二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

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学園アリス 【道標を貴方に】
日時: 2011/02/05 16:15
名前: 時計屋 (ID: klLmhm9D)

こんにちは時計屋です。
また、学園アリスの小説を書きたいと思います。


登場人物

名前  白崎榎音[しらさきかのん]
年齢  13歳
アリス 夢のアリス
『リペア』の一員。比較的温厚だが、後先考えず突っ走る傾向有り。自身が原因で一族が殺されたため自己犠牲精神が強く、他人のために命を落としそうになる事もある。アリスを使い人の夢の中を行き来し、情報収集や仲介役のような事もしている。安積柚香とは面識があり、蜜柑達の事を気に掛けている。口調は常に敬語。


名前  蔵人久志[くろうどひさし]
年齢  15歳
アリス 水のアリス
『リペア』の一員。面倒見が良く、組織内での兄貴分で榎音のストッパー役兼お世話係。陽炎に対しては素っ気なく接する事もあるが、何だかんだで一番の理解者だったりする。銃の扱いが上手いため、戦闘時は前衛。


名前  陽炎[かげろう]
年齢  ??(外見年齢高校生)
アリス 不老不死のアリス 変化のアリス
『リペア』のボス。何事にも動じず、物腰柔らかに物事を見定めている。外見は子供だが、実年齢は誰も知らない。学園の事に詳しく、柚香達とも知り合いらしい。



もしかしたら増えるかもしれません。
設定やその他に対しての疑問は深く考えず、「そんなもん」と受け入れて貰えますと嬉しいです。
これから宜しくお願いします。

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Re: 学園アリス 【道標を貴方に】 ( No.9 )
日時: 2011/03/19 16:05
名前: 時計屋 (ID: klLmhm9D)

お久しぶりです。
何だかんだで更新をほっぽり出していました。すみません・・・・・。

シオンさん
お久しぶりです。前作今作と読んで下さって感謝です。いつまで続くか自分でも分かりませんが、どうか最後までお付き合い下さい。

それでは・・・始まります。


第四章【救いの祈りは神ではなくその他の誰かに】


ゆっくりと瞼を上げ前を見据えたそこに広がるのは幽閉されている部屋しかなく、単なる夢か と落胆の表情と共に苦笑が漏れる。

「今更・・・・うちは何を期待してたんやろ・・・・」

救いなんて忘れていたのに・・・・。
諦めと再び湧き上がってくる絶望にも似た感情が、自分を嘲笑っている様に感じた。

「分かってたやん・・・・・うちは・・・覚悟していたはずなのに・・・・・。知ってたやろ?」

誰に問いかけるでもなく紡がれる独り言は、蜜柑自身に言い聞かせるように何度も何度も繰り返される。一時でも救いを求めた自分に戒めの意味も込めて。


「・・・・・?」

布の摩れたような音が蜜柑の耳に届き、振り返るがそこには闇しか広がって居らず空耳かと思いこもうとした時、りんっ と夢の中と同様の鈴の音が響き渡る。

「誰?」

自分一人しか居ないはずの部屋から聞こえたその音に、警戒しながら辺りを見渡し音の主を捜す。しかし時間だけが過ぎるばかりで人の姿を捕らえる事は叶わず、無意識の内に足が後退してしまう。

「居るんやろ?姿表し!!」

恐怖で震えそうな声を必死に隠し張り上げるも、帰ってくる声は何もなく静寂が支配していた。元々電気を付けていない部屋の中は薄暗く、月明かりが唯一の灯り。不振な気配も共なり、異様に暗く感じる。
不意に、部屋の空気が動いた。りんっ と鈴の音が再び鳴り響き、靴音と共に姿を表したのは夢の中で助けを求めた少女。ふわり と穏やかそうな安心した笑みを浮かべ、スカートの裾を持ち上げながら優雅に一礼をした。

「やっと・・・・お逢い出来ましたね。佐倉蜜柑様。」

優しく響く少女の声に蜜柑は何故だか溢れてくる涙を溢すまいと、唇を噛みしめた。反対に少女は辺りを見回し何かを確信したのか、一瞬の切なそうな顔の後にっこりと蜜柑に微笑みかけた。

「ずっと・・・・ずっとお逢いしたくて・・・・。・・・やっと渡る事が出来たんです・・・・。心配だったけど・・・・よかったぁ・・・・・。」
「あ・・・あんた・・・は・・・」
「え・・っと・・あの・私は・・・」

「佐倉蜜柑!!!ここを開けなさい!!速く!!!」

涙声が交ざった途切れ途切れの言葉に少女は慌てながらも話し出したが、突然流れた警報にかき消され荒々しく叩かれる扉の音が猶予のなさを物語っている。

「・・・!!見つかりましたか・・・・・。」
「初等部校長・・・・?なんで?」

疑問符の浮かぶ蜜柑とは裏腹に状況を素早く察した少女は蜜柑の手を引き小袋からアリスストーンを取り出した。

「詳しくは後ほど。お願いです。私と共に来て下さい!!」
「・・・うちは・・・・・。」
「お願いです!!私は・・・私達は、貴女が必要なんです!!」

言葉が終わると同時に扉が破られ、そこから初等部校長とその部下が憎々しげに少女を睨みながら部屋の中へと押しかけてきた。

「そう思い通りには行かないよ。さぁ、蜜柑。僕の所へ戻っておいで。」
「・・・うちは・・・」
「君がその女と共に行くというのなら、僕にも考えがあるよ?」
「・・・・・あ・・・・」
「君の大切な黒猫がどうなるか・・・分かっているだろ?蜜柑。」
「そ・・・それは・・・・」
「君が僕の元に留まればこれから彼の扱いは少しばかり心を配ろう。彼の・・・・アリスの種類の事もあるからね。」
「・・・・棗・・・・」
「蜜柑・・・選ぶのは君さ。けれど、君の選択次第で彼の未来が決まる。これ以上は僕も譲歩出来ない。」

言葉は優しげだがその裏に隠された闇に気付かない蜜柑ではない。暗に棗の命を取るか自分の命を取るか。その選択肢の中で蜜柑が自身を拒絶できないことを初等部校長と蜜柑自身も十分すぎる程知っていた。
伸ばされた初等部校長の白く冷たい手を蜜柑は虚ろな瞳で見つめる。その姿を見、初等部校長は満足げに笑みを零し、わざとらしくため息を吐いた。

「君が僕の手を取らないとなると、棗に変わって貰うしかないかな。」
「なっ・・・!!」
「君の抜けた穴は大きいが、棗を充てれば何とか成るかもしれないからね。あぁ勿論命の保証は出来なくなるが・・・・」

真っ青になる蜜柑を横目で見ながら、罠を張らせていく。逃げ場を徐々に無くし蜜柑が自ら手を取るように差し向ける。

「彼も本望だろう。命を掛けて守りたいと言っていた君の代わりが出来るのだから。」
「!!そんなこと!!!!」
「そんな事を私達が許すとお思いですか?」

今まで黙っていた少女の声にその場にいた全ての視線が向けられる。

「なにを・・・・・。」
「貴男がこれ以上の悲劇を生み出す前に私達が止めて見せます。」
「・・・・。」

静かに放たれた決意は、蜜柑だけでなく初等部校長までもを黙らせた。

「蜜柑様。お力をお貸し下さい。」

ふんわりと微笑む少女に自然と蜜柑は頷く。それを確認すると少女は持っていたアリスストーンを発動させ、テレポートする。

「また・・・・来ます。今度は貴男を救いに・・・・。」

消える寸前少女は、睨みつける初等部校長へと言葉を贈った。




つづく



突然ですが、初等部校長ってこんなんでしたっけ?
自分で書いていて悲しくなりました・・・・・。

Re: 学園アリス 【道標を貴方に】 ( No.10 )
日時: 2011/03/29 12:36
名前: 時計屋 (ID: klLmhm9D)

やっと話がまとまりました。
ごたごたですがお付き合い下さい。


第五章【神の救いか悪魔の罠か】


強さが必ずしも幸福を掴めるとは限らない


少女に引かれるようにテレポートした場所は蜜柑のよく知る初等部寮の前だった。

「・・・・何で・・・・?」

信じられないと振り返る蜜柑に少女はただ微笑み、躊躇無く寮の扉を開け蜜柑を促した。

「・・・・あんたは・・・何考えてるんや?速く逃げな・・・・校長に見つかったら・・・・・」
「今は結界を張っております。校長といえど容易には見つける事は不可能でしょう。お逢いに成られるのなら猶予があるうちに速く。」

淡々と、しかし優しく響くその声に蜜柑は考える事を止め、人気のない寮の廊下を進んでいく。


ふっと感じた人の気配に眠りへと墜ちそうな精神を無理矢理覚醒させる。

「誰だ。」

けして大きくはない音量だが気配が動くのを感じた棗は、ベットから降り徐々に近づき慎重に扉を開けた。

「み・・・かん・・・?」

そこに立っていた予想外の人物に上手く反応が出来ない。

「お前・・・・今まで何処に・・・」

何度も何度も探し続けた大切な人。

「ずっと・・・探してたんだぞ・・・・」

先生に止められても、親友に心配させても諦めるなんて不可能で。

「蜜柑・・・・」

行方が分からなくなり、原因も其れを仕掛けた張本人も嫌な位知っていたのに何も出来なかった。後悔もした懺悔も、らしくもなく神にだって願って・・・・其れでも見つかりなんてしなかったけど・・・・。
力なく抱き寄せると、あの頃と何も変わらない。優しい香りと太陽のような笑顔の君が居る。


「・・・・でな、この人が助けてくれてん。」
「そっか・・・・」

ひとまず棗の部屋に避難した蜜柑と少女は、現状と一通りのあらましを棗に説明した。所々詰まりかけた蜜柑に少女のフォローが入るなど、今一つ要領を得ない話だったが棗には伝わったようで、蜜柑の話が終わると少女に頭を下げる。

「礼を言う。ありがとう。」
「い、いえ。お礼を言われるものでは・・・・私達はあなた方から蜜柑様を連れ去ろうとしているのですから・・・・・」
「そんな事無い!!うちは感謝しとるよ。あの闇から救ってくれて、棗にも逢わせて貰えた。一緒に行くって決めたのはうちやもん。」
「そう・・・・ですか?」
「勿論や!!」

屈託無く笑う蜜柑に少女も次第に和む。恥ずかしそうな少女と仲良くじゃれる蜜柑を棗が呼び止めた。

「蜜柑・・・・俺も行く。」
「え・・・・」
「俺もお前と行く。一緒に行ってお前を守る。」

揺るぎないその一言に二人は驚きを隠せず、蜜柑の思考が停止し、少女は棗を凝視する。

「何・・・・いっとんの?」
「俺も行くって言ったんだ。」
「なっ・・・・なんで!!!これはうちの問題やん!!!棗も脱走する事無い!!」
「お前は行くんだろ?だったら俺も行く。後の事は流架に頼む。」
「けど・・・・流架ぴょんのことは?」
「お前が居ない学園に留まるつもりはない。もう離れたくないんだよ。それに・・・流架なら分かってくれる。」
「棗・・・・。」
「一緒にいたいんだ。頼む。」

抱きしめられる腕が微かに震え得ていると気が付いた蜜柑は、困ったように少女を振り返る。目が合うと少女は頷き、時計を確認した。

「分かりました。制限時間は後十分です。その間にお二方ともお別れを済ませて下さい。」
「分かった。」
「うん。棗、蛍は?うち蛍に逢いたい。」
「今なら流架と一緒にいる。行くぞ。」
「あ、ま、待って!!」

騒がしく出て行った二人の背を、少女は切なさを含んだ優しい目で見送る。

「どうか彼らに少しでも優しい未来を・・・」

泣きそうな程儚く祈るその姿を月がだた一人見守っていた。


つづく


短いですね・・・・本来ならもっと長くなる予定でしたが・・・・どうしてだろ・・・?

Re: 学園アリス 【道標を貴方に】 ( No.11 )
日時: 2011/04/06 15:09
名前: 時計屋 (ID: klLmhm9D)

第六章【約束は儚くも散りゆく】


深夜。灯りを付けていない部屋の窓から月を見上げる今井蛍の目は空ろで、近づく流架の存在にすら気が付いていない。
少なからず其れに不安を覚えた流架は、戸惑いつつも手を伸ばし軽く肩を掴む。ぴくりと反応しゆっくり振り向く蛍は今気付いた風に焦点の合わない目を向けた。

「・・・る・・か・・?どうしたの?そんな顔して?」
「その言葉そっくり返すよ。蛍・・・どうしたんだよ・・・お前らしくないよ。」
「・・・・月を見上げていた事?私だって感傷に浸りたいと思うわ。」
「違う!!そんなんことじゃない!!!」

珍しく張り上げられた流架の真剣な声に蛍は顕現そうな目をする。
そんな蛍の表情も流架にとって耐え難いモノで、掴んだ手に力を込めた。

「そんなんじゃなくて・・・・」
「何なのよ一体。」
「・・・おかしいよ・・・どうしたんだよ・・・『あの日』からお前此処じゃない何処かしか視てない。此処にいるのに・・・違う所に居るみたいだ・・・・まるで自分が居るべきなのは此処じゃないって言ってるみたいで不安なんだ。今にも消えて無くなってしまいそうでさ・・」
「・・・・私は此処にいるでしょ?流架の隣にちゃんと居るわ。」
「それでも佐倉を捜している内に蛍まで何処かに行っちゃうんじゃないかって・・・・」

蛍の笑顔に掴む手も声も震えが止まらない。
見当違いかもしれないと流架は思った。本当に蛍の言う通りただ感傷に浸っていたのかもしれない。空ろな目も消えそうな姿も、全てが自分の勘違いで空回りしているだけで。此処にいると言った。それを信じてしまえばいいだけの事。
しかし、否と答えている自分もいる。勘違いではなく空回りでもなく。今繋がっているこの手さえ離してしまえば、二度と逢えなくなる。そう告げられている気がしてならない。

「なぁ・・・何処にも行くなよ・・・もう嫌だから・・・」
「・・・・流架・・・・」

恐れている。棗が蛍が、大切な誰かが消えてしまう現実を。近くにいられなくなることを。
臆病だと思う。笑って否定されてる事をこんなにも恐れている自分が。それでも、失いたくなんて無い。

「流架・・・・私は・・・」

『流架・・・今井・・・今いいか?』


ノックの後に続いた棗の声に、二人は顔を見合わせたが直ぐ流架が承諾の返事をすると遠慮がちに棗が中に入ってきた。

「どうしたの棗?何かあった?」

普段と違う親友の雰囲気に些か眉を顰めつつ、普段通り似るかは振る舞う。隣の蛍も何かを感づいている風だが何も言わない。

「棗?」
「流架悪い。俺は学園を出る。」
「え・・・・」
「どうゆう事?何があったの?」

突然告げられた言葉に珍しく蛍が慌てながらも質問する。

「・・・蜜柑が見つかったんだ。けどあいつは此処にいられない。だから俺も此処を出て行く。」
「見つかったって・・・・蜜柑は何処!!逢わせて!!」
「わわわわ!!!蛍此処や!!うち此処!!」

棗の胸ぐらを掴み問いただそうとする蛍を、棗の後ろに隠れていた蜜柑が慌てて落ち着かせる。

「蜜柑!!!・・・何処行ってたのよ!!心配掛けさすんじゃないわ!!」
「うぅぅぅぅ〜ごめんな蛍。」

涙を浮かべ抱擁し合う二人を棗と流架は複雑な思いで見守っていた。


「出て行くって言ってもどうするの?壁の上には結界があるし、鍵穴から行くにしてもリスクが高いよ?」

一頻りの再会を終えた四人は、順を追って話す棗の説明に耳を傾けていた。

「あぁ・・・俺もそこが引っかかってる。何の策もなしにこんな事する訳がないにしても簡単にできる訳じゃないからな。」
「ねぇ、話に出て来たその女。信用出来るの?怪しすぎるわ。」
「蛍〜そんな言わんでも・・・」
「俺も同感だよ。校長の仲間じゃなさそうだけど・・・・Zかもしれないよ?それでも行くの?」
「あぁ・・・」
「棗君!!」

蛍の怒鳴り声に畏縮した蜜柑の手を棗が握りしめる。

「今の状況だとそいつに賭けるしか蜜柑を救う方法がない。実際この学園内に蜜柑を残しておけば校長が何してくるか分からねぇし。」
「けど!!」
「それに、例えZだろうと蜜柑は俺が守る。」

強く言い放つ棗に誰も反論出来ず、流架がため息と共に安心したような笑顔を棗に向けた。

「佐倉を頼むよ。」
「流架!!」
「蛍も分かってるんだろう?棗なら佐倉を守ってくれる。だろ?棗。」
「約束する。」
「でも!!」
「二人が決めた事だよ。俺たちには・・・何も言えない。」

納得出来ずに睨みつける蛍を流架が説き伏せる。

「分かってるわ・・・・でも・・・」
「大丈夫や。きっとまた戻ってくる。せやから待っててな蛍。」
「・・・分かったわよ!!!けど絶対戻ってくるのよ!!!忘れたら承知しないわ!!!!」

久しぶりに向けられた太陽のようなその笑顔に蛍も折れ、無理矢理に約束を取り付けた。それに答えるように蜜柑は抱きつく。

「うん!!!!!いってきます蛍!!!」
「いってらっしゃい。蜜柑。」

棗に手を引かれ、嬉しそうに去って行く蜜柑を蛍は切なそうに見送る。

「大丈夫だよ。棗も佐倉もきっと大丈夫だ。」
「・・・・ありがとう流架。」

流彼の力強い励ましに小さくお礼を言うと、二人は顔を見合わせ笑い合う。
自身達の親友の幸せを願って・・・。



つづく

Re: 学園アリス 【道標を貴方に】 ( No.12 )
日時: 2011/04/06 15:16
名前: あやのん ◆u4eXEPqmlc (ID: 9oy0/Hp9)
参照: http://loda.jp/kakiko/?id

わ〜。
知らないうちにいっぱい更新されてる〜
頑張れ^^

Re: 学園アリス 【道標を貴方に】 ( No.13 )
日時: 2011/04/12 18:15
名前: 時計屋 (ID: klLmhm9D)

お久しぶりですあやのんさん。
暇なうちにどんどん書いとこうかなと思いまして・・・・しかし中々筆が進みませんで・・・遅くなっとります。すみません。



第七章【救いを拒み続ける者は抗う術を知らず】


誰の姿も見えない暗闇の中二つの足音だけが、存在を際だたせていた。

「なぁ棗・・・」
「うん?」
「蛍はあのこの子と悪く言っとったけど・・・・そんな感じせんかったよ。」
「・・・・・まぁな。」
「助けてくれたし・・・・校長にも立ち向かっとたし・・・ええ人なんちゃう?」
「そうかもな。」
「けど、棗も疑ってるやろ?」
「あぁ・・・・」

棗は一切振り向かず、蜜柑の一歩前を歩きながら問いかけに答えていた。その態度に幾分か苛立ちを覚えるが、言葉に出しはしない。ただ多少声色をきつめにするだけに止めておいた。

「なんで?ええ人なら疑るの失礼やん。何かあんの?」
「・・・・別に。ただ気は抜けねぇって事だよ。誰だろうと用心はするにこした事ねぇだろ。」
「それは・・・・・そうやけど・・・・でも!!」
「お前に何かあったら後悔だけじゃすまねぇんだよ。」

棗の強い口調に蜜柑は押し黙った。それでも納得せず、頬を膨らませる蜜柑を棗は強引に引き、強く抱きしめる。突然の事に驚き固まる蜜柑の肩に顔を埋める。

「あの時みたいになるのは嫌なんだ。蜜柑・・・・」
「棗・・・・」

微かに震える棗の肩を抱き、蜜柑は小さく分かったと呟いた。


浅い眠りの中久しぶりに感じる気配に行平は体を起こし、来訪者を迎え入れる体勢を整えた。それを見計らったかのように少女が暗闇の中から姿を現す。

「お久しぶりですね。行平校長様。」
「・・・・君か。よく来られたな。」

少女は行平の言葉ににっこりと微笑む。その仕草が自身の記憶と寸分のずれもない事に行平は普段の無表情が和らぐのを感じていた。
アリス学園高等部校長室。幾重にもセキュリティーが張られているこの場所に少女はいとも簡単そうに現れ、急ぐ素振りも見せずただ微笑んでいる。

「君の目的は理解している。」
「では、お願い出来るのですか?」
「可能ではあるだろう。しかし・・・・・」
「何か不都合でも?」

きょとんとしている少女に行平はため息と資料を渡した。そこには蜜柑達おなじみのメンバーと安積柚香の名が記されている。

「これは?」
「Z侵入事件並びに安積柚香と佐倉蜜柑の脱走事件の詳細な資料だ。」
「何故これを?」
「この二つの事件に関わる『鍵穴』。あれを使い君は脱出するつもりだろうが初等部校長が簡単に使わせるとは思えない。」
「・・・・先回り・・・でしょうか。」
「恐らく。君が彼と遭遇した時点で、彼は『鍵穴』を警戒している。以前なら快諾もしていたが、この二つの事件後彼の『鍵穴』に向けられる警戒心は強まる一方だ。リスクが大きすぎる。」

行平が苦虫を噛みつぶしたように顔を歪める。
確かにリスクは大きい。初等部校長に見つかれば、自分も蜜柑達もただでは済まないだろう。最悪自分はその場で殺されかねない。しかしそれは、何の助けもなしに行けばの話である。

「校長様。」

少女の話にそぐわぬ明るい声と表情に行平は訝しげに少女を見つめた。

「扉の使用許可をお願いいたします。」
「・・・・聞いていなかったのか?」
「いいえ。校長様のお話はきちんと。」
「なら分かるだろう。この状況で『鍵穴を』使うのは危険すぎる。中等部校長に頼めば結界を緩くして貰えるだろう。そこから行ければ・・・」
「それでは中等部校長様に疑いが向きかねません。」
「君たちが逃げる一瞬の間の話だ。彼も無闇には問いただせまい。」
「それでも、です。一度向けられた疑いを晴らす事は容易ではないはず。初等部校長が相手なら尚更。疑いを増やすべきではありません。」
「ならどうする。」

他に思い当たる方法はないと言わんばかりの行平に少女はただ穏やかに微笑みかけ、少し視線を落とす。

「久志が手伝って下さります。絶対ではありませんが、彼の力を使えれば追跡者の方を混乱に誘う事は可能です。」
「それを許可したとして失敗した場合は。」
「その時は蜜柑様方を逃がすだけですわ。命に代えましても。」
「・・・・・・・君は変わらないな。」
「変われるはずがありませんわ。その資格がない者には。」

痛々しい程響くその声に行平は、悲しそうに笑いかけた。

「・・・・手帳はこれだ。使い方は・・・知っているな。」
「えぇ。」

手帳を手渡すと、少女は来た時と同じように闇へ消えていく。

「変わるきっかけが君に訪れんことを。」
「・・・・・・受け取る事の出来ない私をお許し下さい。」

深々と頭を下げ足音一つ立てずに去った少女に行平は切なさを感じる。
救いを拒み続ける少女は、自身の犠牲を厭わない。その結果が何を生み出し誰を傷つけ続けるのか分からずに。

「・・・・資格がない、か。私にも無いのかもしれんな。泉水、柚香。君たちを犠牲にしてしまった私には・・・・。」

自嘲気味に発した言葉は彼の人達への懺悔の言葉。
謝罪も後悔もきっと彼らは望んでいない。だからこれは自分の身勝手なエゴ。それでも届くのなら。伝わるのなら。どうか・・・・

「これから先、彼女たちの歩む未来が少しでも穏やかな事を・・・」

祈る月夜は暗く、全てを飲み込んでしまいそうな程広い。
けれど月明かりに照らされた空は、何故だか優しく思えた・・・・。



つづく


今回は榎音と行平校長の掛け合いに力を入れてみました。
本編ではあまり登場されない行平校長で・・・・・難しかったです。
こんな感じでしたっけ?


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