二次創作小説(紙ほか)
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- 暗黒の世紀を切裂く—— 第10話更新
- 日時: 2013/11/30 19:36
- 名前: 風死(元:風猫 ◆Z1iQc90X/A (ID: 68i0zNNK)
序幕
“暗黒の世紀”
100年以上前、突如(とつじょ)として地の底より現れわれし、異形(いぎょう)の輩(やから)。
その総称を魔人(ヴァンデル)という。
彼等は現れると同時に、彼等より以前から地上に存在していた、人間達の掃討(そうとう)を始める。
圧倒的な力と、使役(しえき)する魔物(モンスター)達によって——
だが、人間達もただ惨殺(ざんさつ)されていくばかりではなかった。
一部の人間達は長い研鑽(けんさん)の時を経て、会得した魔人にも通じる力、“天力(てんりょく)”を使い彼等に挑む。
天力を使いこなす人間達の希望。
魔を狩る者達を人々は、畏敬の念をこめヴァンデルバスターと呼んだ——
これは、バスターと魔人の火花散る戦いを描いた物語である。
———————————————————
初めまして、風死と申します。
もしかしたら風猫と言うHNをご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、実力の程は大した事無いです。
駄作な上に更新速度は1ヶ月に1度あれば良い方クラスですが、それでも宜しかったら付いてきて欲しい!
出来る限り頑張ります。
原作名:冒険王ビィト
備考:5年程度昔まで、月間少年ジャンプで看板を張っていた作品。
WJ史上に残る名作ダイの大冒険の作者コンビによる熱い冒険活劇。
だが、五年前を境に大きな病気に掛かり、未だに音沙汰無く、ファンの間では復活がいまだ待たれている。
今は病床で伏している先生方にささやかなエールを送りたいと思い執筆を決意。
と、いうことで宜しくお願いします。
【警告】
・荒し行為、宣伝行為、重度の雑談はご法度。容赦なく管理人に問い合わせます。
・指摘や感想はおおいにOKです。文章が可笑しいとか矛盾とか、誤字脱字、容赦なくご指摘お願いします。
・更新は遅いです。ご容赦を。
・最初の頃は、原作にかなり沿って書かれますので、原作を知る人は退屈だと思います。
・執筆中のときは、書き込みをしないでいただけると嬉しいです。
【更新履歴】
第1話 >>5
第2話 >>8
第3話 >>10
第4話 >>18
第5話 >>20
第6話 >>23
第7話 >>25
第8話 >>26
第9話 >>33
第10話 >>35
【短編・企画・キャラ絵等】
【お客様】
白様
F様
日向様
現在、3名——
執筆開始日時 1月22日 14時12分
- Re: 暗黒の世紀を切裂く—— 第一話執筆中! ( No.4 )
- 日時: 2013/01/25 21:59
- 名前: F (ID: 6WxHP1uY)
そういえば、12巻出たのって2006年の9月9日なんですよね。
てかあのあとキッスとバロンの戦いがどうなるのかめっちゃ気になる!
- Re: 暗黒の世紀を切裂く—— 第1話執筆中! ( No.5 )
- 日時: 2013/02/02 11:20
- 名前: 風死(元:風猫 ◆Z1iQc90X/A (ID: 68i0zNNK)
- プロフ: ・大陸名の設定はオリジナルです(汗
冒険王ビィト 暗黒の世紀を切裂く——
第1話「戦士達の世界へ Part1」
世界は6つの大陸に区分されていた。
それぞれヒルガンテ、ソイフーリャ、サラミラ、ハングアクス、ドロトス、アゴラスタという。
人々はそれを総称し六大大陸(リーゼフォリア)と呼称している。
物語の始まりは、ハングアクス大陸の辺境にある、アンクルスという山里。
城壁のような塀(へい)の内側に家々が並ぶ。
村の外郭(がいかく)を、ぐるりと頑丈そうな壁が囲んでいるのは、当然のことながら魔人達の攻撃から身を守るためである。
暗黒の世紀に存在する全ての人が集まる場所は、門の中に集住区を設(もう)けているのだ。
建てられている家々は、石造りの簡素(かんそ)な作り。
基本的に、すぐ横には畑がある。
鍬(くわ)や鋤(すき)を持って、一生懸命農業にいそしむ夫婦の姿が目につく。
山村らしい長閑(のどか)な風景。
後に始まりの地と称(しょう)される場所だ。
そんな閑散(かんさん)とした村にも、魔人と戦う戦士バスター達は存在し、当然ながらバスター専用の施設もある。
ハウスと呼ばれるその小屋には、昔バスターとして活躍した者が鑑定士という役職名で常駐(じょうちゅう)しているのが常だ。
彼等は、世界最大の都市グランシスタに居を構えるバスター協会本部から指名された、一流の者達で俗(ぞく)に監視官とも呼ばれる。
バスター達の実力(レべル)管理や装備や道具の売買。
任務(クエスト)の発注(はっちゅう)など、ありとあらゆるバックアップを一手に担(にな)う多忙な者達だ。
そんなハウスの中に、このハウスの鑑定士である老婆と一人の少年がいた。
フードを被った老婆は、老いてなお鋭い眼光で、目の前にいるはねた癖毛の少年を睨(にら)む。
少年はその眼光に臆(おく)することなく言う。
「俺、バスターになりてぇんだ! 何がなんでも……」
何度説得をしても一向に引き下がらない少年にあきれ、老婆はため息をつく。
そして、最後の警告をする。
「本当に、ほんっとーぅに良いんだねビィト。まだ、考える時間はある。死に急ぐ必要はないさ。バスターなんてのはね。仇打ちなんてできるかも知れないこと望んでる馬鹿か、一攫千金とか夢想してるアホのなる仕事さ。あんた、人生棒に振っちまうかも知れない選択なんだよ?」
老婆の説得はビィトと呼ばれた少年には、届きはしなかったようだ。
少年は老いた鑑定士がもうすぐ折れそうだと悟(さと)り、目を爛々(らんらん)と輝かせる。
バスターになるのは簡単だ。ハウスの門戸(もんこ)を叩き、申請すれば良い。
ただそれだけ。そうすれば、常駐する鑑定士が、バスターの証たる胸の烙印(ブランディング)を特殊な焼き鏝(ごて)でつける。
すると、体内にあった天力の流れが活性化しバスタートしての最低限必要な力を有することとなるのだ。
だが、バスターは危険きわまる仕事である。
魔人の討伐数に比べ、死亡率はあまりに高い。
バスターになる者の大半は、魔人につけられた高額な賞金を目当てとする武芸者やを復讐(ふくしゅう)を望む者のどちらかだ。
しかし、老婆はビィトがそのどれにも該当(がいとう)しない存在であることを知っている。
バスター発足(ほっそく)当初は多数いたが、今や数少ない平和を目指し魔人を狩ろうとする者達の同類。
バスターという職業が世間に認識されはじめた頃から、その職についていた鑑定士は、過去を懐かしむような目で少年を見た。
その一方で、魔人の圧倒的戦力を知る者として、魔人を滅ぼして平和をなどというのは幻想だという思いも強い。
しかし、来る者は拒まずが、協会の方針だ。
説得はできるが、それで引き下がらなかったら、その相手をバスターとして迎え入れるしかない。
老婆は嘆息し、焼き鏝を取り出す。
そして、老婆は念を押すように言う。
勘違いして貰っては困る。厳しい職業なのだということを。
「本当に良いんだねビィト。何度でも言うが、これを一度押しちまったら、もうカタギとは言えない。死んでも文句は言えないってことだよ? それでも、良いんだね」
鋭い老婆の双眸に冷や汗を流しながら、ビィトは強い口調で宣言した。
「おう! もちろんだぜッ、俺は今日こそバスターになって決めてるんだからな!」
威勢良く啖呵(たんか)をきり、茶色一色のシャツを脱ぐビィト。
彼の胸部に鑑定士の老婆は焼き鏝を当てた。
ジュワァと肉が鉄板で焼かれるような音が響く。
ビィトは焼かれるような痛みに我慢できず、身をよじらせて絶叫する。
そんなビィトを冷えた眼差しで身ながら、老婆は「痛かっただろう」と問う。
「全ッ然! それどころかむしろ、一人前の男になれたって感じですがすがしいぜ!」
涙を流しながら、ビィトは必死に強がってみせた。
だが、苦悶(くもん)の表情や涙から、老婆には痛みを我慢してるのが丸分りだ。
こんなことで大丈夫かと、胸中で呟(つぶや)きながら、走り去っていくビィトの背中を老婆は追う。
息急ぎの馬鹿な子供だと、捨て置く気にはどうにもなれないらしい。
頼りない足取りでハウスをあとにするビィトを見つめながら一言。
「やれやれ、こりゃぁ、また、問題児が現れたみたいだねぇ」
そう言う老婆の顔は、なぜか少し嬉しそうだった。
——————
End
第2話へ
- Re: 暗黒の世紀を切裂く—— 第1話更新 ( No.6 )
- 日時: 2013/01/27 14:37
- 名前: 風死(元:風猫 ◆Z1iQc90X/A (ID: 6vf2Z8dj)
——白様
初めまして、よろしくお願いします。
白(ハク)ですか、何だか格好良いですね!
原作は多分もう、古本屋さんとかにしかないかもですね。絵は古臭いかもですが、良い作品です。お勧めしますよ!
遅々とした進み方になると思いますが、ついてきて下されると嬉しいです^^
——F様
あんな所で終わるとか、ファン生殺しも良い所ですよね(汗
絶対再開して欲しいですね!
つまり、6年以上……
しかし、もうそんなに月日が……何の情報も有りませんし、心配です。
- Re: 暗黒の世紀を切裂く—— 第1話更新 ( No.8 )
- 日時: 2013/11/10 11:24
- 名前: 風死(元:風猫 ◆Z1iQc90X/A (ID: Bs0wu99c)
冒険王ビィト 暗黒の世紀を切裂く——
第2話「戦士達の世界へ Part2」
アンクルスの門外。
鉄鎧を打ちつけられた二足歩行のサイ型をした魔物達が、所狭しと転がっている。
ある物は真っ二つ。
ある物は腹に穴をあけ、例外なく全てが息絶えていた。
戦闘の音を聞いて駆け付けたらしい住民達は、その光景に慄(おのの)く。
「信じられねぇ! 軽く30体は居た大型のモンスターが、あっというまに……」
「雇ってるこっちがビビっちまうよ」
驚嘆の念を軽く聞き流しながら、怪物達の処罰をした戦士達が歩き出す。
人数は5人。
剣士を中央に、すぐ後ろに槍(やり)使い。
次に盾使い、斧使い、狙撃手と続く。
アンクルスが宿ったバスターの集団だ。
始めに口を開けたのは、金色の短髪をした槍(やり)使いだった。
「こんな程度でビビられても困るんだけどなぁ」
皮肉の混じった口調で言う槍使いに、応えるように盾を持った赤毛の美青年が言う。
「モンスターなどというのは、所詮(しょせん)奴等が戯(たわむ)れに生み出した、使い魔にすぎないのですからね」
「それを操ってる本丸を討たねばならぬ」
トマホーク型の斧を片手に持つ銀髪の偉丈夫がさらに続く。
仮面を被っているせいで斧使いの表情は見えないが、低く強い声からは凄まじい覚悟が見て取れる。
斧使いの巨漢を一瞥(いちべつ)し、一番前を歩く剣士がおごそかな口調で言った。
「そうだな。俺たちが真に倒すべきは、奴等ヴァンデルなのだから……」
はねた黒髪が風に揺らぐ。
剣士の端正な面持(おもも)ちが歪む。
転がっている二足歩行のサイ型のモンスター。
名をアイアンライノス。
自然に繁殖(はんしょく)して増えるような、下級のモンスターではないのだ。
つまり、彼等を軽々と用意できるような強者が、この村落に近付いていることの証明なのである。
門前には、村長と思(おぼ)しき老人が立っていた。
老人は、しわがれた声で剣士に問う。
「どっ、どうじゃったゼノン?」
ゼノンと呼ばれた男は鋭い眼光をさらに細め、嘘偽りない事実を口にする。
「アイアンライノスが約30頭。あれは、自然に大量発生するほど安いモンスターではない」
ある程度以上力の強いモンスターは、繁殖力が高すぎるとヴァンデル自体にも危険がおよぶ可能性があるため、生殖系が劣化しているのだ。
つまり、大量に強力なモンスターを率いることができるものほど、単純にヴァンデルとして強者ということになる。
そして、アイアンライノス30体というのは、並のヴァンデルを遥か逸脱(いつだつ)した存在でなければ統率できない。
察した村人達がざわめく。
彼等自身、薄々は察していたのだろう。
心の悲鳴を長老と思しき、老人が吐露(とろ)する。
「すっすると! やはり来るというのか!? あっ、あの強大なヴァンデルッッ! 惨劇の王者ベルトーゼが」
村長の恐怖に満ちた悲鳴は、瞬(またた)く間に村中に伝播(でんぱ)して。
門の近くに居た者達から恐怖に侵されていく。
農作業などをしていた者達も、心中では心配だったのだろう。
絶望的な力が到来するという事実に戦々恐々とする。
老人の近くに立っていた、老人の息子であろう男がゼノンに問う。
「かっ、勝てるのかあんた等!?」
傍から見れば、非常に他人任せな発言。
だが力を持たぬ者達は、バスターに頼るしかない。
そう、彼等が敗(やぶ)れれば力を持たない一般人など、ヴァンデル達にとって紙切れでしかないのだから。
怯える男を情けないなどと、ゼノンは思いはしない。
なぜなら戦うのがバスターの本分で、村の維持をするために働くことが彼等の仕事だと、理解しているからだ。
強い眼差(まなざ)しで、迷いなく彼は答える。
「そのためにここに来たのだ」
戦士としての矜持(きょうじ)が、その短いセリフからは滲み出ていた——
その時、子供の声が大人ばかりの空間に響く。
「おれも力を貸すぜゼノン!」
先程、バスターとしての契約をしていた少年ビィトだ。
多くの者達が、場違いな少年の登場に呆)ほう)ける。
そんな沈黙を破ったのは、金髪で面長の槍使いだった。
「あーぁーっ」
盛大に溜息を吐く槍使い。
さらに彼は愚痴(ぐち)を続ける。
「かぁー、また出てきやがったなこの馬鹿餓鬼め。冷たくあしらわれるのもムカつくが、こういう信者みてぇな奴等も困りもんだぜ!」
新底疲れた様子で、ビィトを指さしながら、槍使いは嘆く。
しかし、男の言葉をビィトは否定する。
意味がわからないという様子で、槍使いの男は結局何なんだ問う。
「ライオォ、知ってるだろう?」
呆れ半分にライオと呼ばれた槍使いは、知らないと返す。
それに対し、ビィトは自信満々に胸を張り宣言した。
「期待の新戦力だ!」
ライオはビィトの発言に眩暈(めまい)を感じたのか、頭(こうべ)を垂れて勘弁してくれと毒づく。
村人達はと言えば、自殺志願者に近いバスター達なんかに憧れるとはと、呆れた様子だ。
自分達の仕事を子供の遊び同然に扱っているように感じたのか、無口を貫いていたゼノンもさすがに口を開いた。
「家に帰れビィト」
ゼノンの一見すれば、無知な子供を護るためのセリフに、ビィトは反論する。
その反論にゼノンが答えることはなく、その替りに美麗な盾使いが優しい声でビィトを諭(さと)す。
「僕達の仕事は遊びじゃないってことですよ」
さらに説得するチャンスとばかりにライオが続く。
「そうそう、俺たちゃぁプロなんだからな!」
しかし、彼等の発言はビィトにとって逆効果だった。
ビィトがバスターとして契約をかわしていることなど、彼等が知る由(よし)もなかった。
ビィトは胸を肌蹴させ、自信満々にバスターの証を見せびらかす。
「そんなことは心配ないよ! 見てくれ、俺もとうとうヴァンデルバスターの契約をしたんだ! 今日から俺もプロだぜプロッ!」
ビィトの宣言に、その場に居た全ての者達が呆然とする。
取分け、驚愕しているのはライオだ。
彼は辛うじて震えた声を出す。
「おっ……おっ、お前っ、マジかよ」
愕然(がくぜん)としているライオにビィトは的外れな返答をする。
「餓鬼の遊びじゃ付き合えねぇから、バスターになってから来いって言ったのライオだったよな? だから、滅茶苦茶痛かったけど我慢して、契約してきたんだぞ!?」
諦めろという意味をこめた脅し文句。
ライオは少なくともそのつもりで発したのだが、どうやらビィトは本当に契約してしまったらしい。
とんでもないことをしてしまったと、ライオは顔を引きつらせる。
真面目な盾使いの男は、そんな短慮な言動をしたライオを叱責した。
「そんな適当な約束をなぜっ!?」
それに対し、しばらくライオは口を紡(つむ)ぐ。
目を爛々と輝かせ、自分を未来のホープと思い込んでやまない馬鹿は言いよる。
「さぁ! 今すぐ仲間にしろよ! ゼノン戦士団の仲間にさぁ!」
戦士団とは同じ思想や繋がりのもと寄り合い、ハウスで戦士団契約をかわした集団のことだ。
基本的にゼノン戦士団というように、リーダー名を使って名乗ることが多い。
リーダーとして断ろうとゼノンが動いた時だった。
ゼノン達の横を小さな影が駆け抜ける。
水色の髪をした生真面目そうな顔立ちの少女だ。
少女はビィトの前へと躍り出て、彼の頬を思いきり殴ってみせた。
何も言わずにビィトは気を失い倒れこむ。
女の子にた易く殴り飛ばされるバスターなど前代未聞(ぜんだいみもん)。
哀れビィトは、突如現れた少女に引きずられていく。
そんな情けないビィトを目で追いながら、ライオは深々と溜息をついた。
「あららっ、大した期待の新戦力だわ」
——————
End
第3話へ
- Re: 暗黒の世紀を切裂く—— 第2話更新 ( No.10 )
- 日時: 2013/11/10 11:22
- 名前: 風死(元:風猫 ◆Z1iQc90X/A (ID: Bs0wu99c)
冒険王ビィト 暗黒の世紀を切裂く——
第3話「戦士達の世界へ Part3」
今ビィトがいるのは、アンクルスで最も家が密集している空間の路地裏。
彼をここまで運んできた少女は、体をワナワナと震わせながら怒鳴った。
「馬鹿ッ! 馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿アァァッ! あんたどういうつもりなのよ、勝手に契約なんてしちゃってっ!」
全力で怒りを表現する少女に、ビィトは頬をさすりながら言う。
「うっせぇなぁ。どっちみち俺はバスターになるって、決めてたんだ。いつなったって同じだろ?」
「両親(おや)を亡くしたあんたを育ててくれたうちの母さんや父さんに、申し訳ないって思わないのかって聞いてるのよ!」
ビィトの弁明に重ねるようにして、少女は声を張り上げる。
どうやら少女はビィトと同じ屋根の下に住まう、深い顔馴染みらしい。
当然彼のことを良く知っているだろう彼女は、彼がバスターを志(こころざ)していたことも知っているようだ。
そして、彼の意思を曲げることができないという事実も。
だが、予想よりも余りに早すぎた。
バスターになるということはつまり、常に死の危険に身をさらすということ。
育て親に感謝の念があれば、そう力もつけず簡単になる職業ではないはず。
少しは気持ちが届くだろうかと、少女は少年の表情を伺(うかが)う。
しかし、ビィトはケロリとした表情で。
「大丈夫だって! 俺は世界最強のバスターになるんだ。そしたら、おじちゃんもおばちゃんも、きっと喜んでくれるさ。ついでにポアラもその嫁さんにしてやっても良いぜ。それなら文句ないだろ?」
何度言葉を重ねても理解してくれないだろう、ポアラと呼ばれた少女は唐突(とうとつ)に理解した。
そしてバスターになってしまえば、それを解除することはできないことを思い出す。
それを生業(なりわい)にしてしまえば、当然上層部から入った仕事を断ることもできない。
今更議論しても意味のないことだと、理論的に考えるほどに無意味だと思い知る。
最後にポアラは幾ら理論的に割り切ろうとしても、感情的には許せない思いを拳に乗せて、思い切りビィトの顔面を殴った。
土壁が砕ける音が耳に届いたと同時に、ビィトは気を失う。
それから、数分の時間が過ぎビィトは目を覚ます。
「うーん、どうして誰も俺の話を信じてくんねぇんだ? やっぱ、レベル1だから、説得力ねぇのかなぁ?」
少しひんやりする地べたに寝転がりながら、やや的外れなことを口にして彼は立ち上がる。
ゼノン達やポアラが彼の言葉を遮(さえぎ)ったりするのは、彼が弱いからという問題とは違うところにあるのだが。
「よーし! まずはモンスターを倒してバンバン倒しまくろう! なーに、あっと言う間に、レベル10位にはなるさっ!」
そして、ポアラに殴られたときも手放しはしなかった、手製の槍を掴み走り出す。
その頃ゼノン達は、ビィトを世話している夫婦、つまりポはアラの両親が経営する宿屋の食堂にいた。
田舎らしい飾らない内装。
木の匂いが香ってくるような、優しい雰囲気の店だ。
6人座れるテーブルが5つ。
カウンターから1番近い席にゼノン達は座っている。
アンクルスのような片田舎に足を運ぶような旅人はほとんどいないのだろう、彼等以外は誰も座っておらず物寂しい。
そんな静かな店内に驚愕に染まった声が響く。
ゼノンの声だ。
「3日に1度しか寝ないっ?」
他の面々も怪訝(けげん)がる中、ポアラの母親と思しき40台程度の女性が、語り出す。
「そうそう、ビィトは不思議な子でねぇ? 昔っから3日間ずーっと、起きていて、そのあとは丸1日眠る。そういう、体質みたいなんだよ」
無精ひげにバンダナ姿をした、ポアラの父と思しき四十路(よそじ)男性が続く。
「遊ぶのも仕事手伝うのも、3日間ぶっ通し。この宿の屋根だって、ツララコウモリに穴空けられたのを、あいつが3日間で全部直しちまった」
それに対してライオは内心驚きながら、平静を保ち言葉を返す。
「ほぉ、そいつぁある意味バスター向き……かもな。敵を追うにしろ冒険の旅をするにしろ、活動時間は長いほうが良い」
少しでもビィトのバスターという職業に対する適正を見つけ安心したいという、ライオの本音を察しポアラの母親がそれを否定する。
「無理無理ッ! その後だって、お風呂で爆睡(ばくすい)しちゃって、丸1日浸かってたのよ? 体ブニョブニョになっちゃって、全く溺れたりしなくて良かったわよ」
ぶっきら棒で憎まれ口を叩くライオだが、本当は熱く世話好きな男であることを短い付き合いで知っているのだろう。
「そう言うこった。寝てるときに魔物に襲われたりしたら一溜りもねぇよ」
皮肉を含んだ口調でポアラの父が続く。
そんな中、ゼノンは沈鬱(ちんうつ)な顔立ちで物思いに耽)ふけ)る。
それを見たポアラの父は申し訳なさそうな表情をして口を動かす。
「すまねぇなゼノン。あの子にはカタギの暮らしをさせるつもりだったんだが……」
どうやら、ゼノンとビィトとは何かしらの関係があるようだ。
彼の表情が少し動く。
そのときだった、ライオが席を立ったのは。
「ちょいと様子を見てくらぁ。おっちゃんが止めてくれなきゃ俺達ぁ、この町来るたびこれから野宿だしなぁ」
これからは、ビィトの様子を見るため定期的にアンクルスにを訪れる気らしい。
自分の軽薄な台詞が招いた結果に対する、せめてもの罪滅ぼしとしてだろう。
ここ2日間何だかんだで、付きまとうビィトの世話をしてきた彼のことだ。
ビィトへの単純な思い入れも、少なからずあるに違いない。
「ありがとなライオ……」
「気ーにするなって。俺の背金もあるし、な」
安堵した声で礼を言うポアラの父に対し、軽い口調でライオは流す。
しかし、眼光鋭く表情は真面目そのものだ。
そんな同胞をクルス達は、優しいまなざしで見送る。
一方ゼノンは、他の仲間達とは全く違うことを考えていた。
『俺達バスターの能力と眠りの間には、密接な関係がある。生まれつき深く長い睡眠をとるということは、あいつも持つのかあの力を』
大陸最強と名高いバスター集団、ゼノン戦士団の中にあって頭1つ違う実力を持つゼノンだけが知る情報。
“あの力”それは、ビィトが世界を蹂躙するヴァンデル達を殲滅させるための、切り札となっていく。
まだ、遠い未来の話だ——
——————
End
第4話へ