二人は、一年生から出すことにしました」

 先生がそう言った瞬間、その場がざわめき始めた。

「では今からメンバーを発表します」

 ゴクリ。
 全員がそう息を飲んだのが分かる。

「三年 篠崎、高塚、深月みつき、折原、山下、堂上どうじょう白河しらかわ、大久保」

 今のところ、三年生の名前は全員呼ばれた。
 あとは一年生の名前だけ─────。

「一年 白石、そして……橘 流華」
「………え?」

 私は思わず声を出してしまった。聞き間違いだろうか。今、なんて言った…?

「以上の十名です。大会出場メンバーは特に気を抜かずに、他の人たちも彼女たちを精一杯サポートしてください。じゃあ、練習再開!」

 パチン、と先生が手を叩くと、みんなは魔法が解かれたかのように一斉に動き出した。

「流華ちゃん、すごいよ!私たち先輩たちと一緒に大会出れるんだよ?すごくない!?」

 雪ちゃんは隣で呆然と立ち尽くしている私なんて構わずに、一人で飛び上がって喜んでいる。

「え、これ夢、だよね………?」
「もうっ、なに寝ぼけたこと言ってるの。ちゃんと現実だよ」

 一向に信じきれない私の頬を、雪ちゃんは思い切りつねった。

「ちょっと雪ちゃん、痛いよっ」
「ほら、夢じゃないでしょ?」

 そう意地悪く微笑んだ後、雪ちゃんは練習の方に走っていった。置いてきぼりにされた私はしばらくその場で固まっていると、森下先生がそんな私に気付いたのか私に話しかけてきた。

「橘さん。今はまだ大会に出ることが信じられないかもしれないけど、ここ最近ずっと頑張ってきたでしょ?私も橘さんの思いを信じたいから。頑張ってね!」
 ガッツポーズをしながらそう言い残すと、先生も練習の方へ戻って行った。

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「ただいま─────」
「ねぇ、なんでお姉ちゃんみたいなやつが大会なんて出れるわけ?こんな運動もろくにできないようなやつが……!」

 練習を終えて家に帰るなり、先に帰っていた流愛が唐突にそう怒鳴り散らかした。

「お姉ちゃんなんかが大会行けて、なんで流愛は選ばれないの!?ほんと先生も頭おかしい!!」

 玄関で大暴れしている流愛を私はなぐさめようともせず、そのまま自分の部屋へ向かった。


「はぁ……」
 ほんと、私が聞きたいよ。なんで二年生の先輩じゃなくて私を選んだのか。もちろん雪ちゃんは元々バスケが上手だったし納得できるけれど、こんなド素人の私を大会に出すなんて、確かに先生もどうかしてる。

 …………でも、落ち込んでては駄目だ。
 それに、私には雪ちゃんという心強い味方がいるではないか。
 そう勇気を出したのも束の間、疲れていた私はいつの間にかそのまま眠ってしまっていた。

٭•。❁。.*・゚ .゚・*.❁。.*・٭•。٭•。❁。.*・゚ 

 そして大会当日。

 緊張しすぎた私は夜に一睡もできず、結局大会当日を迎えてしまった。

 そわそわしながら集合の駅に着き、雪ちゃんと話しながら歩いていると、あっという間に大会会場に着いてしまった。

 大きな体育館の中にはもうすでにほとんどの人が集まっていて、今更ながらに緊張がどっと増してきた。

「みんな身長高い……」
 恐らくほとんどの学校は三年生の引退が近いこともあって上級生しかいない。私たち一年生みたいな人は全然見当たらなかった。

 体育館の外でみんなでアップをして開会式を終えた後、先生が集合をかけた。

「今日は三年生の今までの努力がかかっている大事な試合。いいか?全力でぶつけてこい!」
「はい!」

 返事をすると先輩たちは隣の人の肩を組んで、円陣を作り始めた。戸惑いながら私たちもその円の中に入る。

「いい?今日は私たちが主役。今まで頑張ってきたあの日々が詰まってるの。だから……」
  篠崎部長が大きく息を吸った瞬間。

「絶対勝つぞー!」
「しゃぁぁあ!!!」

 余りの勢いに会場の空気が全て私たちの声で支配されたような錯覚でさえ覚えてしまうほど、私はその迫力に圧倒された。

 同時に、まるでその声は私の不安なんて全部吹き飛ばしてくれたように感じた。

٭•。❁。.*・゚ .゚・*.❁。.*・٭•。٭•。❁。.*・゚ 

 私たちの学校は一回戦目から早速試合を控えている。私と雪ちゃんは最初はベンチなので、先輩の試合を一緒に見て盛り上がっていた。

「うわぁ、見て流華ちゃん。先輩たちかっこよすぎ!」
「う、うん……」

 なぜか少し体調が悪くなってきた。昨日寝れなかったことが原因だろうか。雪ちゃんの声も、心なしか少し遠く聞こえる。

「………ごめん、雪ちゃん。私ちょっとお手洗い行ってくるね」

 雪ちゃんにそれだけ伝えると、私はよろけながら体育館をあとにした。

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 トイレを済ませた後、まだ体調は回復していないのか、歩いているだけでもしんどくなってきた。
 そりゃあそうだ。昨日一睡もできていなかったのだから。

 おぼつかない足取りでよろけながら歩いていると、急に足元がふらついた。そのまま前に体重がのしかかり、気付いたら私は前に倒れていた。

 なぜかスローモーションのようにゆっくりと体が傾いていくのが分かり、私は思わず目を瞑って地面にぶつかる衝撃に耐えようとした。

「……………あれ?」
 しかし待ち構えていた痛みはいつになっても走ってこず、私は恐る恐る目を開けた。

「大丈夫ですか」
 すると目の前にはびっくりするくらい綺麗な顔立ちをした男の子がいて、思わずそのまま固まったままその人をガン見してしまった。

「………あ、えっ、と……大丈夫、です」
 見るとどうやら、その男の子が倒れそうになった私をぎりぎりで支えてくれたらしい。

「あのっ……ありが、とうございました」
 私がそう言い切る前に、その人は何も言わずそそくさとその場を去っていってしまった。

 綺麗な人だったなぁ…。
 ジャージに付いたほこりを払いながら、私は彼のことばかりを考えていた。






 ────この時の私は気付いてもみなかった。

 まさかこの瞬間に、彼のことが好きになっていただなんて。









 ※バスケのことは全然詳しくないので軽く調べた程度で書いています。色々異なる点があっても気にせず読んでくれるとありがたいです(泣)


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