二次創作小説(紙ほか)
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- イナズマイレブン 異世界の危機・3 お知らせです!!
- 日時: 2013/03/07 18:31
- 名前: 桜花火 ◆snFB/WSLME (ID: /HyWNmZ0)
- プロフ: http://www.kakiko.cc/novel/novel3/index.cgi?mode=view&no=20610
〜はじめに〜
前回の「イナズマイレブン 異世界の危機・2」では、多くの方に見ていただき、とても感謝しています!!
しかし、管理人の手違いで、スレッドを消されてしまったらしいので、また新しく立て直しました!!
まだまだ、小説は続いていくので、これからも温かい目で見守ってくれたら、嬉しいです♪
by桜花火
————————————————————————————————————————
!!重要!!
・前回に消えてしまった「闇の運命編」&「精霊会議編」は長すぎるので、改めての更新はしません。しかし、「最終決戦編」は1〜5話までを、載せるつもりです。続きは、その更新が終わったあとからになります!!!
・スレッドのロックですが、第5話の更新が終わった時点で、解除します!
★注意★
・荒らし&悪口禁止!
・たまに流血あり!
・パラレル、円冬要素あり!
・紙文&更新は亀並み!
以上、許せる方はどうぞ↓↓
☆注意:2☆(上の注意を承諾してくれた皆様へ)
・短編は気まぐれで更新していくつもりです
・人物紹介ですが、前々回のスレ(参照)に登場したキャラは詳しくは書いていません。詳しい設定が見たい場合、そのスレへ!
ちなみに、このスレで初めて登場した人物は、詳しく&サンボイ付きで書きます
今度こそ、本編へ↓↓
————————————————————————————————————————
———♪更新履歴&お知らせ掲示板♪———
スレッド、解除! 1/05
———♪オリキャラ&設定紹介♪———
設定紹介 >>001
人物紹介1(フェアリー王国)>>002
人物紹介2(他国)>>003
人物紹介3(敵軍)>>004
■本編■
☆最終決戦☆
プロローグ 戦いの前兆 >>005
第01話 「新たな希望と絶望」>>006
第02話 「全ての真実」>>007-008
第03話 「懐かしの場所」>>009
第04話 「新たな加勢」>>010
第05話 「覚めない眠り」>>011
第06話 「郁斗VSイナズマジャパン」>>012
第07話 「“そら”と“かがり”」>>018
■短編■
*「」
*「」
*「」
- Re: イナズマイレブン 異世界の危機・3 ( No.8 )
- 日時: 2012/12/28 13:22
- 名前: 桜花火 ◆snFB/WSLME (ID: /HyWNmZ0)
「守はホムンクルスに似たようなものなんだ。完全な人間ではない、というのはそういう意味だ」
「で、守を創りあげたのが、“アルティス=スロード”ね?」
「……あぁ」
ここまで話が進んでくると、ラティアは自分の考えが正しいことに確信を持ち始めていた。おそらく、自分はこの中で一番早く守の異常に気が付いていたであろう。しかし、それを証明してくれる、証拠が何一つとしてなかった。だから、今までずっと黙っていたのだが、これを夏未たちが知ってしまったら、かなり厄介なことになるだろう。
「ちょっと待て、この魔法界で人造人間を完成できる人なんて、いるはずがない。どんなに高等な魔術を使ったとしても、それは不可能だ」
一郎太の言葉に、数人は納得していた。そして、反論を求めるように郁斗を見ると、彼はそっと目を瞑って、言葉を考えていた。
「……あぁ、“不可能”だよ。実際、アルティスだって失敗したさ」
「じゃあ、守は?」
「気に食わないが、アルティスから言えば、守もまた“失敗作”だ。ただこの世界で一番“完璧”に近い存在であることは確かだろうな。守の左目が見えないのは、あいつが完全でない証拠の一つなんだ。だが、守が人間ではない、というのもまた違う」
郁斗の言葉にまた首をかしげる夏未たち。彼の言いたいことを完全に理解できているのは、今の段階で、ラティアと秋だけかもしれない。
はぁっ、とため息をついて、郁斗の言葉に続けて、説明をし始めた。
「守の体は別次元で“ある人物”を元にして造られた。それが“円堂守”よ。でも、元としたのは外見だけであって、心は造らなかった。必要ないからね」
「必要ない…?」
今度は修也が訊きかえした。ラティアは顔を伏せ、少し眉間に皺を寄せる。
「アルティスからすれば、守は自分の人形となればいい。命令すれば、なんでも言うことを聞く。目的のためなら、どんな犠牲を払ってでも、実行させる。そうなればいい。だから、誰かを強く想ったり、大切にしたりする円堂の心はかえって邪魔になる。それに、無駄な魔力を使う必要もなくなるわ。だから、体だけ造ったのよ。でも、やっぱり失敗した」
ため息交じりにラティアは言った。
彼女の言葉を聞いて、夏未の体に理由の判らない悔しさと怒りが駆け巡った。失敗した、それはまさに守を侮辱しているも同然だ。もちろん、ラティアにはそのつもりはないことは分かっている。敢えて言うのならば、この感情はすべてアルティスに向ける牙だ。
同じようか感慨を修也たちも抱いたのだろう、両手を強く握りしめて、顔をそっと伏せている。
「失敗作もまた必要ない。だから、アルティスはフェアリー王国に捨てたんだ。そのあとに、守が死のうが、生きようがもうあいつには関係ない。本当はそのまま放置して、もう一つの新しい人を造ろうとした、そこでまた問題が起きた」
次に郁斗の視線は冬花を捉えた。おどおどしている彼女は、自分が見つめられた理由が解らない。
「守を拾った瞳子姉さんが、あいつの命を救った。そして冬花が、守に人間としての感情を与えた。そうなってしまえば、アルティスからしたら、面白くない。だから、もう一度守を取り返そうとした。それと、大きな力を持っている冬花を我が物にしようと、魔法石を餌として引き寄せる。そして、円堂も手に入れる事ができるかもしれない。円堂が自分の物になれば、守が壊れたとき、円堂を使えば、もう一度チャンスがある……」
「二兎を追う者は一兎をも得ず……。その言葉を知らないようね、この外道は」
鬼のような形相で夏未は言った。もし、目の前にアルティスがいたのであれば、すぐにでも刀を握って、八つ裂きしていたのに違いない。
「これじゃあ、どっちが偽物の人間なのか判らないわね。よっぽどアルティスの方が、イカれてるわよ」
ラティアも夏未と同じような表情で、低い声を使って呟いた。
「なんだ、話は早いじゃないか……」
音を立てずに修也はそっと椅子から立ち上がった。
「要するにアルティスをぶった斬ればいいんだろ?」
フッと今は見えない“敵”に向かって修也は嘲笑った。
- Re: イナズマイレブン 異世界の危機・3 ( No.9 )
- 日時: 2012/12/28 23:51
- 名前: 桜花火 ◆snFB/WSLME (ID: /HyWNmZ0)
3 懐かしの場所
———(ぶった斬ればいいんだろ?)
まぁ、そう簡単に行くはずもないのだが。とは思っていたものの、なぜか彼らといると、できるような気がした。
アルティスを倒して、円堂たちを元の世界に戻す。そして—————
「守を……」
ガタンッと突然開かれる扉、足音で誰なのかすぐにわかった。彼女はポニーテールを揺らして、優しい(?)微笑みでこちらに向かってくる。
「まっ、とりあえず、退院おめでとう」
「おう」
歩けるようになるまで結構時間がかかってしまったが、今日でようやく悠也から許可を得ることができた。消費していた魔力も大体元に戻り、晴れて元気になれたというわけだ。
もちろん、まだ激しい運動は控えろ、と念を押されているが、どちらにせよ、今の体力では無理な話だ。無理矢理にもでも体を動かして、もう一度倒れてしまったら、元も子もない。
そして、朝一番から夏未が迎えに来てくれたのだ。他の人たちはいろいろと忙しいらしく、空いているのは夏未だけだったらしい。
「最初に家に戻りましょうか。まだアンタの部屋、ちゃんと残ってるよ」
「本当か!?」
「家具とかはないけど、ベッドはあるわ。それに、もし欲しいなら、城に頼めばいいし」
ヒラヒラと手を振って、早く準備をするように郁斗に促すと、夏未は部屋を出て行った。あらかじめ、持って帰るものなど少なく、荷造りは五分足らずですぐに終わった。
「よし、じゃあ、行きましょうか」
荷物を片手に郁斗と夏未は部屋を後にした。
「へぇ、あまり変わってないんだな…」
賑やかな辺りを見渡して、郁斗は呟いた。
この国を去ってから、七年も経っているというのに、街の形どころか、雰囲気すら全く変わっていないことに、郁斗は内心で驚いていた。それが顔にも出ていたらしく、夏未が小さく笑った。
「まぁね。買い出しの場所も全く変わってないから、今度頼めるわね」
「えっ、買い出しやるのか?」
「守も修也も交代でやっているわよ」
小さく面倒くさそうに郁斗はため息をついたが、夏未には聞こえていなかったらしく、彼女はそのまま家へと直行する。
家の扉の前に立つと、今更だが緊張してきた。自分の前にいる夏未は、普通に扉を開けたのだが、今までに自分がしてきたこと、そして、この中に春奈や修也たちがいることを考えると、体が固まってしまう。
「ほら、早く入らないの?」
「い、いや、入るよ。うん、入る…」
弱く答えると、郁斗は扉をくぐって、家の中へと足を踏み入れた。
———(本当に何も変わってない……)
7年前のあの懐かしき風景は、何一つとして変わっていなかった。椅子も、テーブルも、全て同じ。何より肌から感じる雰囲気は、穏やかなもので、優しく郁斗を受け入れてくれた。
「何泣いてんのよ」
「えっ、俺、泣いてる?」
夏未に言われて、自分の頬に触れる郁斗。たしかに、双眸から流れる涙によって、微かに濡れていた。それに気がついてから、なぜかもっと泣いてしまいたい衝動に駆られた。拭いても拭いても、溢れ出してきて、ついにはその場にしゃがみ込んでしまった。
「男の子がそんなに泣いて……。みっともないじゃない」
「分かってる……分かってるけどさぁ……」
———なんか、懐かしくって…
静かに郁斗の背中を夏未は擦る。それもとても暖かかった。何もかもが自分にはもったいなすぎるくらいの感情だった。
怨み、妬み、憎しみ……。七年前からずっと邪悪な渦に閉じ込められていた、郁斗にとって、目の前に広がる全てのものが、幸せだった。
あのまま、憎悪が赴くままただひたすらに破壊をする世界で生きていたら。こんな気持ち、もう二度と感じることがなかったであろう。
いろんな感情が絡み合う中、ガチャリと静かに家の中の一つの扉が開いた音が響いた。
中から出てきたのは、春奈だった。両目をぱちりと大きく開けて、夏未と郁斗の姿を見つめる。
「あら、春奈。おはよう」
「……郁斗?」
夏未に声をかけられたのも関わらず、春奈は泣きじゃくっている少年の名をそっと呼んだ。
すると、郁斗は涙を吹きながら、顔を上げて、立ち上がった。
「えっと……“久しぶり”、春奈」
「……」
瞬間、春奈の瞳から涙が零れ落ちた。えっ、と小さな声を上げて、郁斗は慌て始めた。別に悪いことを言ったつもりはないと思うが、すぐに郁斗は傍に駆け寄って、次は彼が泣いている春奈の背中を擦る。
「ごめんなさぁい……。郁斗は悪くないよぉ……うっ、いきなり怒鳴ってごめんね…」
「な、なんだ……。そのことか……」
七年経って成長していたとしても、やはり性格はあまり変わらないようだ。あの頃の幼さはまだ少しだけ春奈には残っていた。
「本当に謝るのはこっちのほうだ。傷つけてごめん……。謝って済むようなことじゃないのは解っているけど、今の俺にはそれしかできないから……。本当にごめんな」
「郁斗、おかえりなさい!」
グイグイと雑に自分の顔を拭きながら春奈は言った。その表情に笑顔が戻ったことに安心して、まるで自分の妹を慰めるかのように、彼女の頭の上に手を乗せた。
「さてさて、荷物を置いたら、食事でも作りましょ!それで、守のところにも行かなくっちゃね」
その場の空気を変えるために夏未は明るく言った。そして、適当に荷物をテーブルの上に置いて、キッチンへと向かう。
「ねぇ、その間に春奈は郁斗と部屋を片付けてくれない?」
「は〜い」
短く答えると、春奈は郁斗の手を引いて空いている部屋へと、荷物とともに彼を連れて行った。
- Re: イナズマイレブン 異世界の危機・3 ( No.10 )
- 日時: 2012/12/30 13:36
- 名前: 桜花火 ◆snFB/WSLME (ID: /HyWNmZ0)
4 新たな加勢
「放せって言ってるだろ!!!」
そこは森の中だった。ボロボロになった一人の少女が、両手を縛られて、身動きの自由を奪われていた。全身は傷だらけで、少し動くことでさえも体に負担をかけてしまうのに、自分を拘束している二人を睨みつけて、抵抗をしていた。
「いい加減にして。あたしたちは、これ以上アンタを傷つけたくはない」
落ち着いた声で言ったのは、そのうちの一人の少女だった。藍色に近い紫色の長い髪のツインテール。菫色の吊り目。片手には巨大な鎌を持っている。表情はあまり出ていないのだが、雰囲気からして、明らかにこの状況を面倒だと思っている。
“月風かがり”、それが彼女の名前だ。
もう一人の少女の名は、“星宮そら”。水色の腰まである髪は、風が吹くたびに綺麗に揺れる。明るい青色の優しい目は、捕まっている少女に、警戒しなくていい、と安心させているような暖かさが込められている。
「おとなしくついてくれば、何もしないよ」
しかし、そらの言葉はちっとも信じてはもらえなかった。それどころか、ますます少女は警戒心を増し、暴れ続けようとする。
「お前らウィンスの言葉なんて、信じられるか!!」
「あっそう、じゃあ好きにれば?」
淡々と返事をしたかがりは、そのまま少女の腹を一発殴った。「うっ…」と小さな声を上げたあと、少女は意識を失って、おとなしくなった。
「かがり、やりすぎだよ…」
「こうでもしなきゃ、あの人のもとに連れてけないよ」
「それはそうだけど……」
そらは気絶している少女を見つめた。その顔はとても苦しそうで、誰かに助けを求めているようだった。まるで、ずっと闇の中をさまよっていた哀れな者のようで、心が締め付けられる感じがした。
「影使いフレイミア……。謎が多すぎる……」
「うん、そうだね…」
フレイミアの相棒であるレイジュは出てこなかった。いや、出てこれない、というのが正しい言い方だ。かがりとそらが彼女の腕につけた物が影響して、レイジュは今、閉じ込められている状態なのだ。
すると、かがりがフレイミアを抱き上げて、自分の背中にゆっくりと乗せた。当然だが、目を覚ます気配はない。
「かがり、担げるの?」
「まぁ、軽いからね」
「じゃあ、行こう!!
————————————フェアリー王国に!!」
そらの元気な声が、森の中で響き渡った。
☆
「今日も様子は変わらないのか?」
開いていた病室の扉。ノックをせずに勝手に入ってしまったことに、少しだけ後悔をしつつも、一郎太は座っている少女にそっと声をかけた。突然で驚かせてしまったのか、肩が微かにビクッと動いたのだが、こちらに顔を向けると、彼女は優しく微笑んだ。
「一郎太くん、仕事は大丈夫なの?」
「……あぁ」
はっきり言うとこの状況下で、仕事をするなんて無理な話だ。精神的に落ち着かず、全く集中できないところを呆れたラティアが、休むようにと一郎太にったのだ。最初は大丈夫、などと無理をして続けようとしたのだが、さすがにラティアに睨まれるということになってしまえば、抵抗ができるはずもない。
そして、真っ先に来たのは、ここだった。
「まだ目を覚ます様子はないけど、体調は随分と安定してるよ」
「そうか……」
冬花の目のすぐ下には、薄くクマが出来ていた。昼間は守の様子を見に来たり、まだ怪我を負っている人たちの治療をしたり、そして、夜になれば、城中を駆け回って、王国軍について調べたり……。彼女はもう一週間もまともに寝ていないのだろう。それでもまだ、一刻でも早く円堂たちを元の場所に戻すために、ずっと動いていた。
「少しは休んだほうがいい。守が起きる前に、貴女が倒れてしまったら、元も子もない」
「ううん、大丈夫。全然疲れてなんかないよ。それに、みんな頑張っているのに、私だけ休むなんてダメだよ」
「……」
冬花は弱々しい笑顔を浮かべる。一郎太はそんな彼女の表情をみて、小さくため息をついた。
「助っ人を頼んであるから、任せればいい。それに二人は治療魔法を使える」
「ふぇ?」
いきなりの展開に戸惑う冬花。一郎太の言葉を理解しようとしても、頭がなかなか働いてくれない。
そのとき、冬花の体が大きく揺らいだ。そして、床に倒れ込みそうになる。間一髪のところで、一郎太がその体を支えた。
「大丈夫か!?」
「…うん、大丈夫。ちょっと力が抜けただけ……」
「お願いだから、休んでくれ。貴女がまた倒れてしまったら、この国は、どうするんだ」
こんな状態になっても、未だに、「疲れた」という言葉を、一言も言わなかった。また体制を立て直して、守のところに行こうとするのを、一郎太が引き止めて、そのまま病室の外まで、無理やり冬花を連れ出した。
「い、一郎太くん!?」
「さすがに俺が部屋まで連れて行くのは、抵抗があるだろうから、あとはよろしくな」
まるで最初からそこで待機していたかのように、病室を出たとき、目の前には明日香がいた。
「冬ちゃん、ダメだよ。嵐王も心配しているし、少しは休んで。守くんのことは、私といっちーが見てるから」
「……うん、ありがとう。二人とも」
優しく体を支えながら、明日香はそっと冬花を抱き寄せて、彼女の部屋へとゆっくり歩いて行った。
「本当にお前は……どれだけ迷惑をかければ気が済むんだ?」
頭を片手で抱えながら、大きくため息をつく。その視線の先には、未だに眠り続けている守の姿。
幼い頃からそうだった気がする。瞳子からもいろいろと聞いていた。あの中で最も手のかかる子は守だったらしい。活発で好奇心旺盛な春奈もいろいろと手間がかかるが、それ以上に表情をあまり表に出さない守の方が何を考えているのか解らず、対応にかなり困った、とも言っている。
「早く目を覚ませ。このバカが……」
もう一度ため息をついて、一郎太は椅子に座った。
「あぁ、いた」
振り返るとそこには郁斗がいた。ジーンズに黒の長袖で、とてもシンプルな服装になっていた。前日の郁斗を見たときは、さすがに明日香と一緒に口元を隠して、笑ってしまった。夏未の趣味を押し付けられ、赤や白といった派手な服を無理やり着せられた郁斗は、家を出ようとしなかった。彼には悪いが、あの時は本当に面白かった。
「服、変わったな」
「あんなの着てられるかよ……。あと二日でもしたら、マジで発狂する…」
少々顔を青ざめていて、本気で嫌だったようだ。
「でさ、俺がここに来たのはお前に話があったんだ」
「なんだ?」
これまでのちょっとしたお遊びを終わらせ、郁斗は一郎太に向き合うようにして、椅子に座る。表情が真面目になっていた。
「……あぁ、でも、その前に、明日香は何も悪くないから、怒らないでほしい。いや、別にお前がそういう人に見えるわけじゃないんだ。まぁ、そこは勘違いするな」
「説明が回りくどいぞ」
「ごめん……。明日香から聞いたんだ。今、ウィンスに瞳子姉さんがいるって」
「…そうか」
「で、明日香は、一郎太に口止めされてる、と言っていた」
そこまで、強く言った覚えはないのだが。と心の中で思うも、口には出さず、そのまま郁斗との会話を続けた。
「お前が言わなくても、元から、守が目を覚ましたら、夏未たちにも集まってもらって、言うつもりだった。だが、教えるのは瞳子さんが生きている、ということだけ、今の居場所は伝えないで欲しいと言われてた」
「そうか…」
そこで突然沈んだ表情になる郁斗。不思議に思った一郎太は、軽く首をかしげながら、そっと聞いた。
「どうかしたのか?」
—————「守がこうなったのは、俺のせいだ……。だから、分かるんだ。このままにしていても、守は“絶対に目を覚まさない”…」
その時、少しだけ眠っている守の表情が苦しそうに見えたのは、気のせいだったのだろうか。
郁斗の言葉が、一郎太の不安を煽るように、一つ一つ心に突き刺さった。
- Re: イナズマイレブン 異世界の危機・3 ( No.11 )
- 日時: 2013/01/02 20:02
- 名前: 桜花火 ◆snFB/WSLME (ID: /HyWNmZ0)
5 覚めない眠り
————「守は絶対に目を覚まさない…」
「……どういうことだ?」
冷静を装っていたが、やはり声は震えていた。驚愕だけではない、そこには恐怖も混ざっている。仲間を失う怖さだ。
郁斗もそれは感じ取っていて、今更、この話をしてしまったことに対して、少しだけ後悔していたが、ここまで話してしまったのだ。引き返すことなどできるはずがない。
「守を攻撃したとき、俺は自身の魔力だけではなく、闇の魔光石の力も使った。それが大きく影響している。けれども、一番関係あるのは、守の体質だ」
「…人造人間の、か?」
郁斗は小さく頷いた。
「人造人間は、かすかだが普通の人間よりも、魔力の回復が遅いんだ。だから、守が眠ったままなのはしょうがない。けれども、これは時期があまりにも長すぎる……」
「それがお前の魔力と、魔光石の力と何の関係が?」
「俺の攻撃は守の体を傷つけ、そして、魔光石はこいつの魔力を吸い取る。それが合わさって、なおかつ、守の体質が重なれば……」
「かなりの重症になるわけか……」
今度は頷かなかった。ただ黙って郁斗は守の方を見つめ、悔しそうに手を握りしめていた。
「……でも、ひとつだけ方法がある」
「!?」
「それをやるには、姉さんと俺の魔力が必要なんだ。うまく出来るかどうかはわからないけど……」
「そうか……。でも、瞳子さんのことなら、問題ない」
「えっ?」
次は郁斗が驚かされる番だった。一郎太は落ち着いた口調で、続きを話した。
「瞳子さんは、明日ぐらいには、ここに来てくれる」
☆
「ほら、本当は疲れてたくせに……」
目の前でスゥスゥと小さな寝息をたてて、眠っている冬花の髪を、そっとの撫でながら、明日香は言った。
そのあと、部屋に連れ戻し、ベッドに寝かせておくと、すぐに冬花は眠ってしまった。よほど疲れていたのだろう、悪戯として、少しだけ頬をつついたりしているのだが、目を覚ますどころか、動いたりもしない。
「ふふっ、おやすみ。冬ちゃん」
小さく微笑んで、毛布をかけ直すと、明日香はそのまま部屋を出ていった。
☆
「うおっ、すっげぇ!!」
「…夏未が全部作ってくれた」
昼の練習が終わった直後だった。河川敷に秋が両手に大きなカゴをぶら下げて、やってきたのだ。全員分のサンドイッチを夏未が、作ってくれていたらしい。
「食べていいか!?」
と秋が返事をする前に、すでに円堂は手を伸ばすが、雷門がその泥だらけで汚い手をパシッと叩いて、振り払った。
「円堂くん、先に手を洗ってきなさい!!貴方以外は全員洗い終わったわ」
「えっ、嘘!?じゃあ、残しとけよ!!絶対に!!」
「……慌てなくても、全部あるのに」
ビュッと風の如く走っていく円堂の背後を、全員が笑いながら見つめていた。
「「「いただきます!!」」」
全員が揃い、一斉に声を上げると同時に、腹を空かせた男子たちは、サンドイッチを頬張り始めた。
「やっぱり、美味しいな!夏未の料理」
「…言っておく、多分喜ぶ」
淡々と言いながら、秋はせっせと全員にサンドイッチが行き渡るように、一人ずつ丁寧に配っていた。
籠の中が空っぽになると、秋は慣れた手つきで片付けを始め、音無の隣に座った。
「…それと、みんなにもう一つ言いたいことが」
「「「?」」」
「あと、もう少ししたら……」
その時だった。シュッと風を切るような音が聞こえ、咄嗟に反応した円堂は、自分たちに向かってきたサッカーボールを両手で受け止めた。ボールは止められてもなお回転し続け、その威力を見せつけていた。止めたあとに確認した両手のグローブは、黒く焦げたかのように微かに破れている。
「へぇ…、結構やるんだな。まぁ、FFIだっけ?それに参加してるから、当然か」
河川敷の階段からゆっくりと下りてきたのは、一人の少年。円堂以外の人たちは、両目を丸くして驚いている。
「俺、郁斗って言うんだ。俺もサッカーが好きだから、練習に入れてくれないか?」
「……練習じゃなくて、試合するって言ってた」
ボソッと小さく秋が呟くと、郁斗は少しだけ顔をしかめた。
「ま、まぁ、そういう細かいことは気にするな…」
「郁斗すげぇな!!こんなシュート打てるなんて!!」
目を輝かせて、飛びかかるように円堂は郁斗に近寄った。しかし、郁斗は困惑な表情を浮かべていた。
「…怒ってないのか?」
「ん?なんで?」
「いろいろと迷惑かけただろ?一方的に攻撃したし、傷つけたりして…」
言うたびに声が段々小さくなっていく、その背後を見て、ため息をつく秋。申し訳なさそうに視線を逸らす郁斗は、それに全く気が付いていない。
「まぁ、そうだけどさ…。こうやって、変わったんだし、それに、郁斗もサッカー好きだろ?」
「あぁ」
「サッカーが好きな人に、悪い奴はいないよ!だからさ、一緒に練習しようぜ!」
眉を寄せたかに見えたが、それは一瞬の出来事であり、すぐに笑顔に戻ると、円堂から軽く投げられたボールを受け取り、その場で蹴り始めた。
「俺さ、お前たち全員の実力も見てみたいんだよ。だからさ、俺1人対11人っていうのはどうだ?守もやったみたいだし」
「おう、当然だ!なぁ、みんなもいいよな?」
円堂が声をかけると、豪炎寺たちはちっとも嫌がることなく、頷いた。
「よし、じゃあ、決まりだな!!俺たちの力、見せてやろうぜ!」
- Re: イナズマイレブン 異世界の危機・3 ( No.12 )
- 日時: 2013/01/05 18:34
- 名前: 桜花火 ◆snFB/WSLME (ID: /HyWNmZ0)
6 郁斗VSイナズマジャパン
「勝ち負けの判定は、お前たち全員を抜いて、俺のシュートがゴールに入ったら、俺の勝ち。そんで、もし俺がボールを取られたら、イナズマジャパンの勝ち、でいいよな?」
「あぁ!」
いつも通り気合を入れなおすために、両手を強く叩く円堂。
フィールドに妙な緊張感が漂い、マネージャーたちが固唾を呑んで見守る中、郁斗は深呼吸をした。
「開始は、郁斗のペースでいいぞ!」
「あぁ、そうさせてもらう」
始まりはいきなりだった。郁斗の短い言葉の直後、彼は地面を蹴り、前衛のもとへと突っ走った。
スピードとボールコントロールは相当いいようで、動きに一切の乱れが見られない。以前、守が言っていた通り、郁斗はかなりサッカー上手だということは、確かなようだ。
「豪炎寺、虎丸!!」
鬼道の声が響くと同時に、呼ばれた二人は郁斗に向かって走る。たちまち、郁斗の表情が硬くなり、真剣な眼差しでスライディングを仕掛けてくる虎丸を飛び越え、第一間はクリアした。しかし、攻撃はおさまることはない。次には豪炎寺が郁斗の前に立ちはだかる。
「修也が相手だと手ごわいよな」
「悪いが、俺はあいつとは違うぞ」
豪炎寺がボールを取ろうと、郁斗の足元に自分の足を伸ばす。咄嗟に郁斗は反応して、ボールを後ろで高く蹴り上げて、そのままジャンプして、空中で見事にキャッチした。
数秒遅れて、豪炎寺も跳びあがって、郁斗にまとわりつく。
「さすがだな。でも、ここは抜けさせてもらう!!」
気がついたころにはもう遅かった。あと少しでボールに届くというところで、郁斗は巧みに操り、風をも切り裂くような速さで、豪炎寺を抜いた。
「アイスグランド!!」
思考が豪炎寺からフィールドに戻る前に、吹雪からの思わぬ参戦に少しだけ戸惑い、感覚を失ってしまったが、一瞬にして体制を立て直して、間一髪のところで回避した。
「今のは危なかったな」
頭上で一度ボールのコントロールを整えてから、地面に落として、もう一度ゴール前の円堂を目指して蹴り始める。そう簡単に行くはずもなく、次は両側から挟み撃ちに鬼道と風丸が郁斗に挑む。
スライディングと上空からのガード。残されているルートは一つしかない。
郁斗は無謀にも、ボールを前方に力強く蹴るが、その先には壁山が立っている。このまま取られてしまう、と外野の女子たちは思っていたのだが、予想はすぐに破られることとなった。
急に郁斗の走りが早くなり、壁山がボールを取る寸前で、その間に入り込み、再びボールの主導権を手に入れた。
「ザ・ウォール!!」
「げっ、そんなのありかよ……。でもっ!!」
大きく厚い壁が目の前に立ちはだかる。少しだけ後退りをした郁斗だが、右足に精一杯の力を入れて、ボールで壁を粉々に蹴り破った。あとに残されているのは、円堂だけだ。
「行くぞ、円堂!!」
「あぁ!絶対に止めてやる!!」
膝で軽く蹴り上げ、標準を円堂に合わせると、力強くボールを蹴り飛ばした。
郁斗のシュートは、光のごとくゴールへと突き刺さるように、円堂に襲いかかる。その威力に動じることはなく、落ち着いた様子で円堂は腰を低く落とし、両手を前に突き出した。
「ゴットキャッチ!!!」
必殺技を使っても、シュートの威力が和らぐことはなかった。なんとか両足で踏ん張るものの、体全体がその力に押されている。歯を食いしばり、腰に力をいれて、押し返そうと粘る円堂。そして、ゴールに入る直前で、見事に円堂は郁斗のボールを止めてみせた。
「あぁ、負けちゃったか」
「でも、こんなシュート打てるなんてスゲェよ、郁斗!!」
円堂の言葉は偽りではない。実際にボールを受け止めた両手が、微かに震えている。その感覚から、円堂は言葉にならぬ感激を受けた。短かった勝負だが、郁斗が全力でやっていたこと、サッカーに対する熱い気持ち、その全てがボールから伝わってきた。
「やっぱ、楽しいな。サッカー!」
満面の笑みで郁斗はそう言うと、円堂に手をさし伸ばした。
「これから、よろしくな。円堂」
「あぁ!こちらこそ、よろしく、郁斗!」
いい終わると、円堂も郁斗の手を強く握り返した。
「…仲がいいのはいいけど、それ以上に重大なことが」
ここでこの場の空気を壊す一言を発したのは、秋だった。
いつの間にか、郁斗の側まで来ていたことに驚いたのは束の間。その感情は、すぐに恐怖へと変わった。
秋の指差す場所に郁斗は視線を向ける。その先には、まるで地獄から復活した悪魔のような笑みを浮かべた夏未がいて、大股でこちらに向かって歩いてきている。
「やっべ…」
悲鳴にも似た小さな声。郁斗の顔がだんだんと青ざめていく。しかし、隣に立っている秋は助けようとするどころか、面倒になりそうだと考え、その場を何事もなかったかのように去っていく。
「郁斗?退院したのはいいけれど、まだ激しい運動はダメだって、言ったはずよねぇ?どーして、わからないのかしら?それとも、二度と歩けないよう足をへし折ることでもしないと、言うことが聞けないのかなぁ?」
「あっ、いや……だって、たまには体を動かしたいなって…ハハッ…」
さっきまでの威勢はどこに行ったのやら、急に声が弱々しくなり、後退りをする郁斗。逃げようとする彼の腕を、夏未の手は電光石火の速さで捕らえるのに成功した。微かに聞こえた不快な音を、円堂たちはなかったことにしようと黙っていた。
「なな夏未さん、痛い!!!」
「家に戻りましょうか。さて、罰ゲームは一体なにがいいかしら?」
「まだ一回目だろ!!ここは情けというものを……って、もっと力を入れるな!!マジで折れるぅぅ!!」
「アンタの性格をよく理解している私が、一回目だからって許すと思ってる?どうせまた抜け出して、サッカーやるんでしょ?だったら、最初から怖い思いをさせたほうがいいじゃない」
フフフッと黒い笑みを浮かべながら、泣き出す寸前の郁斗を引きずり、夏未は家に戻っていく。去り際に郁斗が口パクで円堂たちに「また来る」と言ってくれたのは、かなり嬉しいのだが、これ以上関わったら彼の二の舞になりそうで、想像しただけでもとても恐ろしい。
「…私はやめた方がいいって言った」
ボソッと呟いた秋に、円堂たちは苦笑いを浮かべるのであった。