社会問題小説・評論板

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今日も、また。
日時: 2015/08/08 20:47
名前: 朱里 (ID: l8Wvg9Qa)

はじめまして、朱里と申します。

今日から小説を書いていきます、よろしくお願いします。





───これは、自分に堕ちた少女の話。

Re: 今日も、また。 ( No.2 )
日時: 2015/08/08 22:38
名前: 朱里 (ID: l8Wvg9Qa)

その翌日、翠は転校した。
「ねぇまゆか」
「………」
「まゆか?」
「…えっ!?」
私が考え事に耽っていたら、翠の親友、百合子が話しかけてきた。ゴメン、全く気付かなかった。存在が薄い。…と心の中で毒を吐き、何事もないように百合子に向き合う。
「あ、ごめん気付かなかった★」
「星が黒いよ、まゆか」
「あはは。で、何の用事かな?」
私が問うと、百合子は真剣な顔で
「翠のこと、何か知ってる?」
と聞いてきた。
なんだそんなこと、そんなのをわざわざ聞くなんてどんだけ親友思いなの、馬鹿じゃないの。そんなに翠が好きだったの、百合なの?あ、百合子って名前だった。決めた、これから嫌味を込めて名前を呼んであげよう。
と、心の中でまたも毒づいていると、百合子がコソッと呟いた。
「私知ってるんだよねぇ」
「……は?」
「そろそろ出しちゃえば?本性」
「─なッ……!?」
百合子はそれだけ告げるとさっさと退散した。
アホなのか、あいつは。知ってるからなんだ?本性を出せなんて無茶ぶりだろう。昨日、これで、翠で最後だって決めたんだ。

『調子乗ってんの?』
『…は?』
『キモいんだよその性格。一番嫌われるタイプだわ』
『ま、ゆか……?!』
『うざい。キモいから、あんた。もうこの学校に来んじゃねぇよ。どうせ嫌われキャラなんだからさ。なのにいつもいつも出しゃばってて気持ち悪い。あんたの笑顔とか、本当吐き気する。せめてもう笑わないでくれないかな?』

昨日の会話が蘇る。その後もさんっざん毒を吐いたら、翠は泣きながら学校を去った。

それを、下品な笑顔で見ていた私は完璧に“勝者”だった。

Re: 今日も、また。 ( No.3 )
日時: 2015/08/10 10:08
名前: 朱里 (ID: l8Wvg9Qa)

家に帰ると、玄関には姉の靴だけが雑に脱ぎ捨ててあった。
リビングに入り、テレビを見ている姉に声をかける。
「また、脱ぎ捨ててたよ」
「…ふーん」
「靴くらいちゃんと揃えてよね」
「…五月蝿いな」
私と顔がそっくりな双子の姉…『まゆの』は忌々しげにため息をついた。
「いい子ぶんのもやめなさいよ」
「…なんのこと?」
私は笑顔で接する。
本当は、分かっているけど。
「学校でも家でも…人の様子伺うのやめたら」
「えー?何が?」
笑顔で小首を傾げ、“可愛い自分”を演じる。
───あ〜、もうだめだな私。演じないと生きてけない。
「うざったいんだよその笑顔」
私の笑顔が一瞬引きつった。が、すぐにまた柔らかい笑顔にし、
「…あんたに言われたくないわ」
可愛らしい笑顔からは想像もつかない、低く、くぐもった声で言った。
まゆのは少し笑い、
「なにがかしら?」
「あんたの笑顔もキモイわよ」
ふぅん、とまゆのが笑う。ただ、目は射るように鋭かった。
それは私も同じで、いわゆるゲス顔ってやつを浮かべていた。

Re: 今日も、また。 ( No.4 )
日時: 2015/08/10 23:42
名前: 朱里 (ID: l8Wvg9Qa)

───本当、そっくり。
「まぁ勝手にすれば」
「そうするよ。ていうか、ご飯は?」
「テキトーに食ってろだってさ」
「…そう」
とは言ったものの、まゆの側にはオムライス、私にはコンビニのお握りという不条理すぎる食事があった。
…これだから、嫌なんだ。家族なんて。



数年前。
「ママーっ!見てみてっ!」
「あらまた満点!すごいわ〜まゆの!」
成績優秀、運動神経抜群、笑顔の絶えない愛らしいまゆのは、いつも母親から構ってもらっていた。
──それに比べて、私は成績も良くない、運動音痴、常に真顔という正反対の人間だったため、母に構ってもらえはしなかった。
私達が生まれた一年後に離婚した母親は、なんとしても完璧な子供を育てあげることに全力をかけていた。
でも、差はでてしまったのだ。これでもかと、理不尽なくらいに。

「ママーっ」
「ん?なぁにまゆの」
「宿題、手伝って!」
「偉い子ね〜、いいわよ」
私が構ってもらえることは、絶対になかった。
「ここはこうしてね…」
「あの、マ…マ」
私が母に話しかけると、母の表情から笑顔が消える。
「こ、こ…わかんないの」
「…こんなのも分からないの?本当、駄目な子」
────“駄目な子”………。
今でも一番言われたくない言葉。
お前は駄目だ、優秀じゃないと蔑まれてきた、あの頃の言葉。

全ては私が駄目だから。
だから、みんな冷たいんだね。

それが分かった時、私は酷く悔しい思いで涙が溢れた。
なんで、どうしてそれだけで愛してくれないの?
……だから私は、自分を作るんだ。

Re: 今日も、また。 ( No.5 )
日時: 2015/08/11 07:39
名前: 朱里 (ID: l8Wvg9Qa)



───あんな家庭に育ったから、性格悪くなったんだよなぁ。
と、苦い過去を思い出しながらお握りを頬張っていると、向かいのオムライスをじっと見つめていたまゆのがお皿を差し出した。
「あげる」
「え?」
「もう…食べたくない」

この時、何かを察すれば良かったんだ。
この時、私が気付いていれば。
でも、この時私は憎いという気持ちしかなくて。

「…愛されてるのにね」
「…え?」
私の顔が本来の表情を取り戻した気がする。
「愛されてるのに…なんで食べないの?私の食事がこんなだから同情ってやつ?あんたは…小さい頃から愛されてたんだ…私がどんなに頑張っても振り向いてもらえなかったママを、あんたは簡単に…」
もう、何が言いたいのか分からない。
何を伝えたいのか分からない。
とにかく分かるのは、悔しいってことだけ。
……でも、心の片隅にまた別の感情があって。
「とっとにかく食べなさいよねっ!」
そう言うと私は逃げるようにリビングを去った。
後ろでまゆのが、
「…何も知らないくせに…」
と呟いたことなんて知らずに。

Re: 今日も、また。 ( No.6 )
日時: 2015/08/16 12:37
名前: 朱里 (ID: l8Wvg9Qa)

翌朝起きると、いつも通り制服を身に付けるまゆのがいた。
「おはよ」
挨拶すると、こちらを向き
「おはよう、まゆか」
と笑顔で言った。
そこからは何の会話もなく、私はまゆのとは別の制服を着る。
私立に進んだ優秀なまゆのと公立の私は、違うから。
いつも通り、着慣れた、私の荷を更に重くする制服を優雅にまとい、髪型をセットする。歯を磨き、等身大の鏡の前で身だしなみの最終チェック。うん、完璧。
私が靴を履いていると、まゆのが後ろから声をかけてきた。
「まゆか、あのさ」
「ん〜?」
「お、母…さん、さ、再婚…する、ん、だって」
私の手が止まる。
「…え?」
驚いてまゆのを見ると、目に涙を溜めていた。
「お母さん…わ、私が男…駄目なの…に」
──そうだった。
まゆのが私立に行った理由…それは他でもなく、男子が怖かったから。
だから母の女子校の勧めもすんなり受けていた。
「な、な…のに…だよ」
だから、まゆのは部活に入らずすぐ帰って、それからは外に出ない。
完璧なまゆのの欠陥は、“男性恐怖症”だった。
「…何歳くらいの人?」
「わか…んないけど…30…くらいの」
30代。それはまゆのが一番苦手な年代だった。
まゆのの過去については触れられないが、母はなぜまゆのを…。
「も、もう、駄目」
まゆのは、「今日休む」と言って自室に引きこもった。


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