二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
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- 丸の内サディスティック
- 日時: 2011/06/11 09:57
- 名前: しょしゃーん (ID: 42M2RXjr)
どうも、しょしゃーんです。
椎名林檎さんの「丸の内サディスティック」を聞いて感動して勝手に小説を書いてしまいました。
ちなみに主人公は男です。
おそまつながら、どうぞ。
- Re: 丸の内サディスティック ( No.1 )
- 日時: 2011/06/11 10:05
- 名前: しょしゃーん (ID: 42M2RXjr)
報酬は入社後平行線
東京は愛せど何も無い
————何も無い。
何も無いここで
僕は一体何を望むのだろう。
丸の内サディスティック
就職して3か月が経った。サラリーマンの仕事にもようやく慣れてきた。つまり何の変化も見られない、平凡な生活を僕は毎日毎日、当たり前のように過ごしている。
東京に行くと両親に言ったとき、猛反対された。どうやら両親は、東京は人の住むところじゃないと、イメージしているらしい。東京に住んでいる人たちが聞いたら、どう反応するだろうか。
- Re: 丸の内サディスティック ( No.2 )
- 日時: 2011/06/11 12:46
- 名前: しょしゃーん (ID: 42M2RXjr)
「おい。おい、成瀬。課長に呼ばれてるぞ」
同僚の北沢に言われてハッとする。課長を見る。不機嫌そうな顔でこちらを睨んでいた。
すみません、と謝りながら課長のところへ行くと、課長の説教が待っていた。予想通りだった。
説教の内容も予想通りだった。売り上げについて、僕だけが成功していないからだった。僕は時々、相槌を打って課長の説教を聞く。
接客業には向いていないくせに、どうしてサラリーマンになったんだ、と自分を責めた。
人付き合いが苦手。一人を好む。僕はコミュニケーション能力に欠けていた。だから学生時代から友達なんて一人もできなかった。
友達なんていないほうがいい。
いたら、僕も相手もかわいそうだから。
「おい、聞いているのか」
課長が机を思い切り拳で叩いたので、社内の視線は一気に僕に注がれた。あまりいい気はしない。
「もう、いい。君はクビだ」
「・・・え?」
課長の言葉が最初理解できなかった。
「クビだと言っているんだ。もう明日から来なくていい」
ああ、そういうことか、と納得してしまう自分にあきれる。
「あの」
「なんだね?」
「今までお世話になりました」
僕は小さく礼を言うと、いつものように帰る支度を始めた。
その様子に驚いたのか、課長だけではなく同僚全員が僕の行動を舐めるように見てくる。僕は何か間違えたのだろうか?
せっかく就職できたと思ったのにな。親になんて言おう。クビになったなんて聞いたら、「戻ってこい」の一点張りになるだろうな。いや、それでもいいか。僕は東京に見放されたんだから。
まったく、東京はむかつくなぁ。外見だけの、中身の無い街だというのに、僕の居場所を分けるどころか、僕がこの町にいることを認めてくれない。
東京に行くことを猛反対していた両親が、了承した条件があった。
「東京に負けるな」
ごめん、お袋。親父。僕は、負けてしまったようだ。
- Re: 丸の内サディスティック ( No.3 )
- 日時: 2011/06/11 13:54
- 名前: しょしゃーん (ID: 42M2RXjr)
会社から出ようとした途端、雨が降り始めた。まるで僕をあざ笑うかのような、とても穏やかな雨だった。
傘をさす。雨が当たって、音を奏でる。そう思ったら携帯が鳴った。メールだ。送信してきた相手は、皮肉にもお袋からだった。
メールを見る気にはなれなかった。画面に表示された「お母さん」という文字を見つめて、あきらめて携帯をポケットにしまった。
帰り道、とある音楽品店の品物に目が留まった。
エレクトリックギターだ。ヘッド部に「リッケンバッカ—」と記されている。ヘッドは3枚の板を接着した構造になっていて、薄い塗装だった。特徴的で、すぐにリッケンバッカ—だと分かった。
値段は19万。東京は本当にひどい。先ほど首になった社会人が19万も持っているとでもいうのだろうか。最後くらい、欲しいものはただでくれてもいいじゃないか。
店内ではブランキー・ジェット・シティの曲が流れていた。その曲を聴きながらリッケンを見ていると、ベンジーが楽しそうに歌っている姿を思い出した。
曲が終わって、やっと「帰ろう」という気になった。
ベンジーの知り合いでもないのに、ベンジーの歌にさよなら、と告げてしまう。
僕はなんで東京に来たんだろう。
傘を打つ雨の音を聞きながら、うっすらと記憶をさかのぼる。
自分を変えたかったんだ。
人付き合いの苦手な自分に嫌気がさしていた。だから大きな変化を求めていれば、自分が変われるような気がした。
でも、実際は違った。
何が変わったというのだろうか。住む環境が変わっただけで、僕は変わらなかった。相変わらず、一人を好んだ。
なんで、変わることができなかったのかな。
「ねえ」
「・・・僕?」
声をかけられて振り向くと、高校生だろうか。セーラー服を着た少女が傘も差さずに僕に笑いかけた。
「あなた、ブランキー好きなの?」
「え・・・・うん」
すると、少女がはじけたような満面の笑みで、喜んだ。
「私も大好きなの。うれしいなあ、学校じゃ誰もブランキーの良さに気付いてくれないからさ。なんか、同志に会えたってかんじ」
それだけで話しかけたのか、と言いそうになるのを抑える。
少女はお構いなしに話を続ける。
「ねえ、傘に入れてくれないの?」
「え?」
「え、じゃなくてさ。女の子がびしょぬれでいるのに、あなただけ傘をさすなんてずるくない?」
ずるくない、と心の中で即答する。
しかし、少女が小刻みに震えているのに気づき、僕は傘を見た。
「・・・どうぞ」
僕は傘を差しだした。雨が体にあたって、雨の冷たさを実感する。雨ってこんなに冷たいんだな。
「え?あなたはいいの?」
「これで、ずるくなくなった」
少女が目をぱちくりさせたかと思うと、いきなり噴き出して笑った。
「ごめんごめん、悪かった。一緒に入ろうよ」
何が悪かったのかよくわからなかったが、少女が言ったので僕は一緒に傘に入ることにした。
「あ、そうだ、傘に入れてくれたお礼に、私の家でピザをおごってあげるよ。すっごくおいしいんだから」
「・・・いいよ、別に」
「遠慮しなくていいよ。私、ブランキー好きには信用するし、優しいんだから」
「どうして?」
「私もブランキーが好きだから」
彼女の答えは意味不明だったが、僕よりはわかりやすくて、短い答えだった。
「あなたって、口数少ないのね。ブランキー好きにも無口な人はいるんだ」
「ブランキーは関係ないだろ」
「あたしは、宮野夏樹。あなたは?」
一瞬、答えにつまる。
「教えても、意味ないだろ」
「どうして?あ、そこ右」
指図されて、僕は足を止める。
「僕は君の家に行くつもりはないんだけど」
「だって、そうしないとピザおごれないし、私がまたずぶ濡れになるでしょ」
なんて一方的な性格なんだ。
「だから、この傘あげるからいいよ。お礼はいいから」
「だめ!!」
少女がいきなり大声で叫ぶので、町衆の視線をあつめた。周囲の目を向けられるのは、これで何回目だろう。
しかし、少女は周囲の目など気にせず、課長とは違った口調で説教を始めた。
「あなたはよくても、私はよくない。今度はあなたがぬれちゃうでしょ。そんなのよくない」
「気にしなくていいよ」
もう、うんざりだ。クビになるわ少女に説教されるわ。
「ダメ。ベンジーだったら絶対に許さないもの」
そういって、少女は僕の手を引っ張って、歩き出した。
- Re: 丸の内サディスティック ( No.4 )
- 日時: 2011/06/11 15:12
- 名前: しょしゃーん (ID: 42M2RXjr)
ピザ屋「ENTER」。
僕は宮野の家の営むピザ屋にいた。
「お母さん、いないみたい。今作るから、ちょっと待ってて」
「いいよ、作らなくて。僕は帰るから」
宮野には聞こえなかったのだろうか。宮野はすぐに厨房に入って準備を始めた。仕方なく、席に座る。
小さくて趣のあるピザ屋だった。天井についているランプは、今にも消えそうだった。
しばらくしてパンの焼けるにおいがしてきた。東京に来てから、コンビニに売っている乗り弁当しか食べていなかったので、その香りにお腹は素直に鳴いた。
やることがないので、先ほど送られてきたお袋のメールを見る。
【真人へ 仕事のほうはどうですか?まあ、あんたのことだからもうやめちまってるんじゃないでしょうかね。クビになったくらいでめそめそしているんなら、実家には帰ってくるんじゃないよ。私も、お父さんも、あんたに負け戦させるために東京に行くことを認めたんじゃない。何度も転んでいいんだ。だから、もう少し頑張ってみろ。その分、お前は大きくなるから。私たちは、心の底からあんたを応援している。だから頑張りなさい 母】
隣で見張っているんじゃないかと思うくらい、今の自分には的を射たような言葉だった。
「どうしたの?」
宮野が携帯を覗き込んだ。
「お母さん?へえ、優しいんだね」
「・・・鋭い人なんだ。」
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