二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
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- 丸の内サディスティック
- 日時: 2011/06/11 09:57
- 名前: しょしゃーん (ID: 42M2RXjr)
どうも、しょしゃーんです。
椎名林檎さんの「丸の内サディスティック」を聞いて感動して勝手に小説を書いてしまいました。
ちなみに主人公は男です。
おそまつながら、どうぞ。
- Re: 丸の内サディスティック ( No.5 )
- 日時: 2011/06/12 00:35
- 名前: しょしゃーん (ID: 42M2RXjr)
鋭い人。まさにそうだ。あまりにも的を射たメールの内容に、恥ずかしくなった。
「他は?」
「え?」
「ほらぁ、彼女のメールとか」
「そんなもの、ないよ」
生まれてこの方、彼女なんてできたことがない。しかし、宮野は強引に僕の手を掴んで無理やり携帯を取り上げた。
「嘘言わなくていいよ。どうせ、いるんでしょ?」
「だから、いないって」
次の瞬間、目を疑った。
宮野に、ではない。
宮野の目の前に、今すぐにでも襲い掛かりそうな化けものがいた。
最初は大きな黒い犬かと思ったが、巨大な爪、赤く光る眼、ねじれ曲がった角、ただの犬ではないことは間違いなかった。
その化け物が涎を地面にたらしたかと思うと、勢いよく飛び跳ね、宮野に襲い掛かった。
反射的に、僕は宮野に覆いかぶさるようにして化け物からよけた。
「なっ何?」
「何って・・・化け物!」
何を寝ぼけたことを言っているんだ、と叱咤しそうになる。今はそれどころじゃない。化け物はすぐに切り替えて、僕らを睨みつけていた。
「ほら、そこ!」
「・・・何を言っているの?何もいないよ?」
「だから、そこに・・・」
息をのむ。宮野が本気で心配そうに僕の顔を覗き込んでいたからだ。その真剣な目つきに、僕は一瞬吸い込まれそうになった。
「・・・本当に、見えないのか?」
「見えないのかって・・・何もいないよ」
嘘を言っているようには見えない。しばらく僕は宮野を見つめた。
僕を現実に戻したのは、あの化け物のうなり声だ。
ハッとして、化け物を見る。
よくわからないが、宮野には見えなくて、僕にはこの化け物が見えるらしい。だったら、僕がどうにかするしかないじゃないか。
化け物が再び、こちらに猛突進してきた。
もう、どうにでもなれ!
心の中でそう叫びながら、右手を前に出す。瞬間的に目をつむる。
何が起こったのかわからない。
化け物が僕の手の中に吸い込まれていった。
それだけしか把握できなかった。
手のひらを見る。何もない。
「・・・どうしたの?」
宮野が、僕の手を握った。僕の手に比べて、宮野の手は暖かかった。
「・・・本当に、見えないのか?」
僕はまた、先ほどと同じ質問をする。
「・・・見えないよ。何がいたの?」
宮野の問いには答えなかった。答えられなかった。自分でもわからない。先ほどの化け物は幻覚だったのではないか、と思うくらい何事もない静けさを実感していた。今のはいったいなんだったんだ?
「私を守ってくれたの?」
宮野が違う質問をした。
「・・・え」
「だったら、お礼を言わなくちゃね。ありがと。えっと・・・名前はまだ教えてもらってなかったよね」
「あ・・・」
あまりの切り替えの早さに、呆然としてしまう。しかし、僕には今すべきことがあった。
「・・・成瀬・・・真人」
「真人ね。よろしく」
新たな出会いだった。
まったく、東京はむかつくなぁ。外見だけの、中身の無い街だというのに、僕の居場所を分けるどころか、僕がこの町にいることを認めてくれない。
もうこんな町出てってやる、て思ったのに、出ていけない理由をこの町で作らせるなんて、本当にひどい。
ひどくて、だけど、嬉しいよ。
- Re: 丸の内サディスティック ( No.6 )
- 日時: 2011/06/14 17:55
- 名前: しょしゃーん (ID: 42M2RXjr)
「クビにされただぁ!?」
アパートに帰ってきてから真っ先に待っていたのは、大家さんの怒鳴り声だった。家賃待ちだ。本当に、この人はお金のことになるとなんでもしてしまう。
「はい、あの・・・だから当分家賃は払えないかと・・・」
「じゃあ、でてきな」
「・・・はい?」
大家さんがビッと外に向かって指をさした。
「金が払えないんだったら、もうここにはいられないよ。さあ、今日から野宿だ、野宿」
「あ、あの、もう少し待っていただけませんか?せめて職が見つかるまでとか・・・」
「あんたみたいな、臆病者を雇うところがあるのかい?」
大家さんの言葉には、ぐうの音も出ない。まったくその通りだった。就職できたのだって、ほとんど奇跡みたいなもんだったのに。
「あのねぇ、よく若者は、東京に来れば自分が変われるなんて妄想しているけどね、実際そんなおいしい話はないんだよ。臆病者は臆病者のままさ。わかったら、実家に帰りな」
分かってる。
本当は、最初から分かっていたんだ。
東京に来れば変われるなんて、そんなおいしい話がないってことくらい。
分かっていたんだ。
でも
「僕は、東京に来ました」
「・・・何」
「変われるなんて、思ってません。でも、負け戦をしに来たわけでもなくて・・・。今更、帰れません。負けたくないから・・・」
大家さんの細い目が一段と大きくなったように見えた。
「今まで、お世話になりました。あの・・・今月分の家賃は、必ず払いに来るので・・・さよなら」
そういって、僕は部屋に入って荷物をまとめ始めた。
短い期間だったけど、いざ離れるとなると寂しくなる。そんな思いを胸に、大きな袋に必需品を詰めていく。
荷物をまとめるのにそこまで時間はかからなかった。案外早く終わってしまった。大家さんはずっと僕の様子を見ていた。
最後にもう一度別れを言ったほうがいいのだろうか。でも、何度も言うとしつこいと思われないだろうか。
「あの・・・」
「家賃はいらない」
「・・・え?」
大家さんの細い目が一段と大きくなった。やはりあれは気のせいではなかったようだ。
「そのかわり。負けんじゃないよ、東京に。負けたら利子がつくよ」
大家さんは、僕に向かってグッと親指を立てた。古いような気もしたが、僕も苦笑しながら親指を立てた。
そして、今までお世話になったアパートに背を向けたとき
「・・・あ」
黒い影のようなものが、地面に這いつくばっていた。しかし、その動きはムカデのように俊敏だった。頭らしき方向には、赤く光る眼が三つあった。腕か足かわからないが、合計で8本ある。
先ほどの化け物と同じようなにおいがして、後ずさる。
と、後ずさった拍子に石に躓いて、たおれてしまう。
その音に気付いて、化け物がぐるりとこちらを向いた。
その不気味な動きに僕は声が出なかった。
3つ目の下から、牙しかない口が現れた。僕を食べる気だ。
すばやく足をかさかさと動かせこちらに向かってくる。
反射的に僕は、あの時のように目をつむって右手前へ出す。
やはり、というべきだろうか。
化け物は僕の右手の中に吸い込まれていった。
「・・・なんで・・・」
もう一度右手を見る。何もなっていない。一体何が起こったというのだろうか。
「なんでだ」
僕じゃない。今の声は、僕じゃない。
声のする方向を見る。
そこにいたのは何とも奇妙な格好をした男だった。
オレンジ色のニット帽子から見える緑色の髪の毛、サングラス、黄色と緑色の何ともアンバランスなセンスの服を着ていた。
「なんで、お前が使えるんだ?」
男の言葉の意味側からなかった。
声の感じから、自分とはまだ歳はそこまで違わないだろう。いや、自分より若々しい声だ。
「あの子はどうした?」
あの子?いったいさっきから何のことを言っているのだろう。
「あの・・・人違いだと思うんですけど・・・」
「人違い?そんなわけあるか、ばーか」
そういうと、男は子供っぽく舌をべぇーっとだした。そういう仕草をされるとますます年齢が分からなくなる。
「お前、さっきのやつ見えているんだろ?」
さっきのやつ。
そういわれて思い当たるのは一つしかない。先ほどのムカデのような化け物のことだろう。
「も、もしかして、君も・・・?」
「当たり前だっての。ハイ、だからあの子はどうした?まさか、殺して奪ったのか?」
「こ、ころすって・・・何言っているんですか?」
男は、はーっとため息をつくと、僕の襟首をつかんで引き寄せる。
「宮野夏樹だ!あの子はどうしたって聞いているんだ」
「・・・宮野・・・」
どうして宮野の名前が出てくるんだ?
「なんで、宮野が・・・?殺すって・・・何のことですか・・・?」
「・・・知らないのか?」
男は襟首をいきなり離して、しばらく考え込む。
かと思うと、いきなり僕の腕を引っ張って、歩き始めた。
「な、何です・・・」
「お前の見えている化け物、あれは悪魔っていうんだ」
悪魔?
普段だったら、ああ、この人はオカルト信者なのか、と言って相手にしないのだが、実際に見てしまった。逆に悪魔と言われて納得してしまうくらいだった。
「宮野夏樹。あの子はカルマなんだ」
「カルマ・・・?」
「カルマっていうのは、悪魔を引き寄せちまう体質を持った人間のことだ。稀にいる。俺らエクソシストは、カルマを保護する側だ。つまり、シリウスと相対しているってわけだ」
「え、えくそしすと・・・?しりうす?」
「エクソシストっていうのは、祓術師のことだ。悪魔を倒す人間のことを言う。シリウスっていうのは、悪魔の力を借りて、自分の力を強くする集団だ。俺らエクソシストと真逆の立場の人間だ」
男は足早になりながらも続ける。
「シリウスは悪魔の力を借りて、最強になる。だから、そのためには悪魔を引き寄せてくれるカルマが欲しいんだ。より、強い悪魔なんてめったに出会わない。が、カルマがいてくれれば強い悪魔にも出会える」
「ちぃ、ちょっと待ってください、あ、あの、さっきエクソシストが保護しているって・・・」
- Re: 丸の内サディスティック ( No.7 )
- 日時: 2011/06/14 18:16
- 名前: しょしゃーん (ID: 42M2RXjr)
「ああ、そうだ。エクソシストの中でもトップのクレナイってやつが、宮野に保護術をかけた。悪魔が近づけば、自動的に魔界へと悪魔を返す術をな」
そこで、くるり、と僕に向き直った。
「その術が、なぜかお前に移動していた。お前がその術をかけられているんだ」
「—————・・・僕・・・が・・・?」
理解できなかった。
「悪魔が、あの子の家に向かっている・・・どうやら、あのこには、もう、保護術は作動していないようだな」
男が舌打ちをしながら、足早に急ぐ。
まだ、完全に理解したわけじゃない。でも、今わかるのは、宮野が危険だということ。それだけが、僕の足を動かしているのかもしれない。
「ENTER」についた。
勢いよくドアを開けた。
「・・・・あ・・・」
そこには、宮野の母らしき者の姿と
横たわっている宮野の姿があった。
「遅かったか」
男はそう言い捨てると、すぐに宮野に駆け寄る。
「そーちゃん!と、突然夏樹が倒れちまったんだ・・・」
「大丈夫、気を失っているだけだ。おい、そこのひょろいの!」
ひょろいの、というのは僕のことだろう。宮野の母親はかなり太っていて、ひょろくはない。
「右手でこの子に触るんだ」
「・・・え・・・?」
「早く!」
いわれるがままに、宮野に近寄る。
顔が真っ青で、一瞬死んでいるのではないかと思う。
どうしてこんなことになってしまったのだろうか。
僕は確かに、変化を求めていた。だけど、こんなことを望んだんじゃない。どうして、宮野が苦しまなくてはならないんだろう。彼女は、僕に出会いをくれた。かけがえのない、出会いを。
さっきみたいな悪魔に狙われて。よくわからない男に連れてこられて、エクソシストだのシリウスだのよくわからない世界に引きずり込まれた。
東京に負けたくない。
だからなんだっていうんだ。
目の前で死にかけている女の子がいるのに、逃げ出せるわけ、ないじゃないか。
宮野を見殺しにするわけには、いかないじゃないか。
「宮野。僕は、ここにいるよ」
彼女の手に触る。
冷たかった。でも、やわらかかった。
「・・・う・・・」
宮野はゆっくりと目を開けた。
「・・・あ・・・れ・・・?真人・・・そーちゃん・・・お母さん、なんで・・・?」
すると、すぐに宮野の母親が、宮野を抱きしめた。
「心配させんじゃないよ、ばか・・・」
「お・・・母さん・・・やだ、ちょっと何?私は大丈夫だって」
本当に何事もなかったかのように笑いかける宮野。
- Re: 丸の内サディスティック ( No.8 )
- 日時: 2011/06/14 18:39
- 名前: しょしゃーん (ID: 42M2RXjr)
しばらく、二人だけにしようと察して、僕と男は外に出た。
「悪魔が、あの子に入り込んでいたらしいな。もう少し遅かったら、やばかった」
男の話を半ば放心状態で聞いていた。
「見たところ、どういうわけか、完全にあの子にかけた保護術がお前に移動している。理由はわからないけどな。つまり————」
「あの子のそばにいろってこと?」
僕が先に答えを言ったら、男はにやりと口をゆがめた。
「そうだ。いつ、悪魔があの子を襲うかわからない。お前に保護術が移動しちまった分、お前もきっちり働いてもらわないとな」
「給料とか、出るのかい?」
男が、目を丸くする。自分でもなんて質問しているんだ、と恥ずかしくなる。
「いや、その、会社をクビにされたばっかりで・・・その、大家さんからも追い出されてしまって、どうしようかと思ってたから・・・」
「そりゃいい!」
すると、男はいきなり僕の首をつかんだかと思うと、勢いよくドアを開けた。中にいた二人が、びっくりしてこちらを見る。
「あ、あの・・・」
「聞いてくれよ、こいつ、今さっき会社をクビにされて大家さんからも追い出されちまったんだって!」
完全に笑いもの扱いじゃないか。僕は顔を赤らめる。
「まあ、本当かい?大変だねぇ」
「え、じゃあ、今日はどうするの?宿でもあるの?」
「え、ええと、その、野宿かな・・・」
自分で言ってて、恥ずかしい。それもこれも、この意味不明な男のせいだ。僕は、男をきっとにらむが、男はまるで気に留めない。
「じゃあさ、うちに泊まるのはどう?」
宮野が顔をぱあっと明るくさせて言った。続けて宮野の母親も「いいねぇ」と、こぼす。
「ええ、えと、さ、さすがにそれはまずいですって・・・皆さんに迷惑かけたくないし・・・」
「じゃあさ、じゃあさ、ここを自分のおうちかわりにするかわり、ここで働くっていうのはどう?」
「え?」
「いいねぇ。働かざる者食うべからずっていうじゃないか」
母子で納得されても僕だけが取り残されてしまっている。
「決まりだな、お前、今日からここに住んでやれ」
住んでやれ、じゃない。
「おっと、そうだった。俺は葛原宗司。よろしくな。お前は?」
「・・・成瀬真人・・」
「真人か、よし、じゃあ、頑張れよ」
「ちょ、ちょ、ちょっと!」
「よろしくね、真人」
「よろしくねぇ。あたしは宮野明美」
「え、えええええ・・・」
- Re: 丸の内サディスティック ( No.9 )
- 日時: 2011/06/14 20:31
- 名前: しょしゃーん (ID: 42M2RXjr)
朝。
目が覚めたら、一番に聞こえたのが小鳥のさえずり。そして日光が僕の視界に入って完全に目を覚まさせる。
そして次に聞こえた声は—————
「真人ーっ。朝だよー?」
宮野の声。
そう、僕はひょんなことから宮野家の経営するピザ屋に泊めてもらっている。
僕の部屋は、宮野家の今は亡き父親の部屋———裏部屋を貸してもらっている。
働かざる者食うべからず。この教訓通り、タダで泊めてもらっているわけではない。ちゃんとお店の手伝いをして生活している。
「真人ー?」
「分かってるって」
僕は髪を乱暴に整えて部屋を出る。階段を下っていくと、セーラー服姿の宮野がいた。
「真人ってもしかして朝に弱いの?」
「いや・・・?なんだか、昨日はやけに疲れたからぐっすりと眠っちゃっただけ」
すると、厨房から元気な笑い声が聞こえてきた。
「ぐっすり寝るっていうのはいいよ、真人ちゃん。今日からビシバシ働いてもらうからねぇ!」
「は、はぁ・・・。よろしくお願いします・・・」
「あ、やばっ。そろそろ時間だ。じゃあ、行ってくるねー」
「おぅ、いってきな!」
「・・・」
僕が無言でいると、宮野が僕に近づいてきた。なんだか、怒っているような表情だ。僕は何かしただろうか?
「い・っ・て・き・ま・す」
「・・・えっ・・と・・・い、いってらっしゃい・・・」
すると、宮野ははじけるような笑顔で笑った。そしてくるりと方向を変えると出て行ってしまった。
笑顔だけは最高なのにな。
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