社会問題小説・評論板
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- いじめ崩し(いじめは私が無くす・心理療法士神尾の挑戦)
- 日時: 2014/05/31 21:44
- 名前: おきた達也 (ID: NCbhQBaO)
イジメは、いつまでたっても無くならない。
中学生A少年は、同級生の5人にイジメを受け、何度もお金を要求されノートに「もうこんなことはボクだけでやめてくれ・・」という遺言とイジメた5人の名前を残して自宅の勉強部屋で首を吊って自殺した。
女子高校生Bは、4人の同級生から度重なる陰湿なイジメを受けてイジメた同級生の名前とイジメの一部始終を書いたノートを残し学校の屋上から投身自殺を遂げた。
そんなイジメは、起こる度にテレビで取り上げられ教育評論家がもっともらしいコメントを語り、市や県も二度と同じ悲劇が起こらない様に最善の対処をして行きたいというコメントをお題目の様に唱えるがイジメは一向に無くならない。
ある5月の夕方、池袋のカラオケボックスで火災が起こった。しかしその火災はただの火災ではなく日本中を震撼させる事件の始まりだった。その火災がただの火災ではなかったのは部屋にいた焼死した男子高校生5人はその5人の中の一人が撒いたガソリンを全身に浴びせられガソリンを撒いた生徒が自らのライターでつけた炎に焼かれ焼死するという言わば無理心中に近い事件だったからである。
そしてその4日後、静岡県の中学校の屋上で7人の女子中学生が同じくガソリンに引火した炎に焼かれ全員が死亡した。
そう・・それらは事故ではなく明らかに仕組まれた事件だったのである。
その事件には、事件を起こした子供たちから先生と呼ばれる一人の男が関与していた。
その男とは、横浜に住む神尾まもる43歳、なんと子供たちからイジメの相談を受け自殺などをしないように対処する命の110番的な仕事を生業とする男であった。
神尾は、いくら心を込めて説得しても後を絶たないイジメによる子供たちの自殺に業を煮やしていた。
そして大人たちの無責任とも言える事後処理にも我慢がならなかった。
被害者であるはずの自殺した生徒の人権は踏みにじられ、イジメがあった事すら学校は隠蔽する。そして自殺に追いやった犯罪者とも言うべき加害者の子供たちは「未来がある少年少女たちだから」と擁護される・・・。
「そんな理不尽な事が許されていいのか!」神尾は何度も世間やマスコミに訴えたがうなづく者はいても真剣に行動を起こしてくれる者は皆無に等しかった。
そんな中で、神尾は、いじめられている子供たちに対して「悪魔のささやき」とも言える提案を試みたのだった。
もしこれが20年前であったならば、事件はこんなにも大きくならなかったと想像できるがインターネットやフェイスブックなどが子供たちの手で簡単に扱われる今日、それは津波が広がるように全国に飛び火したのであった。
神尾は、10年前、自分に心を開いてくれていたある男子生徒の自殺を止められなかったという苦い経験を持っていた。親身になって相談に乗り、学校やイジメている生徒の親にも直接に話をもっていったが信じられない対応をされてしまったのである。
学校の言う真剣な対応とは、全校生徒やホームルームで匿名にしてはいるものの「イジメられていると言ってきた人間がいるので絶対にイジメはしてはいけない。もしイジメを目撃したら先生に言う様に」という話をする事であった。さらに、イジメた人間の名前を伝えた事に対しての処置は、イジメた生徒とイジメられた生徒を放課後に一緒に呼んでイジメた生徒に「先生はイジメだとは思わないが、もうイジメと間違われるような言動は慎むように・・」と言って生徒同士で握手させる事であった。そんな処置でイジメが無くなるはずがない。イジメはより巧妙に陰で隠れて行われるようになった。そしてその生徒は、事態をより悪化させた神尾をも恨みながら命を絶ったのである。
それから神尾はその反省を生かし何人もの生徒の命を救ったが全国的には自殺する生徒は後を断たず、イジメ自殺のニュースを聞く度に神尾は自分の無力さを実感せずにはいられなかった。
そしてまた神尾がイジメの相談を受け面倒を見ていた中学2年の女生徒がイジメた人間の名前とやられたイジメを遺書に書き残し自分の住むマンションの屋上から飛び降り命を絶った。
学校は、事件を隠蔽しようとし、実名を書かれた加害者の生徒や親は自殺した生徒がノイローゼで被害妄想から自分たちの名前を書いた・・と事実を認めようとはしなかった。
全く変わらないその成り行きを見て神尾は激怒した。
そして一つの恐ろしい決心をしたのだった。
2014年4月27日、神尾はインターネットで自殺を考える少年少女に檄を飛ばした。
「自殺を考えている皆さん・・私は常々命は一つだ!死んだらお終いだ!絶対に死んではいけない・・という言葉を繰り返してきました。でも、そんな言葉は追い詰められた人には通用しませんでした。だからもう私は、死んではいけないとは言いません。でもよく考えて下さい。皆さんは悔しくありませんか?皆さんが「生きて行くのは死ぬより辛い」と思わせた人間をそのままにして自分だけ自殺して悔しくはないんですか?よく、自分の死によって自分をイジメた人間が自らのやったいじめを反省して心から悔い改めて欲しいといった内容の遺書を残して自殺する人がいますが、それでその自殺をした人が望むようにイジメた人間が反省した事がありましたか?そいつらは、皆さんの遺書を見ても何の反省もなく「あんな遺書を残して死にやがって頭にくる」といった感想しか持たない人間だと気づきませんか?イジメを感じ取っていながら阻止しようとせず見て見ぬふりをして助けようとしなかった学校や周りの人間が反省して事を公にした事がありますか?見て見ぬふりをした事がバレるのを恐れて隠蔽しようとするのを皆さんは何度も見てきているんじゃありませんか?そんな中で自分だけ死んだとしたらそれは犬死に以外の何ものでもありません。私はこれから皆さんの死が犬死にならない方法を提案したいと思います。それは、どうせ死ぬならば皆さんをイジメて皆さんに死を覚悟させた人間も全員一緒に道連れにして死のうという自分で言って恐ろしくなる悪魔の提案です。しかし、皆さんの死は無駄死ににはなりません。皆さんは犬死をする負け犬ではなくイジメをした人間は自分の命で清算しなければならないリスクを負うのだという事を思い知らせる英雄となるのです。今から皆さんをイジメた人間がたとえ何人でも一緒に道連れにできる方法を教えます。今から皆さんが相手が何人でも命を取れる位に強くなってもらって相手に復讐するなどという事は不可能です。そんな事が出来る位ならばイジメられて死のうなどとは思わないはずです。でも、死を覚悟すれば方法は存在します。その方法を実行する為にまずガソリンをポリタンク一杯ほど用意して下さい。これは10人位の人数を道連れにする時に必要なガソリンの量ですので数人ならば2Lのペットボトルに1〜2本のガソリンで大丈夫でしょう。自宅に車がある家は車のガソリン注入口からポンプを使って吸い出して用意できます。ガソリンを浴びせて火をつけて焼き殺すならば何の修練もいりませんよね!イジメの加害者を呼び出すのなんか実に簡単です。手紙で・・今はメールですかね「もうお前たちには我慢の限界だ!大人しくしてればいい気になりやがって!みんなまとめて俺が一人でぶっ殺してやるから雁首そろえて夕方5時に学校の屋上に来やがれ!」みたいな文章を送れば喜んで集まってくるはずですから・・さあ皆さん、イメージしてみて下さい。ガソリンをかけられて恐怖におののきながら命乞いする貴方をイジメた人間を見て皆さんは大笑いしながらゆっくりライターに火をつけて燃え盛る火の中で死ぬ時の快感は、寂しく一人で死んでいく時とは天と地ほどの差があるはずです。でも出来るならば私は皆さんに死んで欲しくはありません。死んで欲しくはないのですが犬死のような自殺をするのならば、今までのイジメられて悔しかった思いの丈を充分に遺書に書き残し皆さんに死を選ばせた人間に天誅を下して欲しいと思います。」
その呼びかけに一体何人の生徒がどんな反応をしたのか・・・後は結果を待つだけだった。
- Re: いじめ崩し(心理療法士神尾の挑戦) ( No.3 )
- 日時: 2014/07/12 20:43
- 名前: おきた達也 (ID: WgY/GR3l)
神尾の所にテレビ局各社のオファーが来たのは午前9時を少し回った頃だった。一番にオファーを寄越したのはその時に神尾が見ていたテレビ日本だった。その後、わずか1時間の間に30を超える番組から出演や取材のオファーが殺到した。神尾は、最初にオファーしてきたテレビ日本の朝の番組にだけ出演を承諾するとその他のオファーはすべてに2時間以上の枠の特番として徹底的に話をする事が出来る事を条件として出したので必然的に最初の依頼以外は、返事保留となった。
翌日、朝6時にテレビ局で手配したタクシーが神尾の自宅前に到着した。
神尾は緊張の中にも毅然とした態度でタクシーに乗り込んだ。1時間弱でタクシーがテレビ日本の玄関に到着すると待ち構えていた女性番組スタッフが駆け寄ってきて神尾に話しかけた。
「本日はご苦労様でした。番組ADの目白です。まず控室の方にご案内いたします」
ADの目白に案内されて神尾は、神尾様控室という紙が貼られた部屋に通された。
それから、30分ほど番組の進行や今日のゲストコメンテーターが昨日と同じ3人だという情報を聞かされた。代わる代わる番組スタッフが現れ挨拶を繰り返しているうちにいよいよ番組が始まる時間が近づき神尾はスタジオに案内された。
「本日のメインゲストの神尾さん入ります」
というスタッフの声がスタジオに響き拍手の中神尾はまばゆいばかりのスポットライトを浴びる中央の席に案内された。間もなく「本番1分前です」という声がするとスタジオ内の緊張が高まった。「30秒前・・10秒前・・9・・8・・7・・」と4までカウントダウンするとその声の発生者は声を出すのを止めて指を3本上げて、2本に減らし1本にするとキューを送った。
モニターに番組のタイトルが音楽と共に流れ画面に司会の大倉が大きく映し出された。
「おはようございます。昨日、池袋で起こった中学生カラオケボックス焼死事件についてお伝えいたしましたが、本日はその事件に大きく関与する発言をした・・というより事件の発端を作ったと言っても過言ではない発言をした心理療法士の神尾さんにお越しいただきましたので今日はその話を中心に神尾さん自らの口でその思いを直接に語って頂きたいと思います。ゲストコメンテーターは昨日と同じく教育評論家の荒川さんと弁護士の杉並先生と精神科医の中野先生の三人においで願っていますのでたっぷりと時間をかけて質問などをして頂けたらと思います。その前にテレビの前の視聴者の皆様にはこれまで報道されている内容をもう一度ご覧になって確認して頂きその内容を元に質問する流れとしたいと思います」
画面が大倉から切り替わり事件があったカラオケボックスやイジメられて犯行を起こした少年Aについて、残されていた遺書、学校側の発言、そして神尾の発言についての映像が数十分に渡り流れると再び大倉が画面に映し出された。
「では早速ですが神尾さんにお尋ねします。報道されている通りの発言を本当に神尾さんはおっしゃったんですか?」
- Re: いじめ崩し(心理療法士神尾の挑戦) ( No.4 )
- 日時: 2014/06/02 19:10
- 名前: おきた達也 (ID: NCbhQBaO)
「はい、しました」
「それは、このような大惨事につながるかも知れないと充分に承知して発言したと言う事でよろしいんですか?」
「その様な言い方をされて私がこういう結果にしたいと思って作為的に発言したととらえられると心外なのですが、こういう結果にはなって欲しくなかったしこういう結果にしたくもなかったけれどこういう結果になってしまったというのが真実です」
「神尾さん、それは殺人教唆にはならなくても未必の故意には相当しますよ」
弁護士の杉並が神尾の発言にかぶせるように声を荒立てて発言した。それに対して大倉が問い返す
「杉並先生、未必(みひつ)の故意(こい)というのはどういう意味ですか?」
「ああ・・失礼しました。未必の故意というのは、そうしようという気持ちが無かったとしても、こういう事をすれば当然そうなるだろうけれどそうなっても構わないという言動をした場合は未必の故意という責任を負わなければならないという事を指して言います。
たとえば、下には多くの人が歩いていると知りつつ高層ビルの上からパチンコ玉を数百個バラ撒いたとします。その結果多くの人が死傷したとか、車のブレーキオイルを抜いてしまってその結果事故で死んでしまったとかの場合、ほんの悪戯で殺す気は無かったと言えば無罪になるというのはありえませんよね!」
「なるほど・・今回の神尾さんの発言はその未必の故意に当たると杉並先生はお考えになるんですね?」
「その通りです。その様な場合と同じに考えるのが妥当だと私は思います。」
「その意見に対して神尾さんはどうお考えですか?」
神尾は軽くうなずいて
「未必の故意ですか・・・私は今日ここに法律論をしに来た訳ではないんです。私は、人権など無視されてイジメられ、この世とこの世に住むすべての人間に絶望して一人寂しく自殺して死んでいく生徒を一人も出したくなかったんです・・」
「それがあの発言ですか?神尾さんアンタは間違ってるよ!他にも方法はいくらでもあるはずだ!」
教育評論家の荒川が口を挟んだ。
「では荒川先生は、どんな方法ならば自殺を食い止められると思っているんですか?」
「それは、イジメられている生徒と心をつなげて、生徒と同じ目線で向き合ってイジメの原因を探って根本的な解決を・・」
「ははは・・話になりませんね!」
神尾が荒川の言葉を遮った。
「なっ・・何だ・・人がしゃべっているのに失礼な!」
「申し訳ありませんが、時間がもったいないので途中で口を挟んでしまいました。荒川先生が言われた事なんかもう何十年も前から言われていますよ!それなのにイジメは一向に無くならないどころか巧妙に陰険になっている・・それが現場の実情です。イジメ論という机上の空論を話されたいのならば、そういう場で発表して下さい。ここではそんな議論は無駄でしかありません」
「なっ・・何だと失礼な!一体何様のつもりだ!」
「まあ、荒川さん落ち着いて下さい」
頭から湯気が出そうになって顔を真っ赤にして怒り狂う荒川を大倉がたしなめながら
「話を元に戻しますが神尾さん・・貴方は、あの発言がイジメ撲滅まではいかなくてもイジメを減らす事につながるという信念があってやったという事までは異論は無いんですね?」
「はい、異論はありません。確かに5人の尊い命が失われました。その原因になったのは恐らく私の発言ではないかとも思っています。だから私の発言が無ければたぶん今回の事件は起こらなかったと思います。しかしA少年は、こんな事件を起こす位に追い詰められていました。だから今回の事件を起こさなかったら自分だけが自殺したと思っています。そうなったらこの番組もゴールデンウイーク中に起こった中学生いじめ事件として取り上げて、いつも通りに学校や同級生などの取材・・学校の隠蔽・・・評論家のコメント・・そんな流れになったんでしょうね!今回確かに5人死にました。でも私に言わせればその5人は一人がイジメの被害者のA少年で残りの4人は加害者だった。つまりA少年の行為は4人からのイジメから逃れるための正当防衛だったと思います」
「正当防衛の訳が無かろう!ねえ杉並先生・・」
正当防衛という言葉に荒川がまるで鬼の首を取ったように叫んだ。
「正当防衛はあり得ませんね!また過剰防衛というのにも度を越している。まあガソリンをかけて脅かしてイジメを止めさせたなら温情をかけてギリギリ正当防衛と言えなくはない様な気がしますがね・・」
- Re: いじめ崩し ( No.5 )
- 日時: 2014/05/15 11:23
- 名前: おきた達也 (ID: NCbhQBaO)
その意見を聞いて大倉は
「私もその意見には賛成ですね。何も本当に火をつけて殺さなくても脅すだけで充分だったんじゃないかと思うんですが・・」
「大倉さん、A少年は4人にイジメられて死まで覚悟させられた状況なんですよ!これがもし道を歩いていていきなり知らない4人組から難癖をつけられて暴行を受けそうになり持っていたのがたまたまガソリンで、それを浴びせて「これ以上やるつもりならばガソリンに火をつけるぞ」と言って身を守った・・というのならばその場さえ逃げ切ればもう二度とその4人組には合わないかも知れないし、その4人組には自分の名前も住所も知られてないのですからその話通り正当防衛でいいと思います。しかし、その4人は同級生です。
A少年は行くところまで行かないで途中で止めたら、今までの何倍ものイジメを受けるのではないか・・と考えると恐ろしくてしょうがなかったはずです。だから本来ならばこれ以上やったら「また同じことをやって道連れにするぞ」と脅かすような正当防衛と言えるやり方では止められず言わば過剰防衛になってしまったのだと考えています。人間にはイメージ能力があります。イジメはたとえ一回でもその人間がショックに感じてリアルに100回思い出すと100回イジメ続けられた負荷が心と体に傷をつけるんです。その辺は精神科医の中野先生はよくご存知ですよね。だから今までですら死ぬほど辛かったのにここで中途半端に止めたら、もう2度と道連れのチャンスはないだろうし、A少年がガソリンで自分達を殺そうとしたと言って自分だけ警察に捕まってしまうだろうという発想もあったと思います。私は途中で止めて欲しかったですが、加害者の少年たちのこれまでの行いがそれをさせなかったのだと思います。そしてそこまで追い詰められていたからこそA少年は自分も一緒に死を選んだんです。A少年には4人だけ焼き殺す選択肢もあったんですから・・」
「言われている事は、私個人の意見では一理も二理もあるように思えるのですが、実際に5人の少年が亡くなっているんですから・・」
この大倉のコメントに対して神尾が
「では、私から一つ質問をさせてもらっていいですか?皆さんは、A少年が自分だけ死ねば良かったのに、いくらイジメられているからと言っても加害者を道連れにするとはけしからん・・というご意見ですか?」
と問いかけると答えに困った大倉が荒川に振った。
「う〜ん・・荒川さんいかがですか?」
「話を究極な選択のようなものにしては飛躍し過ぎです。どちらも助ける方法を考えるのが我々大人や心理療法士の貴方の役目じゃないですか?」
「評論家はお気楽でいいですね!我々は命の現場にいるんです。ならばその両方とも助けて平和な毎日がA少年に訪れる方法があるのに私たちが無能な故に助ける事が出来なかったと言うのならばその方法というモノを是非ご教授下さい。」
「それは、いろいろなケースによって違ってくるし・・一概には・・」
「そんな事を言っているうちに今日も悩んで死を決意して死んでいく生徒がいるんです。それを止める方法は何ですか?今ここで教えて下さい」
「そんなムキになっちゃいかんよ君〜!」
「?はあ?批判ばかりを並べて、ならば代案を示してくれと言えばそれは無いという・・今日のこの場面を生放送で流してもらっていて良かったと思います。日本の評論家なんてこんなものだとよく認識しておいてください。私のやった事が正しいとは少しも思っていません。一人も死んで欲しくはなかったです。でも、A君は、自分の命を守る術がなかったんです。でも4人の生徒は、自分たちの命を守る事なんかいくらでもできましたよね。イジメを自ら止めてA君に謝罪してこれまでの穴埋めにA君の為にいろいろ尽くす事もできたんです。巻き上げたお金に利子を付けて返して自分たちの理不尽な言動を詫びる事だってできたんです。でもA君には彼らのイジメから逃れようとしても逃がしてくれず、真綿で首を絞められる様などと言う生やさしいモノじゃなかったはずです。何匹もの大蛇がA君の体や心に巻き付くがごとく苦しめられ助かる為のその選択肢すらなかった・・。そこをA君の立場になってよく考えてみて下さい。イジメで自殺する事件が起こると必ず「2度とこの様な事が繰り返されないようにしたい」などともっともらしい言葉が語られます。でもそんな標語のような言葉は現場では何の役にも立っていません。でも今回の事件で一つの事が明らかになったと思っています。コメンテーターの皆さんそれはなんだか分かりますか?」
神尾は、そう言葉を投げかけ一人一人の顔を見回したが誰からも答えは返って来なかった。
「それは何なんですか?」
- Re: いじめ崩し ( No.6 )
- 日時: 2014/06/02 19:21
- 名前: おきた達也 (ID: NCbhQBaO)
大倉が問いかけると
「今イジメている人間は、自分は安全な所に身を置いて遊び半分でイジメて喜んでいたはずです。間違っても自分に命のレベルで危害が加わる可能性があるとは思っていなかったはずです。もし、歯向かってきても自分たちの方が力も強いし人数も多いと高をくくっていたはずです。しかし、これからは、何人いても一緒に殺される危険性があると認識したはずです。だとすれば机上の空論をいう評論家の意見の何百倍も抑止力になると思っています」
神尾の迫力にスタジオに静けさが走った。それはとても長く感じたがたぶん数秒の事だったはずである。何故ならば何の変化もなく沈黙の時間が分単位で起こったら放送事故だからである。しかしその時間はとほうもなく長く感じられた。神尾が冷静さを取り戻してさらに話だした。
「せっかくテレビでお話しさせていただける事になったんですから、今回の事件とは関係ありませんが、私がなぜあのような発言をしたかという事につながる話をさせて下さい。
皆さんは太平洋戦争の時に日本軍が行った神風特攻隊というのをご存知だと思います。
特攻とは飛行機に片道だけの燃料で爆弾を抱えて敵の戦艦に体当たりをして自分の体もろとも敵の戦艦を沈めるという自爆テロに等しい作戦です。その成果はほとんど無かったと言われています。敵の集中砲火を浴びて大半の飛行機が若い命と共に海の藻屑と消えて行ったと言うのが真実です。では彼らの死は無駄死にだったのでしょうか?実は現在の日本は彼らの尊い犠牲によって成り立っているという動かしがたい事実があるのをご存知ですか?一見無駄死にに見えた彼らの死は、アメリカ人にとって恐怖の極致でした。人間は分からないという事に底知れない恐怖を持つ生き物だという人がいますが、私もその通りだと思います。人間が死を恐れるのは死んだらどうなるか分からないからだと言われています。よって何かの宗教を信じて「敵を一人でも多く道連れにして死ねばお前はあの世では英雄だ!」という言葉をも信じれば人間は恐怖が無くなり爆弾を抱いて笑いながら死んで行けます。今世界中で起こる自爆テロはそうして起こり我々は恐怖を感じるはずです。それと同じように日本人の武士道、ハラキリ、特攻・・・それらをアメリカ人は理解できず心の底から恐れました。そんなに怖いモノならばこの世から消し去ってしまえばいい・・という発想もあったと思います。しかし、終戦時、生き残っていた数千万人以上の日本人を一人残らずこの世から抹殺するなどという事は不可能でした。そこでアメリカが考えたのが怖くないモノに変えてしまえばいい・・という懐柔策でした。日本人をサムライ魂など持ち合わせない腑抜けにして愛国心など持たない様に洗脳しようとしました。その洗脳ために作られたのが日本国憲法の第9条です。過去の世界中の戦争の歴史では、敗戦国の国民は奴隷的扱いをされ、新たなる戦争が起こった時は、自分の国の兵隊の弾よけとして最前線に送られるのが常識でした。しかし、日本だけが全く違う戦争後の扱いを受けています。アメリカは勝った国です。しかし勝ったアメリカの兵隊は、その後起こった朝鮮戦争やベトナム戦争・・最近では湾岸戦争などに徴兵されて行きたくないのに強制的に参加させられて大勢の人が命を落としました。その時に日本は何の不安もなくイジメや引きこもりなどを繰り返していたんです。でも、それはある意味幸せな事とも言えます。戦争に行くよりずっと幸せだと思います。でも皮肉なことにそれはアメリカが終戦後に狙った通りになりましたよね。コンビニの前で地面に座り込んで夜ふかししたり引きこもったり・・そんなふぬけの若者がアメリカが恐れるような恐ろしい存在である訳がありませんから・・・。いろいろ話して焦点がだいぶボケましたが、私が一番言いたいことは、特攻隊の兵隊は無駄死にじゃなかった・・という事です。特攻隊が無かったら今の日本は絶対にないと私は思っています。だからA君の死も無駄死ににするかしないかは私たち次第だと思います。自分は何をされてイジメられるのか?という恐怖が今度はイジメる側のこれをやったら俺たちはこいつにどんな復讐をされるのか?と考えずにはいられない状況が作れた時にイジメ問題に必ず変化が起こると思っています。私は絶対にA君の死を無駄死ににしたくないと思っています」
大倉が沈黙を破って重い表情で話し出した。
「精神科医の中野先生・・何か言いたいことはありますか?」
精神科医の女医の中野がせきを切った様に話し出した。
「失礼かも知れませんが、この方狂っているとしか思えませんね!特攻隊員と今回の事件を結び付けて考えるなんて聞いていて身の毛がよだちました。こんな方はすぐに今の仕事をお止めになるべきだと思います」
「黙って聞いていたら時代に逆行するのも甚だしい!呆れ返ってものも言えない」
中野の言葉にかぶせる様に荒川がいきり立ちさらに杉並も
「日本は法治国家なんだ!法律をもっと尊重しなければいかんじゃないか!」
コメンテーターの声がかぶさり何を言っているのかが聞き取れない・・その時
「本日、今回の池袋カラオケボックス中学生焼死事件の重要発言をしたとして話題に上っていた神尾さんのスタジオの来て頂いてお話を聞かせていただきました。まだまだ話したいことはたくさんあるのですが時間が無くなってきました。このお話に対するご意見などありましたら番組までお寄せください」
神尾にもっと罵声を浴びせたかったコメンテーターは憮然とした態度であったが大倉の言葉を最後にエンディングが流れた。
その瞬間、思いついたかのように神尾が叫んだ。
「もう時間なんですか?イジメで自殺を考えている皆さん、君たちはもう死ななくていいんです。今からは水が入ってるペットボトルを見せただけでイジメた相手はガソリンだと思って恐怖におののくはず・・」
神尾の声は最後まで放送されず途切れてしまいコマーシャルが流れた。
- Re: いじめ崩し ( No.7 )
- 日時: 2014/05/16 22:02
- 名前: おきた達也 (ID: NCbhQBaO)
放送後の神尾の発言に対する意見は、賛否両論の意見が殺到したが神尾を支持する意見の方が6対4で多かった。しかし、その放送があった日の夕方、静岡県の中学校の屋上で7人の女子中学生が同じくガソリンの炎に焼かれ全員が死亡するといういたましい事件が起こってしまったのである。その犯人となってしまったイジメられていた少女も屋上に呼び出されて焼死した少女達も神尾の放送を観ていなかったのである。
神尾は、その知らせを聞いてなぜ、学校関係者や父兄全員に最後の言葉が届く様に配慮しなかったのか・・と悔いて涙を流した。
神尾がテレビで伝えたかった言葉は、ニュースや新聞で大々的に告知された。
それからしばらく神尾は一切マスコミとのコンタクトは意識的に取らなかった。
それにも関わらず一部の人間のイタズラであたかも神尾がコメントしたかの如く神尾発言というモノが飛び交い、そのニセコメントを元に番組で議論が展開されるという現象が起こった。とにかく神尾の話題で番組を作れば視聴率を稼げるという状況下で各局が競って番組を作った結果がこのような状況を呼び起こしてしまったのである。
次に神尾が登場したのは、夜中の1時から朝5時まで放送される「オールナイト生討論」だった。
メインキャスターの小田原総太郎が司会をして各界のパネリストが討論を繰り広げる人気老舗番組である。この「オールナイト生討論」はパネリストだけでなく100人の一般の視聴者もスタジオで討論に耳を傾け意見を述べたりするため神尾が一番出演を希望していた番組であった。