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夜桜四重奏  龍のソナタ
日時: 2012/02/06 13:54
名前: 時計屋 (ID: Na535wgJ)

初めまして、お久しぶりです。学園アリスやテイルズを書いていた時計屋と申します。
今回は私の大好きな作品『夜桜四重奏』の二次を書きたいと思います。

まず注意事項です

・相も変わらず駄文です。

・何回書いても上達の兆しすら見受けられません。

・キャラの過去捏造及びオリキャラ出します。

・原作重視の方は見ないほうがいいと思います。

・更新は遅いです。

・荒らしや中傷は止めていただきたいです。

・作者はコミック派なので登場人物やオリキャラの設定は11巻(双子の事件)までとしています。

・少しでも嫌悪感を抱かれた方は、Bダッシュでお帰りください。






それではオリキャラ紹介です↓


槍桜ユメ

五月四日生まれの十六歳。龍の化身であり、妖力は並外れて高く運動神経も良い。
ヒメの双子の妹で容貌は酷似しているが、瞳の色は紅ではなく碧。秋名のマフラーを巻いていないなど、相違点もある。
とある理由から生まれてすぐ元老院の命で比泉の手により調律され、その後円神に拾われ円神と共に戻ってきた。円神の計画に賛同はしているが、槍桜や比泉に対して憎悪の感情はないため自身の目的のほうを優先することも。
ヒメのことは純粋に姉と慕っているが、戦闘に容赦はしない。
常に丁寧な口調で話し、仲間(特に円神)を気に掛ける。
一人称は『私』


藤堂佐奈

四月一日生まれの二十歳。幼少の頃に堕ちた時一緒にいた両親を誤って殺してしまい、それから自身の力を疎むようになる。力を隠しながら暮らしていたが、制御を失い暴走。以来人里を離れ暮らしていたところにユメと出会い円神と行動を共にすることに。
何の半妖なのかは語らず、その話題に触れることも嫌う。
砕けた話し方で、円神を怒らせてしまうこともあるが本人はあまり気にしてはいない。
一人称は『うち』


この後増えるかもしれませんが今はこの二人で話を進めていこうかと思います。
ちなみにユメのことを知っている人は、

・ヒメ(マチ(ヒメのおばあさん)から教えてもらった。)

・雄飛と八重(神様なので・・・・)

・薄墨(調律を命じた人)

です。秋名たちにはヒメも他の人も話していないので、存在自体知られていません。




それでは、上記のすべてを納得せれた方はお読みください。大歓迎です!!!!

Page:1 2



Re: 夜桜四重奏  龍のソナタ ( No.3 )
日時: 2012/02/15 14:55
名前: 時計屋 (ID: Na535wgJ)



第二楽章



緊迫した空気がその場を支配していた。苛立った様子で壁に背をもたれかけ、腕を組んでは時計に目をやる。何度も繰り返される恭介の行動に桃華はため息を吐き用意した朝食に目を向ける。すっかり冷めきったそれが時間の経過を表し、不安は募るばかりだ。

「・・・・お兄ちゃん・・・」


──ピンポーン


桃華の呼びかけは、来客を告げる軽い音に遮られた。反射的に二人が玄関のほうに顔を向ける。が、その場を動こうとはしなかった。否、動けない。常時と呼べない今、来客を受けるべきか迷ってしまった。

──ピンポーン

「お〜い、居ないのか〜。」

二度目の呼び鈴と共に届いく見知った声を聞き、桃華が弾かれたように玄関へ走る。その後ろ姿を目で追った恭介は暫くの内に現れるであろう人物を予想し、苦笑を漏らした。恐らくはヒメに用事があるのだろが、生憎今は立て込んでいる。丁度パトロールの後にヒメと寄りに行くつもりでいたことを話し、今は帰ってもらおうと思案していると、桃華の焦った声が聞こえた。

「桃華どうし・・・た?」
「あ、お兄ちゃん。」
「よ。」
「やぁ、息災かな?」
「枝垂さん・・・」

呼びかけられ振り返る桃華と軽く挨拶を告げる比泉秋名。その後ろで片目をつぶり片手を上げる男性。盛岡枝垂に恭介は警戒を込めた視線を投げた。



──今朝


比泉秋名は困惑していた。その原因となる隣に目を向けると、ぼさぼさの髪を掻き上げ人の良い笑顔を向けられた。

「ごめんね。家の道分からなくなっちゃって。」
「はぁ〜・・いいですけど。」

盛岡枝垂。若くして元老院の一員であるこの男が何故この町に、しかもヒメに一人で尋ねる理由が思いつかない。元老院は用がない限り町には来ない。今日が検診日でもなければ、事件があったわけでもない。首をかしげる秋名に枝垂は殆ど説明のないまま案内を頼んだ。不思議には思ったものの秋名自身ヒメに用があり尋ねるため事務所を出てきたのだから断る理由もなく結果、同行することになった訳で。

「枝垂さん。元老院で何かあったんですか?」
「ん〜、僕にもよくわかんないんだよねぇ〜。」

道すがら何度かさり気なく聞いてもこの繰り返し。兎に角ヒメの所に行けば理由がはっきりするらしいと言われるばかりで訳が分からない。濁されるのは慣れているが、好いているわけではないので、やはりいい気はしなかった。
ついた屋敷は子供のころから嫌というほど行き来した場所。あの頃より大人になった今でも何かの集まりにはと、よく使わせてもらっていた。慣れたしぐさでいつもの様にインターホンを押す。が、すぐに聞こえるはずの声も姿も見えず、先ほどとは違う意味で首をかしげた。

「聞こえてないのか?」

そんな筈はないだろうともう一度押し、今度は戸も引いてみた。カラカラと心地の良い音が響き、親しんだ家内を伺う。

「お〜い、居ないのか〜。」

叫ぶとようやくパタパタと足音を鳴らし、見知った顔が駆けてきた。

「秋名さんいらっしゃい・・・?」

途切れた声で、同行者のことを思い出す。

「あぁ、実はさ・・・・・」
「桃華どうし・・・た?」

経緯を説明しようと出した言葉は、もう一人の人物の登場により切られる。とりあえず挨拶をすると、枝垂の名を呟いただけで恭介は顔を歪めてしまった。




「・・・・というわけでさ。枝垂さんがヒメの家を知らないって言ったから連れてきたんだよ。」

中に通されることもなく玄関で状況説明を求められた秋名は、一通りの説明の後、桃華の入れたお茶を啜る。納得したような恭介が頷き、向ける視線を秋名へと変えた。

「そうか。で?」
「ん?」
「お前の用事はなんだ?」
「あぁ、これ。」

手元に置いてあった封筒を恭介に渡す。どこにでもある茶色のそれには見覚えのある赤文字で、『至急』と書かれていた。

「これは?」
「八重さんから。ヒメに渡してくれって頼まれた。」
「分かった。お嬢様には渡しておこう。」
「分からなかったら八重さんに直接聞いてくれよな。」
「あぁ。」

「ん。比泉のか。」

それだけ済ませ じぁ俺はこれでと、腰を上げる秋名を突然聞こえた声が止める。振り向く秋名は心底意外そうな顔をしていた。

「なんであんたがいるんだ?」
「槍桜に話があっただけじゃ。今しがた帰る所でな。」

見送りなのか後ろについていたヒメは驚きと戸惑いを含んだ笑顔を覗かせる。
感情が読めない薄墨に秋名はあまりいい印象を持ってはいなかった。対妖結界、比泉円陽一族の一件。元老院との擦れ違いの数は多くないが、一つ一つが重すぎる。対して薄墨も秋名たち事務所のやり方を生ぬるいと批判が通常。どこまで行っても平行線の両者に、好印象がないのは火を見るより明らかだ。

「話?何を話したんだよ。」
「わしの口からは申せん。これはあくまで槍桜の問題じゃ。聞くなら本人に聞け。」

やり取りを傍観していたヒメは突然名を出し話題を振った薄墨を軽く睨む。が、気にもした様子すらなく自身の草履を履き終えた薄墨は供にしてきた雲珠と枝垂を伴い、何事もなかったかのように扉に手をかけた。と、擦るように二、三歩進めた足を止め、ぐるんとヒメに向き直った。

「槍桜よ。先の言葉、努々忘れるでないぞ。」
「・・・・はい。分かりました。」

薄墨の言葉にいやに重々しく神妙に答えるヒメを怪訝そうに秋名は見やったが、ヒメは横目を向けただけ。言いたいことは言い終わったと頷くと、薄墨は振り返ることなく屋敷を後にした。逃げなど許さぬようにキセルの残り香がかすかに香った。


「なんだったんだ?」

風のように去った薄墨たちの残した言葉を心中で反復し、秋名は顔を顰めた。席を外されていた恭介も桃華も話の内容すら分からない。唯一の張本人は何かを考えているのか先ほどから生返事ばかり。元老院が訪ね来た理由も話の内容も、今回の件の全容が謎なのだ。

「なぁヒメ・・・・」
「・・・・そんなことより。」

遮りヒメは床に落としていた目を秋名へ変える。

「どうして秋名がいるのよ?」
「俺は・・・・八重さんに書類を頼まれたから。」
「書類?」
「これですお嬢様。」

タイミングよく恭介が手にしていた封筒をヒメに渡す。礼を言い封を開け中を見るヒメの目が一瞬鋭くなったが、何を言うわけでもなく読み進める。その間秋名と恭介は共犯めいた雰囲気で、ヒメから事の次第を聞き出そうと目配せをする。
一通り読み終わったのか、息を吐き書類をしまうと、恭介には渡さず自身の手に残す。

「わざわざありがとう秋名。」
「あ、いや別に。大して手間でもなかったし。」
「そう。八重さんには直接私から伝えるわ。秋名は事務所に戻っていいわよ。私も後から行くし。」

兎に角着替えたいと 部屋へ戻ろうとするヒメを秋名が引き止める。気怠そうに振り向くヒメは、いつもと少し違う印象を持たせた。その違和感を振るい落とそうと、務めていつも通りを装い、意識して声を明るくする。

「何の話だったんだ?」
「・・・・・別に。世間話みたいなものよ。円神の行動が気になるから注意しろって。」
「・・・それだけか?」
「それだけ。」

無意識のうちに声が強張る。何かを隠しているのか目を直ぐ逸らされてしまう。その仕草が気に障った。

「馬鹿言うなよ。そんだけのために元老院がわざわざ来るかって。何があったんだよ。」
「・・・秋名には関係ないよ。」
「お前・・・・」

用は済んだとばかりにヒメは振り返りもせず、廊下を進む。残された三人は釈然としないも、これ以上は無理だと諦めた。

「大丈夫。私は町長だもん。町を守らなくちゃ。町を・・・皆を・・・だから大丈夫・・・大丈夫・・・・・」

だから言い聞かせるように弱弱しく呟くヒメの言葉に気づくことができなかった。









Re: 夜桜四重奏  龍のソナタ ( No.4 )
日時: 2012/02/21 11:45
名前: 時計屋 (ID: Na535wgJ)

第三楽章


がやがやと朝特有の騒がしさの中五十音ことはは、走っていた。セイラー服をたなびかせ道を埋め尽くさんばかりの人を上手く避けながら、時に跳び時に屈みを繰り返す。

「ことはちゃ〜ん。そんなに急いでどうしたの?」
「ち・こ・く!!!あんたらも急ぎなさーい!!」

馴染みの子供たちが店先から飛ばす声に焦りながらの笑顔と忠告を返した。が、焦るかと思いきや、すくすくと笑いを堪え、中には笑い転げている子もいる。不審に思いその場で駆け足をとった。

「何よ。」
「だってことはちゃん。今日祝日だよ〜!!!」

ズカンと派手に転ぶことはをさらに子供たちはけらけらと笑うのだ。痛む腰をさすりながら涙目を堪え、立ち上がる。

「しまった・・・・。その手があったか・・・・」

独り言のように呟き、よし と気合を入れなおすと、手を振り子供たちに ありがと と叫びながら礼を述べた。

「仕方ない。事務所に行くか。」

幾分ペースを落とし、来た道を戻る。途中『ことはちゃん。慌てんぼ〜!!』などと聞こえた気がするが、空耳と言い聞かせ先を歩いた。



「毎度でーす!!!」
「・・・・どーも・・」

短い青の髪を揺らしながら、おなじみ挨拶が事務所に響く。しかし、返された声はどこか怒っているものだった。普段温厚な秋名にしては珍しい。
原因が分からず困惑していると、後ろから押されるように被さられた。

「ことはちゃん!!!」
「毎度ー!!アオ今日も耳が気持ちいわ〜♪」

前かがみになるも踏ん張ることで転ぶことを回避したアオは、ことはにしがみ付く。あまりの必死さとらしからぬ行動にことははセクハラ紛いの行動を止め、服を掴むアオの手をやんわりと外した。

「どうしたのよ?」
「あ、秋名さんが!!秋名さんが!!!」
「秋名がどうしたの?仕事してないとか?」
「仕事はしてるんですがおかしいんです!!!」

アオの後ろで黙々と書類に判を押している秋名はただ務めを果たしているだけに見えるが、アオの言うとおりどこかおかしかった。それは、もしかしたら本人は隠しているつもりなのかもしれない。が、残念ながら明らかに周りにはばれている。
場の空気が重くなる前に、それ以上に目の前で暗くなりつつあるアオをこのままにはしておけない。ため息を吐き、アオを軽く撫でる。

「秋名。そんなにピリピリしてるから、アオが怯えてるでしょ。」

呆れながらのことはの口調に流石の秋名も手を止める。それを確認し、逆なでしないように注意しながら次へ進む。

「何かあったの?あんたがそこまでなんてよっぽどのこと?」
「・・・。」
「秋名・・・」
「秋名さん。」
「ごめん。」
「・・・・言いたくないないなら言わなくていいわ。」

頑固さは知っている。これ以上追及をしても秋名は口を割らない。
引き際を悟り、話を終わらせる意図を椅子を引くことで伝えた。

「さてと。じゃぁ、今日の常務やっちゃうか。・・・ほらアオも。」
「・・・はい・・」

心配そうなアオを言い包め、椅子に座らせる。渋々定位置につくアオは未だ納得していないのか横目で秋名を見やる。心配性と思いつつもそこがアオの長所でもあると、ことははほくそ笑む。


カリカリとペンの走る音だけが事務所に響く。三人とも其々に仕事をこなし、書類を捌いていく。そんな中、ことはは先ほどのやり取りを反芻する。
秋名がここまで怒りをあらわにすることは珍しかった。もちろん怒ったところは何回もあり、ことはもアオも主にサボりのことで怒られる。が、その場合は正に怒ってますと、前面に押し出している。それでも、すぐに収まってしまうのだ。お人よしとも取れる秋名の優しさはアオと同じくらいの長所であるべきなのだが、それが心配材料になっていることをこの男は自覚しているのだろうか。

「ねぇ〜秋名ぁ〜・・・」
「毎度!!!!」
「あ、ヒメさん!!いらっしゃい!!!!」

ことはを遮るように現れたヒメをアオには救世主と思わせた。が、秋名に注意を向けていたことはは、秋名がその声に過剰な反応を示す様を見てしまった。後に続く恭介もどこか表情が硬い。

「どうしたのヒメ?」
「ん・・・ちょっとね・・・」

珍しく歯切れの悪い返事を返すだけのヒメは、秋名の様子を窺う仕草を見せる。それがさらに気を逆撫でしたのか、秋名の目つきが鋭くなる。

「・・・今朝の件だけど・・・」
「「今朝?」」
「・・・・俺には関係ないんじゃなかったのかよ。」

ことはとアオが疑問の声を上げる中、秋名だけはすねたような口調で言い返す。うっ と言葉に詰まるヒメをしり目に、秋名は止めていた作業を再開した。

「関係ないってどうゆうことですか?」
「ヒメ。何あったの。」

秋名の一言で二人の間に起きたことを大体理解したことはとアオが、秋名に代わり追及を始める。困り顔で後ろの恭介を見やるも、我関せずの体裁を保っていた。秋名と同様恭介にも事の詳細を話しておらず、とられる態度は予想していたが、実際になってみると身勝手ながら寂しさがある。

「・・・・円神の行動が活発化しているから警戒を怠らないようにって。」
「そんなんいつものことでしょ。」
「わからない。ただ、元老院の総代が自ら忠告しに来たくらいだから、今までとは違うのかも。」

なるほどと納得しているアオは素直すぎるとことはは嘆息した。そんなことならば、秋名とヒメがこんなにギスギスするはずが無いだろうに。
秋名も今の説明では納得していないのか、手を動かしながら注意はヒメから逸らしていない。器用なのか不器用なのか分かったものだはないだろう。しかしどちらもことはに言わせれば同じなのだろが。

「で?ヒメが隠し事してるのと秋名の機嫌が悪いのは、関係してるの?」

びくついたヒメをことはが見逃すわけがない。詳しくはまだ探らなければいけないが、全容は把握できた。どうしたものかと、ことはは思案する。

「・・・・・隠し事なんてしてないわ。」

バレバレのウソは意味がないのだと、ヒメも理解しているがそこまでしても話したがらない。そうまでして守る秘密とはなんなのだろう。ことはの好奇心が疼く。
不謹慎だが、この状況をことははどこか楽しんでいた。もちろん、ことは自身もヒメが自分たちに隠し事をしている事実は受け入れがたいが、これでもヒメは町長なのだ。一個人や所員であろうとも簡単に洩らせない話の一つや二つ有ってもおかしくはない。そうことはは割り切っている。なのだからなのかは分からないが、秋名とことはのこの件に関して思うことに相違点がみられる。純粋に怒っているだけであろう秋名には悪いと心の中で謝った。

「兎に角。私が言いたいことはそれだけ。夜は勿論だけど、昼にも気を緩めないでね!!!」

無理やり話を終わらせると、ヒメは風のように去る。何か言いたげな恭介は、結局何も言わずヒメのパトロールに付き添いに行った。



疑問が残りすぎた事務所の中は、普段では考えられないほど静かだった。机に向かう三人はけれど、誰も集中などしていない。一時間二時間と時間が過ぎる。段々と空が紅に染まり、片側から闇が来ようとする時、アオがけたたましく立ち上がる。

「あぁもう!!!こんなのらしくない!!らしくないです!!!!」
「どうしたのよ?」
「どうしたじゃないよ!!!ことはちゃんも気になってるんでしょ!?」
「何が?」

真意に気づきながらも白を切る。
ヒメがいた時は聞き出したいと好奇心の方が勝っていたが、頭を冷やし考える時間があれば、秋名と同じ怒りが沸々とこみ上げてきていた。確かに、言えない秘密があるのは構わない。ことは自身も全てをあっけらかんとヒメたちに話している訳ではない。秋名もそれぐらい承知だろう。が、今回のヒメの秘密は別格だ。あんな辛そうな顔で隠す秘密があると知っては、いかにことはでも寛容しがたかった。それでも、追及することでさらに傷つけるのではないかと危惧し、言及ができない。

「ヒメちゃんのことです!!!分かってるでしょ!!あんな辛そうに隠すなんて何かあったに決まってる!!!そんなのダメだよ!!行って聞き出さなくちゃ!!!」
「ヒメが話したくないのならどうしようもないでしょ?」
「それでも!!全部聞けなくても一つくらいなら背負うことできるでしょ!!」
「それをヒメが望んでないからダメだって・・・・」
「そんなの関係ない!!!!!!」

珍しく声を荒上げるアオをことはだけでなく秋名も目を見開いて凝視する。

「そんなの関係ない。ヒメちゃんが要らないって言っても私がしたいんだもん・・・・それじゃぁダメですか?」

潤む目を零れないよう堪えけれどしっかり、秋名に向ける。答えを聞いたところでアオの行動が変わるはずない。ダメだと言ってもアオはヒメの家にまで押し掛けるだろう。ならば・・・・

「・・・・分かったよ。今から皆でヒメのとこ行ってみようぜ。それでいいんだろアオ?」
「はい!!!!」

至上の喜びというように輝かせた笑顔を向けるアオに参ったわよとことはが返す。結局のところ秋名もことはもヒメが心配でしょうがなかったのだ。フルスピードで書類を整理し、鍵を閉め、どこか晴れた顔でヒメの屋敷へ向かう。
見上げた空は何所までも澄んでいて、瞬く星が見守っているようだった。





Re: 夜桜四重奏  龍のソナタ ( No.5 )
日時: 2012/02/28 12:35
名前: 時計屋 (ID: Na535wgJ)

第四楽章

ヒメの屋敷に到着した頃には既に闇が深まっている。月が雲の隙間から淡い光で門前に立ち尽くす三人の顔を照らしていた。雲の影から垣間見える表情はどれも気まずそうで神妙な顔を浮かべている。

「アオ・・・開けないの?」
「えぇ!!!こ、ここは、ことはちゃんが・・・・・」
「私!!!!いやいやいや、秋名がいいんじゃない?」
「俺かよ!!!」

昼の出来事がまだ抜けきっていない三人は人様の軒先で譲り合いという名の口論を始めた。たかが戸を開けるくらい普段なら気にも留めないその行動が、三人にとってこれほど困難を極めるものだとは思いもしなかった。次第に過激化するそれは、だからか戸を開ける音を聞き逃してしまった。

「・・・・人の家の前で何してる。」

不機嫌さを隠そうとしない聞き慣れたその声に、三人は水を打ったようにピタリと口論をやめた。静まり返ったその場がどこか肌寒いのは、外気のせいではないだろ。一同に家の方を見やれば、声と違わず眉間にしわを寄せた恭介が壁にもたれ掛っていた。

「まったく。今何時だと思ってるんだお前たちは。近所迷惑というものを少しは考えろ。」

吐き出される溜息は静寂なこの場において、異様なくらい響く。

「あ、いや俺たちは・・・・」

秋名の言い訳じみた声色を聞き取り、分かっている と一言告げまたため息を漏らす。傾きかけた眼鏡を慣れた仕草で戻すと、横目で戸の奥を見つめる。

「お嬢様のことだろう。」
「あぁ・・・」

言葉にせずとも伝わった所は複雑なとこではある。が、情けなくも逃げる一歩手前だった事を吐露する前に察してくれたことは、素直に感謝する。

「お嬢様はパトロールからお帰りになるや否や道着に着替えずっと槍を振っている。」
「なんで?」
「さあな。だが、俺や桃華が何度声をかけても、休もうとしなくてな。正直どうしようか困っていたんだ。」

三人は顔を見合わせる。
ヒメは朝からどこかおかしかった。強く問いただそうとしてもそれは勘としか言えず、さらに聞かないでと無言の訴えを感じ取り、聞けずじまいに終わっていたのだ。それを今更ながら秋名は後悔していた。

「・・・恭介、ヒメと話がしたいんだ。」
「・・・・道場にいるから、先に行ってくれ。」

考える素振りも一瞬の内に、恭介は半身ずらし中への道を開けた。その行動に戸惑いはしたが、素直に従う。

「桃華がいるはずだ。お嬢様を心配しているから慰めてやってほしい。」
「俺に????」

珍しく桃華を秋名に任せると頼む恭介に内心驚いた。聞き間違いかと思い問い返すと苦笑を漏らし、肩を下げる。

「・・・・お前の方が話しやすいだろ。桃華も・・・・それにお嬢様もな・・・」

最後の一言は聞かせるつもりがないのか、人ひとり分ほどしか離れていない秋名にすら届いていなかった。何をしゃべったのかと首をかしげる秋名に、気にするなとだけ伝え既に道場へ向かっていたアオたちを追う様に促す。
秋名の足音が遠のくのを確認しながら、恭介は空を仰ぐ。

「お嬢様はお前が必要なんだよ。」

俺じゃなくてな・・・。
続く言葉は夜に溶けてしまった。


ヒメは何も考えず、否考えないようにするため体を限界まで動かしていた。板と体が打ち付けあう音が道場に響く度、見守る桃華は跳ねる心を押し殺す。

「・・・・・・ヒメちゃん・・そろそろ休もうよ・・・」

何度目のセリフなのか。桃華は言う度に声が弱くなるのを実感していた。けれど、目の前で異常なほど鍛錬に努めるヒメに対して、言わないという選択肢はなかった。汗を拭うこともしないヒメに果たして自身は認識されているのか。不安に駆られるがここで離れてはいけないと何かに訴えられていた。
ガタン。
今までヒメの立てる音しかなかったその空間に、明らかな異質のそれが桃華の耳に届く。弾かれるように音の方へ体ごと顔を向けた。

「お兄ちゃ・・・・・!!!」

呼びかけて言葉が止まった。覗かせる顔は予想していた人物ではなく、それも兄から喧嘩したと聞かされていた。が、浮かべる表情は怒りのそれではなかった。三人の顔はどれも心配そうな色を浮かばせ、自身ではなくヒメに向けられていた。当然のことながら秋名も例に漏れず一心にヒメに向けられたその瞳には、それ以外の感情も含まれているように見え、刺すような胸の痛みを覚えた。それでも、ヒメが心配なのは桃華も同じこと。振り払うように顔を振り、動こうとしない三人を招き入れる。

「何してるんですか?ほら、そんなとこに居ないで入ってくださいよ。」
「あ〜〜〜〜〜でも・・・・・・」

渋ることはとアオの腕を無理やり引っ張る。強引な桃華に大した抵抗もせず二人は続いたが、秋名だけは頭をかき未だ入るのを躊躇っている。

「ほら秋名さんも。ヒメちゃんに話があるんでしょ?」

仕様がないんだからと呆れ気味に、しかしどこか嬉しそうに先ほどと同じ要領で秋名を引き入れる。
ヒメの動きの邪魔にならないところに三人を座らせ、桃華はお茶を出すため一度道場を後にする。桃華がいなくなっても秋名たちが来ても、ヒメの動きは変わらずに続く。薙ぎ払い振り上げ、素早く突く。途中隙を見つけたように型を繰り出し、また初動から。それを永遠と繰り返す。ブンブンと空気を裂く音を出しながら、続けられるその動作は洗礼されていた。

「ヒメ。話したいことがあるんだ。」

今まで淀みなく響いていた音が消えた。力なく槍を垂らすヒメは、秋名の言葉を待っているようにも見える。覚悟を決めるように秋名は立ち上がる。

「昼間の続きを話してほしい。」
「続き?」
「朝会った時からお前変だっただろ?元老院に何言われたんだ。」
「何も。円神に気を付けるようにってだけよ。」
「違うだろ!!!!」

声を張り上げ、ヒメの肩を強くつかんだ。痛みに瞬間顔を歪ませ、文句を言おうと開いた口が止まる。耐えるように、辛そうな秋名の顔はヒメの比ではないくらい歪んでいた。

「頼むから・・・・頼むから本当のこと言ってくれよ。何で隠すんだよ・・・・」

風に消えてしまうのではないかと思うほど、その声はか細かった。ヒメは逸らせない秋名の瞳が揺れていることに気が付く。なぁ と問う声が繰り返せれるが、真実を告げるわけにはいかない。

「・・・何でも・・・・」
「相変わらずですね。お姉さま。」

ヒメの否定の言葉をかき消すように聞こえたそれは、鈴の音に似て澄んだ音を残した。
動きのすべてが止まったヒメとは対照的にその元を探す秋名の視線は、開け放たれた戸の一点で止まり、驚きでそれを見開いた。
雲の切れ間から覗かせた月光に浮かぶ漆黒は、凪ぐ風に踊り。鈴のような声は冷たさを感じたが、それは聞き慣れたものだった。

「お前は・・・・・」

驚愕と戸惑いに揺れる声に彼女はクスクスと笑いを漏らす。
疑問が頭の中を踊った。
何故、これ程までに似ているのか。
何故、彼女はヒメを『お姉さま』と呼んだ。
他人の空似などと簡単に笑い飛ばせないほど、彼女たちは似すぎていた。姿も声も瓜二つの彼女たちは、けれどその事実などない。自分は知らない。

「久しぶりすぎて私のこと忘れてしまったのですか?酷いお姉さま。」

言葉は悲しいが全くと言って彼女から悲しみは感じられない。反対にヒメの体が強張る。

「でもね、私怒っていませんよ。だって、大好きなお姉さまに逢えたんですもの。」

一言一言がヒメを追い詰めるように感じ秋名は、彼女とヒメの間に割り込む。息をのむ気配が後ろからしたが、構ってはいられない。一瞬だけヒメを振り返ると目が合った。怯えと驚きと色々な感情が織り交ざった瞳は揺れていた。瞬間秋名は言いようのない感情が湧き上がる。ドロドロとしたそれは何故感じたのか、そもそもどのような類のものなのか全く分からない。ただそれが向かう先。ヒメと似て非なる彼女からヒメを遠ざけなければいけないと直感的に悟った。

「誰だよお前は!!!」
「・・・私のこと話していないのですね・・・・・・」

ヒメを庇うように立つ秋名を心底不思議そうに見つめていた碧が、初めて揺れる。嘲笑するように呟いた彼女は、一瞬のうちにあの儚げな姿が嘘のように、再び笑みをその顔に浮かべる。

「今日はもう帰りますわね。あの方も心配しているかもしれませんし。」

優雅に一礼をすると、何所からか風が舞い込み彼女を守るかのように包み込む。段々と強さを増すそれの中で彼女は微笑みをヒメに向ける。

「それではいずれまた。」

始終崩さなかったその口調で別れを告げると、一際大きく吹き込む風が彼女を連れ去った。







Re: 夜桜四重奏  龍のソナタ ( No.6 )
日時: 2012/04/01 12:00
名前: 時計屋 (ID: Na535wgJ)

第五楽章


「今日はいい月だねぇ〜・・・・・」

プハ〜と煙草の煙を慣れた仕草で吐き出す。子供にしか見えない容姿はしかし、並ぶ女性がその行為を咎めることはない。ゴスロリの服を纏う金髪の女性は、ただ無表情でため息をこぼした。

「ンだよ、マリアベル?」
「いえ。」

素早く見とがめた少年─雄飛は にかっと嫌味を乗せた笑いを見せる。が、マリアベルは、理由を明かすことなく視線を月に合わせる。呆れとも取れるそれを予想済みだったのかそれとも長年の成せる技なのか大して言及もせず、分かっているとでもいう様にククッと笑いを漏らす。

「んで?お前は何しに来たんだ?」

二人しかいない場に不可思議な言葉が響いた。雄飛から紡がれたそれにマリアベルは訝しげな表情を向けるが、当人は気にすることなく煙草を吹かす。

「隠れんのはいいけど、そろそろ出てこいよ。」

瞬間風が舞い上がり、覆う髪に気を取られたマリアベルは隙間から見える陰に目を見開いた。黒髪は長く、少し吊り上った目に月の光で輝くその藍は、鈍くけれど強さを秘めている。優雅にひざを折り、礼をとるその姿は、纏う衣装が違ければと脳裏に浮かぶその人と酷似している。

「お久しぶり・・・・・と言っても?」
「何しに来たんだ?」
「お変わりないのですね。流石は神様と言うところでしょうか?」
「円神とつるんでんだって?」
「飽きませんか?何年も人間を傍観し続けるって。」

かみ合わない話を何所か楽しげにユメは笑みをたたえた。嫌悪感を抱かせる様なその仕草にマリアベルは顔を顰めるが、雄飛は特に意に介した様子もなく人を食ったような笑い方を返す。それに対して呆れるようにユメは肩を落とすが、笑みは崩さない。偽りいだと知っていても好意を向けてしまいたくなるほど、その表情は完成されていた。

「・・・・・・全く。八重さんのお兄様とは思えませんわ。まるで違います。あの方はもっと人間らしいのに。」
「まぁそう言いなさんな。人には得手不得手があんだよ。」
「人の身でないあなたがおっしゃいますか?」
「それに。この方がお前の目的を達成しやすいだろ?」

そこで初めてユメの表情が消え、雄飛を真っ直ぐに見やる。決して睨んではいないその眼光はしかし、明らかに鋭さを増していた。対して雄飛が遅れをとるわけもなく、静かだが確実につい先程まで流れていた穏やかな時間は、何処へと遠のいてしまっている。
両者間で飛び散る火花の行方を、マリアベルが固唾をのんで見守る中、突如として鳴り響いた場違いな音は、三者を一様に脱力させた。その発信源が自分だと気付いたマリアベルは、わたわたと鞄を漁りはじめる。

「マリアベル・・・・・」

顔は見ないが明らかに呆れが帯びた声色の雄飛に、やっと携帯を見つけ出したマリアベルが頭を下げ、二人から少し離れた。一応の配慮なのか残された二人は同時に吹き出し、その場が和らいだ。その原因を作った彼女は電話の相手へと何やら怒っていたのだが、次第に深刻そうに眉を顰め、横目で一瞬ユメへ視線を向けた。それに気が付いたユメは潮時だとでもいう様に息を吐き、現れた時と同じ笑みを雄飛へ向ける。

「今日はこれでお暇しますわ。」
「つれないねぇ〜。俺としてはもう少し話をしてもよかったんだけどさ。」
「元々の目的は貴方ではありませんでしたし。」

それにと続け、ヒメは雄飛の後ろで困り顔のマリアベルへと視線を移した。

「彼女がやきもちを焼きそうなので。」

悪戯っ子のようにはにかめば、雄飛は仕方ねぇと肩をすくめる。それを是と取り、合図したかのように風が巻き起こる。

「お前が何を考え何を起こそうとしても、楽にはいかねぇぜ。きっと。」

心得ているといった風にユメは頷き、その鋭い眼光を向ける。碧い瞳は真っ直ぐに雄飛を、優美な光で捉えた。

「        」

去り際ユメは何かを口にし、そして微笑んだ。切なそうな、それでいてとても嬉しそうなユメの笑顔に、雄飛は遣る瀬無いように顔を顰めた。

「破滅の道でもお前はうれしいのか・・・・・・・」

無意識のうちに同情の言葉を漏らした自分を驚くと同時に、自嘲する笑みを零す。

「・・・・今更何言ってんだかねぇ〜・・・・」
「区長。」
「ん?」

いつの間にか傍に寄っていたマリアベルが心配と不安を織り交ぜた表所で覗き込んでいた。揺れる瞳が何かを言いたげだが、残念なことに雄飛には分からない。
内心気付けなかったことに驚きもしたが、それを表に出すことはせず、何事もなかったかのように続く言葉を待つ。

「今、秋名さんから電話が来て・・・・その・・・・・」
「秋名が?・・・・何かあったのか?」

「・・・槍桜ユメの事についてと。」

なおも言いよどむマリアベルの続きを促す。視線を下げる彼女は言いにくそうに、だがはっきりとその名を口にする。その一言で全てを理解した雄飛は、眉を顰め大きく息を吐いた。ガシガシと乱暴に頭をかく彼は、しゃあねぇ とだけ呟き槍桜の屋敷へ足を向ける。
後に続くアリアベルを確認しつつ空を仰いだ。





Re: 夜桜四重奏  龍のソナタ ( No.7 )
日時: 2012/06/02 13:48
名前: 時計屋 (ID: Na535wgJ)

第六楽章


「今、雄飛さん呼んだから。」

携帯電話を片手に振り替える秋名は、消沈する面々を見渡す。その場の誰もが口をつぐみ気遣わしげな視線を交差させる中、秋名は一人離れ居間の柱に寄り掛かるヒメの隣へ座る。
顔は向けず、また見ようとも思わなかった。

ユメが去ったすぐ後、問いただそうと詰め寄った秋名が見たヒメの表情は、恐怖と悲哀が織り交ぜられ、日頃凛と強い光を宿す紅も、その為りを潜め零れそうなほど涙が溢れている。落ちそうになる度堪え、それがまた悲しく、今まで抱えていた怒りを消し去るには十分すぎるが、それも一瞬のうちに消えてしまい秋名以外誰も気づかなかった。

兎も角現状の確認を求めた恭介たちに、ヒメは雄飛を呼ぶまではと待ったをかけ、渋々ながらも了承した彼らは、一先ず道場から場所を移しある程度落ち着きを取り戻したところで秋名が雄飛へと連絡の電話をかけるに至った。

ちらりと横のヒメを盗み見る。
幾分かは落ち着いたように見えるが恐らくそれは表面上だろう。ここで慰めの一言でもかけるべきなのだろうが、生憎そんな器量を秋名は持ち合わせてはいない。また、ヒメ自身も求めてはいないだろう。結果、秋名は無造作に頭を掻く仕草をするしかなかった。

「まいどー♪」

重苦しい空気の中届くその声は待ち人の来訪を告げる。咄嗟に動いたのはいつもの習慣からか桃華だった。後からつられるようにアオ、ことはと続き、窺う仕草を見せた恭介は結局その場を動かなかった。

「よう息災か?」

この場を見てどこの口が言うと突っ込みたくはなるが、その飄々といた言動から無駄だと悟る一同は曖昧に答えを返す。それでも雰囲気にのまれることなく「そうかい」と淡々と腰を下ろす姿は、容姿とはかけ離れていた。

「んで?俺をここに呼びつけたんだ。ろくな要件じゃないよな?」

まるで今からの内容を把握しているようなその言い草に秋名は顔を顰める。それを見て雄飛が薄ら笑いを浮かべた。

「大方、槍桜ユメの事だろう?」

その名に今までうつむき加減だったヒメが顔を上げる。明らかに睨んでいるとわかるような鋭い目つきを雄飛に向け、組んでいた腕をほどいた。

「区長・・・・やっぱり・・・」
「おう。」

主語もなく受け答えされる会話は秋名をイラつかせる。それは、『隠し事がある』と直に言われるよりも心を逆撫でされる気分だった。

「お前なっ・・・!」
「お話頂けますかお嬢様。」

感情のまま怒鳴る姿勢を見せた秋名を恭介の冷静な声色が遮った。テーブルを挟んで対角線上に座っていたため、身を乗り出していた秋名は恭介を見上げる姿勢になっている。淡々とした物腰は変わらずとも、怒りを隠しきれていない恭介に秋名は押し黙る。

「槍桜ユメなる人物。その者とお嬢様との関係を。」
「恭介・・・・」
「あの言い分、容姿、そしてお嬢様の反応からして無関係では無いはず。お嬢様すべてお話しください。」
「出来ない。」
「お嬢様!!!!」
「これは槍桜の問題よ。皆を巻き込むわけにはいかない。」

拒否の姿勢を崩さないヒメ。意志の強さを表すがごとく向けられる言葉に今度は恭介が言葉を失う番だった。命令でもなければ、お願いですらないその言葉。いつもの調子なら意地を張らないで下さいと一括するところが、それすら場違いの気がしてくる。
先に逸らしたのは恭介だった。それでも、諦めきれないことを伝えようと視線を戻すが、続く言葉はなかった。


「・・・・・いいんじゃねぇの?」

軽い声が響き、一同がその主を見やる。視線を集めた雄飛は、しかし大して気にすることもなく煙草を吹かし、天井を仰いでいた。

「雄飛さん・・・・・?」

意外な味方を信じられないと見開いた目で見つめる秋名を、戻した目線で面白ものを見たかのように笑いを漏らす。ヒメはヒメで驚愕のまなざしを向けている。

「槍桜ユメの事全部話してやれよ。」
「けど・・・」
「ここまで来ちまったんだ。ごまかすのも面倒だし、何よりこいつ等が納得するわけねぇだろ?」

尚も言い淀むヒメに雄飛は諦めろと意を込め煙を吐く。指摘された秋名たちは期待を含ませ雄飛とヒメのやり取りを見守った。

「円神も絡んでる以上、もう槍桜だけの問題じゃない。お偉い方にあることないこと吹き込まれる前にお前の口から説明してやんな。町長だろお前さんは。」

涼やかな声に徐々に覚悟が削がれていく。それでも、悔しそうに唇をかみしめるヒメに雄飛は最後の一手として、『町長』の名を使う。弾かれるように顔を上げるヒメは暫く雄飛を見つめ、張り詰めた空気を解くかのように息を吐く。

「わかった。話すわ全部。」
「ヒメ・・・・・」

小さく名を呼ぶ秋名に 仕様がないわ と、苦笑を漏らす。

「区長の言うとおりここまできたなら、皆にも説明していた方がいいのかもしれない。」
「お嬢様・・・・・・それでは・・・・」
「但し。私も会った記憶はあまりないから詳しくは話せないと思うけど。」

確認するように首を傾げたヒメに、秋名たちは心得たと首を縦に振る。それなら と崩していた姿勢を正し、自身を落ち着かせるために息を吐く。

ごめんなさい。おばあ様。

幼いころの約束を止むお得ない言え破ることになったことに対し、心の中だけで謝罪をする。

「あの子は、槍桜ユメ。私の妹よ。」

告げられた言葉は驚きを通り越して一瞬反応できなかった。

「妹?・・・・けど・・・・俺は知らないぞ!!!お前に妹がいたなんて。」
「私もです。」

幾分か興奮している秋名と、冷静だが明らかに動揺している恭介。その二人とは対照にヒメは落ちつた素振りで、しかし迷いもあるように俯く。ことはとアオはそんな三人を順に見る。心配そうに顔を歪ませるアオをことはが励ますように肩を抱き寄せた。

「知らなくて当たり前だ。生まれてすぐ送られたんだからな。」

秋名と恭介の問いかけをヒメはただ聞いていた。何と返せば二人を誤魔化せ、巻き込まずに済むのか思案している彼女を余所に雄飛は決定的な言葉を口にする。

「送ったって・・・・何で!!!・・・・まさか・・・・『堕ちた』・・・・・・のか?」

あまりにも聞き慣れ過ぎた単語にヒメは首を振る。それが秋名たちの疑問をさらに強くした。
『あちらとこちらの世界は同質量でなければならない』。何時か土地紙が説いていたそれは流星のように空から舞い降り、そこに意志はない。『堕ちた』人間はことは曰く「運が悪かった」のだ。“たまたま”溢れた力の矛先に、“たまたま”人がいた。それだけの事。
そして、その力を受け止められた人間が『半妖』として新たな道を生きることになる。しかし、幸運を受けるのはいつだって少数派。大半の人間は受け止めきれず、比泉のお役目であちらに調律される。
その可能性を示唆した秋名の考えを、しかしヒメは否定した。

「堕ちたわけじゃない・・・・・ならどうして・・・・・?」
「・・・・ユメは強すぎたの。」
「強すぎた?」

意味が分からず鸚鵡返し調に問う秋名に、自嘲気味に顔を歪めるヒメは頷く。

「あの子の力は強すぎたの。それこそ、こちらの世界に影響が出るくらい。だから、八重さんですら封印しきれなかった。」
「封印・・?」

秋名の呟く声に、ヒメは笑みを零し徐に首のマフラーを取り始めた。長いそれが全てヒメの手に収まれば、隠されていた首の傷が現れる。

「この傷は私の妖力を封印する時に出来たもの。おばあ様と同じように。」

三日月を寝かせたようなその傷を手で覆い隠す。
自身や祖母が持つそれは、土地神に願った封印の証。人外の力を持つ妖怪の中でも神に近しい龍の化身である槍桜の一族は秀でて強い。それ故、現世に影響が出ないよう八重に封印を頼む。

「私も、おばあ様も一族の中では強い方だけど、ユメは私たちの比じゃなかった。」

けれど、ユメは違うとヒメは首を振り、彼女は異質だと言外に告げている。

「現世にユメの力の影響が出る前に雄飛さんにお願いして、送ってもらったのよ。」

ヒメの答えはどこまでも冷たく、重さを持っていた。






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