二次創作小説(紙ほか)
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- 血界戦線《来訪者は外からやってくる》
- 日時: 2015/08/21 21:07
- 名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: ktFX/uOB)
- プロフ: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=115
ハローミシェーラ。兄ちゃんです。相変わらずここは魑魅魍魎で色々大変だけど、平穏に暮らしています。
今回手紙を送ったのは、突然空からやってきた人がいたから、なんとなく筆をとった。その日は本当によく晴れた日だった。出会った人はなんだか不思議な人だけど、どこかおもしろそうで。
これから話す話はかなり長くなるかもしれない。
けど、最後まで読んで欲しい。
今から話すことは、本当のことだから———。
オリキャラ
ハル=マユズミ(黛 巴瑠)
日本人。高校卒業後彼女の師匠カヲル=ニシキオリ(錦織 郁)から、ヘルサレムズロットの上空から落とされた。そこをランチトリオに助けらる。服装は現在は袴を着用。そのためよく注目の的になっている。黒い髪の三つ編みで、今ではメガネを外し、コンタクトを着けている。袴の袖の中に彼女の武器——ν[NEU]——が二丁隠されており、いざというときはそこから武器を出す。靴は魔改造されておりやれブースターだのやれ冷却装置だのとてんこもり。表情は普通の人並みにコロコロ変わる。最初こそ本当に空っぽのような性格だったものの、次第にヘルサレムズロットに毒されてきたのか、驚かれるくらいに明るくなっていく。とある能力と『特殊体質』、それととある秘密を抱えている。ランチトリオによく突っかかる。
カヲル=ニシキオリ(錦織 郁)
日本人。巴瑠をヘルサレムズロットの上空から落とした張本人であり、彼女の師匠。ちなみに男である。クラウスやスティーブンとは面識があり、巴瑠をライブラに入れたのも郁である。博士号を取得しており、日本にいる間はずっと研究室にこもりっぱなしの毎日だったという。現在はヘルサレムズロットに拠点を置き、また研究をしている。服装は昔ながらの男子の学ラン。手には細身で長い刀を手にしており、居合術を駆使する。おかっぱ頭と真っ黒い服装が特徴的。性格は至ってフレンドリー。見た目の割に43歳のおっさん。
随時更新予定
只今参照URLにてオリキャラ募集中。
一章のみの登場となりますのであしからず。
目次
《来訪者は》>>1-3
《黛巴瑠の》&《番外編そのいち》>>4-6
《八岐大蛇大作戦》>>7-11
- Re: 血界戦線《来訪者は外からやってくる》 ( No.2 )
- 日時: 2015/06/30 18:18
- 名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: ktFX/uOB)
「」
とりあえず外に出てあたりを散策すること十分。ふとハルさんはぽつりと呟いた。別の言語——日本語だろう——だったからさっぱりわからないけど。ちなみに今この場にいるのは僕とハルさん、それとザップさんとツェッドさんだったりする。
「」
そしてまた日本語であろう言語で何かをつぶやく。とても苦々しい顔でつぶやいていた。どんな言葉なのかは分からないけど、なんとなく誰かに向かっての罵倒言葉ということだけはわかる。すごくイライラした口調だった。
「」
いい加減良く分からないので試しにどんなことを言ってるのか聞いてみた。そしたら
「ふざけんじゃねえよクソが絶対ぶっ殺すって言ってた」
と返ってきた。一体誰に言ってるんだソレ。と喉元まででかかったが、なんとなく飲み込んでおく。それを言ったら多分なにかされることは目に見えていたから。
ふと、目を下ろすと腰あたりについている二丁の変わった銃を見つける。どうやら機械部分があるようで、なんだか何かのアニメだかなんだかで出てきたドミなんちゃらに似ていた。よく見るとその銃は変形するようで、所々に変形するような箇所がいくつかあった。気になってじっと見ているとやっぱりザップさんに絡まれた。
「おうおう陰毛頭、そんなに腰が気になんのかあ?お前も目覚めたのか?」
「うるせーよちげーよなんでそこなんだよ。僕は銃が気になっただけです」
「銃?」
ツェッドさんがそう聞くと、ハルさんは気づいたようで腰の二丁の変わった銃を手に取る。重量は結構ありそうだけど、本人いわく軽量化してるから持ちやすい、とのこと。その二丁の変わった銃は、師匠が魔改造した銃らしく、普通の銃じゃ出来ない事も普通にやってのけるすごい銃だという。魔改造と言えば、ハルさんのスニーカーも師匠によって魔改造されて色々な機能を備え付けているらしい。例えば地面を滑るように走れたりとか、電撃技や氷結技を出せたりなど。氷結技ってなんだかスティーブンさんを思い出すなあ。
「あれ、もしかしてあすこにいるの……」
ぴくりとツェッドさんがどこかを向いてそう呟いた。ばっと僕を含めた三人がそちらを向くと、たしかに写真でみた女の人がそこにいた。ただ隣に男性がいて、その男性と仲むつまじく談笑しているからか、すぐに攻撃、というわけには行かなかった。もし外れていた場合、大問題になるからだ。いろいろと。けどハルさんだけは戦闘態勢をとってそちらを伺っていた。ちょっとどういうことですか、といいかけた時、ハルさんは僕に目線を向けず黙ってとだけ言い放った。ハルさんはすぐさまスマフォを取り出し本部に連絡を入れた。恐らく見つけたということを伝えて、こっちに来るようにお願いをしたのだろう。連絡をし終えてスマフォを仕舞うと、僕たちにこう言ってきた。
「このまま様子見」
「へ?」
「師匠から聞いた話だけど。どうにもアレは引き金がひかれることで、本来の性を見せるらしいの。あと隣にいる男。あいつも異常性癖の持ち主で、そっちは殺人性癖だって。そいつもやっぱり引き金がひかれることで本性を出すタイプなんだって」
「で?その引き金っつーのは何なんだ?」
「それは———あ、引き金こっちから引く手間が省けたみたい」
そう言ってちらりとそちらを見やる。するとさっきの二人組の一人が、手に傷を負ったらしく(原因は分からないけど)、手の甲から血を流していた。
「………まさか、とは思いますけど」
「そう、そのまさかさ」
それを見た女の人と男の人がぷちりと一旦動かなくなったかと思えば———
その血を流している手に、女の人は思いっきりかぶりついた。
反対に、男の人の方は女の人の方の腕に、思いっきりナイフを突き立てた。
「うわっ!?ちょ、あれ!!」
「そう、あのふたりは、『血を見ると本性が現れる』んだよ。けど、女の方はあれはまだ軽い方」
ハルさんはさらりと言うと、その二人の方に歩み寄り、ちょうど死角になるところで銃を構えた。狙いは———男の人の方。
「おいあいつ何するつもりだ!?」
「まさか違う人の方を殺そうとして——」
るんじゃ、といいかけた時に、男の人の方の頭がはじけ飛んだ。それをみた人々は我先にと逃げ惑う。耳障りな音をたてながら頭はぼとっと地面に落ちる。それのせいで流れる血の量は倍以上になった。あたりは赤い液体で染まっていく。それの真ん中にいた女の人は、頭をかくんと下げたかと思ったら、いきなり頭をあげて奇声をあげた。そして。
背中がばっくり割れたかと思ったら、その中から大量の茨が流れ出した。
「き、気持ち悪すぎる……」
「俺も同感だ」
「僕もです」
背中から茨が出ることはまだいい。けれどもバックリ割れた中からどばっと出てきて、しかもその中身までも茨だというのは正直勘弁願いたい。吐きそうになったのは嘘じゃない。ハルさんはこっちに合図を出した。多分、『殺るぞ』の意味なんだろう。それを確認した二人は、その茨の人の目の前に出てきた。僕は戦えないから見守ることぐらいしか出来ないけども。
「いくぞ、ヘマすんじゃねえぞ魚類」
「言われたくないですね」
そう言い合いながらも二人は自分の武器である『焔丸』と『突龍槍』を構える。それに気づいたのか、茨の人は二人に向かっていばらを伸ばしてきた。だけど二人はそれを難なくかわす。多分それを交わすことは難しいことじゃないんだろう。すぐに茨を切り落とす。それを見てるだけの僕を、隣にいるソニックが励ます。いつの間にいたんだいソニック。するといきなり携帯にメールが入ってきた。なんなんだと思いつつメールを開くと何故か『ハル』と言う人からメールが入っていた。もしかしてハルさんか?つかいつの間にメアドとってたんだ?まあそこは気にしない方向で。本文を見るとこんな内容だった。
『君の義眼で奴を見て頂戴。師匠によると、奴の体の中には茨のコア——即ちデカい白い薔薇の花がある。そこを壊せば茨は血に戻り、奴は出血多量で死ぬらしい。そのコアが何処にあるか、見て欲しい。見つけ次第連絡求む』
コア…その白い薔薇の花が体のどこにあるかを見ればいいのか。見えるかどうか分からないけど、やるしかないか!
僕は『神々の義眼』を発動させて、茨の人に目を向け、そのコアを探す。デカい白い薔薇の花……どこだ?首や心臓部分にはない…となると……腹の部分?
目を腹の部分へと下ろすとその例のデカい白い薔薇の花が見つかった。
「っ見つけた!!」
すぐに携帯を取り出してハルさんへメールを送る。ちょうど腹の鳩尾の部分。そこにコアがある。そんな内容を書き込んでハルさんに送信する。ため息をひとつ漏らすと、ソニックがいきなり服の裾を掴んできた。何かと思って後ろを向いてみると
「オイシソウ」
その、茨の人が僕を据わった目で見下ろしていた。
涎を垂らしていて、顔は真っ赤に紅潮していて、なおかつ至る所の皮膚がばっくり割れてそこから茨を出していた。
「イタダキマス」
「え」
気づいたら目の前に茨が迫っていて、僕を捉えようとしていてた。何が起きるのかさっぱりわからなくて、唖然としてその茨が来るのを待っていることしかできなかった。視界が完全に真っ暗になってああ、終わった。と思って目を閉じた時だった。
「『エスメラルダ式血凍道
エスパーダデルセロアブソルート《絶対零度の剣》』」
不意に、当たりの気温が寒くなった気がした。気になって目を開いてみると、視界が開けていた。そして、後ろから肩をポンと叩かれた。目の前には凍ってズタズタになった巨大な茨。茨の人をはとっくにそこから居なくなってたけど。まさかと思って後ろを見てみると
「やあ少年。遅くなった」
笑顔のスティーブンさんと若干焦ってるクラウスさんがいた。そのまた後ろにはギルベルトさんが立っていた。K・Kさんはと聞くと、また別の仕事が入って、これなくなってしまったらしい。
「殺人依頼だって聞いたから何事かと思って来たけど……なるほど、そう言う事か」
「そう言う事か……って?何です?」
「あの少女は茨に支配されている。残っているものがあるとすればそれは食人願望だ。今の少女はそれ以外何もかも茨自体に支配されてると思った方がいい。だから殺人依頼を出したんだろう」
「支配されてるって、脳までもですか?」
「ああ。そう考えた方がいい」
まさかここまで事態が厄介なことになってるとは、と言いたげな顔だった。クラウスさんも茨の人を落ち着いた顔で見据えているけど、実際かなり考えているのだろう。このまま放っておけばいずれ死ぬ、けどもし茨から解放されたとしても、食人願望は変わらない。殺すか、生かして泳がせるか。そのどちらかの決断を迫られているんだろうと、勝手に僕は推測する。
ピロリと携帯がなる。メールが届いたんだろう、開いて確認するとやっぱりハルさんからだった。
『了解。んじゃあぶっ壊す。あの二人にアレ捕まえてって伝えてくれる?』
流石に今あの場(茨の人とザップさんとツェッドさんが死闘を繰り広げてる)に出たら多分一瞬で死ぬことが間違いないので、クラウスさんとスティーブンさんにメールを見せて頼むことにした。お二人は納得してくれて、快く引き受けてくれた。まず最初にクラウスさんが気を引いて、その隙にスティーブンさんが作戦を伝えるという感じで行くことになった。絶対この作戦なら上手くいく。そう確信した。
- Re: 血界戦線《来訪者は外からやってくる》 ( No.3 )
- 日時: 2015/06/30 18:59
- 名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: ktFX/uOB)
「伝えてくれたみたいね」
結局私もあの場に出ることになって、茨を交わしつつそっちを確認する。
「『ブレングリード流血闘術117式
絶対不破血十字盾《クロイツシルトウンツェアブレヒリヒ》』」
一方ではミスタクラウスが奴の気を引かせて奴の攻撃モーションをミスタクラウスに集中させる。万が一の時は茨をぶっ壊したりで対応。もう一方ではスターフェイズ氏がレンフロ氏とオブライエン氏に作戦内容を伝える。うん、まあそこそこいいんじゃないかな。私は少し高台に避難してたけど、内容を伝え終わった時にそっちに戻る。
「さていくか。『Operation起動』」
レオが言っていたドミなんちゃらに似てる魔改造された二丁の変わった銃を構える。私の声に呼応するように、銃も起動する。
『イエスマム』
「『74絶対弾丸道《セブンフォー:アブソルートバレット》』」
『74絶対弾丸道《セブンフォー:アブソルートバレット》』
二丁の変わった銃———『ν[NEU]』を変形させて魔改造されたスニーカーに装着させる。バチバチと電撃が走る。私は真っ直ぐに上へと飛び、奴の真上へと狙いを定める。目標ロックオン。視界良好。いける。
「『電撃蹴《ショック・ウーダラー》』」
私はそいつの頭上に、電撃が迸る蹴りを思いっきり入れてやる。バチィッと爆発音にも破裂音にも似た音があたりに広がる。そしてそれと同じくらいのスピードで閃光が起こる。少し眩しくて目をおおってしまったが、とりあえずは的中した様子。そいつは感電して少し麻痺った。あれで麻痺る程度とか茨すごいな。ともかく一瞬の隙はできた。それを合図に、例の二人が話に聞いた『血でできた糸』をそいつに巻き付け、固定する。我に帰った時にはもう遅く、そいつはグルグルにされていた。振り解こうと必死にもがくけどそれは無駄。私はν[NEU]の照準を奴の鳩尾に合わせる。一瞬の沈黙の後。
「『漆黒破壊槍《チョールヌイ・プーリエ・クシオ》』」
一つの銃から放たれた黒い槍は真っ直ぐにそこに向かって、白い薔薇の花を粉々に砕いた。そして、あたりには赤い液体が飛び散って、そいつの口からも赤い液体がごぽっと飛び出て。最終的にそいつは糸が切れた人形のように倒れ、動かなくなった。
その後、その茨の人の遺体は焼かれた後にどこかへと葬られた。その人と共にいた男の人も、またどこかへと葬られた。前の日はグロ映像が飛び交った場所も、今ではすっかり日常へと戻っていた。あれだけ暴れた茨のあとは、綺麗さっぱり消えていた。まるであの事件が最初からなかったかのように。
本部に戻ると、すぐに歓迎会と言う名の飲み会が始まった。その時いなかったK・Kさんは、ハルさんを見るなりものすごい勢いで愛でていた。若干ハルさんは時々入る首絞めに苦しみつつも、満更でもなかったようだ。ちなみに彼女が飲んでいるのはドクターペッパーなる飲み物だったりする。
「えっと、不甲斐ない所もあると思いますが、これから宜しくお願いします」
それが歓迎会と言う名の飲み会の締めの言葉となり、その日はお開きになった。
「」
朝出社すると、一番最初にハルさんが出迎えた。その時かけられた言葉はやっぱり日本語だったけども、なんとなく「おはよう」っていってるのがわかった。
「おはようございます」
「おはよう、レオナルド君」
クラウスさんも来ていたようで、観葉植物か何かに水をやっていた。今この場にいるのはそのクラウスさんとハルさん、それといま頭上にいるチェインさんぐらいだろうか。
「おはようございますチェインさん…」
「おはようレオ」
挨拶をするといきなり頭が軽くなったかと思うと、いつの間にかハルさんのもとにいた。ソニックはハルさんの銃——ν[NEU]と言っていたっけ——に夢中になっている。
けど当の本人の目の下にはなにか黒いものがついていた。
「ハルさん、もしかしてオールしました?」
「……久しぶりのアメリカ風呂だったから、よくわからなくてようやく風呂に入ったと思ったら日付変わってたわ」
そう言ってソファに体を預けた。かと思うとすぐに寝始めた。急な人だなあ、と思う。
急に空から降ってきて急にライブラに入って急に戦って急に馴染んで急に寝てしまう。ものすごく急な人だ。
「そう言えばクラウスさん」
「なんだね?」
「ハルさんを入れた理由ってなんですか?その、師匠って人から頼まれたこと以外に」
今まで疑問に思っていたことをクラウスさんに聞いてみる。いくら師匠さんからの頼み事だとしてもライブラに———それも上層部にほいほいと上げるものなのだろうか。僕はちょっとしたきっかけだけれども。まあ『この眼』があるから入れたみたいなもんなんだろうけれど。クラウスさんは僕をソファに座らせて、自分も座ると、言葉を選びながら語り始めた。
「……彼女をライブラに招いたのは、彼女が抱える『秘密と能力』だ」
「秘密と…能力?」
いつの間にか僕の頭の上にはチェインさんが座っていて、興味深そうに聞いていた。
「まずは能力について話そう。彼女は本来ならば血法を持っている」
「血法?」
「『大和流血針道』と言って、自らの血を針に変えて戦う血法なのだが、彼女はそれを使うことを良しとしない」
「なんでですか?」
そう聞くと、クラウスさんは少し悲痛な顔をして、こう答えた。
「彼女はその自らの血法の過ちで、弟さんを殺して、否、亡くしているからだ」
口から出たその言葉に、僕はただ呆然とするしかなかった。
クラウスさんは続ける。
「そのせいで、彼女は血法を使うことをやめてしまい、二丁銃ν[NEU]を使うようになったのだ。それが、彼女が15の時だ」
「………じゃあ、ハルさんの秘密ってのは?」
苦し紛れに喉からなんとか声と言葉を出す。クラウスさんは少し考えたあとにこう切り出した。
「レオナルド君、チェイン。ここからの話は誰にも口外しないでほしい。彼女のためだ」
「はい」
「………彼女には特殊体質のようなものがあって、『人の死が見えてしまう』ようなのだ」
「人の死が……見える?」
「見えるのではなく、見えてしまう、と言った方が正しいのかもしれない。望まずに人に触れてしまうだけで、その人に近づいている死が見えてしまうようなのだ。それも、近ければ近いほど鮮明に、音声もついて」
「…………今までにもそういうことがあった、ってことっすよね。それがあるってわかってるってことは」
「うむ。それも避けようにも避けられぬようなものばかり、だそうだ」
今度こそ絶句した。それはチェインさんも同じだったようで、体が震えているのが嫌でもわかった。僕だって手が震えている。ソニックも涙目でクラウスさんを見ていた。クラウスさんは、悲痛な面持ちでただ僕たちを見ていた。そんな時。
「今日こそ見切ったぜ旦那ああああ!!」
いきなり扉が開いたかと思うと、ザップさんがクラウスにむかって足蹴りをかまそうと飛びかかってきた。しかしクラウスさんはそのままの体制でザップさんを軽く流してボコしていた。流石です。そのあとザップさんは気絶した、と思われる。
「話を戻そう。我々がハルを受け入れたのはそれらが主な要因だ。これは彼女の師匠———ミスタニシキオリからも頼まれたことなのだ」
「人の死が見える………ですか」
「その体質についてはドクターエステヴェスにもお願いするつもりだ」
そこまでいうとクラウスさんは仕事があるらしく、ギルベルトさんとスティーブンさんと一緒にライブラを後にした。相変わらず忙しそうだ。チェインさんはというと、ザップさんの顔を踏みつけたあと、すうっとどこかへと消えていった。んで、ザップさんはというと顔を顰めてソファにどかっと座った。
「おい、今までなんの話してた。さっきの『人の死が見える』ってなんだ」
「……クラウスさんから口外するなと言われてるので答えられません」
「あ?んだよ先輩の言うことが聞けねえってのかあ?あ?」
「うわやめてください!やめろクズ!!後でスティーブンさんとクラウスさんに言いつけますからね!?つか口外したら怒られんのは僕なんですって!特にハルさんに!!」
「あ?三つ編みメガネに?」
「そうですよ……ってなんだそのあだ名!つかハルさん起きちゃいますから!!」
ぐりぐりと頭に拳を押し付けてくるザップさんの手を抑えながらそう訴えると、その声に反応したのか、ハルさんがもぞりと動く。目を少し開いて僕たちの方を見やる。
「」
何やら口をパカッと開けて何かを発するとそのまままた寝てしまった。どうやら随分と疲れているようだ。そしてちらっと手元を見ると
盛大に中指が立てられていた。
「…………」
その時のザップさんの顔が今でも忘れられない。
《来訪者は・終》
- Re: 血界戦線《来訪者は外からやってくる》 ( No.4 )
- 日時: 2015/07/05 10:44
- 名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: ktFX/uOB)
【番外編・ハルの皆の呼び方】
「ハルっちてさ。特殊な呼び方するわよね」
「あー、まあ。オブライエン氏とかレンフロ氏とか」
「なんでレオっちは呼び捨てなの?」
「それがですね。本当はウォッチ氏って呼ぼうと思ったんですが、みんながみんなレオって言ってるので……つい。あとチェインも呼び捨てですよ」
「あ、そう言えばそうねえ」
「姐さんはなんとなく姐さんですかね」
「クラっちもミスタクラウスって言ってるわよね」
「しっくり来るのがそれしかなくて」
「んー……1回皆のこと呼び捨てで呼んでみたらどうヨ?」
—後日—
「てなことがあって、ハルっちとりあえず今日は皆のこと呼び捨てで呼ぶことになったから!」
「へっ?」
「ハルっちね、皆のこと特殊な呼び方するでしょ?なんかね、ちょーっち堅苦しい呼び方もあるから1回呼び捨てで呼んでもらうことにしたのヨ」
「だからですか。ハルさんが妙に口が固いのは」
「思いっきり顔固くしてんなアイツ」
「僕は構わないけどね?面白そうじゃないか」
「アンタが口出しするのは許可してないわよスカーフェイス」
「酷いなあ」
「ま、そういう訳だから。ハルっち?」
「………ヘイ」
—レオの場合—
「レオはいつも呼び捨て」
「そうでしたねー」
—ツェッドの場合—
「えっと、その…あまり無理しなくてもいいですから」
「……」
「無理そうだったらいつもの呼び方でかまいませんから」
「………ド」
「はい?」
「ツェッド」
「………どうです?」
「やっぱりツェッド氏で」
「そっちですか」
—ザップの場合—
「ザップ。タバコの臭いがきつい」
「ナチュラルに呼んだな」
「言いやすいからいいかなと思って」
「まあいいや。下の名前で呼ばれっと変な感覚すっから呼び捨てで構わねえ」
「ザップ」
「……やっぱさんつけろ。仮にも先輩だからなァ」
「うわゲッスい!やっぱSS先輩だった!」
「拒否する」
「…………」
「ほらね?」
—チェインの場合—
「チェイン」
「まあいつもこう呼ばれてるからあまり違和感はないね」
「呼びやすい」
—番頭の場合—
「………スカーフェイス」
「誰から教わった?」
「姐さん」
「アンタはそれがお似合いよ」
「僕だけ酷くないかい?」
「何言ってんの?」
「じゃあ番頭」
「ザップか?」
「テキトーに思いつきました」
「……もうこの際だからいいか」
—姐さんの場合—
「姐さんは姐さんの方がしっくり来ますね」
「一回だけ呼んで?」
「………K・K?」
「きゃああああ!もう可愛い!!持ち帰りたい!!」
「!?」
—クラウスさんの場合—
「ミスタ………クラウス」
「………(わくわく)」
「ク………ラウス」
「………(わくわく)」
「クラウス……」
「(パアアア)」
「………やっぱりリーダーで」
「(ガンッ)」
「(クラウスさんの反応面白い……)」
—ギルベルトさんの場合—
「ギルベルト……さん?」
「お好きになさって構いませんよ」
「……ギルベルトさん」
—結論—
「苦行だった。とくに番頭」
「結局それか」
「なんとなくこっちにします」
「とりあえず呼び捨てで呼ばれてどうでした?皆さん」
「悪い気はしなかったね」
「(名前……)」
「クラウス……?」
「(ぱああああ)」
「とりあえず、これからは呼びやすい名前でいいわヨハルっち!」
「………はあ。そうさせていただきます」
結果
レオ&チェイン→そのまま
ザップ→呼び捨てタメ
ツェッド→呼び捨てタメ
K・K→姐さん
スティーブン→番頭
クラウス→リーダー(たまに呼び捨て)
ギルベルト→ギルベルトさん
ソニック→そのまま
《黛巴瑠の》
「ねえ、知ってるー?」
「何何?」
「実はさ、最近真夜中に、この街を徘徊してる人間がいるんだって。全身真っ黒の」
「何それー!怖ーい!」
という会話を小耳にした今日の電車内。生還率は47%だそうだ。そんな中でそんな話を聞くと、まあ少しぞっとするようなしないような。だけど真夜中に真っ黒い人間を見るなんて相当目がいいんだな、なんて思ったりしてしまう。見た人は僕並に目が良かったりしてとも考えたりするが、流石にそれはないという結論に至りその考えを消す。それよりも今日は、ハルさんが何かこっちでは珍しいものを持ってくる、なんて言ってたけど———
「お、来たか少年」
本部に行くと、既にほぼ全員揃っていた。ただ少し違和感を感じる。ぐるりと見渡してみるとすぐにわかった。ハルさんの服装がいつもと違うからだ。いつもは落ち着いたカジュアルスタイルで三つ編み、それにスニーカーとかそんな感じの服装なのに、今日は見たこともないような綺麗な服——と言っていいのだろうか——を着ていた。日本のいう『キモノ』とはどこか違う感じで、何と言うか…『キモノ』であって『キモノ』じゃないというか。なんだか良く分からない。靴はそれに合うような一昔前の靴を履いていた。髪型は三つ編みじゃなくて後ろで綺麗に1つで括られている。そして頭の髪飾り。あれは花?僕がハルさんをじっと見ていると、それに気づいたのかハルさんは顔だけ僕に向き直る。
「気になる?」
「え?ああ、まあ。そりゃあ。キモノ着てたら」
「着物じゃないよ。これは袴」
「『ハカマ』?」
初めて耳にする言葉だ。ハカマって、キモノとどう違うんだろう。
「袴は動きやすいんだよ。着物と違って。まあ袴は元々動き回る人がよく来てたからね。それこそ弓道とかやってる人なんか。着物は今の日本じゃ、卒業式とか新年を迎えた時によく着られるかな。袴は剣道とかキ弓道とかやってる人がよく着る」
「それで、こっちじゃ珍しいものを見せるってそのハカマのことですか?」
「いや、これは仕掛けられたの」
「へ?」
「仕掛け?」
ほぼ同時にツェッドさんと僕が声に出す。仕掛けってなんだ、何を仕掛けられたんだ?
「昨日旧知の友人が|HL《ヘルサレムズロット》に来てさ、私の部屋に入り込むなり、『こっちにいる間は袴で暮らしてみたら?』って言ってきて。部屋にあった私の普段着全部持ってって代わりに袴を大量に置いてった。昔から突飛なことをする奴だったけど、まさかここまでなってるなんて思わなかったよ」
「それで三つ編みやめたの?」
「いや、これはやられた。その友人に」
友人さんすげえ。頑ななハルさんを袴にさせてなおかつ三つ編みじゃなくてストレートにさせるなんて。でもそれだけその友人さんはハルさんと仲がいいのだろう。というかそこまで仲がいい友人さんを見てみたい気がする。
「なるほど、だから今日|HL《ヘルサレムズロット》にいかにも日本人な女性がいるって噂が流れてたのは」
「噂に流れるまでになってましたか…」
「そりゃあその格好で彷徨いてるんだ。噂にならない方がおかしい」
ん?噂?そう言えば今朝のあの会話、まだ話題にのってないな。あの『真っ黒い人間』の話。こっちはまだ誰の耳にも入ってないのかな。ちょっと口に出してみる。
「そういえば今朝電車乗ってるときに小耳にした話があるんですけど。真夜中にHLを徘徊してる『真っ黒い人間』がいるらしいんですよ。どうにも服も帽子も真っ黒っていう」
「あーその話ね。アタシもちょっとだけ聞いたわ。あれ本当なのかしらねー」
「そもそも真夜中に真っ黒い人間見たっつーほうがおかしいっすよ。真っ暗闇の中真っ黒い人間見えるかっつー話になるわけなんだが」
「それ僕も考えました。一体どういうことなんでしょうね」
「見えていたら余程の猫目の御方なんでしょうな」
わいわいと討論が始まる。皆が口々に自分の意見を発表する中、一人だけ苦々しい顔でこの討論を聞いている人が居た。そう、ハルさんだ。ハルさんは若干冷や汗を垂らしながらその話を黙って聞いているだけだった。たまにぼそっと何かをつぶやくこと以外は、全く討論に交わらなかった。もしかして知ってる人なのかな?
「ハルさん?」
「っ、あ、ごめん。つい。ねえ、話戻してもらってもいいかな?その、珍しい物の話。たくさん持ってきたからさ」
「お、見る見る」
「どんなのがあるんです?」
「んー、これとかかな。『けん玉』」
皆がハルさんの所に群がってわいのわいの盛り上がる。ケンダマなるものをぶんぶん振り回すザップさんや、ニホンニンギョウなるものを愛でるK・Kさん、ハナフダなるもので遊びはじめるツェッドさんとか、見ていてこっちも楽しくなってくる。だけど僕は、ハルさんの口から漏れた言葉を聞き逃さなかった。日本語じゃなくて英語でつぶやいていたその言葉を。
「来やがったか……」
- Re: 血界戦線《来訪者は外からやってくる》 ( No.5 )
- 日時: 2015/07/11 18:54
- 名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: ktFX/uOB)
「来やがったかって、誰がです?」
「誰かさ」
そう聞くと、ハルさんはそっけなく答えて後は何も答えてくれはしなかった。それほど嫌な人が来たのだろうか。良く見たら真顔を保っているように思えて若干口元が苦い物を食べたかのように、不自然なほど引き締まっている。手元は異常に力が入ってるし、目元は微かに不自然に動いている。時折歯の奥からギリギリする音も聞こえる。ここまで嫌そうな反応は見たことがない。ハルさんの嫌いな相手がその噂の主だったのか。まあ分からないんだけど。というか嫌いなのかどうかも分からないけど。
「」
口をパカッと開けると何も言葉を話さずに口を閉じる。何か言ったのかな。それとも単なる口パクだったのか。本当にこの人はたまに良く分からない。いやたまにじゃない。いっつもだ。何考えてるのかもわかんないし、行動の意図も読めないし。本当にわからない。
ふとハルさんは唐突にスマフォを取り出した。何かを弄ると、スマフォを耳に当てた。電話だろうか。
「」
どうやら繋がったようで、英語ではない言語で話始める。もしかして相手は日本人なのかな。たまに口調が荒っぽくなっていた。そして所々に恐らく罵詈雑言の類であろう言葉をも含まれていた。いや相手は一体誰なんだ?
「」
荒々しく電話を切ると、スマフォをしまい、椅子にもたれかかる。顔はずいぶんとねむそうで、まぶたがさっきから開いたり閉じたりしている。相当なにかで疲れてるんだろうな、と、僕は勝手に推測する。
「あ、番頭」
ふとハルさんはスティーブンさんの方に顔を向けて話しかけた。
「真っ黒い人間の噂話、私が引き受けます」
「いいのかい?僕はてっきり『他の人に任せる』なんていうと思ってたけど」
「どうにも、引っかかるんで」
「そうかい?ならとりあえず頼もうか。しかし噂話だからなあ。信じて調査に乗り出すのもと思っていたんだが」
「多分………噂の主は———」
といいかけたところで、ハルさんは眠りに落ちた。スティーブンさんが話を続けないハルさんに気付いて近づいた頃にはもう時すでに遅し、寝息を立てていた。腕は丸投げにして少し無理な体勢で寝てしまっていた。
すぐにギルベルトさんがブランケットを持ってきて掛けた。ちなみにそのハルさんの隣にソニックがこっそり寝ていたりする。気持ちよさそうに寝ていた。
「ここ最近疲れてたのかしら」
「そうですね、徹夜で街の見回りとかやってましたから」
「元々夜行性だったんですかね」
「そんな風には見えなかったけど…もしかしたらその夜行性なのかしらねー」
K・Kさんとツェッドさんとでそんな話をしている時に、チェインさんはハルさんの頬をぷにぷにつついていた。そしてそのあとで「ナニコレ柔らかい」と小声で呟いていた。
「そういえばあと小耳に入ってきた話がもう一つあるんですけど」
「何ですかレオ君」
「その真っ黒い人間は、刀のような武器を持ってたって」
「刀?どんな刀とか言ってたか?」
「そうですね、確か細身で長い刀、とは言ってましたけども」
「細身で長い刀ねえ…」
そんな刀で相手を切れるのかなとか思ってしまう。細身で長い刀と言ったら脆そうなイメージがあるけれども、そこらへんはどうなんだろう。
「恐らくその噂の主は、居合術の使い手だろう」
「イアイジュツ?それなんですかクラウスさん?」
「私も聞いただけなのだが……どうにも刀を完全に抜かずに相手を切る、とだけ。それが本当なのかは分からないが……聞いたことがあるのはそれぐらいしかない。後はせいぜい、それを使う刀はよく細身で長い刀としか」
「居合術…なあ」
珍しくザップさんが興味を示す。やっぱり刀のこととなると敏感なんだなあ。自分の武器が刀だけあって。
「ともかく、その噂の主は少女が見つけてくれるわけだ。俺らは他の仕事をとかすぞ」
「はい」
スティーブンさんがそういったことにより、僕たちはほかの仕事へと向かうことになった。仕事に行く前に、寝てたハルさんが寝言を言っていたような気がするけど、なんて言ってたのかは分からない。なんたって日本語で寝言を言ってたからね。
「帰ってくれ……師匠……お願いだからさあ」
- Re: 血界戦線《来訪者は外からやってくる》 ( No.6 )
- 日時: 2015/07/11 18:57
- 名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: ktFX/uOB)
ひんやりとした夜。少し静かなこと以外はほとんど何も変わらないこの街。そんな街に、私は一人ふらふらと歩いていた。途中なにか絡まれたりもしたが、そこはとりあえず|頭脳流出《ドレインブレイン》でくぐり抜けた。まあ簡単に言うと、脳みそとっただけ。厄介なやつは殺すしかなかったけど。とにかく私はすこしひんやりとした空気の漂うこの真夜中のヘルサレムズロットを、一人で歩いていた。目的は、そう噂の主探し。どうにも引っかかる部分と、もしかしたら来てるかもしれないという怒りにも似た呆れを持って、私はこの話を引き受けた。番頭は少し意外そうな顔をしていたけど。
「にしても。随分と突然だなあ」
ほう、と息を漏らしながら誰に当てるでもなく呟く。突然というのは、その私があらかた予測をしている噂の主のこと。突然にやってきて突然に現れる。それがその噂の主の特徴だった。真っ黒い服に真っ黒い帽子、それに細身の長い刀といったら、私の身の回りで思いつく人間が一人いた。多分今回の噂の主はその人であろう。私はそう推測してこの街をさっきから練り歩いていた。けれど練り歩いて約2時間。ちょいと眠くなってきた。
「コーヒー持ってきててよかったなあ」
私は巾着に入れていたあっためておいたコーヒーの入った水筒を取り出す。こういう時便利よな、水筒って。とくに日本以外のほとんどの国は自販機にお金入れたら高確率でお釣り来ないし、水道の水は飲めないから、日本の技術力には頭が下がるばかりだ。私は水筒の口をあけ、一口飲む。少し酸味の強いコーヒーだったためか、少しばかり目が冴える。もう一口飲もうと思って水筒を口につけた時だった。
目の前にその噂の主、『真っ黒い人間』が現れた。
お店の光などでぼんやりとだがその姿を確認することができた。うん、確かに全身真っ黒だ。そのままじっと見ていると、向こうもこっちに気づいたのか、少し顔をあげてこちらを見てくる。すると、その真っ黒い人間は少し笑って、こう声をかけてきた。
「———やあ。何日ぶり?」
私はそこで確信した。この気だるい声、聞きあきた声。間違いない。コイツは。
「約10日と13時間ぶりだよ。『師匠』」
私をヘルサレムズロットの上空から落としやがった張本人で、私の師匠、『錦織 郁(カヲル=ニシキオリ)』だ。本当に来やがった。さっさと帰ってくれないかな。そんなことを思う私をよそに、師匠は帽子を外し、その素顔を久しぶりに見せた。
おかっぱ頭で黒髪。少しつり目の黒い瞳。そしてすかしたような顔。正直、見たくなかった顔だ。男の癖にやたら顔が女っぽいから。見ていてこちらがムカついて殴りたくなる。
「随分と慣れたんじゃないの?この『ヘルサレムズロット』にさ」
「まあね。でもまさか師匠がリーダーと面識があったなんてね」
「これでも顔は広いほうさ」
以前師匠は前にこのヘルサレムズロットにきたことがあるらしい。そこでちょうどなんかの事件に巻き込まれて、一人で戦ってたところにリーダー——ミスタクラウス——に出会って。そこから2人はいろいろと趣味を共用しあったり、時にはお茶会に招待されてちょくちょくこっちに来てたりしてたらしい。それで私が高校卒業時、進路をどうしようかと迷ってるときに、師匠がリーダーに連絡して見事に就職先が見つかった、という訳。まあいわゆるコネのようなもので私はライブラに入ったわけなんだけども。だからといってこっちに来るときに空から落とすのは勘弁願いたい。
「どうよ?ライブラは」
「居心地はいいよ」
「仲間とはよくやってる?」
「そりゃもちろんね」
「そうかー。なら僕もこっちに来た甲斐があったよ。実は明日ライブラに行くんだよね」
「は?」
師匠のいきなりの発言に私は思わず口をぽかんとさせた。明日師匠がライブラに来る?それはつまりどういうことで?
「ちょいと、見に行ってみたかったし」
「何言ってんだアンタは」
「弟子が普段どういう所で仕事してるのかーとか、どんな仲間がいるのかーとか気になるし」
「許可は?」
「取得済み!」
そう言って笑顔で、リーダーとの手紙のやりとりてあろう紙を私に見せつける。良く見ると確かに、「来ていいよ」的なことが書かれてあった。私はため息を盛大に吐き、頭を抱えることしか出来なかった。そんな私の目の前で師匠はニヤニヤしながら私を見てくる。うざい。ちよっといらっときた。ので。
「『Operation起動』」
『イエスマム』
「『|74絶対弾丸道《セブンフォー:アブソルートバレット》』」
「えっ?」
八つ当たりをすることにした。
「『|惨殺弾《カルネージ・ショット》』」
「ちょ、やめ」
次の瞬間、目の前には無様にありとあらゆる部位から血を流している真っ黒い人間がいたりするのであった。すっきりした。
—翌日—
「おはようございますあの野郎殺す」
いつもより物騒な挨拶でハルさんが出社してきた。今日の袴は白がメインで、袖の部分に控えめに花があしらわれていた。それだけでも上品な印象を与える。なんだけども挨拶でその印象が見事にぶち壊される。言葉ってすごいなあ。髪型はいつもの三つ編みに戻っていたけれども、頭に髪飾りをしていた。ボタンという花だった気がした。そんな花を髪飾りにしていた。
「おはようございます、何があったんです?」
「推測通りだったからだよ」
「へ?」
「推測通りというと、真夜中に現れる真っ黒い人間の正体かい?」
スティーブンさんがそう言うと、ええと頷きながら椅子に座った。持っていた巾着という袋からスマフォを取り出し、何かをいじる。そしてその画面を僕たちに見せる。その画面に僕とスティーブンさんが注目する。ちなみにこの場にいるのはスティーブンさんと僕、それにクラウスさんとギルベルトさんだけだったりする。
「…………この人は誰ですか?なんか、死んでそうな感じで倒れてますけど」
「師匠」
「え?」
「私の師匠だった。推測通りだったよ」
「本当かい?カヲル氏が来てたのかい?」
「現にいますよ。そこに」
「えっ」
後ろ指を指され、振り返ってみるとそこにはクラウスさんと楽しそうに会話をしている人物の姿があった。真っ黒い服に、真っ黒い帽子。そしてその服の下からはみ出ている刀が目立っていた。あれ、もしかして。
「あの人が、ハルさんの師匠さんですか?」
「そ。びっくりしたよ、リーダーと面識があるなんて」
「まさか……いや本当だ。カヲル=ニシキオリ氏だ。久しぶりに見たなあ」
「あったことがあるんですか?」
「ああ。クラウスと共にあった事がある。かなり前の話だけどね」
そういうなり、スティーブンさんはさっさと2人のもとへと駆け寄り、談笑に混じった。時折いろいろと突っ込みたい話も聞こえたが、そこはあえてスルーしておく。というか男だったのか……女だとてっきり。
「というか、なんであんな嫌そうな顔してたんです?」
「んあ?」
「ほら、昨日来やがったかって」
「………」
純粋に気になった質問をハルさんに投げつけると、ハルさんは少し考えたような態度をとって、しばらくしたあとに口を開いた。
「顔を見てると殴りたくなるから」
その後、師匠さん——カヲルさん——は、将棋でハルさんに挑み、無様に完敗することになった。
そのあとには、チェスでスティーブンさんとクラウスさんにフルボッコにされていた。ハルさんさんはそんなカヲルさんを見て、ざまあとつぶやいていた。どうやらカヲルさんはそういう類のもの——オセロは除く——に弱いようで、いつもハルさんに負けていたりするのだそう。そこまで弱いかなあと思いつつ、素人の僕がカヲルさんにチェスで挑んだところ、ものの1時間で僕がチェックした。
カヲルさんはこっそり泣いていたという。
《黛巴瑠の》・終