二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
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- 魔王のでし
- 日時: 2011/07/01 17:00
- 名前: 山田 (ID: 784/wjkI)
僕が5歳だった頃。
婚約者のアリスと一緒に鬼ごっこをしていた。
アリスが逃げて僕が鬼。
彼女の金色の長い髪の毛を見ながら、タッチするべく追いかける。
でも、アリスの方がこの時少しだけ足が早かったからかな?
僕は彼女に翻弄されっぱなしだった。
アリスとの婚約は、僕の両親とアリスの両親が仲が良かったので、僕たちが生まれてすぐに婚約を決めたらしい。
僕の家もアリスの家も貴族同士だし特に問題もなかった。
「あまり遠くに行っちゃ駄目よ〜」
そんなアリスのお母さんの声がする。
アリスのお母さんはアリスと同じ金色の髪の毛を長く伸ばしていて、綺麗だな〜なんて思ったのを今でも覚えてる。
この時僕達はそんな声を聞こえなかったことにして、森の中へと入っていた。
いつもこの森の中で遊んでいたし、きっとアリスのお母さんも1つため息を吐く程度で見逃していたのかもしれない。
でもこの森に入った事が僕の運命が大きく変わる事になるなんて、小さかった僕はこの時わかるはずもなかった。
- Re: 魔王のでし ( No.13 )
- 日時: 2011/11/21 23:21
- 名前: 山田 (ID: qzlbh8SM)
最近更新できなくてすいませんリアルが多忙のため更新できませんが少しずつ更新したいとおもいます
- Re: 魔王のでし ( No.14 )
- 日時: 2011/11/21 23:24
- 名前: 山田 (ID: qzlbh8SM)
それから……家に着くと家の中が大騒ぎになっていました。
「ケイトお坊ちゃまが大怪我をなされたらしいぞ!」
黒い燕尾服に身を包んだ執事さんの1人が他の執事さんやメイドさんへと伝えていました。
それを聞いた執事さんが、また次の人へと伝える……そんな状況で、でも彼らは足を止める事無く、医療セットや白いタオルなどを忙しなく運んでいました。
私の家の使用人さんはケイトの家族を物凄く慕っています。
他の貴族とは違って、平民に威張らず平等な立場で接しているからだと思います。
ちなみに私とケイトの婚約が決まった時なんて、両方の家の執事さんとメイドさんが万歳をたくさんしていたのを今でも覚えている位凄かったんです。
この時は何でそんなに喜んでいるのか分からなかったけれど、今なら分かる気がします。
平民と平等な立場で接する貴族同士が一緒になったのだから……平民達にとってはさらにいい統治をしてくれる!と考えたんだと。
バタバタと執事さん達が走り回る音が家から響いていました。
その足音はどこか切羽詰っているように、緊張に包まれた足音。
私とお母さんも執事さんに案内されて、ケイトが居る部屋へと向かいました。 ケイトの部屋の前では、たくさんの執事さんとメイドさん達が扉の前で心配そうな顔をしながら、扉を見ていました。
私とお母さんは執事さん達に一礼をしてから、扉を開けて部屋の中へと入っていきました。
中にはケイトの両親と私のお父さん、それに白衣を着たお医者さんがベットにうつ伏せに眠るケイトを涙を流しながら見つめていました。
その部屋の雰囲気が、物凄く重くて私はその部屋に足を踏み入れるのに少し勇気が必要でした。
お医者さんらしき白衣を身に纏った人が手にたくさんの機材を持ちながら、私達と入れ替わるように部屋から出て行きました。
私達はケイトが寝ているベッドへと近く。
ベッドを挟んで反対側、窓側にケイトの両親が座っています。
私の家族はドア側に座りました。
- Re: 魔王のでし ( No.15 )
- 日時: 2011/11/21 23:27
- 名前: 山田 (ID: qzlbh8SM)
そんな頃合を見計らってケイトのお父さんが切り出すようにゆっくりと口を開きました。
「ケイトはもう魔法が使えないそうだ……」
その声は涙声でした。
「それは…どういうことですか?」
私のお母さんが尋ねると今度はお父さんが、少しためらいがちに口を開いた。
「背中を切られた傷は深くなかったから、魔法を使えなくなる原因にはならなかったそうだ。
魔法を使えなくなった、いや使えなくしたのは……
3箇所の刺し傷らしい」
「ま…まさか…」
突然お母さんが目を見開きました。
「そのまさかなのです。
ケイト魔力回路と源をやられてしまいました……
お医者様に治せないのかと聞いたのですが、この世界の一番の医療魔法でも無理だそうです……」
ケイトの眠るベッドの白いシーツをグッと握り締めながら言ったケイトのお母さん。
そんなケイトのお母さんの様子を見て私はお母さんに尋ねた。
「私を庇ったから?
私を庇ったからケイトが魔法を使えなくなっちゃったの?」
今でもこの時の事は覚えています。
私のせいで魔法を使えなくなったの?そんな事がグルグルと私の中を巡りました。
「何があったか話してくれないかい?」
そんな私を見て言うケイトのお父さん。
私はお母さんに説明した時同じように話し出しました。
魔族に襲われた事、私を守るためにゲームと称した拷問に耐えてくれたこと。
ケイトの両親は目を瞑って何も言わず最後まで聞いていました。
「ケイトはちゃんとアリスちゃんを守ったのだね?」
ゆっくりと目を開きながらこちらを向いて確認するケイトのお父さん。
「はい……私を守ってくれました」
私は涙を流しながら頷きそう言いました。
何で私はあの時に何もできなかったのだろう?
私は小さいながら自分を責めていました。
「そうか、そうか……ちゃんとアリスちゃんを守ったのか」
そう言ったケイトのお父さんの目からは再び涙が零れ落ちました。
笑みを浮かべたまま、とめどなく落ちる涙を拭うこともせずに泣きながら、ケイトの頭をそっと撫でる。
「ケイト、お前は偉いぞ。
命を張ってアリスちゃんを守ったんだからな。頑張ったな……」
涙を流しながら笑顔で、未だに目を開けないケイトに言うケイトのお父さん。
その間ケイトのお母さんはただただ涙を流し続けていました。
私達家族は静かにお父さんに促されるように、ケイトの居る部屋から出ました。
部屋の外にはたくさんの執事さんとメイドさんが心配そうな顔をしながら立っていました。
そんな心配そうな様子の皆を見てお父さんが口を開きました。
「大丈夫だ。生きてるぞ」
このたった二言で皆の表情が安堵した表情になりました。
お父さんはそんな安堵した表情の皆を確認すると、廊下を歩き出しました。
私とお母さんはその後ろについて歩きました。
誰もしゃべらない沈黙がしばらく続いた時、お父さんが前に足を進めたまま言いました。
「アリス、ケイト君との婚約は流れてしまうかもしれない……」
「え?」
私はその時その言葉の意味が全くわからなかりませんでした……
すると横を歩いていたお母さんが顔を伏せて、悲しそうな顔をしながら言ました。
「魔法が使えない貴族の子供は……普通捨てられるのよ」
「じゃあ、ケイト捨てられちゃうの?」
と私は恐る恐る尋ねました。
両親は黙ったまま足を前へと進めていきます。
小さかった私でもわかりました。
それは無言の肯定でした。
「私のせいで捨てられちゃうの? ねぇ…私のせいなの?」
私はお母さんに涙ながらに尋ねました。
お母さんに否定して欲しくて、私はお母さんの着る服の端を軽く引っ張りながら尋ねたけど……
「事故だから仕方ないわ……」
そう苦そうな顔をしながら言うお母さん。
私の事を考えての精一杯の言葉でした。
「私……ケイトと結婚したいよお父さん……」
お父さんはこちらを振り向く事無く言いました。
「すまない……」
その声は涙声でした。
自分の部屋の近くまで来た時に私はお父さんとお母さんと別れ、1人自分の部屋へと向いました。
自分の部屋に私は無言で入っていきます。
そしてベッドに飛び込みました。
今日の事が夢であるようにと願いながら、日が暮れるまで私は涙を流し続けました。
- Re: 魔王のでし ( No.16 )
- 日時: 2011/11/21 23:31
- 名前: 山田 (ID: qzlbh8SM)
涙を流しているうちにどうやら眠ってしまっていました……
ゆっくりと体を起こすと、いつの間にか部屋の窓から見える景色が夜になっていました。
私はそっとベッドから起き上がると、目覚まし時計をチラリと見ました。
時刻は11時半……
私はさっきの事件を夢だと思いたかった。
だけどもすぐに夢じゃない事がわかりました。
着ていた服の裾に赤いシミのような物。
「夢じゃないの?」
私はそう小さく呟きました。
そう呟くと同時に涙が零れてきました。
私を庇ったせいで魔法が使えなくなったケイト……
そのせいで捨てられそうなケイト……
私は居ても立ってもいられなくなって、部屋から出ました。
夜なので暗く静かな廊下。
私はケイトの居る部屋へと足を進めます。
どうしても夢だという事にしたかったから。
ケイトの居る部屋の前まで来てゆっくりとドアノブを回しそっと中に入りました。
部屋の中央に置かれたベッドの上に上半身を包帯で巻かれたケイトが横たわっていいました。
「夢じゃないんだね……」
私はゆっくりとケイトに歩き近づきながら呟く。
ケイトの傍に近寄って私は壊れたように繰り返し続けました。
「ごめんね…ごめんね…」
そう言う度に涙が目から溢れてきて、涙で視界が見えなくなる……
「なか…ないで」
そう聞こえて慌てて涙を拭いケイトを見ると、ケイトは目を開いていた。
でも表情はどこか苦しそうだった。
「けがは…なかった?」
無理矢理微笑んだ表情で言う彼。
「なかったよ!なかったけど…ケイトが……」
「そっか、よかった…よかった」
そう言って笑いながら涙を流したケイト。
私はそんな彼に、泣きながら言う。
「良くないよ! ケイトは私のせいで…魔法がつかえなくなっちゃったんだよ? それにそんなに傷だらけに……」
「そうか……魔法使えなくなっちゃったのか
でも僕の魔法より……体より……アリスの方が大切だから
だから……笑って?ね?」
そう言ってケイトは涙を流したまま微笑んでいた。
私は涙を堪えて無理矢理笑顔を作った。
きっとこの時の笑顔は笑顔になってなかったと思う。
- Re: 魔王のでし ( No.17 )
- 日時: 2011/11/24 05:27
- 名前: 山田 (ID: t7y4Iwob)
「誰か居るの?」
と後ろから声がして私は振り向いた。 そこにはゆっくりとドアを開けて入ってくるケイトのお母さんの姿があった。
「ケイトのお母さん……」
私は慌てて涙を拭うと、ケイトのお母さんは見なかったことにしてくれたのか、笑みを浮かべながら声をかけてくれた。
「あら、アリスちゃん……
こんな時間にケイトのお見舞いかしら?」
でも、ふんわりと包まれるような声だったけれど、彼女の目と目の周りは真っ赤だった。
「お母さん……?」
ポツリとかすれる声でケイトは彼女の事を呼ぶと、彼女は目を見開きベッドに慌てたように近づく。
「ケイト? ケイト!? 目が覚めたの?
お医者様もしばらく目を覚まさないと言っていたのに……」
そう言って涙ながらにケイトに近づいて、そっとケイトの頬に手を触れる。
「心配かけてごめんね……」
ケイトはそう言って微笑んだ。
今にも目の前から消えてしまうんではないか?
そう感じるぐらい弱々しい声と微笑み。
ケイトのお母さんはそんなケイトの表情を見て……やさしく微笑み返していた。
そんな時またドアの方から声がかかる。
「ケイトは大丈夫か?」
ドアを静かに開けて入ってきたのはケイトのお父さん。
「お父さん……」
「ケイト!目が覚めたのか!心配したぞ?」
そう言って同じように目を見開いてから、ケイトが横たわるベッドへと近づいたケイトのお父さん。
「ケイト……良かった、本当に良かった」
ケイトが目を開けているのを確認すると、彼は安堵の表情を浮かべた。
私はそんな風に心配している2人を見て思う。
本当にケイトを捨てるのだろうか?と。
小さな私は一生懸命考えた。
だけども、小さかった私では答えなんて出なかった。
そんな時に突然声がかかった
「アリスちゃんも……心配で見に来てくれたのか?」
その声はケイトのお父さんの物だった。
「うん……」
「そうかそうか、ありがとうな……」
ケイトのお父さんは私の頭を軽く撫でながら微笑んだ。
「ケイト…実はだな……」
ケイトのお父さんは眉間に皺を寄せて、悲しい表情を浮かべケイトに向きなおり言いました。
その言葉でケイトのお母さんも俯きました。
「僕が魔法を使えなくなったこと? アリスからさっき聞いたよ?」
ケイトは消え入りそうな声で言いました。
「すまない、ケイト。
私達がちゃんと目を離さなければ……」
ケイトのお父さんは頭を下げました。
「いいんだよ、父さん気にしないで?
僕は、アリスが無事ならそれでいいんだ」
弱々しい笑顔と共に言うケイト。
するとまたそっとドアが開く音がしました。
「病院と大型の馬車の手配がやっとできたぞ?」
そう言ってゆっくりと入ってきたのは私のお父さんとお母さんだった。
「すまないな、こんな時間まで……」
ケイトのお父さんが申し訳なさそうに言いました。
「気にしないでくれ、アリスを命がけで守ってくれたんだ……
これくらいじゃケイト君には借りは返せないよ」
お父さんは真剣な表情で言ました。
するとケイトのお父さんはそっとケイトを背負うと、ドアからゆっくりと出て行った。
その後をケイトのお母さん、お父さん、お母さんの順で部屋を出て行きました。
それに私はついて行った。
暗い廊下の中、ケイトの包帯だらけの背中が目に入りました。
私のせいで……
着ていた服をギュッと握り締めながら、私は零れそうになる涙を我慢する。
もう一度だけそんなケイトの背中を見てから、私はずっと俯き、皆の後について行きました。
私達は無言のまま家の出口へと着いた。
誰も言葉を発しませんでした。
私は顔を上げて家の出口を見えると、大きな馬車がそこには待機しています。
ケイトのお父さんはゆっくりとその馬車に乗り込んだ、ケイトのお母さんもそれに続いて乗り込みました。
「ありがとう……」
ケイトのお父さんが窓から顔を出して言います。
「いや、気にするな早く病院に」
お父さんが言うとケイトのお父さんが静かに頷きました。
それと同時に馬車がゆっくりと走り出します。
私はその馬車が見えなくなるまで見送りました。
馬車が米粒位の大きさになり見えなくなったときに私はお母さんとお父さんに言いました。
「私……絶対ケイトと結婚する」
「そう……」
「そうか……」
お母さんとお父さんはそれ以上何も言わずに頷いてくれました。
今度は私がケイトを守る番。
好きな、大切な人だから。
「今度は私が守るよ……」
私は見えなくなった馬車の方を見ながら誰に言うでもなく呟きました。
絶対に私が今度こそケイトを守るんだ、そう心の中で何度も呟きながら……
それから何が私達の親の間で話し合われたかは知りません。
だけど、婚約は流されませんでした。
何よりケイトは捨てられる事はありませんでした。
私にはこの事実だけで十分。
そう思っていると馬車の扉が開きました。
「おはよう、アリス」
そんな声と笑顔と共に姿を現したのはケイトでした。
「おはよう、ケイト」
私はいつも通り彼に挨拶を返しました。
ケイトが乗り込み馬車の扉を閉めると、ゆっくりと動き出します。
私達はいつものように雑談を始めました。
馬車はいつも通り学校へと進んで行きます。
そうすべてがいつも通りでした。
馬車に付いている車輪の様に私が知らない内に……
ケイトの運命の歯車はゆっくりと音を立てて動いているなんて、この時私は知るはずがありませんでした。
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