二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
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- 黒魔女さんが通る!! 二次創作『哀しみキメラと白い影』
- 日時: 2014/06/06 13:53
- 名前: RE ◆8cVxJAWHAc (ID: nrbjfzgl)
黒魔女さんが好き過ぎて、自分でも書いてみたいと
思っちゃいました(テヘペロ
暇な人は読んでくれると嬉しいです
コメントくれるともっと嬉しいです
間違いとかはどんどん指摘してください
コメント貰えると更新が早くなるかもしれません
無いと寂しいです
今更ですがタイトル考えてみました
ギュービッドさま、アニメお疲れさまでした( *`ω´)
追加:コメントより
・どこまで過ぎたか…?えっと、じゅ、12?かなっ?
・この先ちょっとグロくなるかもしれない。でも、本家読めるなら多分大丈夫。
・オリキャラ、オリジナル魔法・アイテム有り。
その1 >>01
その2 >>05
その3 >>09
その4(1) >>14 (2) >>15
その5 >>17
その6(1) >>18 (2) >>21
その7 >>24
その8 >>25
その9 >>26
その10(1) >>27 (2)>>30
その11 >>39
その12 >>58
その13 >>64
その14 >>72
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- その7 ( No.24 )
- 日時: 2014/06/06 10:51
- 名前: RE ◆8cVxJAWHAc (ID: nrbjfzgl)
★
コンコン、とログハウスのドアがノックされた。
「はいは〜い」
あたしの時のように、桜田がゆるーい返事をしながら、ドアを開けると、2人の人影。
「黒雷お帰り、お疲れ様〜。桃花ちゃんも無事で良かったわぁ」
ログハウスに入ってきたのは、いつもの着物姿の黒雷と、顔や腕に泥をくっつけた桃花だった。
「さっきそこで合流してさ。こいt」「先輩!よかったあああ無事だったんですね!」
黒雷の言葉を掻き消して、涙目の桃花がこっちに迫ってくる。やめろ、くっ付くな、あたしまで泥々になるじゃないか。
「…おいこら…。まー、あれだな。一応、何だかんだで一番懐いてる先輩だからな。仕方無いな」
黒雷が、桃花と、それを押しのけているあたしを見てニヤニヤしながら、隣のチェアに座った。
何が仕方無いんだよ…。あれか、あたしが連絡しなかったせいで無駄足踏んだ腹いせか。
て言うか、桃花はなんで泥々なんだよ。
「あたし、ちょうど湿ってる所に落ちちゃったみたいで。背中なんてほら、酷いんですよ」
桃花がくるりと背中を向ける。本当だ、確かに正面より泥々。
「あらま、大変」
キッチンに引っ込みかけた桜田が顔を出して、演技がかった調子で驚いてみせた。
「可愛い服が台無しよぉ。ルキウゲ・ルキウゲ…」
桜田が呪文を唱えると、桃花の服や顔に付いた泥が、パリパリと剥がれ落ちていく。
桃花から離れた泥は霧散してどこかへ消えていった。
「ありがとうございます、桜田先輩!」
「どういたしまして〜。じゃあ、2人にもミルクティー持ってくるわねぇ」
そう言って、桜田はそのままキッチンに引っ込んだ。
やれやれ…。
って、そんなことやってる場合じゃないだろ。
「で、どうなってんだよ、黒雷」
あたしはチェアに座ってくつろぎ始めている黒雷の隣に座った。
「さてなー……わからん」
「そりゃないだろ」
「わからんもんはわからんだろ。とりあえず悪魔情がいろいろ調べに行ったけどさ」
そうか、そういやあいつもいたんだっけ。
あ、森川は?
「森川もいろいろ調べに行ってる。そろそろ暗くなるからな、早く戻ってくるといいんだけど…」
黒雷がそう言った途端、携帯の着信音が鳴り響いた。
「おわっ」
黒雷が着物の袂をごそごそやって、携帯を取り出した。
「はいはい黒雷…あ、悪魔情か。で、なんかわかったか?」
言いながら黒雷は、あたしと桃花にも聞こえるように、携帯をスピーカーモードにした。
『わかったというか、わからないというか…魔界全体にちょこちょこ異変が見られますが、全体像が掴めませんねー』
悪魔情の声。
どういうことだよ…どいつもこいつも、説明がボンヤリしすぎだっつーの!
『おや、ギュービッドさまもいらっしゃるんですかー。丁度いいですね、そこに居ない方にも伝えてくださいー』
居ないのは森川とチョコだけだけどな。
『細かいことはいいんですー。えーと、まず、その辺にウロウロしてる死霊にはなるべく手を出さないこと、あと、暗くなったらできるだけ外に出ないように、だそうです』
なんだそりゃ。
『とりあえず、森川さまにも連絡しておいたので、詳しくはそちらに聞いてくださいー。あ、すみません…ここ、携帯禁止らしいんで、これで』
いきなりぶちっと音がして、悪魔情からの電話は切れた。
おいおい…。
「携帯禁止て、あいつ何処にいるんだよ」
黒雷は呆れたというふうに、やれやれとため息をついた。
「仕方ない、暗くなる前にチョコを捜しに行くか。放っておいたらちとヤバそうだぜ」
そうだな。
黒雷はケータイを袂にしまって、立ち上がった。あたしも席を立つ。
「あたしも行きますっ」
桃花もそう言って勢い良く立ち上がった。
「桜田ー、箒ねーの?」
黒雷がキッチンに向かって言うと、桜田がひょいと顔を出して、
「そこよぉ」
部屋の角にある灰色の布の塊を指差した。
あたしが布を剥がすと、そこには、
「…何もねーぞ」
「おい」
黒雷に軽く突っ込まれたところで、桜田が「あ」と声をあげた。
「そういえば森川が乗って行ってるんだったわねぇ」
おい。
あたしら三人が心の中で突っ込んだ次の瞬間、コンコン、と再びログハウスのドアがノックされた。
「はいは〜い」
キッチンから出てきた桜田が、ドアを開けた途端、駆け込んで来たのは、
「森川!」
「あ、ギュービッド!良かった、大丈夫だった?怪我とかしてない?」
森川はあたしを見つけると、一直線に向かってきて、ぐいと顔を近付けてきた。
「お、おう」
あたしがそう返すと、森川は心底ほっとしたというような顔をして離れ、それから桜田にただいま、と言った。
あたしは森川の顔をじっと見つめる。
今の反応を見る限り、やっぱ昼間に会った森川は、森川じゃなかったみたいだな…。
「どうしたのギュービッド、変な顔して」
森川が首を傾げてこっちを見る。
「いや、何でもない」
「そう?」
森川は不思議そうな顔をしたが、ふっと微笑んで、桜田の方に向きなおった。
「で、どうだった?何か分かったの〜?」
桜田が森川に尋ねた。
「うん、ちょっと火の国のお城あたりに行ってきたんだけどね」
森川はポケットから小さなメモ帳を取り出して、ぱらぱらめくった。
「えっと、街とか、城の近くまで“役目”が無い死霊があちこち動き回ってるらしいわ。魔界警察も戸惑ってるみたい」
死霊、ね。やっぱり、妙な気配の正体はこれか。
黒雷も小さく頷いている。
「でも、ただ増えてるってだけじゃなくて、なんていうか、何かを探してるっていうか…夜になると、さらに数が増えるみたいよ……あ、そうだ」
森川はポケットから何かを取り出して、テーブルの上に置いた。
手のひらより少し小さい、丸い化粧コンパクトみたいなやつ。
「なんですかこれ?」
桃花が覗き込んで尋ねる。
「ニードコンパス。一番行きたいところとか、欲しい物の方角を教えてくれるの」
「へえ、便利だな」
黒雷がコンパスを手にとって、眺めている。
「大事にしてよ、超高級品なんだから」
「どこで手に入れたんだ、こんなもん」
黒雷が訊くと、森川は微妙な顔をして、ため息をついた。
「外の郵便受けに入ってたのよ…誰も気づかなかったの?」
黒雷と桜田が顔を見合わせて、それから2人そろってあたしの方を向く。あたしも左右に軽く首を振った。
「そう…封筒にも入ってなかったから差出人もないし、なんでかしら」
「あたいらが使っていいんじゃね?クリスマスプレゼント的な」
今更すぎるだろ。
でも、ふうん…欲しいものに案内してくれる、ね…。
よし。
「黒雷、ちょいとそれ貸してくれ」
「ん?あいよ」
黒雷が差し出したコンパスを受け取ると、あたしはそれをコートのポケットに入れる。
「何だ、どうする気だよ」
「決まってるだろ、これでチョコ捜してくる」
「ん?おお、なるほど。そりゃ手っ取り早くていいや」
黒雷が納得した、というふうにぽんと手を打った。
「え、それ使うの…?」
森川は逆に顔をしかめる。
なんだよ、駄目なのか?
「うーん、駄目じゃないけど…都合良すぎる気がするっていうか…何か仕掛けがありそう、っていうか」
ん?どういうことだ?
「なんていうか、罠って言うのかしら?これだけ変な事が続いてるんだから、何かあるかも、って」
知ったこっちゃないね。何かあるならあった後に考えるもんだろ。
都合が良いものは使えるだけ使わせてもらうぜ。
「森川、箒ねーの、箒」
「えっと、外に立てかけてあるけど…」
おお、サンキュー。
あたしはログハウスの外に出て、箒を取った。
「ちょっと…」
森川はまだ渋い顔をしている。
まあまあ、世の中都合良いことだってたまには起きるもんだぜ。
あたしは箒にまたがって呪文を唱え、すこし浮いた状態で静止させる。
「おい、ギュービッド、1人で行くのかよ」
黒雷も外に出てきた。
仕方ないだろ、箒は一本しか無いんだし。
「…気をつけろよー、もう暗いし、夜は出歩くなって悪魔情も言ってたろ」
黒雷も少し表情を曇らせている。
大丈夫だって。それに、このコンパスがあれば、すぐにチョコを見つけて、戻って来られるさ。
「じゃ、行ってくるぜー」
あたしは2人に手を振ると、箒の高度を上げ、飛びはじめると同時に片手でコンパス取り出して蓋を開けた。
必要なものは、黒鳥千代子の居場所、と心の中で念じると、ゆらゆらしていたコンパスの針は、くるりと一回転したあと、ピタリと止まった。
これは…迷いの森の方か?
あたしはさらに箒の高度を上げて針が指す方向を見た。
殆ど夜になっている黒紫色の空をバックに、黒々とした森のシルエットが見えた。
…中に入り込んで酔っ払ってないといいんだけど。
あたしは一度深く息を吸い込み、コンパスを片手にもったまま、森の方向に向かって身体を傾けた。
- その8 ( No.25 )
- 日時: 2014/06/06 10:56
- 名前: RE ◆8cVxJAWHAc (ID: nrbjfzgl)
☆
「人間界の食文化だって国によって違うでしょ。長い年月をかけて、どうすれば一番都合良く食べられるかって工夫されて、みんなが食べてるモノが食文化となるわけ」
キョーカちゃんはそう言ってケラケラ笑う。キョーカちゃんの周りに灯った黄緑色の火の玉も一緒にゆらゆら。
辺りは暗くなって、殆ど夜って感じ。魔界も、冬は日が落ちるのが早いんだね。あまりにも暗いから、キョーカちゃんが魔法で明かりをつけてくれたわけ。
で、なんでキョーカちゃんが食文化の事を語り出したかというと、あたしが、トカゲとかヘビってぶっちゃけどんな味するの?とか言っちゃったからです。
そしてあたしは、キョーカちゃんの歩く速さと言葉の難しさについていくのに精一杯。いや、後者の方は、既に置いて行かれてる…。
「だから、何が言いたいかっていうと、トカゲとかヘビとか、現代日本人が嫌うぬめりものってやつも、慣れちゃえば美味しい、って事なのよお!」
あ、はいはい。言いたい事は分かった。
でも、それはキョーカちゃんが魔界の人だからでしょ。やっぱりあたしには、理解できません…。
「ちがーう!違うの!確かに生は抵抗あるかもしれないけど、料理されてればそんなこと無いよ!ピーマンが生だと美味しくないけど、料理したら美味しいのとおんなじ!うちに来たら、美味しい魔界料理、食べさせてあげる」
キョーカちゃんはずんずん歩きながら、またケラケラ笑う。
あたしは、料理されたピーマンも、あんまり美味しいとは思いませんけど…。
…ってあれ?うちに来たらって、あたし、キョーカちゃんちに行く事になってるの?
「あれ?言ってなかったっけ?」
キョーカちゃんは立ち止まって首を傾げる。いや、聞いてないよ…?
「そっか。そういえば、ワタシ、キミの事知らないフリしてたんだっけ」
…ん?
「キミは、ワタシの妹になるんだよ、黒鳥千代子」
キョーカちゃんはそう言うと、笑顔で振り返りながら、掴んでいたあたしの手首を更にぎゅっと握った。
………はい?
ちょっと待って、そういう、難しい例えは、理解に時間がかかるの。もう少し、簡単にお願いします…。
キョーカちゃんは軽く頭を左右に降った。一緒に揺れた黄緑色の長い髪から、ふわりと甘い香りがする。
「例えじゃないよ。そのまんまだよ。キミは、ワタシの、妹になるの」
………どういうこと?
「んふ、あのね、ワタシのお父様、魔界を支配したいんだって」
笑顔で、さも当然、みたいにキョーカちゃんは言う。
……………いきなりとんでもないことを明かされたんですけど。
「あのね!詳しく説明するとー…」
以下、ちょっと長めのキョーカちゃんの話をまとめると。
・キョーカちゃんのお父さんは、魔法生物の研究者で、その力を使って魔界を支配しようと考えた。
・魔界の4つの国を攻め落とすには、沢山の部下が必要。
・そこで、魔法がかかりやすい人間界の子供にコントロール魔法をかけて、魔界に連れてこようと思った。
・第一小五年一組もそのターゲット。
・魔界と人間界の移動が出来なくなっていたのは、沢山の子供を運ぶ為に無理矢理空間を歪めたため。
・とりあえず第一段階として、火の国を支配する計画が進行中。
「…なんか、聞き捨てならない事が混ざってるというか、全体的に聞き捨てならないんですけど」
「まあまあ、人間界の事なんて、どうでもいいじゃん。チョコは、ワタシの妹になるんだし」
いや、だから、それも意味わかんないって!
キョーカちゃんは作ったような困り顔を浮かべて、んー、と唸った。
「しょうがないなあ、じゃあ、特別に教えてあげる。あのね、さっきも言ったけど、チョコが住んでる町の子供達を魔界に連れて来る為に、全員一気にコントロール魔法をかけたの。でもね、大人数に一気にかけるから、1人ひとりの支配力は当然薄くなるわけ」
…は、はあ。
「で、ワタシが漏れた子供を探して、コントロール魔法をかけ直して行ったら、なんと、影響が全く無い子供が2人もいたの。そのうちの1人がチョコね」
…まあ、あたしは一応、黒魔女さんですから、弱い魔法なら、かかりにくいかもね。
ということは、もう1人は、大形くん?
「名前は知らないけど、男の子だったよ。でもほら、やっぱりワタシは妹が欲しいからさ。仲良くなって、コントロールせずにこっち側に来てくれるようにしようと思って」
…つまり?
「ワタシの妹になって、一緒に魔界のお姫様やろう!!」
キョーカちゃん、あたしの手を両手でがしっ。
真っ青な瞳を輝かせて、あたしの目を真っ直ぐ見つめてくる。
あたしはもちろん、はいそうですか、なんて言えないわけで。
「いやいやいや、そんな事、許される訳ないじゃん。魔界警察とか、4国の王様達が黙ってないよ」
「大丈夫!お父様が黙らせるわ!お父様は誰にも負けないんだから!」
キョーカちゃんは自信たっぷりに言い切る。
うーん、そうじゃなくてさ。
「なんで、なんでよぉ!きっと楽しいよ!」
キョーカちゃんはぶんぶん首を振って、更に詰め寄ってくる。
あたしは逆に後退りながら、苦笑いをするしかない。
なんというか、キョーカちゃんが言ってる事は物凄い事なんだけど、あまりにもあっさり言われたせいで、イマイチ信じられないというか、現実味がないというか。
キョーカちゃんの目からは、大形くんの時のような、危険な意思は感じられない。
もしかして、お父さんに協力しろとか言われただけで、どういう事なのかわかってない?
…いやいやまさかね。キョーカちゃんが、あたしの何倍も頭がいいって事は、いままでの会話で十分わかってるし。
あたしが返事に困っていると、キョーカちゃんはいきなり、あたしから一歩後退ると、ポケットから何か取り出した。
「じゃあ、これあげる!」
取り出したそれをあたしに差し出す。これは…お花?小さくて白い花が、幾つか固まって、ひとつの花のようになっている。
「これ、ジンチョウゲっていうの。いい香りでしょ」
確かに。ほんのり、キョーカちゃんの髪と同じ、いい香りがする。
「それ、持ってて。チョコが、こっちに来たいって思う頃に、また会いにくるから!」
え、それどういうこと…。
あたしが聞き返そうとすると、キョーカちゃんはぴょんと後ろに跳んであたしから離れて、ポケットから今度は小さな棒を取り出した。
キョーカちゃんがそれを軽く振ると、棒はびょんと長くなった。どうやら携帯箒みたい。
「じゃね、チョコ!また今度!」
ちょっと待ってよ!街まで一緒に行くんじゃなかったの?
キョーカちゃんは応えずに、箒に乗って一瞬で空高く舞い上がると、あっという間に見えなくなった。
取り残されたあたしは、唖然、呆然。
「………何これ…」
なんとかそれだけ呟いて、深呼吸をした。
冷たい夜の空気が、混乱しかけていた脳みそを少し落ち着かせてくれる。
あたしは、キョーカちゃんに貰ったジンチョウゲをじっと見つめた。
…キョーカちゃんは、何を考えてるんだろう?
- その9 ( No.26 )
- 日時: 2012/12/23 10:57
- 名前: RE ◆8cVxJAWHAc (ID: A7lopQ1n)
☆
しばらくジンチョウゲを見つめていると、微かに、何か音が聴こえた気がした。
…いや、これは音というより、声?花が喋る訳ないし、じゃあ、森の中から…?
音に耳を澄ます。森からでもないみたい…。
ぐるりと周囲を見回すと、紫色の空に、小さな黒い点を見つけた。
ありゃ?キョーカちゃんが戻ってきたのかな?でも、キョーカちゃんが飛んで行ったのとは逆方向。
あたしが目を凝らしている間にも、黒い点はどんどん近付いてきて、形が判るようになってきた。
…ん?……あれは…。
「チョコーーー!このっ、へちゃむくれーーー!!」
聞き慣れた、女の子にしてはちょっと低めの声が、あたしの耳に響いた。
やっぱり。
「ギュービッドさま!」
あたしは応えて、手に持ったジンチョウゲを、とりあえずポケットに突っ込んで、空に向かってぶんぶん手を振った。
飛んできたギュービッドは、少し離れた所にばっ、と着地した。
あたしはそこに駆け寄る。
「ギュービッドさまー!」
「う、ゎ」
あたしは駆け寄る勢いのまま、ギュービッドに突撃して、ぎゅっとくっ付いた。ああ、なんか凄く安心する。
「ギヒヒヒヒ!なんだ、迷子になって怖かったのか?チョコ」
「むっ、そんなことないもんね!」
ニヤニヤ笑っているギュービッドからぱっと離れる。
なんか、言われると認めたくないんだよね。実際凄く不安だったんだけど。
「どうだかな、ギヒヒヒヒ。ま、怪我もなさそうで良かったぜ。なんも無かったんだろ?」
えーと、確かに怪我はしてないんだけど何も無かったかと言われるとそうでもなくて…。
あたしは、キョーカと名乗る女の子に出会ったことと、キョーカちゃんに言われたことを、思い出せる限りギュービッドに説明した。
お父さんがとりあえず火の国を支配しようとしてるらしい、まで話し終わったところで、ギュービッドは苦虫を噛み潰したみたいな顔をして、大形かよ、と呟いた。
「ひょっとしてその親父って大形じゃねえよな」
大形君は一応小学生です。
「いや、変身魔法とかでキョーカとかいうやつの親父に化けてさ。本物の親父は豚とかにされてんじゃねーの」
あー…。
考えたくないけど、それなら、ありそうかも…。
「死霊が増えてんのもその計画のせいだろうな。何させてんのか知らねーが、魔界警察とか、ちゃんと対策とれるところに伝えとかないと…」
そこまで言って、ギュービッドは急に黙り込む。
ぐるりと周りを見回して、あたしの肩を掴んだ。
どうしたの?ギュービッドさま?
「ちょっと静かにしろ、チョコ……何か来るな」
え?何?何かって何?
あたしも慌てて周りを見回したけど、変なものは何も見えない。
「……こりゃ逃げらんなそうだなー」
ギュービッドがぼそっと呟いた。
だから、何の話?
首を傾げたあたしの肩を、ギュービッドはぽんと叩いて、ポケットからポケットから何か取り出し、
「チョコ、これ持ってそこの茂みに隠れてろ。魔酔うっつっても深く入らなけりゃ酔わないから」
そう言って、銀のコンパスをあたしに持たせた。
え、なんで?ていうか来るって何?
説明してよギュービッドさま!
「うるさいな、いいから早くしろよ」
ギュービッドはあたしの背中をぐいぐい押して、森の茂みの中に放り込んだ。
ちょっと、葉っぱがちくちくしてくすぐったいんですけど。
「出て来るなよー」
あたしの抗議の声にも応えずギュービッドはそう言って、また荒野の方へ出て行った。
一体何が起こるんだろう?
茂みの隙間から覗こうとしても、暗くて何も見えない。
目を凝らしても…真っ暗だ。
ちょっとだけ頭を出しちゃおうか、と思ったそのとき、視界の端にちらりと黄緑色の光が見えた。
ん?何だろう?
あたしが茂みの中で目を凝らしていると、だんだん光は増えてきて、葉っぱの影越しにギュービッドの姿が見えるようになってきた。
ギュービッドは森と荒野の境目の延長線、さっきまであたしが向かっていた方向を睨んでいる。
その方向から、黄緑色の光を発する火の玉が、ふわふわ漂ってきていた。
ん?黄緑色の火の玉?これって…。
ギュービッドは傍を通り過ぎる火の玉を一瞥すると、それを片手で払った。
同時に、その手に黒い焔が灯る。
「妙な事やってんのはお前らか?こっちは迷惑してんだよ」
ギュービッドが何処へともなくそう言うと、その途端、辺りに漂う火の玉が一斉に破裂し、黄緑色に発光する死霊達が現れた。
目の穴の中に黄緑色の小さな炎が灯っている。手に持っているのは細い槍。
うわあ…なにこれ、どうなってるの?
破裂した火の玉は再び集まり、またふよふよと漂い始め、辺りは明るく照らされる。
それらに遅れて、一際大きな火の玉が漂ってきた。
それは死霊に囲まれたギュービッドから少し離れた位置で、ぼん!と破裂した。
煙の中から、黄緑色にほんのり発光する、ごっつい骸骨が現れた。火の玉が大きかったから、大きいかと思ったけど、大きさは周りの死霊たちと同じ。
かわりに、角のついた重そうな鎧を身に纏い、ちょっと長めの槍を持っている。
「……黒魔女。邪魔をするな。我々は探しているのだ」
低いガラガラ声。多分、鎧骸骨の声。
「別にあたしは何もしてないぜ。迷惑だって言っただけだ」
ギュービッドが応える。
「嘘をつけ。先程まで、ここに居た筈なのだ。我が主はそれを気に入っている。早く、出せ」
「何の話だ?あたしは何も知らねえよ」
「……ふん、どうだかな」
そう言って、鎧骸骨は、槍を軽く持ち上げた。
その途端、周りの死霊達が、一斉にギュービッドに襲いかかる。
えええ!?ギュービッドさま!!
危うく声が出そうになって、あたしは口を押さえる。
ギュービッドは、黒い焔をもう片方の手にも灯すと、それを襲いかかって来る死霊達に向かって振るった。
ぼっ、と音がして、黒い焔は死霊に燃え移り、あっという間に灰になった。
え!?何あれ!?
「…喧嘩売ってきたのはそっちだからな!」
ギュービッドそう言うと、さらに黒い焔を大きくして、目の前の死霊を右手で殴る。
その灰を右手を返して払うと、隣で槍を振りかぶった二体の死霊を続けて灰にした。
それが崩れ落ちると同時に、後ろから来た槍を躱して、後ろの死霊にも焔をぶつけた。
飛び交うのは死霊の悲鳴。それから、黄緑と黒の火の粉。
ギュービッドが動く度に、黄緑色の火の玉と灰が揺らめく。
あたしの心配をよそに、ギュービッドは襲いかかってくる死霊を片っ端から灰にしていく。
す、すごい…。
上級な黒魔女は、呪文を唱えなくても黒魔法を使えるらしいけど、こんなにかっこいいなんて。
あたしが唖然としている間に、黒い焔はあっという間に広がって、ほとんどの死霊を灰にしていた。
残ったのは数体の死霊と、ボスの鎧骸骨。
「…こんな雑魚ばっかりで、あたしを狩れると思うなよ!お前もかかってこいよ、一瞬で土に返してやる!!」
ギュービッドはそんなふうに言うけど、少し息が荒くなってる。
さすがに、あれだけの死霊を相手にすると疲れるんだ。
「ふん…生意気な黒魔女だな…たった1人で、我を倒せると思うのか」
鎧骸骨はそう言って、くっくっく、と低く笑った。
絶対に倒せるもん!ギュービッドさま、がんばれっ!
邪魔をしないように、心の中で応援する。
「…ああ、見つけたようだ」
「なっ」
え?
いきなり、あたしは肩をぐいっと掴まれた。
掴んでいるのは、人体模型のような筋ばった手。死霊の手だ。
うう、見つかっちゃった。
反対側の腕も、ぎゅっと強く掴まれて、ぐい、と引っ張られた。
気持ち悪いよーっ。
そのまま、あたしは茂みの中から引っ張り出された。
「チョコ!!」
ギュービッドがあたしに気づいて声をあげる。
その途端、鎧骸骨が動いた。
ごっつい見た目からは予想出来ない素早い動きで、ギュービッドとの間を詰めて、長い槍を引いた。
「…っ!」
ギュービッドが気づいて、躱そうとしたけど、間に合わなかった。
黒コートの中から、紅く染まった槍の頭が顔を出す。
「おわ…っ!?」
ギュービッドが驚きの声を上げた。
……嘘っ、そんな。
あたしは、目の前の光景が信じられない。
信じたくない!
くくくっ、と、鎧骸骨がまた笑った。
…長い槍が、ギュービッドの身体を貫いていた。
「ギュービッドさまああぁ!!!」
- その10 ( No.27 )
- 日時: 2013/03/23 21:14
- 名前: RE ◆8cVxJAWHAc (ID: A7lopQ1n)
★
油断した。
そう思った時には、遅かった。
右脇腹が痛いというより、熱い。
「…くそっ」
足の力がぬける。
「ギュービッドさまああぁ!!!」
チョコの悲鳴が聞こえる。
おいおい、声裏返ってんぞ。落ち着け、この位、屁でもないぜ。
「…ふん」
鎧骸骨が鼻で笑って、あたしから勢いよく槍を引き抜いた。
傷口から、じわっと血が出てくる感覚がする。
あたしは膝をついて、うずくまった。
細い槍だったから、多分、失血でいきなり動けなくなることは無いだろうけど…。
「なんだ、所詮この程度か」
鎧骸骨が不気味に笑っている。
ちっ、なぁにがこの程度だこのやろう。ムカつく。
「その小娘は、持っていけ。勝手に殺すなよ」
鎧骸骨が指示を出しているのが聞こえる。
横目で見ると、チョコが4~5体のザコ死霊に抱え上げられて、森の中に連れて行かれているところだった。
チョコはといえば、あたしの名前と基本魔法呪文を交互に叫んでいる。
死霊たちが平気そうなところをみると、あっちの雑魚共も、黒魔法で強化されてるっぽいな。
とりあえず、チョコをなんとかしないと。
「ルキウゲ・ルキウゲ…」
あたしは、自分のまわりに保護魔法を貼って、目を閉じた。
☆
「ルキウゲ・ルキウゲ・ロフォカーレ!! ルキウゲ・ルキウゲ・ロフォカーレッ!! もうっ、なんで効かないのよっ!!」
あたしは、あっという間に死霊達に抱え上げられて、森の中に連れて行かれた。
真っ暗で、ほとんど何も見えない。
あたしは呪文を唱えながら、必死に暴れる。
それなのに、死霊達はがっしりとあたしの手足を掴んで放さない。
どうなってるの?なんで呪文が効かないの!?
早くギュービッドさまを助けに行かなきゃいけないのに!!
『そいつらは上級黒魔法で強化されてる。基本魔法は効かないぜ』
いきなり、頭の中にギュービッドの声が聞こえた。
え、なになに? どういうこと?
なんでギュービッドさまの声が聞こえるの!?
『テレパシー魔法っつってな、頭の中で考えた事を相手に伝えられる魔法があんの』
へえぇ、黒魔法ってやっぱり便利だね。
…ってそんな事より、死霊だよ!基本魔法が効かないなら、どうすればいいの?
『死霊を撃退する魔法ならもう一つあるんだが、上級魔法だから上手くいくかわかんないぞ。できるか?』
え、そんな、やったことない魔法をいきなり…。
……ううん、出来る!絶対出来る!
やる前に諦めるなって、ギュービッドさま、いつも言ってるもんね。
『よしよし、その通りだぜ。やり方は、まず自分の周りに焔を思い浮かべて、手を広げる。呪文は…』
ギュービッドさまの説明を一言も聞き漏らすまいと、あたしは必死に耳を澄ませる。実際は、声は頭の中に響いているから、耳は関係ないんだけど。
『頑張れ。外すなよ。チョコには多分、負担が大きいぜ』
うん。すぐ成功させて、助けに行くから。
『いや、おまえはそいつらを片付けたら、その辺の木の棒とかを使って、モリカワ倉庫へ行け。ニードコンパス持ってるだろ。それ、モリカワ倉庫に行きたいって念じれば、連れてってくれるぜ』
え!? さっき渡されたコンパスそんな凄いやつだったの!? ていうかモリカワ倉庫って何!? 存在が初耳なんだけど!
いやいやそれよりギュービッドさま、すごい怪我しちゃってるし!
『大丈夫だ。骸骨片付けたら、瞬間移動魔法で、あたしも合流するから』
でも、でもっ!
『あたしは平気だって。ギュービッドさまを甘く見るなよ、ギヒヒヒヒ!…とにかく、絶対戻って来るなよ!!』
……う、うん。わかった…!
『じゃ、後で。モリカワ倉庫へ行く間も気を付けろよ』
ギュービッドさまも、気をつけて。絶対、無事に帰って来てね…!!
それっきり、ギュービッドの声は聞こえなくなった。
よ、ようし。まずは、死霊浄化魔法を…。
目を閉じて、あたしのまわりに燃え盛る焔をイメージする。
両手をいっぱいに広げて、お腹に力を込めて!
「ルキウゲ・ルキウゲ・ウァジェスターレ!!!」
呪文を叫んで、開いた両手をぐっと握ると、腕が黒い焔に覆われた。
わわっ、ちょっと熱い…。
でも、成功っ!
再び両手を開くと、あたしの全身のまわりに黒い焔がとぐろを巻いた。
まるで黒い蛇みたいに。
「グぎャ!? ぎアァ…!!」
死霊達が悲鳴を上げて、あたしの身体から手を離す。
なるほど、この呪文、エジプト神話の“ウアジェト”って炎の神様から来てるんだね。
炎を司る巨大なコブラの姿をしていて、…ってそんなウンチク披露してるじゃないよ!
「とりゃーー!!」
あたしはギュービッドがやっていたみたいに、くるくる回って、まわりの死霊を灰にしていく。
「ぐギャあアアぁ!」
一体の死霊が悲鳴を上げて、逃げていく。
そうは行かないよっ!
「えいっ!」
逃げていく死霊の背中に向けて、腕を伸ばすと、黒い焔が飛び出して、死霊はあっという間に灰になった。
「わー…凄い…」
力を抜いて焔を引っ込めると、何だか凄くからだがだるく感じる。
ギュービッドが言ってたとおり、うんと魔力を使っちゃったみたい。
でも、まだ休むわけにはいかないよ。
ギュービッド、すっごい無理して笑ってたけど、あたしがこのまま戻ったって、きっと足でまといなだけだ。
ここはギュービッドさまを信じて、急いでモリカワ倉庫とやらへ行かないと!
あたしは、近くにあった丁度良さそうな木の枝を取ってまたがり、コンパスの蓋を開けて、モリカワ倉庫へ、と呟いた。
「ルキウゲ・ルキウゲ・ロフォカーレ!」
呪文を唱えると、木の枝がふわっと空中に舞い上がる。
さあっ、急げ急げ!!
あたしはうんと高度を上げて森の上空へ出ると、コンパスの針が指す方角へ身体を傾けた。
- Re: 黒魔女さんが通る!!二次創作!! ( No.28 )
- 日時: 2013/03/20 23:08
- 名前: ノヴァ (ID: 6.Nua64i)
二次創作New黒魔女さんを書いているノヴァです!
すごく面白いです!
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