二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
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- もう一つの獣の奏者
- 日時: 2011/03/21 17:38
- 名前: スズ ◆ixbyCx13Wk (ID: OWe0NuL4)
- 参照: http://www.kakiko.cc/bbs/index.cgi?mode
「獣の奏者エリン」のもう一つの物語…。
イアルとの隠れたもう一つの出会い…。
少女エリンと少年イアルの切ない物語です。
☆作者メンバ〜☆
スズ
azuki)
キャラクター紹介 >>3 >>4
目次
++プロローグ++ >>6
*第1話* >>8 *第6話* >>15
+第2話+ >>10 +第7話+ >>16
*第3話* >>11 *第8話* >>17
*第4話* >>13 *第9話* >>18
+第5話+ >>14
+第10話+ >>23 +第16話+ >>29
*第11話* >>24 *第17話* >>30
+第12話+ >>25 +第18話+ >>31
*第13話* >>26 *第19話* >>32
+第14話+ >>27
*第15話* >>28
*第20話* >>35
+第21話+ >>40
+第22話+ >>42
+第23話+ >>43
- Re: もう一つの獣の奏者 ( No.24 )
- 日時: 2010/12/25 20:20
- 名前: (梓!*、 ◆hLMPZ4CBa. (ID: aU3st90g)
*第11話*
「あ、の……課題は……?」
エリンが恐る恐る聞くと、リナエスは笑った。
口元はキュッと上がっているが、目は冷たい笑みだ。
「全問、正解! おめでとさん」
「あら、珍しいわね。リナエスの課題をこなす子がいるなんて」
アリエスは鈎針を動かしながらこちらを見た。
「あんた達、気に入ったわ。……少なくともあの爺よりは!」
「お爺さん……あ、ガシュラ小父さん。今日はいないんじゃ?」
エリンが答案用紙を渡してもらいながら聞いた。
「お婆ちゃん、また呆けたのかしら。もうすぐ帰るわよ……はぁ」
ため息をつき、立ち上がるリナエス。
イアルは午後には帰れると聞いていたのでなんとも思わなかったが、エリンの反応は違った。
「あの、ここにいるイアル君……彼の事をなんと思うかしら」
「え? あぁ、君ね。——あの爺のことだから追い出すんじゃない」
他人事だと、そういう言葉が省略されていた。
イアルは午後のソヨンが帰ってくる時間まで隠れたかった。
<堅き盾>の頃は生き残れば何をしても良かった。
死にたければ死に、生きたければ戦う——それが生活だった。
「——ただいま。」
しわがれ声がして引き戸が開いた。
「ちっ、帰って来やがった——……お帰り、お爺ちゃん!」
「お帰りなさい!」
舌打ちをしたリナエスを隠すようにしてアリエスが飛び出す。
2人は急いで正座をして、ガシュラを待った。
「——誰じゃ?」
「あの、エリンです。母の不在で此処に置いてもらっています。
午後には去るし、ご迷惑をおかけしないので、どうか——!」
エリンが目を伏せた。
「小娘が……お前が此処にいること自体が迷惑じゃ!隣の薄汚い小僧は?」
「……イアルと申します。」
低く落ち着いた声が逆に癪に障ったのか、ガシュラはごみを払うかのように手を振った。
「出て行け、出て行け。もう午後ではないか! 約束が違う」
「お爺さん、あんまりだよ。可愛そうじゃないか」
エシュラが小声で言ったが、ガシュラは皮肉口で言った。
「何故<霧の民>をここに入れた。菌でもあったらどうするのじゃ!」
エリンの瞳が潤んだ。
イアルが言いかけようとしたとき戸が開け放たれる音がした。
「困ります。大事な娘を塵のように扱われては!
エシュラさん、——あら、アリエスさんとリナエスさんも。お世話になりました!」
ソヨンの厳しい声とともに、2人は手を引かれて出ていった——……。
- Re: もう一つの獣の奏者 ( No.25 )
- 日時: 2010/12/27 23:24
- 名前: スズ ◆ixbyCx13Wk (ID: OWe0NuL4)
- 参照: +第12話+
エリンの緑の瞳はまだ潤んでいた…。
イアル自身は、自分の出来る事が何か模索しながらそっとエリンに近づいてみる。
「エリン!ガシュラさんが居る時に預けてしまってごめんなさいね…。
お母さんがもっとちゃんと聞いていれば…。あ!言われた事は気にしてはダメよ。どんな事があっても貴方は私のカワイイ娘なんだから…」
ソヨンは反省と悲しみの入り交ざった表情を浮かべ、エリンを説得する。
エリンは、母の発する言葉に一語一句かみ締めるようにして頷いていた…。
そこにイアルの入る余地を与えないかのように親子は目と目、心と心で会話をしている。
人間の冷たさに敏感なのはエリンもイアルも同じだったけれど、イアルに欠けていたのはエリンにとってのソヨンのような存在がいなかったことだと、イアルは眼の前の光景を目の当たりにして強く思った。
「大丈夫だよ!お母さん!あ、お母さん聞いて!私ね!アリエスさんとリナエスさんに色々教わったの!」
エリンは、さっきまでの悲しみに蓋をして、めいっぱい明るく振舞ってみせる。
ソヨンにはそれが寂しくてならなかった。自分のせいで自分の愛娘が辛い思いをしていると考えると、胸が強く締め付けられる感覚だった…。『何故、この子は悲しき運命をたどるのだろうか…。』毎日を生きる中でソヨンの心に浮かぶこの言葉が今日はより一層に浮かんでくる。
2人の様子を見ていたイアルは不安になっていた。この村に来て頭から離れなかった自分の悩みが、辛くのしかかってくる。
「俺は、ココに居て本当に良いんですか?俺は、ココで何をしてるんですか?自分のしたいことも禄に出来てない…俺は本当にココに居て良いんですか!!!?」
もう、誤魔化す事が出来ない時に大きな声で心の声が漏れてしまった事に気付いた。
イアルの叫びを聞き、親子は胸の奥が痛んだ…。
イアルはやり場が無くなり勢いだけで家を出た…。
これが、小さき少年のもどかしさが起こした悲しき家出…
- Re: もう一つの獣の奏者 ( No.26 )
- 日時: 2010/12/28 20:51
- 名前: (梓!*、 ◆hLMPZ4CBa. (ID: aU3st90g)
*第13話*
「イアル君っ!」
駆け出そうとしたエリンをソヨンが止めた。
「エリン、……怪我をする覚悟がある?」
「え? お母さん、何言ってるの……」
ソヨンは悲しそうな顔で呟いた。
「野犬、出るから……気をつけてね。これ持っていっていいから」
「お母さん……?」
火種と火打石、松明を渡すソヨンの顔が夕日で輝いていた。
エリンは受け取りながら母の顔色をうかがったが、特に変化は無い。
「——……ごめんね。いってらっしゃい! 猪肉作って待ってるから」
ソヨンは出来る限りで微笑むと背を向けた。
「うん……分かった」
「そうそう、イアル君はたぶん東のほうへ向かうと思うから、ほら……お箸持つほうへ向かって行きなさい。」
エリンは頷くと、右へ向かって走り出した。
イアルが消えたのも右だったことが何か関係しているのか、と思ったが、その考えを振り払い、只々右へ走った。
「イアル君……イアル君、何処?」
ふいに聴こえたエリンの声に、イアルは反射的に身構えた。
「怖いよ……お母さんも、この道も、怖い……」
「……——エリン!」
その言葉を聞いていられなくなり、イアルは草むらから飛び出した。
木の洞穴で疲れをとっていたので気がつかなかったが、どうやらもう夜らしい。
「イアル君! 大丈夫? 怪我してない?」
「大丈夫。大丈夫だから、……帰ろう」
低い声でイアルが言うと、後ろでガサリと音がした。
「な、何?」
エリンはきょろきょろと辺りを見回すが、イアルは分かっていた。
「野犬だ……エリン、あの低い木の下に視線を逸らして、動かすな。
それからゆっくり、引き下がれ。」
手探りでエリンの手を探し、ぎゅっと掴むと、いつでも戦えるように集中した。
「……怖いよ」
「向こうはこっちに気づいていないから、ゆっくりゆっくり下がれ。大丈夫だ」
エリンがうなづき、一歩下がるのが分かった。
イアルは手を離し、自分も足音を立てないようにしながら下がった。
「あ、松明……」
エリンはそう呟くと、ごそごそと漁り始めた。
何をするのかと思えば、辺りがぼうっと明るくなった。
「野犬は火に弱いでしょう。気づかれるけど、……逃げられる」
低いうなり声が聞こえた。
血走った目をぎょろりと動かしてこちらを見ている。
エリンは松明を近くへ投げた。
「あっち行って……」
静かに、言い聞かすように諭すと、野犬は後ろへ走っていった。
この少女は、獣を操れるのかとイアルは思った。
- Re: もう一つの獣の奏者 ( No.27 )
- 日時: 2010/12/28 23:32
- 名前: スズ ◆ixbyCx13Wk (ID: OWe0NuL4)
- 参照: +第14話+
ソヨンは願わずには居られなかった…。
娘の無事をこれほどまで願った事がこれまで一体あっただろうか?
娘と約束したとおり猪肉はもう作り終わった。後は、エリンの帰りを待つだけ…。
あまりにも不安になって、キュッと自分の手を握り締める…。
「ただいまーーー!」
そんなソヨンの不安を一気に取り除いてくれるかのように、エリンは明るい大きな声で家に入ってきた。
服には少し泥がついて、顔にも汚れがついているけれど、怪我も何も無く帰ってきた。
後ろにはイアルも申し訳なさそうに立っていた。
「エリン…少しだけお母さんとイアル君だけにしてくれないかな?大切な話しがあるの…」
「え…お母さん!イアル君は私を助けようとしてくれたよ?だから、出て行けなんて言わないで…」
「安心して、そんな事は言わないから。あなたはお風呂に入ってきなさい…もう準備はしてあるから」
「うん…分かった」
エリンは心配そうに母とイアルのツーショットを見ながらノロノロと風呂場に向かった。
「俺の事、殴りたければ殴ってもらっていいですよ?
だって、自分の娘を危険な目に遭わせたんですし、当たり前ですよ…」
イアルの目には後悔の涙が溜まっているように見えた。
そんなイアルをソヨンはゆっくり抱きしめる。
「バカね…言ったでしょ?此処に居る間はわたしは貴方の保護者だって…」
ソヨンの目から安堵の涙がこぼれていた…。
イアルも涙を一滴だけ流した。自分のした事の無意味さと、自分の未熟さにただただ『後悔』という感情だけが心を一色に染め上げる。
はっきり言って、ソヨンの涙の真意はイアルには、はっきりと理解出来ていなかった。けれど、いつか迎えるその瞬間、自分はこの人に感謝する事は今でもはっきりと分かった…。
「俺は、此処にいて良いんですね?俺は、此処で新しい自分を見つけます。俺は、此処で…エリンを守りたいです…」
イアルはソヨンの胸の中ではっきりと宣言した。
ソヨンが小さく頷いたのを頭上で感じる。
小さき少年のもどかしさが起こした悲しき家出はこうして幕を閉じた。
- Re: もう一つの獣の奏者 ( No.28 )
- 日時: 2010/12/29 15:51
- 名前: (梓!*、 ◆hLMPZ4CBa. (ID: aU3st90g)
*第15話*
「いただきます」
エリンはちょっとイアルを見上げると、食べ始めた。
ラコスの葉をひょいと退けてかぶりつくとじゅうっと音がして旨味が口いっぱいに広がった。
「おいしい! お母さん、おいしいね」
「そうね、エリン。——……食べ終わったら、磨き玉を作るの手伝ってくれる?」
ソヨンはいつもの優しい笑みで、そう尋ねた。
「うん! でも、闘陀見せてね?」
「あら、駆け引き上手になったじゃない。いいわ、見せてあげる!」
ソヨンが笑うと、首にかけた音無し笛も揺れた。
エリンは微笑むと、またご飯と一緒に猪肉を口に入れた。
「イアル君も、行く?」
ソヨンが少しためらいがちに聞いた。
イアルは首を横に振り答えた。
「いいえ。俺、知り合いに文を書くんで、良いです。
無事だということを伝えたくて——切手、貰えますか?」
「ええ、いいわよ。その知人も安堵するでしょうね!」
ソヨンはくすっと笑うと、立ち上がった。
「じゃあエリン、土間で準備をしているから来てね!
イアル君、切手はそこの文箱の裏の引き出しから取って」
ソヨンはそう言い残すと、土間へ姿を消した。
「あの、お母さんとどんな話をしたの……?」
味噌汁をごくごく飲みながらエリンが問うた。
「えっと……心配かけるな、って」
「嘘! それなら私いても良かったじゃない。」
エリンはぶすっとした口を開いてそう言った。
「——……御免な、今は言えない。日を追って、また話したい」
「……そういうと思ったぁ。分かった、としかいえないね!じゃあ、ご馳走様でしたっ」
疼く好奇心をおさえているのが、早口なことから分かった。
イアルは気づかないうちに、そっと微笑んでいた——……。
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