二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 学園アリス 【道標を貴方に】
- 日時: 2011/02/05 16:15
- 名前: 時計屋 (ID: klLmhm9D)
こんにちは時計屋です。
また、学園アリスの小説を書きたいと思います。
登場人物
名前 白崎榎音[しらさきかのん]
年齢 13歳
アリス 夢のアリス
『リペア』の一員。比較的温厚だが、後先考えず突っ走る傾向有り。自身が原因で一族が殺されたため自己犠牲精神が強く、他人のために命を落としそうになる事もある。アリスを使い人の夢の中を行き来し、情報収集や仲介役のような事もしている。安積柚香とは面識があり、蜜柑達の事を気に掛けている。口調は常に敬語。
名前 蔵人久志[くろうどひさし]
年齢 15歳
アリス 水のアリス
『リペア』の一員。面倒見が良く、組織内での兄貴分で榎音のストッパー役兼お世話係。陽炎に対しては素っ気なく接する事もあるが、何だかんだで一番の理解者だったりする。銃の扱いが上手いため、戦闘時は前衛。
名前 陽炎[かげろう]
年齢 ??(外見年齢高校生)
アリス 不老不死のアリス 変化のアリス
『リペア』のボス。何事にも動じず、物腰柔らかに物事を見定めている。外見は子供だが、実年齢は誰も知らない。学園の事に詳しく、柚香達とも知り合いらしい。
もしかしたら増えるかもしれません。
設定やその他に対しての疑問は深く考えず、「そんなもん」と受け入れて貰えますと嬉しいです。
これから宜しくお願いします。
- Re: 学園アリス 【道標を貴方に】 ( No.14 )
- 日時: 2011/04/15 21:28
- 名前: 時計屋 (ID: klLmhm9D)
第八章【籠の鳥は真実を知らず】
蜜柑達が棗の部屋に戻ると開け放たれた窓の前に佇む少女がにっこりと笑いかける。
「お帰りなさいませ。」
労るように掛けられた声を棗は無視し、二人の間に漂う気まずそうな空気に蜜柑は困ったように笑顔を作る。そんな二人の態度にも少女は変わらず笑みを向け、蜜柑が監禁されていた部屋で出したのと同じアリスストーンをにじり締め、蜜柑の手を握った。
「今から高等部に存在している『鍵穴』に向かいます。」
「そこから逃げるん?」
「えぇ。現状を考えればそのルートが一番確率が高く、また安全だと判断しました。」
「けど、あそこは初等部校長も目付けてんで。先回りされてるんとちゃう?」
「・・・・・」
「失敗すれば俺たち全員どうなるか分かってんだよな?」
「・・・・それでも、他の道はありません。」
少女は二人を宥めるように優しく、けれど有無を言わせない強さを声に込めて続ける。
「塀を越えるにしても別の入口を捜すにしても時間と手間が掛かりすぎます。なにより他の方々に疑いの目を向けさせる事に成りましょう。それだけは避けなければなりません。」
「・・・もし、見つかったら?」
「その時は私がお二人の盾になり、お逃がし致します。」
「そんな!!!そんなあかん!!」
棗の疑問を当たり前のように答える少女に蜜柑が異を唱える。しかし少女は寸分も表情を変えず、ただ微笑む。
「それが私の役目です。」
「そんな・・・・」
「そう、お顔を曇らせないで下さい。手を打っておきました。簡単に倒される訳ではありません。」
「でも!!!」
「・・・・時間ですわ。棗様、蜜柑様をお願いいたします。」
それでも不安そうな蜜柑を棗に任せ、少女は握りしめていたアリスストーンを発動させ高等部にある『鍵穴』へと飛んだ。
真夜中の廊下。月明かりに照らされている『鍵穴』を初等部校長は憎々しげに見下ろしている。
「こんな物・・・・さっさと壊せられば・・・・」
ノブに掛けられた手に力を込めれば みしっ と歪む音が聞こえはするが、別段何が起こる訳でもなくそれは存在していた。
と、誰も居ないはずの廊下から辿々しく聞こえる足音に意識を切り替え視線を向け、現れる客人を迎えるため顔にいつもの不敵な笑みを貼り付ける。待ちかねたように一歩踏み出せば、それが合図となったのか目線の先から火の玉が飛んできた。が、難無くそれを避ければ悔しがるかのように、足音が速く大きくなると共に今度は火柱が辺りを囲った。
「まったく、飼い猫が主人に牙を剥くとは・・・。躾が甘かったようだね。黒猫。」
「うるせぇよ。」
現れた棗達に呆れを込めた言葉と彼らの嫌う異名で呼べば、子供らしく素直に怒りの感情を向けた。予想通りの対応と言葉に初校長は貼り付ける笑みを深くし、ククっ と笑い声を漏らした。それに眉を顰める三人を見て、さらに愉快になっていく。
「こんなに素直に動くとは。やはり君たちは僕の人形に変わりない訳だ・・・。嬉しいよ。相も変わらず操られていてくれる事に。」
蔑む言葉を隠さず使う初校長に焦りなど感じられない。それに対し舌打ちをしたい気持ちを棗は必死に抑えた。
「さぁ。目をつぶってあげるのは此処までだ。これ以上の抵抗は反逆と見なすよ。」
ぱちん と指を鳴らすと、闇から生まれたかのように黒い服の男達がゆっくりと三人に近づき手を伸ばす。
「人形は人形らしく主人の命令に従えばいい。抗う力も逃げる権利も君たちに有りはしないのだから。」
「てめぇ・・・・・」
「あんた何様のつもりなん・・・・・」
凛と響くような冷たい声に棗は一瞬時が止まった様に感じた。聞き慣れたそれは、しかしいつもの彼女のとかけ離れすぎており俄には信じられなかった。
「・・・・驚いたね。まさか黒猫の前でそっちになるとは。」
初めて聞く初校長の声色にその場の全員が蜜柑を見つめる。
「蜜柑・・・・・」
微笑する蜜柑は美しく、けれどその瞳は冷たく何者にも汚されない気高さが蜜柑にはあり、畏縮する程の存在感に棗は目を離す事が出来なかった。
「僕の所から逃げ出す時には態を潜めていたけど・・・・僕はそっちの君の方が好きだよ。気高い姫のようでね。」
「・・・・無駄口はええよ校長。それより退いてほしいんやけど。邪魔じゃ。」
「出来ない相談だ。戯れの過ぎた飼い鳥を野に放つ程僕は優しくないよ?」
「分かった。しゃない、棗。」
呼ばれ はっ とする棗に蜜柑は抱きついた。
「・・・見んといて・・・棗にだけは見られとうないから。」
「蜜柑・・。」
辛そうに呟く蜜柑に何をするつもりなのか察しが付いた棗は、引き止めるように抱きしめる。
「止めろ。やるなら俺がやる。」
「平気。心配せんと。」
「俺がやる。」
「けど・・・」
「私がやりますわ。お二方は急ぎ扉へ。」
頑として譲らない二人に少女が進み出て、持っていたノートから鍵を取り出す。驚く二人を黙殺し、少女が先手をかける。
棗が仕掛けた炎を利用し小規模な爆発を起こすと、相手が怯んだ隙に蜜柑達を『鍵穴』まで連れて行き合い言葉と鍵を差し込み回す。
「道が開けました。お速く!!!」
初等部校長達に体勢を直す暇を与えないように次々と爆発を起こす。
「蜜柑行くぞ!!!」
「待って棗!!」
蜜柑の制止を無視し、棗は『鍵穴』に飛び込んだ。
「蜜柑様を・・・・お願いします・・・・」
吸い込まれていく蜜柑達を少女は危機的状況の中笑顔で見送った。
つづく
- Re: 学園アリス 【道標を貴方に】 ( No.15 )
- 日時: 2011/04/17 11:39
- 名前: 時計屋 (ID: klLmhm9D)
第九章【招かれたお客様に一つの真実を贈りましょう】
鳥の鳴き声で目が覚めた棗は、段々とはっきりしてくる意識の中で現状を見つめ直す。幸い棗も隣で眠っている蜜柑にも目だった外傷はない。その事にひとまず安堵し、それから辺りを見回す。
『鍵穴』が出口へと開いたのは何処か見覚えがある森の中。混濁する意識では此処が何処なのかは確信が持てないが、可能性を挙げればZ侵入時に辿り着いた森が一番の有力候補だろう。人の気配がしない事に恐らくこの場にいるのは二人だけだ。
「これなら蜜柑を休ませられるな・・・・」
取り敢えず場所を移そうと蜜柑を抱きかかえた時、草むらの方から何かが動く音が届いた。一瞬にして緊張が走り、蜜柑を抱えたまま戦闘態勢に入った。棗の鋭い眼光が音のした周辺を警戒するように睨みつけ、アリスの炎をその場に放った。ごう と燃えるそれは、しかし突然勢いを無くしたように消えてしまった。
「おいおい。いきなり攻撃とは酷すぎね?」
お気楽そうな声と共に現れたのは棗達より少し年上の青年だった。薄緑の髪をがしがしと掻きながら少々呆れた様子で現れた彼は、棗の目の前で歩きを止めた。
「俺だから良いけど、他の奴らには少し考えて使えよ。」
「てめぇに言われたくねぇよ。」
「ん?それもそうだな。」
あははは と豪快に笑う彼は、何処か掴めない雰囲気とそれでも頼りになる気が棗にはした。しかし、信用は出来ない。彼が何処の誰だかはっきりさせるまでは。何かを察したのか彼は笑う事を止め、真っ直ぐに棗達を見下ろした。
「俺は蔵人久志。お前達と居た榎音の仲間だ。」
「榎音?」
「そういやぁ、あいつ名乗ってないって言ってたな。白崎榎音。お前達を迎えに行った女。居ただろ?」
「・・・・あいつか・・・」
「あぁ。本来なら自分から名乗る奴なんだけど・・・あいつが渋ってな。まぁ分からなくもないからさ、そこんとこは勘弁してやってくれよ。」
棗が肯定の意味で首を縦に振ると安心したように久志は息を吐き、踵を返し森の先を指さした。
「じゃぁ行くか。此処で話してても始まらねぇし。取り敢えずリーダーん所連れて行く。」
道を造るように草を倒しながら進み始めた久志の後を棗は躊躇しながらも付いていく。蜜柑に草や葉が当たらないよう気をつけながら、度々振り返る久志を睨みつける。その度に久志は可笑しそうに笑うが嫌そうな素振りは全くなかった。
「此処だ。」
暫く歩いた先に久志が指したのは巨大な樹木の根。ぽっかりと空いた穴に棗はさっき挙げた可能性が有った事を確信する。
「ここに入ればリーダーの所に行ける。安心しろよ罠なんかじゃないから。」
「この森・・・・」
「あぁ、お前達も来た事があったんだっけか?この森の中に存在する穴の多くは何処かに繋がってんだ。全部を把握してる訳じゃないが、そこそこ使えるぜ。ま、今は関係ねぇけどな。ほら急げよ。」
穴を指し促す久志に棗は蜜柑を抱える力を強くし、飛び込む。
空間が歪む感覚の中で蜜柑を離さないよう抱きしめた。
光の中目を開けるとそこは明らかに森ではなく、高価なアンティークが部屋を引き立てるように置かれ、その中央に長い銀髪を後ろで束ねた青年が人懐こそうな笑顔を浮かべ長テーブルの奥に座っていた。
「よく来たね。日向棗君。」
澄んだ彼の声は部屋全体に広がり、自然な程静かに消えていった。
「てめぇは・・・・」
「ん・・・」
「蜜柑!!」
今まで眠っていた蜜柑が声を漏らし、ゆっくりと瞼が上がった。
「あ・・・・れ?棗・・・ここ・・・は・・・?」
まだ完全に覚醒していない頭を起こすように辺りを見回す。
「あれ?うちどうなったん?あの子は?」
「蜜柑落ち着け。」
「でも・・・棗、校長先生が・・・」
「いいから。落ち着け。ゆっくり深呼吸しろ。」
蜜柑は言われた通り自身を落ち着けるため深呼吸し、やっと焦点の合った目を棗に向けた。
「もう大丈夫。ごめんな。」
「いい。・・・それより此処は何処だ。」
棗は蜜柑に向けていたモノとは明らかに違う、睨むような目付きで青年を見据える。それでも青年は意に介した様子もなく微笑み続けている。
「椅子に座りながらお話ししますよ。」
「てめぇは誰で何のために蜜柑を必要とした。」
「・・・まずはっきりさせましょう。僕たちは君達に危害を加えるつもりはありません。ですから、そう睨まないで下さい。」
「棗・・・・」
困ったように笑う蜜柑に呆れたようにため息を吐き、頭を撫でるとしょうがねぇと呟いてから勧められた椅子に座り蜜柑がその隣に座った。
「それでは、まず何を話しましょうか?」
「てめぇらの目的。」
簡潔に答えられた棗に、ふむ と考えるような仕草をしてから青年は身を少しだけ棗達に向ける。
「私達の目的は・・・・初等部校長の失脚ですよ。」
青年は静かに、けれどもはっきりとした声で言いはなった。
つづく
- Re: 学園アリス 【道標を貴方に】 ( No.16 )
- 日時: 2011/04/23 18:25
- 名前: 時計屋 (ID: klLmhm9D)
第十章【願いは孤高なり それ故歪められる】
「なんだと・・・・」
「おや?聞こえませんでしたか?私達は彼の失脚、つまり学園から立ち去って欲しいのですよ。」
穏やかな彼は無謀にも思える事をさらりと口にする。
静寂の中時計の針の時を刻む音が六十回響いた頃、重苦しそうに扉が開きその奥から久志と抱き上げられた榎音が姿を現した。
驚くように目を見張る二人とは対照的に穏やかな表情で帰還した二人を青年は迎える。
「すいません。発見した時は既にこの状態で。」
「謝る事はありませんよ。彼女が決めた事でしょうから。」
抱えられた榎音には無数の切り傷と、痛々しい程火傷の痕が残っていた。止血のために巻いたであろう布も真っ赤に染まり役目を果たすことなく、血が滴り落ちていた。
「隣の部屋で怪我の手当をしてあげて下さい。私も話が終わり次第行きますから。」
久志は少し見定めるように棗へと目を向けるが、何も言うことなく命令されるまま入ってきた扉に戻る。がちゃん と閉まる音が響き再び部屋の中に重苦しい静寂が戻った。
「あの子・・・大丈夫なん?」
沈黙を破ったのは蜜柑だった。不安の色を見せる声と目は今も扉へと注がれている。
「心配はありませんよ。医療設備は整っていますし、何より彼女は強い。そう簡単に死にません。・・・・彼女がそれを望むかは別の問題ですが・・・・・」
「え?それって・・・・」
蜜柑の疑問を笑顔で黙殺し、それた話題を無理矢理に戻す。
「校長の望みを知っていますか?」
「いや。」
「校長はより強いアリス、珍しいアリスを捜しています。そのアリス保持者を集め、利用する場がアリス学園、危険能力系です。」
「俺らはあいつのために集められたのか?」
「いいえ。アリスを持つモノの中に彼が居り、そりて校長になった。危険能力系は彼が作ったモノですが、元々学園の存在理由は子供達を外から守るために作られたモノ。」
切なく伏せられた青年の目は何処か懐かしさを蜜柑に与えた。
「けど、だったら校長の目的はアリスを集めること?」
「それもありますが、彼の本当の望みは失ったモノを取り戻す事です。」
「失ったもの・・・・?」
「誰しもが願う事けれど誰にも叶えられない事です。・・・彼はそれを叶えるため他人も自らをも犠牲にしようとしています。」
決して大きくはないその声は棗に言いようのない歯痒さを感じさせる。
誰もが望む事。大切なモノが在れば一度は願う事。しかしその願いは叶う事など無い。それは世界の流れを無視するに等しく、人の手では変える事の出来ない絶対不変の理。
「彼のやっている事、やろうとしている事は許される事ではありません。どんな理由であろうと食い止めるべきなのですが・・・・・」
急に青年の声に影が差した。今までの余裕が消え、不振に思う棗と蜜柑は顔を合わせる。
「今の我々では学園に侵入は可能でも確実に彼の目的を止めるのは不可能です。ですから・・・・」
「蜜柑を呼んで訳か。」
「えぇ・・・現在彼が最も恐れ、それ故に有効な手段は蜜柑さん。貴方なのですよ。正確には貴方が受け継がれたアリスですが。」
「けど・・・・うちは・・・・」
向けられた穏やかな微笑みの中にほんの少しだけ淋しが見え蜜柑の胸が軋む。即答出来ない自分に悔しさが込み上げ唇を噛んだ。
「下らねぇ・・・」
「棗・・・」
「どいつもこいつも・・・自分の都合にこいつを利用してるだけじゃねぇか!!てめぇらも学園側と大差ねぇよ!!」
棗は今まで以上に鋭く青年を睨みつけた。立つ時の勢いでガタンと座っていた椅子が鳴る。雰囲気も険悪になり、隣にいる蜜柑が無意識にビクついた。しかし、青年は慈しむように二人を見つめるだけで全く怯える様子もない。
それがただの強がりではない事を察した棗は乱暴に座り直す。
「そうです。私も彼らと何ら代わりはありません。願いのために久志や榎音、それにあなた方を利用しようとしています。」
静かにそして優しく語る青年は棗の怒りを肯定し、言い訳の素振りすら見せない。
「方法、目的も彼らとは違いますが、あなた方にとっては私は彼らと同じ、嫌うべき人間です。」
自身で認めてもその強い眼差しは変わらない。
「それでも尚、私はお願いしたい。あなた方の協力を。」
「・・・俺らが拒否した場合は?」
「棗・・・!!」
咎めるように名を呼ぶ蜜柑を無視し棗は青年から目を離さず、また青年も棗に目を合わせる。
「これはお願いであって強制は出来ません。あなた方が協力を拒んでも、危害は与えませんしここで保護する事も出来ます。」
「留まらなければ?」
「安全なルートを通って信用出来る場所にお連れします。選ぶのはあなた方ですが。」
張りつめたこの場所で蜜柑は棗を見守る事しか出来ずにいた。
きっと自分は棗の意見に反対しない。どんな選択をしようとも棗の決定に従う。突き放す事もしない。否、出来ない。この状況を、棗が学園を出る切っ掛けを作ってしまった自分が棗を責める事なんて出来るはずもない。それに、棗は自分を第一に考えていてくれるはずだから。元々棗から離れるなど、選択肢にも入っていなかった。
蜜柑の思考と緊張感は棗のため息によって壊された。見れば、やれやれと言うように棗が頭を掻いている。
「分かった。協力はする。が、危険な事を蜜柑はしないしさせない。これが条件だ。」
「ありがとうございます。」
深々と頭を下げる青年は外見以上に大人びて見え、しかし雰囲気は柔らかく先程までの空気が嘘のようにさえ感じられる。
「お二人の部屋は用意してあります。今日はもうお休み下さい。」
「失礼いたします。」
言葉と同時に控えめに入ってきた榎音に青年が頷く。
「お二方。こちらへ。」
「日向棗君。」
促されるまま部屋を出ようとした棗を青年が呼び止めた。
「彼女を守って下さい。」
託す青年の言葉に当たり前だと小さく答えると、満足げに青年は頷いた。
つづく
- Re: 学園アリス 【道標を貴方に】 ( No.17 )
- 日時: 2011/04/30 21:10
- 名前: あやのん ◆u4eXEPqmlc (ID: oCy4hyHc)
- 参照: http://loda.jp/kakiko/?id
記憶の在処が・・・消えてる・・・。
まさか、消した?
- Re: 学園アリス 【道標を貴方に】 ( No.18 )
- 日時: 2011/05/03 17:44
- 名前: 時計屋 (ID: klLmhm9D)
お久しぶりです。
えっと、記憶の在処の事なんですが。過去ログの方に移動していました。自分も一回検索してみて焦りましたが、あれ書いてからそんなに時間が経って居るんですね。
第十一章【せめて夢の中は穏やかであるように】
人々は言いました それは冒涜だと
世界は示しています 愚かな人の成れの果てを
けれど彼は願ってしまいました
彼の人を取り戻す事を
望んでしまった
流れに逆らう事を
どんな罪も罰も厭いはしないと
どんな絶望もその身で受けると
幾千幾億の時が流れても何度も何度も彼は願いましす
そこまでしても
彼が欲しかった者は二度と戻る事はない
どんなに待っても
覆る事など無い
それを彼は分からず
罪も罰も絶望せえも背負ってしまいました
それがどれ程愛しい者を悲しませるか知りもしないで
一見して明らかに一人部屋ではないと思われる程広い空間に置かれた、これまた大きすぎる程のベットを棗は一人で占領していた。
榎音に連れられ案内されたこの部屋は一通りの生活用品が揃っており不自由なく過ごせそうではあるが、どう考えても広すぎる。学園内でスペシャルと言う立場に在った自分ですらそう感じるのに、シングル止まりの蜜柑は案内された途端目を輝かせ踊り出す程に興奮していたようで、一通り騒ぎ疲れも堪っていたのか直ぐ熟睡してしまう始末。微笑ましいながらも信用の置けない場所。しかも、彼奴らは蜜柑を利用すると隠す様子もなくさらりと言いはなったのだ。幾ら危害を加えないと言われたところで棗がそんな言葉を信用する訳もなく、安心しきっている蜜柑と同じ部屋で寝ようとしたところ笑顔で榎音に却下され、結果一人広い部屋で寝そべっているのであった。
「はぁ・・・・・」
無意識に出たため息はこれからの前途多難な生活を物語っているようで気が滅入る。
すると扉を叩く音が耳に届き隙間から覗かれた蜜柑に顔がほころぶのを感じた。戸惑っている蜜柑に入室の許可を出せば、表情は一変しいつもの笑顔を浮かべ走り寄ってきた。
「棗・・・眠れないん?」
「別に・・・・お前こそどうしたんだよ。爆睡してたくせに。」
「な!!!あっ!!あれは!!!」
「なんだよ。」
「あれは・・・・・」
「蜜柑?」
真っ赤に顔を染めながら抗議するように棗をぽかぽか叩いていた手が急にやみ、声に淋しさが見て取れた。不審に思い俯いた蜜柑を覗き込むと、涙を溜め込むそれと目が合い動揺してしまった。
「蜜柑。どうした?。」
「ぁれは・・・・棗が・・・・・・」
出来るだけ優しく声を掛けると、堪えが利かなくなった嗚咽と涙が零れ出す。
「蜜柑・・・・大丈夫だ。大丈夫だから・・・・」
根拠が無くとも蜜柑が落ち着けるのなら何でもよくて。棗は何度も大丈夫と呟きながら抱きしめる。とにかく涙を止める事を優先し、理由を聞くのは後回しにした。背をさすると次第に落ち着きを取り戻し、涙を啜る気配がする。
「・・・・も・・平気・・・ごめん棗。服、汚してしもうた・・・・」
「いい。・・・・話せるか?」
「・・・・ん。」
「無理はしなくていい。」
「大丈夫・・・・」
とても平気そうには見えなかったが棗は何も言わず、蜜柑の言葉に耳を傾ける。
「うちが校長に用意された部屋。あの部屋よく似てて・・・案内された時はあんま気にならへんかったのに・・・起きてよく見たら・・・うち・・・不安なって・・・また校長に捕まった気がして・・・・」
時々つっかえながら涙声で訴えるように不安を吐き出す蜜柑は何処か消えてしまいそうで。此処まで傷つけた校長と気付いてやれなかった自分自身に腹が立った。
「・・・・けど・・・・棗の側に居たら平気で・・・・迷惑かもって思ったけど・・・どうしても・・・・」
「もういい。わかったから・・・」
今まで以上に強く抱きしめる。蜜柑が少し苦しそうに身をよじるが、気に掛ける余裕は棗にはなかった。
こんなにも蜜柑は不安だったのに・・・・
「大丈夫だ。お前は俺が必ず守る。」
「棗・・・・」
「だから、今はもう寝ろ。疲れてんだろ?」
「・・・・分かった・・・・」
横にさせあやすように頭を撫でれば、蜜柑は嬉しそうに微笑みゆっくりと目を閉じ直ぐに安心したような寝息が届く。今度は完全に熟睡した事を確認すると、棗も毛布を掛け蜜柑の隣に体を滑り込ませる。起こさないよう注意しながら蜜柑を抱きしめると、優しい香りが鼻を擽る。
「・・・・俺が守るから・・・今度こそ絶対に・・・・」
夢の中にも届くように優しく誓う。
もう二度と繰り返す事のない様に・・・・。
つづく
この掲示板は過去ログ化されています。