二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

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【ボカロ】月花の姫歌【コメ募集><】
日時: 2012/02/18 20:07
名前: 奏 (ID: z070pZ.J)
参照: http://www.youtube.com/watch?v=m0_gHHcLV6M

こんにちは、奏と申します(・ω・*)

二次小説が紙と映像にわかれる前、
悪ノシリーズの小説を書いていたんですが・・・覚えてる方・・・いないよなぁ((


というわけで、自分が大好きだった『月下ノ姫歌』という曲を
今回は書いていこうと思います。
(小説タイトルの「ノ」がひらがなになっているのは仕様です)


原曲は上のURLです。
ニコ動での本家はもう消えてしまっています。

そして、今回の小説ではササキさんという方のPVを参考にさせていただきます。

※最初はPVを参考にさせていただいているので「映像」のほうで書いていましたが
 元々は音楽なのでこちらに移しました。


基本的にぶっつけで書いていきます。よろしくお願いしますm(__)m

【原曲】
「月花ノ姫歌」
作詞 リョータイ
作曲 秦野P
唄  鏡音レン

【参考PV】
>>1

■ 登場人物 ■

* 漣/レン

お面をつけた神の子。
他と姿が異なっており蔑まれている。
周りの人の気持ちに鈍感ではあるが、心優しい少年。


* 柚葉/ユズノハ

迷子になり漣と知り合った少女。人間。
純粋で真っ直ぐな心を持っている。
漣のことが好き。通称「柚/ユズ」


* 神様(菱月/ヒシツキ)

漣の親であり、師である存在。
漣の話し相手となっている。
過去に大きな罪を背負っている。


* 神の子

漣と同じように生まれてきた存在だが、姿形は漣と異なる。
(本来はこちらの姿が正しい)
周りと違う漣を馬鹿にしている。


* 耶凪/ヤナギ

神の子の1人。
他と違って心優しく真面目。
漣のことをいつも気にかけている。


* 老人

紙芝居の老人であり柚葉の祖父。
たまに子供たちに玩具を作ってあげることもある。
(物語の中では現在亡くなっている)


* 蔦葉/ツタノハ

柚葉の曾祖母。心優しく明るい女性。
神様と愛しあってしまった。
漣の母親でもある。



漣(レン)以外のキャラはボカロではありません。


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Re: 【ボカロ】月花の姫歌 ( No.48 )
日時: 2012/01/26 23:41
名前: 奏 (ID: 3AcPJtE0)


翌日の早朝。

夜に蛍を見に行くため、昼間は柚葉に会わないことになっていた。

そのため、漣はいつもよりほんの少しだけ遅く起床する。

「・・・・・・ん・・・ちょっと寝すぎたかな・・・。

 まぁいいか・・・会うのは夜だからまだ時間はたっぷり・・・。」

そこまで呟いて外を見ると、既に目を覚ましていた神の子らが、

輪になってわいわいと騒がしく遊んでいた。

いつものことではあるが、その中に耶凪の姿はない。

元々、漣と話すようになる前も、耶凪は神の子らと遊ぶことはなかった。

仲よさそうに話すことはあっても、

みんなで遊ぶというときにはいつも遠くから傍観していたのだ。

漣は、昨夜の耶凪の曖昧な表情が気にかかり、

その姿を見て安心したいがために寝床から這い出る。

「おはよう。」

きょろきょろと周りを見渡す漣に、一番初めに声を掛けたのは、にこやかに微笑む神様。

「・・・おはようございます。

 ・・・・・・・あ、と・・・耶凪、もう起きてますか?」

「ん?・・・そういえば姿を見てないね。」

「そう・・・ですか。分かりました。」

漣は一礼して神様に背を向ける。

そのとき。

「漣。」

神様が突然漣を呼び止めた。

漣が不思議そうな顔をして振り向くと、

神様は慌てるように口を押さえる。

「どうかしました?」

「え・・・あ、いや、なんでもない。すまないね。」

「?・・・なら、いいですけど。」

漣は今度こそ焦る神様に背を向けて、真直ぐ耶凪の寝床へと向かった。



「耶凪、起きてる?」

耶凪の寝床の前で、漣はいるかいないかも分からない人物の名を呼んだ。

返事は返ってこない。

諦めて他を当たろうかと思ったとき。

小さな音を立てながら、目的の人物は姿を現した。

「・・・・・・漣?」

「あ、耶凪。ごめん、起こしちゃった?」

「・・・・・・ウウン、ズット起キテタヨ。」

耶凪は弱弱しく首を左右に振る。

その表情は、昨夜のそれと比べれば大方落ち着いたように見えた。

「どうして外に出てこないの?」

「・・・・・・考エ事シテタカラ。

 ・・・ソレニ、今ハ神様ニ会イタクナイ。」

「昨日のことがあるから?」

耶凪は素直に頷く。

「・・・・・・それにしても、昨日はどうして言い争ってたの?

 耶凪が怒ることなんていつもはありえないのに。」

漣がそう尋ねたが、

耶凪がその質問に答えることはなかった。

その代わり、耶凪は困ったような表情を浮かべながら言う。

「・・・漣。オ願イガアルンダ。」

「お願い?何?」

「・・・自分ガ、“人間”ジャナク、“神族”ダッテコト、

 絶対ニ忘レナイデホシイノ。」

「・・・?忘れないよ。そんなことくらい。」

耶凪はそれを聞くと、ぶんぶんと激しく首を左右に振る。

「駄目。最近ノ漣ハ、ソレヲ忘レカケテル。

 ソンナンジャ・・・絶対ニ駄目・・・。

 ソレジャア、漣ガ悲シムダケダカラ。」

「・・・よく分からないけど・・・・・・分かった。」

いつもなら漣が話を受け入れると微笑む耶凪だったが、

このときは不安と悲しみと少しの怒りが混じった曖昧な表情を強めるだけだった。

「・・・・・・ゴメンネ。」

「え?」

「・・・今ハ、詳シイコトハ言エナイケド・・・

 ヤッパリ、私ニハ何モデキナカッタ。

 非力デ・・・・・・ゴメンネ。」

知らぬ間に、耶凪は目に涙を浮かべていた。

潤んだ大きな瞳が、漣の瞳に飛び込んでくる。

「や・・・耶凪、大丈夫?」

「・・・・・・ッ・・・ゴメンネ。大丈夫・・・ダヨ・・・。」

小さな手で、頬を伝う涙を拭う。

そのまま耶凪は寝床を飛び出すと、漣に背を向けた。

「・・・・・・ネ、漣。」

「ん?」

「・・・私ガコウイウコト言ウノモドウカト思ウケド・・・。

 ココカラ先ハ、タトエ何ガ起コッテモ自己責任ニナルカモシレナイ。

 ・・・ヨク、覚エテオイテネ。」

それだけを、瞳に涙を浮かばせながら言うと、

耶凪は漣の前から姿を消した。






そうして、あっという間に日は落ち、

蛍の飛び交う夜がやってくる。

Re: 【ボカロ】月花の姫歌 ( No.49 )
日時: 2012/01/30 18:45
名前: 奏 (ID: 1i8B7xBH)



漣は一度面の紐を解き、顔の横に面を移動させると

右耳の上で紐をきつく結び直した。

柚葉に会うときにはいつもこのスタイルだ。

漣はくん、と鼻を鳴らした。

微かに柚葉の気配と香りがする。

きっともう、いつもの待ち合わせ場所に到着しているんだろう。

「・・・それじゃ、行ってきます。」

「道は暗いから、足元に気をつけるんだよ。」

「はい。」

漣は社の階段に座る神様を向き、柔らかく微笑んだ。

珍しいことに、耶凪はいない。

それでも、今朝のことがあったせいで不思議には思わなかった。

神様に背を向け、柚葉の待つ場所向けて駆け出そうと、

一歩前へ踏み出したその時。

がくんと漣の膝が曲がる。

次の一歩が踏み出せなかったからだ。

漣がゆっくりと後ろを振り向くと、神様が漣の羽織る着物の裾をしっかり握り締めていた。

「・・・神様?」

「・・・・・・・あ・・・・・・・。」

神様は明らかに動揺の表情を浮かべると、

手をぱっと離して、小さく「すまない」と呟いた。

「・・・漣。今私が、君に、“行ってはいけない”と言ったらどうする?」

「・・・・・・・・・え?」

思いがけない質問だった。

かなり前に、神様は漣と柚葉が一緒にいることを許してくれた。

それなのに何故、今更止めるようなことを言うのか、と。

漣はしばらくだんまりを決め込んだが、

困ったような、笑っているような、曖昧な表情を浮かべて言った。

「・・・それは、言わずとも分かってるはずですよ?」

「・・・・・・・・・そうだね。

 ・・・漣。よく聞いて。

 君は、自分のすることを自分で決める。

 それはつまり、何が起こっても自分の責任だってことだ。」

「耶凪にも同じことを言われました。」

「・・・そう。なら・・・よく覚えておくんだ。いいね。」

漣はきょとんとした顔で首を傾げたが、

柚葉との待ち合わせを思い出し、小さく頷くと竹林の中へ飛び込んだ。




月の光だけが明るく輝く中、

団扇を片手に持った柚葉は、そこにいた。

「柚ちゃん。」

「漣くん!こんばんは。」

そう言って微笑む。

「さ、穴場はあっちにあるの!いこっ!」

柚葉は漣の手を軽く握り、どんどんと先を歩いていった。

そこら中に咲き誇っている紫陽花に乗っている雫が、

月の光に照らされてキラキラと光っている。

「・・・こんなに紫陽花が咲いてるところ、初めて見た・・・。」

「毎年この季節になると、ここら辺は紫陽花と蛍だらけだよ。」

柚葉は紫陽花を眺めながらそう言い、微笑んだ。

そうして、はっと思い出したような仕草を見せ、付け足すように言う。

「紫陽花の花言葉は・・・たしかいっぱいあってね・・・。

 移り気とか高慢とか冷淡とか・・・。」

「・・・なんか、あんまりいい感じしないね。」

漣が残念がるようにそう呟くと、柚葉は面白がるようにクスッと笑った。

「私も最初教わったときはそう思ったよ。

 ・・・でも、いい意味もあるんだよ。

 一家団欒とか、元気な女性、とかね。」

「・・・・・・元気な・・・なんか、柚ちゃんみたいだね。」

漣は思わずそう言っていた。

柚葉が何も返事をしてこないので、不思議に思い柚葉のほうを見ると、

俯いたまま黙り込んでいた。

最近こういうことが多いようにも思える。

漣が何か言うと、頬を赤くして黙り込んでしまうのだ。

漣には、その理由が分からなかった。




しばらく歩いていくと、

だんだんと蛍の光が多く見られるようになった。

「到着ー!」

「・・・・・・わ・・・わぁ・・・。」

驚きであまり声が出ない。

そこでは、無数の蛍の光が、踊るように飛び交っていた。

「すっごい・・・綺麗だね。」

「でしょ?」

柚葉は誇らしそうにそう言い、蛍の飛び交う空中を眺めた。

穴場だと教えられたその場所だったが、

ちらほらと人影が見られた。

ある者は友人と、ある者は子ども連れの夫婦ら、ある者は恋人同士で。

それでも誰も漣たちの存在を不思議がったりはしない。

この暗がりでは、漣の服装も目立たない。

この時間だけは、漣も普通の人間の子どもでいられた。

蛍の光が頬を濡らす中、

漣は柚葉に手を引かれ、ゆっくりゆっくり歩いていた。

満月も、2人を温かく見守っている。

ふと、漣は昔に知ったかぐや姫を思い出した。

かぐや姫も、こんな月が綺麗な夜に、自分のいるべき場所に帰ったのだな、と。

漣は、無意識のうちに口に出していた。

「・・・柚ちゃん。聞きたいことがあるんだけど。」

それは、ずっとずっと昔から、

柚葉がまだ幼い少女だった頃から気がかりだったソレ。

「何?」




「・・・柚ちゃんは、僕が成長してないこと・・・不思議じゃないの?」



Re: 【ボカロ】月花の姫歌 ( No.50 )
日時: 2012/02/01 20:18
名前: 奏 (ID: AWGr/BY9)



柚葉は足をぴたりと止め、

丸い目を見開いて漣の方へ振り返る。

しばらくの沈黙。

漣は緊張しすぎて何も答えられないまま、地面だけをじっと見つめていた。

沈黙の末、冷たい風が吹くのと同時に、柚葉はぽつりと言った。

「・・・・・・最初はね。」

「え?」

「何年か前までは不思議に思うこともあったよ。」

柚葉の顔からは既にいつもの笑顔は消えていた。

その代わり、淡々と、まるで台本が用意されているかのように、

ぽつりぽつりと言葉が次々に出てくる。

「でも、今はあまり気にしてない。」

「・・・・・・どうして?」

「・・・漣くんは、漣くんだから。」

「・・・・・・・。」

「・・・っていうのもあるんだけど・・・ごめんね。

 私・・・なんとなく分かってたんだと思う。

 漣くんが、普通の子じゃないんだなってこと。」

「え・・・。」

それは意外な言葉だった。

てっきり柚葉は、気づいていないものだと思っていたから。

「おじいちゃんに、昔聞いたことがあるの。

 “あの竹林の向こうには何があるの?どんな人が住んでるの?”ってね。

 漣くんの家族のこととか、知りたかったからさ。」

「・・・おじいさん、何て言ったの?」

「“あそこには神様が住んでいるんだよ。だから、柚葉の言う男の子は

 きっと別のところに住んでいるに違いない”って。」

どうやら柚葉の祖父は、そのとき漣の正体をばらさないでいてくれたようだった。

「柚ちゃんのおじいさんは・・・本当に神様を信じてるんだね。」

「おじいちゃんのお母さん・・・つまり、曾おばあちゃんの影響なの。

 最初は信じてなかったんだけど、大人になる頃にはもう信じてたって。

 ・・・私も、最初は信じてなかったんだけど・・・漣くんに会ってから変わったの。」

「・・・僕に?」

「そ。・・・漣くんは、もしかしたら人間じゃないのかもって。

 もしかしたら、神様なんじゃないかなって。」

柚葉は、感情のこもらない声で淡々と続けた。

漣の体は一瞬にして凍りつく。

神であることを悟った柚葉は、自分から離れていってしまうのではないかと。

「・・・・・・・・・。」

漣は何も答えないまま、ただ俯いていた。

その間に、柚葉はずっと握っていた漣の手を離し、

しゃがみこむと何かを手に取った。

それは、あまり見かけない一輪の花。

ネジのような、変わった形をした小さな花だった。

それを持ちながら振り向く柚葉は、ふっと優しく微笑む。

「・・・何も答えないことを、肯定だと受けとってもいいのかな?」

「・・・・・・・・・それが本当だったら、

 柚ちゃんは僕から離れる?僕を恐れる?」

まさか、と柚葉は笑った。

「そんなこと、あるわけないよ。

 さっきも言ったじゃない。漣くんは漣くんだって。」

柚葉は、団扇で顔を半分ほど隠しながら笑うと、

さっき取った小さな花を、漣に手渡した。

「・・・・・・え?」

「私は、漣くんがたとえ人間じゃなかったとしても、

 きっと、いつまでも漣くんのこと、好きでいると思う。」

「・・・・・・。」

柚葉は、団扇で顔を隠したまま俯いた。

それにつられるように、漣も少しだけ柚葉から顔を背ける。

顔が熱かった。

「・・・そ・・・その花の・・・花言葉、ね・・・。」

柚葉は続けて口を開こうとしたが、

何かを思いとどまるように、口を閉じて再び俯いた。

「や、やっぱり・・・なんでもない。」

ゆっくりと前を向き、柚葉は夜空を眺めて、再び瞳に蛍の光を映した。

漣は花をしっかり握り締め、

柚葉に近づきその手をとろうと思ったそのとき。

漣の頭の中は、とある思いで埋め尽くされた。



それは、いつぞやの「かぐや姫」。

住む世界の違うかぐや姫が、あのまま老夫婦と暮らしていたらどうなっていたのか。

かぐや姫と老夫婦は幸せになれたのだろうか。

少なくとも、柚葉が自分とこの先の人生を一緒に過ごしたところで、

柚葉は幸せになることなんてない。

漣は直感的にそう感じていた。

柚葉に神と歩む道など似合わない。

平凡な、それでも温かい家庭を持って、幸せに生きて欲しい。

柚葉の幸せを第一に考えるために。

そして、自分が悲しまないように。

このまま漣は、身を引くべきではないのか、と。

昔の柚葉の祖父の言葉を思い出す。

「後悔のない選択を。」

その言葉は、今でも心に留めてある。

それでも漣は思う。

・・・・・・・・・漣には初めから、選択肢なんてなかったのではないか。

それならば、自分にできることは1つしかない。

漣は、泣きそうになるのを堪え、

柚葉の背中を見つめていた。

「・・・・・・・・・ごめんね。」

漣の小さな声は、風の音にかき消された。




「漣くん、今何か言・・・・・・。」

気づいたらしい柚葉がゆっくりと後ろを振り返ると、

漣の姿も気配も、どこにもなかった。




Re: 【ボカロ】月花の姫歌 ( No.51 )
日時: 2012/02/02 16:12
名前: 奏 (ID: 0BucpTCd)



漣は、貰った花をしっかり握り締めながら、

後ろを振り返ることもせず、ただひたすらに社向けて走っていた。

涙は幸いなことにまだ出ていない。

堪えようと歯を食いしばってみると、嗚咽と混じって息ができなくなる。

「・・・・・・ぐ・・・っ・・・。」

それでも漣は、歯を食いしばることをやめなかった。

やめてしまえば、きっと涙で顔がぐしゃぐしゃになるだろうから。



社にたどり着いたと同時に、漣は地面に座り込んだ。

いや、崩れ落ちたというほうがいいかもしれない。

地面に手をつき、俯いたまま、ここが自分のいるべき場所だと言い聞かせる。

突然、地面に丸いシミができた。

気づくと、知らぬ間にぽたぽたと、流したくなかった涙が零れ落ちる。

「・・・・・・っ・・・う・・・ぐ・・・。」

どうして自分は、神族なんかに生まれたのだろうか。

どうして、普通の人間になれなかったのだろうか。

そんな思いがぐるぐると頭の中を駆け巡る。

漣は顔の横にかかっている面を乱暴に取ると、地面へと投げつけた。

もう、神なんてものはどうでもいい。

長い寿命なんかいらない。

そんなものより、柚葉と一緒にいる時間が欲しい。

そう願いながら、嗚咽を漏らし、いつかの柚葉のように泣いていた。

そのとき、俯き加減の漣の視界に、誰かの足が見えた。

そこにいたのは・・・。

「・・・・・・・・・オカエリ。」

悲しみと、哀れみと、呆れが混じった表情を浮かべた耶凪。

その瞳は、“あれほど言ったのに”とでも言いたいようだった。

「・・・・・・・や・・・・・・なぎ・・・。」

耶凪は、ひたすらに泣く漣に、それ以上何も声をかけなかった。

その代わりに、耶凪の隣に立ったのは、神様。

神様は漣の手の中にある花を見ると、一度驚いたように目を見開き、

すぐにいつもの冷静な表情に戻ると、

「・・・・・・それは・・・捩花だね。」

とだけ言い、何か思いつめるような表情を見せた。

その間も、漣はただただ涙を零し続ける。

2人は、漣を慰めることも宥めることもなく、

そのまま漣に背を向け、どこかへ立ち去った。

「・・・・・・っ・・・・・・。」

漣の涙の量は、時間が経つたびに多くなる。

もう着物の袖も足元も地面も、びしょびしょに濡れていた。

他の神の子らは、それぞれ竹の後ろに隠れてこちらを覗いていた。

初めはにやにやと小ばかにしたように笑っていたが、

泣き続け、嗚咽を漏らし続け、声にならない悲痛な叫びを訴えていた漣を見ると、

笑うのをやめて一斉にその場を立ち去った。



泣きながら嗚咽を漏らしていた漣だったが、

それでも冷静に物事を考えることができていた。

まとまった考えは、「柚葉に会わない」こと。

もちろん、すぐに受け入れられるものではない。

今このときにだって、とてつもなく会いたい。会いたくてたまらない。

それでも、仕方のないことなのだ。

初めから分かっていた筈だ。

漣は自分自身に言い聞かせた。

神と人間は一緒にはいられない。

分かっていた筈だった。

いつか、別れが来るということも。

それを知っていて一緒にいたのではないのか。

「・・・・・・・・・こんなことになるのなら・・・

 最初から・・・柚ちゃん・・・会わなければよか・・・た。」

嗚咽混じりに呟いた。

会っていなければ。

神の世界しか知らない漣だったなら。

こんなに辛い思いしていないだろう。

柚葉も、普通の人間の男と親しくなっていただろう。

それぞれの道を歩んでいただろう。

恐らくそれが、最良の選択だったのだ。


漣は涙を流したまま地面に背をつけ、空を見上げる。

そこに、一匹の蛍がいた。

どうやら、漣に付いてきたらしい。

蛍は捩花にとまると、その温かい光をゆっくり点滅させていた。

漣はその光を涙に反射させながら、

冷たい空気の中、静かに目を閉じ、そのまま眠りについた。




そして、捩花の花言葉が「思慕」だと知るのはこの翌日になってからだ。

漣はそのとき、再び涙を流すことになった。


Re: 【ボカロ】月花の姫歌 ( No.52 )
日時: 2012/02/04 20:26
名前: 奏 (ID: JSuMRn8G)


翌日の早朝。

地面の冷たさで目を覚ました漣は、誰もいないのを確認すると

捩花の傍で横たわっている蛍を手の内に納め、

川へ向かうために重い腰を上げた。

川にたどり着き、適当な木を見つけると、

その下の土を手で掘り、蛍を穴の中に埋めた。

蛍は朝の時点で息絶えていたのだ。

「・・・・・・僕に光を見せてくれてありがとう。おやすみ。」

それだけ呟き、手と顔を洗うため、川の水に手を浸す。

水面を覗き見たとき、

そこにいたのは、目の周りが真っ赤に腫れた漣だった。

「・・・僕、こんな顔になってたんだ・・・。」

あまりはっきりしない意識の中、冷たい水をすくい、

目の周りを中心に洗っていく。

そのまま、その冷たさが自分の頭まで冷やしてくれるのを待った。



それから数十分後、

なんとなく目が覚めたところで、漣はゆっくり立ち上がった。

社に戻ろうと振り返ったとき、

近くの茂みがガサガサと音を立てる。

「・・・・・・?」

猫か何かがいるのかと思い、しばらく見つめていると、

その正体はひょっこりと顔を出し、

慌てたように引っ込めた。

その光景に、思わず口角が上がる。

「・・・・・・・・・耶凪。」

力なく、それでも優しく涼しげな声で声をかける。

その正体は、居心地悪そうな顔で茂みから出てきた。

「・・・・・・オハヨウ。」

「おはよ。・・・どうかしたの?」

耶凪は答えに困るように地面を見つめ、散歩、と短く答えた。

それでもなんとなく理由は分かっていた。

耶凪の目の周りも、真っ赤に腫れている。

漣と同じように、顔を洗いにきたら、偶然にも漣と鉢合わせになったわけだ。

「・・・・・・漣。ソノ・・・・・・ゴメンナサイ。」

耶凪は深々と頭を下げた。

「・・・何が?」

「ヤッパリ・・・私ニハ何モ出来ナカッタ。

 漣ノ幸セ、ズット考エテタ筈ナノニ。

 ・・・漣ニトッテ何ガ幸セナノカ・・・分カッテタ筈ナノニ・・・ッ!!」

耶凪は最近、自虐の言葉しか並べていない。

漣はそれが不服でもあった。

耶凪は何も悪くないし、むしろ漣を多くの場面で救ってくれたのだから。

「・・・耶凪。顔上げて。」

耶凪は頭を下げたまま首を横に振った。

小さなため息をつき、屈んで耶凪と同じくらいの背丈にする。

「・・・・・・耶凪。頑固な子は嫌いだよ。」

しばらくの沈黙の末、

耶凪は諦めたように顔を上げた。

「漣ダッテ・・・頑固ナクセニ。」

「・・・そうだね。」

漣は小さく微笑んだ。

その微笑を見て、反対に耶凪は涙をこぼす。

「・・・・・・漣ノ笑顔・・・今ハ幸せソウニ見エナイ・・・。

 人間ノ娘ト待チ会ワセスル前ハ、アンナニ楽シソウダッタノニ・・・。」

耶凪は小さな手で目を覆い、

消え入りそうな声でゴメンネ、と呟いた。

漣は耶凪の頬を伝う涙を袖で拭いながら言う。

「あーもー、耶凪、お願いだから泣かないで。

 悪いのは僕で、耶凪じゃないんだから。

 今回のことだって、全部僕が生み出しちゃったことなんだから。」

「・・・・・・ウ・・・デモ・・・ッ・・・。」

小さな妹のように泣きじゃくる耶凪を、

漣はなだめるように撫でた。




それからすっかり日が昇った頃。

漣は、泣き止んだ耶凪と一緒に川の水の中に足を滑り込ませていた。

「昨日、神様は僕の花を見て、捩花って言ったよね?

 あの花はどういう意味を持つの?」

「神様ガ言ウニハ・・・【思慕】。
  
 アノ花、人間ノ娘ニモラッタモノダヨネ?」

「うん。」

「人間ノ娘ハ・・・漣ノコトガ好キダッタンダヨ。

 ・・・・・・勿論、恋ッテイウ意味デネ。」

「・・・・・・恋?柚ちゃんが、僕に?」

耶凪はきょとんとした表情で一度頷いた。

「分カッテナカッタノ?」

「・・・・・・多分。」

「漣ハ?ソノ娘ノコト、好キ?」

「・・・分からない。

 今までずっと一緒に遊んできて、その成長も見守ってきた。

 柚ちゃんのこと、好きか嫌いかで言えば好きだけど・・・

 それが、そういう感情なのかは分からない。」

耶凪は、そうだろうね、といった表情で、

気だるそうに空を見上げた。

漣も耶凪も、恋をしたことなど一度もない。

恋がなんなのかも分かっていないのだ。

漣の頭の中は、数時間前の光景で埋め尽くされていた。

漣のことが好きだと言った柚葉の顔。

人間じゃないことを悟っていた柚葉の顔。

それを思い出すと、枯れた筈の涙がまた一筋落ちた。

「・・・・・・漣?」

「え?・・・あ、ご、ごめん。

 ・・・柚ちゃんが僕のこと好きでいてくれたなら・・・。

 僕が昨日したことは、とてつもなく酷いことなんじゃないかと思って・・・。」

漣が苦笑すると、

耶凪は涙を堪えるように口を歪ませた。

それを振り切るように、水の中から足を引き抜く。

「・・・帰ロウ、漣。」

「・・・・・・そうだね。」

漣は耶凪の隣につき、

木漏れ日の中を歩いていく。



どこからか、いつもの柚葉の香りがした気もするが、

漣は考えを振り払い、香りを無視して歩き続けた。


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