二次創作小説(紙ほか)
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- ポケットモンスター少年の願い星
- 日時: 2023/09/14 14:51
- 名前: アプー (ID: lQwcEz.G)
あらすじ
イッシュ地方中心都市『ヒウンシティ』。
大都市に建築された『ヒウン総合病院』の屋上から一人の少年がその美しい街並みを眺めていた。
―トウヤ君、君は長く生きられて後、一週間位だ…―
その言葉を思い出す度に少年は表情を暗くし、次第に体を蝕んでいく病魔にイラつきと恐怖を募らせていく。
しかし、一匹の小さきポケモンとの運命的な出会い…'再会'を果たす事で少年の運命の歯車が大きく動き出す。
―――少年の抱いた夢への扉が今、開かれる。
【旅立ち編】
第一話から第五話 >>1-5
【カントー編】
第六話 >>6
第七話 >>7
第八話 >>8
第九話 >>9
第十話 >>10
第十一話 >>11
第十二話 >>12
第十三話 >>13
第十四話 >>14
第十五話 >>15
第十六話 >>16
第十七話 >>17
第十八話 >>18
- 第九話『訓練スタート』 ( No.9 )
- 日時: 2023/08/25 17:40
- 名前: アプー (ID: lQwcEz.G)
side―リーフ―
「くぅ…」
三つの高威力の技がぶつかり合う事で生じた爆風が次第にその風力は強まっていく。
私はその吹き荒れる爆風に体を持っていかれない為に力強く地に踏み止まろうと足に力を入れていった。
左手で飛ばされそうになる被っていた帽子を必死に押さえながら…。
そして、膨張していく爆風は徐々にその力を弱めていき、視界にはトキワシティの街並みの風景が広がっていった。
メイの事が気になり、横に居る彼女へと視線を向ける。
すると、メイは私の心配するような視線に気付き、ニコリとあどけない笑みを見せてきた。と同時に彼女はすぐに真剣な眼差しになってゼニガメ達が戦っていた場所へと向き始める。
私もそのメイの行動に促され、目前で傷だらけになり倒れたゼニガメ達へと視線を移すと二匹共倒れているのが確認できる。
でも、倒れているのはゼニガメ達だけではなかった。
ナッシーもまた三つの顔が両目をグルグルと回しながら倒れ、周囲のアスファルトが原形を留めていなく先程の爆発を起こした三つの技がどれ程威力が高かったのか物語っていた。
そんな敵を虚ろな瞳で見つめていたメイが、
「倒したんだ、私達…」
力なくアスファルトに座り込んで、覇気の無い声で言葉にする。
「そうみたいね…、でも倒したは倒したけど。ゼニガメ達も戦闘不能状態になっているから実際は引き分けって所かしら…。―でも、ちょっと気になる部分があるのよ」
私も体中に疲労が蓄積されていた為、疲れ切った声で応じ、ある事に対して疑問を持つ。
「その気になる部分って…?」
疲れた表情になりながらも不思議そうに尋ねてくるメイ。
「今、私達はこのナッシーと戦っていたでしょ。その時、戦っているって言うのにあの子からはバトルをする事に対しての真剣さが感じられなかった―嫌、何かを試す為に態と手加減をしていた。そう、まるで私達の実力を測るかのように…」
「う~ん、そう言われて見れば何かあのナッシー、何時も余裕そうな表情浮べてたかも…」
私の問い掛けにメイは人差し指を顎に当てながら、う~んと数秒間悩むも何か思い当たる節が見つかると大きく頷いて見せた。
「ほっ…ほっ…ほっ…、そのとうりじゃよ。お主は様々な技を知っているだけではなく、優れた観察力と分析力を兼ね備えているみたいじゃな。これは鍛えがいがありそうじゃわい」
「貴方一体誰ですか…!? ―って、トウヤ…!?」
「トウヤ、貴方どうして一緒に居るの…!?」
一瞬、突如現れた謎の老人に警戒心を抱くも、その隣に立っていたトウヤの存在に気付くと驚いてしまう。
「実は…」
そして、トウヤから詳しい事情を聞いていった。
その数分後に私たちに待っているのが驚きであると言う事も知らずに…。
side―トウヤ―
周囲は暗闇に支配され、外ではもう人の気配が感じられ無くなった町―トキワシティ。
僕達はそこで突然襲撃してきた謎のポケモン達と戦い、世界で名を馳せた老人であるゲンスイと出会い、ポケモンバトルについて修行を三日間つけて貰えるようになる。
その修行が始まるのは明日からとゲンスイに言われ、先程のバトルで傷ついたポケモン達を回復させる為にポケモンセンターへと来ていた。
そして、もう時計の針は夜の八時を指していた為、夕食を終えた僕達は宿泊する為に貸して貰った部屋へと戻って来ていた。
「でも、まさか宿泊費が無料なだけじゃなく。食事代も全部無料でだなんて思いもつかなかったよ…」
僕はポケモンセンターがポケモンを回復してくれるだけじゃないんだと良く理解する事が出来た―それ以外にもポケモンの体調管理やモンスターボールの整備などがある。
ポケモン関係以外にも宿泊施設や食事などのトレーナーへのサービスも充実していた。
それに特定のポケモンセンターでは、温泉やポケモンバトルを堪能出来る所もあるらしい。
「本当凄いね、ポケモンセンター。何だか、細かな部分まで配慮出来てていたれりつくせりだね」
そのポケモンセンターの十分にも充実したサービスに満足し、リラックスしたメイが僕の言葉に同意する。
「そうね、でも何時もこんな環境が充実した場所で過ごせるって訳じゃないわ。これを見て」
その僕達のお気楽な声を聞いても真面目な表情を崩さないリーフが黄色い鞄の中から一つの地図―タウンマップを取り出す。
僕達はそのリーフの落ち着いた声に促されてカント―地方全域の場所が記されたタウンマップへと視線を投げる。
「次に行く町―ニビシティに着く為にはここ―トキワの森を通過しなきゃいけない。それにトキワの森に入るまでに二番道路も通らなきゃいけないから…大体ニビシティに着くには最低でも一週間位は掛かるから当分は野宿になると思うわ」
タウンマップに人差し指を当てながら、ポケモンセンターのサービスに満喫している僕達に釘を刺すような言い方でトキワシティからニビシティまでの行き道を説明していく。
「そんなぁ…」
横でメイががっくりと項垂れ、言った本人であるリーフも顔を顰めていた。
そうだよね…、女の子である二人にとってみたら野宿はあんまりって感じになるよね…。
「まぁ…、そっか。なら、当分の食糧や傷薬とかのポケモン達に使う道具も買い集めないといけないね…。だったら、事前に必要な物は用意しとかないと」
そんな二人の落ち込み具合に軽く苦笑しながら、リーフ達と野宿などをする上で必要な物や何時買い出しに行くのかなどを話し合っていく。
心の中ではトキワの森でどんなポケモンと出会えるのか…、ニビジムでどんな熱いバトルが出来るのかと言う事に対して期待を脹らましていった。
そして、これから行われる修行についても…。
そんなドキドキやワクワクな気持ちで胸が一杯になるも、どこかでは早く自分の人生を変えてくれたあの無邪気で元気一杯なポケモンに会って感謝の言葉を述べたいと言う思いがあり、それが僕を焦らせるのであった。
side―トウヤ―
上空には煌々と輝く太陽が緑に囲まれた町―トキワシティを照らしていく。
人々やポケモン達を暖かく見守るように見下ろしていた。
僕達はその太陽からの日差しや真夏の暑さを必死に耐えながらもゲンスイの家へと向かっていた。
「暑いね」
「うん…」
「二人共、頑張って。こんなのにダウンしてたら、あの人の修行にはついていけないと思うわよ…」
余りの暑さに額から頬へと大量の汗が伝っていく―その中で右隣を歩いているメイは弱音を吐いてしまい、僕もまた彼女と同く暑さにやられていた為にその彼女の言葉につい同意してしまう。
そんな僕達の様子に見兼ねたリーフが注意してくるが、彼女も相当暑がっているのか服は汗でビショビショになっていた。
その汗が滲んだ服越しに十代の少女の特徴でもある綺麗な柔肌が目に映る。
僕はその事に顔が赤くなり、硬直してしまう。
そして、メイもまた彼女の傷ついていない左脚部を羨ましそうに見つめていた。
「どうしたの、二人共。早く行くわよ…」
その僕達の反応にリーフは頭の上にクエスチョンマークを浮かべると不思議そうに小首を傾げるも、「早く行こ」と僕達に促し、僕達は再び歩き出す。
そして、僕が赤くなっている理由を知り、羞恥心で一杯になったリーフに引っ叩かれるのはその数分後であった…。
side―リーフ―
「おぉ…来たか、リーフ。トウヤ達も」
「…お邪魔します」
「痛い…」
「仕方ないと思うよ、トウヤ…」
まだどこか怒っているような声でゲンスイさんに挨拶すると、隣でまだ痛みが引かれないのか赤みを帯びた右頬を擦るトウヤに半目で睨む。
睨まれた事で落ち込むトウヤにすかさずフォローを入れるメイ。
ゲンスイさんは先程一緒に居なかった事から理由が分らない為に一瞬そんな私達の遣り取りに疑問を思い浮かべながらも、
「分らんが…、まぁ良い。おっほん、ではこれからお主達―各自のレベルに合わせたトレーニングで遣っていく」
咳払いをして私達の注意を自身に促すと説明を始めていく。
「トウヤ、お主は三日間二十二番道路で徹底的に野生ポケモンやトレーナーとのバトルをして貰う。そうやって多くのバトル経験を積む事によって、どの状況で如何いった戦いをすればいいのかなどと言った瞬時での状況判断能力などを高める事がお主にとって一番の強くなる近道じゃ。何せ、エビワラーとの戦いでそれが良く分かったわい。それとこのリュックの中には傷薬などの道具が入っている。二十二番道路には西ゲートから行けるぞ」
「はい、分りました。じゃぁ、行ってくるよ皆!」
ゲンスイさんとの修行を物凄く楽しみにしていたトウヤは声を上げながら、受け取ったリュックを手に二十二番道路へと向かう為に家から飛び出していった。
「えっ、ちょっとトウヤ…!」
私の止めようとする声をスルーして…。
「トウヤって、昔から自分のやりたい事になると周りが見えなくなるんだよね…」
メイはどこか諦めたような声で止めるのは無理だと教えてくれた。
「何じゃ、彼奴意外にせっかちじゃのぅ…。まぁ、別に良かろう…ではメイ―お主はポケモンバトルをする前にまず基礎がなっとらん。じゃから、一日目でポケモンのタイプとその相性などポケモン知識の根本的な部分から叩き込まねば話にもならん」
「そうですよね、実際に私…トウヤみたいにポケモンの本とかテレビでポケモンバトルとか見てなかったし…」
そのゲンスイの言葉に少し項垂れるも、すぐに真剣な表情になって頷いて見せた。
「では、リーフ―お主は先日のバトルを見せて貰って気付いたんじゃが、お主の場合は自身が今までに培ってきたポケモンの技や特性などの知識を元にポケモンバトルで勝つ為に最も適した戦い方を頭の中ですぐに組み立てられる策士タイプじゃ。じゃから、お主にはもっとポケモンの知識を養う必要がある為書庫に一日間籠って貰い、そこでまずわしが出会って来たカントー地方のポケモンの様々な特性や技、それらをどうやって応用するかなどポケモンバトルで役に立つ事を纏めた何十冊物本を読んでマスターし、その後にトウヤと合流して一緒に二十二番道路での修行に励んで貰う。―いいな…?」
「一日でですか…?」
「そうじゃ」
「…分かりました」
一日だけと聞いて驚くも、もし今の私のレベルアップに繋がるのなら…と心の中で思い、やる事を決意する。
こうして、私達が其々のレベルを上げる為の猛特訓が始めっていった…。
―to be continued―
- 第十話『訓練中』 ( No.10 )
- 日時: 2023/08/27 08:28
- 名前: アプー (ID: lQwcEz.G)
side―リーフ―
トウヤが二十二番道路でバトルに明け暮れ、メイがゲンスイさんに徹底的にポケモンの基礎を叩き込まれたりと其々の修行に精を出している―一分でも、一秒でも無駄にしない為に…。
私もまたそんなトウヤ達に遅れを取らない為に、今家の中の奥にある書庫の前へとやって来ていた。
目前の重厚なドアを開いていく。
「ごほっ…ごほっ…、ここ埃凄いんじゃないの…くしゅん!」
ドアを開いた瞬間に突然書庫の中から沢山の埃が宙へと舞い上がり、私の元へと飛んでくる。
その一瞬の出来事に対応できる訳もなく、即座に咳とくしゃみの悪循環に陥ってしまう。
「グス…、何十年掃除してないんだろう。―あの人…」
グスグスと赤くなった鼻を人差し指で擦りながらも、書庫を掃除していないゲンスイさんに対して心に思い浮かんだ本心をぶちまけてしまう。
だが、本人は今傍にいない。
そんな人に向かって文句の一言二言口にしても意味がなく、唯の憂さ晴らしにしかならない。
それよりも今はその彼に言われたとうりにポケモンについての知識を吸収していかなければ…。
何とか気持ちを切り替え、ポケモンに関して纏められた本が収納された一つの本棚を探し出す為に視線を埃塗れな書庫の中で彷徨わせていく。
すると、妙に他の本棚よりも大きな本棚を見つけ、気になり近づいて見る。
「この本棚ね。―でも、これ全部読むのって骨が折れそうかも…」
沢山の本が一番上の段の左側からタイトル順に綺麗に収納されていた。
そのゲンスイさんがカントー地方から集めてきたデータを纏めた本の数は彼が言っていた数十冊ではなく、百を軽く超えていそうでその全てがポケモンバトルなどの物だと考えると驚きの余りに絶句してしまう。
そして、この全ての本を読み上げ、その内容を完全に把握しなければならないのだ―しかも、一日と言う期限付きで…。
無茶苦茶すぎて、何だか頭が痛くなってくる。
「でも、もしこの全てを覚える事が出来たら、今後のバトルで絶対に優勢に立てる筈だから…頑張らないと! そしたら、いずれお兄ちゃん共…」
そう、この三日間の修行を遣り終えた時、どれだけポケモントレーナーとしてのレベルが上がっているのかを想像し、それを実現して有名になれれば音信不通になってしまっているお兄ちゃんとの再会を果たせるかもしれない。
そして、これはその私の旅の目的であるその兄との再会やポケモンリーグ優勝を叶える為の礎で…。
私にとって最初で大切な一歩になるに違いない。
―だから…。
「やらないと、私の目的を達成する為に…!」
心に纏わりついていためんどくさいと言う感情を振り払うかのように強い声音で本心を言葉にすると、適当にあった本を手に取っていく。
その本のタイトルは『ポケモン 全特性収録図鑑』。
手に取った瞬間、その本の分厚さにポケモンの特性を書き留めるだけでこんなにページ数が必要なのか…と驚き、疑問になる。
だが、表情を怪訝そうにしながらも、本を開き始めると一つの特性の事についてびっしりと書かれていた。
その特性が如何いう物かは勿論で、その特性を持つ全ポケモンの種族名や特性がバトル以外で如何効果を齎すのかまで…。
全てが綺麗な字で詳細な部分まで書かれていた。
「凄い…」
その隅々まで書き込まれた特性の詳細に心から感服する。
その無駄のない必要な要点を纏められた今開いているページから知識を吸収していくと次のページ…その次のページと次々と読み上げていき、吸収していく。
side―ゲンスイ―
「凄い、ここまで飲み込みが早いとは思いもしなかったわい…」
わしは今、一つのホワイトボードがある部屋でポケモンの基礎がなっていないメイに対してタイプの相性や毒直しなどと言ったポケモンバトルで扱われる各道具などについて教えていた。
だが、席に着いていたメイはその事をすぐに理解していく為にその飲み込みの早さに驚いていたのだ。
「他には、何か教わる事あるんですか…?」
メイはそんな驚いた表情になっているわしに小首を傾げながらも、他にないのかと訊ねてくる。
「嫌、他には…何も」
「じゃぁ…、私はトウヤの所に行って一緒に修行してきますね」
他に何もないと知った彼女は手提げバッグを手にあどけない笑顔を浮かべるとすぐにトウヤの元へと向かっていった。
まぁ…、ちょっと教えるだけですぐに理解してしまうあ奴の頭の良さには吃驚したが、基礎を教え上げた後はトウヤの方に行かせるつもりじゃったし…。
「じゃが、あ奴ら教えがいがあるわい。それにもしかしたら、―嫌本当に彼奴を止めてくれるかもしれんのう…」
side―トウヤ―
リーフが書庫に籠ってより多くのポケモンの知識を得る為に本に没頭している頃、僕はゲンスイさんに言われたとうりに二十二番道路で経験を積む為に唯ひたすらに草原と言う名のバトルフィールドでポケモンバトルに明け暮れていた。
そして、今―ぶたざるポケモンのマンキーと壮絶な戦いを繰り広げていた。
「ピカチュウ、電気ショック!」
「ピィーカッチュ~!」
ピカチュウがマンキーに向かって両頬から電気のエネルギーを放出していくも、それはマンキーの柔軟な動きによって次々とかわされていった。
その攻撃が当たらない事に対して次第にイラつきが募っていく。
「ウッキッキ~」
その必死になって攻撃を指示する僕をバカにするように笑いながら、お尻をこっちに向けてペンペンと叩いて見せてきた。
そのマンキーの小馬鹿にしてくる態度に一瞬怒りが爆発しそうになるも深く深呼吸して自身の中で渦巻く怒りを一端静まらせ、脳裏で何かこの素早いマンキーを倒す方法はないのか模索していく。
あのマンキーの素早さは本物だ、現にここで戦ってきた二ドラン♂や二ドラン♀もまた凄まじい程の攻撃力を持っていた。でも、その時は相手の動きを封じたりして何とか倒せたから…今度も、何か手がある筈だ。
―そうだ、攻撃範囲が広い技なら。波乗りなら、もしかしてこのすばしっこいマンキーを倒せるに違いない。
「ピカチュウ、波乗りだ!」
「ピィッ…ピィッ…、ピッカ!」
ピカチュウは疲れた表情で息切れをしていた。その状況から後少ししか戦えないと言う事も理解できた。
しかし、その疲れ切った表情には想像つかない程の元気な声で応じてくれる。
ピカチュウはサーフボードに乗るような体勢を取り、どこからともなく突如現れた大波に乗っていき、それがバトルフィールドとなる草原全体を覆い尽くしていった。
「ウッキィ~!?」
そのフィールド全体を覆い尽くす程の攻撃を避ける事も出来ないマンキーは諸にダメージを喰らってしまい、戦闘不能になってしまう。
「やったな、ピカチュウ!」
「ピッカチュ!」
そのびしょ濡れになって倒れているマンキーを見て、勝利した事を確信すると自然に胸の中から嬉しさが込上げてくる。
それと同時に心の中ではある一つの思いが生まれてくる。それは僕のポケモン達と一緒ならどこまでも強くなれると言う思いが…。
だが、そんな僕達を物陰から不敵な笑みを浮かべながら、見つめてくる黒ずくめの男達の姿に気が付く事が出来なかった。
その男達の胸元に「R」と言う文字が描かれていた事にも…。
―to be continued―
- 第十一話『ロケット団との接触』 ( No.11 )
- 日時: 2023/08/29 14:26
- 名前: アプー (ID: lQwcEz.G)
side―なし―
真昼の暑い時間帯…。
気温は三十度を超え、鬱蒼と茂る草の中を行き交う野生のポケモン達は大量の汗を体中から流していく。
その地獄のような暑さの中で黒ずくめの衣装を身に纏った五人の男達が歩いていた。
「暑いぜぇ…」
「もう疲れたんだけど…」
男達は足をふら付かせ、文句を言いながらも目的地であるニビシティへ着く為にまずその途中で通るトキワシテへと向かっていた。
その男達の歩く前方で一人余裕を見せるかのような足取りをする者も居た。
「ゲシシッ…、お前らもうこんな事で弱音を口にするなんて…。そんな事じゃ、ロケット団の恥だぜ―おい、もっとテキパキ歩けよ。ゲシシシッ…」
その男が特徴的な品のない笑い声を上げると同じロケット団の同僚達を揶揄するような物言いで貶していく。
「だけどよ、カイン…こんな暑さじゃ、誰でもへばるぜ。なぁ…?」
一人の同僚がバカにしてくるカインにイラつきを募らせていくも、みっともない言い訳を述べ、他の者達に同意を求める。
求められた者達は刻々と深く頷き、同意を示す。
「ゲシシッ…、情けない奴らめ。トキワシティにあるロケット団の隠れ家で一時的に休憩出来ると言うのに。こんな所でバテるとはそれでもアクア様の――むっ…、あれは…」
一瞬別の所で行われていたバトルの様子が気になり、視線を向けると波乗りを繰り出してマンキーを倒すピカチュウの姿が映る。
そのカインの行動に促され、他の同僚達もピカチュウへと視線を移し、驚いてしまう。
「波乗りを使えるピカチュウか…、興味深い。ゲシシッ…」
そのピカチュウを心から欲しいと欲望を抱き始めるカイン。
彼はこれからどうやって勝利した事に喜びを感じている少年からあの波乗りピカチュウを奪うのか策を練っていくのであった。
side―トウヤ―
時間帯が夕方になり、上空で煌々と輝く夕日がとても美しかった。
でも、今の僕にはそんな綺麗な夕日を眺める余裕がなく、今自分を取り囲むかのように立ち塞がる野生のポケモン達を振り払う為に脳をフル回転させ、打破できる策を必死になって模索していく。
そう、前方も左右も後方も全ての方向から敵に囲まれ、完全に包囲されている―そんな最悪な状況であった。
目前では何か策を思いつく為の時間を戦う事で稼いでくれるフシギダネとピカチュウの二匹が居た。
ピカチュウ達はその状況下に立たされても諦めていないのか、その瞳には強い意志が宿されている。
そして、そのピカチュウ達の近くには目を回しながら、情けない恰好で倒れている野生のポケモン達の姿があり、この二匹がどれだけ強くなったのかを物語っている。
「ピカチュウ、フシギダネ…まだ行けるか…」
「ピッカ!」
「ダネダーネ!」
そんなピカチュウ達に嬉しさと頼もしさを感じるも、息を切らしながら傷だらけの体で戦い続ける二匹に対して次第に不安になっていき、声をかける。
すると、二ドラン♂に向かって新技―葉っぱカッターを繰り出すフシギダネが…。
攻撃を喰らわせる為に急降下してくるオニドリルを新しく覚えた技―影分身でかわして電気ショックの一撃で倒したピカチュウが力強い声で返事を返してくれた。
「よし、ならまずは正面突破だ―ピカチュウ、波乗りで前方に居るポケモン達を蹴散らすんだ。フシギダネは葉っぱカッターで波乗りを阻止しようとピカチュウに襲い掛かってくるポケモン達の排除に回ってくれ! ―いいな…?」
戦闘態勢を取っているピカチュウは返事を返す代わりにピンッと尻尾を振って見せた。それが昔からの付き合いである僕には了解したと言う了承のサインだと理解出来る。
ピカチュウは僕に指示された技―波乗りを繰り出す為にどこからともなく大波を作り出そうとする。
だが、その事に集中する隙だらけのピカチュウに好機と見た前左右から包囲していた野生のポケモン達が其々の技でピカチュウに襲い掛かっていく。
オニスズメやオニドリル達はドリル嘴で、二ドラン♂やニドラン♀、コラッタは全身に力を込めた渾身の体当たりで―マンキー達は力を込めた右手で空手チョップを…。
しかし、フシギダネの葉っぱカッターによってその行為は阻止されていき、最後にはピカチュウの乗った大波にのまれ、戦闘不能になっていく。
それは野生のポケモン達だけではなかった。
「ピィッカ…チュ…」
「ピカチュウゥー!?」
その多くの野生ポケモンを倒した本人であるピカチュウもまた消えていく大波から何とか飛び降り、地面に着地するもその足元はふら付き、一瞬にして崩れていく。
そんなピカチュウが心配になり駆け寄りたいと衝動に駆られるが、
「ダネダー!」
「何だよ、フシギダネ!」
フシギダネの必死に呼び止めるような声に反応し、後方を振り向くとその方向に居た野生ポケモン達がこちらに向かって来るのが視界に映った。
その事を目前にして倒される事に対しての恐怖が全身を駆け巡っていく。
でも、
「タッツー、濁流!」
聞き慣れた声と見覚えのあるポケモンが黒く濁った大波に乗り、野生ポケモン達を次々と倒していく様子にその助けてくれた人物の姿が脳裏を過ぎる。
「トウヤ、フシギダネ大丈夫…?」
「うん、大丈夫だよ。有難う、おかげで助かったよメイ」
その気遣うような声をかけてくるメイに頷き返し、お礼の言葉を述べる。
メイはその急にかけられてきた感謝の言葉に恥ずかしがる事なく、明るくどこか清純さを感じさせる笑顔を浮かべてきた。
「そっか。じゃぁ…、どのポケモンをゲットしよっかな…?」
その言葉を口にするとタッツーの濁流により倒されたポケモン達へと視線を向け、う~んと一瞬悩みながらポケモン達を見回していくも一匹の二ドラン♀を捉え、気に入ったのか口元が緩む。
「あの子に決めた。行け、モンスターボール!」
鞄からモンスターボールを取り出すと勢い良く投げ飛ばし、目標であるニドラン♀に当たると同時にボールがカパッと開き、その中へと誘っていった。
もう戦う体力が残っていないニドラン♀はモンスターボールに入った後も抗う事なく、簡単にゲットされていく。
「やった、二ドラン♀ゲットだよ、タッツー!」
「タッツ!」
ゲンスイさんに教わったとうりに行い、二ドラン♀をゲット出来た事に心から喜ぶメイ達であった。
「おめでとう、メイ。…でもさ、ちょっと飲み込みの速度早すぎないかな…?」
僕もまたピカチュウを回復させ、疲れている二匹をモンスターボールに戻すとメイに心から思った気持ちを言葉にして送る。
心の片隅ではその彼女の成長の速さに驚かされていた。
side―リーフ―
「ふ~ぁ…、やっと全部読み終わったよ。大体十四時間位読み続けていたかな…、何だか目痛いけど…仕方ないわね」
書庫の窓から一つの柱となって降り注いでくる強くもない月の光を目に焼き付けながら、読み終えた本を元あった場所へときちんと戻していく。
目や肩に極度の疲れを感じると頭上高く持ち上げた両手でう~んと思いっきり伸びをして、首を動かしていった。
ポキッ…パキッ…と途中で首の関節の音が鳴り、それで首の方もどれだけ疲労が溜まっていたのかを理解し、その事に気付けなかった私自身に苦笑してしまう。
まぁ…、あれだけ本に没頭してたから仕方ないよね…。
「じゃぁ…、気分転換に外にでも出よっかな…。その時はゼニガメ達も出してあげないと…」
重い腰を何とか上げて立ち上がるとミニスカートについていた埃を払い、ドアへと向かっていった。
「あっ…、ゲンスイさん…」
「おぉ…、リーフか。書庫から出て来たと言う事は全ての本の内容をマスターしたんじゃな」
「はい、何とか決められた時間内に…」
書庫から出て来ると突然ゲンスイさんと出会い、今日の修行を終えたかと聞かれる。
私がその事に対して首肯するとゲンスイさんは少し驚きを含んだような表情へと変わっていった。
「こっちも案外終わるのが早かったわい…」とボソッと小さな声で呟いていた。
その「こっちも」と言う単語が気になり、一瞬頭を抱えるもある事が思いつくとゲンスイさんに訊ねる。
「あの…、もしかしてメイのポケモンの基礎固めはもう終わってたりするんですか…?」
「うむ、そうじゃ。メイの奴は直に基礎が確りとした物になったから、トウヤの居る二十二番道路に行かせたわい…」
「えぇ…、そうなんですか!?」
その事実に驚きと心のどこかで焦りを感じ出すと早く自分も二十二番道路に行って二人に混じりたいと言う気持ちが次第に強くなっていく。
そう、二人に遅れを取りたくない…そんな強い気持ちが…。
「私も二十二番道路に行きますね。二人に遅れを取りたくないので…」
その強い気持ちに突き動かされ、即座に二十二番道路へと向かっていった。
その思いが私にらしくない行動を取らせていく。
「なっ…、おい待つんじゃ…。今日はもう遅いから…って、行ってしまったわい。リーフの奴は冷静で聞き入れが良い性格だと思っていたが…」
ゲンスイさんは一つ深い溜め息をつくと「まぁ…、こうやって互いの事を刺激しあうのは良い事かもしれんのう…」と小声で呟いていた。
side―リーフ―
朝から昼までにかけて高かった気温は時間が経つと共に低くなっていき、涼しい風が腰まで伸びる長い黒髪を攫っていこうとする。
それを右手で押さえながらも、悪戯風の涼しさに心から安らいでいき、その気持ち良さにそっとエメラルドの瞳を細めた。
今日ずっと書庫に籠って殆ど外に出ていなかったせいか、少し気持ちが鬱になりかけていた。
それに…、
「ミニリュウ、ゼニガメ御免ね。今日はずっとモンスターボールにいれっぱで…、やっぱり昼は外に出て遊んでたかったよね…?」
「ゼーニ!」
「リュウー!」
ずっとモンスターボールの中に入りっぱなしであったゼニガメ達もストレスが溜まっているだろうと考え、歩くなら一緒にと思い二匹を小さなボールから無窮に広がる外の世界へと出していた。
本当に出して正解だったかな…。二匹共何だかリラックスしてるし、そんな二匹の姿を見て私自身の気分が良くなってきている。
「良し、じゃぁ皆…早くトウヤ達を見つけて私達も……あれっ、貴方…誰?」
私はニコリと小さく笑って大切なポケモン達に話しかけていくも、突然視界に映ってきた謎の黒尽くめの男を訝しげに思い問いかけた。
side―カイン―
あの波乗りピカチュウを喉から手が出る程欲しいと思った俺はその後、一度トキワシティの隠れ家まで行き、作戦を練って彼らが寝静まった深夜に決行しようと決め、今またここ―二十二番道路に再び来ていた。
作戦の名は「寝静まった時にピカチュウをこっそり頂まチュウ作戦」で、作戦の内容はその名のとうりに全員が寝静まった後にピカチュウを奪うと言う結構簡単な物である。
同僚達に「お前ネーミングセンス無さすぎ」と言われ、表面では「ゲシシッ…」と笑い返してやったが内面では傷ついていた。
其れだけじゃない、一緒に来てくれと頼むも散々笑った後に直に断りやがる。
ゲシシッ…くそぅ…皆、俺の事笑いやがって…後で見てろ。必ずあの波乗りピカチュウを奪ってアッと驚かせてやる。
「おい、ガキ…悪いがそこを退け、ゲシシッ…。今の俺は虫の居所が悪くてイライラしてるんだ。早く退かないとどうなるかわかっているよな…」
目前に立つ少女に向かって怒声を上げると命令口調で指図していく。
その少女を守るかのように二匹のポケモンが立ちふさがり、少女もまた怯える所か逆に戦意を宿した瞳でこちらを睨みつけてくる。
「貴方、ロケット団ね…。何の目的で現れた訳、もしかしてここに居るポケモン達に悪さしようとか考えているんじゃないでしょうね…」
「ゲシシッ…、バカめ。そんな小賢しい真似をこの俺がやる訳ないじゃないか、何途中で見た珍しいピカチュウを奪いに来ただけだ」
「珍しいピカチュウ…、もしかしてトウヤの…!?」
一瞬驚く少女の言葉から誰か知らない名前を聞き、考えていく。
「ゲシシッ…、そうだ」
そして、それがマンキーに勝った事で喜んでいた少年の名だと気付くと不敵な笑い声と共に肯定する。
「そうなんだ…」
その言葉に一瞬静かになる少女。
ポケモン達はその主人の反応に困惑してしまい、一瞥したりするも表情は被っている帽子によって遮られ、良く見えない。
だが…、
「させないよ…」
「ゲシッ!?」
暫しの静寂の後…、突如聞こえてきた少女の怒声にビクッと驚いてしまう。
「ピカチュウを貴方なんかに奪わせたりしない! ―絶対に…」
その怒声と共に上げられてきた瞳にはもう誰にも大切な人達を傷つけさせないと言う強い意志が宿されていた。
ーto be continuedー
- 第十二話『持ち始めた感情』 ( No.12 )
- 日時: 2023/09/01 16:48
- 名前: アプー (ID: lQwcEz.G)
誰かと繋がりを持っても何もいい事はない…。
その先に待っているのは後悔や悲しみだけ…そう思っていた。
何故だろう…トウヤ達と旅を始めて、少しずつだけど彼らと一緒に居る事に対して楽しさを感じられるようになってきている私が居る。
突然目前に現れたロケット団の男がトウヤのピカチュウを狙っている事を知ると心のどこかで守らなければと言う衝動に駆られてしまう。
同時に私は心の片隅でそのような思いを抱く自分自身に対して大きな疑問を持ち、俯いてじっと考え込んでしまう。
本当にピカチュウを守りたいから…?
それとも、トウヤの悲しむ姿が見たくないから…?
思考回路を必死に働かせ、慣れない事を考えていくも結局答えに辿り着く事が出来ない。
でも、心のどこかで渦巻く思いが私を動かしていく―その思いがどんな物で、どうして私をこう熱くさせるのか、今の私には気付く事も理解する事も難しかった。
side―リーフ―
「ゲシシッ…、俺が一瞬怯んだからって調子に乗るんじゃねぇぞ…。行け、俺の手持ちの中で最強のポケモン!」
「グオォォ――!」
ロケット団の男は言い訳を口にしながらも、一つのモンスターボールを宙に投げていく。
その眩い光と共に蛇のような体躯をして、凶悪な顔立ちをした青いポケモンが雄叫びを上げてその姿を露呈していった。
ゼニガメ達をその鋭い眼光で睨みつけていく。
「ゼニ…」
「リュウゥ…」
そんな青い巨体のポケモンから放たれる威圧感にゼニガメ達は怯えてしまい、数歩後退りしてしまう。
でも、私は初めて見るそのポケモンにニッと不敵な笑みを浮かべてしまう。
そう、わかってしまうんだ―このポケモンの種族名が…、タイプがどんな物なのか…。
特性はどういうのなのか…、どんな技を覚えるのか…その全てが手に取るように…。
「ゲシシッ…、おいどうした…さっきの威勢はどこに行ったんだよ! ギャラドス、こんな臆病な奴らを焼き付くしちまえ、大文字だ!」
「グオォ――!」
その声と共にギャラドスの口から大文字が放たれていく。
その煌々と燃えたぎる炎を瞳に映しても、冷静さを失わずにゼニガメに指示を送った。
「ゼニガメ、大文字に向かって水鉄砲よ!」
「―ゼニ! ゼェ―二ィ――!」
ゼニガメは心に纏わりついていた負の感情を振り払うと大文字に向かって勢い良く水鉄砲を撃っていく。
すると、技同士がぶつかり合い、爆風が生じて一気に私達の視界を奪っていった。
「―くぅ…、今度はミニリュウ、神速よ!」
その強い風圧に体が飛ばされそうになるも、力強く大地を踏み込んでミニリュウに神速を繰り出すように言う。
「リュ!」
ミニリュウはこくりと頷くと渾身の力を尻尾に込めて大地に思いっきり叩きつけ、空中へと舞い上がり神速でギャラドスの顔面目掛けて向かっていく。
「グオォ―!?」
その攻撃を諸に喰らうギャラドス。
爆風が収まり、ダメージを喰らい表情を顰めるギャラドスと鮮やかに地面に着地するミニリュウが視界に映った。
「ゲシシッ…、ギャラドス…竜の怒りだ!」
その言葉にギャラドスは大きな口から青い炎を吐き出していく。
「ミニリュウ、こっちも竜の怒り!」
ミニリュウもまた竜の怒りを繰り出し、技同士が激しくぶつかり合って互いの威力を相殺していった。
「ゲシッ…!? ならギャラドス雷だ!」
「グォ―!」
その命令に大きな雄叫びで了解したと答えると、雷をミニリュウに向かって放っていく。
「ミニリュウ、神速でかわして!」
その物凄い勢いで落ちてくる雷をミニリュウが神速を使い、かわしていく。
「ふん、一度回避出来たからって調子に乗るなよ…痛い目に合うぜ! ―ゲシシッ…。ギャラドス、もう一度か「ゼニガメ、物真似よ! そして、雷!!」―ゲシッ…!?」
「ゼ~ニィ――!」
その男は品のない笑い声を高らかに上げ、揶揄するかのような言い方をするもギャラドスの背後に回り込んでいたゼニガメの存在に気付き、驚いてしまう。
だが、時すでに遅く…ゼニガメの物真似で一時的に覚えた雷により、ギャラドスが眩い光を浴びていき、大きな体躯が黒焦げになると同時に倒れていった。
その光景に唖然となるロケット団の男…。
「さぁ…、後は貴方だけよ…」
その私の低くも鋭さを感じられる声に彼はハッと我に帰ると逃がさないようにじわじわと寄ってくるゼニガメ達を見て顔色が真っ青に染まっていく。
「ゲシシッ…、こうなったら…」
一つのモンスターボールを腰のベルトから手にして、表情を次第に歪めていく。
「皆、気を付けて何が来るかわからないわ」
また新たなポケモンを繰り出してくるのかと思い、皆に注意するように促す。
「逃げる! ドガース、黒い霧…ゲシシッ…!」
「えっ…!?」
その出てきた球状の体に幾つ物突起物をつけたポケモン―ドガースが黒い霧を放っていき、視界が奪われていった。
数分後に霧が消えていき、奪われていた視界が元に戻っていく。
「いない…」
心配そうな表情をしながら近寄ってくるポケモン達の頭を撫でながら、周囲を見渡していく。
先程倒した筈のギャラドスや黒い霧を放ったドガース、そしてそのトレーナーであるロケット団の男の姿が確認できなかった。
すると、直に安心感が生まれてくる。
それがロケット団が居なくなった事に対しての物なのか、それともピカチュウを守り切った事に対しての物なのか…理解出来なく、苦悩してしまう。
そして、本当に私自身が彼らと一緒に居ていいのかと言う思いに対しても…。
side―トウヤ―
東の空、燦々と輝く太陽。
僕達は今、三日間の修行を終えて二番道路へと通じる北ゲートの入口前まできている。
そして、ゲンスイさんもまた見送りの為に態々一緒についてきてくれていた。
「もう、行ってしまうのか…何だか寂しいのう…。じゃが、若い頃に一杯旅をしていた方が良い。それだけ、沢山の出会いと別れがあり、それを経験していく事でお主達の成長へと繋がっていくからのう…!」
ゲンスイさんは少し寂しそうな表情をするも、これからも頑張って旅を続けるように言ってくる。
「はい…!」
「ゲンスイさん、今度きた時にはちゃんとしたバトルをしよう。―絶対に…!」
「あの…ゲンスイさん、モンスターボール有り難うございました。メイだけの分じゃなく、私やトウヤの分まで貰っちゃって……本当にお世話になりました」
そして、僕達もまた其々の別れの言葉を口にすると北ゲートへと向かっていった。
side―なし―
「ゲシシッ…、そう簡単に逃がすものか…地の果てまで追ってあの波乗りピカチュウをゲットしてやる」
北ゲートから離れた民家の陰からトウヤ達の後ろ姿を眺めるカイン。
彼はリーフにこてんぱんにやられた後、トキワシティの隠れ家に戻って体勢を立て直していた、波乗りピカチュウを奪う為に…。
そして、リーフにやられた時の恨みを晴らす為にトウヤ達をどこまでも追う事を心の中で固く決めていた。
「でも、今は無理だ…。あのゲンスイが居るからな…ゲシシッ…」
今直にでも彼らを叩きのめして波乗りピカチュウを奪いたいと考えてしまうも、彼らの後ろには見送りをする為に居るゲンスイが彼の視界に映った。
もし、この状況で出て行っても直に彼の鍛え上げたポケモンによって倒されてしまう。
―だが、何故だ。ゲンスイの奴が何故彼奴らなんかの見送りに…。まぁ…いい、二番道路で彼奴らを待ち伏せしてそこで例のピカチュウを頂くか…ゲシシッ…―
「そうですわね、ゲンスイが居たらあの波乗りピカチュウを奪う事が出来ないからですわね…」
「ゲシシッ…、そのとうり―って、アクア様!? 何故、ここに…」
突如聞こえてきた声に振り向くと長く綺麗な青色の髪を腰まで伸ばした女性が視界に映り、カインは困惑してしまう。
その女性の顔立ちは整っており、外見からは大体二十代半ば位に感じられる。
そう、彼女―アクアはロケット団幹部であり、その実力はロケット団の中でトップクラスの部類に入る。
「報告がありましたの…、私の他の可愛い部下達から…」
その表情はニコリと微笑みを浮かべるものの、声の方はどこか怒りがこもっており殺気さえ感じられる。
カインはアクアが言うその他の可愛い部下達とは自分を置いて即座にニビシティへと向かった同僚達である事を理解すると、小さな舌打ちをする。
「あのどういう報告ですか…?」
カインはビクビクと怯えながらも、必死になって聞いていった。
「そうですわね、本当に残念な報告でしたわ。本来なら、直にでもニビシティに行ってサカキ様に与えられた任務を達成する為の準備をしなければなりませんのに…貴方ときたら、その途中で見つけた珍しいピカチュウに夢中になってたんですよね…? そのサカキ様からの大切な任務を忘れる程に…」
「それは…」
「一度死ななければわからないみたいですわね。出てきてください、パルシェン! あの方に向かってミサイルばりですわ!」
サカキを崇拝しているアクアは部下でありながらも、一度サカキから受けた命令を忘れてピカチュウ捕獲に走ったカインを許せなく、パルシェンに殺すように指示を送る。
その次の瞬間、無数の針がカインの体を貫通していき、幾つ物風穴を開けていった。
「それにしても、波乗りを覚えたピカチュウは珍しいですわね。やはり、水マスターを目指す私にとってみれば、一度お目にかかりたい物ですわ…」
その妖艶な笑みを浮かべるアクア。
彼女もまたトウヤのピカチュウをマークするのであった…。
―to be continued―
- 第十三話『ポケモン密猟団』 ( No.13 )
- 日時: 2023/09/02 13:57
- 名前: アプー (ID: lQwcEz.G)
side―なし―
これはトウヤ達がトキワシティを旅立つ先日の事…。
辺りはもう闇に染まっており、周囲の野生のポケモン達はすでに寝静まっていた。
その人里から離れた荒れ地に一機の飛行艇が停泊していた。
飛行船の中にある一つの薄暗い部屋で数十人もの人達があるポケモンが映し出された巨大スクリーンを見て、そのポケモンを捕獲する為の作戦会議を行っていた。
「姉御、どうやってゲットするつもりなんですか…、この妙な技を使うポケモンを…。俺たちゃ~この道十年ですが、こんな技を使うポケモン始めて見ましたぜ…」
スキンヘッドの筋肉質な大男―ゲイルがリーダーである顔に傷を負った女性に問い始めていく。
「何言ってんだい、あんたは…。―だからこそじゃないか! 今ここであのポケモンをゲットする事でアタイら―ポケモン密猟団『ファンタシア』の名を上げる絶好のチャンスじゃないかい…。そう、このポケモンを奪う事でアタイ達の名は売れるよ…確実に」
姉御と呼ばれる密猟団の頭領―カレンはスクリーンに映る青い炎を操るポケモン―ヒトカゲの姿とそのヒトカゲを守るかのように立ちはだかる少年―アオの姿を視界に捉え、不敵な笑みを浮かべるのであった。
「さぁて、そろそろ頂こうかねぇ~坊や。そのあんたの大切にしている青い炎を吐く珍しいヒトカゲをね…」
side―トウヤ―
僕達はゲンスイさんとの三日間の厳しい修行を終え、次なる目的地であるニビシティに向かう為に二番道路を進んでいた。
その初めて経験した別れに段々心が寂しさを感じるようになり、その気持ちを紛らわすかのように歩幅を伸ばし、歩く速度を上げていく。
「トウヤ、ちょっと歩くスピード速くないかな。もう少し、ゆっくり歩いたら…昨日までずっと修行だったんだし…ね?」
メイが僕に歩幅を合わせて、追いついて来ると僕の顔を横から心配そうな表情で覗き込みんでくる。
その表情から彼女が僕の事を気遣ってくれているのが理解できた。
「そうね…、メイの言うとうりよトウヤ。急いだって疲れるだけだから、少しは歩くペースを遅くした方がいいと思うよ」
僕達の背後を歩くリーフにもまた気遣うような言い方をされる。
「うん、わかった…」
そんな二人の言葉に頷き、肯定すると歩くスピードを次第に緩めていく。
そうだ、メイ達の言うとうりだ。それに…旅をしていれば別れなんて沢山あるんだから、その時で一々落ち込んでたら、メイ達やポケモン達にまで笑われちゃうしね…。
気持ちを改めると心に余裕が生まれていき、何だか軽くなっていった。
「ねぇ、トウヤ…リーフ。あれって…飛行船だよね…」
「そうだね。本物なんて生まれて初めて見たよ」
「私も…。でも、何だか飛行船の他にもピジョットが居るけど…」
メイが上空を見上げ、飛行船を見つけると人差し指で示しながら教えてくれる。
僕達はそのメイの行動に促され、初めて見る飛行船に感激するもリーフが何か見つけたのか、今度は彼女が人差し指で知らせてくれた。
その示された方向には大空を舞うピジョット。
ピジョットのその上には誰か乗っているのか人らしき物が見える。
だが、遠い為に顔は良く見えないが…、その体の細さから女の子だと断定出来た。
そのピジョットの周囲には五匹のオニドリルが取り囲むかのように飛んでいてピジョットに次々と攻撃していく。
ピジョットはその攻撃をかわしていくも、その表情には疲れの色が感じられる。
「トウヤ、どうしよう。あのピジョット襲われているよ」
「あぁ…、何とかしないと。でも、僕達鳥ポケモン持ってないし…」
「ねぇ、トウヤ。あそこを飛んでいるピジョンをゲットしたら…」
一瞬悩んでしまうも、リーフに促され視線を別の上空に投げるとそこには優雅にフライトを楽しんでいる一匹のピジョンの姿が…。
「良し、わかったよリーフ。realize、ピカチュウ…あのピジョンに向かって電気ショック!」
「ピィ~カチュ―!」
眩い光がピカチュウの両頬から迸り、ピジョンに大きなダメージを与えていく。
「ピピカ、ピカーチュ!」
「あぁ…わかってる。行け、モンスターボール!」
ピカチュウに「早く」と急かされ、モンスターボールをリュックか取り出すとピジョン目掛けて思いっきり投げて、ゲットしていった。
「あのピジョットを助けてくれ、ピジョン!」
「ピジョ―!」
そのモンスターボールを手にすると早速空中に投げて、ピジョンを出し頼んでいく。
「ピッカ」
すると、僕の足元に居たピカチュウも軽々とした足取りでピジョンの背中の上へと移動し、強い意志を宿した瞳で見つめてくる。
僕はそのピカチュウの言いたい事を理解して、
「わかった、ピカチュウも行ってくれるんだな」
「ピッカチュウ!」
その事を言葉にするとピカチュウが頷いてくれた。
「待ってトウヤ。私のミニリュウも行かせるわ…」
「私のニドランも…。だって、困ってるポケモンを見捨てられないから!」
「二人共…」
リーフとメイもまたポケモン達を出していく。
そして、ミニリュウ達もまたピジョンの背中へと飛び乗っていき、三匹の乗せたピジョンはピジョットの元へと風を切りながら向かって行った。
僕達の思いを乗せて…。
―to be continued―