二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
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- ヴィンテルドロップ
- 日時: 2012/08/04 20:31
- 名前: めた (ID: UcmONG3e)
さあおいで。
昔話をしてあげる。
だれも知らないお話だよ。
それは冬の終わりのお話だよ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「お母さんお話して!」
というと、ほとんどの親はこのお話しをする。
ヴィンテル王国の一番有名なお話にして、実話とされている不思議な話。
このヴィンテル王国を建国した女王様のお話である。
『冬の厳しい気候を持つヴィンテル王国。
建国したときからどの季節もふゆでした。
なので、冬と言う名をイリジウム女王はつけました。
そんなある日、イリジウム女王が谷を歩いていると、
真上で太陽と月が喧嘩した。
それまでは月と太陽は一つで、交互に夜と昼とを照らしていました。
けれど、このときからばらばらになりました。
そのとき、しずくが一つイリギウム女王めがけて落ちてきました。
うけとると、それは太陽と月の涙でした。
片面は静かに燃える月の、もう片面は激しく燃える太陽の涙。
女王がそれをなでると、たちまち虹色の宝石となり王国の雪は解けて
冬は消え去りました。
そして3つの季節が出来上がったのです。』
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- Re: ヴィンテルドロップ ( No.55 )
- 日時: 2012/09/03 01:13
- 名前: めた (ID: UcmONG3e)
「どうも、お嬢ちゃん」
クローロスが兄から手渡された運賃を馬主にわたすと、馬主は軽く帽子を上げていった。
クローロスに続いて馬車を降りると、クローロスは感激したように興奮していた。
「はじめて駅馬車に乗りました!自分で、お金もっ」
その様子にわかってるよ、とブランドは微笑む。
ちょっと重たいトランクを片方下ろし、妹の頭をなでてやる。
「わたくしはそのような幼少ではないです」
幼い者への扱いに、クローロスは不満げに言う。
けれどその不満顔も、列車の汽笛により晴れる。
クローロスは目を輝かせ、ブランドはあわてている。
「はやく乗らないと、乗り遅れてしまうよ!」
- Re: ヴィンテルドロップ ( No.56 )
- 日時: 2012/09/03 21:56
- 名前: めた (ID: UcmONG3e)
列車には何とか間に合った。
列車は石炭により走る蒸気機関車であり、クローロスは目を輝かせてみている。
列車に乗り込むと、やはり席は空いていなかった。
6両編成の列車は一両にだいたい20から25の席が設置されている。
三人分ある椅子はどれもいっぱいで、6両目に一席だけ空いていた。
けれどそこには異様な人が座っている。
真っ黒いコートを着込み、無愛想な顔を綺麗に拭かれた窓の外に向けて、軽そうな荷物は座席に放り出してある。
髪は残念ながら茶色なので、全身黒ずくめというわけではなかった。
これから6時間乗継まで立っていることになりそうだ。
けれど、妹のか弱い足ではそれが出来ないことを知っているブランドは、勇気を出してその男に声をかけた。
「こんにちは、この席空いてますか」
声に反応して振り返った男は意外と若かった。
悪趣味の中年親父かと思っていたら、20半ば青年で目も黒くはなかった。
「なにかようか」
低い声で男が言う。
(用って…いまちゃんと言ったんだけどね)
ちょっとむっとしたが、異国の人なのだろうか?なんとなく言葉に来たことのないアクセント。
「隣、よろしいですか?」
ブランドがもう一度言う前に、クローロスが自ら進んで声をかけた。
人見知りではないため、無様にドもったり、挙動不審になる事はない。
男は帽子を深くかぶったクローロスを数秒「ん?」という顔で見つめていたが、肩をすくめた。
「空いてるから、好きに使え」
とんでも上から目線にイラつくことなく兄に席を譲ろうとするクローロス。
言い分はこうだ。
「兄さんのほうが重たい荷物を持っていますからね」
けれど速攻却下され、奇妙な男の隣にはクローロスがちょこんと座っている。
帽子を深くかぶった少女とヒゲめがねのコンビでも相当おかしいのに、今度は黒ずくめまで一列に並ぶと、もう相当ヤバイ絵面だろう。
またも一番後ろの席でよかったと、ブランドはその点についてだけ胸をなでおろした。
- Re: ヴィンテルドロップ ( No.57 )
- 日時: 2012/09/06 17:25
- 名前: めた (ID: UcmONG3e)
車内がお昼モードになると、乗客はおもむろに財布を用意して、うつむいていた顔を通路へと向ける。
ほぼ時間どうりに、特性ワゴンを押す販売人がやってくる。
それほど狭くはない列車に販売人がやってくると、乗客は群がるようにワゴンに身を寄せた。
「みなさん、車内販売の時間がやってまいりました。お好きなものをお買い上げください」
女性は流暢なヴィンテルの言葉を話すと、その後2つから3つ他国の言葉で同じことをくりかえす。
その間にもワゴンの上の食べ物は、この車両が一番最後だというわけでもあって、残りが減っていく。
もともと多くはなかった食料が、数える程度に激減した。
人というのはそのものが少なければ少ないほど買い占めたいという欲求があるらしく、無駄なほど手に入れる客もいた。
「一つでもいいから、残っていればいいのだけど」
ブランドが小声でつぶやくと、クローロスは気を気かしたようだった。
「わたしはあまりおなかは減っていません。お昼など、抜いてもかまいませんよ」
まぁ、ほとんど嘘ではなかった。
朝ごはんはきちんと食べたし、腹の虫がぐうぐうわめくほどではなかった。
「そうかい?それならいいんだけど」
やっと回ってきたワゴンは、あまり人気のなかった商品が二つばかり乗っていた。
少しこげた色のパンと、冷めたスープセットが一つずつ。
残りの乗客はと言うと、残してやったんだからありがたく思えという顔をして、あまり物とは比べられないほどおいしそうな昼飯を食している。
(こういうときだけ特別扱いの王族に戻りたい)
考えて、とりあえずクローロスの隣の黒ずくめな旅人のために一つだけかうことにした。
「私たちはそれほどお腹がすいていないのですが、あなたはどれにします?」
一応聞いてみた。
すると、男はにやっと残忍そうな顔をしてなんと、二つとも買い占めてしまった。
「そりゃあよかった。俺はとてもはらがへっていてなぁ」
「お買い上げありがとうございました。またのご利用をどうぞ」
ワゴンの販売人は即座に帰っていってしまい、あの様子ではもう在庫はないのだろう。
相談される前に逃げたと見える。
「あんた達二人が腹へってなくてよかったよ、ほんと」
いやらしく笑った男はがつがつとパンとスープと平らげていった。
- Re: ヴィンテルドロップ ( No.58 )
- 日時: 2012/09/06 18:50
- 名前: めた (ID: UcmONG3e)
ヴィンテルの王都から乗り合わせた黒ずくめは、2つ目の駅で下車していった。
(こんなところで降りるなら、昼飯食わなくてもよかっただろう!)
いらいらとクローロスの隣に腰掛けた。
いらいらするのはちょっとした空腹感と、猛烈な軽蔑感のため。
先ほどの黒ずくめは、卑しくもクローロスの分として購入しようと思っていた食料を自分勝手に食べた。
クローロスが腹をすかせていなかったのが、幸いだった。
「兄さん?…あのう」
兄の苛立ちに気づいていたクローロスは、そっと声をかけた。
「なんだい、クローロス」
口調は穏やかだが、言い方が少しばかり荒々しかった様だった。
戸惑いの表情を浮かべている。
「のりかえ…のり変えはいつごろでしょうか」
「…あと2時間も先のことだよ」
クローロスが敬語を使ったので少し頭が冷えた。
- Re: ヴィンテルドロップ ( No.59 )
- 日時: 2012/09/06 21:16
- 名前: めた (ID: UcmONG3e)
2時間がたつと、山脈が近くに感じる。
窓の景色は険しい山脈の連なりを際立たせ、遠い秋の木枯らしが空気を逆巻かせる。
「乗換えだよ、クローロス」
声をかけて、重いトランクを両手に持つ。
クローロスは手渡された切符を手に、不安顔をした。
はじめての切符だからだろう、けれど馬車とだいたい同じだ。
ここはヴィンテルの王都から5つ目の駅で、比較的大きな駅であった。
3つのホームがあり、南、西、東に向かって列車が通っている。
「東のホームに行くよ。切符は、まだ出さなくていいからね」
足早にホームを目指し、次の列車に乗り込む。
今度は幸運なことに席はがら空きだった。
それもそうだろう、この列車がつく時間は真夜中だからだ。
午後6から乗り込むと、翌朝の2時につくことになる。
しかも少し料金が高めで、寝台列車であるからだ。
「夕食はちゃんとあるからね。安心するといい」
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