社会問題小説・評論板
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- ひとり。
- 日時: 2016/08/22 14:25
- 名前: 藍色 (ID: l8Wvg9Qa)
別に、ひとりでもいい。
それで特別困ることもないし、寧ろ楽だ。
……それなのに、どうして、こんなに苦しいのかな。
- Re: ひとり。 ( No.3 )
- 日時: 2016/08/25 12:48
- 名前: 藍色 (ID: l8Wvg9Qa)
「うわ、片桐さんサイテー」
「謝ってよ」
周りがわんわんと喚く。
「なにこいつ。謝ることもできないの」
「マジで害悪、さっさとどっか行け」
そろそろ悪口にたえきれなくなり、結桜を殴ろうかと思った時。
「おはよう」
すぐ近くで、声がした。
「……冬香」
そこに立っていたのは、冬香だった。
「おはよ、冬香」
結桜が軽く挨拶する。冬香はそれを無視し、私の胸ぐらを掴んだ。
「ねえ。結桜に謝るだとか、そんなのはどうでもいいんだけどね?いつになったら、私にお詫び、してくれるわけ?」
「……は?」
声を発したのは結桜だった。
「ちょ、ちょっと、冬香。私も謝ってほし」
「あんたはなんなの?今ももと話してるのは私なんだけど」
「……はい」
結桜は俯き、歯を食いしばっていた。
「よそ見してんじゃねーよ」
冬香に頬を叩かれ、ハッとして冬香を見る。
そして彼女はにやりと笑い、言葉を発した。
「同じこと、したげるから」
同時にチャイムが鳴り、冬香は去っていった。
- Re: ひとり。 ( No.4 )
- 日時: 2016/08/25 13:13
- 名前: 藍色 (ID: l8Wvg9Qa)
思えば、冬香は私に悪口を言ってこなかった。結桜も周りも口々に私に関する悪い噂を口にする中、冬香は何も言わなかった。ただ、聞いていただけ。
それなのに今日、私につかみかかってきたのは、ついに堪忍袋の尾が切れたということだろうか。深く考えすぎると混乱してしまって分からないけれど、とにかく冬香は私に復讐するつもりで、いた。
……よくわかんない。これが本音だった。
その日は何事もなく授業が終わり、あっという間に放課後になった。帰る際にクラスメートに突き飛ばされたりはしたけれど、それでも冬香や結桜が私に絡んでくることはなく、大人しく帰宅した。
家に帰ってベッドに倒れ込み、しばらくして枕元にある時計を見る。時刻は4時半だった。
お風呂を沸かそうかな、と立ち上がり、通り際にリビングを覗いた。
「……」
誰もいない。当たり前な日常が少し寂しくて、私は足早にバスルームへ向かった。
小さい頃から両親は働きに出ていることが多く、私はだいたい一人ぼっちだった。兄弟なんていないから、話す相手もいない。たまにおばあちゃんが来てくれたこともあったけど、私が8歳の頃に亡くなってしまった。
別に1人だからと言ってわんわん泣くような子供でもなかった私は親に「家にいて」とわがままを言ったこともないし、おばあちゃんが亡くなってからもほとんど毎日1人で過ごしていた。
友達がいなくなってからは、少し寂しく感じるけれど。
- Re: ひとり。 ( No.5 )
- 日時: 2016/08/25 13:23
- 名前: 藍色 (ID: l8Wvg9Qa)
そんな昔話を思い出しながら、私はお風呂を沸かす準備をする。
この家は3人家族が住むにはもったいない程広く、それこそ10人家族かなんかが住んだ方がよっぽど良いと常々思う。
親の仕事は相当儲かるもので、私は生まれた時から裕福だった。
あれがほしいと言ってみればなんでも買ってくれたし、毎年クリスマスプレゼントにはとても高級なものがもらえる。服も高いブランドのものを平気で買ってくれる。
お嬢様、とまではいかないけれど、お金に困ることもなく、私は少しの優越感を覚えていた。
小学6年生のお小遣いといえば、だいたい1000円くらいだろう。高ければ5000円。それは各家庭によって異なるだろう。
私が小学6年生でもらっていたお小遣いは、毎月一万五千円。親の機嫌がいい月は、さらに二千円増えていたりする。
こんなに裕福な家庭に育った私は調子に乗り、小学校では「お嬢様」と噂されていた。
──それが理由で冬香をいじめたのが事実だった。
- Re: ひとり。 ( No.6 )
- 日時: 2016/08/25 13:34
- 名前: 藍色 (ID: l8Wvg9Qa)
冬香の家は、決して裕福とは言えなかった。
小学5年生でクラスが一緒になり席が近くなった時、私はふと冬香の服に目を向けた。
こいつ、昨日も同じ服着てなかったっけ。
もしかして、貧乏なの?
ああ、そういえばそんな噂聞いたことあるな。
ほんとに貧乏なんだ。須山さん。
私はその時、ちょっとした好奇心で須山冬香を呼び出した。
「な、なに?片桐さん」
当時の取り巻きと一緒に体育館裏で待っていると、案外すんなりと須山はやって来た。
「須山さん、昨日も同じ服着てなかった?」
私が聞くと、須山は俯く。
「あれなの?須山のお家って、貧乏なの?」
小馬鹿にしたように、私は続ける。
「なんか、信じらんない。二日間同じ服って、気持ち悪くないの?あなたは気持ち悪くなくても、私としてはとっても気持ち悪いんだけど」
ねえ?と取り巻きに声をかけると、そこにいる全員が頷いた。
「……ごめんなさい」
「ホントありえない。前々からあなた気に入らなかったし、更に幻滅」
「……ごめんなさ」
「だから」
私は小さく笑い、呟いた。
「須山さんと、しばらく遊びたいなーって」
- Re: ひとり。 ( No.7 )
- 日時: 2016/08/25 13:42
- 名前: 藍色 (ID: l8Wvg9Qa)
次の日から、私は須山をいじめるようになっていた。
元々顔も成績も良くなかった須山を庇う者や慕う者など居らず、私に同調して須山を痛めつける者がほとんどだった。
「須山さーん、テスト何点だった?」
「……あっ…」
「うわあ。須山さんって、噂には聞いてたけど、ほんとに頭悪いのね」
6年生になって、冬香とクラスが離れた途端、私は冬香と関わらなくなった。
ピピーッ。お風呂が沸いた音がして、私は思い出に耽るのをやめる。この黒歴史にはあまり関わりたくなかった。
湯船につかり、ふぅと一息つく。広い浴槽は足を伸ばしてもスペースがあまるほどだ。
私は肩までゆっくりとお湯につかり、明日への不安をもみ消す。大丈夫、何もない。
お風呂から上がり、ご飯を食べ終えると、私はそそくさと眠りについた。