ダーク・ファンタジー小説

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DISTANCE WORLD【参照10000突破】
日時: 2014/10/12 19:18
名前: 鈴月 音久 (ID: uzwOA3TN)

どうも。ねっくんこと鈴月音久と申します。


まず注意事項を↓

・荒らしコメントはお断りさせていただきます。
・作品の内容と一切関係ないコメント(宣伝を含む)も禁止させていただきます。

まあそれくらいでしょうか。上記以外の感想コメントや文章に関するご指摘等があれば大歓迎です。

ツイッターの方もやってます→ID:_Ne_Ku_ フォローしてくださると嬉しいです。


それではよろしくお願いします。





──お知らせ──

ただいまこの小説の内容を改変している最中です。
なのでしばらくレスできないとは思います。ご了承をば。






   〜プロローグ〜


 2054年。人類は減少し続けていた。
 地球の環境問題はほぼ壊滅的な状況に陥っている。南極の氷は溶けきり、異常気象も数多く観測されている為、海の高さは増していく一方だ。海岸沿いの小さな国々は、次々と沈んでしまっている。
 この地球上で最大の危機に対し、世界ではある政策を進行させていた。
 そのプロジェクトは「コールドスリープ計画」──またの名を「CSP(Cold Sleep Project)」と呼ばれている。
 この政策の内容は、人間を冷却保存し、未来にも人類を生かし続けるというものだった。しかし、まだ成功の余地はない。そもそも人間を凍らせただけで、本当に生きていけるのかも定かではなかった。
 そこで各国は、CSPのテストを行うことにした。
 国ごとに300人の被験体を設け、それらを2年間冷却保存するのだ。
 もちろん、2年後に地球がどうなっているかは全く予測できない。だが、「CSPが安全な計画であるか」を確かめなければ、この計画は絶大な危険を伴う。
 このテストは日本でも行われることとなった。国民の中から無作為に300人が選出され、選ばれた国民は日本の首都である東京に召集をかけられた。
 そして、俺は国から選ばれ、東京の国立研究所……通称「メビウス」へと向かうことになる。

 これから行われる実験が、最悪の結果を招くことなど、この時の俺は気付かなかった。

Re: DISTANCE WORLD ( No.5 )
日時: 2012/12/16 18:45
名前: 鈴月 音久 (ID: mY4PpL58)

 長い廊下を歩きながら、俺達は会話をしていた。なんの変哲もない、ただの世間話である。
 「真ー、お前って何歳だっけ?」
 「ん? 16だが……まあ、今は一応36歳だな」
 「へぇ、俺と同い年か。受験かったりぃよな〜」
 俺が高校生だった頃から20年も経っている今現在、受験なんてする必要はないと思うが。神弥は本当に楽観的な奴だ。
 彼と話していると、俺達は20年も眠っていたんだな、と実感した。この長い年月の間に、世界ではどのようなことが起こったのか。環境問題はどうなったのか。家族は元気か。様々な疑問が次々と浮かんでくる。それはきっと、この場にいる誰もが同じであろう。
 「真、そろそろ出口だぜ」
 神弥の一言で顔を上げると、そこにはテスト開始の日に見た巨大なサーバーがあった。今も変わらず稼働しており、近くのパネルモニターには膨大な情報処理の様子が映し出されている。
 (さて、もうすぐか……)
 ──ついに、外の世界に出る。
 その不安は、とても計り知れないものだった。だが、恐れていては何も始まらない。
 先頭にいる被験体が「開けるぞ」と周囲に確認する。
 そして、ドアのスイッチが押された。
 「な、なんだこれ……」
 久しぶりに見た、外の風景。俺の口から漏れたのは、驚きの声だった。
 今、俺達が目の当たりにしている光景を、一言で表すなら。


 『何もなかった』。


 明かりひとつない真っ暗闇の中だから見えなかった、というのもあるかもしれない。だが、それ以外にいい言葉が見つからなかった。この研究所はビル群の一部だったはずだが、他のビルは一切見当たらない。大半の建物は崩れ落ちてしまっている。ほぼ更地に近い状況である。勿論、人の姿はない。どんなに耳を澄ましても、聞こえてくるのは不気味な夜風の音のみ。灰色の雲に覆われた空は、微かな月の光の侵入さえ許さない。まるで世紀末の風景のようだ。
 俺は驚きの色を隠せなかった。
 「一体、どうなってやがるんだ……?」
 神弥も呆気にとられたような顔で、かつて街「だった」風景を眺める。
 「……もしかしたら、人類は滅亡してしまったのかもな……ありえない話じゃない」
 「でも、研究所内の電力は生きてるじゃねえか。サーバーだってまだ死んでない」
 と、その時だった。
 「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
 背後から、狂ったかのような悲鳴が上がった。
 「なんだ!?」
 危機感を覚え、振り向くと。
 びちゃ、と音がして、俺の顔に暖かくべっとりした赤い液体が飛び散った。
 俺は言葉を失う。悲鳴が上がった先に見たのは。


 被験体に襲いかかる、おぞましい化物の姿だった。


 「……ッ!?」
 大きな翼が生えた化物は、被験体であるその男の血を、肉を、骨を、脂肪を、内臓を、あたり一面に撒き散らした。
 ぐしゃ。ばき。ぐちゅ。ぶしゃ。べこ。ごきゃ。
 不快な音が、被験体の体から奏でられる。
 そして、彼が立っていた場所には、血まみれの肉塊しか残らなかった。
 何処かで女性の悲鳴が響く。それと同時に、群衆は一気に逃げ惑い始める。
 「真、走れ! ユウちゃんを落とすなよ!」
 「分かってる!」
 俺達は一刻も早く研究所から離れるべく、全速力で逃げ出した。





 300メートルほど前進してから、俺は空を見上げる。
 「はぁ、はぁ……ここは、地獄か……!?」
 上空には恐ろしい光景が広がっていた。先ほどの化物が、何体も飛び交っていたのだ。
 「お、お前ら頼む、助けてくれ!!」
 そんな声が聞こえてきた。振り向くと、1人の男性が必死な様子で走ってきている。
 と、その男性の横合いから、何かが飛びついてきた。
 「ひ、ひいいいいい!!た、助け……!!」
 ブシャアアアアアアアアアアアアアア!!
 男性が言葉を終える前に、彼の喉から血が吹き出す。噛み千切られたのだ。またも現れた、化物によって。
 研究所で襲ってきた化物には、大きな翼が生えていた。しかし、この化物にそんなものはない。代わりに、チーターのように強靭な脚が備わっている。
 化物はこちらに気づき、奇妙な呻き声で近づく。追い込まれてしまった。
 ……まずい。
 そして、化物が飛びかかってきて──


 「伏せろ!!」


 崩れたビルの上から発せられた声に、俺達は無意識に従っていた。
 直後、一発の発砲音が響き渡る。
 「ギャオオオオン!!」
 化物が苦しそうに叫び、地面に転がる。化物はそのまま、ピクリとも動かなくなった。
 「危なかったな」
 俺達を助けた彼は、ビルの3階から跳躍。見事に着地し、持っていたショットガンを肩に乗せる。
 


 「とりあえずここから離れるぞ──俺達の拠点に来い」
 青年は、静かにそう言った。




Re: DISTANCE WORLD ( No.6 )
日時: 2013/01/10 22:01
名前: 鈴月 音久 (ID: w1UoqX1L)

 複雑に枝分かれした路地裏を通り、ビルの裏の階段を降りていくと、その『拠点』はあった。
 「目的地はここを抜けた先だ。案内する」
 青年は振り向かずに言い、そのまま地下の通路を突き進んでいく。しばらく歩くと、前方に扉があった。指紋認証装置と網膜認証装置が備え付けられている、頑丈そうな扉だ。彼はその検問をクリアし、扉のロックを解除する。そして、俺達をその奥へと招待した。
 「さあ、入れ。ここが俺達──『始まりの灯火』の拠点だ」
 俺と神弥は驚愕した。
 ここは、本当に地下なのだろうか。
 ドーム状の形をした部屋の中央には巨大モニターが設置されており、地上の様子をカメラで監視している。そして、そのモニターの前に、黒服に身を包んだ50人ほどの群衆が集まっていた。
 「悪い。遅くなった」
 青年が言うと、群衆の中にいた長髪の女性が俺達に顔を向けた。
 「おかえりなさい、ヴラド。どうだった?」
 「被験体は半数以上生きていたようだが、今はキメラに追われている。この3人はその中から偶然救出したんだ。マリア、とりあえず3人に事情を説明しておいてくれ。この時代のことを理解してもらわなければ困る」
 「ヴラド……?」
 俺は気になって、つい口に漏らしてしまう。
 「そうだ。俺はヴラド、この組織のリーダーだ……もっとも、本名ではない。コードネームのようなものと思ってもらって構わない」
 彼──ヴラドはそれだけ言い残すと、拠点の最奥にある部屋へ消えていった。





 「君達、疲れたでしょう? 待ってて、コーヒーでも持ってくるわ」
 俺達は面談室のような部屋で、長髪の女性──確かマリアと呼ばれていた──と話していた。ちなみに、ユウは別室でぐっすりと寝かせている。
 女性から温かいコーヒーの入ったカップを受け取った後、神弥は彼女に質問をした。
 「さっきの人……ヴラドだっけか? あの人が言ってた『始まりの灯火』だとか『キメラ』だとか、一体何なんだ? 俺達、まだこの世界のことを全く把握してないんだ」
 女性はコーヒーを口に含む。そして、神弥の質問に答えた。
 「そうね。君達は今までのことを、一切知らないのよね……。じゃあまず、この20年で何があったかを話す必要があるの。少し長くなるけどいいかしら?」
 勿論、と俺達は頷く。
 「君達が被験体となって実行された、CFPのテスト。全ては、あの時から始まっていた。私はその頃まだ幼かったから、他人から聞いた話しか知らないけど……でも、これは紛れもない事実よ」
 彼女は重々しく、口を開いた。


 「この国は壊滅状態に陥ったのよ。国立研究所『メビウス』の研究長、鷺城終の手によって」


 「……!?」
 鷺城終。『メビウス』の研究長にして、設立者でもある男。
 その彼が、この国を壊滅させた?
 「CFPは元々、人類の滅亡を防ぐ為に立案されたもの。でも、それは表向きの理由だった。この計画の立案者でもあった鷺城の真の目的は、国民の絶対的信頼を得ることだったのよ。地球がいつ滅びるか分からない状況の中で、彼が公表したCFPは国民にとって──いえ、世界にとって救いの手だった。だから『メビウス』が信頼を確立するのは容易だったわ」
 緊張した面持ちで、彼女は続ける。
 「CFPのテストが開始して9年後──つまり11年前ね。鷺城は新たな政策を公表したの。その内容は、異常気象の発生を抑えることができる人工衛星『ティア』を打ち上げるというものだった。無論、この政策に疑いを持った者なんて誰一人いなかったわ。それが国民が犯した、一番の間違いだった」
 「それで……どうなったんだ?」
 神弥が言うと、彼女は少し表情を曇らせた。
 「……研究所が打ち上げた人工衛星『ティア』には、彼らが作り出した史上最悪のウイルス兵器──通称『DEMON VIRUS(デーモンウイルス)』が積み込まれていたのよ。『ティア』は大気圏に突入する寸前で爆発し、DVを日本中に撒き散らした。爆発的な感染力を持った殺人ウイルスは瞬く間に感染爆発パンデミックを起こして──ものの数時間で、国民はほぼ壊滅した」
 国民が避けたかった事態が、国民の過ちによって起こってしまった。
 なんとも皮肉な話だ。
 「その時に偶然生き残ることができたのが、私達『始まりの灯火』よ。リーダーのヴラドを中心として組織された、いわゆるレジスタンスね。私達は彼と共に、この組織を作った。今では総勢56人の生き残りが、この国の元の姿を取り戻そうと活動しているわ……あ、私はマリア。知ってるとは思うけど、一応自己紹介はしておかなくちゃね」
 彼女は小さく笑った。
 「じゃあ本題に戻るわね。国民を壊滅に追い込んだ鷺城が次に行ったのは、日本と他国の『隔離化』。日本の周囲に頑丈な城壁を作り上げ、他国との関係を完全に断ち切ったの。日本が戦後初めて独立化したのよ。日本はいつからか、他国から『隔離された世界(DISTANCE WORLD)』と呼ばれるようになった。鷺城が日本を隔離した理由は、科学技術の禁じ手──クローン技術の使用を、誰にも邪魔させないため。彼はその技術で絶滅した動物を蘇生し、様々な実験を行った。それで生み出されたのが、真君達を襲った化物──合成獣キメラよ」
 俺はあの化物の姿を思い出す。あれは、この世の生物とは思えない容姿をしていた。
 「鷺城はキメラの大量生産に成功し、生き残りを潰す為に日本中にばら撒いた。彼が何を企んでいるか、私達には皆目見当もつかないけど……これだけは覚えていて。キメラは危険すぎる。過去にこの拠点も襲われたことがあってね、4人の仲間が殺されたわ……」
 マリアは辛そうな表情で言う。きっと、殺された仲間達のことを思い出しているのだろう。
 ……俺達が眠っている間に起きた事態は、想像を遥かに超えていた。俺達は、鷺城に利用されていただけだったのだ。それにさえ気づかず、国民は彼の言葉を信用し──そして、多くの犠牲者を出した。
 あまりにも、スケールが大きすぎる話だった。
 「……説明は以上よ。じゃあ、モニター室に戻りましょう。他のみんなとも、仲良くしてあげてね」
 俺達は立ち上がり、部屋を後にする。
 この場にユウがいなくてよかった、と俺は思った。
 彼女にこの世界の現状を伝えるのは、もうちょっと後でいい。

Re: DISTANCE WORLD ( No.7 )
日時: 2013/01/31 16:32
名前: 鈴月 音久 (ID: w1UoqX1L)

 モニター室に戻ると、一人の男がヴラドと話しているところだった。男は俺達に気づくとヴラドとの会話を止め、俺達に向き直る。
 「おや、帰ってきましたか。二人にはどこまで話しましたか、マリア」
 長身の男は落ち着いた声音でマリアに問う。
 「11年前の事件については詳しく話したわ。この組織については、サイクの方がよく知ってるだろうから。後は頼んだわよ」
 そう言って、マリアは元来た道を引き返していった。
 サイクと呼ばれた男は少し困ったような顔をしていたが、やがてヴラドに「私はここで失礼します」とお辞儀をして、俺達にこう言った。
 「任されたからには仕方がありませんね。では、君達には見ていただきたい場所があります。私についてきてください」
 彼は踵を返し、俺達がここを訪れた時にヴラドが入った、あの奥の部屋に消えていった。





 「ここはヴラドが所有しているデータベースです。20年前のCFPテストの時から現在に至るまでの情報が集約されています」
 彼に案内された部屋はまるで、小さな図書館のようだった。周囲に置かれた本棚には様々な本や資料が並べられており、20年間でどれほどの変化があったかを物語っている。サイクはその本棚からひとつの資料を取り出し、俺達に差し出した。俺は受け取った資料をぱらぱらとめくってみる。
 「これは……」
 「この組織の部隊長七人について記されたレポートです。君達にはまず、彼らと交友を深めてもらいたい。このレポートには部隊長達のコードネーム、年齢、その他の経歴が全て記載されていますから、一度でも目を通しておいてください」
 そう言ったサイクは溜息をつく。
 「そのレポートを見ればわかると思いますが、私達は皆、研究所に何かしらの因縁があります。そんな私達がヴラドの元に集まり、そして結成されたのが、この『始まりの灯火』なのです。私は彼の強い意思に惹かれ、ヴラドとマリアの二人に協力し、この組織の立ち上げに加担しました。今、ヴラドはリーダーとして、私とマリアは彼の補佐として、研究所を──鷺城を討とうと尽力しています」
 俺は手元のレポートが気になり、最初のページをめくる。まず目に入ったのは、ヴラドの名前。その次のページに、彼の名前はあった。


『サイク──補佐官。22歳。男。戦略思案部隊長。剣術に長ける。唯一の肉親であった妹と二人で暮らしていたが、2061年の「日本人半絶滅事件」の際に妹を失う。それから2年後の2063年にヴラド、マリアと共に組織の立ち上げに協力。』


 唯一の肉親を──妹を、失う。
 彼にとってそれは、どれほどの傷心を強いられたのだろう。
 俺は無言で資料を閉じ、神弥に手渡して目を伏せる。サイクは悲しみに沈んだ瞳で俺を見つめていた。
 「……そう落ち込むことはありませんよ。他人の事情など、感情移入するだけ無駄ですから」
 そう言い残して、彼は部屋を後にした……。





 「サイクさん、良い人だったな」
 資料室を後にした俺達は、拠点内の休憩室で一息つくことにした。俺はテーブルに座り、彼から渡されたレポートを眺める。
 サイクは、心にとても深い傷を負っているのだろう。しかし、彼はそれを決して表に出そうとしない。その強さは本物だった。俺は、彼を心から尊敬しようと思う。
 「真、俺は少し寝るわ。さすがに疲れた」
 神弥はひとつ欠伸をして、部屋に備え付けられたベッドに寝転がる。しばらくすると、穏やかな寝息を立てて熟睡し始めたようだ。
 俺はそのままレポートに目を通す。まず目に入ったのは、少し猫目の少年の写真だった。


 『ハイド──ハッカー。14歳。男。科学武器の作成、コンピュータ技術に長ける。援護部隊長のフーガは彼の双子の妹。「日本人半絶滅事件」で家族を失う。2064年、フーガと放浪していた際にヴラドに助けられる。』


 その下には、可愛らしい顔の少女の写真があった。


 『フーガ──援護部隊長。14歳。女。射撃の天才。主に戦場での援護隊を率いる。経歴は上に記載。』


 双子の隊員……おそらく『始まりの灯火』の中では珍しいのだと思う。多くの隊員はおそらく、11年前の事件で天涯孤独の身だろう。


 コンコン。


 その時、部屋の扉がノックされた。誰だろう。
 俺は立ち上がり、扉に近づく。するとその瞬間──
 


「どっせぇぇぇい!!」
 「うおぉ!?」
 


 小柄な2人が俺の腹目掛けて頭突きをかましてきたのだ。
 俺はもんどりうって背面から床に倒れた。
 「いえーい!ビックリ作戦大成功!」
 「やったねお兄ちゃん!いえーい!」
 これは一体どういうことだ。俺はゆっくりと体を起こしてみる。
 「お、お前ら……!」


 今、神弥の顔に落書きをしている2人こそが。
 双子の隊員、ハイドとフーガだったのだ。

Re: DISTANCE WORLD ( No.9 )
日時: 2013/01/27 19:58
名前: 鈴月音久 (ID: w1UoqX1L)

 今の状況を、簡潔に説明してみると。
 双子の鳩尾タックルが俺の腹に炸裂し、俺は床に倒れている。
 一方、神弥は双子から、その隙だらけの顔にマジックペンで落書きをされている最中であった。
 「……一体どういうことだ?」
 俺は腹を抑えながら立ち上がり、その双子──ハイドとフーガを見据えた。2人は楽しそうに、神弥の顔にペンを走らせている。
 「こ、こら2人とも! いきなり何をしてるの!」
 少し遅れて、マリアが慌てて部屋に入ってきた。
 「うわ! マリアが鬼になるぞ、フーガ逃げろ!」
 「あいあいさー! ってきゃあ!?」
 部屋から脱出しようとする2人をがっしりと捕まえたマリアは、まるで母親のように叱りつけた。
 「駄目でしょう! ほら、ちゃんとお兄さんに謝りなさい!」
 すると、フーガは観念したように小さく肩を落として、俺の方に向き直った。
 「あぅ……ごめんなさいっ」
 ぺこり、と頭を下げる少女を見ていると、なんだか怒る気にはなれない。俺は苦笑して、少女に「別にいいよ」と返してあげた。
 「さあ、ハイドも! フーガはちゃんと謝ったわよ?」
 「嫌だね! だって暇だったからちょっと遊んでやっただけ……痛い痛い痛い!?」
 ハイドが言い終える前に、マリアの右手が彼の頬をつねっていた。傍目から見ていてもかなり痛そうである。彼は涙目になりながら、恐怖に怯えたような目でマリアを見やる。
 「いってぇ〜……わかったよ、ごめんなさい」
 「私に謝ってどうするの」
 う、と少年は呻き、こちらも観念したように俺に向き直る。彼の妹がしたように、ぺこりと小さな頭を下げ、そして──
 「べぇー!!」
 全力で舌を出し、疾風のごとく部屋から逃げ出した。
 「ハイド、なんてことを! 私もそろそろ本気で──」
 「まあまあ、いいじゃないですか。俺も別に気にしてませんから」
 今にもハイドを追いかけだしそうなマリアを引き止める。実際、俺自身は本当に気にしていないのだ。さすがにこれ以上叱られるのは可哀想だと思ったうえでの行為だ。
 マリアは少し躊躇したが、俺の気持ちを汲み取ってくれたのか、溜息をついて部屋の椅子に座り込む。
 「まったく……困った子達だわ」
 何故だろうか。
 そんな言葉を口にした彼女の顔に。
 少しの笑みが溢れていたのは。





 ……ちなみに、神弥が他の隊員達の笑い者になったのは、これから少し後の出来事だった。

Re: DISTANCE WORLD ( No.10 )
日時: 2013/01/27 20:03
名前: 鈴月音久 (ID: w1UoqX1L)

 その頃、研究所「メビウス」では。
 「鷺城研究長、被験体49番と73番の所在が判明しました」
 研究所内の最奥に在する部屋に一人の研究員が入り、その部屋の椅子に腰掛ける男──鷺城に、そう伝えた。
 「ふむ。詳しい話を聞こうか」
 「はっ。49番と73番はどうやら行動を共にしているものと思われます。彼らの体に埋め込まれたGPSの反応を探ったところ、この研究所地区のB37へ向かう途中で反応が消滅しました」
 「メビウス」周辺の地区は、約80の区画に分けられている。その中でも東側をA、西側をBとして、それぞれに40までの番号を設けてある。被験体達が冷却されている間に体内に埋め込まれたチップによって、その居場所がわかったというわけだ。
 「なるほど……あの辺りは確か、あのレジスタンス共が巣食う地区であったな」
 「はい。おそらく彼らに助けられ、拠点に招かれたのでしょう。拠点は内外の電波を完全に遮断する構造のようですので」
 レジスタンス──「始まりの灯火」は、これまでに何度も我々の計画を阻害している。奴らの拠点など、とうの昔に把握してあった。
 「──キメラを奴らに仕向けさせろ」
 「了解」





 俺達が20年の冷却から目覚めて、2時間近く経った。時間帯としては既に夜中である。「始まりの灯火」拠点では、就寝前に報告会議が行われていた。
 「それで、他に生存者は見つかったのか」
 ヴラドが隊員達に問うと、それにハイドが答えた。
 「今んとこは誰も。さっき地上の監視カメラ50台の映像を確認したけど、映ってたのはあのキモイ化物と白衣を着た研究所の犬共、それと……無惨に食い荒らされた、人間達の死体だけだよ」
 「そうか……他に報告がある者は──」
 そのときだった。


 『緊急事態発生。緊急事態発生。拠点内に別の生物反応を確認。総員、直ちに戦闘態勢を整えてください』


 大きなサイレン音と共に、機械音声が拠点内で発せられた。その直後、サイクがモニターを確認して状況を告げる。
 「ヴラド、大変です。キメラが地中を潜行し、この拠点の外殻を食い破って侵入してきました。現在は北部で暴れているようです」
 サイクは冷静にそう言ったが、その目には焦りの色が見える。
 ヴラドの行動は迅速だった。彼は集合していた隊員達に即座に命令を下す。
 「フーガ、武器を今すぐ全員分用意しろ。できるな?」
 「あいあいさー! ちょっと待ってて!」
 フーガは自身のポケットから小さな機械を取り出すと、驚きの速さで番号を入力する。次の瞬間、拠点の下部のハッチが開き、大量の武器が現れた。
 「よし。ではハイドは引き続きキメラの動きをモニタリングしろ。援護部隊はフーガに先陣を任せ、キメラの迎撃に専念してくれ。今回はサイクも加勢してもらう。とにかく、これ以上拠点を荒らされないよう全力で応戦しろ!」
 『はっ!!』
 隊員は声を揃え、彼の指示通りに動いた。
 「ヴラドさん、俺達は──」
 神弥が慌てた様子で言いかけたとき──


 ガシャァァン!! という音が、すぐ近くから聞こえてきた。





 「ガアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
 




そこに現れたのは──巨大な剛爪を持った、熊のような生き物であった。


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