二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

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君が教えてくれたこと〜思い出というキーワード〜
日時: 2011/08/10 00:10
名前: 宇野沢千尋 ◆pcUHgqcj4Y (ID: SkGQb50P)

これは、自分用の小説です。
コメ来たとしても、返信できません。すみません。



〜各物語の目次〜
【君に出会えてよかった】>>2

Page:1 2 3 4 5



Re: 君が教えてくれたこと〜思い出というキーワード〜 ( No.11 )
日時: 2011/08/10 00:17
名前: 宇野沢千尋 ◆pcUHgqcj4Y (ID: SkGQb50P)

—歩み—

泉も、ちゃんと気持ちを伝える事ができ、
俺達の絆はあっという間に仲良くなった。



やっぱり、小学校最後の1年だから、
時が過ぎるのがとても早かった気がする。



6月のプール開きでは、
水谷が海パン忘れて、服着たまま泳いでたな。
あの時の水谷、溺れかけてたの覚えてる。
あれ以来、クラスの皆、誰一人として、海パン忘れないようになったなぁ…。

9月の運動会では、
俺と泉が白組で、
田島と水谷が赤組だっけ。

確か、田島が100メートル走で1位とったんだよな。
そんで、MVPに選ばれてたっけ。
さすが田島だよな〜。
田島は昔からスポーツマンだ。

12月のクリスマス会では、
泉が無理やり水谷をトナカイ姿にしてたな…。
でも、美味しいもの食べて、色んなゲームして、楽しかった。




そして年が明け、
俺らは中学に向けて、受験勉強を頑張った。


俺と田島と水谷は、同じ中学を受けることになった。

泉は、泉財閥だけあり、偉い人だらけの入る学校を受けることになった。



「なぁなぁ、勇人〜ここんとこ、『キボウ』ってどー書くんだっけ」

田島はしょっちゅう俺に勉強を聞いてきた。

田島はスポーツはできるんだけど、
勉強は全然駄目なのだ。まぁ、現在も変わらずだけどね。

正直、俺と水谷と同じ中学に入るのは
無理なんじゃないかなって思ってた。


でも、田島も田島なりに努力して、
無事、4人全員が中学受験に合格したのだ。

あの時は、本当に嬉しかった。
また、田島と水谷と同じ学校で過ごせるから。

泉と別になるのは寂しかったけど、
俺はあの時、泉の事を応援しようと思った。


そして…


辺りの雪が、少しずつ解け始めた頃…。


今までお世話になった、
この小学校の卒業式が訪れた。




入場行進前、緊張して、腹が痛くなりそうだった時、
泉は水谷にこういった。

「おまえー卒業式で泣くんじゃねぇ—ぞ」

「な…泣くわけねぇだろ…ぉ…。」

「うっっわ!今にももう泣きそうな顔してんじゃん」

「な…泣いてねぇし…つか!!!そういう孝介こそ、泣くなよ!!!」

「あったりめーだろ!!!誰かさんとは違って、泣くもんか!!!」

「うー!!!何を———!!!」

泉と水谷のこの会話を聞いてると、
自然と心が落ち着いた。

珍しく腹も痛くならなかった。




———卒業式。



俺は、いつも以上に胸を張ってステージへあがった。

そして、卒業証書を貰い、
卒業の歌を歌っている時、
俺は色んなことを思い浮かべていた。




———田島と一緒にこの学校に入学したこと。


———天才音楽少年の水谷とケーキを食べたこと。


———泉財閥の御坊ちゃまの泉と仲良くなれたこと。





他にも色々。



こんな事を考えていたら、
いつの間にか、目から大粒の涙が、ポタポタとこぼれていた。


それほど、
俺にはいろんな思い出があるのだった。



卒業式が終わり、
校舎から出て4人でいると、
また泉と水谷がじゃれ合っていた。


「やーっぱ文貴泣いてんじゃん」

「な…泣いてなんっか…ない…よ…ぉおっ…」

「あー!!!泣いてる泣いてる〜!!!」

それに混ざって田島も水谷を笑っていた。


こんな光景、
これからも見れるはず…なのに…


俺は涙が止まらなくて
しかたがなかった…。


そして俺は、
無意識のうちに、大声で叫んだ。

「…ッ…ゆーいちろー!!!!ふみき——!!!こーすけー!!!俺と…友達になってくれて…本当にありがと————!!!!!」



俺は、涙を流しながら、
思いっきり叫んでいた。


3人も俺に驚きつつ、


「ゆ———と!!!俺らと友達になってくれてありがと———!!!」


と言って、俺を強く抱きしめた。




「もう!勇人は泣き虫だなー!!!」
そう言う田島の笑顔は、とても暖かかった。



「勇人、俺よりも泣き虫じゃん!!!」
水谷は、涙と鼻水でぐちゃぐちゃにした顔で俺にそう言った。
そんな顔で言われると、ついつい笑ってしまったんだ。


「そろそろ泣きやめよ!俺らいつでも会えるんだし!俺だけ別の学校だけど、頑張るから、勇人も頑張れよ!!!」
泉はそういうと、俺の右手をギューっと握った。





そして、
俺の小学校生活が幕を閉じた。





Re: 君が教えてくれたこと〜思い出というキーワード〜 ( No.12 )
日時: 2011/08/21 14:25
名前: 宇野沢千尋 ◆pcUHgqcj4Y (ID: SkGQb50P)

—第5章—『記憶のカギ』

—事件—

卒業式を終え、俺達は春休みに突入した。

卒業しても、俺ら4人は、しょっちゅうあっていた。
近くのマックに行ったり、ケーキ屋行ったり。
公園で野球したり。


そして、4月7日。
‘新しい気持ち,で俺は、‘南岸中,に入学した。
もちろん、田島と水谷と共に。
奇跡的に、俺ら3人は同じクラスだった。

泉は‘東城学園,に入学した。

‘東城学園,は、泉のように財閥のお坊ちゃんがいたり、モデルがいたり、音楽家の子供がいたり、医者の子供がいたりと、目も合わせられないくらいの凄い人ばかりいるらしい。



入学から1ヶ月後。
それぞれの学校に慣れ始めた頃だった。



「なぁなぁー!!今日午前授業だし、午後から4人でどっか行かねぇ!?」


田島のこの言葉を切っ掛けに、
俺達にとってとても長い1日になるのだった。


「いいねいいね!!!隣の県とか行ってみたい!!!電車で!」
田島の話に、ついつい俺ものっちゃったんだ。

そして水谷も、
「んじゃぁ、孝介にもメールしてみる」
と、皆行く準備万端だった。

メールの返事は、

「あー分かった。んじゃ、今日の12時半に○○駅集合な」

だとの事だった。


「おっしゃぁ!!!!!俺、かつ丼くいてぇな!!!」

「えー俺はケーキ食べたい!!!」

田島も水谷も大はしゃぎだった。
まるで小学生みたいだ。俺らこの時中学生だったんだけどね。

でも、小学生の時と変わらず、
無邪気な2人も見て、俺も安心できたんだ。





約束の時間になると、
俺ら3人は、スクールバックを持って、○○駅へ向かった。



「あれ、まだ孝介来てないみたいだね」

キョロキョロと、泉が来るのを待っていると、
遠くから、

《ブロロロロロロロ》

と凄い勢いで、黒くてピカピカ光っている大きな車が走ってきた。

「こ…この車は!?」

予想通り、赤いカーペットが敷かれると、
黒髪をなびかせて、制服姿の泉が降りてきた。

「こーすけ!!!」

この時、泉の制服姿を始めてみた。

おしゃれな、赤ワイン色のブレザー。
深緑と藍色のチェックのネクタイ。
ネクタイとお揃いのチェックのズボン。
黒くてピカピカ光っている豪華な靴。
さすが、偉い人だけが入る、‘東城学園,だけある。

「№105、もう帰っていいぞ。」

「行ってらっしゃいませ、孝介御坊ちゃま。」

そう言うと、
黒い車は、大きな音を立てて、帰って行った。

その姿に、3人はついついうっとりしてしまっていたらしく、
ずっと泉を見つめてたらしい。

「…あ…の…怖いんだけど…。」

泉はそう言い、腕で自分の顔を隠した。

「あぁ〜ごめんごめん!!!孝介の制服姿、初めて見たからさ!!!すっげー似合ってるよ!やっぱ、孝介はかっこいいなーなんて」

俺は、笑いながらそう言った。

すると、泉は、

「勇人だって、制服似合ってるよ。ミルクティー色のブレザーに紺色チェックのネクタイ、ズボン。」

なんてお世辞。
でも、お世辞だとしても、泉に言われるとなんか嬉しかった。


「早速いくか!!!いざ、隣街へ!!!」

「GO!!!」

田島の掛け声に合わせて、
俺らは隣の県へ行った。

電車の中は、満員だったが、
泉がいるせいか、その車両に乗っている人全員が隣の車両に移動して行った。

「…さすが、泉財閥…。」

電車の中では何を食べるかで揉めていた。

田島はかつ丼がいいっていうし、
水谷はケーキがいいっていうし。

結局、俺と田島がかつ丼食いに行くことに。
水谷と泉はケーキで、別行動してから、途中合流するという事になった。


電車を降り、

「んじゃ、お互い楽しんでこよ—な!!!」


と言葉を残し、それぞれ二手に分かれて行った。



「やっぱりかつ丼には卵だよなー!!!」
田島はかつ丼が食べられるからか、テンションがいつも以上に高かった。

きっと、水谷も同じでテンション上がってるんだろうなって思った。

2人でかつ丼やに向かい歩くこと約10分。

俺には聞こえたんだ。
微かに助けを呼ぶ声を。

「俺、大盛り頼んじゃお—かなー!!」
隣の田島は何も聞こえてないのか、かつ丼話に夢中だ。

「なぁ、悠一郎…」

「ん?」

「今さ、そこの学校の裏から、なんか助け呼ぶ声みたいな聞こえなかった?」

「いや〜?なんも?まーいーんじゃねー?」

「…確かに聞こえたんだけどな…。」



《ごめ…っんなさ…いっ…もう…間違えな…い…かっら…》



やっぱり聞こえる。

次は何か謝ってる声だった。

その時俺は、その声の方へ走りだしていった。



声のする学校の裏に行くと、
そこには、俺と同い年ぐらいの男子3人で、1人の男子を苛めていた。


そして、ボスらしき人物が、
「俺は、メロンパンを買って来いって言ったんだよ!!!てっめぇ、あんぱんなんか買ってきやがって…んざけんなよ!?あぁーん!?」
と、大声で叫んでいた。


俺は、全然無関係なのに、
ついつい一人の男子を助けようと、いじめっ子に前に出てしまった。

「何やってんの!?そいつ、謝ってんじゃん、もうやめなよ」

俺は、助けようと必死に食らいついた。


するとボス的人物が、

「んだてめぇ!?誰だ!?…んぁーいい度胸してんじゃねぇーか。こいつに変わって俺にぶたれるってーのか!!!んじゃー思いっきりぶってやるぜ」

3人は大声を出して笑い始めた。


それに俺も怖くなり、逃げたくなった。
その時苛められていた男子が、

「お…っれの事なんて、いいかっら…逃げ…って…。じゃ、ないと…君までぶたれちゃう…。」

と、俺の腕を必死に掴み言いかけた。
その手は凄く震えていた。

でも俺は、この男子が可哀そうで可哀そうで、
その場から逃げることはできなかった。




「はん、逃げないなら、さっさとやっちまおうか!!!そんじゃー手加減しねぇからな!!!これでも喰らえ—————ッ!!!!!!!!!!!」






《ゴリゴリッ》





———————————。




Re: 君が教えてくれたこと〜思い出というキーワード〜 ( No.13 )
日時: 2011/08/10 01:55
名前: 宇野沢千尋 ◆pcUHgqcj4Y (ID: SkGQb50P)

—恐怖—

《ゴリゴリッ》

ボスらしき人物が思いっきり振った金属バッドが当たって
痛々しい、音が鳴り響いた。

でも不思議と、そんなに痛くなかったんだ。

…だって。

目を開けると、
俺の目の前で、田島が頭から血流して倒れてんだもん。

それを見たいじめっ子たちは逃げて行ったけど、
この、目の前の現実を受け入れることができなかった。


…あれからの記憶は、あまり頭に残っていない。
その時俺は、気を失ってしまったから。


目が覚めると、
黒い髪の毛がふさふさと揺れているのが見えた。

このサラサラした髪は、
泉だとすぐ分かった。

そして俺は、病院のベットに寝ているという事もすぐに分かった。

「…こ…っこうすっけ………」

俺の声は、
今にも消えそうな声をしていたらしい。

「勇人!?」

泉は、俺が目を覚ましたのに驚いて、
大きい目をさらに大きく開いて、振りかえった。

「勇人、大丈夫か…!?」

「…ん…ちょっと、右腕と…右足…痛い…」

俺の右腕は、6針も縫ったそうだ。
そして、右足は骨折。

「前にもこんなことあったな…あんときは、小学校の保健室だったけど。勇人って、本当に優しいよな、困ってる人いると、ほっとけないタイプってやつ?」

泉は、そう笑って話しかけてたけど、
俺にとっては、作り笑いをしているようにしか見えなかった。

だって…





—————田島のこと、一言も話してくれないんだもん。—————








これは、やっぱり、
田島に何かあったって事だろ。

俺を庇ったせいで酷い目にあったから、
俺が傷付かないように、泉はわざと接してくれているんだ。



だから、
思いきって口を開いてみたんだ。




「悠一郎、何処」




って。







そしたら泉、
いきなり、すごく顔が暗くなった。


やっぱり、何か隠してると思ったから、
俺、急いでまつばづえついて、
部屋から出て行ったんだ。



………。



部屋の外の廊下。



ずっと先を見ると、
水谷と苛められていた、男子がベンチに座っているのが見えた。


「文貴…」
俺が口を開くと、

水谷は顔を下げたまま立ち上がり、

「勇人だけでも無事でよかった」

と言いだした。


‘勇人だけでも無事でよかった,


…だけ…って何…。



「文貴…悠一郎…は………」



先生の話によると、
奇跡的に、命は無事だったそうだ。


田島の寝ている部屋に入って良いと許可をもらったから、
俺、水谷、泉、苛められていた男子、先生と入ると

そこには、痛々しい田島が寝ていた。

頭には白い包帯。
腕足もギブスがはめられていた。
顔にも治療した痕がある。

田島は気を失って、全然目を覚ましていないそうだ。


「…ゆー…いちろ…」
いつも元気な水谷も、元気がない。

泉はというと、
「悠一郎、てっめぇいい加減起きろ!!!お前、まだかつ丼くってねーんだろ!?そんなんで…いいのかよ…ッ」
と、田島に訴える。

2人とも涙でぐしゃぐしゃだった。




何やってんだ…俺…。




そん時、
どう受け入れたらいいのか分かんなくなった俺は、
ゆっくりとその部屋から抜け出し、
自分の部屋に戻り、ベットに横たわった。


なんか、一人でいたい気分だったんだ。



その時、
部屋を叩くノックの音がした。


「失礼しまーす。」


聞いたことのない声。
いきなり見知らぬ少年が入ってきた。
その少年は、俺より少し身長が高く痩せていて、黒髪短髪だ。

俺はびっくりして、毛布に包まった。
だって、こんな泣きはらした顔、出したくなかったから。


「え…っと…君、誰?ここ、俺の部屋なんだけど…。」
俺はその少年に言った。

すると、その少年は


「あ、いきなりごめんね。俺、‘西広辰太郎,っていうんだ。この病院の先生の息子だよ。」


どうやら、先生の息子らしい。


「田島悠一郎くんのことだけど、彼ならきっと目、覚ますから大丈夫だよ。あんま、気にしちゃダメだよ。それと、‘三橋廉,くんもね、君に謝ってたよ。そして、お礼も言ってた。」


「…うん…。えっと、三橋廉って誰…?」

「あ、あの、黄色の髪の子。」

どうやら、三橋廉とは、あの苛められてた子のことらしい。

すると、
ドアの外から、小さな声が聞こえた。

「あ…っの…三橋…ですけど…えっと…その…」

三橋廉の印象は、
すっごい、ウジウジしてて引っ込み思案だった。

だから、俺は言ったんだ、
「そんな所にいないで、中に入って話そう」
って。

だって、そうでも言わないと、
中に入ってこないだろうから。

すると三橋廉は、
俺の目の前に来て、

「さっきは…ごめんなさい…ッ!!!そっれと…助けてくれて…あ…ありがとう…。」

でも、俺はその言葉には何も感じなかった。
嬉しくもなかった。

その言葉は、
俺が田島に言いたい言葉だったから。


その時だった…






「ゆ…悠一郎が…目を覚ましたぞー!!!」





部屋の外から聞こえるその声は、
俺の耳にも入った。



その言葉に、
俺の心に明かりが灯った気がした。

でも、それは、その時だけだったのだ。

Re: 君が教えてくれたこと〜思い出というキーワード〜 ( No.14 )
日時: 2011/08/10 23:13
名前: 宇野沢千尋 ◆pcUHgqcj4Y (ID: SkGQb50P)

—記憶喪失—

「悠一郎が目を覚ました」
という言葉に、俺は飛びつき、田島の部屋に急いで向かった。


「悠一郎ッ!?」

俺は部屋に入ると、
部屋には、田島が体を起こした状態でいた。

でも、様子がおかしい。

「勇人…どうしよう…悠一郎が…」
水谷が俺に飛びついて来た。


すると、田島はやっと口を開いて、






「ここは、何処ですか」










—————ここは何処ですか。















普通の田島だったら、
こんな口調はしないはず。

冗談でも冷静すぎると思った。

しかも、手が震えている。


「ここは病院。分かるか?病院」
泉が少し強い口調で言う。


すると田島は、何か思い出したのか、目を大きく開いて、
またベットに1回寝転がって、また起きた。







そして、




衝撃的な言葉を口にする。







「ところで…君たち…誰…?」








田島が、俺達の事を覚えていないなんて。



俺達3人は、一斉に床に座り込んだ。



「俺…確か、自転車に乗ってたら…事故にあって…。」

田島が、不可思議な事を語り始めた。


そのとき…


「…君…自分の名前覚えている…?」

と、西広が田島に聞いた。


「…オキ。」

…!?


「俺の名前は…確か…オキカズトシです。」


「…やっぱりな…。」

西広は、何か分かったようだ。

すると、西広は、
その‘オキカズトシ,の事を教えてくれた。

この‘オキカズトシ,という人物は、
1年前に自転車の交通事故でこの病院に訪れたのだという。

しかし、この病院ではどうにもする事が出来ないから、
大きい病院の方に紹介して、入院しているはずなのだろうだ。

でも、聞いたところ、
あれから一度も目をさましていないとのことだ。




…。





「じゃ、この悠一郎は、オキカズトシの記憶なのか!?」
泉は、西広の話に喰いつく。

「おそらくね」
西広は腕を組み、イスに座る。

「俺も詳しい事は分からない。」




それからというもの、
俺らは元気をなくしてしまった。


いつも賑やかな教室。


なのに、田島がいないだけでこんなに空気が変わるんだ。



もしも、このまま記憶が戻らなかったら………

そう考えると、
胸の奥が縛られるように苦しかった。


毎日、学校の帰りに、
西広病院に行って、様子を見に行くけど、
田島の記憶は戻りそうにない。


俺はその日から
毎日のように、病院以外のある場所に通っていた。



…そう、母さんのいるところ…。



天国の母さんにお願いしていたんだ。


『田島の記憶、そして、オキカズトシの記憶が戻りますように』と。






Re: 君が教えてくれたこと〜思い出というキーワード〜 ( No.15 )
日時: 2011/08/10 23:54
名前: 宇野沢千尋 ◆pcUHgqcj4Y (ID: SkGQb50P)

—幼馴染—

田島が記憶喪失になってから、もう1週間たったとき、
この日もいつものように、林檎の差し入れを持って
病院に向かった。


「悠一郎、林檎食べる?俺、やっと綺麗に林檎むけるようになったんだ…。」

静かな病室で俺はそう言い、林檎をシャリシャリと剥き始めた。


オキカズトシの記憶の田島は、
自分がオキカズトシではなく、悠一郎だという事も
少しずつ理解してくれた。

水谷は、一緒にいても、全然元気がなくなってしまった。
病院にも来なくなった。

泉は、学校も違うし、病院にも来ない。
あれから一度も会っていない。

2人とも、田島の事をどうでもいいとかなったわけではなくて、
ただ、怖くなって、病院に足を入れるのも無理だったんだと思う。



「はい、悠一郎」
俺は、一切れの林檎を田島に手渡した。

「ありが…とう…」
そういうと田島は林檎をシャリシャリと勢いのある音を出して
食べ始めた。

「勇人って…林檎剥くの美味いね」

この時、
久しぶりに田島の笑った顔を見た。

この笑顔に涙が溢れそうになった。



田島とかつ丼を食べに行こうとした、あの日。

あの日も確か…こんな感じに笑顔だったな…。


そして俺は、
無意識に口を開いていた。


「ごめん………かつ丼…食べられなくなって…ごめん…っ」


俺はその言葉を残し、
勢いよく病室から出てってしまった。

そして、知らない間に病院の屋上に立っていた。

そこには、西広の横顔が見える。




…あれは涙だ。






西広は泣いていた。






西広は、俺がいたことに気付いたのか、
「あ…ごめんね…。」
と涙を拭って言った。


俺は、どうしても涙の理由が知りたかったから、
聞いたんだ。

そしたら、西広はこう言った。

「悠一郎くんが言った、‘オキカズトシ,あの人、俺の幼馴染なんだ。」

西広とオキは、昔からずっと仲がよかったらしい。

でも、あの事故のせいで、
オキは目を覚まさなくなってしまった。

「…1年も待ってるんだけどね……全然目ぇ覚まさないんだ…。」

西広はそう言い、
しゃがみ込んでまた涙を流し始めた。

「…俺…怖いんだ。カズトシと会うの。…だから、もう、ずっと病院に行ってない…。俺って…酷い奴だよな…。」

西広の気持ちは、
水谷と泉と全く同じ気持ちだった。

怖くて会えない感情。

だったら、怖くないって思えばいいんだ。
きっと、目を覚ます、そう思って勇気を持って会いに行けば…。

「辰太郎くん…俺…オキに会いたい…」

俺は、西広とオキを会わせる為に言った。

「…だから、…オキのところに連れて行って。」

西広は、少し困ったような顔をしたが、
俺の目を逸らさず、うん、と頷いた。

すると、西広は、勢いよく屋上を飛び出した。

俺もその後を追い、屋上から出ると、
屋上の扉の前に、三橋が泣きながら

「ごめん…は…話…聞いちゃ…った…。」

俺は、その泣きじゃくる三橋を見て、
迷いなく腕を引っ張って、
西広の後を追った。



オキのいる病院は、
俺達の住む隣の県。


電車で2時間乗って着くぐらい。



オキの病院は、西広病院より、
さらに大きくて広かった。


そして…



「ここが…カズトシの病室だよ。」


そう西広が言って、
ゆっくりと足を入れた。


そこにいたのは、
少し癖っ毛の黒髪の男の子。
俺よりは、身長高いようだが、
少しぽっちゃり系だった。

綺麗な白い病院のパジャマを着て、
眠っているかのように横になっていた。

「この子が…オキ…。」

「…今に…っも…目…覚ましそうな顔…してる…っね…。」


その瞬間、
静まり返っていたこの病室が、
西広の泣き叫ぶ声で一杯になった。


「っなんっで…なんで目、覚ましてくれないんだよ!!!!!」

「辰太郎くん…。」

「…西広くん。」

「カズトシ…!!!!!こんなのってないよ!!!!!!絶対、目、覚ましてくれるよな!?また…野球…するんだろ…なぁ!!!!!!!!!!」

初めて見る、西広の素顔だった。
いつもは冷静な西広なのに、
俺と三橋は、何もできずに、ただ見てるだけだった。

「俺…カズトシが目ぇ覚ますの…待ってるから!!!!!!!!!!!!」

西広はそう言い、オキの左胸に拳を叩きつけ、
病室を出て行った。


でもその後、
俺と三橋は、見たんだ。








オキから涙が流れているのが。





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