ダーク・ファンタジー小説
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- 《宵賂事屋》
- 日時: 2024/12/18 07:10
- 名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: IVNhCcs6)
貴族も貧民も関係ない。人々の欲が渦巻く薄暗い世界。
金さえ積めばなんでも引き受ける、闇社会の何でも屋――宵賂事屋はそこにある。
「やぁ、おきゃくじーん。本日はどれほどのご予算で?」
迷路のような路地裏を通り抜けた先。あやしくもにぎやかな露店街の一角にある店。
「君の願いを、強欲を、是非とも聞かせていただきたい」
白髪の少年は、そこで今日も金ヅルを待っている。
――――――――――――――――――――――
《目次》
登場人物(随時記載予定) >>1
一話《病という名の》 >>2->>6
1.>>2 2.>>3 3.>>4 4.>>5 5.>>6
二話《陽下、灰は散る》 >>7-13
1.>>7 2.>>8 3.>>9 4.>>10 5.>>11 6.>>12 7.>>13
三話 >>
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【注意とジャンル】
・血が流れます。人が死にます。殺されます。
・ジャンルはダークファンタジー。剣と魔法の世界です。ナーロッパです。
・上手くないです。精進中です。
初めましての方は初めまして。
お久しぶりの方はいつもお世話になっております。ベリーです。
連載短編の予定です。一話で終わる短い話を繰り返すヤツです。
三話完結予定です。
どうぞよろしくお願いします。
- Re: 《宵賂事屋》 ( No.1 )
- 日時: 2024/08/06 13:01
- 名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: pVbpOhVU)
●登場人物
〜随時更新予定〜
- Re: 《宵賂事屋》 ( No.2 )
- 日時: 2024/10/09 22:18
- 名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: r2O29254)
一話
1
どっぷり沈んだ深海で、月光によって息をする。
この窓を閉じてしまったら、自分は溶けてしまうだろう。そんな気がした。
もっとも、そんなことがある訳ないのだが。
喉奥から脈動する動悸と汗、全身に広がる緊張の痺れが、たかが暗闇に消えてくれるならそれ以上のことはない。
雲の合間から差す僅かな月光を頼りに、彼はなにかを探している。
「あっ、た」
呟く彼の手にはブレスレットがあった。大粒の艶やかな真珠が連なっている。
傷一つもない。どれほど大事にしてきたのだろう。彼はそれを無造作に腰のポーチにしまった、その時。
「やめてぇ!」
開けっ放しの戸から甲高い声が放たれる。寝間着姿の少女が息を切らしていた。
「それはっお祖母様の形見なんです! お金なら、いくらでも渡しますから! それだけは、それだけは……! おばあちゃんとの、思い出なんです……」
振り絞った声で懇願して少女はへたれこんだ。少女の手は震え、ボタボタと涙がカーペットにシミを作る。
彼は振り返った。少女の方へ歩み寄って彼はしゃがみこむ。
彼は少女の顔を覗き込んで、大きな息を漏らし、何を期待したか少女は顔を上げる。
「――ひ」
少女はソレを見て、足先からせり上がった冷気を声に漏らした。
「おばあちゃんの形見だったかぁ……」
幼い声だった。柄も少女より一回り小さく細く弱々しい。
少年は少女に近づいて涙を拭ってやる。恐怖で顔が歪んだ少女に少年は微笑んだ。
「それはごしゅーしょー様」
少女の息は詰まり、涙も引っ込んでしまった。
「侵入者だあぁ‼︎」
どこか遠くで男の叫び声が聞こえた。足音が一つ、二つと数をましていく。
「なーんでバレた? やっぱり玄関蹴破ったのが悪かったか」
少年は機敏に立ち上がり風のように部屋を後にした。
少女は呆然と彼を見送って、我に返って叫ぶ。
「イヤァァァ――‼︎」
甲高い悲鳴が屋敷に響いた。
応えるように、武器をもった衛兵たちが廊下を走る。
少年は首のマントを頭巾のように深く被る。
「止まれぇ泥棒がぁっ!」
少年の前から衛兵がやってくる。来た道を振り返ればその先にも衛兵が。挟まれている。
「貴族の屋敷に忍び込むなんて、命知らずもいいところだ」
先頭の衛兵は半ば勝ちを確信していたようだった。そんな余裕も束の間、衛兵たちは足を止める。
彼らの目の前から少年が消えた。
いや暗闇に溶けたといった方が正しいか。
衛兵たちはまるで狐につままれたような顔で見渡す。
「慌てるな、盗人の魔法だ!」
一人の衛兵の声で彼らは我に返った。
「そんな、魔法の気配なんて全くしなかった」
「魔法使いのお前でも分からないのか。厄介なネズミらしい。二手に別れよう!」
リーダーらしき男の股下を少年がくぐり抜けた。
だが誰も少年に気が付かない。少年は当然だといわんばかりに走り抜けた。
数々の衛兵が廊下を走っている。
接触しないように。気づかれないように。少年は重量など忘れて壁を、天井を、窓を蹴った。
衛兵たちはみな少年とすれ違う。
さて、どう屋敷をでようか。少年は考えた。
玄関は当然衛兵がいるだろう。ならば窓からだ。
ふと斜め下の踊り場に視線がむく。大きなガラス張りの窓から庭の景色が見えた。
階段にまで赤い絨毯を敷くものなのか。なんて感心しながら、少年は手すりに腰掛けて踊り場まで滑り落ちた。
「ナイフで割るのは時間がかかるなぁ。なら魔法か」
少年の呟きと同時、独りでにガラスが割れた。
派手な音とともに破片が降る。身軽な少年はひょいひょいっと窓までよじ登った。
あとは脱出するだけだと、少年が窓枠に触れた途端、痛みが走る。
少年は思わず手を離して破片の上に落ちた。窓枠に触れた手を見やると血が流れている。
窓枠にガラスが残っていたらしい。油断した、と再び空を見上げたときだった。
「――」
誰かが息を飲む音がした。
少年が視線をやってみると、上の階で衛兵たちが呆然としていた。
足をふるわせ、大きく口を開けて、皆その顔が恐怖に歪んでいる。
ふと少年は首元に触れてみる。被っていたはずのマントが外れていた。
衛兵の誰かが声を絞り出す。
「し、白っ――」
風が吹いた。カーテンがたなびく激しい音だけが響き、冷たさが鼻奥にツンとくる。
真っ黒な雲の合間から月光が差す。
闇夜に似合わない、とにかく、とにかく白い人だった。
あどけない顔に冷徹さを刻む白皙の少年。
真っ白い睫毛に縁取られた瞳も白く、絹糸のような短髪がパラパラと浮かぶ。
肋は透けて見え、身につけている服はボロ布同然でみすぼらしい。
それをもってしても、人の繊細な部分を無造作にぶち抜いてしまうような、そして触れられないような理不尽な美があった。
この世に存在してはならないものだと思わせる少年はまさに――。
「白の魔女っ」
この世界に、白い髪も白い瞳も生まれない。
カランカランと衛兵らは武器を落とす。逃げる意思も戦意も奪われて座り込んでしまった。
少年は罰が悪そうに再びマントを被った。
「ソレ、この世界ができるずぅっーと前に封印されたヤツじゃん。人を、世界滅ぼした災厄にしないでくれん?」
少年はベ、と舌を出し左の下まぶたを引っ張った。
白い少年の中で唯一赤い、左の瞳が見開かれた。
タンタンと壁を蹴って再び窓枠まで上がる。
手から流れる血を舐めとって、そうだと少年は振り返る。
「マモン。魔女じゃないし女でもない。――君たちの欲を叶える、宵賂事屋のマモンだ」
少年――マモンは色のない表情でそう告げると、黄色いマントをたなびかせ落ちてった。
2 >>3
- Re: 《宵賂事屋》 ( No.3 )
- 日時: 2024/10/09 22:18
- 名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: r2O29254)
2
王都ネニュファール。王様貴族様が集まり、人口密度が高い都市である。
「たっだいまー。て、誰もいないんだけどさ」
迷々街――この街は、そんな王都の一角にある。
街の周りは高い建物に囲われて入り組んでもおり、複雑な地下街を経由しながら、魔法も潜り抜かなければこの街には辿りつけない。
ハンモックに寝転ぶ少年の名はマモン。ただのマモン。
ヒト基準で考えるならば、歳は外から見て六〜十歳ほどだろうか。
丈が短くサイズはブカブカな黒いタンクトップにショートパンツ。服装は必要最低限であった。
布団替わりに黄色いマントを羽織る。
そしてマモンの意識は緩やかに沈――。
ガンガン
――むことはなかった。
乱暴なノックにマモンは舌打ち。顔に書かれた面倒臭いの文字を消さないまま、玄関の戸を乱暴に開けた。
「おっ客さぁん。営業じかんがーい」
「生憎だが、客じゃない」
扉の前に立っていたのは中年の男だった。
ガタイがよく日頃から体を鍛えているのが伺える。こき色の髪と瞳。
顔の彫りは深く目つきが厳つく、子供ならまず近づかないであろう悪人顔をしていた。
「晟大! まって、今月の家賃の支払いって今日だっけ!?」
「今日じゃない」
晟大と呼ばれた男はサラリと答える。マモンはホッと息を吐いて笑顔を浮かべた。
「あー。びっくりしたー」
「先週だ」
扉を閉めるマモン。すかさず晟大は隙間に足をねじ込んだ。
逃げられない。本能的に理解したマモンは逃走ルートから言い訳ルートにシフトチェンジした。
「違うんだ晟大、話をしよう。いや、僕は払おうとしたんだよ? でも支払日になっても晟大さんちっとも来ないし、僕も晟大がいつもどこにいるか知らないし連絡先も知らないししょうがないじゃん。というか今週は僕仕事で忙しかったから――」
晟大は、身振り手振りで言い訳するマモンを冷ややかに見下す。
それが責められている気がして、更にマモンは冷か汗をかく。
「そもそも君が悪いんだ。幼い僕に口座を使わせたくないとかさ。幼いなら貴族の宝石盗ませるなって話で、まずこの王都が腐ってて――」
話が変な方向に向かって苛立ったのだろう。晟大はマモンの脛を蹴った。
電流が足元から翔ける感覚。
マモンは「あぅっ!」と小さく悲鳴を上げて床を転げ回る。
「予定が合わなかったのは仕方がないことだ。が、お前支払日を忘れていたな?」
「いーやいや、そんな訳……あ」
先程のやりとりを経てなお嘘をつくのは無理があったことに、マモンは発言したあとに気付いた。
呆れるように晟大は大きくため息をついた。
「まあいい。家賃回収はついでだ。最近立て込んでいたらしいが、終わったのか」
「うん。昨日――というかさっき丁度終わった」
マモンは腰のポーチから真珠のブレスレットを取り出す。人差し指でクルクルと回し始めた。
「これがお目当ての品」
「なら雑に扱うな」
晟大はマモン手を握り、降ろさせる。
「べっつにいーじゃん。憎たらしいあの子を傷つけるため、おばあちゃんの形見を盗んでーって下衆の頼みよ? このブレスレットにゃ価値はないって」
「お前まで下衆に落ちてどうする」
「残念。僕は元からだ」
マモンがべーっと色が薄い舌をだす。
くるりと薄っぺらいマントをひるがえして、適当に置いてあった麻袋を持ちあげる。
ずっしりと重い。じゃりじゃりと金属音が重なる。中に入っているのは硬貨だ。
「はい。僕の月給の二割」
渡された麻袋をもって晟大は、重さを確かめ目を細める。
「銀貨があと二枚足りんぞ」
「ちぇ、バレたか」
マモンは口を尖らせつつ、バレることを予見していたため用意していた銀貨二枚を渡す。
「確かに」
晟大の言葉にマモンはほっとする。
晟大は重さだけで金額を確かめた。簡単にできることではない。
マモンは、晟大に中途半端な誤魔化しは通じないと思っている。
家賃だって本当に収入の二割なのか晟大には分からないだろう。
しかし晟大はマモンの言葉を信じている。
いや、マモンの誤魔化しには騙されない自信があるのだろうか。
どちらにしろ、マモンは晟大には敵わない。
イタズラ程度の誤魔化しこそするが、取り返しのつかない隠し事はしない。
「相変わらず年不相応なヤツだ」
「僕のことガキっていってる?」
「さあな。で、本題だ」
晟大がマモンをじっと見る。
マモンの悪ふざけに付き合っていたついさっきの晟大と、なんとなく雰囲気が変わる気がする。
「頼みがある。“宵賂事屋”」
ピリッとマモンに緊張感が走った。
入れ。と、晟大は開けっ放しの玄関の外に声をかける。
ぎし、と音がする。外にもう一人いる。晟大が訪ねてきた初めからマモンは気付いていた。
しかし、その人物は――。
「……ひっ」
少年だった。マモンを見て怯えて縮こまっている。
なぜ子供が尋ねて来たのだろうと、初めからマモンは疑問だった。
頼りない背丈に細い体だ。お粗末な服装からスラムか、それに近いところから来たのだろう。
「なぁんでこんな子供がこの街にいんの?」
「俺から見たら、どちらも年は対して変わらないが」
マモンはムッとして、少年の前まで歩み寄る。その餅のような頬をギュッと掴んだ。
いっ、と少年は顔を歪ませる。まるで幽霊でも見たような顔だ。失礼な、とマモンはこぼす。
「で、晟大。用事ってコイツ?」
「そうだが、とりあえずは離れてやれ。お前は白髪なんだから」
白髪。復唱して、マモンは子供から離れてやる。
「宵賂事屋、依頼だ。依頼主はワタシではなく、この子供がだがな」
晟大に呼ばれた子供は身を縮こまらせた。
マモンは流し目で子供を見つめる。上から下までじっくりと見て、はぁ、と大きなため息を零した。
「晟大。この店の名前が、なんで“宵賂事屋”なのか、知ってるかい?」
「知るか」
「“宵”に“賂”で動く“万事屋”だからだよ! 夜に働く汚ったない何でも屋! 今何時よ? もうお日様でてるの。明るいの。モーニングだよモーニング! 営業時間外なんだよ!」
「知るか」
「知れ!」
はあはあと、息を切らして屈むマモン。
宵から始まる店ということもあり、マモンも昼夜逆転している。
朝は寝る時間だ。マモンはこのまま寝てしまいたい。
しかしどうせ晟大には敵わない。話だけなら大人しく聞いてやろうか。
「てかこの子猿どっから連れてきたん。晟大の親戚……ではないね。うん。確実に」
マモンは晟大が何をやっている人なのかよく知らない。
ただ貸し出せる土地や家があったり服装が小綺麗だったり、少なくとも中流階級以上の人物だろう。
みすぼらしい格好の少年との繋がりなどないように思える。
あと少年は晟大のような悪の親玉感がない。絶対血は繋がってない、とマモンは確信した。
「昨夜、といっても今日だが。この小僧が屋敷に金品を盗みに来た」
「ハッ、盗み先が晟大ん家なんて運が悪いね〜。まあ君の屋敷は廃墟なりかけだもんね。あんなボロ屋敷に人が住んでるとか罠だよ」
「そこら辺の賊でさえワタシの屋敷であることは知っている。お前らが世間知らずなだけだ」
「晟大がいるってだけで誰も盗みに入らないの? あそこ? 君歩く防犯機器じゃん。どんだけ怖がられてんの」
晟大が闇組織のボスかもなんて冗談が笑えなくなってきた。
「んで連れてきた理由は? 聞いたところただの子供っぽいけど。わざわざ迷々街にまで連れてきてさ」
「気に入った」
「それだけ?」
「これほど新鮮な起き上がり小法師は久しぶりだ」
マモンは首を傾げる。と、ゾッとする。普段堅物な晟大が微笑みを浮かべていた。
マモンがすぐさま少年に手を伸ばすも、少年は怯えて後退る。白髪がここで足手まといとなる。
マモンは舌打ちをして少年の服を強引にめくりあげた。
マモンは顔を歪める。少年の体にはついさっきできたようなアザがいくつも残っていた。
「オジサン、命知らずのガキ――もとい勇猛果敢な若者相手にハッスルしすぎ。ちょっとは自分の歳考えろよ」
マモンが傷に触ろうとするも「くるなっ」と少年は小さく悲鳴をあげる。
だがマモンは躊躇なく傷に触れ、怖がる少年を他所に魔法で傷を癒す。
「血は流していない。お前のときと比べればかなり手を抜いた」
「内出血してるから青じんでるんですけどぉ!? あーあ、こりゃ酷い。僕も屋敷に盗みに入って君と初めて会ったとき、ポコポコにされたわー」
「効果音合ってるか?」
「なんだよ。バキボキバキバキグッシャァ‼︎ はい。これでいいだろ」
少年の治療を終えてマモンは少年の背中をポン、と押す。
元の不健康そうな体は直せないが、生傷はあらかた消えていた。
なぜ、これほど傷を負ってもなお少年は晟大に着いてきたのか。マモンが思ったとき少年は声を絞り出した。
「父ちゃんの、病気を治して……」
そういえば少年は依頼をしにやってきた、と晟大がいっていた。
マモンは脊髄反射でいう。
「病院いけ」
「マモン」
晟大がマモンを窘める。
「いや、だってそーじゃん。ここ病院じゃないし。何でも屋だし」
「何でも屋なら何でもしろ」
「何でも屋は何でもはしないの!」
晟大の言葉をマモンは強気で返す。
マモンに断られたからか、はたまた歓迎されていないからか、少年は唇を噛みしめている。
震えているも眼光は鋭い。引く気はないらしい。
「なあ、お願いだよ。おねがい、おねがい……、父ちゃんを助けて……!」
細い声で少年がマモンにしがみついた。
泣くことは本望ではないようで眉間にシワがよっている。しかし目尻には今にも零れ落ちそうなほど涙が溜まっている。
「もうここにしか頼めないんだよぉ。色んな所から盗んで、薬買って、賭けまでやったのにっ、もう、全部だめで、だめで……なぁ、なんでもするから……!」
ありえないほどの必死さだ。
ただマモンは無情な人間だった。
マモンは少年を振り払う。鼻水で汚れたらどうする、とマントをはたいた。
話を聞くに、少年はスラムの偽医者や自称魔術師などに偽薬でも掴まされたのだろう。
欲に塗れた大人が群がる賭けなんて、こんな少年が一人で挑んで勝てるわけもない。
無謀がすぎる。五体満足であるのが不思議なくらいだ。
「分からないなー。どーしてそこまでする? 父親なんて所詮他人じゃん」
「お前らのその考えが分からないよ……!」
同じようなことを何度もいわれたのだろう。少年はキッとマモンを睨んで返す。
どう突き放しても少年の決意は変わらないらしい。
なんといって追い返そうかとマモンは眉間に皺を寄せた。
「ときにマモン」
「なんでしょう晟大サン」
「守りたい人はいないのか」
「ハッ」
マモンは鼻で笑う。
晟大はマモンに依頼を受けてほしいらしい。
赤の他人に、しかもガキにどうしてそこまでやるのだろうか、とマモンは鼻で笑う。
理由は分かっている。少年の情にやられたのだ。
少年がどれほど必死なのか試すために打ちのめし、その決意の固さに関心し、チャンスを与える意味でここへ連れてきた。
なら尚更マモンは依頼を受ける気にはなれない。
「急に何をいうかと思えば。そんな仲良しごっこ僕はしないし」
「そうか」
「ならなぜ、お前はワタシに打ちのめされてもなお起き上がった」
マモンに昔の記憶が駆け巡る。
マモンが晟大に打ちのめされたときなんて一度しかない。
この少年と同じように、マモンが晟大の屋敷に盗みに入ったときであり、晟大と初めて出会ったときだ。
「金が欲しかったからだよ」
一つ息を吸うぐらいの間を置いてマモンは言う。
答えを出し切ったというのに、マモンは色のない顔で逡巡する。
守りたい人も救いたい人も、マモンにはいない。その感覚がバカバカしいとさえ思う。
そのはずなのに、晟大が少年を助けたいという気持ちが、マモンにも感化させられていた。
「金、依頼料は。払えんの」
マモンが伏せ目がちで問うてみれば少年は首を横に振った。
「話にならん。僕は寝る」
マモンはハンモックに横になってしまった。
依頼を断ったようなそんな雰囲気が流れ、少年は不安げに晟大を見上げる。
晟大はもう帰るところで玄関から半分でていた。
少年と視線が合うとふっと逸らして去り際に言う。
「依頼料ならマモンが見繕うさ」
「昼に起こして」
マモンの乱暴な言葉は晟大の肯定のようにも思えた。
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